- 22 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:27:28 ID:/DbcOHQQ0
- 朝。
ヴィップ王国に教会の鐘の音が鳴り響く。
鶏の声もうっすらと聞こえ、今日も一日が始まったのだと実感する。
天気は快晴。
このような日に人々はなにをするのだろうか?
農業? 商業? それとも旅に出て新たな世界を探しにでもいくのだろうか。
もちろん、それと同時に泥棒なども動き出す。
しかし、この国では怪盗達を除いて大きな犯罪は起きていない。
なぜか?
- 23 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:30:40 ID:/DbcOHQQ0
- 理由はただひとつ。
この国には教会というものがあり、そこには警察と同じような仕事をする、騎士団というものがあるからだ。
その名の通り、騎士の集まり。国中から優秀な人材が集められた最強の軍隊でもあった。
そのため騎士団はその強さから恐れられ、崇められ、一部の人々からはこう呼ばれていた。
『神に選ばれし子供』と。
- 24 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:31:23 ID:/DbcOHQQ0
- ( ^ω^)「...正しき我ら神の子。ヴィップに光あらんことを」
教会の見張り塔の最上階に聖典の読む、男の騎士がいた。
男は聖典の最終節を読み終え、閉じる。
ふと、見張り台から空を見上げる。
太陽はまだ低い位置にあるというのに着ていた鋼の鎧をジリジリと焼いていた。
- 25 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:32:21 ID:/DbcOHQQ0
- ( ^ω^)「暑いお...」
そうは呟いていたが、言葉とは裏腹にその男、ブーンはまったく汗をかいてはいなかった。
街を見下ろすといつも通りの平和な街の雰囲気がよく見えた。
しかし、ただ眺めるのはやはり暇になのかブーンは大きな欠伸をひとつした。
また、聖典でも読もうか迷っていると後ろからガチャリと扉の開く音がした。
- 26 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:33:24 ID:/DbcOHQQ0
- ( ・∀・)「ウッス、ブーン。元気にしてるか?」
( ^ω^)「ええ。大丈夫ですお、モララーさん...ん?」
奥の部屋から金髪の男、モララーが現れた。
モララーはブーンの五つ歳上の先輩の騎士である。
- 27 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:34:39 ID:/DbcOHQQ0
- ( ^ω^)「...酒臭いお」
さっきまで酒を飲んでいたのか、少し酒臭い。街を護る騎士だというのに自覚はないんだろうか。
( ・∀・)「ああ、すまんすまん。あまりに暇だったんでな...こんないい天気の朝っぱらから悪事を働こうなんて思う馬鹿はいねーからなぁ...見張りは暇だぜ...」
( ^ω^)「今までサボってたくせに何言ってんですかお...」
- 28 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:35:33 ID:/DbcOHQQ0
- ( ・∀・)「まあな...ところでさ、お前も暇だろ? 奥の部屋でチェスでもやらないか? 見張りなんてサボって大丈夫だろ」
( ^ω^)「聖典を読み直すので平気ですお。そもそもいつ悪事が起こるかわからないのにそんなことするのは間違ってますお」
(; ・∀・)「あー、そっか。まあ、そうだよな。お前はそういう人間だったな...そうだ、後で書類を纏めるの手伝ってくれよ...ったく、真面目だなぁ...」
- 29 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:36:19 ID:/DbcOHQQ0
- モララーの表情はおかしなものを見る目をしていた。
まるでブーンを奇人であるかのように見つめながらモララーは奥の部屋に戻っていく。
( ^ω^)「わかりましたお」
その背中に届くようにブーンは大きな声で言いながらこう考えていた。
なんであんなにへんな顔をするのか、と。
いくら考えてもブーンには少しも理解出来なかった。
- 30 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:37:16 ID:/DbcOHQQ0
- 第二話 青年と正義
( ^ω^)「ふー...」
ブーンが軽く息を吐きながら書類をまとめる。
書類には沢山の屈強な男たちの情報がところせましと並んでいた。
( ^ω^)「...受からなそうなやつばかりだお」
しかし、ブーンはそう断言した。
どれほど剣が強く、魔力が高い男でもこの試験に合格するものは少ない。
それが教会の騎士のテストである。
- 31 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:38:22 ID:/DbcOHQQ0
- ( ^ω^)「この男ならもしかしたら...まあ無理だと思うお」
( ・∀・)「ま、最終的に騎士になれるのは回復魔法の才能のあるやつだけだからな。努力も糞もねぇからな」
( ^ω^)「ほんと回復魔法の才能のある人が少な過ぎるお...」
騎士になるための条件に回復魔法を使える才能があること、というのがある。
回復魔法。神に仕える騎士にのみ許された力と古くからの教会の聖典に書かれている。
今でも回復魔法は教会の騎士にのみ使い方が伝えられ、門外不出の力とされている。
- 32 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:39:16 ID:/DbcOHQQ0
- ( ・∀・)「教会のやりたいことはわからんねぇ...」
( ^ω^)「何言ってるんですかお! 街の、そして国の平和を護るために決まってますお!!」
ブーンは何を当たり前なことを、といった雰囲気でモララーを見つめる。
しかし、モララーの顔は晴れない。
逆に何かを思案している顔をしていた。
- 33 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:40:20 ID:/DbcOHQQ0
- ( ・∀・)「平和の為になんで回復魔法の門外不出があるんだよ...皆が使えた方が便利なのにな」
( ^ω^)「回復魔法は神が選ばれた民に与えた力ですお。悪に渡らないように神の下にその力を集めるのは正しいことですお」
( ・∀・)「選ばれた民...ねぇ...もしそうなら、神様は酷いことしやがる」
( ^ω^) 「酷い? 何がですかお? 信じれば救われる。ここまでしてくれる神のどこが酷いんですかお?」
- 34 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:55:59 ID:/DbcOHQQ0
- ( ・∀・) 「...逆にいえば、信じなければ救われない。神は理不尽だ...信じてない人間全てが悪じゃぁないんだがねぇ...」
何かを思い出すようにモララーは目を細める。
その様子を見ながらブーンは心のうちに何かがふつふつと沸き上がってくるのを感じた。
悪。この言葉にブーンは強く反応した。
- 36 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:56:39 ID:/DbcOHQQ0
- ( ^ω^)「...モララーさん」
( ・∀・)「ん? なんだ?」
( ^ω^)「神を信じなければ悪ですお」
( ・∀・)「あん?」
- 37 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:57:21 ID:/DbcOHQQ0
- ( ^ω^)「だってそうですお?
神は手を差しのべてくれている。なのにそれを無下にしてさらには悪事を働く...これを悪と言わずなにを悪というんですかお?」
悪、とブーンが言った瞬間、モララーが眉をひそめる。
モララーはブーンが悪という言葉に確実に怒りが込められているのに気が付いていた。
( ・∀・)「...悪、ねぇ...ひとついいか?」
- 38 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:58:02 ID:/DbcOHQQ0
- ( ^ω^)「なんですかお?」
( ・∀・)「さっきから気になってたんだが...お前の言う、悪ってなんだ?」
哲学のようなその質問。
しかし、ブーンが答えるまでに考える時間はなかった。
まるで、すでに答えがあったかのようにすらすらと質問に答えた。
- 39 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:58:42 ID:/DbcOHQQ0
- ( ^ω^)「悪事をするもの、全てですお。奴等は根っから腐ってますお。そして、それを正義と呼ぶ人々も...ですお」
( ・∀・)「ふむ...となるとロマネスクも悪か? そして、それを崇める国民も」
( ^ω^)「当たり前ですお。あんな悪は、滅びなければならないんですお。人を救う悪なんて、あるわけないんだお。救えるのは正義と神様だけですお」
( ・∀・)「そう...か」
- 40 名前:名も無きAAのようです :2012/06/23(土) 23:59:53 ID:/DbcOHQQ0
( ^ω^)「なのに...なんで国の皆は悪を崇めるのかお? モララーさんもなんで神様じゃなくて悪を認めてるんだお? あんなやつ、死んで当然なのに...なんで神様を崇めないんだお...」
うわごとの様に呟く。
これがこの男の正義感。ひどくつまらないものだとモララーは感じていた。
この男は愚かなまでに神を崇めている。
モララーは少し考えた後、ため息をついた。
- 41 名前:名も無きAAのようです :2012/06/24(日) 00:00:33 ID:iTffLSJU0
- ( ・∀・)「...馬鹿だな。お前」
( ^ω^)「...」
( ・∀・)「今の言葉を聞いて確信した。やっぱり神は屑だな。そんな神様、いる価値ねぇよ」
ガチャリと、剣に手をかけた音が部屋に響く。
しかし、モララーは動じない。それどころか、憐れみの目でブーンを見ていた。
- 42 名前:名も無きAAのようです :2012/06/24(日) 00:01:23 ID:iTffLSJU0
- (#^ω^)「...いくらなんでも怒りますお? 神様をそんなに否定するなんて...」
( ・∀・)「...餓鬼かよ」
(#^ω^)「っ!」
抜刀。
居合の体勢から目にも止まらぬ速さで斬りかかる。
机に乗っていた書類を巻き上げ、剣はモララーの喉元まで迫った。
- 43 名前:名も無きAAのようです :2012/06/24(日) 00:03:13 ID:iTffLSJU0
- が。
( ・∀・)「それじゃあ、俺は斬れないよ...風よ、我が脚を包み込め」
モララーの脚から強烈な風が生み出される。
そのまま、槍のような蹴りがブーンの脇腹にめり込む。
グシャリ、と嫌な音が鎧から聞こえた。
- 44 名前:名も無きAAのようです :2012/06/24(日) 00:04:24 ID:iTffLSJU0
- (; ゚ω゚)「グフッ!!」
(; ・∀・)「やっべ、やり過ぎたか」
(; ω )「ガフッ...ゴホッゴホッ...ッカフ...ふざ...け...」
ブーンは相変わらず剣を握り、こちらに向かおうとしていた。
さすがにモララーもこれを見てため息をついた。
- 45 名前:名も無きAAのようです :2012/06/24(日) 00:06:21 ID:iTffLSJU0
- ( ・∀・)「ちっとは頭冷やせ」
もう一度、モララーはブーンの脇腹へと蹴りを入れる。
咳き込む声も、止まっていた。
やっと落ち着いたかと、モララーは頭をかく。
ふと、机の上に騎士の試験書類以外に封筒があるのを思い出した。
( ・∀・)「...ああ、そうそう。俺ら宛に仕事来てるぞ。ほら、依頼書」
- 46 名前:名も無きAAのようです :2012/06/24(日) 00:07:49 ID:iTffLSJU0
- ( ω゚)「...」
( ・∀・)「...アチャー。気絶してやがる。ま、いっか」
依頼書の封筒をあけ、覗きこむ。
( ・∀・)「こいつは、ブーンがいない方がやり易そうだしな」
依頼の文章は短かった。
- 47 名前:名も無きAAのようです :2012/06/24(日) 00:08:41 ID:iTffLSJU0
- 「荒巻堂に向かい荒巻を拘束、情報を引きずりだせ。その後、『殺人鬼』ドクオを見つけ出し、殺害せよ。また、その際にドクオ以外の人間の生死は問わない」
何度も読み返しため息をつく。
足元にはブーンがまだのびていた。
( ・∀・)「本当にこんな命令をする教会が正義なのかい? ブーン」
足元に転がった正義を夢見る少年は何も答えはしなかった。
- 48 名前:名も無きAAのようです :2012/06/24(日) 00:09:43 ID:iTffLSJU0
- ー人物紹介ー
( ^ω^) 『騎士』ブーン
教会の騎士。
腕前は確かだが神を狂信的なまでに信仰しているため少しでも神の教えに逆らう者や馬鹿にするものを見るとすぐにカッとなり、攻撃的になってしまう。
しかし、教会からはその熱心な信仰の姿のお陰かかなり上位の騎士の仲間入りをしている。
( ・∀・)『騎士』モララー
教会の騎士だが、全く神を信仰していない。
騎士としての最低限の仕事しかせず周りからは怠惰王と呼ばれる。そのせいか身分はあまり高くはない。
さらには雑務は全てブーンに押し付けてるため、酒を飲むかチェスをするかの毎日である。
ただし、頭はかなりいいらしく協会のやり方には日頃から疑問を抱いている。
また武術、魔術、剣術だけだったら騎士団でも随一。
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