1 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:14:22 ID:vtNE6XK.0
いつも通り、鶏の鳴き声が街に響き渡った。
その鳴き声に街の商人は市の準備に向かう。
今日は雲ひとつない、晴れ。
朝の日差しが窓から人々にあたり、一日の始まりを告げていた。

2 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:15:03 ID:vtNE6XK.0
鶏が鳴いてから小一時間、通りは出店に覆われていた。
出店が出来てから十分程度で、通りは人に埋め尽くされていた。
さすがは大陸一の王国、ヴィップといったところか。


('A`)「ふむ...」


さてここで、遠目からこの通りの品定めをしている一人の少年がいた。
顎に手をやり、生え始めたばかりの固くない、産毛のようなひげを弄りながら一つの出店へと近づいていく。

3 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:15:49 ID:vtNE6XK.0
('A`)「おっちゃん、なかなかいいリンゴだね。 いくらだい?」


「おお、このリンゴを選ぶなんてなかなか目がいいね。そうだな...今なら銅貨二枚で5個ってところかな?」


('A`)「オッケー...っと、銅貨は...あっと」


少年のポケットから数枚の錆びに錆び、欠片のような銅貨が落ちる。
それを見た店屋のオヤジは顔をしかめていた。

4 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:16:30 ID:vtNE6XK.0
「おいおい...そんな銅貨じゃ10枚あってもこのリンゴは買えんぞ?」


('A`)「あーすみません...今手持ちにいい銅貨ないみたいです...あ、一枚そっちいっちゃった...」


少年の手から溢れた一枚の銅貨が屋台の下へと転がっていく。
商人は嫌そうな顔をしながらも、根はいい人なのだろう、腰を屈め銅貨を拾おうとしていた。

5 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:17:10 ID:vtNE6XK.0
「おいおい、気を付けろよ...お、これか。そら、あった...ぞ?」


商人が差し出した、銅貨を握った手の先、少年がいるべきところには誰も居なかった。
しかも、リンゴの大半が屋台の上から消えていた。
辺りを見渡すと遠くには大きな袋を抱えた少年が。
無表情のまま商人はもう一度だけ身を屈める。
店の下から取り出したのは細長い、杖。
先端には赤色をした、小さな石がついた杖。

6 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:17:53 ID:vtNE6XK.0
何かを商人がぶつぶつと呟く。
と、同時に杖の石から火が灯る。
そして、その火は炎となりやがて。


火炎の塊へと変化した。


「...待てやこのこそ泥があああああ!!! 燃え尽きろぉ!!!」


(;'A`)「待てって言われて待つバカがいるかボケぇ!!!」

7 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:18:36 ID:vtNE6XK.0
騒がしい朝市の通りに怒号と炎の轟音が響き渡る。
朝から楽しい逃亡劇が始まったようだ。


ここはヴィップ王国。剣も魔法もある、絵本のような世界。
これは、その世界に住む、剣も魔法も使えない『大怪盗』が活躍する物語。

8 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:19:16 ID:vtNE6XK.0


('A`)は剣も魔法も使えないようです



第一話 少年とリンゴ



.

9 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:20:01 ID:vtNE6XK.0
とりあえず、この世界の説明をするにはこの男を知らなくてはいけないだろう。


大怪盗ロマネスク。


この名前を知らない人間はこの世にはいないであろう。
少し前は国全体の誰もが彼の話題で持ちきりだったほどだ。
さて、彼が有名になったのにはいくつか理由がある。

10 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:20:41 ID:vtNE6XK.0
ひとつめは盗みの華麗さ。
武器も魔法も使わずに盗むその姿は誰もが憧れた。子供の間で怪盗ゴッコが流行ったのはこのためだろう。


二つ目は盗む相手。
相手は必ず何らかの悪事で儲けているものだけだった。
この姿に憧れて何人もの人が怪盗になっていった。

11 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:22:25 ID:vtNE6XK.0
そして、最後に。
彼のポリシーとも言えるその行動。
盗んだものは貧しい人々に分け与える。絵本の中のヒーローのような存在。
彼は誰よりも悪党であり、正義のヒーローでもあった。


それが、ロマネスクだった。

12 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:23:35 ID:vtNE6XK.0
しかし、ある日、ぱったりと彼は姿を消した。
様々な噂が飛び交うなか一つの答えが生まれた。
彼は死んだのだと。


それにより、減ってきていた悪事が再発し始めていた。
そのせいか、多くの市民や、果てには王宮までが大怪盗の復活を祈るという奇っ怪なことになっていた。
そして、この祈りにあわせるように一つの噂が流れた。

13 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:24:17 ID:vtNE6XK.0
ロマネスクには実の息子がいると。
この噂には国中、それどころか、大陸中を歓喜させた。
あのヒーローが復活すると誰もが期待していた。
そして、ロマネスクに憧れていた多くの怪盗たちは彼を探した。


そして、今。
大陸中の期待を集めた彼は。

14 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:25:06 ID:vtNE6XK.0



(#A//)プスプス...


丸焦げになっていた。


「ったく...手間かけさせやがって...うおっ。本当に金もってねぇ...使えねぇなぁ」


商人は少年の手持ちの金を全てとり、蹴りを一発だけ食らわせて自分の店へと戻っていく。

15 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:25:47 ID:vtNE6XK.0
(#A/)「...」


(;#A゚/)「グッ...」


商人がいなくなったのを確認すると少年はボロボロになった体に鞭をうち、立ち上がる。
...どうやら、気づかれなかったようだ。
こっそりと脇道の箱の中に隠しておいた数個のリンゴを取り出す。

16 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:26:29 ID:vtNE6XK.0
(;#A゚/)「こんなに苦労して稼ぎこれだけかぁ...」


明らかな大赤字。
金銭的には黒字だが体の消耗とでは割に合わないのは明白だった。


(;#A゚/)「...また、お世話になるか」


一人、裏路地に入っていく。
夏の晴れた暑い日だと言うのに路地に入ると日陰で涼しく、半袖の服だと少し鳥肌がたってしまった。

17 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:27:12 ID:vtNE6XK.0
(;#A゚/)「...寒いのに身体中が熱い...ヤバイ...」


火傷を負った体は熱を持ち、少しでもなにかに当たると激痛が走る。
足も同じく、歩くたびに顔を歪めてしまう。


(;#A゚/)「(本当によく生きてるな俺...)」


爛れた皮膚。焦げた髪の毛。血の滲んだ服。
彼のガリガリの体も相まって端から見れば、彼をゾンビだといっても過言ではないその見た目。
常人なら死んでいたかもしれない。

18 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:27:52 ID:vtNE6XK.0
(#A゚/)「......やっと着いたか」


いくつもの細い路地を抜けたところで少し広いところに出てきた。
そこには古い木でできた店がひとつだけポツンとあり、表の貼り紙に『物から情報までなんでも売り買いします! 荒巻堂』と張られていた。
少年は腐りかけの木の扉を押し、暗い店内へと入っていった。

19 名前:名も無きAAのようです :2012/06/22(金) 01:29:50 ID:vtNE6XK.0
ー人物紹介ー

( ФωФ) 『大怪盗』ロマネスク

本人は認めていなかったがほとんどの人々にヒーローと呼ばれていた。命を奪うのはポリシーに反するらしく拳しか使わず、さらに使っても相手を気絶させる程度。
それでも誰一人として彼を捕まえることは出来なかった。
息子が一人いるらしい。


('A`) 『大怪盗』ドクオ

親であるロマネスクとは幼少時代以降、関わりがない。
しかし、世間一般的にはロマネスクは死亡したことになっているのでロマネスクの『大怪盗』を引き継いでいる。ただし、腕前は半人前どころか素人レベル。
今はひっそりとこそ泥をしながら生活している。


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