- 880 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 18:57:03 ID:fZlsqdbg0
≪1≫
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- 881 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 18:58:09 ID:fZlsqdbg0
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- 882 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 18:58:49 ID:fZlsqdbg0
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- 883 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 18:59:29 ID:fZlsqdbg0
始まったのは、もうだいぶ前の事なんだろう。
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- 884 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:00:12 ID:fZlsqdbg0
私は――素直クールという存在は、きっととても昔に始まっている。
しかし今の私はそれを思い出せない。私は私自身の始まりを思い出せない。
( д )
( ー )
――誰かが居たような、そんな気がする。
感覚は朧気だ。覚めてしまった夢を思い出そうとするように、彼らの存在は私の中からどんどん薄らいでいく。
それは孤独となって私の心を蝕んだ。今の私はどうしようもなく独りなのだと突きつけられる。
しかし苦痛はない。喪失感もない。ただ欠けてしまったのだと確信するばかりで、私は何も感じない。
失った事を悲しめなくなった事に、ああ、私はとっくに誰かになっていて、彼らはもう想い出でしかないのだと、そう思ってしまう。
綺麗な想い出はある。まだ残っている。
私にはまだドクオが居る。私を定義するものは、もうこの世に彼しか居ない。
想い出になどさせない。見る夢はいつも同じだ。雪が降っている。今日も、明日も、明後日も、ずっと……
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- 885 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:01:21 ID:fZlsqdbg0
tanasinn
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- 886 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:02:47 ID:fZlsqdbg0
≪2≫
レムナントにある名前も無い小さな町。
ある日の晩。その町に住んでいた女の前に、彼女の旧友が突然現れた。
爪 ー )
悪いがこいつらを預かってくれ、と旧友は言った。
女は戸惑いながらも旧友の頼みを受け入れ、こう尋ねた。
( д @
この二人はなんだ。傷だらけで寝ているじゃないか……。
旧友は苦笑いを浮かべて答える。
ここで自由にさせてやってほしい。見張りはさせているから安心しろ……。
( д ;@
女が言葉の意味を理解する前に、旧友はあっという間に姿を消してしまった。
仕方がない……。女はそう呟いて二人を家にあげ、目を覚ますまで二人を看病した。
.
- 887 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:03:45 ID:fZlsqdbg0
川 - )「……う……」
川; -゚)「…………」
川;゚ -゚)「……ここ、は……」
(゜д゜@「……おや、起きたのかい」
翌朝、先に目を覚ました方は自分を素直クールだと名乗った。
どうやら記憶を失っているらしく、具体的な話は聞き出せなかったが、
川 ゚ -゚)
( A )
……目を覚まさないもう一人の男を、彼女は安心したような穏やかな顔で見つめていた。
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- 888 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:05:30 ID:fZlsqdbg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第三十一話 「悪性萌芽/After,in the Dark」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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- 889 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:06:54 ID:fZlsqdbg0
この町の朝はおばちゃんの一声で始まると言っても過言ではなかった。
(゜д゜@ 「へいらっしゃい! いつもの朝市だよーーッ!」
すげえ! 行ってみようぜ! 今日は白菜があるぞ!
などの声援が飛び交う彼女の店は、当時これだけの繁盛ぶりを見せていた。
( 'A`)ノ 「ちぃーす。元気そうだな」
(゜д゜@ 「ああドクオ、おかげさまだよ! 今日は何の用だい?」
おばちゃんは店先の人混みにドクオを見つけ、彼に話しかけた。
手際よく他の客の会計を済ませながら、おばちゃんはドクオの言葉に耳を貸す。
('A`)「いつもどおりだ。適当に頼む」
ドクオはそう言い、片手に持っていた袋をおばちゃんに差し出した。
(゜д゜@ 「あいよ。ちょっと待ってな、片付けるからさ」
(A` )b グッ
ドクオは無言で踵を返し、人混みから消えた。
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- 890 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:08:05 ID:fZlsqdbg0
それから十分ほど経って客足が落ち着き始めると、彼女はドクオが持ってきた袋に適当な野菜・果物を突っ込んでいった。
その大半は売れ残り。形が悪かったり欠けていたり、痛み始めていたりする物だった。
余り物で適当に――それが、ドクオのいつもの注文なのだ。
('A`)「おー。今日は当たりの日か」
おばちゃんが余り物の品定めをしている最中、ひょっこりとドクオが帰ってきた。
彼は袋の中を覗き込み、にんまりと笑みを浮かべる。
(゜д゜@ 「そうしてやったんだよ。上等なのを残してやったのさ」
('A`)「そうなのか? わりぃな、おばちゃん」
(゜д゜@ 「助け合いこそ人の道ってね。仕事は上手くいってんのかい?」
('A`)「まぁまぁ。余所者扱いが目につく感じだ」
僅かばかりの金銭と、野菜の入った袋を交換する二人。
手渡された袋はずっしりと重たい。それは明らかに等価交換ではなかった。
('A`)「わり、それじゃ足りなかったな」
ドクオはすぐに手持ちの金を出そうとした。
しかしおばちゃんはそれを無視して喋り出し、ドクオの手を止めさせた。
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- 891 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:09:31 ID:fZlsqdbg0
(゜д゜@ 「いいかい、仕事場じゃ愛想よくするんだよ?
あんたは目つきが悪いから絶対に誤解されちまうんだ」
(゜д゜@ 「しかもわざわざあたしが紹介してやったんだからね。
この顔に泥を塗るようなマネは」
彼女は、野菜を入れた袋を一瞥して言った。
(゜д゜@ 「するんじゃあないよ。分かったね」
('A`)「……あいよ。いつか大当たりにして返すからな」
(゜д゜@ 「今すぐ返せないモンの話なんかしないでおくれ。
ほれ、仕事の邪魔だよ。帰った帰った」
おばちゃんはドクオを手で払いのけ、店の奥に戻っていった。
ドクオはそれを見送ってから店を離れた。
帰り道、袋からミカンを一つ取り出して食べる。
('A`)「うーん。うまいっ」
ドクオが住んでいる小屋は町から少し離れた場所に立っていた。
朝食の支度をしているのか、小屋の煙突からはモワモワと煙が立ち上っている……
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- 892 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:11:04 ID:fZlsqdbg0
('A`)「買ってきたぞお」
その小屋に到着したドクオは、戸を開けながら気の抜けた声色で呼びかけた。
玄関がリビングに直結しているので、台所に立っていた彼女の姿はすぐ目に入った。
川 ゚ -゚)「ああ、適当に置いといてくれ」
素直クールはさっと振り向いてドクオに指示を出し、さっと視線を戻した。
絶賛加熱中のフライパンには程よく焼けたベーコンと目玉焼きが乗っている。
ちょうど出来上がるところなのだろう。テーブルにも二人分の食器が用意されていた。
('A`)「おーう」
踵を使って靴を脱ぎ捨て、言われたとおり適当に、食卓の足元に袋を置く。
それからドクオは素直クールの隣に行き、シンクの方で手を洗い始めた。
川 ゚ -゚)「おばちゃんに何か言われたか?」
('A`)「……愛想よくしろって」 ジャー
川 ゚ -゚)「……難題を出されてしまったな」
('A`)「まったくだ」 キュッ
川 ゚ -゚)「あ、手を洗うついでに布巾を頼む」
('A`)「おう」 キュッ ジャー
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- 893 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:13:59 ID:fZlsqdbg0
食卓のお皿にベーコンと卵焼きが移される。
素直クールは空いたフライパンをシンクに突っ込んで水をぶっかけた。
ジュッ、という音を立てて熱が即死する。
川 ゚ -゚)「ドクオ、こないだのパンがまだ余ってるんだ。
そろそろ食べきりたいから出してくれ」
('A`)「パンなー」
ドクオがチェック柄の布が被せてあるカゴを持って席につく。
素直クールもさっと手を洗って椅子に腰掛けた。
そして最後にカゴの布を取っ払い、二人は手を合わせて呟く。
('A`)「たーきゃす」
川 ゚ -゚)「いただきます」
〜十分後〜
('A`)「ごっそさん」
川 ゚ -゚)「ごちそうさまでした」
.
- 894 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:15:00 ID:fZlsqdbg0
朝食が終われば次は仕事だ。
ドクオは手早く食器を片付け、口をゆすいで顔を洗って身支度を済ませていく。
('A`)「今日も遅くなる。町の見回りもあるし、夕飯はおにぎりとかにしてくれ」
川 ゚ -゚)「ん、今日の弁当。それで夕飯はおにぎりだな。作っておく」
('A`)「わりぃな」
差し出された弁当を受け取る。
ドクオは散らばった靴を器用に履き直して戸を開けた。
('A`)「行ってくる」
川 ゚ -゚)「……ああ。いってらっしゃい」
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- 895 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:16:07 ID:fZlsqdbg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ドクオの仕事は午後十時を過ぎる頃には区切りがついた。
メシウマとレムナントを隔てる壁、今度その近くに新しい町ができるらしい。
町の名前はイッテヨシ。彼の仕事はその諸々の手伝い、というわけである。
('A`)「おつぁえーす」
\うーい/
適当な挨拶で職場を出て、ドクオはあの町への帰路につく。
二つの町は大きく離れていた。歩いて帰れば朝が来てしまう程だが、しかし帰宅に大した手間はかからない。
ドクオが内藤によって与えられた“性能”はほぼ万能。それを使えば瞬間移動など思いのままだ。
一瞬念じて目を閉じ、目を開ける。
すると、彼の目の前には自宅の戸があった。
('A`)(もう寝てっかな……)
町はすっかり眠りに落ちていた。どこの小屋も明かりを消し、明日の為に今日を終えている。
唯一、ドクオの帰りを待っているこの小屋だけが窓から光を漏らしていた。
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- 896 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:18:39 ID:fZlsqdbg0
('A`)「……あ、ただいま」
川 ゚ -゚)「……ああ、おかえり」
素直クールは椅子に座ったままドクオを出迎えた。
彼女はかなりの早寝なのだが、どうやら本を読んでドクオを待っていたらしい。
家に上がったドクオはまず、空になった弁当箱を自分の手で洗い始めた。
家事全般を任せている手前、彼はこういう部分で彼女の手伝いをしていた。
('A`)「今日どーだった」
ドクオは弁当箱を洗いながら素直クールに話しかけた。
彼女もまた、本を読みながら彼の問いに答える。
川 ゚ -゚)「いつもどおりだ。おばちゃんの手伝いで畑をいじっていた」
('A`)「ふーん。ま、こっちも普段と大差ないな。
似たような建物を作るばかりだ。変化がない」
川 ゚ -゚)「お疲れさま。風呂はどうする」
('A`)「見回りの後だな」
この町では住民が交代で町の見回りをしている。
そして今日がその当番の日。今からざっと三時間ほど、ドクオは特に当てもなく町をブラつかねばならない。
洗い物を済ませると、ドクオは服の裾で大雑把に手を拭った。
川 ゚ -゚)「風呂、用意しておこうか?」
('A`)「いい。先に寝てろ」
そうか、と言って彼女は本を畳む。
川 ゚ -゚)「今日は一緒に寝たかったんだがな」
('A`)「……行ってくる」
ドクオはふたたび、外に出ていった。
.
- 897 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:21:14 ID:fZlsqdbg0
彼らがこの町に来て、一ヶ月が経とうとしていた。
素直クールにも特に変わった様子はなく、平穏な生活が続いている。
( 'A`)「……」テクテク
見回りのため、町の中を歩く。
しかし十分も歩くと町の端っこに着いてしまった。
これをあと何十回も繰り返すんだと思うと、ドクオは少し気が滅入った。
だが今日は町外れの岩場に男が立っていた。
ドクオはその岩場に近付き、男の背中に話しかける。
('A`)「……特に何もないぞ」
( "ゞ)「まあ、そう言うなよ」
デルタ関ヶ原は振り返り、酒瓶をちらつかせて言った。
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- 898 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:23:50 ID:fZlsqdbg0
≪3≫
二人で適当な岩に腰を下ろす。
デルタはポケットから透明なグラスを取り出し、そこになみなみと酒を注いだ。
グラスには明らかにポケット内の糸くずが浮いていたが、ドクオは気にせずそれを受け取った。
( "ゞ)「こいつはイイ酒だ。ここらじゃあ飲めん」
ドクオは口元で一旦グラスを止め、その香りを軽く吸い込んだ。
( "ゞ)「どうだ」
('A`)「……まったく分からん。お前がイイって言うなら、まぁイイんだろう」
ドクオがひとくち酒を煽る。デルタも酒瓶に口をつけた。ラッパ飲みである。
アルコールの塊が、デルタの喉をごくんごくんと直下していく。
デルタはその感覚に至極満足気で、彼は息が続く限りたっぷり飲んでから酒瓶を口から離した。
('A`)「そっちの様子はどうだ」
( "ゞ)「変わらずだ。じぃ様達からの連絡は無い。
あの連中から一ヶ月も逃げるなんざ、内藤って奴はやり手だな……」
.
- 899 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:25:22 ID:fZlsqdbg0
一ヶ月前。じぃは素直クールとの激闘(全略)に勝利し、彼女を再び最初に状態に戻していた。
そして全員一致のもと、彼女とドクオをこのレムナントの地に預けたのだ。
その後、じぃは阿部高和と忍者を連れて人工片鱗の生みの親・内藤を探す旅に出ていった。
それが具体的な解決に繋がるとは誰も思ってはいなかったが、とりあえず事の発端を潰しておくことにしたのだ。
ついでに案外ワクチンのようなものが見つかるかもしれないという目論見もあり、とにかくじぃ達は武神屋敷から姿を消していた。
最初の状態の素直クールならドクオを一緒にしておけば大事にはならない。
しかしいつまた彼女が破綻するかも分からないので、デルタが気まぐれに彼らの様子を確かめていた。
それも今日で四回目。ドクオいわく、彼らの生活は慎ましく穏やかであった。
('A`)「……今のところ、普通に暮らせてる。呆気ないほど何も起こっていない」
( "ゞ)「毎度のセリフだな。ま、それに越したことはねえけどよ……」
( 'A`)「……」
ドクオはグラスを覗き込んで口を閉ざした。
彼女との一ヶ月の生活で、内心に溜まった言葉は山ほどある。
しかし、それを口にするのはどうしても憚られた。
それらの言葉は、ドクオにとっては余りにも無責任なものだったからだ。
( "ゞ)「……」
( "ゞ)「……牙を抜かれたって感じだな」
ごくん、と塊で酒を飲み下す。デルタは多くを語らなかった。
.
- 900 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:26:33 ID:fZlsqdbg0
( 'A`)「……彼女は今、落ち着いている」
( "ゞ)「ああ」
( 'A`)「……俺は正直、今でもあの女が暴走したという話が信じられない。
俺を、その……独占したがってたとか……」
レムナントの荒野。
夜は肌寒く、乾いた風がゆるやか壁の内側を巡っている。
循環し続ける空気の流れが、ドクオとデルタの体を静かに撫でていた。
('A`)「……この状況は、たぶん一時凌ぎだ。
いずれ確実に終わる。だが、今の彼女はこのままを望んでいる気がする……」
( "ゞ)「……ま、良いモンだよな、普通の生活はよ……」
酒瓶を置き、デルタは遠くの夜空を見つめて語った。
( "ゞ)「俺は戦うしかなかった。でなけりゃ心臓の病でお陀仏、死んでた。
遊びのひとつも知らねえし、静かな生活ってのがどういうものかも、よく分からねえ……」
( "ゞ)「……居心地が悪くねえんだったら、もうちょい続けてやれ」
( "ゞ)「始末はこっちでつけてやる。それまで気にせず、楽に隠居してりゃあいい……」
.
- 901 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:27:45 ID:fZlsqdbg0
('A`)「……」
('A`)「……もう、終わったんだろうか……」
ぽつん、とドクオの言葉が孤立する。
('A`)「こんな生き方を、俺が選んでもいいんだろうか……」
('A`)「……俺は、彼女との生活を、幸福であると感じている……。
だけど、今の彼女は本当の彼女じゃあない」
('A`)「彼女は今でも自分自身から目を逸らしたまま、何も解決できていないんだ……」
('A`)「……それをどうにかしないまま、上手く利用して、俺は、幸せを得てもいいのか……?」
('A`)「……こんな道半ばで、俺は……」
('A`)「足を止めても、いいのだろうか……」
彼の言葉に答える者は居ない。
残されたのは酒瓶ひとつ。そこに余った酒を飲みきってから、ドクオは見回りに戻った。
.
- 902 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:28:25 ID:fZlsqdbg0
.
- 903 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:29:41 ID:fZlsqdbg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
('A`)「……まだ起きてたのか」
川 ゚ -゚)「手が止まらなくてな。小説は、タナシンの力では作れない」
小屋の電気は消され、室内を照らすものは小さなオイルランプだけになっていた。
素直クールはドクオを見送った時と同じく、椅子に掛けて本を読んでいる。
_,
川 ゚ -゚)「……酒臭いぞ」
('A`)「町の爺さんが飲んでてな、ちっと飲んできた」
テーブルにはサランラップに包んだおにぎりが四つ置いてあった。
ドクオは椅子に座り、その中からひとつを掴み取る。
川 ゚ -゚)「あとで水も飲んでおけ。明日に響く」
('A`)「明日は休み。これ中身なんだ?」
ドクオはサランラップを剥きながら言い、答えが返ってくる前にかじりついた。
('A`)「シャケか。うまい」
川 ゚ -゚)「風呂は用意しておいた。入ってくるといい」
('A`)
('A`)「……だったらありがたく入らせてもらうが、やらなくていいと言っただろう」
川 ゚ -゚)「気が向いたからやっただけだ。文句あるまい」
.
- 904 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:30:57 ID:fZlsqdbg0
('A`)「……」
川 ゚ -゚)「……どうした」
ふと動きを止めたドクオを一瞥し、彼女は小説のページを捲った。
('A`)「……また、デルタに嘘をついてしまった……」
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「……あと二ヶ月か」
('A`)「きっと、すぐに過ぎていくんだろうな……」
ドクオはおにぎりを食べきり、テーブルにうなだれた。
川 ゚ -゚)「……私の嘘に付き合う必要はないんだぞ。
次に彼が来たら言えばいい。それで済む」
('A`)「……俺は、作り物だ」
胸に手を当て、ドクオは呟く。
.
- 905 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:33:35 ID:fZlsqdbg0
('A`)「内藤によって作られた人間の模造品。
俺は本来、とっくに死んでいる筈の出来損ないだ……」
('A`)「それをここまで保持出来たことすら奇跡だし、俺はもう十分に生きたと思う……」
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「……あと二ヶ月だ、素直クール。
俺はあと二ヶ月だけ、お前の望みのままに生きる」
( 'A`)「今の生活は多分……未練、というものなんだろう。
未練がましいとも言っていい。お前だけじゃなく、俺も」
ドクオは俯き、嘲笑する。
('A`)「良かったよ。俺の人生に、俺以外の誰かが居てくれて。
それだけで救われた。幸せだった……」
川 ゚ -゚)「……今日はよく喋る」
本を閉じ、素直クールは席を立った。
川 ゚ -゚)「私も疲れた。先に寝る。風呂にはちゃんと入っておけよ」
('A`)「……今夜は冷える。俺の部屋で、寝ててもいい」
川 ゚ -゚)「……分かった」
.
- 906 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:34:53 ID:fZlsqdbg0
――ドクオは、彼女を庇ってデルタに嘘をついていた。
「何も起こっていない」とドクオは語った。しかし、事はとうに起きていた。
ドクオと素直クールがこの町に来て数日後、それは実に呆気なく起こり、彼らの手によって隠蔽されていた。
しかし起こった事というのも単純で、人工片鱗の副作用に耐えきれず死んだドクオを、素直クールがtanasinnの片鱗で存命させたというだけの話。
これだけなら別に大した事ではない。むしろ武神屋敷でのコールドスリープを考えれば幾分上等とすら言える。
だが、ドクオはこれを秘密にした。
素直クールはデルタ達に打ち明けてしまうつもりだったが、ドクオ本人がそれを止めたのだ。
( 'A`)
ドクオが素直クールの顛末を知ったのは、この町に初めてデルタがやって来た三週間前の晩のことだった。
その時点で彼は自分が片鱗によって生かされていると素直クールから聞かされており、その事もデルタに話すつもりでいた。
.
- 907 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:37:31 ID:fZlsqdbg0
ところがドクオは、彼女の身に起きたことを聞いているうちに、デルタに事実を語るのを躊躇した。
素直クールという人格は既に破綻し、もはや手を付けられないほどに擦り切れている。
それが事実なのは容易に理解できたし、自分の身に起こったような激しい副作用が彼女にだけ無いのはありえないと覚悟も出来ていた。
依存と独占欲。心の綻び、指向性を欠いた肉体。
永遠の走馬灯。素直クールが望んだものは、ただの停滞だけ。
本来なら叶うはずもないが、かといってtanasinnの力を利用してまで願うようなものではない矮小な願望。
何でもない日が毎日続けばいい。今の幸せな瞬間がずっと続けばいい。
穏やかに、静かに平和に生きていければいい……。
確かに彼女は間違っている。人工片鱗によって精神の箍を外された今、彼女はもはや独善の塊でしかない。
だが、それでも彼女の願いは純粋で正しかった。
途方もない戦いに巻き込まれながら、しかし自身の為にその力を振るわなかった人間。
その行く末が矛盾と破綻でしかなかったとしても、彼女の願いは人間として正しいとドクオは思ったのだ。
( 'A`)(結局、じぃ様の言った通りだった。
あのとき俺が妥協していれば、彼女の弱さを受け入れていれば……)
ついでに言えば、ドクオは理屈ではなく思ってしまったのだ。
彼女が望む永遠の停滞のなかに自分の居場所が用意されていることに、ほんの少し喜んでしまった。
一度は彼女の在り方を否定した自分を、それでもなお求めてくれることに安心してしまった。
人間ではない筈の自分に人間としての意味を与えようとする彼女を、ドクオはもう、強く拒めなくなっていた。
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- 908 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:40:37 ID:fZlsqdbg0
――それでも、素直クールは間違っている。
一時の迷いは、しかしドクオの考えを変えなかった。
ドクオは同情を同情だと切り捨て、間違いを間違いだと見限った。
彼女と共に永遠の停滞に縋るのは容易だ。しかし、それでは駄目だとドクオは思い切った。
作り物だからこそ、偽物の存在だからこそ、彼女の間違いを誰よりも真っ直ぐ正すことができる。
正しさの奴隷でなければ彼女を救う事はできない。
ドクオは彼女に用意された人間としての居場所を、彼女の為に捨てることを決意した。
三週間前の晩、デルタとの話を終えたドクオは小屋に帰って素直クールに本心を告げた。
お前は間違っている。だが、今の生活は正しいものだ。正しさの奴隷として、ドクオは淡々と語っていった。
だから俺は決めた。俺は三ヶ月だけ今の生活を続ける。
三ヶ月後、もし二人の願いが同じでなかったら、その時は、俺達の手で決着をつけよう。
ドクオと素直クールは間違いながら、しかし正しくあろうと三ヶ月の猶予を設けた。
ぶっちゃけ問題を先送りにしただけだし、二人もそれを自覚していた。
だが、二人にはもうこれしかなかった。
どちらも自分を曲げる事は出来ないと分かっていたし、例えどれだけ時が経とうと何も変わらないのは分かっていた。
それでも今の生活は正しく平和で何事もなく、二人とも今の生活が続けばいいとは思っている。
しかしドクオは彼女の間違いを正したかった。素直クールは彼とずっと一緒に居たかった。
そういうどうあっても噛み合わない在り方を共存させるには、もうこういう誤魔化し方をするしかなかった。
結論の先延ばしだけが彼らを繋ぎ止めていた。それを妥協と呼ぶのなら、彼らはきっと妥協を受け入れたのだ。
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- 909 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:42:39 ID:fZlsqdbg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
――時系列は現在に戻る。
デルタ関ヶ原は語りを中断し、どでかい溜め息をブッ放した。
( "ゞ)「……まあなんつーか、奴らは俺に黙ってそういう事をしていた。
俺が気付いた時にはとっくに三ヶ月が経って、手遅れだった」
デルタは目を背け、嘘をついていた。
( "ゞ)「最後は言うまでもねえだろう。殺し合って、男の方が負けた。
だが女は男を失った悲しみに耐え切れなかった。自業自得だがな。
しばらくは例の町に一人で暮らしてたらしいが、それも長続きしなかったらしい」
( "ゞ)「……となれば代わりが欲しくなる。で、あいつにはそれを実現する手段があった。
あいつは当然のようにtanasinnの片鱗に頼り、そして――」
デルタはドクオを指差し、続きを言った。
( "ゞ)「――ドクオの顔と偽の記憶を植え付けた、お前という代替品を作った」
.
- 910 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:44:20 ID:fZlsqdbg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第一話 「永遠の夜の最中で」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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- 911 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:45:00 ID:fZlsqdbg0
≪1≫
('A`)「……」
とてつもなくブサイクな顔をした少年が一人。
名をドクオといい、彼はどうしようもない根暗クソ野郎だった。
ドクオは、 『レムナント』 という場所に住んでいた。
高く、分厚い壁に囲まれた荒野。省かれ者の集う場所。
行き場を失った者達が最後に辿りつく場所、それがレムナントだ。
そんなレムナントの片隅にある、小さな町。
ドクオの家はそこにあり、彼の居場所もまた、そこにあった。
.
- 912 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:48:17 ID:fZlsqdbg0
11月18日(金)
ドクオが拠り所としていた素直クールとの生活は全て素直クールが捏造した偽物の記憶だった。
どれもこれも彼女が理想とした設定と空想に過ぎず、実際はただひたすらドクオという名前の肉人形を彼女が監禁しているだけのつまらない話だった。
ようやく念願叶って私だけのドクオを手にした素直クールはひたすら我欲を満たし続ける。
設定年齢は九歳。tanasinnで捏造した存在ではあったが、子供というのは実に取り扱いやすかった。
そこに物語性は無い。素直クールはあの小屋に一人閉じこもり、おばちゃんや町の人々からの呼び掛けにも答えず際限のない情欲を満たし続けた。
その生活は十年以上続いた。既にデルタは素直クールを見限っていたし、じぃ様達が彼女の前に現れる事も無かった。
彼女は永遠の停滞を手に入れていた。
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- 913 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:48:57 ID:fZlsqdbg0
朝方、八百屋のおばちゃんが野菜を表に並べていた。
ドクオは小屋の陰に身を隠しながら、おばちゃんの様子を遠くから窺っている。
ドクオの作戦はこうだ。
おばちゃんが店の奥に引いた瞬間、野菜とお金を交換し、逃げる。
結果、誰とも遭遇せず野菜を獲得できるという寸法だった。
完璧な作戦だった。
(゜д゜@ 「あら、いらっしゃい」
(;'A`)「エッ・・・」
普通に見つかったので、ドクオは俯きながらおばちゃんの前へ行った。
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- 914 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:49:37 ID:fZlsqdbg0
(゜д゜@ 「いやぁ、あいかわらず湿ったハンペンみたいな顔だねぇ」
(;'A`)「オ・・・オハ、オス・・・」
湿ったハンペン顔の根暗クソ野郎は吃った声で挨拶を済ませると、急いで欲しい物を手に取った。
キャベツ、たまねぎ、オヤツに食べるリンゴなど、今日一日分の食材を次々と選ぶ。
(;'A`)(あれ・・・トマトが無い。無いぞ・・・)
(゜д゜@ 「ん? どうかしたかい?」
(;'A`)「ウェス! アノ・・・トマッ・・・」
(゜д゜;@ 「……?」
(;'A`)「トマ・・・トマッ・・・」
('A`)
('A`)「トメェイトゥ」
(゜д゜@ 「yeah」
素晴らしい英会話だった。
かくしてドクオは食材を手に入れ、自分の家へと帰っていった。
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- 915 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:51:35 ID:fZlsqdbg0
11月18日(金)
しかし彼女の停滞は長くは続かなかった。永遠というには短すぎる、たった三十年の停滞にも終わりが来た。
素直クールは直ってしまったのだ。ドクオという存在を思う存分に使い潰した結果、彼女は本来の自分を取り戻してしまった。
その日の朝は絶望的だった。自分がした事を何もかも覚えている。何を願い、何を裏切り、何を成したのか全て。
ドクオと過ごした最後の三ヶ月。その思い出の場所だった小屋は心身を劈くような臭いに満ちていた。そういうものが染み付いていた。
それを嫌だとも思わない正気の自分が、彼女はもう気持ち悪くて仕方がなかった。
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- 916 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:52:49 ID:fZlsqdbg0
この町は、とてもとても小さな町である。
レムナントにある他の地域と比べても、この町の生活水準はかなり低い部類に入る。
電子機器の類も十分には無く、立派な家など一つも建っていない。
だが、これらの不自由を意にも介さないほど、この町には“情”というものが溢れていた。
事実、湿ったハンペン顔であり、さらには日常会話もロクに出来ない根暗クソ野郎が、今日もこうして雑草のように生きている。
町は平和だった。争いの種も無く、ましてやその芽が出る兆しも無い。
情があり、明日がある。この町は確かに貧しかったが、そういうものに満ちていた。
しかし、ドクオにはこの平和が堪らなく もどかしかった。
平和とは“間”である。そして“間”はいつか終わりを告げる。
ドクオはそう確信し、漠然とした“何か”を待ち望んでいるのだった。
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- 917 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:53:37 ID:fZlsqdbg0
この町に建っている建物は、どれも一朝一夕で建てたような掘っ立て小屋ばかりだった。
町には似た風貌の小屋が十列ほど並んでおり、それぞれ店にしたり自宅にしたり、自由に活用している。
ただしレムナントの土地は全体的に荒地なので、ぶっちゃけ住み心地は悪かった。
ドクオの家もそんな掘っ立て小屋の一つで、彼の家は、町から少し離れたところにポツンと建っていた。
彼には素直クールしか居ない。いつからそうだったか誰も知らないが、少なくとも、ドクオはずっと彼女と二人で生きている。
気がつけばこの町に来ており、気がつけば町外れの小屋に閉じ込められていた。ドクオはそんな一生を自分の末路として疑いなく受け入れていた。
('A`)(トメェイトゥ……)
('A`)(……恥ずかしい……死にたい……)
小屋に着いたドクオは野菜を片付けると、悶々としたままベッドに転がった。
見上げると、雨の日には全力で雨水を迎え入れるガバガバの天井が、青空を覗かせていた。
('A`)(ただでさえ死にたいのにトメェイトゥって……もう死のう……)
( 'A`)(首吊り用のロープは……)
そのロープは今、外で洗濯物を吊るしていた。
('A`)(練炭は……)
ご飯を炊いていた。
('A`)(詰んだ……死のう……)
( 'A`)(あ、でも死ぬ為の道具が……)
('A`)
('A`)(やっぱ詰んだ……)
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- 918 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:54:17 ID:fZlsqdbg0
ガバガバの天井を見上げながら、ドクオは当てもなく言う。
('A`)「うわぁ〜〜〜死にてぇ〜〜〜〜〜」
「死ぬぅぅぅぅ〜〜〜」
('A`)「いいな〜〜〜」
('A`)
(;'A`)「――ん!?」
ドクオは咄嗟に体を起こし、天井から青空を見上げた。
,_
('A`)「……あれは……」
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- 919 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:54:57 ID:fZlsqdbg0
川;゚ -゚)「――――ああぁぁぁああああぁぁああぁぁあぁぁぁ!!」
空から女が落ちてくる。
ドクオはそれを避ける間もなく、マヌケな断末魔を残して死んだ。
('A`)「うわっ」
次の瞬間、ドクオの小屋は粉々に砕け散った。
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- 920 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:56:04 ID:fZlsqdbg0
11月18日(金)
もう終わろう。彼女は思った。ドクオとの出会いをやり直し、せめて彼を人間としてこの世に送り出そう。
その為に余りの命を使おう。無理をしよう。彼の為の犠牲になろう。私はもう十分に生かされた。
彼女は彼との出会いを捏造し、以降ドクオが九歳から十四歳になるまでの五年間を平凡に過ごした。
そうしたある日、ふたたび精神の破綻を予期した彼女は荒巻スカルチノフに自身を売り渡した。
そうしなければ同じ事が起こると分かっていた。素直クールは、やはりもう手遅れだった。
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- 921 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:56:44 ID:fZlsqdbg0
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- 922 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:58:14 ID:fZlsqdbg0
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- 923 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 19:59:50 ID:fZlsqdbg0
平和とは“間”である。そして、“間”はいつか終わりを告げる。
ドクオはそう確信し、漠然とした“何か”を待ち望み、素直クールに出会った。
今のドクオには、胸にぽっかり開いた穴がなにかに塞がれたような感覚があった。
これまで抱えていた濁った感情が、胸の内で青く澄みきったような――
――ドクオは、これ以上のことを考えなかった。
なぜなら、それが偽物の記憶であると分かってしまうから。
“あの日の出来事を理解したくない”
“いつまでもあの日を忘れたくない”
この二つの願いが、ドクオの思考を緩やかに停滞させていた。
理解とは忘却の入り口である。
ドクオはそれを知っていた。
だからこそ、彼は理解しないことで忘却を拒んだのだ。
もちろんこの世界に永遠は無い。だが、あの日を理解しないことで永遠の思い出にすることはできる。
それはまるで箱に閉じ込めたネコのように、誰にも理解されず、触られず、孤独と引き換えに小さな永遠を手に入れるような――
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- 924 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:00:31 ID:fZlsqdbg0
( 'A`)(“間”は終わった……じゃあ今は、何だ?)
トラックの助手席で、ドクオは思考を巡らせた。
荒野を走るトラックは揺れが大きかったが、彼はそんな事は気にせず考え続けた。
( 'A`)(……)
('A`)「……わっかんねー」
<_フ"ー゚)フ「なにが」
('A`)「バッカお前、ただの独り言だよ」
<_フ"ー゚)フ「あっそ。じゃあしりとりやろうぜ」
<_フ"ー゚)フ「まずは俺からな。トンボ!」
('A`)「……なぁ」
<_フ"ー゚)フ「あ? お前しりとりも出来ねーのかよ」
('A`)「永遠に続くしりとりって、あると思うか」
<_;フ"ー゚)フ「永遠に……? いきなり何言ってんだお前」
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- 925 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:02:04 ID:fZlsqdbg0
エクストは苦笑いでドクオの顔を覗き見た。
('A`)「……」
憂いを帯びたその顔は、五年前の頃のドクオを想起させた。
あの頃、ドクオは人間らしさというものを一切持ち合わせていなかった。
それをエクストとおばちゃんで一から育て上げ、ようやくここまで持ち直したのだ。
エクストは、真剣に言葉を考える。
<_フ"ー゚)フ「あー……まぁ、あんじゃね?
つーか永遠って、そんなにしりとりやったら飽きるぜ?」
<_フ"ー゚)フ「それによ、自分の永遠なんてのに付き合ってくれる奴はそう居ないと思うぜ、俺はな」
正しさの後には間違いが続く。
人間は終わらないしりとりを延々と繰り返している。
( 'A`)「……そうかよ、ボンクラ」
<_フ"ー゚)フ「はっはっは――」
<_#フ"д゚)フ「――ってなんだとオラァ! マジで答えてやったのに、ボンクラはねーだろ!」
(#'A`)「アァ!? うっせーしりとりだよバーカ! さっさと次言えよ、ラだぞ!」
<_#フ"ー゚)フ「ああそうかい、じゃあ言ってやるよ! ラーメン!」
('A`)「……ラーメ」
(*'∀`)「ン!?」
('A`)「ラーメン!」ドンッ!
(#'∀`)「バァァァァァァァカ!!」
<_#フ"Д゚)フ「ンだこらジョートーだテメー! 表出ろやァ!!」
(#'A`)「ああ出てやるよ!! 今度こそ白黒つけてやる!!」
こうして二人は今日の仕事に大遅刻し、しかも喧嘩で怪我をするというバカを仕出かしたのだった。
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- 926 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:02:44 ID:fZlsqdbg0
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- 927 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:04:02 ID:fZlsqdbg0
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Fight with Their Solitude
https://www.youtube.com/watch?v=Qltn08sWB0k
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- 928 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:04:47 ID:fZlsqdbg0
≪4≫
( "ゞ)「……お前という存在は、そもそも根本的に間違っている。
そもそもお前は実在しない。お前は誰でもない」
( "ゞ)「お前はあれが望んだ着せ替え人形でしかない。
秘密にしてて悪かったな。これで全部だ」
('A`)
<_プ−゚)フ「……」
('A`)
('A`)「……なんつーか、あれだな……」
川 - )
ドクオは、胸に抱き抱えている素直クールの顔を見下ろした。
穏やかな寝顔に陰はない。
このまま、このまま二人で昔に戻れれば、俺達はどれだけ幸せなのだろう……。
('A`)「……まあ、長ったらしく聞いたけど……」
('A`)「結局、答えは変わらねえか……」
.
- 929 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:05:27 ID:fZlsqdbg0
('A`)「…………どこから嘘で、どこまで嘘か。
多分、前の俺ならその辺を気にしたんだろうな」
('A`)「……どっちでもいい。俺は確かにあの夜、あの瞬間に救われた」
('A`)「救われちまったんだよ。嘘でもなんでも。
俺は今でもどうしても、あの夜を信じきったままでいる……」
('A`)「……俺もこいつを否定できねえよ。
だってよ、俺が出した答えは “正しさを踏み躙ってでもこいつを自分の物にする” なんだ」
('A`)「正しさで救えないと分かった時から、もう……間違える覚悟はできていた。
俺はその道を歩き始めた。取り返しはつかないし、取り戻すつもりもない」
ドクオは失った右腕を一瞥した。
( "ゞ)「……素直クールがしたように、今度はお前がそいつを求めるってか……」
デルタはいよいよ痺れを切らし、もう好きにしろとでも言いたげに大地に寝転がった。
('A`)「……やっぱ駄目ですかね」
( "ゞ)「……いんや、別に。前のドクオは正しさで救おうとした。
それを今度は間違いでって事だろ。それもありなんじゃねえの……しらね……」
.
- 930 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:06:16 ID:fZlsqdbg0
( `ハ´)「……」
('A`)「……なぁアンタ。あの娘とエクストを頼んでもいいか」
ミセ;゚ー゚)リ チラチラ
少し離れたところからこちらの様子を見ているミセリ。
ドクオは彼女の方を向き、軽く手を振って見せた。
( `ハ´)「……それは構わんが、その前に」
もはや完全に空気だったシナーは、同じく完全に空気だったミルナ(気絶中)を指差した。
( `ハ´)「あれの始末はどうする。貴様の許可、まだ貰っておらん」
(;'A`)「……あー……」
( "ゞ)「もういいよ、シラけたよ。そいつもう放っとけよ」
地面に大の字で寝転ぶデルタ関ヶ原。やばいくらいやる気を失っていた。
( `ハ´)「そうはいかん。貴様ら身内の云々はともかく、こいつの始末は後回しにはできん」
( "ゞ)「だったら戦力に加えようぜ。雑魚だけど。
なんかいま顔付きって連中が来てんだよ。
こいつ、そいつらと顔見知りだから良い餌になると思うぜ」
( `ハ´)「……」
( "ゞ)「しらねえけどさァ、俺らが居てもいいとこ互角って敵らしいんだわ。
マジならこんなの殺してるより断然スリリングだぜ、どうよ……」
.
- 931 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:08:18 ID:fZlsqdbg0
(;'A`)「……あの」
(;'A`)「……出来れば、生かしてほしい。
こいつと決着をつけたいのは俺も同じなんだ。
出来れば、俺を先にしてほしい……」
( `ハ´)「……だが、この男が我らの弟子を殺した事実は消えん。
貴様が決着をつけるのなら、その戦い、必ず私に見届けさせろ」
(;'A`)「……ありがとうございます。約束します」
ドクオは深々と頭を下げた。
その後、素直クールを抱えたまま立ち上がり、ドクオは次にミルナの元に向かった。
(; д )「……」
('A`)「……」
('A`)「……気絶したフリか? 俺より上手いな……」
(; д )「……全部バレてると思うと恥ずかしくてな。
それに、本当に動けん。武神連中は化け物だぞ……」
(;'A`)「……ちゃんとtanasinnで治しておけよな」
(; д゚ )「……そこまで上手く扱えん。
お前のが、tanasinnに好かれているらしい」
.
- 932 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:08:58 ID:fZlsqdbg0
('A`)「……なんか顔付きって奴らが来てるんだってさ。
お前はそっちが本命なんだろ?」
( 'A`)「……だったら全力、出せねぇとな……」
ドクオはそう言い、しゃがんでミルナの手を握り締めた。
途端その手に淡い光がともる。光は徐々にミルナの方に移っていった。
それは、ミルナがドクオに能力を分け与えた時と同じ現象だった。
(; д゚ )「……能力無しでどうするつもりだ。
そいつと決着つけたいんだろ」
('A`)「……もういいんだ。なんか、腹ァ括ったよ。
俺はどうやったって無能なんだ。今更だけどさ」
('A`)「……それに薄々感じてたんだ。
どれだけ強くても、この先どれだけ俺が強くなっても、それじゃ多分、こいつを救えない……」
('A`)「……俺はさ、強くなれば助けられると思ってたんだ。でも違った。
俺が求めていたような強さは無意味だった。本当に粗大ゴミだった……」
.
- 933 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:10:24 ID:fZlsqdbg0
(; д- )「……人のチカラを使っておいて、よくもぬけぬけと……」
('A`)「……俺は俺で終わらせてくる。
だから、お前もお前で頑張れよな」
ミルナは痛みに耐えながら、ドクオの目を見て小言を呟いた。
(; д゚ )「結局てめえ、最後の最後まで腹立たしいほど他人事だな……」
('A`)「……俺らの決着は最後だ。右腕の借りも返す。それまで絶対に死ぬな」
(; д゚ )
(; д- )「……もう行け。俺も回復に集中する」
('A`)「……」
('A`)「……またな、撃鉄の」
(; д- )「お前もな、撃鉄のドクオ……」
ドクオは、ミルナのもとを去っていった。
.
- 934 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:12:27 ID:fZlsqdbg0
('A`)「――エクスト、俺はこいつと一緒に人気のないとこに行く。
そこで決着をつけてくる。多分、大きな戦いになるからな……」
<_プ−゚)フ「……」
('A`)「俺はもう、全力でtanasinnに頼ってこいつをどうにかする。
とにかくなんとかしてくる。多分、顔付きとの戦闘に加わった方がいいんだけどな……」
<_プ−゚)フ「……そりゃあそうだな。
お前、最大の敵を前にして自分一人の戦いをしに行くんだぞ」
(;'A`)「……我ながら、とんでもない馬鹿だな」
<_プー゚)フ「言えてるぜ……」
<_プー゚)フ「……なあ、結論を負う覚悟はできたのか?」
('A`)「……ああ。大丈夫だ」
<_プー゚)フ「……ならもう言うことなんかねえ。
これ以上カッコ悪い思いさせんな、行けよ……」
('A`)「……」
('A`)「……あれだ、お前が居なけりゃ、俺は俺じゃなかった。
言いたかねえけどよ、お前は良い兄貴分だったと思うぜ」
<_プー゚)フ
<_フー )フ「……ったく、おっせえよなあ……」
エクストは一瞬顔をそむけてから、ドクオの足に掴みかかって言った。
.
- 935 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:13:08 ID:fZlsqdbg0
<_;プー゚)フ「……だったら片鱗、一個よこせ」
('A`)
(;'A`)「……ハ? いきなり、どうしてそうなった?」
<_;プД゚)フ「両脚ねえんだよ! お前に消し飛ばされて!
片鱗がありゃどうにかできんだろ!? だからよこせ!」
(;'A`)「え、えぇ〜……」
━
はてやみ
('A`)「できる?」
.λ__λ
(刀ヘ)「もう好きにしてくれ」
━
コロン
<_;プー゚)フ「――おっこれか? tanasinnの片鱗ってのは!」
いきなり地面を転がってきた黒い石ころを拾って、エクストは眉を上げた。
(;'A`)「あんま変なこと願うなよ」
<_;プー゚)フ「……顔付き全滅とか?」
(;'A`)「……それが出来たら楽なんだろうなぁ」
<_;プー゚)フ「……だよな。まあ俺もなんとか戦ってくるわ。
完全アウトの悪いパワーに頼ってな」
.
- 936 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:14:04 ID:fZlsqdbg0
ミセ;゚ー゚)リ「――あ、あの」
呼び掛けられて振り返る。
いつの間にか、ドクオの後ろにはミセリがやって来ていた。
('A`)「おお、わりぃけど向こうの爺さん達についてってくれ。
俺はちょっと別の用事が出来てな、しばらく戻れない」
ミセ;゚ー゚)リ「……その人が、素直クールさんですか?」
('A`)「おう、そうだ」
ミセ;゚ー゚)リ「……あの、いきなりこんな事を言うのも、ほんと失礼だと思うんですけど。
でも、その……怒らないで聞いてください……」
ミセ;゚ー゚)リ「……その人より、私のが良い女だと思います……!」
('A`)
( "ゞ)「おっ修羅場か?」 ガバッ
颯爽とデルタが飛び起きた。
.
- 937 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:15:21 ID:fZlsqdbg0
(;'A`)「……まさか、いや、冗談……」
ミセ;゚ー゚)リ「いや、だってそうですよね!?
ぶっちゃけその人、とんでもない地雷クソ女じゃないですか!
しかもその、もう死んでる人だし……」
ミセ;゚ー゚)リ「それに比べたら、私のがよっぽどマシです!」
(;'A`)「……」
ミセ;゚ー゚)リ「……じゃないですか!? ほら、私! 断然プリプリですけど!」
( "ゞ)「いいぞ! 盛り上がってきたな」
ミセ;゚ー゚)リ「助けてもらった手前、ドクオさんには恩返しもしたいですし……。
なんなら結婚しますか!? 絶対幸せにしますよ!」
ドクオは並々ならぬ恐怖を感じ、おずおずと後ずさる。
(;'A`)「……お前、えと、ミセリだっけか。お前はとりあえず、記憶を戻せ。
ありがてえ話だけどさ、それは一度元の人生に戻ってから考え直してくれよ」
(;'A`)「……生きて帰ってこれたら、また答えるよ」
ミセ;゚Д゚)リ「それ死ぬやつじゃないですか! ヤですよ! 婚前の未亡人なんて!」
(;'A`)「だ、大丈夫だって。ほら、記憶戻ったら案外婚約者とか居るかもだし……」
ミセ;゚Д゚)リ「駄目なんです! 囁くんです、ここで男を捕まえておけともう一人の私が!」
<_;プー゚)フ「――ああもう行って来い! ミセリちゃん、落ち着け!」 ガシッ
ミセ;゚Д゚)リ「止めないでください! 人生かかってるんです!」
ミセリの足をエクストが掴み取る。
しかしミセリの方もやたらと必死で、エクストを引きずって尚もドクオを止めようとしていた。
.
- 938 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:16:40 ID:fZlsqdbg0
( "ゞ)「だいぶ懐かれてるみたいだな。よかったじゃねえか」
(;'A`)「……あれ懐いてるって言うんすかね……」
ミセ;゚Д゚)リ「離せー! 私はー! 売れ残らないんだァー!!」ゲシゲシ
<_;プー゚)フ「イッテ! おい、この子の蹴りほんと容赦ねえんだけど!
早く行ってくれよドクオ! 俺がもたねえ!」
(;'∀`)「……へへ……」
気持ち悪い笑顔を見せた後、ドクオはようやく空を見上げた。
今はまだ向かう場所すら決まっていないが、彼女との終わりは、どうしても二人だけで過ごしたかった。
ドクオの中にある結論は、彼女の本性を知った今でも変わってはいない。
ドクオは目を閉じ、意識を深く沈み込ませた。
深層の暗闇の中、寝そべって不貞腐れるテンプターの姿が見えてきた。
('A`)「……テンプター、人気のない所に行きたい。力を貸してくれるか」
.λ__λ
(刀ヘ)「……散々好き勝手やった後に言われてもな」
('A`)「……お前、自分の身体が欲しいんだろ?
あとでお前の身体を用意してやるよ。tanasinnの片鱗で、だけど」
ドクオがそう言うと、テンプターは体を起こし、冷たい目で彼を見つめ返した。
.
- 939 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:18:47 ID:fZlsqdbg0
.λ__λ
(刀ヘ)「……驚いた。あのチンケな能力も、俺の力ももう要らねえってか?」
('A`)「……」
.λ__λ
(刀ヘ)「……これは運命共同体としての助言だ、聞け。
今んところ、お前は素直クールが望んだ通りの行動をしている」
.λ__λ
(刀ヘ)「分かるか? この状況は、お前が作り出された時点で素直クールに計画されていたんだよ。
こっからどう転ぶかは知らねえが、大概まともな結末にはならねえだろう」
.λ__λ
(刀ヘ)「ここはあの女が敷いたレールの上で、お前は今まさに終点に向かっている。
自分の意思でここまで来たと思ってんなら、そりゃあ大間違いなんだぜ」
分かってる。
ドクオは迷いを断つようにそう答えた。
('A`)「……空から降ってきた女を助ける為に四苦八苦。
ガキはこの世界の為に悲劇のヒロインを殺して、英雄サマに成り上がるってか……」
( 'A`)「……こっ恥ずかしいくらい分かりやすい話だぜ。
この筋書きをクーが考えたんだと思うと、尚更こっ恥ずかしい……」
.
- 940 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:19:41 ID:fZlsqdbg0
('A`)「――でもいいんだテンプター。俺はもう答えを見つけたから。
俺はあいつにそれを示す。大したことは何もしない」
.λ__λ
(刀ヘ)「……ま、俺は自分のカラダが手に入るなら何でもいいさ。
お望み通りドバドバ俺の力を使ってくれや。何でもありだぜ、tanasinnは」
('A`)「おう。やりたい放題やらせてもらうぜ」
.
- 941 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:20:44 ID:fZlsqdbg0
――次の瞬間ドクオが目を開けると、失くした筈の右腕に感覚があった。
ドクオは静かに右腕に視線を向ける。
そこには、右腕を形取るように揺らめく黒煙があった。
.λ__λ
(刀ヘ)(取引のオマケだ。tanasinnとは無関係のケムリだが、万能だぜ)
('A`)(……お前ほんと都合良いよな)
.λ__λ
(刀ヘ)(気にすんな。身体を得たら俺は全人類の敵だ。
それに敵は強い方がイイしな! 色々楽しみなんだよ俺も!)
(;'∀`)(……聞かなかった事にするぜ!)
ドクオの意識からテンプターの声が消える。
黒煙はドクオの右腕として完全に癒着しているようで、生身と同じ感覚で動かす事ができた。
ドクオは両腕で改めてしっかり素直クールを抱き、人の居ないどこかへと一歩を踏み出す。
.
- 942 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:21:56 ID:fZlsqdbg0
( "ゞ)
('A`)
すれ違いざま、ドクオはふと立ち止まり、デルタに耳打ちした。
('A`)「戻らなかったら、後の始末を頼みます」
( "ゞ)「…………俺、その女苦手なんだよな」
('A`)
( "ゞ)「……さっさと行って、そんで帰って来い」
答えを聞いて安心したのか、ドクオは微笑み、再び歩き出した。
( "ゞ)「……良かったな、その女にまた会えて」
デルタはそう言ったが、しかし返事は無い。
彼が振り返った時、そこには僅かに黒煙の余波が残っているだけだった。
( "ゞ)「……あーあ……」
( "ゞ)「……今度ばかりは、弟子の為か……」
空の彼方に遠ざかっていく人影。
デルタはあえてそれを目で追わず、壁の向こうから迫り来る敵の方に意識を向けていた。
ボリボリと頭をかき、かったるそうに溜め息を一つ。
その日、デルタ関ヶ原は本気を出すことに決めた。
.
- 943 名前: ◆gFPbblEHlQ :2016/05/29(日) 20:22:57 ID:fZlsqdbg0
ちょっと休憩(^ω^)
- 945 名前: ◆gFPbblEHlQ :2016/05/29(日) 20:45:53 ID:fZlsqdbg0
≪5≫
レムナントの壁を超え、メシウマ側に入る。
昔あれだけ頑張って乗り越えたものがひとっ飛びで済んでしまう事に、ドクオは少しやるせなさを感じてしまった。
ステーション・タワーを目前にして、ドクオは一旦地面に下りた。
('A`)「……」
敵が攻め込んで来ているというのに街の様子がおかしい。
今は各地で戦闘が起こっていて当然なのだが、街は完全に静まり返っていた。
('A`)「…………」
答えを得るのにそう大した時間は掛からなかった。
静かになったという事は、既に戦闘は終わっているという事。
どちらが勝利したかはあえて口にする必要もない。
街に残された気配はたった一人分。
ドクオの目の前に居る、ロングコートの男だけなのだから。
.
- 946 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:46:55 ID:fZlsqdbg0
( `ー´)
('A`)(……そら足止めがあって当然だよな)
自嘲気味に鼻を鳴らし、ドクオは男の視線に応える。
向こうに攻撃の前兆は見られなかったが、しかしタダで通してくれる様子でもない。
とりあえず、ドクオは男に声をかけた。
('A`)「……通っていいか」
( `ー´)「……彼女を置いて行くならば」
ここでの戦いは無意味。今この男はドクオの眼中にない。
逃げるか戦うか……それを考えている内に、男が口火を切って話し始めた。
( `ー´)「私は、君の遠い親戚のような物だ。
内藤も、ドクオも、そして私も……」
( `ー´)「……元を辿れば、我々は一人の男に行き着く」
('A`)「……」
.
- 947 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:48:19 ID:fZlsqdbg0
( `ー´)「……私は争いを好まない。できることなら、君とも戦いたくはない。
そこでどうだろうか。私は君と素直クールが平穏に暮らせる空間を持ち合わせている。
絶対なる安心を、君達二人に提供させてほしい」
('A`)「……その対価は」
( `ー´)「……私の目的は世界平和、そして人類とtanasinnの決別。
君にはそれを手伝えるだけの強さと意思がある。願わくは、ぜひ」
.
( `ー´)「だが別に手伝ってくれなくても構わない。私は君との戦いを回避できれば十分だ。
選択は自由だ。答えは、行動をもって示してほしい」
('A`)「……そうだな……」
('A`)「……申し出はありがたいんだけど、今は構っていられない。
どうしても先に済ませたい事があるんだ。そこを、通してくれ」
('A`)「俺は今、お前の存在が死ぬほどどうでもいい」
ドクオは素直クールを強く抱きしめ、絶対に離さないと男に示した。
しかし真正面から戦うつもりもない。ドクオは両脚にも黒煙を纏い、脚力を人外の域に引き上げた。
逃げるだけならこれで十分――敵が、よほど強くなければ。
.
- 948 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:53:22 ID:fZlsqdbg0
( `ー´)「……残念だ」
男の片手が静かにドクオの方を向いた。攻撃が来る。
ドクオが飛び出したのはその瞬間。渾身の力が地面を砕き、ドクオは遥か上空に飛躍する。
ドクオはビルの壁面に着地し、両脚の黒煙を壁に打ち込んだ。
体勢を安定させて男の方を見直す。しかしそこに男の姿は無かった。
「殺しはしない」
声は真上から。
身を捩って振り返ると、男は当然のように壁に直立してドクオを眺めていた。
(;'A`)(……なんだ、こいつ)
ドクオは、明らかな変容を遂げた男の姿に息を呑んだ。
ロングコートから僅かに見えていた彼の素肌、手先や首筋の辺りは青白く変色し、ほのかな光を発している。
先程まであった男の顔面も消失し、今そこには鼻や口に相当する凹凸があるだけ。
何より不気味だったのは彼の瞳。そこに嵌っているのは無機質な真っ白の眼球でしかない。
しかしその瞳はハッキリとドクオを捉えていた。
見透かされているような、そんな焦燥感がドクオの胸に湧き上がる。
……ドクオはやむなく素直クールを手放した。
黒煙で彼女の全身をくるみ、遠くの方に運んで寝かせておく。
黒煙があるので防御は大丈夫だろうが、恐らく戦闘の余波でぶっ飛んだり色々大変な事になるのは間違いない。
しかしそうも言っていられないと、ドクオは確信したのだ。
('A`)「……ちょっと待っててくれ、道を開けてくる」
穏やかに彼女に告げてから、ドクオは男の目を睨み返した。
.
- 949 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:55:45 ID:fZlsqdbg0
「私達はまだ手を取り合える。いつでも答えを変えてくれていい」
「それまで私はあらゆる手段を講じ、君の心変わりを誘発しよう」
男はドクオに手を差し出した。
攻撃の為ではなく、新たな仲間を迎え入れる為に。
(#'A`)「……何をされようが答えは同じだ」
「……ならば、今一度問い掛けてみるとしよう」
「私の仲間になれ」
(# A )「――ノウ!」
「絶対なる安心を約束しよう」
(# A゚)「――絶対にノウ!!」
叫ぶと同時に足元の黒煙を解き放つ。
支えを失った体が、重力を浴びて地面に落下する――――
.
- 950 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:58:01 ID:fZlsqdbg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Waiting for the End of Ground
https://www.youtube.com/watch?v=9z-GpF_qVc8
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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- 951 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 20:58:43 ID:fZlsqdbg0
(# A )(やっぱもう少しだけ借りるぞ!)
落下の最中、黒煙がドクオの両腕に巻きつきマグナムブロウの形骸を作り出した。
腕に装甲、背には撃鉄。撃ち放たれるは絶対無敵――撃動の拳。
(# A゚)「――撃動のォッ!」
落ちながら体を翻し、落下の勢いも足した一撃を地面に向けて叩きつける。
地面は大きく陥没してようやく衝撃を受け止めきり、衝撃の一部をドクオに跳ね返した。
その反動に身を任せてもう一度空へ。
待ち構える男に向かって、ドクオは腕を振りかぶる。
(# A゚)「だァァァァァァァァァァァッッッッ!!!!」
「……ミルナの真似事か」
男が再び片手を差し向ける。
するとそこに無数の正六角形で出来たシールドが展開された。
男はそれだけやって手をおろし、ドクオの攻撃をしばし眺めることにした。
(# A゚)「撃殺の――ッッ!!」
シールドに直撃する寸前、二つ目の撃鉄を躊躇なく落とす。
敵対は直後。ドクオの赤熱した拳とシールドが直撃し、絶大な二つのパワーが周囲を打ち震わせる。
烈風が吹き荒れ、ビルのガラスが軒並み炸裂して粉々に散っていく。
バチバチと張り裂けるような衝撃と閃光が、メシウマの街でひときわ輝いて天空を劈いた。
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- 952 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:01:13 ID:fZlsqdbg0
「……二つ目の撃鉄、制御不能だった筈だが」
(# A゚)「使えねえから捨てた!」
(# A゚)「どうせ借り物の力! やりたい放題やるだけだァッ!!」
三つ目の撃鉄が高鳴る。
ドクオは拳を引き、更なる力を込めた一撃でシールドを殴りつけた。
(# A )「乱撃のオオオオッッ!!」
轟音を立ててシールドに激動が迸る。
その一撃に込められた威力は撃動の千発分。
一撃である筈の攻撃によって無数に鳴り響く打撃音。
それでもシールドはびくともしなかったが、男はシールドと共に少しずつ押し返されていた。
(# A )「乱撃のッ……」
ガチャ、と全ての撃鉄を起こし直す。
途端それを一斉に撃ち鳴らし、ドクオは三回連続で乱撃の拳をシールドに叩きつけた。
(# A゚)「乱撃のォォォォォォォ!!」
撃動三千発分の威力は最早シールド一枚に収まりきるものではない。
男が立っているビルはおろか、二人の周囲にある全ての物が崩壊し始めていた。
攻防の余波が塵芥を吹き飛ばす。車も建物も何もかも、今は彼らの戦いの邪魔でしかなかった。
.
- 953 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:02:27 ID:fZlsqdbg0
「埒が明かないな」
男がシールドを残して背を向ける。
次の攻撃準備であろうその一瞬を、ドクオは決して見逃してはいなかった。
撃鉄を起こし、落とす。
次の瞬間、ドクオは男の眼前に回りこんでいた。
今度のは最強ではなく、最速を込めた拳――
(# A゚)「――撃針の、」
(# A゚)「――――――――」
男は、自分の目の前でピタリと停止したドクオに憐憫の眼差しを向けていた。
「……やはりまだ、ここまでは届かないか」
ドクオには術がなかった。
時間を止められた、ということを自覚する能力がなかった。
男はドクオの頭を鷲掴みにし、時間の停止を解除した。
.
- 954 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:04:45 ID:fZlsqdbg0
(# A゚)「――――」
(; A゚)「――――なッ」
ドクオの頭を掴んだ男の手中で強大なパワーが爆発する。
それは単なるサイコキネシスでしかなかったが、彼が扱うそれは規模が違った。
いつの間にか音もなく、ドクオは男の手から離れていた。
ドクオは既に吹き飛ばされており、いくつもの建物をぶち抜いてレムナントの壁にその身を打ち付けていた。
(# A゚)「……そこをォ……どきやがれ……!」
だが、それでもドクオの目はしかと男の瞳を睨んでいた。
戦意は衰えない、意思は揺らがない――ドクオはなお、無意味な力を望み続ける。
.λ__λ
(刀ヘ)「もっとやるか?」
脳内で即答――その一瞬後、血肉を蝕む感覚が全身に広がり始めた。
ドクオの意思が現実に直結する。
彼が望むすべての力が今、望んだまま形で現実に具現し始める――
.
- 955 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:05:28 ID:fZlsqdbg0
.
- 956 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:07:18 ID:fZlsqdbg0
≪6≫
(# A )「……」
ドクオの背で二つの塊が羽ばたいた。
それは、翼というにはあまりにも異形すぎた。
ドクオの背から広がる一対の黒い、悪魔染みた鋭い翼。
それを作り上げている羽根は無数の小さな撃鉄。
起こされたままの撃鉄は、まるで羽根が逆立っているような錯覚を男に覚えさせる。
それは、正に撃鉄の鉄塊だった。
(# A )「道を開けろ……そこを、どけ……」
うわ言のようにそう呟く。
頭から流れ滴る血液が、ドクオの顔をべっとりと濡らしていた。
(# A゚)「……邪魔だ、お前……!」
.
- 957 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:08:47 ID:fZlsqdbg0
(# A )「……寂滅の……」
下におりたドクオはそのまま両手足を地につけ、獣のように平たく身構えた。
次いで撃鉄の両翼が大きく持ち上がる。
瞬間、翼は一部の撃鉄を落とすと同時に勢いよく地を叩いた。
向かう先はひとつ。
ドクオはただ前を向き、道を阻む邪魔者に立ち向かう。
「……取り返しのつかない域に手を出したな」
「tanasinn。やはり人類には必要の無い力だ……」
男が手をかざして時を止める。しかし今のドクオはその程度では止められなかった。
諦めて物理的な迎撃に移行――男の“左腕”が白い炎に包まれていく。
(; A )「――ごぷッ」
……男に向かっていく途中、ドクオの中で臓物が弾けた。
体のどこかがプチプチと音を立てている。
細胞のひとつひとつが、細かく丁寧に潰されているような感覚――
(# ∀ )「……おい、反動デカすぎるだろ」
.λ__λ
(刀ヘ)「片鱗に反動なんかねえよ。ただしお前はtanasinnで作られてるから特別。
力を使えば使うだけ、お前はtanasinnと同じ存在になっていく」
.
- 958 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:09:47 ID:fZlsqdbg0
.λ__λ
(刀ヘ)「元が同じなんだから融合するのは自然だろ?
ま、お前自体の寿命だと思いな」
(#'A`)「……」
(#'A`)「……俺はあと三日も保てばそれでいい。そこまで頼む」
死を宣告されて出てきた言葉は、それ以上に自分自身の死を早めるような頼みだった。
テンプターはまたも驚かされて言葉を失い、遂には大きな笑い声をあげた。
λ__λ
つ∀)「――クハッ! ハハハハハ!! お前、さてはバカだな!?」
.λ__λ
(刀ヘ)「いいぜやりたいようにやって来いよ! 理外の力で私欲を満たせ!
ただし超特急の片道切符だ! 思う存分、死に物狂え――!!」
.
- 959 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:11:46 ID:fZlsqdbg0
頭の中からテンプターのイメージが霧散する。
導火線に点いた火はもう消えない。あるのはただ、絶対的な死のイメージ。
(# A゚)「―――――――」
ドクオはそれを塗り替えるように敵を見据えた。
撃鉄の翼から音が鳴り始める。次の一撃の威力などもう知った事ではない。
撃鉄はただ落とされる為にある。それが無数であるのなら、ただ無数に撃鉄を落とすだけ。
撃鉄は絶えず鳴り続ける。その為にある。
ドクオは、自分の全身に黒い何かが広がっていくのを感じていた。
両腕も、両脚も、肉体のあらゆる場所にtanasinnがあった。
tanasinnの目が手にあるお腹にある。tanasinnの鼓動がすぐ近くに聞こえる。
どこがtanasinnかは問題ではなかった。道は開かれている。
(; A゚)(ああ、うるっせえなあ――……)
やがてドクオと男が二度目の交戦を始めようとした、その寸前。
二人の間に割り込むように、突然、巨大隕石が彼らの頭上に出現した。
(;゚A゚)「……えっ?」
「……不意打ちにしては、派手なのを選んだな」
男は隕石を睨み、小さく呟いた。彼はドクオよりも先に気付いていたのだ。
我々をどこかから観察し、そして隙あらば仕留めようと隠れていたその気配に――――
.
- 960 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:12:57 ID:fZlsqdbg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
After,in the Dark〜Torch Song
https://www.youtube.com/watch?v=hw3aAXOt9L0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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- 961 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:14:22 ID:fZlsqdbg0
「おいおい顔付き、そう不貞腐れるな。狼煙としては上等だろうに」
(; A゚)
第三者の声に気付いたドクオは巨大隕石から目を離した。
いやそう簡単に目を離せるものでもなかったが、ドクオはかすかにその声を覚えていたのだ。
振り返り、遠くの空に目を凝らす。
そこに居たのは、白タキシードと中折れ帽の男であった。
¥・∀・¥「――そこのガキ、こいつの足止めは私が買った」
(;'A`)「……お前、荒巻と一緒に居たやつ……」
¥・∀・¥「先をゆけ。あいつが待ちくたびれているぞ」 パチン
マニーが指を打ち鳴らす。
瞬間ドクオとマニーの位置が入れ替わり、ドクオは顔付きの男から大きく離れる事ができた。
.
- 963 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:15:55 ID:fZlsqdbg0
(;'A`)「お前、お前ッ……!」
¥# ・∀・¥「――見知った間柄ではないだろう! とっとと失せろ!」
怒号の後、ドクオのもとに黒い影が飛んできた。
「時間が惜しい、行くぞ!」
(;'A`)「――あ、お前も知ってるッ」
黒い影に見えたそれは、全身を黒いローブに覆われた背高の男だった。
わずかに覗けた男の顔には、火傷と無数の切り傷がある。
(;'A`)「いやッ、お前……あの、ほら! あの時の!」
「話は後だ! 口を閉じていろ!」
黒ローブはドクオに素直クールを抱かせ、ドクオの首根っこを掴んで遠くの空に飛んでいった。
マニーはそれを見届けてから、顔付きの男に見えるよう、わざと大きく醜悪に笑って見せた。
.
- 964 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:17:30 ID:fZlsqdbg0
¥-∀-¥「ふふ、くはは……」
¥ ∀ ¥「アーッハッハッハ! さァてどうする顔付き!
本命を逃がしてしまったなァ!!」
マニーの高笑いに、しかし顔付きの男は反応を示さない。
憐れむような無表情が、単にマニーの姿を見ていた。
「……君も一度は私の考えに賛同してくれた。
我々が争う理由はなくせるはずだ」
¥・∀・¥「あの夜を手伝ったのは荒巻と戦うため。
貴様は我が宿命を叶える為の踏み台でしかない」
マニーの周囲に、彼の能力の象徴であるキャッシュカードが展開される。
今現在メシウマの街はほぼ無人。街にある金も、今は誰のものでもない。
よって今、この街にある全ての金はマニーの所有物だった。
まるごと街一つ分の資金は、彼の能力から限界の二文字を取り払っている。
¥・∀・¥「……で、貴様はこのままだと荒巻と戦うことになるな」
「……彼が戦うと言うなら、そうなる」
¥・∀・¥「で、おそらく荒巻が負ける」
¥・∀・¥
¥´・∀・¥「それは気に入らない」
マニーは両手を上げてふんぞり返り、溜め息混じりにそう言った。
.
- 965 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:19:23 ID:fZlsqdbg0
¥・∀・¥「なのでまあ、これは足止めというよりは露払いだな」
¥・∀・¥「これから貴様を倒して荒巻に勝負を挑めば、私はこの街の有り金を全部使える」
¥・∀・¥「さすればいよいよ長きに渡る因縁にも決着がつくというものだ。
改めて宣言するが、貴様はその為の踏み台でしかない」
「……人間の性は、なぜこうも争いを求める……」
彼の言葉を聞き、顔付きの男は顔をそむけてそう言った。
人間味を喪失した青白い体と表情に、僅かな葛藤の色が浮かび上がる。
しかしマニーは一言で返した。
¥・∀・¥「分からんか? 貴様が私の敵だからだ」
結論はただそれだけ。
しかし顔付きの男自身も、戦いというものが結局その程度のものでしかないと納得していた。
「……それでも、私は私の役目を果たそう」
¥・∀・¥
最早、語る言葉すら無い。
巨大隕石を頭上に二人は身を構え、瞬間、その戦いは幕を開けた――――
.
- 966 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:20:43 ID:fZlsqdbg0
≪7≫
黒ローブの男が足を止めたのは、メシウマやレムナントから遠く離れたどこかの森。
その入口の草原に腰を下ろし、ドクオは掻き消えそうな呼吸を少しずつ整えていった。
涼しい風が草原と森の草木を優しく揺らしている。
さっきまでの戦いが嘘のように、この場所は平穏と静寂の中にあった。
「……」
黒ローブは風を浴びながら空を見上げていた。もうじき、夜が来る。
夕陽も大半が沈んでおり、大空は夜の暗闇と夕陽の輝きに二分されていた。
(; A )「……ぐッ……!」
「……大丈夫か」
ドクオの呻き声で我に返り、黒ローブは彼に歩み寄った。
状態を見るに、ドクオの体は既にその大半がtanasinnと同化してしまっていた。
腕の装甲、背中の両翼も、もう自分の意思では取り除けなくなっているはずだ。
この先に待っているのはtanasinnとの同化と、自我の消失。
「……随分無茶をしたな」
(; A`)「……ここまで来れた……上等だ……」
.
- 967 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:23:18 ID:fZlsqdbg0
「……お前、そんなにこの女が大事か」
(; A )「ぐっ!! あ゙、……ハアッ……」
(; A゚)「……見て分かんだろ……俺の全部だ……!」
ドクオは草原に膝をつき、そのまま草の上に倒れこんだ。
意識は明確だったが、肉体が彼の言う事を聞いていなかった。
「…………」
黒ローブは目をそらし、口を閉ざした。
彼の沈黙は、暗闇が夕暮れを飲み込むまで続いた。
その間、彼は素直クールのことをずっと見つめていた。
見つめ、なにか言葉を掛けようとして、それを飲み込む。
彼はやがて素直クールを視界から外し、ドクオに向けて話し始めた。
.
- 968 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:24:54 ID:fZlsqdbg0
「……俺は街に戻る。お前達の場所を守っておくよ」
(; ∀`)「ンだよ……怪我人見捨ててくのか……?」
黒ローブはドクオの苦笑いを見ると、つられて自分も笑みを浮かべた。
この期に及んでこれを冗談と理解できるのは、きっと彼だけだろう。
「それはお前が負ったものだ。俺が手を触れていいものではない」
(; A`)「……」
「…………礼を言う。お前でよかった」
黒ローブはもう一度空を見上げた。
俺にはまだやる事がある。ローブの下に見えた瞳は、確かにそう物語っている。
(; A`)「……おい、お前……」
ドクオは彼を止めようとしたが、やはり体は言うことを聞かない。
それに例え力尽くで止めたとしても、彼は絶対にその足を止めないだろう。
根拠はないが、ドクオはそう思った。
「――素直クールを頼んだぞ」
「俺には出せなかった結論が、お前にはあるんだろう」
.
- 969 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:25:58 ID:fZlsqdbg0
それは、自分によく似た別の誰かでしかなかった。
しかしドクオは――撃鉄のドクオは、
彼が、生まれたて夜空に消えていくのを見届けずにはいられなかった。
結論を背負った者としてなお生きる彼の姿は、はっきりと、ドクオの目に焼き付いていた――――
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- 970 名前:名も無きAAのようです :2016/05/29(日) 21:30:09 ID:fZlsqdbg0
(; A`)「……」
川 - )
(; A`)「……あーあ、二人っきりだ」
ドクオは衰弱していく体に力を込め、もう一度立ち上がった。
おびただしく伸びた撃鉄の両翼を引きずりながら、素直クールのそばに行く。
(; A`)「俺らも最後だ。止まるのは、それが終わってからだぜ……」
傷だらけの腕で彼女を抱きかかえる。
ドクオは自身の体を引きずりながら、少しずつ、彼女と一緒に森の奥に消えていった。
.
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