783 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:00:32 ID:xt9MKsH20

≪1≫


 ――ステーション・タワー内、社員食堂。


(`・ω・´)「なんにする」

ξ゚听)ξ「あー……」

(`・ω・´)「……」


ξ゚听)ξ「……あー……」

(;`-ω-´)「……決めてから来い」

 カウンターに用意されたメニューをアホ面で眺めているツン。
 注文を聞くため身構えているシャキンは、彼女に悟られないよう溜め息を吐いた。

ξ゚听)ξ「……よし」

(`・ω・´)「決まったか」

ξ゚听)ξ「餃子とラーメン唐揚げ。あと水」

(`・ω・´)「……水は自分で取って来い。あと今は昼だが?」

ξ゚听)ξ「……それが?」

(`・ω・´)



 シャキンは一瞬の間を置いた後、

(`・ω・´)「オッケー分かった死ぬほど盛ってやる。3番呼んだら来い」

 と言い残して厨房に入った。

.

784 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:02:37 ID:xt9MKsH20


 昼間の社員食堂はそこそこの繁盛振りを見せていた。
 席も殆どが埋まっており、全方位から無意味な雑談が聞こえてくる。

ξ゚听)ξ「……」

 そんな混雑の中、ツンは三席用意されたテーブルに一人で座っていた。
 誰かの為に席を確保している訳でもないが、彼女の辛辣な雰囲気が人気を払っていた。
 つまりぼっちだった。

  _
( ゚∀゚)「お〜居た居た」

 その時、ぼっち飯敢行直前だったツンの前に、太眉の男・ジョルジュ長岡が現れた。
 彼はさっさと椅子にかけ、持ってきた日替わり定食に向かって手を合わせた。
  _
( -∀-)「いただきます」

ξ゚听)ξ「……他所で食べなさいよ」
  _
( ゚∀゚)「いいだろ別に。お前んとこ、いっつも空いてるんだしさ」

.

785 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:03:18 ID:xt9MKsH20
  _
( ゚∀゚)「それよりツン、昼飯は何にしたんだよ」

ξ゚听)ξ「餃子とラーメンと唐揚げ。一口もあげないわよ」
  _
(; ゚∀゚)「……俺が言う事じゃねえけどさ、お前健康とか考えたらどうだ?」

ξ゚听)ξ「食べたい物を食べる主義よ。太った所で高が知れてるし」
  _
(; ゚∀゚)「あーそう。お嬢様は言う事がちげーな。
     普通、太るのは嫌がるもんだぜ」

ξ゚听)ξ「私は太る前に運動するから大丈夫なの。
      太ってから痩せようとするのがそもそも手遅れなのよ」
  _
( ゚∀゚)「まぁ分からんでもない。だがこの話は打ち切りだ。
     耳に激痛走ってる女子が周囲に居るのが分かる。自粛だ」

ξ--)ξ「話題に乗っただけよ。知ったこっちゃないっての」

 ツンはテーブルに肘をつき、壁際にずらっと立ち並ぶ店舗を右から左へと一望していった。
 フードコートめいたこの食堂は時折店が入れ替わる。
 こうして店の様子を見直すと、新たな発見があったりするのである。

.

786 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:04:01 ID:xt9MKsH20


ξ゚听)ξ「……あれ。アイスの店、消えてない……?」
  _
( ゚∀゚)「あの店か? こないだ撤退したぜ。
     今はカキ氷屋が入ってる。けっこう美味いぞ」

ξ;゚听)ξ「……要望書を書かなきゃ……」
  _
( ゚∀゚)「お前の要望の為に消えた店がいくつあると思ってんだ。
     今年はカキ氷の年なんだよ。諦めろ」

ξ;゚听)ξ「カキ氷じゃチョコとオレンジのダブルが出来ない……」


『シャキン食堂、番号札3番のお客様ー。出来たぞー』

 半端な呼び出しが食堂に響く。
 ツンは立ち上がり、シャキンが作った料理のもとへと早歩きで向かった。

(`・ω・´)「おう。たっぷり盛ってやったぞ。こぼすなよ」

ξ゚听)ξ「……ありがとう。出来れば席まで持ってきてほしいけど」

(`・ω・´)「俺の仕事は作るとこまでだ」

ξ゚听)ξ「頑固な料理人って感じ。お似合い」

(`・ω・´)「味以外を褒められてもな。ほら、冷めない内に食ってこい」

ξ゚听)ξ「ええ、それじゃ」

.

787 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:04:41 ID:xt9MKsH20



  _
(; ゚∀゚)「……うっわ」

 戻ってきたツンを見るなり、ジョルジュはドン引きして仰け反った。
 彼女が持ってきた餃子ラーメン唐揚げセットの総量は、一般女性一回の食事量を明らかにオーバーしている。

 だが当の本人は平静のまま、悪びれずに箸を構えていた。
  _
(; ゚∀゚)「毎回思ってんだけどさ、それマジで食べんの?」

ξ゚听)ξ「……そんなに多くないと思うけど」
  _
(; ゚∀゚)「いや、量もカロリーもヤバイ。
     正気を疑うぜ。毎回食べきるんだから尚更な」

ξ゚听)ξ「アンタに人を疑う程の知能ないでしょ。もう食べるから黙って」
  _
(; ゚∀゚)「……いただきます」

ξ--)ξ「いただきます」


 ――無言の昼食が始まろう、としたその途端。
 尋常ではない大きさのノイズが食堂スピーカーを響かせ、次いで誰かの荒々しい息遣いが聞こえてきた。

  _
( ゚∀゚)「なんだイタズラかぁ? 後が怖いのによくやるぜ」モグモグ

ξ゚听)ξ「……多分、違う」

 スピーカーの音声を冷静に分析するツン。
 彼女の予想は、次の一言に全肯定された。


.

788 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:05:21 ID:xt9MKsH20




『――――タワー内、全職員に通達する……ッ!』

 それは盛岡デミタスの声。
 瞬間、この放送を聞いている全員が目の色を変えた。


『端的に言う……“敵”が来た! 複数だ! 瞬間移動能力者も確認済!』

『緊急事態宣言を出して適宜対応しろ! 自信がある奴は迎撃に迎え!』

『街の防御はカンパニーが請け負った! 以上、働け!!』

  _
( ゚∀゚)「……ハハッ。なんか映画みたいだなぁ」パクモグ

ξ;゚听)ξ「バカ、マジの出来事よ! 訓練じゃないんだから早く行くわよ!」
  _
( ゚∀゚)
  _
(; ゚∀゚)「えぇぇええ!? 俺まだメシ食い終わってないんだがー!?」


ξ;゚听)ξ「……じゃあいいわよ。先に行ってるから。後で合流したらヨロシク!」

 だらけた昼食ムードは一変。
 弾けるような足音に満たされた食堂は、瞬く間に人気を失っていった。

.

789 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:06:11 ID:xt9MKsH20






  _
( ゚∀゚)






.

790 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:06:53 ID:xt9MKsH20






  _
( ゚∀゚) パクー モグー






.

791 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:07:33 ID:xt9MKsH20


  _
( ゚∀゚)「……あー美味い!! たまらんな!」

 あっという間にぽつんと取り残されたジョルジュ長岡。
 しかしそれでも食は進み続け、

  _
( ゚∀゚)(今ならツンの食べてもバレないんじゃね?)

 という奇跡の発想にまで到達していた。
 したらば即実行。ジョルジュはツンが注文したラーメンをずるりと平らげ、餃子唐揚げコンビにまで箸を伸ばす――




 「――こんなトコに一人ッきり。狙えと言わんばかりだなあ、長岡ァ!!」


 だが、自分に怒声を向けられたとあっては、ジョルジュ長岡はその手を止めざるを得なかった。
 ジョルジュはピタリと箸を止め、目だけで声の方を確認した。

  _
(# ゚∀゚)「……なんだァ? てめェ……」



 「…………アア? おい、俺だぞ…………!?」


  _
(# ゚∀゚)「……知らねェよ。誰だよお前、誰だよ!!」

.

792 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:08:13 ID:xt9MKsH20


(; ゚∀゚ )「――このッ!!」

 男は驚愕のあまりに身を震わせ、言葉の続きを恐る恐る呟く。


(; ゚∀゚ )「この永遠のライバル、アヒャ様を……っ!!」
  _
(# ゚∀゚)「知らねェって言ってんだろ!!」

(;  ∀ )「地下プロレスチャンプだったこの俺様を……ッ!!」
  _
(# ゚∀゚)「だから知らねェってば!!」




(# ゚∀゚ )「――忘れやがったなァァァァァァァ!!」
  _
(# ゚∀゚)「アァァァァアァァァァァァ!?」


 戦闘、よく分からないまま開幕――――!!

.

793 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:09:09 ID:xt9MKsH20
      _
 ≪ ( ゚∀゚) / ジャガーノート ≫ 

【能力者】 ジョルジュ長岡

【タイプ】 近距離/身体強化型


【基礎能力】 

[破壊力:B] [スピード:D] [射程距離:D]

[持続力:C] [成長性:D]

A=かなり凄い B=けっこう凄い C=まぁまぁ良い
D=人並み    E=よわい     F=論外     S=最強


【能力概要】
シンプルな身体強化。とても力持ちになれるので、とてもスゴイ。

794 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:09:53 ID:xt9MKsH20


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 ――ステーション・タワー、最上階。展望フロア。

 既に戦闘を始めていたデミタスは、相手の一挙手一投足を見逃さんと目を凝らしていた。

 戦況はやや有利。攻撃権はデミタスが独占していた。
 しかし、デミタスはいまいち相手を仕留めきれずにいた。
 語るにも及ばない、分かりきった陳腐な理由一つで。



( ^ν^)「……なんだ、やりにくいか?」

(;´・_ゝ・`)「……まあな。よく似た奴を知ってると、どうにも」

( ^ν^)「……なるほど」

 ニューはデミタスを手招き、宣言する。

( ^ν^)「念願叶って敵同士だぜ。来いよ、出来を見てやる」

(;´・_ゝ・`)(……あの頃よりイキイキしてやがるのが、ムカつく……!)


.

795 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:10:52 ID:xt9MKsH20

 ≪ (´・_ゝ・`) / 毒の姫君(ポイズン・メイデン) ≫ 

【能力者】 盛岡デミタス

【タイプ】 中距離/具現化・自立型


【基礎能力】 

[破壊力:C] [スピード:D] [射程距離:C]

[持続力:A] [成長性:D]

A=かなり凄い B=けっこう凄い C=まぁまぁ良い
D=人並み    E=よわい     F=論外     S=最強


【能力概要】
毒の能力。獰猛なスタンド。女体。
デミタスは小さい頃からこの能力を制御出来ておらず、今も出来ていない。

この能力は本体の意思に関わらず、本体の体内で無限に新種の毒を生成し続けている。
しかし新毒の抗体は自動生成されないため、それを放置しているとデミタスは自滅する。
抗体はデミタス自身の『毒に抗う意思』にのみ反応して作成され始める。
よって、能力自体の成長性に本体の意思がついていけなくなった時、本体には確実な死が待っている。
『強くなり続けなければ死ぬ』という非常に危険な能力だが、克服した毒はその後自由に取り扱える。

796 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:11:35 ID:xt9MKsH20


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 あの放送から十分と経たない内に、タワー周辺には理路整然と並んだ武装車両の数々が出揃っていた。
 能力者、無能に関わらず、カンパニーという枠組みの人間は次々とその車両に乗り込んでいく。
 メシウマ住民への避難警報は後回し。まず街中の様子を確認しない事には『上』を動かすことは出来ない。

 街全体に及びかねない戦闘行為、あるいは脅威、あるいは人物。
 それらを一秒でも早く発見する事が、カンパニーにとって第一の仕事だった。


 ツンが乗り込んだ車両には、見知った相手が二人乗っていた。

( ´∀`)

*(‘‘)*

 モナーとヘリカル沢近の二人だった。彼らはツンを見るや、愛想よく手を振って見せた。
 ツンは一瞥でそれに答えると、すぐさま運転席の男に出発の合図を出した。
 運転手は車のあれやこれやガチャガチャし、別部隊を置いて街中を走り始める。

「ったく、部隊長は俺だっての……」

 部隊長の小言を聞き流し、ツンは振り返って部隊メンバーを見直した。
 先の二人以外には超能力保有者が三人。後方支援役の無能力者が一人。
 ツンと部隊長を含めた八人が、この部隊の編成であった。

.

797 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:12:16 ID:xt9MKsH20


ξ゚听)ξ「誰か、状況分かる人居る?」

 誰でもいいから答えて、と付け加えて全員の顔色を窺うツン。
 案の定、彼女の問い掛けに答えられる者は一人も居ない。

*(‘‘)*「デミタスさんが展望フロアで戦闘中なのは確認されてます。
     敵は複数との事ですが、他の戦闘は今のところ確認されていません」

ξ゚听)ξ「特課の流石兄者はズバ抜けた感知能力者でしょ?
      そっちの情報はないわけ?」

( ´∀`)「残念。兄者はさっきの放送の少し前、一人で飛び出していったモナ。
      連絡はつかず。今は別の感知能力者が事に当たっているモナ」

ξ゚听)ξ「そう。期待してたけど居ないなら算段から外すわ。
       となれば、やっぱり大名行列を作って探すしかないか……」

 ツンは腕を組み、深慮するためようやく座席に腰掛けた。


ξ゚听)ξ(敵は先日荒巻が話していた『もう一人』の集団に違いない。その目的はミルナ。
      そしてミルナは壁の向こう。
      私達の警戒網を突破しない限り、敵は目的を果たせない――いや、違う?)


ξ--)ξ(敵には瞬間移動の能力者が居る。ならわざわざこの街に一度降りる必要はなかった。
       壁の向こうにはない目的が、この街にある?)

.

798 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:12:56 ID:xt9MKsH20

ξ゚听)ξ「……ヘリカルちゃん。
      街の重要施設、言えるだけ全部言ってくれる?」

*(‘‘)*「え、既に別の部隊が向かっていると思いますけど……」

ξ゚听)ξ「個人的に優先順位を決めたいの。お願い」

*(‘‘)*「……分かりました。では、ステーション・タワー」

 違う。

*(‘‘)*「メシウマ議事堂。あとその近くの記念公園」

 違う。

*(‘‘)*「国立図書館。一部の秘匿文書が保管されてます」

 ……引っ掛かるが、違う。

*(‘‘)*「庁舎、特課の研究施設。刑務所や、総合病院……」

*(‘‘)*「お金を狙うなら大手銀行だし……今狙われそうな重要施設ってまだありましたっけ?」

( ´∀`)「……多分そこら辺は全部狙われてないモナ。
      狙われてたら先に施設の警報が作動してるし、もう手遅れモナ」

*(‘‘)*「じゃあ敵の狙いって何なんでしょう? 陽動は、まあ目的の一部でしょうけど……」


.

799 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:13:36 ID:xt9MKsH20


ξ゚听)ξ「……とりあえず街の見回りね。
      一般人には適当に殺人犯ガーとか言っておきましょう」

*(;‘‘)*「それはそれで問題あるかと……」

「――通信だ! 音上げるぞ!」

 途端、部隊長が声を張り上げた。
 彼の一喝に閉口した面々は、その通信に耳を傾ける。


『現在タワー内にてデミタスさん、ジョルジュさんが交戦中!』

『ほか数箇所にて敵性勢力を確認! 各隊、一般人の避難・護衛を優先との命令!』

『敵はほぼ全員、戦略級以上の超能力を保持! よって“特記超能力保持者”の戦闘が予想されます!』

『その他能力保持者は戦闘の二次被害を想定し、対応できる範囲で被害を食い止めて下さい!』

.

800 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:14:38 ID:xt9MKsH20


*(;‘‘)*「……せ、戦略級って、核兵器に使う言葉じゃ……」

 その通信を聞いたヘリカルが、恐れ戦くように小さく呟いた。

ξ゚听)ξ「……私も実際聞いたのは初めてかも。
      なんにせよ、これで状況は前進したわ」

ξ゚ー゚)ξ「私達は、死なない程度に頑張りましょう」

 さっきのお返しか、ツンはヘリカルに笑顔を送る。
 もっともその内心は既に臨戦態勢。この笑顔は、最後の余裕で作った紛い物だった。

( ´∀`)「……」

ξ゚听)ξ(……『特記超能力保持者』 なんて、わざわざ長い方で呼ばなくてもいいじゃない)

ξ゚听)ξ(荒巻さん、デミタスさん、モナーさん、1さん。
       この四人で対処できなくても、今は武神までこの街に居る)

ξ゚听)ξ(磐石と言えば磐石だけど、でもまだ引っ掛かる。
       敵の狙いが読みきれない内は、敵の思惑に乗っておくべき?)

ξ゚听)ξ(回復役の私に出来ることは一つ。展開を読んで適切なタイミングで回復を行うことだけ。
       早々にリタイアする訳にはいかないし、モナーさんについていくのは早計かしら……)

.

801 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:15:40 ID:xt9MKsH20



( ´∀`)「……部隊長、一番強いであろう敵の所に向かって欲しいモナ」

 モナーの優しい声が、冷ややかに激戦を要求する。
 彼はさっさと最大戦力を倒し、この局面を片付けるつもりでいた。

 部隊長はモナーの頼みを聞き入れ、すぐさま司令室から敵の居場所を聞き出す。

「このまま真っ直ぐだ! 敵は二人!
 ガキらしいが、先行した連中はもう潰されてるってよ!」


( ´∀`)「……だったら、まずは『三人』で様子を見るモナ……」

 モナーはカンパニー制服の襟に手を入れ、そこに仕込まれたスイッチをカチンと押し込んだ。
 すると制服は仄かな光を発し始め、その光は微塵も残さずモナーの超能力として再構成されていった。


*(;‘‘)*「……モナーさん……」

( ´∀`)「大丈夫、僕の【挑戦者(チャレンジャー)】は負けないモナ」


.

802 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:16:33 ID:xt9MKsH20

 ≪ ( ´∀`) / 挑戦者(チャレンジャー) ≫

【能力者】 モナー

【タイプ】 中距離/具現・自立郡体型


【基本能力】 

[破壊力:D〜S] [スピード:E〜S] [射程距離:C〜S]

[持続力:E〜S] [成長性:S]

A=かなり凄い B=けっこう凄い C=まぁまぁ良い 
D=人並み    E=よわい     F=論外     S=最強レベル

【能力概要】
小人戦士(全長15センチくらい)を具現化する能力。最大10人まで具現化可能。発動・具現化の対価は『記憶』
個々が自立して思考しており、戦闘は具現化した彼らが勝手に行う。モナーがやるのは具現化だけ。
一人二人が倒されたところで本体にダメージはないが、倒された場合は対価とした『記憶』を失う。

挑戦者達は学習能力が非常に高く、戦い続けることで理論上無限に強くなっていく。
しかも全員がモナーを介して戦闘経験を並列化しているので、一人を倒しても更に強くなった他の挑戦者を倒さなければならない。


攻略法その1。対価の『記憶』が限界を迎えるのを待つこと。
挑戦者達を倒し続け、人間として必要な『記憶』まで対価にせざるをえない状況にモナーを追い詰める。
もっとも、『戦闘経験』という『記憶』が発動中にも積み重ねられているため、『戦闘経験』を対価にしている間は絶対に倒せない。
しかも『戦闘経験』を失ったところでその経験は並列化によって補完されるため、実質対価ナシ

攻略法その2。モナーを含めた全員を一撃で倒しきる。
これが一番手っ取り早いだがそうそうできない。荒巻はこの方法で倒した。

攻略法その3。落とし穴などの戦闘を回避するトラップ
具現化されたチャレンジャーをその都度なにかに閉じ込める。これで10人を捕まえきれば勝てる。
チャレンジャーは挑戦者自体がダメージで再起不能になるか、能力者自身が敗北を認めない限り消えない。
(一度敗北を認めてから再度能力を発動するのは常套手段)

など(予防線)

格下〜同格の相手には圧倒的に勝てるが、圧倒的に自分より強い相手には歯が立たない(初期状態の挑戦者全員を一撃で倒すような相手)
だが、ずっと能力を具現化したまま経験値をため続ければ自分より強い相手にも互角はとれるのでほぼ最強。
一度発動を止めると経験値はリセット。挑戦者達は記憶を失い、初期状態に戻る。
なおデミタスと組むと無限に強くなれる。

803 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:17:13 ID:xt9MKsH20


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 メシウマ郊外にどんと構えた三棟からなる巨大な研究施設。
 それが世間一般に知られる“総合技術研究所”の本部なのだが、その中身が一般に公開された事は一度もない。

 実は能力者が中に一人居て、そいつが施設全体をたった一人で防衛してる。
 最深部には、世界を震撼させるほどの研究資料が眠ってる。

 そうした枝葉をつけた噂は多々あるが、そもそも施設丸ごと囮という答えにまで世間は気付かない。
 総技研の真の本部は、都市部のビル群に平然と紛れこんでいるのだ。



 ……ならば、ここまで巨大に作られた囮の施設は何の為にあるのか。
 囮として作るには余りにも規模が大きすぎる。ただの箱に、荒巻はここまでの手間をかけるだろうか。


( ´_ゝ`)(恐らく、逆だ)

 流石兄者は前々からそうした疑問を抱え、同時にこの施設に対する推測も立てていた。
 表向き――つまり関係者の中では、こっちの巨大施設の方が囮で、総技研の方が本命とされていた。
 しかし荒巻にとっては逆だったのだ。総技研が囮で、こっちが本命。

 もし荒巻という男に関係者にすら隠さねばならない秘密があったなら、
 その隠し場所はここ以外に候補がない――この推測が正しければ、敵は確実にここを狙いに来る。
 街の陽動が良い証拠だ。流石兄者は確信し、既に巨大施設の中に足を踏み入れていた。


.

804 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:17:53 ID:xt9MKsH20

( ´_ゝ`)(……居るんだろ)

 通路に足音が響く。
 研究施設らしい潔癖な雰囲気はあるものの、この空間に人の気配は皆無。
 ここに何があるのかは知らない。敵の目的すら分からない。

 だが、流石兄者はどうしてもここに来なければならなかった。
 彼の超能力 【リスキーシフト】 があの男を捉えた瞬間、彼は特課としての自分を放棄して動き出していた。

 通路の天井の隅。そこからジィとこちらを見つめているのは、小さな監視カメラだった。
 流石兄者はそれに気付くと、カメラに銃口を向けて呟く。

( ´_ゝ`)「決着をつけに来たぜ、兄弟」

805 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:18:40 ID:xt9MKsH20



 一瞬の火花。それを最後に、監視カメラの映像は砂嵐にまみれた。
 モニター越しに流石兄者の姿を覗き見ていた男は、椅子にもたれて深く呼吸する。


(´<_` )「……さて」

 やがて男は拳銃を持ってその部屋を後にした。
 憎悪に染まった血の繋がりを、己が手で断ち切る為に。

.

806 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:19:21 ID:xt9MKsH20

 ≪ ( ´_ゝ`) / リスキーシフト ≫

【本体名】 流石兄者

【タイプ】 近〜遠距離 / 具現化型


【基本能力】

[破壊力:−] [スピード:−] [射程距離:E〜S]

[持続力:A] [精密動作性:S〜E] [成長性:E]

A=かなり凄い B=けっこう凄い C=まぁまぁ良い
D=人並み    E=よわい     F=論外     S=最強

【能力】
発動するとシャボン玉のような球体が出現する。
それがリスキーシフトの本体であり、能力の全て。

この球体はある程度まで拡大する事が可能で、兄者は球体の内側に入った存在の 『思考』 と 『位置』 を知覚する事ができる。
ただし思考・位置は完全に読める訳ではなく、知覚範囲の拡大に従って情報は曖昧になる。
索敵能力として飛び抜けて優秀であり、この能力は周囲から感覚網と呼ばれている

807 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:20:01 ID:xt9MKsH20


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 ――レムナント。ドクオの故郷跡地。


 ドクオにとって、最強という言葉を文字通りの意味で使える人物はただ一人。
 数多の超能力者を含めてもなお、デルタ関ヶ原は変わらず最強の座にどんと腰を下ろしているだろう。



( "ゞ)「おう、なんか話してたか?」


(;'A`)「……デルタさん?」

 その男が今、数年振りにドクオの前に立っていた。
 半生半死のミルナを肩に担ぎ、デルタは意地悪い笑顔を浮かべている。


( "ゞ)「まあいい。そっちの話が終わったら俺の番だからな」

 デルタはミルナを地面に置き、その隣に腰を下ろす。
 彼の視線はドクオ達を捉えて放さず、無言の圧力を掛けてくる。


.

808 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:20:45 ID:xt9MKsH20


(;'A`)「……待ってくれ。そいつ、どこで……」

( "ゞ)「……なんだよ。素直に順番待ちしようと思ったんだが、先にしてくれんのか」

 ドクオとデルタはミルナに目を向け、しばし、沈黙を挟んだ。


 短いながらも共に過ごし、そして同じ超能力を持ったドクオとミルナ。
 そのミルナは何かを切欠にドクオから離れ、多くの人間を殺戮した。

 荒巻は言っていた。ミルナは孤立を選んだと。
 だが、ドクオは未だにそれを本人の口から聞いていない。
 ミルナを多くの人間の敵にしてしまうには、今はまだ余りにも言葉が足りなさすぎるとドクオは思っていた。

 一人の友人として、最大限ミルナの味方であろうと思っていた。
 だから荒巻にも一日だけ貰い、結論を先延ばしにして何をすべきか考えるつもりだった。

 しかし、ドクオのそんな考えはデルタ関ヶ原には無関係。
 この状況がまさにそれだ。一日の猶予があった筈が、ミルナは半日足らずで討伐されている。



 最早、怒りとかそういうものを通り越した


(;'A`)「は?」

 という困惑の言葉しか出てこなかった。


.

809 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:21:32 ID:xt9MKsH20


( "ゞ)「他の連中と一緒にこっちに来てな、荒巻の頼みでコレを殺しに来た」

(;'A`)「殺しに、って……」

( "ゞ)「ああ、もちろん聞いてるぜ。お前の知り合いなんだろ?
    だから殺し切る前にお前の許可を貰いに来た。ついでに会いたかったしな」

(;'A`)「……」

(; A )

 浮かび上がった言葉は一つ。
 それを言う為、ドクオは心を深く閉ざした。

 言えば恐らく回避不能の戦闘が始まる。
 デルタ関ヶ原は確実に俺を屈服させようとする。
 ドクオがそれに立ち向かうには、デルタに対しての恐怖・諦念を捨て去る必要があった。

 ドクオの心身に冷たい空気が流れ込む。
 冷えきった心は、反抗の言葉を口走った。


('A`)「……駄目だ」

.

810 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:22:39 ID:xt9MKsH20


( "ゞ)「……いま、なんつった」

 ドクオの断言はデルタにとって不意打ちだった。
 反対される予想はあったが、ドクオがそれを言う事はありえないとデルタは高を括っていた。
 少なくとも昔のままのドクオであれば決して反対などしなかった。素直クールの命にだけ拘っていたドクオなら。

('A`)「駄目だって言った。そいつは俺の、……」

 しかし、そこで言い淀むドクオ。続く言葉が思いつかない。


( "ゞ)「……なるほど。思ったよりタフに育ったか。
    付け焼刃にしては良いトコまでいったらしい……。なるほどな……」

 よっこらせ、と呟きながら立ち直るデルタ関ヶ原。
 彼は含みのある笑みを浮かべたまま、ドクオに近づいた。

 両者の間隔が拳の射程内に収まる。
 ドクオはデルタの顔を見上げ、デルタは期待を込めた眼差しでドクオを見下ろす。


( "ゞ)「意見が違えば問答無用だ。
    それを承知で俺に『駄目だ』と言ったな、ドクオ」

('A`)「……」


<_;プー゚)フ「――おい、ドクオ!!」

 決裂した二人の間にエクストの叫びが割り込む。
 彼は地べたに這ったままドクオに向かって言った。

<_;プー゚)フ「そいつデルタ関ヶ原だぞ!? 分かってんのか!?」

.

811 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:23:19 ID:xt9MKsH20


('A`)「……俺の話はまた後で頼む。
    それより先に、こっちを片付ける」

<_;プー゚)フ「逆だバカ! 片付けられるのはお前だぞ!」

( 'A`)「……黙ってろ。邪魔だ」

 最後の制止を振り払い、ドクオは目の前の男に集中する。
 勝てる見込みはなかった。当人にもその理解はある。
 ならなぜ戦うのか――強いて言うなら、それは発散だった。

('A`)

 目覚めてからずっと内心で燻っていた感覚。
 無数に枝葉をつけた言葉の数々。心身に結びついた思考の楔。
 ドクオという存在が出来上がってから今まで積み重ねてきた葛藤、苦悩――そういう邪魔なもの。

 もしそれを全力でぶつけられる相手が居るとすれば、それは今、デルタ関ヶ原しか居ない。


.

812 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:24:19 ID:xt9MKsH20


( "ゞ)「俺の性分を覚えててくれて嬉しいぜ。
    俺は話し合いなんかには応じない。道理も理屈も見ず知らずだ」

( "ゞ)「……まあ、アレだ……いかんな。いざ“殺す”となると、語彙が狭まる……」


( "ゞ)「お前には分かるだろ? 死って奴を考えると、途端に言葉が薄くなる感じ」

('A`)「分からない。俺は逆だから」

( "ゞ)「だろ? だからよ、もうここまでだ。この先は殺し合いだ。
     お互い、無理して真面目ぶるのはやめようぜ」

('A`)「でも帰ってくれるなら戦わない。俺自身、今の俺がどんなもんか分かってねえんだ」

( "ゞ)「なんか懐かしいな。お前とこうして喋るのは。
     あの頃は何回くらい半殺しにしたっけな。もう覚えてねえわ」

('A`)「無駄にやりあってお互い致命傷じゃ意味無いだろ。
    だから余裕のある方が下がるべきだと思うんだが」

( "ゞ)「そうだ、後でクマーの奴にも会ってやれよ。
     あいつもあいつで相変わらずだけどな」


('A`)

( "ゞ)


<_;プー゚)フ(……こ、こいつら……)

.

813 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:26:13 ID:xt9MKsH20


(# "ゞ)「てめえは昔っからッ――人の話をッッ!」

(#'A`)「――そりゃあアンタも同じだッ!」

 怒号と同時に飛び退いて距離を取ったドクオとデルタ。
 そして次の瞬間には戦闘準備に入り、両者は即座に拳を構えて大地を蹴った。

<_;プー゚)フ(お互いまるで、人の話を聞いてねえ!!)

ミセ;*゚ー゚)リ「あーケツ痛い……え、なんか始まってます?」



(# "ゞ)「腹ァ括れよ馬鹿野郎! 泣かせてやるから覚悟しろ!」

 先に殴りかかったのはデルタ関ヶ原。
 その一撃を迎撃するのは、能力を発動し、装甲に包まれたドクオの左拳。
 だがこれではデルタの一撃は相殺できない――直感の刹那、ドクオの背で撃鉄が高鳴る。

(# A゚')「マグナムブロウ、撃動のオオオオッッ!!」

 二人の拳が真っ向から激突。
 均衡した力の激突は両者にさほどのダメージを与えない。


(;'A`)「……ッ!」

 しかしドクオは先んじて気付いていた。
 自分の拳の装甲が、デルタの拳骨の形になって凹んでいる事に。

(;'A`)(なんだこれ!? 意味分かんねえッ……!)

(; "ゞ)(ミルナと同じ能力ッ!? しかもクマーの技ッ!?)

.

814 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:27:19 ID:xt9MKsH20


(# "ゞ)「――手段を選ばず強くなったか! 上等!」

(;'A`)「ッ!?」

 ドクオが狼狽から覚める前に、デルタは次の攻撃に移っていた。

 デルタは打ち合った拳を引くと同時、空いた片手でドクオの左拳を掴み取っていた。
 ドクオは咄嗟に腕を引いたが、デルタの五指は既に装甲内部に深く食い込んでおり、回避は叶わず――


(;'A`)(握力ッ! なんつうバケモッ――)

(# "ゞ)「――――」

 デルタの一撃が体に触れた瞬間。
 ポ、と耳の奥で空気が弾けるのが分かった。

(; A )「が、あッ――」

 遅れて、痺れるような痛みが腹の奥底から湧き上がってきた。
 内臓が逃げ場を求めて縮み上がり、今にも口から噴き出そうなのを寸前で耐える。

(; A゚)「……ごっぷ!」

 デルタの拳はドクオの胸部をものの見事にぶち抜いていた。
 体を貫通していないのは手加減の賜物だが、逆にそのせいで一撃の全衝撃がドクオの体内で乱反射していた。

 肉体の徹頭徹尾を破壊せんと暴れ回る激痛。
 それに耐え切れず膝を折ろうとしたドクオを、

( "ゞ)「――ああ悪い。素直にブッ飛ばした方が楽だったか」

 デルタは軽い助走付きのサッカーボールキックで追撃した。

.

815 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:28:21 ID:xt9MKsH20


(;゚A゚)「?」

 デルタに蹴られたと自覚した瞬間、ドクオの視界は反転していた。
 それも一回ではなく無数に。
 ドクオの三半規管は、キック直撃と同時に機能を失っていた。

(;゚A゚)「???」

 上下左右を失ったドクオには最早目を開けている理由すらなく、彼は目を閉じ、ただブッ飛びながらこの勢いが死ぬのを待っていた。
 もちろん地面を石切りのように跳ね転がるのはとても痛い。
 痛いが、痛がっている余裕も無いのでどうしようもなかった。



(; A )「――ッッッ!!」

(; A )「……いッてえ……」

 数秒後、勢い余ったドクオを受け止めたのは“壁”だった。
 レムナントとメシウマを隔てる巨大な壁――デルタの一蹴りは、ドクオをレムナントの端にまで蹴り飛ばしていた。

 ずる、と重力を思い出した体が地面に落ちる。
 超上空から鉄球を抱えて落ちているような度を越えた加速度が収束し、ドクオはやっとまともに息を吸い込む事ができた。


(; A゚)「……スゥ……」

(;゚A゚)「ハァ…………」



(;゚A゚)「……あ……?」

 一瞬前に起こった事に対して、彼の思考はまったく追いついていなかった。

.

816 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:29:03 ID:xt9MKsH20


( "ゞ)「じゃあ」


(;゚A゚)「…………いッ!?」

( "ゞ)「次は縦、いってみっか」

 声がして振り返った、その時にはもう、ドクオは頭を鷲掴みにされていた。

(;゚A゚)「たッた――たんま!!」

( "ゞ)「……ハハハ、お前面白いこと言うなあ」

 瞬間、背骨ごと頭を引っこ抜かれたと錯覚するような馬鹿ヂカラがドクオを空にブン投げた。
 大気圏にまつげが掠る……それが比喩か事実か分からない程の超高高度で、ドクオは思い出す。



(;゚A゚)(調子に乗って忘れてた)

(;゚A゚)(この人、能力とか関係ないんだった)


(;゚A゚)(……二つ目の撃鉄使う? あれ多分、タナシン要素ある能力だけど……)

(;゚A゚)(多分、あれでも勝てない)

.

817 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:29:43 ID:xt9MKsH20


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 ――暗闇に立っていた。



 ――果ての無い闇の中に、俺は居た。




(;゚A゚)「いや、もうそういうのはいい」

(;゚A゚)「テンプターとか言ったっけ? ちょっと出て来い」


「……」

 ぶっきらぼうに呼びかけると、tanasinn的な暗黒空間に人型の霞が現れた。
 それは凄くバツが悪そうな表情で、はっきりとドクオから目をそらしていた。

(;゚A゚)「単刀直入に聞くぞ。お前デルタさんに勝てるか?」

「……いや、俺を呼ぶならさ、もうちょい真面目な時に呼んでくれよ。
 いや、そもそもこんな馬鹿正直に呼ばれたのも意味不明なんだが」

(;゚A゚)「話をそらすな。目も」

「…………」

.

818 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:30:23 ID:xt9MKsH20


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ――意識が現実に回帰する。
 目の前に大気圏がある、意味不明な超高高度。

(;゚A゚)


(;゚A゚)(……み、見捨てられた……?)

 tanasinnがどうこうの存在で、今後ドクオに力が欲しいか的な誘惑を掛ける存在だったテンプター。
 そのテンプターが無言で対話拒否という事実……諦めろ、と告げているようなものだった。


(#'A`)「――ふっざけんな! 信じらんねえ!
    タナシン雑魚じゃねえかオイ!!」

 体裁を無視した惨めな逆ギレ。
 それに答えるように、頭の中で “逆。あっちがヤバイ” とテンプターの声がした。


(;゚A゚)

 ……ドクオもそれで納得した。

.

819 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:31:20 ID:xt9MKsH20

≪2≫



( "ゞ)「……しまったなあ……」

 空を見上げて一人呟く。
 ドクオが落ちてくるのを待って数十秒。
 待ちくたびれたデルタは、やれやれと言わんばかりに頭を振った。

( "ゞ)「これ落ちてくるまで暇だな……」



「……いや、貴様……」

 声の方を振り返る。振り返った先に、デルタは荒巻スカルチノフの姿を見つけた。




/ ,' 3 「……なにやっとるんじゃ。ミルナはどうした」

( "ゞ)「おう、ちっと身内の腕試しをな。楽しいんだから邪魔するなよ。
     ミルナはウチの奴が倒したぞ。あっちだ」

/ ,' 3 「おお! そうか、それは良い報せだ。
    顔付きの連中がこっちに来とる中、唯一の吉報だ」


川  - )「……」


( "ゞ)「……お前こそ何だ。そいつ、素直クールだろ」

 荒巻が背負っている人物を指差し、デルタは強い口調で問い掛けた。
 
.

820 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:32:00 ID:xt9MKsH20


/ ,' 3 「言っただろう。顔付きが攻めてきたから緊急避難だ。
    できれば貴様にも壁の向こうで戦ってきてほしいが」

( "ゞ)「まあ無理だわな。ドクオとじゃれてる方が楽しい」

/ ,' 3 「……まあよい。どうせ顔付きが相手では貴様とて何も出来ん。
    頼る気は最初からない。気にせず遊んでおれ」

( "ゞ)「わざとらしい挑発どーも。まあいざとなれば手は貸してやる。
     ただし、倍返しの“貸し”だ」

/ ,' 3 「……生憎、強い奴は紹介しきってしまった。
    お礼は別のものになるが、構わんか」

( "ゞ)「ならお前が相手だ。それでいい」

/ ,' 3 「……早々に誰か探しておく。頼むからワシと戦おうとせんでくれ」


( "ゞ)「あーそろそろ落ちてくるな。そこどいててくれ」

 雑談も半ば、デルタは荒巻をどかしてドクオを待ち構えた。

/ ,' 3 「……さすがに死ぬと思うのだが」

( "ゞ)「そうか? あいつ意外と頑丈だぜ」

 ニタ、と意地悪い笑みで拳を作るデルタ。
 これをタイミングよく打ち出すだけで、ドクオは二回目の大気圏遊泳を体験する事になる。
 さて何回目で心がボキッといくかなとワクワクしながら、デルタは落下してくるドクオに照準を合わせた。

.

821 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:32:40 ID:xt9MKsH20


(; A )「――――――!!」


/ ,' 3 「……なんか言っとるな」

 目を凝らした荒巻が絶賛落下中のドクオの言葉を読み取る。
 しかし読み取った言葉が意外だったのか、荒巻は呆気に取られた顔でその言葉を呟いた。


/ ,' 3 「……ごめん?」



(;゚A゚)「――――なさッ――」


( "ゞ)

(;゚A゚)「――ごめんなさアアアアアアアアアアアい!! 負けましたアアアアアア!!」


( "ゞ)



(* "ゞ)「ふふっ、お前、そこで謝んのかよ……!」

(;゚A゚)「死にたくないので受け止めて貰えると嬉しいでエエエエエエエエす!!」

 直後、ドクオは地面に墜落した。
 もちろんデルタは受け止めなかった。
 彼はハハハと笑いながら、地面をのた打ち回るドクオを見てさらに笑うばかりだった。


.

822 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:33:20 ID:xt9MKsH20


(; A )「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッッ」ゴロゴロゴロ

 寸前で左腕の装甲をクッションにしたのか、負傷は即死と戦闘不能を免れる程度で済んでいた。
 しかしその痛みは凄絶。全身をくまなく鞭で叩き尽くされたような痛みが全身を巡り巡る。

(;゚A゚)「ヴエァアアアアアア……」ゴロゴロゴロ


( "ゞ)「ハハ。見ろよ荒巻、死にかけのゴキブリみたいだぞ」

/; ,' 3 「……貴様かなり性格悪いな。前から思っておったけども」

 さすがの荒巻もドクオに同情し、デルタにドン引きする。


( "ゞ)「……ドクオ、強くなったみたいだな」

 しかし嘲笑から一転、デルタは真剣にドクオの成長振りを褒め称える。
 しかし当の本人は内心で「こんな時に言われても困る」と連呼しまくっていた。

( "ゞ)「俺の攻撃を二発堪えたのは初めてだな。
     どうだよ、記念に鍋やるか、鍋」

(;゚A゚)「鍋ッ……!? こんな時に……!?」

( "ゞ)「こんなも何も、終わったろ。お前の負けだ。
    お前は命惜しさに負けを認めた。だからお前は生かす、ミルナは殺す」

( "ゞ)「とにかく一件落着だぜ。ほれ、あっち見てみろ」

 デルタは得意気に後ろを指し、ドクオの視線を荒巻の方に誘導した。

.

823 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:34:51 ID:xt9MKsH20


(;゚A゚)


川  - )

 そうすれば必然、荒巻が背負っている彼女の姿も目に映った。
 ドクオは、ドクオは……もう、自分の内心をどうにも言い表せなかった。


(;゚A゚)


( "ゞ)「やったな。お前の目的、全達成だな」


(;゚A゚)(…………なんだ、この……)


(;゚A゚)


(;゚A゚)(なんというか、この……)

(;゚A゚)(…………『台無し感』……?)


(;゚A゚)(嬉し、い? でも、なんか、アレだぞ……)


(;゚A゚)


(;゚A゚)(……そうだ、アレだ。『腑に落ちない』だ。アレが今、それだ……)



( "ゞ)「おい荒巻! ちょっとこっち来い、素直クールをこいつに触らせてやれ」

/; ,' 3 「ぬうう、無礼に人を扱いおって……」


.

824 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:35:47 ID:xt9MKsH20


 ドクオは、素直クールを助けるどうこうの為に今までなんやかんやしてきた。

 しかし、結局、結論はこれ。


( "ゞ)「よかったな、感動の再会だ」

(;゚A゚)

( "ゞ)「泣けよ。見ない振りしてるから」


 自分よりブッちぎりで強い誰かが、片手間の副産物で事を終わらせてしまった。
 その無力感、脱力、喪失感たるや――ごっそりと、心身が抉られた気分にならざるをえない。



(;゚A゚)


 今までちまちまちまちま積み上げてきた小さな積み木の数々を、巨大ハンマーで上から


(´^ω^`)「ドーーーン!wwwww」 ※ドクオの脳内に住まうカオス


(;゚A゚)

(´^ω^`)「んんんんんんwwwwww」

 そんな感じの、アレ。

.

825 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:36:27 ID:xt9MKsH20


/ ,' 3 「あードクオ。ワシは止めたんだがな、こいつは人の話を聞かんのだ。
    ミルナの方は諦めろ。かわりにこっちを預けておくから、守れよ」

 荒巻は痛みも忘れてぺたんと座り込んだドクオの前で片膝をついた。
 そして素直クールをドクオの胸に抱かせ、すっと立ち上がる。

( "ゞ)「荒巻、向こうとの戦力差はどんなもんだ?」

/ ,' 3 「こっちが2、向こうが8だな。貴様らを含めば五分を見込めるが」

( "ゞ)「じゃあ完全に負け戦だな。顔付きってのはそんなに強いのか?」

/ ,' 3 「並の使い手じゃ太刀打ちできんわ。強さの段階が我々とは違う」



(;゚A゚)「……」

川  - )

(;゚A゚)「……あっと、その……素直クールさん?」

 抱きかかえた彼女に向けて、そおっと話しかけるドクオ。
 なんだか腑に落ちなくとも、とりあえず目の前に素直クールが居る。
 こまけぇ事は忘れて、とりあえずその事に歓喜しようと頭を整理し始める。

.

826 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:37:07 ID:xt9MKsH20


 しかしようやく冷静さを取り戻してきた中、ドクオはふと、彼女の違和感に気づいてしまった。
 鼓動は確かにある。呼吸も血の気も生きている人間のそれで間違いない。
 だが、それなのに彼女の体は死んだように脱力しきって動かなかった。

(;'A`)「……荒巻、クーが起きない」

/ ,' 3 「む? ああ、そりゃあそうだ。
    それはとっくに『素直クール』として死んでおる。ただの抜け殻だ」

 そう簡単に答えてすぐに踵を返し、荒巻はデルタに話しかける。


/ ,' 3 「貴様らはもう少し中心に行っておれ。
    あの男は壁の近くで食い止める。
    他の雑魚の相手はせんから、そっちに行ったら好きに薙ぎ払え」

( "ゞ)「おい待て、俺に子守をさせんな。俺がここに残る」

/ ,' 3 「……あれをワシ一人で倒せるなら貴様など呼んでおらん。
    安心しろ、貴様の出番は確実にある。大人しくしとれ」

( "ゞ)「……もしも敵を倒したら、その敵を倒したお前を倒すからな」

/; ,' 3 「……後日な。連戦は無理だ」


.

827 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:37:47 ID:xt9MKsH20

( "ゞ)「……まあいい。今は言うことを聞いてやるさ。
    ドクオの話を遮った手前、それが終わるまではな」

/ ,' 3 「なんでもいい、とにかく行け」

 荒巻は鬱陶しさを露にして言い、デルタから視線を外した。
 彼の意識は既に死闘の中にある。デルタは、これ以上声を掛けようとはしなかった。

 しかし、荒巻は最後にドクオに言った。
 振り向かず、背中を向けたまま。


/ ,' 3 「……ドクオ、貴様は素直クールに執着しておるようだな」

(;'A`)「……」

/ ,' 3 「……起こす方法はある。片鱗に願え。
    その女がお前を望んだようにな」



( "ゞ)「行くぞドクオ、さっさと立て」

(;'A`)「……え? あ、いや、正直まだ脚がガクガクで……」

( `ハ´)「二人は私が運ぼう。先の戦い、見事であった」

(;'A`)「え? あ、ども……てか誰だ!? いつの間に!?」

( "ゞ)「ハハ、そいつの気配読めるようになったら一人前だ」

 デルタはミルナを担ぎ、シナーはドクオとクールを抱えて来た道を戻っていく。
 これにより、ひとまず、とりあえず、この場における火種は無くなった。


/ ,' 3 (ま、こんなトコで戦われてもこっちが迷惑だからな)

 荒巻は邪魔者を上手いこと追っ払えたことに安心し、ほっと息を漏らした。

.

828 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:38:28 ID:xt9MKsH20


/ ,' 3 「……三月、分かっておるだろうな」

 荒巻が呟くと、ささやかな風が地表を煽った。
 それに紛れてやってきたのか、片目傷の白ウサギは彼の言葉に答える。

(メ._凵j「……分かっている。その時が来れば、お前の望み通りにする」


/ ,' 3 「……ならよい。死なん程度に助力を頼む。久し振りの死闘だ」

(メ._凵j「……それも、心得ている」

.

829 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:39:18 ID:xt9MKsH20

 ≪ / ,' 3 / 概念相殺 ≫ 

【能力者】 荒巻スカルチノフ

【タイプ】 分類不可


【基礎能力】 

[破壊力:-] [スピード:-] [射程距離:-]

[持続力:-] [成長性:-]

A=かなり凄い B=けっこう凄い C=まぁまぁ良い
D=人並み    E=よわい     F=論外     S=最強


【能力概要】
荒巻スカルチノフは、tanasinnのバックアップにより基本的に何でも出来る。
能力無しでも身体能力は武神級。新しい超能力も好き放題に作れる。
ただ本人はサーベルでの戦闘を好む為、それら超能力はすべて『概念相殺』に利用されている。

『概念相殺』はその名の通り、自分自身から一つの概念を失う代わりに、他者からそれと同じ概念を喪失させるというもの。
荒巻は超能力のストック数が桁違いな為、大概の能力者は何も出来ずに倒される。
概念相殺でもへこたれない相手には、無数の超能力をぶつけて物量で圧殺する。

マニーはこの概念相殺を金の力でどうにかしようとしたが、兆を投資しても荒巻の能力ストックは無くならなかった。
デルタは肉体一つで死ぬほど強くなっているので、概念相殺をやると相打ちになって困る。(でもやらないと身体能力と超能力での戦闘になり、負ける)


おまけ

(メ._凵j:うさぎさん とってもぷりちー おめめがいたそう;;

830 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:40:06 ID:xt9MKsH20





━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━





.

831 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:41:03 ID:xt9MKsH20

≪3≫



<_;プー゚)フ「……ああ、俺の住処が……」

ミセ;*゚ー゚)リ「それ何度目ですか。もう諦めてくださいよっ」

 町の残骸をせっせこ片付け、二人は最低限腰を下ろせるだけの文明空間を作ろうともがいていた。
 ミセリは【一つ残らず木偶人形(ワンサイド・アウトサイダーズ)】という長い名前の超能力を駆使し、エクストは家っぽい物ができるよう指示を出す。

 そんな感じで開始十分。
 図工の授業だったら評価E以外あり得ないような出来損ないのゴミを前に、二人はだんまりを決め込んでいた。


<_;プー゚)フ「……ミセリちゃん、そんな能力あるのにどうして……」

ミセ;*゚ー゚)リ「……し、指示が悪いんですー! 私は完璧でしたー!」


<_;フ′ー丶)フ「はあ、ドクオも戻ってこねえし、もうどうすっかなあ……」

ミセ;*゚ー゚)リ「もう! 顔があり得ないくらいふにゃけてますよ! しっかりして下さい!」

.

832 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:41:45 ID:xt9MKsH20



( "ゞ)「――っと!」 ダンッ!

( `ハ´)「……着地くらい、静かにやれ」 スタッ

 かくしている間に突拍子も無くデルタが空から降ってきた。
 それに続いてシナーも着地し、背負っていたドクオとクールを地面に下ろす。


ミセ*゚ー゚)リ「あ、ドクオさん!」タタタ

 ドクオを見つけたミセリは真っ先に彼のもとに駆けつけた。
 しかし最初は嬉々としていた彼女の表情も、ドクオの負傷ぶりを見てすぐに青ざめていった。

ミセ;*゚ー゚)リ「ちょ、これ……早く治さないと!」

(;'A`)「……あ、忘れてた。ちょい待ち……」


(;'A`)(悪いテンプター、また治してくれ)


はてやみ
「お前さ、さっき言ったよな?
もうちょい真面目な時に」


 一瞬後、ドクオの全身にあった傷はすっかり完治。
 早くも使い勝手のいい道具にされたテンプターはさておき、ドクオは素直クールを抱きかかえてエクストに声を掛けた。


(;'A`)「エクストー! なんか荒巻がクー返してくれたわ!」

<_;プー゚)フ「……は? ……ってマジ!? ちょッ! こっち連れて来い!」

.

833 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:42:39 ID:xt9MKsH20


 ドクオはクールを抱えて急いでエクストのところへ。

( "ゞ)「なあ」

ミセ*゚ー゚)リ「……え、私ですか?」

 デルタは、その様子を眺めていたミセリに話しかけた。

( "ゞ)「お前らさっき何話してたんだ?
    順番飛ばしちまったからな、次はそっちでいい」

ミセ*゚ー゚)リ「話って、なんていうか、ドクオさんの生い立ち? みたいな……」

( "ゞ)「……ああ? なんだそれ、どういう話だ」

ミセ;*゚ー゚)リ「いや、私もよく分かんないです。
       なんか内藤が、片鱗がとか、ドクオさんの話なんだけど、別人の話みたいな……」

( "ゞ)「……あの辺の話か。そら、悪い事をした……」

 一人呟き、デルタはドクオの方に歩き出した。

.

834 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:43:24 ID:xt9MKsH20




<_;プー゚)フ「――うおっ!? マジだ、マジじゃねえか!!」

(;'A`)「だろ? 棚ボタってレベルじゃねえだろ?」

<_;プー゚)フ「……いや、でも起きねえぞ? これ大丈夫か?」

(;'A`)「大丈夫らしい。タナシンをどうこうで何とかなるらしい」

<_;プー゚)フ


<_;プー゚)フ「……は? そんなフワフワした感じで助けていいのか?」

(;'A`)「……え? 駄目なのか?」

 目を合わせ、二人は答えを見失って沈黙する。
 ドクオはエクストの言葉の意味が分からなかったし、エクストも自分の意思を上手く言葉には出来ていなかった。


( "ゞ)「お前ら、素直クールはとりあえず後回しにしろ」

 その沈黙に割り込み、デルタは静かに二人を威圧した。
 彼は二人の視線を受け取ると、さも面倒臭くて今すぐ帰りたいと言いたげな溜め息を吐き出した。

( "ゞ)「お前ら、ドクオの昔話をしてたんだよな」

(;'A`)「……そうです」

( "ゞ)「……じゃあ、仕方ねえ。あれを正確に喋れんのは、今は俺だけだからな……」

.

835 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:44:06 ID:xt9MKsH20


( "ゞ)「とりあえず、手っ取り早く先に言っておく」

( "ゞ)「多分もう話に出てきてるとは思うが、そこに出てきたドクオと」

 デルタは、いま目の前に居るドクオを指差して言った。

( "ゞ)「お前は別人だ」

<_;プー゚)フ「……」


( "ゞ)「大雑把に言うと素直クールは『tanasinnの片鱗』に負けた。
     結果、お前が出来上がったワケだが……そこら辺の話、まだしてねえだろ」

( "ゞ)「俺としては死ぬほどどうでもいい話なんだが、まあ聞かせてやる……」


( "ゞ)「――昔々、あるところに」

(;'A`)


(;'A`)(……よりによって、導入それにするか……?)


.

836 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:44:51 ID:xt9MKsH20


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           第二十八話 「悪性萌芽 その4」

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837 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:47:10 ID:xt9MKsH20


(;,,゚Д゚)「まずいッ!」

 ――書き込んだ直後、話数を間違えていたことに気付いた補足王ギコ。

(;,,゚Д゚)「今回は30話だ! 急いで訂正しろ!」

 行動は速やかに、違和感なく――

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838 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:47:50 ID:xt9MKsH20


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           第三十話 「悪性萌芽 その4」

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839 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:49:21 ID:xt9MKsH20

≪4≫



 ……以下、素直クールの日記より。



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840 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:50:13 ID:xt9MKsH20

11月3日(木) 天気:晴れ→雪
 武神の屋敷に来てから半年。ジィ様の言いつけで日記をつける事になった。
 あまりこういうものは得意ではないが、少しずつ慣れていこうと思う。

11月4日(金) 天気:雪
 せめて三行書けと怒られた。
 今日の修行は、よく分からなかった。
 弱くなる修行という時点でよく分からなかったが、今でもそれは変わらない。

11月5日(土) 天気:雪
 寝て、起きて、顔を洗って歯を磨き、朝食を食べる。
 その後は特に何もしない。ドクオの特訓を眺めたり、家事の手伝いをしている。
 こんな生活でいいのだろうか。なんというか、今までの生活と違いすぎて、現実味に欠けている。

841 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:50:53 ID:xt9MKsH20

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11月6日(日) 天気:雪



 ドクオは今日も早朝からじぃ様達と修行に励んでいる。
 人工片鱗の副作用で体調も優れない筈なのだが、彼は存外元気にやっている。


爪#゚ー゚)「――全力を出せと言うておろうが!
      なぜ加減する、殺されたいのか!」

(;'A`)「いや、あの、俺の全力が微塵も通用してないだけだ……」


爪゚ー゚)「……え? あ、そうか。悪い悪い」

N| "゚'` {"゚`lリ「じぃ様、やっぱり相手がアンタじゃ修行になってないぜ。
         せめて母者か俺にやらせてくれ。上手くやる自信はある」

爪;゚ー゚)「そうだのお……こやつ思った以上に弱いし、そっちの方がいいか……?」

(;'A`)「……」

 ドクオの視線が私に向く。先日も少し彼と話したが、もう既にプライドがズタボロだと彼は言っていた。
 彼は内藤が作った物の中では最強クラスなのだが、いかんせん武神の面々が化け物染みている。
 ここ数日で私も彼らの強さを目の当たりにしたが、正直これはダメなやつだと思った。
 彼らに頼ればtanasinnも倒せるのではないだろうか? ありうる。

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842 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:51:55 ID:xt9MKsH20

11月7日(月) 天気:ちょっと雪→晴れ


11月8日(火) 天気:雪
 昨日は日記を書かなくていいと言われたので書かなかった。
 自分に起きた事を受け止め、言葉に出来るようになったら日記を書けと言われた。
 まだちゃんと落ち着いてはいないが、せめて事実だけ羅列しておこうと思う。

 内藤の研究所を脱出する際、私は内藤に人工片鱗を投与された。
 それは不意打ちの、もはや裏切りとすら言える行為。私は内藤を許せない。
 人工片鱗を体内に宿した私は半ば暴走し、内藤を含むあの場の全員を退けたらしい。ここはドクオからも話を聞いたので事実だ。
 あのままだと私が自滅しかねないと予感したドクオが私と戦い、なんとか武神の所まで私を誘き寄せたようだ。

 ジィ様に倒された私は暴走状態から解放されたが、人工片鱗の後遺症が今も残っていると聞かされた。
 それは「希望以外の拒絶」。望まないものが目の前にあると、それから逃避してしまう。
 覚えていないが、私が目覚める時にもそれに関する悶着があったそうだ。

 人工片鱗は人の弱点を増幅する。
 ジィ様が私に弱くなる為の修行をつけるのは、私自身が持つ根本的な弱さと向き合うためらしい。
 確かに、私は今まで自分の弱さを見ようとはしなかった。それはタナシンに出会う前から、ミルナとシーンに出会う前から同じだ。
 弱い人間に価値などない。だから私は強く、ただひたすら強く・・・

 その脅迫観念が今この状況を作っているとしたら、私は今更どうしたらいいのだろうか。
 手遅れだ。私の元居た世界は既にタナシンが食い尽くして跡形もない。
 取り戻せるものなど何もない。手にあるものは失い尽くした。でもそれでも死にたくはない。
 死にたくない・・・この言葉はこの世でもっとも醜い言葉だと、私は思っている。
 死ぬべき人間は死ぬべきだ。望まれない者は殺されるべきだ。無意味な物は排除されてしかるべきだ。
 その筈なのに、その最たる存在のタナシンが今の私を生かしている。
 タナシンと関わってからどれぐらい生きてきただろう・・・自分の年齢なんてとっくに忘れてしまった。
 怖いのは、こんなにも生きているのに、私が昔の私のままで、大差ないということだ。
 私はなぜ変われなかったのだろう 救いの手は確かにあった筈なのに どこで

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843 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:52:47 ID:xt9MKsH20

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11月9日(水) 天気:晴れ


爪゚ー゚)「なあ、素直クールよ。寝るのは好きか」

 縁側にじぃ様と並んで座り、おやつの羊羹を食べる。
 平和だ、と思う。平和という言葉は、機械的な感想だと思う。


川 ゚ -゚)「……そんなに好きではないな。寝てる間より、起きた瞬間のが好きだ」

爪゚ー゚)「……ふふ、オレもだ。これは誰にも秘密だがな、オレは寝るのが今でも怖い。
     ガキンチョの頃に読んだ絵本が原因でな、参ったものだ……」

川 ゚ -゚)「……」

爪゚ー゚)「……オレは強い。が、それは弱さを隠す為のものではない。
     強さとは生きる為の力。人間の弱さは、決して強さでは覆い隠せんよ」

爪゚ー゚)「弱さと強さは別々のものだ。ゆえに、受け止め方も別々でなければならん。
     どちらか片方だけに特化した人間は、いずれ確実に破綻するからのう」

 ・・・そんな事は私だって知っている。けれど、生きる為の強さが私には人一倍必要だった。
 弱さを隠すとか、そういうのではなく、だから  強くなるしかなかった。私は弱くないと、思うしかなかった。
 私が悪いのだろうか。多分、きっとそうなのだ。昔の私なら、こんな疑問すら抱かなかったのだから。

爪゚ー゚)「大丈夫だ。貴様は強い。貴様には腐るほど時間がある。
     強さの次は弱さと向き合えばよい」

爪゚ー゚)「……助言だ。弱さというものは自分の中には無い。
     常に外の世界、現実にこそ姿を現す。目を閉じるなよ、素直クール」

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844 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:53:31 ID:xt9MKsH20

11月10日(木) 天気:みぞれ
 今日はドクオの修行は休み。久し振りに多くの事を話した。
 この日記の事や内藤の話はしなかった。いわゆる雑談をした。
 彼とそんな風に会話するのは初めてだったが、ドクオは意外と愉快な男だった。
 体の調子は良好。彼の命に別状がないのは幸いだ。

11月11日(金)
 ドクオの修行相手が母者さんに変わった。強さはドクオが100歩くらい負けている感じだ。
 夕飯は芋。死ぬほどの芋を食べた。

11月12日(土) 天気:快晴
 昨日の天気を書き忘れた。昨日は晴れだった。
 今日は、すこし体調が悪かった。昼食の後、二度吐いてしまった。
 なにか変な物を食べたかもしれない。ここの人は生肉を平然と貪る為、ありうる。

11月13日(日) 天気:〃
 じぃ様の提案でデルタと手合わせをした。接戦の末に負けた。
 ・・・彼らはどういう理屈で私の能力をガン無視しているのだろう?分からない。

 明日から阿部さんを相手に私の修行が始まる。私の能力の劣化形態を作るのが目的だそうだ。
 とりあえず明確な目標ができてほっとしている。何もする事がないのは、けっこう辛い。

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845 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:54:31 ID:xt9MKsH20

11月14日(月) 天気:雪
 阿部さんは同性愛の人だった。それにビックリして何も覚えていない。
 ただドクオの貞操が危機的なのはなんとなく予感した。
 それを母者さんにぼやいてみたら「手を出すな」と言われた。何がなんだか分からない。
 ↑
 └腐っておるのだ。あまり詮索するな(ジィより)
    ↑
    └ジィ様いつか殺す(母者より)

11月15日(火) 天気:豪雪
 今日はとてもよく眠ってしまった。昼まで寝たのはいつ以来だろうか。
 いや、以前はそもそも寝ること自体できていなかった。逃亡生活にそんな暇は無かった。

11月16日(水) 天気:〃
 三行書けと怒られた。しかし、特に特筆することがない。
 私の修行は順調。着実に能力のコントロールを覚えている。
 ドクオの方は・・・どうなのだろうか。彼とは数日前から顔を合わせていない。
 山篭りでじぃ様とどこかに行ったらしいが、安否がすこぶる不安だ。


11月17日(木)


11月18日(金) 天気:雪
 昨日、ドクオが半生半死で帰ってきた。意識はなく、辛うじて生きている危険な状態だった。
 ジィ様を問い詰めて事情を聞くと、ドクオの肉体は既に限界だと分かった。
 tanasinnの副作用に対抗するだけの修行は終えているが、この先どれだけもつかは分からないそうだ。
 山篭りはドクオが提案して行われた。ジィ様いわく、ドクオもまた私のように暴走を起こしたらしい。
 しかもその破壊規模は私以上で、正直私よりてこずったとジィ様は言っていた。
 ドクオは明らかに衰弱している。もうすぐドクオが死ぬかもしれない。
 今日は一日中彼を見つめていた。私に出来る事はいくつかあるが、彼はそれを望むだろうか・・・

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846 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:55:27 ID:xt9MKsH20

11月18日(金) 天気:雪
 ドクオが死んだ。目が覚めて、ドクオの様子を見に行ったら死んでいた。
 昔、元々居た世界で、小さい頃に金魚を飼っていたことを思い出した。
 金魚は水面に浮かんで死んでいた。綺麗な水槽だなと思った。

11月18日(金) 天気:雪
 今日はドクオに起こされた。朝食があると言って、私の手を引いてくれた。
 食卓には屋敷の人達が揃っていて、戦争のような朝食を繰り広げていた。
 ドクオの体調は忍者さんの秘薬でなんとか持ち直したらしい。
 ジィ様の修行と秘薬さえあれば、tanasinnに耐え得る心身を作るまでの時間は稼げそうだ。
 よかった、と心から思う。

11月18日(金) 天気:雪
 ドクオは今日も起きなかった。
 か細い呼吸と、指先で机をつつくような呆気ない心音が彼の命を繋いでいる。
 しばらく私の修行は中断してくれるらしい。これでドクオの傍にずっと居られる。

11月18日(金) 天気:雪
 今日は私もドクオも修行が休み。久し振りの休日だ。
 下の港町におりて、普通の休日を過ごした。買い物をしたり、ご飯を食べたり・・・
 そういう生活をしたのはいつ以来だろう・・・。平和で、安心した時間が流れていった。
 だが、元の世界のことを思うとこういう生活に罪悪感が湧いてくる。
 もっと他にやる事があるんじゃないか、もっと他に見るべきものが、と思ってしまう。

11月18日(金) 天気:雪
 水槽と、金魚を作った。tanasinnの力は、こういうどうでもいい事をするにはとても都合がいい。
 久し振りになにか生き物の面倒を見てみようと思ったので、ちょっと魔が差した。
 これも力のコントロール修行という事で、できればお許しいただきたい・・・

847 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:56:20 ID:xt9MKsH20

11月18日(金) 天気:晴れ
 やがて自殺する祖父母が拾ってきた子猫が死んでいた。
 子供だった私は子猫の扱いなんて知らず、手探りに面倒を見ていたが、駄目だった。
 家族は誰もこの子の面倒を見たり、助言をくれたりはしなかった。
 子猫が死んだ時も家族は特に何も言わなかった。私は子猫を庭の隅に埋め、みかんの種を撒いた。
 この子を殺したのは私だ。なのに罰はないのだろうか。家族は私を叱らないのだろうか。
 命の価値が分からない。家族は私に何も教えてくれなかった。私は私一人で育っていった。
 私はこの猫と同じだ。罪も罰もない命は無意味だ。この猫は無意味に生きて死んだ。

11月18日(金) 天気:晴れ
 今日はひとりぼっちの入学式。友達とは違う学校に行ったので、周りは知らない人だらけ。
 集合写真の時、ふざけて膝の上でチョキを作った。特に叱られなかった。

11月18日(金) 天気:晴れ
 ドクオが死んでから一週間くらいが経つ。私にとって彼は何だったのか、と眠る前に考える。
 別に大して好きではない。たかが友人という程度。だが今の私はtanasinnと人工片鱗のせいで情緒がおかしい。
 依存心や我慢というものが弱くなっているし、理性が上手く働かない。
 ドクオは私がそんな風になった時に一番近くに居たというだけだが、きっと理由はそれだけなのだ。
 私はドクオにtanasinnの片鱗を分けてやろうと思う。そうすれば彼は助かる。喜んでくれるかな、なんて。少し笑ってみたりする。

11月18日(金) 天気:晴れ
 書くことがない。
 夕飯は魚。
 ドクオが死ぬ夢を見た。彼はまだ生きている。縁起が悪い。二度寝した。

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848 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:57:06 ID:xt9MKsH20
11月18日(金) 天気:晴れ
 嘘を書くな、とジィ様に言われた。
 絵本を燃やし、小指のワイヤを締め上げる。
 悲鳴は上がらない。聞かせる相手が居ない悲鳴に意味はあるのだろうか。
 今日は昨日の夢を見た。明日はもっと前の夢を

11月18日(金) 天気:晴れ
 私はもう正常ではないのかもしれない。
 ドクオが本当に死ぬと分かった瞬間、私の中の何かが壊れてしまったのだ。
 それは何だろうか。今までだって人が死ぬところは見てきたのに・・・
 (追記)
 書いた後に分かった。壊れた物は、冷酷さだ。他人の命を見捨てる冷たさ。
 今までは誰が死んでもその命を諦め、背負う事ができた。だが、今の私はそれが出来ない。
 私はもう人の死を背負って歩く事が出来ない。だから死なないでほしいと、そう思うようになったのだ。
 そして内藤の人工片鱗はその弱さを膨張させる。私は多分、もう手遅れだ。

849 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:57:46 ID:xt9MKsH20


11月19日(土) 天気:晴れ
 とりあえず、天気だけ。

11月20日(日) 天気:雪

11月21日(月) 天気:雪

11月22日(火) 天気:雪

11月23日(水) 天気:雪

850 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:58:26 ID:xt9MKsH20

11月24日(木) 天気:雪
 ジィ様、私は大丈夫だ。ドクオの様子は私が見ておく。

11月25日(金) 天気:雪

11月26日(土) 天気:曇り

11月27日(日) 天気:快晴

11月28日(月) 天気:快晴

11月29日(火) 天気:快晴

11月30日(水) 天気:快晴
 引越しは無事に完了した。ここで彼との新しい生活が始まる。

12月1日(木) 天気:快晴
 日記はもうやめようと思う。これからはもう大丈夫だ。

851 名前:名も無きAAのようです :2016/02/29(月) 23:59:29 ID:xt9MKsH20

≪5≫



「ジィ様、素直クールはもう駄目だ」

 口火を切ったのは流石母者の一言だった。
 今日は11月21日。既に、誰もが素直クールの異変に気付いていた。

「やはりあの女にドクオの状態を教えるのは不味かった。
 案の定、もう理性もなにも滅茶苦茶だ。
 さっき話しかけて少しだけ言葉を交わしたが、あれは……」

 母者は言葉に迷い、それ以上を語れなかった。

     X
∠ ̄\∩
  |/゚U゚|丿 「激しく忍者」

爪゚ー゚)「ハゲ忍は黙っておれ。真面目な話じゃ、場を弁えよ」

∠ ̄\
  |/゚U゚| 「――ならばあえて言おう。あの女、とうの昔に破綻している。
      このままではドクオの方にも悪影響を及ぼすぞ」

.

852 名前:名も無きAAのようです :2016/03/01(火) 00:00:09 ID:KhAdyT1E0

N| "゚'` {"゚`lリ 「……俺としては出来る限りの事をしてやりたいね。
          心が衰弱した彼女には支えになるものが必要なんだ。ドクオ以外にも」

( "ゞ)「かったるい話すんじゃねえよ。俺はハゲ忍に同意だ」

∠ ̄\
  |/゚U゚| 「激しく同意?」

( "ゞ)「うるせえハゲ」


          + 激しく忍者 +
      X
 ∠ ̄\∩
   |/゚U゚|丿     (激しく無駄なスペース)
 〜(`二⊃
  ( ヽ/       
   ノ>ノ
   UU


( "ゞ)「けどよ阿部、てめえホモの癖に女の肩を持つのか?」

N| "゚'` {"゚`lリ 「俺にとって女は恋敵と書いてライバルと読む存在だ。
          基本、俺は博愛主義者なんだぜ」

( "ゞ)「それが痴情縺れきったメンヘラでもか? 手間の多い主義だこった……」

N| "゚'` {"゚`lリ 「どうせ殴れば一瞬で済む話。時間を掛けてもいいだろうって話だ。
          それとも俺達はそこまで切羽詰った集団だったか? らしくないぜ」


( "ゞ)「……素直クールは、殴れば済む相手じゃねえな」

 デルタは、阿部の軽口に渋々そう受け答えた。

N|;"゚'` {"゚`lリ 「……なんだって? それを、お前が言うのか?」

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853 名前:名も無きAAのようです :2016/03/01(火) 00:00:49 ID:KhAdyT1E0


爪゚ー゚)「素直クールがここに来た時、オレと母者、そしてデルタが彼女を迎えた。
     しかし実際に戦ったのはオレ一人。その意味、察してやれ」

( "ゞ)「……」

 デルタ関ヶ原は元々好戦的な人間である。
 そんな男がわざわざジィに出番を譲り、あまつさえイノシシ狩りで時間稼ぎをしていた事実。
 もしもジィがデルタを呼びに行かなければ、彼は絶対に屋敷には近付かなかっただろう。

 なぜなら、デルタには屋敷に落ちてきた素直クールが人間だとは思えなかったのだ。
 殺気や悪意……彼が屋敷の方から感じたものは、最早そういった類の気配ではなかった。
 デルタがあの女に感じ取ったものは、人生最大規模の生理的嫌悪感だった。
 そんなものにわざわざ近付こうなどとは、彼は決して一瞬たりとも思えなかった。

 もちろん素直クールが強い事は肌で感じてはいた。
 あれと戦えば生涯ベスト5に入る死闘になるのも直感出来ていた。
 しかし、あれが放つ気配はそれ以上に『気持ち悪かった』。
 触りたくない、関わりたくない。そういう感覚が、デルタの戦意を丸ごと腐らせてしまったのだ。


( "ゞ)「あれを始末したけりゃお前らでやれ。
    俺は神も悪魔も人間サマもぶん殴れるが、クソまみれのドブ底にアタマ突っ込むような真似だけはしねえぞ」

「……ジィ様、私は数日は様子見でいいと思うが、いざとなれば手を下すべきだと思う。
 それが彼女を半年匿った私達の責任だ。彼女はよくもったと思う」


爪゚ー゚)「……みな準備をしておけ。
     オレは少し、彼女と話してくる」

 結論は暗黙の内に。
 屋敷に住まうこの場の全員は、それぞれ戦いの準備に取り掛かった。

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854 名前:名も無きAAのようです :2016/03/01(火) 00:01:37 ID:KhAdyT1E0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 寝室のふすまを静かに開ける。
 部屋に入ると、布団に横たわるドクオと、彼の傍らに正座する素直クールが目に留まった。

爪゚ー゚)「……様子はどうだ」

 ふすまを静かに閉じ、ジィは素直クールに問い掛けた。

川 ゚ -゚)「よく眠っている。大丈夫だ」

爪゚ー゚)「……では、貴様はどうだ? 素直クールよ」

川 ゚ -゚)「……私もだ。大丈夫だよ」

 その返答の直後、ジィは懐から日記帳を取り出して畳に投げ捨てた。
 バサ、と音を立てて落ちたそれに、素直クールは嫌悪の一瞥を送る。


爪゚ー゚)「日記、読んだぞ。やけに18日が多かったな」

川 ゚ -゚)「……だな。自分でも、見直した時に寒気がした」

爪゚ー゚)「……まったく。男が一人倒れただけでこの有様とは、難儀だな」

川 ゚ -゚)「……だな。人工片鱗は、思っていた以上に私の虚勢を粉々にしていた」

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855 名前:名も無きAAのようです :2016/03/01(火) 00:02:17 ID:KhAdyT1E0


爪゚ー゚)「……ドクオを離してやれ。本当に死ぬぞ」

川 ゚ -゚)「いいや、彼は死なせない。手段はある、それをする……」


爪゚ー゚)「ちゃんと見ろ。ドクオは生きているぞ」

川 ゚ -゚)「……嘘を言うなよ。呼吸も、心音もないぞ。
     彼はもうとっくに死んでいる。私が助けてやらないと……」

爪゚ー゚)「それは貴様がドクオの時を止めておるからだ。
     自覚が無いとは言わせんぞ。貴様、もう既に手遅れだ」

川 ゚ -゚)「……大丈夫だ。彼は死なせない。私が守る。
     その為の力は十分にある。大丈夫だ」

 素直クールの能力を一言で表すなら、それは『隔絶』という他にない。
 ドクオを正常な時間の流れから排し、生も死も根本的に存在しない所に置いておけば、確かにドクオは現状を維持できる。
 だがそれは、ドクオは永遠に生き続けると同時に死に続けるいう意味でもあり、最早、それは――

.

856 名前:名も無きAAのようです :2016/03/01(火) 00:02:58 ID:KhAdyT1E0


爪゚ー゚)「――安心を得る為の道具でしかないな。
     貴様の中では、ドクオはもう人間扱いされておらんという訳だ」

川 ゚ -゚)「……それの何がいけないんだ? 彼は死なず、私も安心していられる。
     誰も不幸にならない。むしろ、私達は今より幸せでいられるのに……」

爪゚−゚)「……命の在り方として間違っておる。
     生きる者はみな死ぬ。それを捻じ曲げて我欲に走るなど――」

川 ゚ -゚)「在り方が間違っていたら、その命には生きる為の足掻きすら許されないのか?
     私はもう弱りきってしまった。ドクオがいなければ、もう生きていけないんだ……」


爪#゚ー゚)「……大いに足掻け。生きる為なら死をも覚悟しろ。
     だがな、オレは今ドクオの話をしている。貴様の命など知らん!」

爪#゚ー゚)「いいか素直クール、貴様がそいつの足掻きを阻んでおるのだ!
      ドクオは確かに死ぬかもしれんが、万が一にも生き残るかもしれん!
      その分水嶺にいざ挑もうという男を、貴様は己の為に私物化しておるのだ!」

川 ゚ -゚)「……そんな下らない天秤に、ドクオの生死を乗せろというのか?
     私には出来ない。生きてなくていいから、せめて彼には死なないでほしいんだ」

爪#゚ー゚)「…………」

川 ゚ -゚)「……? 死なないで欲しいと願うことが、そんなにもおかしいか?」

.

857 名前:名も無きAAのようです :2016/03/01(火) 00:03:46 ID:KhAdyT1E0


爪゚ー゚)「……おかしくはない。そこではないのだ、素直クール」

爪゚ー゚)「……残念だ。貴様は理外の力に溺れてしまった。
     今の貴様はドクオにとって、自由を縛る害悪でしかない」

爪゚ー゚)「知っているか? そういうものを一言でなんと呼ぶか」

爪゚ー゚)「――愛憎だ。好意と悪意で他人を縛る、独善の成れの果てよ」


川 ゚ -゚)「……分かった、分かった」

 素直クールは、ジィの言葉をさらっと受け流して二つ返事。

川 ゚ -゚)「つまり、もう出て行けという事だろう。分かったよ。
     そういう事を言われた事は沢山ある。私は元々、人に好かれる人間ではないからな」

川 ゚ -゚)「もちろん自覚はある。私はもう人工片鱗のせいでおかしくなってる。
     ドクオが居ないと心苦しくて死んでしまいそうだ。これが元々の私に無い考えなのも分かる」

川 ゚ -゚)「じゃあどうしろと? 愛憎でもいいじゃないか。
     私は確かに人間離れしているが、それでも私の一部はまだ人間だ」

川 ゚ -゚)「それが寂しさあまりに他人を求めたらそれは罪なのか?
     罰せられる程のことなのか? 人が人を求めたら、それは悪いことなのか?」

爪゚ー゚)「求めて、相手を箱の中に閉じ込めて、それでも同じ事が言えるのか?」

川 ゚ -゚)「そうしなければドクオは死んでしまう。ジィ様だってそれは嫌だろう」

.

858 名前:名も無きAAのようです :2016/03/01(火) 00:04:56 ID:KhAdyT1E0

 素直クールは、単に羅列する。

川 ゚ -゚)「大事な人が死にそうで、死なせない方法があって、それを実行する事もできて」

川 ゚ -゚)「リスクも失うものもなくて、結果的に誰も悲しまないなら、それは良い事に違いない」

川 ゚ -゚)「確かにジィ様は今、私に対してとても憤慨している。
     ドクオの命を私物化し、独占している事について」

川 ゚ -゚)「だが、それはドクオを失った時の悲しみに比べれば軽いものだろう?
     私の行いは、結果的に皆の悲しみを解消しているじゃないか」

川 ゚ -゚)「ドクオは死なず、皆は悲しむ代わりに怒り、私は悲しみを回避した」

川 ゚ -゚)「よく考えてみてくれ。この状況、誰も、なにも損をしていないんだ」



爪゚ー゚)「……度し難いな、貴様は……」

 しかし決して、間違いではないと、ジィは思った。
 間違いではないが、これが絶対に正しいとも言い切れない。

 彼女の言い分を正しいと肯定する者、間違っていると否定する者は、きっとどちらもこの世に存在する。
 しかし、素直クールはそのどちらにも属さない。
 なぜなら彼女は、本人の意思を一切、まったく汲み取っていないからだ。

 彼女がしたことを言い換えるなら、『本人に無断で行われた目的のないコールドスリープ』。
 それはシュレディンガーより性質が悪い、人間で行うドライフラワーのようなものだ。
 しかし、それを愛でるか否定するかは人それぞれ。
 それを人と呼ぶか物とするかもまた、それぞれの価値観に――

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859 名前:名も無きAAのようです :2016/03/01(火) 00:05:37 ID:KhAdyT1E0


爪゚ー゚)「――そうだな、人それぞれで片付く話だったな」

爪゚ー゚)「間違いか、正しいか、それも分からない。
     いやまったくもってそうだった。まったく、貴様に論破されてしまったな」

川 ゚ -゚)「……そうか。それならよかった」

 朗らかに笑いつつ、ジィは立ち上がって素直クールの胸倉を片手で掴みあげた。
 その唐突な行動に虚を突かれたのか、彼女はその手を払う事もできなかった。


爪゚ー゚)「で! だ。それはそれとしてだ。置いといて、だ
     オレは個人的に、曖昧な結論というのが大嫌いでな」

爪゚ー゚)「もちろん世のなか曖昧にしておくべき事はある。
     オレとて人間、処世術くらいは知っておるさ」

爪゚ー゚)「だがな、それでも生と死だけは絶対だ。
     オレはそれだけを確信し、ここまで至った」


爪゚ー゚)「ところがどっこい貴様は『それ』を曖昧にした。
     正面バッチリ目の前で、オレの神である『死』を誤魔化した」

爪゚ー゚)「正しいも間違っとるも知らん。この世の条理など知ったことか。
     貴様はオレの敵だ。もっとも、それは出会った時から確信しておったが」

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860 名前:名も無きAAのようです :2016/03/01(火) 00:06:58 ID:KhAdyT1E0


爪゚ー゚)「素直クール、オレは貴様の曖昧さが気に入らん。
     だから今から殺す。そのついでにドクオも助ける」

川;゚ -゚)「り、……理屈になってないぞ」

爪゚ー゚)「だからなんだ、それがどうした?
     だから言ったであろう、オレは曖昧なのが嫌いだと」


爪゚ー゚)「……知っているか?
     タナシンなどに頼らずとも、人は人間という枠組みを壊せる」

 胸倉を掴む手に、より一層強大な力が送られる。

爪゚ー゚)「頭の中、二文字」

爪゚ー゚)「殺す」

爪゚ー゚)「するともう止まらん。言葉は殺意に塗り潰される」


爪゚ー゚)「……言っておく。本気を出せよ」

 途端、ジィの体に電撃が迸る。


爪# ー )「tanasinnがどれ程のものか、今一度、見定めさせろ」

川;゚ -゚)「――ッ!!」

 言葉の後、一瞬の閃光。
 それは火蓋を切って落とすに余りある、天災にも等しい一撃だった。

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