- 609 名前: ◆gFPbblEHlQ :2015/09/14(月) 22:14:49 ID:AywYk0Tg0
≪1≫
荒巻とマニーが病室に入ると、目を覚ましていたドクオの視線がこちらを向いた。
/ ,' 3 「……二度目になるか」
('A`)「……」
/ ,' 3 「……正気はあるか?」
('A`)「……とりあえず」
まるで自身の傷の深さを知らないかのように、ドクオは呆気なく答える。
¥・∀・¥「この様子だと後遺症も大して無さそうだ。
荒巻よ、さっさと治して本題に入れ」
/ ,' 3 「……必要ならばするが」
('A`)「……いや、いい」
荒巻の申し出を断り、ドクオは目を閉じて言った。
('A`)「自分でやる」
.
- 610 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:17:10 ID:AywYk0Tg0
言葉の後、ドクオの体にあった全ての傷がほのかな発光と共に治り始めた。
折れて砕けた全身の骨が再構成され、体表の傷跡もさっぱり消え去っていく。
('A`)「……」
しかし、損傷が激しすぎた体の一部分は完治しなかった。
ドクオは、ズタズタに潰れたまま動かない自身の右腕を見つめた。
/ ,' 3 「中途半端に残っても無駄だ。落としてやろう」
('A`)「これも自分でやるよ。だれか刃物とってくれ」
ミセ*;゚ー゚)リ「……ど、どうぞ」スッ
ミセリは逸早くハサミを差し出した。
ドクオは一瞬ほほえみ、それを受け取って刃を右腕に当てる。
振り上げ、真っ直ぐに振り下ろした。
ハサミの刃などとても人体を切断できるものではないが、次の瞬間、ドクオの右腕はベッドに落ちていた。
もちろん、それは既に腕として表現できる状態にはなかったが。
ミセ*;゚ー゚)リ「うっわ……」
(;'A`)「いってー……」
切断面を止血し、ドクオはすこし背中を丸めた。
.
- 611 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:18:11 ID:AywYk0Tg0
(;'A`)「……なあ」
ドクオはミセリに話しかけた。
ミセリは視線を返し、彼の言葉を待った。
(;'A`)「お前、大丈夫だったか? けっこう酷かったろ、傷」
ミセ*;゚ー゚)リ「……あ、はい。大丈夫です」
(;'A`)「……ならいい。よかったよかった」
「状況は、理解しているか?」
途端、佐藤の重々しい声が病室に響いた。
本題を急いだのか、紆余曲折を省いた質問をドクオに投げかける。
('A`)「なんとなく。できれば全員に自己紹介してほしいけど」
「佐藤だ。クソワロタの街を仕切っている」
簡潔に言い、佐藤はさらに質問する。
「昨日の話だ。謎の能力者が街で暴れ、多くの人命を奪った。
君はそれと戦ってそうなった。覚えているか?」
.
- 612 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:20:25 ID:AywYk0Tg0
('A`)「大体覚えてる。途中から記憶ねえけど」
「そうか。ではまず、感謝する。
君が居なければ被害はもっと拡大していただろう」
('A`)「別にいい。こんだけ良い部屋に匿ってくれてんだし」
「……では次に聞きたい。敵の正体は分かるか?」
('A`)「……」
¥・∀・¥ 「ヒントでも出してやれ」
/ ,' 3 「黙ってろ」
('A`)「……いや」
彼自身の心に変化があったのか、或いは心そのものに亀裂が入ったのか。
ドクオは表情こそまったく変えなかったが、顔を伏せて静かに言った。
('A`)「……分かるさ。分からない訳がないだろ」
.
- 613 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:21:26 ID:AywYk0Tg0
/ ,' 3 「……ヤツは意を決した」
/ ,' 3 「どこにも属さず、誰にも組せずを選んだ」
/ ,' 3 「……それは、多くの者にとって看過できんことだ」
荒巻はドクオのベッドに腰掛け、間を置いてから開口した。
積み上げてきた威厳や風格を放棄した今の荒巻は、ただの人間に過ぎなかった。
それこそ――ただの人間として存在すること自体が、荒巻にとって何よりの誠意だった。
/ ,' 3 「……事情を話すとな、私はこれから命懸けで戦わねばならん。
ミルナとは別の敵、『顔付き』という集団だ」
/ ,' 3 「正直なところ、勝機はない。ヤツが味方になってくれん限り、私は負ける。
戦力的な理由ではない。あの男でなければ倒せんのだ」
/ ,' 3 「だが、ヤツが味方になることはもう無いだろう。
よって、私はヤツを殺して力を奪う。それでも勝てるとは限らんが……」
.
- 614 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:22:24 ID:AywYk0Tg0
/ ,' 3 「……お前、ミルナをどうしたい」
荒巻の真剣な表情がドクオを捉える。
/ ,' 3 「こちらは即、殺す気でいる。
そこの二人、マニーと佐藤も同意見だ」
('A`)「……そこに俺の意見が必要なのか? 荒巻スカルチノフ」
/ ,' 3 「お前は我々に関わった。ゆえに対等だ。
まだまだ未熟とはいえ、tanasinnを知る者は誰であれ見くびるつもりはない」
/ ,' 3 「単純な話、立ち位置を示してほしいのだ。
関係者の一人として、お前の方針を把握しておきたい」
('A`)「……」
ドクオは、しばし沈黙した。
いろんな考えが浮かんでは消えていく。
しかし、どうしても決定を下すほどの動機が見当たらなかった。
そうだ――俺にはそれが欠けている。
一瞬の独白は、思考の波に呑み込まれた。
.
- 615 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:23:57 ID:AywYk0Tg0
('A`)「……一日くれ。考える時間が欲しい。
それに、先に済ませたい事もある」
/ ,' 3 「……分かった。一日だけ待とう。
一日だけ、我々は行動を自粛する。二人もそれでいいな?」
マニーと佐藤にそれぞれ同意を求めると、彼らは軽く頷いて答えた。
('A`)「あと誰でもいいけど車貸してくんねえかな。
遠くに用があるんだ。徒歩じゃ時間が掛かる」
「送迎なら私が手配する。監視の意味も含んでしまうが」
('A`)「いいよ。逃げ隠れしても意味ねえし」
ミセ*;゚ー゚)リ「あ、あの」
方針が決まってさっさと話が進む中、ミセリは弱々しく挙手して言った。
ミセ*;゚ー゚)リ「わ、私はどうすれば……」
('A`)「……一緒に来る?」
ミセ*;゚ー゚)リ「……そうします。邪魔でしょうけど……」
その後、ドクオとミセリは佐藤に用意された車に乗り込み、クソワロタの街をあとにした。
.
- 616 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:24:37 ID:AywYk0Tg0
≪2≫
<_プー゚)フ「……暇だ」
エクストは、暇を持て余していた。
おばちゃんから引き継いだ八百屋を営んではいるが、客は完全に絶滅している。
町の人間がエクストの他に誰も居ない以上、それは当然の事でもあった。
町に人が居ない理由は単純だった。
住民達のメシウマ側への移住――それを交換条件にして、かつてエクストはこの町を出たのだから。
<_プー゚)フ「散歩でもするかぁ……?」
しかし町の中は既に何十週もして飽きてしまった。
町を出てもひたすら荒野。エクストは溜め息をこぼし、快晴の空を見上げる。
<_プー゚)フ「……暇にも程がある……」
一人になって、独り言が増えた。
.
- 617 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:25:17 ID:AywYk0Tg0
('A`)「……なんだよ、平気そうだな」
<_プー゚)フ「まあなー」
呑気な声を聞き、エクストは空に向けていた視線をゆっくりと下ろした。
<_プー゚)フ「……いらっしゃい。悪いがなんもねえぞ」
('A`)「八百屋の体裁くらい保っとけ。おばちゃんに怒られんぞ」
<_プー゚)フ「俺の店だ。勝手にしていいって言われてる」
('A`)「……じゃあまあ、いいけどさ」
思ってもいない軽口を飛ばしあい、二人は薄っぺらい笑みを作った。
.
- 618 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:26:01 ID:AywYk0Tg0
('A`)「……足はそのまんまか」
<_プー゚)フ「……お前こそ、右腕はどうした?」
('A`)「……ツケを払った」
<_プー゚)フ「……俺と一緒か。まあ、中に入れよ。
暇すぎて気が狂いそうだったんだ」
エクストは車椅子を反転させ、ドクオとミセリを手招いた。
<_プー゚)フ「そっちのヤツも遠慮しなくていいからな。
お前、ドクオの女だろ?」
ミセ*;゚ー゚)リ「違います。付き添いです」
('A`)「エクスト、あとで説明するから適当に喋んな」
<_プー゚)フ「……お前って訳有りが好きなのか?」
('A`)「……」
<_プー゚)フ「……何でもねえ。とにかく入れ、暑いだろ」
ぬるいぎこちなさを残したまま、エクストは早々に奥に引っ込んでいった。
逃げるというより、なにかを急いでいるような様子だった。
.
- 619 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:26:52 ID:AywYk0Tg0
ミセ*;゚ー゚)リ「……お友達ですか?」
ふと、ミセリがドクオの顔を覗き込んで言う。
気まずい雰囲気を少しでも和らげようと、精一杯の笑みを作りながら。
('A`)「……昔のな。エクストって名前。ここで一緒に育ったんだ。
まあ、そんで最近、色々あってな」
色々、という言葉は誤魔化しだった。
ミセリはそれを察し、曖昧な相槌をして押し黙った。
('A`)「……悪い奴じゃないから安心してくれ。
ただまあ、お前は居心地が悪いかもな」
ミセ*;゚ー゚)リ「そんな、別に」
('A`)「車で待ってろよ。あっちのが快適だぜ」
ミセ*゚ー゚)リ「……嫌です。一番近くに居ます」
( 'A`)「……分かった」
ドクオは不意に歩き出し、ミセリを置いていくような早足で屋内に入った。
ミセ*;゚ー゚)リ「あ、ちょっと待って!」
ミセリは、せわしない足取りで彼の後を追いかけた。
.
- 620 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:28:01 ID:AywYk0Tg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
見覚えのある畳の部屋に入り、ドクオは座布団に腰を下ろした。
ミセリも座布団を用意し、彼の背中に隠れるように座り込んだ。
<_プー゚)フ「言っとくけどマジでなんもねえぞ。
用があんならさっさと済ませようぜ」
エクストは車椅子から自力で降りると、ほふくして座椅子の上に移動した。
その座椅子は、両脚を失った彼の為にデミタスが送りつけたものだった。
車椅子も同様の理由でデミタスが用意した。
組織として最低限の補償をする義務がある、というデミタスの言い分から、エクストは渋々これらを受け取っていた。
座椅子の肘掛で体を支え、エクストはドクオに向き合った。
<_プー゚)フ「水道がイカレ始めてな、水もちょっと濁ってる」
('A`)「……風呂とかどうしてんだ」
<_プー゚)フ「ちゃんと入ってるよ。清潔な水で毎日な。
多少やりにくいが、日常生活は以前よろしく送れてる」
.
- 621 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:28:42 ID:AywYk0Tg0
<_プー゚)フ「……なあ、なんで来た」
エクストはうつむき、脚の付け根を力強く撫でつけた。
彼の脚は太ももすら残っていない。その現実を重々認識しながら、幻肢の感覚を抑え込む。
<_プー゚)フ「……いや、なんでじゃねえか。
理由なんざいくらでもあるわな。まあ、理由はいい」
<_プー゚)フ「……そっちの子、名前は?」
エクストは顔を上げてミセリに言った。
ミセ*゚ー゚)リ「あ、ミセリって言います。言うらしいです」
<_プー゚)フ「らしい、ってのは?」
ミセ*゚ー゚)リ「なんでも記憶喪失らしくて。あんまり自分を分かってないんです」
<_;プー゚)フ「……それがなんでコイツと?」
ミセ*゚ー゚)リ「助けられたんです。私、殺されかけてて、そこにドクオさんが」
.
- 622 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:29:26 ID:AywYk0Tg0
<_;プー゚)フ「……それでお前も右腕やられたのか」
('A`)「……すげー強いヤツだったんだ。
これだけで済んでよかったと思ってるレベル」
薄弱な笑みを見せ、ドクオは自身の右腕に目を向けた。
今はただ空っぽの袖がはためくだけで、そこに血肉は無い。
('A`)「……なんかさ。夢を見たんだよ」
<_プー゚)フ「……悪い夢か?」
('A`)「素直クールが出てきた。そういう夢」
ミセ*゚ー゚)リ「……えっと、誰ですか? その人」
ミセリが二人の顔をキョロキョロ見回しながら尋ねる。
<_プー゚)フ「こいつの恋人。年上で綺麗な人だったぞ」
('A`)「恋人じゃない。適当に言うな」
<_プー゚)フ「曖昧よりはマシだろ?」
('A`)「……まあ、そうだけど」
ミセ*;゚ー゚)リ(……お、女絡みでなんかあった感じがする!)
女の感が冴え渡る。
ミセ*;゚ー゚)リ(これ絶対ついてきちゃ駄目なやつだった!)
.
- 623 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:30:09 ID:AywYk0Tg0
ミセ*;゚ー゚)リ(ど、どうしたものか……。
居るって言った手前、とても帰りにくい……)
ミセリの葛藤をよそに、ドクオが話の続きを切り出した。
('A`)「夢の中で言われたんだ。お前に会え、本当のことを聞けって」
('A`)「……何のことだか分からないし、ただの夢だけど、心当たりはあるか?」
<_プー゚)フ「……それを聞く為に、来たんだな?」
('A`)「……ああ」
<_プー゚)フ「……なら、分かった」
とたん、エクストは薄弱な溜め息を漏らした。
肘掛を不安そうに握り締め、しばらくの間、単調な呼吸を繰り返す。
それを終え、エクストは口を開いた。
<_プー゚)フ「……分かった。多分、あの事だ」
<_プー゚)フ「その夢、きっと本当だぜ。
お前が俺達の嘘に気付くなんて、絶対にありえないからな」
.
- 624 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:31:23 ID:AywYk0Tg0
('A`)「……話があるなら聞かせてくれ」
<_プー゚)フ「分かってる。当然そのつもりだ」
淡々と、作られた笑顔の口で言う。
本心を追いやって人と話すことは、デミタスから重々教え込まれた。
<_プー゚)フ「……お前さ、自分の生まれとか、知らないだろ」
<_プー゚)フ「どういう所で生まれて、育って、ここに来たか」
('A`)「……それは……」
今まで、そんなこと興味すら湧かなかった。
ドクオは呆気にとられてしまい、エクストの問いに答えられなかった。
<_プー゚)フ「……俺がそれを聞いたのは、デミタスさんがここに来たその日だ。
クールさんが、俺と町の人達にそれを話した」
<_プー゚)フ「……俺はこの話を聞かせたくない。
でも、それは俺の身勝手だ。だから、そのままをお前に伝える――」
.
- 625 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:32:07 ID:AywYk0Tg0
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第二十七話 「悪性萌芽 その1」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
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- 626 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:33:59 ID:AywYk0Tg0
≪3≫
何十年も前の話だ。
素直クールは追手から逃げていた。
荒巻スカルチノフ、そして『顔付き』という集団。
絶え間なく、それこそ寝る間も削ってひたすら逃げ続ける毎日。
利用価値があるが故に、彼女はそんな日常を強制されていた。
.
- 627 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:34:47 ID:AywYk0Tg0
ある日、彼女はとある第三者に出会った。
素直クールは、その第三者を仮に 『内藤』 と呼んでいた。
内藤はとびきり強い能力者、ではなかった。
かわりに彼の超能力は逃避、隠蔽、偽装に長けており、なにより彼の頭脳は世界随一と言えるほど優秀であった。
藁にもすがる思いで内藤の力に頼ると、内藤はすぐさま行動に移った。
そして実に呆気なく、彼女は荒巻スカルチノフと 『顔付き』 の追跡から解放されたのだ。
その後、素直クールは彼に匿われる対価として、内藤の研究に手を貸すことになった。
この話は、素直クールが彼の実験を初めて見たところから始まるのだった。
.
- 628 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:35:55 ID:AywYk0Tg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
( ^ω^)「――僕もね、タナシンとやらには興味があったんだ」
内藤の研究施設。
三層で出来たこの施設は、観光客で賑わうホテル街の地下深くに位置していた。
多くの雑踏が彼らの頭上を闊歩している。
彼の研究室は小奇麗だった。
資料はちゃんとファイリングされており、無数にある電子機器の配線も事細かに整列している。
机や椅子の脚、花柄の壁紙、フローリングの溝すら清潔を極めていた。
( ^ω^)「存在そのものは知っていたが、とてもじゃないが関わりにいけなかった。
僕みたいな弱い人間が不用意に関わったら、殺されちゃうからね」
( ^ω^)「しかし、キミが来てくれた。これは利害の一致だよ」
( ^ω^)「キミは彼らから逃げて安全に暮らしたい。それは僕が提供する」
( ^ω^)「僕はタナシンについて深く知りたい。それは、キミが提供する」
.
- 629 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:37:47 ID:AywYk0Tg0
川 ゚ -゚)「……それは構わないが、具体的に何をすればいい」
川 ゚ -゚)「片鱗ならばいくらでも作れるが、それでいいか?」
( ^ω^)「いくらでも、か。それはいい。
研究材料には事欠かない。存外、費用は安く済むかな」
我ながら凄いことを言った、という素直クールの自負は、内藤の素っ気無い反応で水に流された。
tanasinnの片鱗を無数に作れる事の重大さを知っているだろうに、内藤は表情を大きく変えなかった。
川 ゚ -゚)「……それで、片鱗を研究するのか? 自分で使わずにか?」
( ^ω^)「そうだよ。僕はね、分からないものを使いたくないんだ」
( ^ω^)「分からないって、怖いだろう? だから理解したいんだ。
制御できない力なんて、本当に怖いよ」
( ^ω^)「僕の研究スタンスはひとつ。
分からないものを、分かるまで研究する」
( ^ω^)「そうだ! キミにも研究のひとつを見せよう」
( ^ω^)「僕にとって一番大事な研究だよ。
十歳の時、家族で実験して以来、続けている研究なんだ」
内藤は素直クールを引きつれ、足早に研究室を出た。
細長い廊下を進み、階段を下って階下に移る。
.
- 630 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:38:39 ID:AywYk0Tg0
( ^ω^)「さてと」
階段の先には広い空間があった。
ここは研究施設の三層目、主に実験施設として機能している。
内藤は壁一面を埋めている多数のモニターを一斉に起動させ、モニター前の椅子を引いた。
( ^ω^)「キミはここで座って見ていてくれ。
僕は中で実験作業をしてくるから」
内藤はそう言ってドアを指差し、そこに向かって歩き出した。
( ^ω^)「好きに操作してね。感覚的に分かるようにできてる」
言い残し、内藤はドアの向こうに消えた。
川 ゚ -゚)「……」
素直クールは椅子に座り、モニターを一望した。
その内の一つに内藤の姿が映ったので、彼女はとりあえず、彼の姿を目で追っていくことにした。
.
- 631 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:39:19 ID:AywYk0Tg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
( ^ω^)「簡単に言うと僕は人間を研究してるんだ。
ぶっちゃけこの世の何よりも人間が分からないからね」
内藤はモニターされているカメラに向けて声を放った。
( ^ω^)v「まあ見てて。この実験、人に見せるのも初めてなんだ。
だから後で感想が聞きたいんだ。よろしくね」
ブイサインの後、内藤はいよいよ実験室に足を踏み入れた。
.
- 632 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:40:10 ID:AywYk0Tg0
――実験室の構造はシンプルだった。
長い通路に、横一列の五十個ほどのドア。
ドアの数だけ部屋があるとすればかなり大掛かりな構造だが、言ってしまえば部屋が多いだけの空間。
( ^ω^)「今、この部屋には女の子が入ってる。子供だ」
内藤はしばらく歩き、まず最初に、左端のドアの前に立った。
( ^ω^)「作業は簡単だよ。部屋から彼女を出して、一個隣の部屋に移す」
( ^ω^)「そして隣の部屋の掃除を彼女にしてもらう。それだけさ」
( ^ω^)「これを部屋の数だけ繰り返す。それじゃあ始めるね」
ドアを軽くノックすると、程なくして部屋から女の子が顔を出した。
少女は晴れ晴れしい笑顔を内藤に見せ、ぴょんと跳ねて内藤に抱きついた。
从'ー'从「おじさん、元気だった!?」
( ^ω^)「ははは。元気だよ。キミほどじゃないけどね」
内藤は彼女の頭を撫で、同じように笑顔を作った。
.
- 633 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:40:50 ID:AywYk0Tg0
从'ー'从「今日はどうしたの? ご飯はまだだよね?」
( ^ω^)「渡辺ちゃん。ここのルールは、覚えてるかな」
从'ー'从「……あ、部屋替えだっけ? するの?」
( ^ω^)「新しく来た子をこの部屋に住まわせたいんだ。
ここは一番住み心地がいいからね、心を休ませるにはこの部屋が一番なんだ」
内藤が言うと、渡辺と呼ばれた少女は苦い表情になった。
从'ー'从「わたし、ここから出たくない〜……」
( ^ω^)「はは、あんまりワガママを言ってはいけないよ。
僕は確かにキミを助けたけど、キミ以外の子も助けなきゃいけないんだ」
( ^ω^)「大丈夫さ。ちょっと狭くなるけど、隣の部屋もここと大差ないからね」
从'ー'从「……分かったぁ」
渡辺は渋々承知し、内藤に手を引かれて通路に出た。
.
- 634 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:41:30 ID:AywYk0Tg0
( ^ω^)「ありがとう」
( ^ω^)「それじゃあ、隣の子にも部屋を移ってもらわなきゃね」
从'ー'从「え、そうなの?」
( ^ω^)「みんなに一部屋ずつ、隣に移ってもらうんだ。
大丈夫。新入りの子のためだから、みんな分かってくれるんだ」
从'ー'从「へぇ〜」
内藤は隣の部屋をノックした。
出てきた少女に部屋替えすることを伝え、渡辺を室内に押し入れる。
从'ー'从「それじゃあまたね! ないとーさん!」
( ^ω^)「ははは。元気でね」
( ^ω^)「……それじゃあ、隣の部屋に行こうか」
( ^ω^)「大丈夫だよ。ちょっと狭くなるけど、この部屋と大差ないからね」
内藤は次の少女を引き連れ、また隣の部屋に。
そして次の子を連れ、隣に。
内藤は、それをひたすら繰り返した。
.
- 635 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:42:11 ID:AywYk0Tg0
⌒*リ´・-・リ「……あ、あの」
不安そうに声を出したのは、30番目の少女だった。
31番目の部屋の前で、彼女は内藤の手を握りしめて内藤を見上げた。
( ^ω^)「どうしたんだい、リリちゃん」
.
- 636 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:42:52 ID:AywYk0Tg0
⌒*リ´・-・リ「わたし、この部屋いやです……」
( ^ω^)
( ^ω^)「おやおや、それは、それは……」
内藤はたっぷり頬を弛ませ、床に片膝をついてリリに向き合った。
( ^ω^)「どうしてだい? お願いには、理由が無いと」
⌒*リ´・-・リ「この部屋、いつも変な音が聞こえてきてて……」
⌒*リ´・-・リ「……それに、またちょっと狭くなるんでしょ?」
( ^ω^)
( ^ω^)「大丈夫だよ。さっきの部屋と大差ないからね」
⌒*リ´・-・リ「……内藤さん、わたし、前の部屋がいい」
( ^ω^)「……どうしてだい?」
.
- 637 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:44:03 ID:AywYk0Tg0
⌒*リ´・-・リ「……」
( ^ω^)「……理由がないなら、それは聞けないなぁ」
内藤はリリの制止を払ってドアをノックし、中の子供を呼び出した。
そうして出てきた少女は、手に赤の色鉛筆を持っていた。
(*゚∀゚)「……なあに」
( ^ω^)「さあ、部屋替えの時間だよ」
( ^ω^)「つーちゃん。隣の部屋に行ってくれるかな」
( ^ω^)「安心してね。ちょっと狭くなるけど――」
内藤の言葉を無視し、つーちゃんが颯爽と部屋を飛び出した。
⌒*リ;´・-・リ「キャッ」
つーちゃんはリリを押し倒して馬乗りになり、手にある色鉛筆を高々と振り上げる。
( ^ω^)「こらこら」
内藤が笑って止めに入った瞬間、つーちゃんの色鉛筆がリリの右目に突き刺さった。
.
- 638 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:45:14 ID:AywYk0Tg0
⌒*リ;´ - リ「やめッ……いた、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッッ!!」
(*゚∀゚)「へへへバーカ! テメーまだ分かってねえのかよ!」ゲシゲシ
つーちゃんは立ち上がってリリを数回蹴りつけ、そのまま逃げるように室内に戻っていった。
残されたのは、血交じりの嗚咽と聞き苦しい泣き声だ。
( ^ω^)「……立てる?」
しかし、内藤は平然と彼女に尋ねる。
ただ転んだだけだろう、とでも言いたげな冷たさを含んで。
⌒*リ´ - リ「エ゙ホッ、ないとう、さん……」
( ^ω^)「さあ、どうしようねえ」
内藤は床に座りこみ、這いずるリリに語りかける。
( ^ω^)「キミの部屋はここなんだけど、説得は失敗したみたい。
となると、キミの部屋がないんだけど、どうしようか」
( ^ω^)「もう一回、彼女を説得するかい?」
彼がドアをノックする素振りを見せると、リリは恐怖心だけで彼の手を止めた。
⌒*リ;´ - リ「やっぱりこの部屋おかしい! ぜったいいやです!」
( ^ω^)「うんうん。じゃあ、奥にまだひとつ空き部屋があるけど、どうする?」
⌒*リ;´ - リ「そ、そこにします! ここより絶対いい!」
( ^ω^)「分かったよ。それじゃあ行こうね」
.
- 639 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:45:54 ID:AywYk0Tg0
内藤は満身創痍のリリを抱きかかえて通路を歩いていった。
そして、右端から2番目の部屋の前で立ち止まる。
( ^ω^)「ここだよ」
⌒*リ;´ - リ「……あの」
リリは、気付いたようだった。
( ^ω^)「部屋の掃除は後から入った人がやるルールなの、覚えてるよね?」
( ^ω^)「よいしょっと」
内藤はリリをそっと降ろし、ドアの前に立たせた。
そこで、数分の沈黙が始まった。
( ^ω^)「……」
⌒*リ;´ - リ「……」
( ^ω^)「……どうしたのかな」
⌒*リ;´ - リ「……」
( ^ω^)「大丈夫だよ。ちょっと狭くなるだけさ」
.
- 640 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:48:29 ID:AywYk0Tg0
( ^ω^)「……分かった分かった。
それじゃあ、分かりやすく聞いてあげる」
痺れを切らせた内藤は、その部屋のドアを開けた。
しかしドアの向こうは壁で、部屋と言えるような空間は無かった。
かわりに、足元には人が入れる程度の、四角いくぼみがあった。
――そう、部屋とされていた場所は、ただのくぼみでしかなかった。
内藤は足元のくぼみを指差し、リリに告げる。
( ^ω^)「ここか、あっちかだよ」
決して選択を急いでいるのではなかった。
選択肢を明確にすることで、彼女の理性を無理に機能させているのだ。
( ^ω^)「あっちなら、彼女をどうにかしなくちゃね。
でも彼女は絶対に部屋を空けてくれないだろうね。じゃあ、どうしよう?」
( ^ω^)「でもこっちなら、中身を掃除してから入ってね」
『中身』という言い方に、リリはぞっとする悪寒を覚えた。
ふと、彼女は意図せずして『中身』を見てしまった。
こんな閉鎖空間に詰め込まれて死んだ、その『中身』と目を合わせてしまった。
⌒*リ;´ - リ「……い、いやです」
( ^ω^)「あの子をどうにか出来ないなら、ここに入るしかないんだよ」
( ^ω^)「大丈夫だよ。絶対に死なない設計になってるし、僕が必ず生存させるから」
( ^ω^)「よく見て。これは自殺だよ。だからキミが自分で死なない限り、大丈夫なんだ」
.
- 641 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:49:37 ID:AywYk0Tg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
( ^ω^)「――と、いう感じ」
内藤はそう言いながらモニター室に帰ってきた。
( ^ω^)「まあつまり、どんどん部屋を小さくすると人はどう反応するかなって実験だよ」
( ^ω^)「今回の場合、つーちゃんは実験を察していたからリリちゃんを襲ったんだね。
で、リリちゃんは勘付いてはいたけど確信していなかった。だから簡単に襲われた」
川 ゚ -゚)「……」
( ^ω^)「でも意外だったよ。リリちゃん、あの部屋に入ったんだもん。
普通なら殺してでも良い部屋を取るよね。キミはどう?」
川 ゚ -゚)「……彼女達は、なんだ?」
( ^ω^)「……人だよ? 子供の」
素直クールは既に理解していた。
自分を助けた男が、一体どういう人間なのか。
川 ゚ -゚)「……悪趣味、いや『悪』そのものだ。今すぐ彼女達を解放しろ」
( ^ω^)「……逆じゃない? ただの『趣味』だよ」
クールの敵意を、彼は簡単に言い返す。
.
- 642 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:50:40 ID:AywYk0Tg0
( ^ω^)「ま、なんとでも言っておくれよ」
( ^ω^)「僕はただこれを見せたかっただけだし、
キミが嫌ならもう二度と、こういうものは見せないよ」
( ^ω^)「見てて単調でつまらなかっただろう? 普段は劇的にやるけど。
今回はそういう風にしたのさ。現象そのものを冷静に把握してもらうためにね」
( ^ω^)「どれだけ表現が稚拙だとしてもね、人間はとりあえずその様子を想像する。
刺されてるなぁ、痛そうだなぁ、とか」
( ^ω^)「僕が欲しかったのはそういう他人事としての感想なのね。
主観が強いと人は善性を保とうとしてしまうから」
( ^ω^)「……で、その結果キミがそう思ったなら、それはキミの本心だ。
僕はそれを尊重する。嫌なものを見せてごめん、反省したよ」
一通りを語ったブーンは口を閉じ、素直クールに発言権をパスした。
川 ゚ -゚)「……助けてもらった手前、力尽くは最終手段に据えておく。
だが、早々に中止しなければ本当に――」
( ^ω^)「よし、それじゃあこの実験は終わりだ」
クールが脅し文句を言い終わる前に、内藤はポンと手を叩いて決定した。
彼にとって、この実験は本当に趣味でしかなかった。
一番大事と言っても、それは趣味という範疇での話だ。
ならば今後実益をもたらす素直クールの反感を買うより、
今は趣味をひとつ我慢した方が利口なのは道理だ。
それに、と言って内藤は顎をさする。
( ^ω^)「もうこの実験は終わろうと思っていたんだ。大体のパターンも出尽くしたし。
あと興味があるとすれば、右端の一個体だけだったしね……」
.
- 643 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:51:37 ID:AywYk0Tg0
川 ゚ -゚)「……右端だと?」
先程、内藤ですら回避した右端の部屋。
実験が彼の言う通りなら、あの部屋は一番狭くなっているはずだ。
子供だとしても、とても人間が入っていられる空間ではない。
( ^ω^)「そうなんだ。あの部屋、もうずっと同じ子が占領してるんだよ。
名前は、……えっと、なんだったかな」
( ^ω^)「まあいいとして、彼以来、男の子を連れてくるのは止めたんだ。
男の子って中々死ななくて、回転が悪いから」
川 ゚ -゚)「……その子は生きているのか?」
( ^ω^)b「もちろん! でないと実験にならないよ!」
自信満々に言い、内藤はもう一度ドアに走った。
その途中、彼は素直クールを振り返って機敏に片手を差し出した。
( ^ω^)「いいことを思いついた!
キミもおいで、一緒に彼を出してあげよう!」
川 ゚ -゚)「……悪いが遠慮する。先に戻るぞ」
内藤はそう言って踵を返した彼女を、じっとりと観察した。
( ^ω^)「ははは、釣れないなあ」
.
- 644 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:52:40 ID:AywYk0Tg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
素直クールが第一層に上がると、彼女の前に一人の男が立ちはだかった。
彼はクールを見るなり先を歩き出し、彼女をどこかへ誘導し始めた。
川 ゚ -゚)「……お前は誰だ」
男は立ち止まって少し振り返り、小さな声で名乗った。
('A`)「……ドクオ。あれのモルモットとして飼われてる」
川 ゚ -゚)「……なら、お前がこの層を持ってきたのか」
地下の第一層は居住空間。内藤の研究室もこの第一層にある。
内装はホテルのようで、というかホテル一階分の空間が丸々ここにあった。
実験の過程で発生した 『転移能力』 を友人に使わせたと内藤は言っていたが、その友人とは彼のことらしい。
その能力をもって、地上のホテル最上階を丸ごと頂いたそうだ。内装が立派なのはそのせいだろう。
('A`)「そろそろ夕飯にする。壁をぶち抜いて作った大部屋があるから、そこに案内しに来た」
川 ゚ -゚)「……そうか」
('A`)「……寡黙だな。女はもっと喋るものだと思っていたが」
期待外れと言わんばかりに溜め息をつき、ドクオはさっさと前に進んだ。
やや距離を置いて、クールも彼の後を追って歩き出す。
.
- 645 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:53:20 ID:AywYk0Tg0
('A`)「……見てきたんだろう、あれの実験を」
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「……絶句、という感じではないな。
ああいうものは既に見慣れていたか。それはそれで、同情を誘うが」
('A`)「お前の事情は聞いている。しかし運が悪かったな。
あれに頼るのは愚策の極みだ。経験者が言うんだ、間違いないぞ」
川 ゚ -゚)「……経験者、とは」
クールが言葉を繰り返す。
すると、ドクオは鼻で笑ってからそれに答えた。
('A`)「そこでちゃんと聞き返す辺り、まんざら無口でもないらしい。
ここにはまともな話し相手が居ないんだ。返事があって嬉しいよ」
('A`)「ああ、察しのとおり俺もあれと訳アリだ。そして今は後悔している。
今でこそ従順に生活しているが、あれの寝首をかく準備は整っている」
川 ゚ -゚)「……ならなぜ、すぐに実行しない?」
('A`)「……単純。あれの底が知れんからだ」
ドクオは眉間をすぼめ、握り拳を作って言った。
.
- 646 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:54:10 ID:AywYk0Tg0
('A`)「あれの能力は知っているだろう。超能力含め、あれの持つ技術も」
('A`)「あれはとにかく逃げ隠れに特化している。
それを狙い仕留めることがどれだけ困難か、俺はまだ想定しきれていない」
('A`)「さっき準備は整っていると言ったが、それは現状の俺が出せる最善の策に過ぎん。
自信ありと唱えたいところだが、きっと容易く看破されてしまうはずだ」
川 ゚ -゚)「……なんにせよ、こんなところで平然とする話ではなかったな。
今ので全部バレただろ、監視カメラとかで」
('A`)「いや問題ない。後であれに聞いて確かめるといい。
この三層からなる遊び場には、ほとんど監視システムが無いんだ」
('A`)「動画、音声の記録も一切ない。メモリの無駄だとさ」
('A`)「……ま、当然と言えば当然だがな。あれは誰とも戦う気が無い。
誰がか逃げても代えを用意するだけ。誰かが敵対すれば即座に身を隠すだけだ」
川 ゚ -゚)「……なら、お前も何も考えず逃げればよくないか?」
('A`)「……あいにく特別でね。逃がすと代えがない。俺も、あんたも」
.
- 647 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:54:55 ID:AywYk0Tg0
('A`)「――自己紹介をやりなおす」
とたん、ドクオが足を止めて体ごと振り返った。
('A`)「俺は四番目にして最後の成功例、ドクオ。
あれの実験で生み出された人工生命だ」
('A`)「一応、顔付きのリーダー格を模倣して作られたらしい。
おかげで人間離れしたことが沢山できる」
素直クールはじっくりとドクオの肉体を観察し、結論を出した。
川 ゚ -゚)「……遠く及ばんな、あれには」
('A`)「……だろうな。だからあれはお前を連れてきた。
まあ人口生命の研究は俺で終わりになった。
努力の甲斐あって、想定どおりの結果は出たらしいが」
('A`)「ちなみにタナシンの実験には俺が付き合う。
碌な目に会わんだろうが、証拠隠滅の為にバラバラにされるよりはマシだ」
.
- 648 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:56:48 ID:AywYk0Tg0
川 ゚ -゚)「……色々と思うことはあるが、とりあえず聞いておきたい。
アイツの目的はなんだ?」
('A`)「……素直クール。あれに対して、そういう真っ直ぐな疑問を持つな」
ドクオは彼女を戒め、冷ややかな表情で言葉を足した。
('A`)「あれはただ、やりたい事をやるために生きている。
目的はその時々で変わる」
('A`)「自分とこの世界に対してひたすら純粋なんだ、あれは。
それ以上の表現をするなら、純粋悪とでも言っておけ」
川 ゚ -゚)「……純粋悪か。似たものを知っている」
('A`)「……なら、しばらく話題には困らないな。口下手だから助かった」
ドクオは再び歩き出し、それっきり口を閉ざした。
しきりに咳払いをしている様子を見るに、どうやら単に喋りすぎただけのようだった。
川 ゚ -゚)(……追々、ここの状況を探っていこう)
素直クールはそのままドクオの誘導についていき、彼の手作りの夕飯をご馳走になった。
こんな環境下では料理くらいしか刺激がないらしく、ドクオは随分と張り切って鍋を振るっていた。
.
- 649 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:57:29 ID:AywYk0Tg0
≪4≫
素直クールが内藤の研究施設に匿われて半年ほどが経過した。
その間、第三層で行われていた内藤の実験はスパッと打ち切られていた。
中に居た少女達は解放こそされなかったが、素直クールが日々面倒を見ることで殺処分だけは免れた。
あとは時折タナシンの研究に付き合うくらいで、素直クールは大体の時間を自由に過ごしていた。
子供たちに囲まれた環境は多少うるさくはあったものの、そんな呆気ない日常は確実に彼女の精神を和らげていた。
いくつかの不安要素残したまま、ではあったが。
.
- 650 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:58:09 ID:AywYk0Tg0
――内藤の研究室。
そこに呼び出されたクールは、部屋に入ったとたん内藤に質問された。
( ^ω^)「知らせが四つ。善し、普通、悪し、悪し」
( ^ω^)「キミはどれから聞きたい?」
川 ゚ -゚)「……その順番でいい」
( ^ω^)「オッケー。じゃあ座って」
促されるまま椅子にかけ、クールは内藤と向き合う。
( ^ω^)「タナシンの研究、とりあえず結果を出せたよ。
キミの協力の賜物だね。ありがとう」
川;゚ -゚)「……たった半年でか? どう考えても無理なんだが……」
( ^ω^)「ああもちろん満足のいく結果じゃないよ。
でもまあ形になって何かができたんだ。喜ぶべきさ」
( ^ω^)「過程における第一歩を踏んだ、という事だよ。
何もできないより、何かができた方がいいだろう? たとえそれが失敗でもさ」
.
- 651 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 22:58:49 ID:AywYk0Tg0
( ^ω^)「じゃあ次ね。実験でできたコレをテストしたいんだ」
内藤はポケットをまさぐり、中から小さな石ころを取り出した。
それには見覚えが――いや、似ているが違う。
クールは即座に認識を改め、内藤の顔を見直した。
( ^ω^)「これは人工的に作ったタナシンの片鱗。
命名はそのまんま。人口片鱗」
( ^ω^)「やっと形状を保持できてね。これをさっそく試したい」
川 ゚ -゚)「……試すのはいいが、失敗作だぞ。
それはお前自身も分かっているだろう」
( ^ω^)「うん。でも失敗結果も立派な結果さ。
それに多分、使っても死んだりしないよ」
( ^ω^)「これは確かに失敗作だ。使っても荒巻や顔付きの彼みたいにはなれない。
でもね、代わりにこれは人の一線を超えることができるんだ」
( ^ω^)「この人口片鱗はね、人の悪意を増大させるんだ。
分かりやすく言うかい? 怒りや恨みのブレーキをね、取っ払うんだ」
川 ゚ -゚)「……それだけなら、なおさら失敗だな」
( ^ω^)「あはは、そこまで無能じゃないってw」
.
- 652 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:00:29 ID:AywYk0Tg0
( ^ω^)「――本家の『tanasinnの片鱗』は、人の願望そのものをエサにする」
( ^ω^)「荒巻はひたすら万能である事を望んだ。
キミは永遠の非現実を望んだ」
( ^ω^)「ミルナは、まあ知らないけど」
( ^ω^)「とにかくね、タナシンの好物は人の感情や願望だと思うんだ」
( ^ω^)「そこで今度の実験さ」
( ^ω^)「ブレーキの無い感情、歯止めの無い願望をもった人間が、もし本家片鱗を使ったら」
( ^ω^)「いったいどうなるんだろう? という実験がしたいんだよね」
.
- 653 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:01:09 ID:AywYk0Tg0
川 ゚ -゚)「……つまりその失敗作を利用して、より正確なデータを得るのが目的か」
(* ^ω^)σ「そーそー! 限界値を知りたいんだ、本家のさ!」
クールが内藤のセリフを言い当てると、彼はさらに饒舌になった。
(* ^ω^)「やっぱりあれは僕の想像以上のものだと思うんだよね!
だから数年はデータの蒐集に特化することにしたんだ!
でないと本物に近しいものなんて作れない! 物事は順序だよ!」
ヽ(* ^ω^)ノ「データをとり、失敗作を作り、またデータをとる!
ざっと十年はこれの繰り返しかな! ははは、飽きない話だ!」
とたん、内藤は笑みを消して次の話に移った。
( ^ω^)「で、ここからが悪い話ね」
( ^ω^)「まずひとつ。『顔付き』にここがバレた」
( ^ω^)「ふたつ。ドクオがもう限界。死ぬかもしれない」
川 ゚ -゚)「……そうか」
( ^ω^)「冷静?」
川 ゚ -゚)「いいや、どちらも前々から想像できていた。
特にドクオの方は目に見えていたからな」
( ^ω^)「まーあれだけ失敗作投与したらこーなるよなって感じ。
顔付きの方について、ちょっと相談していいかい?」
.
- 654 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:02:05 ID:AywYk0Tg0
( ^ω^)「とりあえず僕はここに残るよ。
キミが面倒見てる子供たちと一緒にね」
( ^ω^)「ついでに実験もする。
顔付きを相手に、僕が本家と人口の片鱗を使う」
川 ゚ -゚)「……私は勝手に動いていいのか?」
( ^ω^)「うん。でも助言しとく。キミは八極武神のところに行くといい。
あそこは世界一安全な場所だ。あとで場所を教えるよ」
川 ゚ -゚)「……ところで、顔付きの場所がバレてるなら」
( ^ω^)「うん。あと数分で来るよ」
川;゚ -゚)「――それを早く言えッ!!」
クールは叫んで椅子を立ち、地上空間に探知能力の網を広げた。
その瞬間、数人分の反応が急に探知網から消滅した。
恐らくこれが顔付き連中の反応だ。素直クールは確信し、すぐさま逃走の準備に取り掛かろうとした。
( ^ω^)「ははは、さすがに焦ったかい。
キミの部屋でドクオが待ってる。はやく彼と一緒に逃げるんだ」
川;゚ -゚)「……ッ!」
クールは一瞬戸惑ったが、今は内藤の口車に乗ってでも逃げ出すべきだと決断した。
弾けるように研究室を飛び出し、彼女は自分の部屋に駆け込んだ。
.
- 655 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:02:45 ID:AywYk0Tg0
そして武神のところに行ったクール達は色々あってレムナントに来た。
.
- 656 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:03:25 ID:AywYk0Tg0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
<_プー゚)フ「……」
('A`)「……」
エクストが急に話を端折って口を閉ざすと、二人はしばらく沈黙した。
ミセリは適当に喋って場をつなごうとしたが、そうするまでもなく、ドクオが確信を突いた。
('A`)「……お前、まさか」
('A`)「忘れたのか?」
<_プー゚)フ
エクストはニッコリしたまま、小さく頷いた。
('A`)「続き……嘘だろ……」
<_;プー゚)フ「自分の話じゃねえし、だいたい何年前に聞いた話だと思ってんだよ。
むしろこんだけ鮮明に喋っただけでも上等だろ?」
('A`)「でもダメじゃん」
<_;プー゚)フ「……ダメだけどさ」
('A`)「どうすんだよ……」
.
- 657 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:04:05 ID:AywYk0Tg0
<_プー゚)フ「……ぶっちゃけ言うけどな」
とたん、エクストは開き直って呟いた。
<_プー゚)フ「この話をしたところで、多分お前は何も思わねえよ。
要は、お前がクールさんと昔なじみだったってことだ」
<_プー゚)フ「そりゃ紆余曲折はあるだろうよ。
俺には分かんねえけどさ、タナシンがどうこうは」
('A`)「……続きを話す気はない、か」
ドクオは一息ついてから立ち上がった。
確かにエクストの言ったとおり、今更自分の出生に興味はなかった。
なぜ研究所での記憶がないのか。
話に出てきたドクオと今の自分は別人なのではないか。
クール達が武神のもとへ行ったあとの生活――気になる事は多いが、ドクオはそれらの疑問を脳内から一掃した。
('A`)(……そういえば、昔なんか聞いたような)
その瞬間、掃き捨てかけた疑問が、とある記憶に紐付けされた。
ドクオは咄嗟に想起した。
数年前、シベリアで流石母者に聞かされた 『素直クールと先代武神』 の話を。
.
- 658 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:05:33 ID:AywYk0Tg0
('A`)(あの話はたしか、三十年前にクーが先代様を殺して逃げ出したっていう話だ)
('A`)(でも、あの話に俺の名前は出てきてない……)
エクストの話が本当なら、ドクオはクールと一緒に武神の屋敷に行っている。
しかし流石母者の話では、ドクオの存在はすっかり抹消されていた。
どちらかが嘘を――本当のことを隠している。
直感ではあるが、ドクオは母者の話にこそ裏があると思った。
<_プー゚)フ「もう行くのか? って、なんもねぇのに残る理由も無いか」
('A`)「……エクスト。『ドクオ』は、武神のとこで何をした」
一度は誤魔化しかけた話を掘り返し、ドクオはエクストの目をじっと見つめた。
するとエクストは最初から続けていた笑みを消し、冷たく真剣な口調で聞き返した。
<_プ−゚)フ「……どうしても聞くのか」
('A`)「俺はまだあいつと内藤の話しか聞いてない。
肝心の、俺自身の話が聞けてないんだよ」
('A`)「……」
<_プ−゚)フ「……」
.
- 659 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:06:13 ID:AywYk0Tg0
<_プ−゚)フ「……そこ、戸棚を開けてみろ」
しばし黙った後、エクストは壁際の戸棚を指して言った。
ミセ;*゚ー゚)リ「あ、わたし行きます」
('A`)「ああ」
手持ち無沙汰に耐えかねたミセリがここぞと腰を上げ、戸棚を調べに行く。
<_プ−゚)フ「お前がクールさんに貰ったペンダント、あるだろ。
大事なもんなのにおばちゃんに預けやがって……」
('A`)「……」
<_プ−゚)フ「……あれにはお前の記憶が入ってる。ロクでもない記憶だ。
俺には開け方は分からねえけど、本当の事を知りたいならお前が持ってろ」
<_プ−゚)フ「……クソが」
エクストは黒い感情を一まとめにしてそう呟き、もう一度、物語の語り部として開口した。
.
- 660 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:07:44 ID:AywYk0Tg0
≪5≫
/ ,' 3 「……やれやれだ……」
マニーと佐藤と別れた荒巻は、メシウマ側に瞬間移動で帰ると同時に溜め息を吐いた。
ここはステーション・タワー内部の一室。荒巻が来客用に設けた部屋だった。
/ ,' 3 「……待たせてすまなかったな」
( "ゞ)「……構わん。しかし寝心地いいなコレ」
一人用の高級ソファに深々と座ったまま、デルタ関ヶ原は眠たそうに答えた。
/ ,' 3 「急な呼び出しにも関わらず――と、決まり文句はさておきだ」
/ ,' 3 「あと一週間で顔付き連中が来る。戦力になってもらうぞ、武神デルタ」
.
- 661 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:08:24 ID:AywYk0Tg0
( "ゞ)「当然そのつもりだ。お前の土下座に見合う働きはしてやる」
そう言い、デルタは胸の内ポケットから一枚の写真を取り出した。
それは荒巻スカルチノフの土下座写真だった。
( "ゞ)「ひっさびさに腹の底から笑わせてもらった。なあお前ら」
デルタは首だけ振り返り、後ろの数人掛けのソファに向かって話しかけた。
(・(エ)・)「エフッw」
再登場して早々、クマーは思い出し笑いでむせた。
.
- 662 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:09:17 ID:AywYk0Tg0
(*´W`)「あ〜れは傑作だった! もう一度見たいくらいにな!」
無精ヒゲをたくわえた侍めいた格好の男・シラヒーゲが同調して笑い出す。
彼は1さんや八頭身と同じく刀の使い手で、デルタ率いる八極武神の一人でもある。
从;'ー'从「不謹慎ですよ〜!
老人虐待とかになっちゃうんですからね!」
笑い声を仲裁したのは武神の弟子である渡辺。
光を利用した超能力が台頭する中、彼女は絶滅寸前の技術体系 『魔術』 を嗜んでいる。
要は魔法少女だった。よくあるやつだった。
/ ,' 3 「……他の連中はどうしている?」
彼らの煽りを冷ややかにスルーし、荒巻は言った。
( "ゞ)「流石夫婦は家族で団欒中。くるうはトランポリン。
あと八仙のクソジジイも来てるぞ。弟子が消されたとか何とか言ってたが」
/ ,' 3 「……その件は分からんが、人が多いに越したことはない。
シナーには私から挨拶しておく」
.
- 663 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:10:02 ID:AywYk0Tg0
( "ゞ)「……んで、とりあえずミルナを潰せって依頼だったよな」
デルタは体を起こし、前屈みになって荒巻を見据えた。
瞬間、ここから先は殺しの話だということを、この場の全員が察知した。
静寂が場を包み、空気が一変する。
( "ゞ)「それは今すぐでいいのか?
早めに済ませて観光するつもりなんだが」
/ ,' 3 「ああ、それだが少々話が変わった。
決行は明日以降。今日は休日にしてくれ」
( "ゞ)「時間が無いんだろ。そんな悠長でいいのか?」
/ ,' 3 「そんなの今更だ。気にするな」
( "ゞ)「……バカか、荒巻」
悠然とした荒巻の受け答えを、デルタはハッキリと否定した。
( "ゞ)「決着はさっさとつけるべきだ。
俺は今すぐやりにいく。それでいいな?」
.
- 664 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:11:10 ID:AywYk0Tg0
/ ,' 3 「……勝手は許さん。こちらにも事情と考えがある」
( "ゞ)「おい、勘違いするなよ」
( "ゞ)「この確認はお前の顔を立ててやったに過ぎん。
俺達はな、最初からお前の許可なんざ求めてねえんだ」
デルタは強い口調で言い、荒巻に明確な反抗心を向ける。
荒巻スカルチノフ相手にこんな態度が取れる人間は、この世に十人と居ない。
( "ゞ)「俺が今日中にミルナを殺す。そして顔付きとやらも一週間で潰す。
俺はその為に来た。お前が止めてどうする」
/ ,' 3 「……それもそうだった。分かった分かった」
もうどうにでもなれ、という諦めから出た言葉。
荒巻は疲れたように溜め息をつき、デルタの向かい側のソファにどすっと腰を下ろした。
/ ,' 3 「ミルナは今、レムナントのクソワロタにおる。
行けば貴様の千里眼で分かるだろう」
/ ,' 3 「しかし一つ頼みがある。途中でドクオという奴に会ってきてくれ。
そいつが一日の猶予を欲しがっている。本当にやるなら彼に断りを入れておけ」
.
- 665 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:11:50 ID:AywYk0Tg0
( "ゞ)
( "ゞ)「…………あー、今、ドクオって言ったか?」
/ ,' 3 「ああ、その通りだが」
( "ゞ)「……ドクオだってよ」
もう一度振り返り、デルタは間の抜けた調子で言った。
武神一同はポカンとした表情で互いを見合い、その名前に目を丸くした。
(・(エ)・)「……ここで彼ですか?」
( ´W`)「そういやこっちに居るんだったな。忘れてたわ」
从'ー'从(顔が思い出せない……)
( "ゞ)「……そうか。ま、久し振りに会ってやるとしよう」
デルタは居を正し、望郷を含んだ微笑みを浮かべた。
ドクオとは長いこと会っていない。
気が向けば千里眼で生存確認くらいはしていたが、奴がどれほどの男になったかは会ってみなければ計り知れない。
男子三日会わざれば、と言う。その考えでいけば、ちょっとくらいは期待してもいいという気持ちにもなる。
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- 666 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:12:30 ID:AywYk0Tg0
( "ゞ)「誰か、ついて来たい奴はいるか?」
( ´W`)「俺ぁパス。別件がある」
从'ー'从「クマーさんが行ったらどうです? 兄弟子でしょ?」
(・(エ)・)「押し付けられなくても行きますよ。
ついでに、フォックス君の話もある」
後ろで面倒事の押し付け合いが収まると、デルタは改めて荒巻に言った。
( "ゞ)「……という訳だ。俺とクマーが出向く。
そんでドクオに会った後で、俺らでミルナを殺す」
/ ,' 3 「……いや、二人でか?」
荒巻は思わず素で聞き返した。
ミルナ討伐にはてっきり全戦力を叩き込むものだと思っていたが、デルタの考えは大きく違っていた。
しかもそれは油断や侮りではない。デルタは、本気で二人で事を成すつもりだった。
( "ゞ)「ああ。問題あるか?」
/ ,' 3 「ない。が、少し時間が掛かると思うぞ」
――そして荒巻のセリフの通り、それは不可能な事ではなかった。
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- 667 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:13:29 ID:AywYk0Tg0
/ ,' 3 「なるべく時間を掛けずにやってもらいたいんだが、そこもお前の勝手か?」
( "ゞ)「無理に皮肉を言うなよ。時間は掛からん、その杞憂は無駄だ」
デルタが颯爽と立ち上がり、扉に向かって歩き出す。
振り返らず、これ以上の話は無意味だと行動で示した。
(・(エ)・)「では、私の方もこれで」
( ´W`)「おお。まあ死なねぇようにな」
軽く見送られた後、クマーもデルタを追って部屋を出た。
廊下に出てデルタの背中を探すと、彼はすでに階段を下ろうとしていた。
(;・(エ)・)「待ってくださいッ」
早足で追いつき、やれやれと鼻息を漏らす。
こういう時、デルタ関ヶ原という人間は一切立ち止まらない。
今回クマーが付き合うのも戦力としてではなかった。単に、彼のブレーキとしての役割を果たす為だった。
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- 668 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:14:09 ID:AywYk0Tg0
クマー自身、この先の戦いには多少の不安を覚えていた。
聞いた話によれば相手は理外の怪物。
それに生身の無能が太刀打ちできるかと問えば、誰もが不可能だと断言するだろう。
しかし彼の師は――八極武神と銘打たれた男はきっとそれを可能にする。
クマーもそれは疑っていない。デルタ関ヶ原は100%勝利するに違いない。
だが、当然無傷では成しえない勝利だ。
『tanasinn』という概念がどれほどかは不明だが、デルタ関ヶ原はあくまで人間なのだ。
血肉に代えは無く、傷の治りも人並みで、超能力も無い。
だからこそ――とクマーは決意する。
もしデルタ関ヶ原が命懸けで戦おうとした場合、その役目は自分が負う。
彼が命を懸けるべき時は今ではない。次の戦いを考えれば、生き残るべきはデルタの方だ。
( "ゞ)「……心配するな」
ふと、クマーの心中を見抜いたようにデルタが呟く。
(・(エ)・)「心配はしてません。ただ、順序を決めただけです」
( "ゞ)「お前は少し、物事を考えすぎる。
今度の戦いは――特に今日のは、お前が思うよりもふざけてる」
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- 669 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:14:49 ID:AywYk0Tg0
ふざけている。
その言葉の意味を咀嚼する前に、デルタは小さく笑った。
何のことかと思って首をかしげると、彼は大層楽しげに説明し始めた。
( "ゞ)「シナーの奴が盗み聞きしてやがった。
もうミルナのところに向かってやがる。あーあ」
( "ゞ)「こりゃあ仕方ねぇな、先にミルナを片付けるぞ。
半殺しでドクオの前に突き出して、事後承諾を得るしかねぇわ」
(・(エ)・)「……急ごしらえの口実にしては十分です。あなたも人が悪い」
わざとらしく困った素振りを見せるデルタと、彼の意図を理解したクマー。
デルタは拳を握り締めて骨を鳴らし、これから起こる戦いに思いを馳せた。
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- 670 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:15:36 ID:AywYk0Tg0
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レムナント、クソワロタの街。
露店が立ち並ぶ大通り。
朝から晩まで人混みが絶えないこの通りに、今日ばかりは点々と空白ができていた。
昨日の惨劇が一帯の人気を払ってしまったのか、露店を構える人々にも活気は見られない。
( ゚д゚ )「……」
そんな大通りを物静かに歩く男。
ミルナは落ち着いた様子で歩きながら、今度の獲物を丁寧に選別していた。
瞬間、風が吹く。
地表の砂がふわりと舞い上がり、それが大通りを一気に吹き抜けていく。
ミルナは、そよ風につられて視線を前に泳がせた。
( `ハ´)「――――」
男は、そよ風の先に居た。
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- 671 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:16:16 ID:AywYk0Tg0
両者に開いた距離は30メートルはある。
それでも、二人の視線はピタリと合致していた。
( `ハ´)
この瞬間まで、ミルナは男の気配をまったく感じ取れなかった。
風が吹き、ふと目を向けなければ、たとえ隣を歩いてもミルナは彼を認識できなかっただろう。
男の気配はそれほど巧妙に消され――風に溶けていた。
しっかり目を合わせた今なら分かる。
気配は確かにあるが、それは色んな気配と混ざり合っているのだ。
大通りをゆく人々、物言わぬ建物、風や土、空や太陽。
生命の有無に関わらず、男の気配はあらゆるものと調和していた。
この景色は1ピースも余らず完璧に収まったパズルと同じだ。
完璧に出来上がった完成品に対して、それが未完成であると疑問を持つほうが難しい。
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- 672 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:17:37 ID:AywYk0Tg0
( ゚д゚ )「……荒巻の差し金か」
独り言を呟き、一歩踏み込む。
( `ハ´)「――――弟子の、弔いに」
踏み込んだ瞬間、声と一緒に風が耳元を吹き抜けた。
ミルナは咄嗟に身を引き、とつぜん隣に現れたカンフー服を目で追った。
( ゚д゚ )
( `ハ´)「場所を選ぶがいい。それは許そう」
黒ずんだ灰色のカンフー服。胸元まで伸びた口髭。
一まとめにされ、後頭部からするりと垂れる白髪交じりの頭髪。
自然体で、まるで風に乗って現れたかのような男――彼こそが、八仙郷の武人・シナーであった。
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- 673 名前:名も無きAAのようです :2015/09/14(月) 23:18:55 ID:AywYk0Tg0
( `ハ´)「……弟子との戦いは純粋であったと見る。しかし、力の差がありすぎた」
枯れた声が静寂を逆撫でる。
今まで台風の目であったこの大通りに、ごう、と強い風が奔った。
( ゚д゚ )「……覚えがある。お前、あの中国人の師匠だな」
( `ハ´)「……」
( ゚д゚ )「……ここは人目につく。街の外にいこう」
( `ハ´)「……では、先に行っている」
シナーの姿は、その言葉をかき消す風と共に消え去った。
( ゚д゚ )
( -д- )「……ふう」
ふたたび、一人の道を歩き出す。
ミルナはようやく得た目的地へ向かって、静かに歩を早めた。
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