- 473 名前: ◆gFPbblEHlQ :2015/08/18(火) 02:37:06 ID:SZlhC8WQ0
≪1≫
――暗闇に立っていた。
――果ての無い闇の中に、俺は居た。
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- 474 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:37:53 ID:SZlhC8WQ0
「――ようこそ、歓迎するぜ」
その声に遅れて、目の前に人型の霞が漂い始めた。
「……ほお、二度目にしては居心地が良いな。
実体を持てんのは、ちと残念だったが」
霞は色んな動きをして自分の体を確かめてから、こちらを向いた。
頭らしき部分には僅かに影がついており、辛うじてそこから表情が読み取れた。
霞は、とても楽しそうだった。
「回りくどいのは性に合わん」
「だからハッキリ言うが、俺はtanasinnの、こう……使い魔的なものだ」
ハッキリ言うと宣言した割りに、大雑把だった。
「仕方ないだろ。俺の飼い主には形はおろか意思も無い。
俺自身、俺が何なのかよく分からん。それらしい自己紹介をしただけだ」
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- 475 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:38:34 ID:SZlhC8WQ0
「とりあえずアレの一部って程度の理解で十分だ。
あと、姿は無いが名前はある。自分でつけた」
「今後、俺の事はテンプターって呼んでくれ」
「ま、長い付き合いをしようぜ。お前はミルナより話が出来そうだしな」
腰に手を当てて得意気に言った途端、霞は風に吹かれたように揺らめいた。
「――残念、時間だな」
「次はもっと長話が出来ると最高だ。お前の声も聞いてみたいしな」
霞は最後に片手をビシッと構え、ドクオを見送った。
「そんじゃあな。また話しかけるからヨロシク!」
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- 476 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:39:45 ID:SZlhC8WQ0
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第二十五話 「老兵集う」
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- 477 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:41:00 ID:SZlhC8WQ0
≪2≫
昨日発生した殺戮の現場には、翌朝、多くの花が手向けられていた。
レムナントの環境は花を育てるのにそぐわない為、花は全て造花だった。
ハハ ロ -ロ)ハ「……皆さん、こういう所は律儀なんですね」
現場に出来上がった造花のカーペットを見通しながら、金髪の秘書・ハローは呟いた。
「これは鎮魂の花ではなく、報復の決意表明だよ」
スーツ姿の初老の男が反応し、ハローを一瞥する。
「今回の被害はどのくらいだ」
ハハ ロ -ロ)ハ「二十人以上、六十人未満らしいです」
曖昧な返答に、男はムスッとした表情をハローに見せた。
「検証班に伝えてくれ。ハッキリ数えろとな」
ハハ ロ -ロ)ハ「現場に残った挽き肉の総量から、そう推測したらしいです」
「……今の発言は無しだ。あと、野菜の輸入量を増やしておけ。しばらくは野菜が流行る」
ハハ ロ -ロ)ハ「分かりました。普段の三倍で発注します」
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- 478 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:42:02 ID:SZlhC8WQ0
降り注いだ雨と造花のおかげか、現場の血生臭さは大分和らいでいた。
それでも時折鼻につく異臭は、彼らに凄惨な現実を強く認識させる。
「生存者の様子は」
ハハ ロ -ロ)ハ「少女の方は目覚めました。しかし記憶が無いようです。
青年は医療班が交代で看病していますが、運び込まれた当初は酷い有様だったと聞いています」
「聞かせろ」
青年の状態をあえて伏せたハローは、男の反射的な要望に肩を跳ねた。
彼女は平静を装ってから、事務的な口調で彼に答える。
ハハ ロ -ロ)ハ「一言にまとめると、全身がズタズタだったそうです。
肉、骨、内臓。その全てが致命的な破壊を受けていました」
「……それは、死んでいて当然だと思うのだが」
ハハ ロ -ロ)ハ「そういう超能力だというのが医療班の見解です。
彼の場合、回復速度というより生命維持能力が異常です。
だからこそ、この惨劇を生き延びたのかと……」
男は彼女の推測に同意し、軽く頷いた。
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- 479 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:42:59 ID:SZlhC8WQ0
「帰って雑務を済ませるぞ。二人の見舞いに行きたい」
ハハ ロ -ロ)ハ「余った造花でも持って行きますか?」
「私の家のを持って行く。枯れ気味だが、偽物よりは誠意が伝わるだろう」
ハハ ロ -ロ)ハ「……ええ、きっと」
「荒巻スカルチノフには帰ってもらえ。この事件を先に終わらせる」
男は颯爽と振り返り、歩き出す。
「――私の街を荒らしたからには、犯人は確実に殺す」
ハハ ロ -ロ)ハ「……市長、言葉を選んでください」
男の名前は『佐藤』。
都市・クソワロタを実質的に取り仕切る、レムナント最古参の男である。
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- 480 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:44:14 ID:SZlhC8WQ0
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携帯電話で録画された動画には、自分の姿が映っていた。
記憶の手掛かりになる物が無いかと思って開いたが、私はどうやら用意周到な女だったらしい。
ミセ*゚ー゚)リ「――はい、こんにちは。
最低限の知識を持った、子供の頃の私」
ミセ*゚ー゚)リ「私がその状態になったのは、何らかの理由で死んだからです。
ほら、輪廻転生って言葉があるでしょう? それを個人規模でやりました」
記憶が無くても分かった。
この人は、とてもブッ飛んだ事を言っている。
ミセ*゚ー゚)リ「記憶は全部ありません。
若返ったのは個人的な願望です。若さは日々失われていきます」
ミセ*゚ー゚)リ「私は、貴方は、色んな超能力を持った凄い人です。
ケータイのメモ帳に能力の一覧・概要を書いておいたので読んでください」
ミセ*゚ー゚)リ「しかし、すぐに迎えが来るので心配ありません。
迎えの人と一緒に帰って、私の部屋に入ったら記憶が戻ります」
ミセ*゚ー゚)リ「そういう感じなので、よろしくお願いします」
他でもない自分からのメッセージに、私はとりあえず、心の中で「はい」と返事した。
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- 481 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:44:55 ID:SZlhC8WQ0
携帯電話をたたみ、部屋を一望する。
目が覚めてから何度も繰り返した行為に、いい加減飽きを覚えてきた。
ミセ*゚ー゚)リ(……ただの病院、って設定なのかな)
私は、この『空間』が普通ではないと何となく理解していた。
澄み渡る風、揺らぐカーテン、草原が見える大窓。
白いベッドに白い天井。
壁際には本棚があって、質素な食事がベッド近くのテーブルに用意されている。
ここまで分かりやすい作り物で満たされていると、自分が人形劇の舞台に立っているような気になってくる。
不愉快ではないけれど、常に視線を感じるのは快適ではない。
ミセ*゚ー゚)リ(これが、善意によって作られた客室であればいいんだけど……)
私は反対側のベッドに目を向けた。
現状、そこに寝ている恩人を見るのが一番楽しい。
生きてるんだか死んでるんだか分からないけれど、横にあるピッピ言う奴がずっと鳴っているので、多分生きている。
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- 482 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:45:49 ID:SZlhC8WQ0
ミセ*゚ー゚)リ(……ま、記憶が無いっていうのも同じくらい生死不明だけどね)
少なくとも、今の私に生きている実感は無い。
自分を定義するだけの記憶が無い以上、今の私は個人として成立していない。
よって今の私はただの物体なのだし、生きている実感が無いのも割りと当然なのでは? と思う。
暇なので考え込んでいる。
動画の私が言った通り記憶は無いが、考え込めるだけの知能はあるようだった。
でもベッドの横にある鳴ってるアレの名前が思い出せないのはダメだと思った。
元々の私がアレの名前を知らないなら仕方ないけれど、それはそれで残念な気持ちになる。
ミセ*;゚ー゚)リ(……私は残念な人だったのかもしれない……)
私はすぐさま本棚を漁り、アレの名前を調べた。
心電図モニターで合っている、はず。少なくとも、ピッピするアレという表現に頼る事はもう無い。
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- 483 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:47:26 ID:SZlhC8WQ0
ミセ*゚ー゚)リ(……起きないなぁ、この人)
私は改めて向かいの恩人を見つめた。
死んでて当然の状態でも、彼はしっかり生きていた。道理は分からない。
まあ、超能力が普通に存在しているらしい世界でそれを考えるのは不毛だろう。
何か出来ないか、と一抹の義務感を覚える。
恐らく彼は命の恩人で、あの火災と黒い影から助けてくれた人だ。
恩返しはまた別としても、彼が死なないよう働く義務が私にはある。
頼る当てとしてまず浮かんだのは、携帯電話のメモ帳だった。
私にあるというスーパーパワーがどんなものか、少し興味もあった。
ミセ*;゚ー゚)リ「……うわ」
早速メモ帳を開くと、そこには恐るべき長文が十分な改行もされずに羅列されていた。
内容はなんだか凄そうだったが、凄さが伝わる前に気が滅入った。
掻い摘んでまとめると、動画内の私には七つくらい能力があるらしかった。
どれもいちいち名前が長く、気が滅入った。
動画の私は二十歳半ばくらいだろうか? あの人がコレを考えている様子を思うと、残念な気持ちになった。
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- 484 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:48:58 ID:SZlhC8WQ0
ミセ*;゚ー゚)リ「……これなら使えるかな」
【一つ残らず木偶人形(ワンサイド・アウトサイダーズ)】。
その長い名前を脳裏に読み上げ、能力の内容を確認する。
これは、周囲の物質を何でも操作出来るらしい。
ミセ*゚ー゚)リ(これなら心臓が止まっても動かせるし、止血も出来る)
ミセ*゚ー゚)リ(傷を治したりは出来ないけど、瀕死状態を維持する事はできるよね)
しかし、私はそこまで考えて思い止まった。
彼はとりあえず生きている訳だし、急いでこれをやる必要はない。
というか、瀕死状態を維持するという発想がまずおかしい。かなり嗜虐的だ。
ミセ*;゚ー゚)リ(……別の案を考えよう)
私は 『常識的に』 という言葉を念頭に置き、彼に対して出来る事を考えた。
それじゃあ体を使って奉仕しようかな? と考えたが、恐らくこれも前の私の思考回路なのでボツだ。
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- 485 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:49:38 ID:SZlhC8WQ0
――その時、ノックが聞こえた。
私の返事を待たず、部屋の扉が大きく開け放たれた。
¥・∀・¥「……」
ミセ*゚ー゚)リ「……どなた?」
私は振り返って声を掛けた。
なんだか敵っぽい。一応、心の準備だけはしておく。
¥・∀・¥ 「……ああ、失礼」
来訪者は私に気付き、申し訳程度の断りを入れた。
¥・∀・¥「……状況が、変わったか?」
彼は私達二人を見比べて呟く。
意味は分からなかったが、嫌な感じがする。
私自身ではなく、『前の私』がそう告げているのだ。
.
- 486 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:51:12 ID:SZlhC8WQ0
¥・∀・¥「……状況が変わった。
これは立ち回りを変えるべきだな」
¥-∀-¥「……まぁまぁ。今は感動の再会を喜べよ」
両手を挙げ、彼はヘラヘラした様子で振り返った。
独り言ではなく、誰かに向けた言葉と共に。
/ ,' 3 「……佐藤よ。私は今、とても不愉快だ」
「……こっちの台詞だ。これは誰だ」
現れた三人は、互いに威圧的な視線を送り合った。
私はこっそりベッドを出て、命の恩人の傍で身構えた。
何が起きてもせめて盾になる。それぐらいしか、出来ることが思い浮かばなかった。
ふと、老人の双眸が私を捉えた。
/ ,' 3 「……久し振りだが、初めましてだな」
ミセ*;゚ー゚)リ「……」
/ ,' 3 「……こりゃあ、本当に一から考え直しか……」
老人は困った様子で言い、天井に向かって嘆息した。
.
- 487 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:52:12 ID:SZlhC8WQ0
≪3≫
/ ,' 3 「佐藤、ワシらはあっちで話をする。
用が済んだらお前も来い」
¥・∀・¥「茶菓子は勝手にもらうぞ」
二人は雑に言い残して部屋を出て行った。
「――初めまして。君を保護した、佐藤という者だ」
そして、次に私に話しかけてきたのは白髪交じりのスーツの男。
さっきの老人よりは一回り若く見える。
高身長で頑強な体付きをしているおかげで、とても怖い。
ミセ*;゚ー゚)リ「……」
「……まだ具合が悪いか?」
佐藤が一歩、こちらに近づいた。
到底人を心配しているとは思えないマーダーフェイスだったが、そういう顔の人なんだなと恐怖を納得に変換する。
そうしなければ恐怖で口が動かせなかった。
.
- 488 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:52:55 ID:SZlhC8WQ0
ミセ*;゚ー゚)リ「……いいえ、大丈夫です」
「大丈夫、とは耐えられるという意味か?」
ミセ*;゚ー゚)リ「いえ、健康そのものです。ご心配なく」
「そうか。ならば病み上がりで悪いが君の話を聞きたい。どうだろうか」
佐藤は椅子を持って私のベッド近くに移動し、こちらで話そうと促してきた。
私は大人しく従い、自分のベッドに戻る。彼のもとを離れると、少し不安になった。
「……さて。まず、君の事を聞かせてくれ。自己紹介だ」
椅子に座った佐藤は、股座で手を組んでじっと私を見つめてきた。殺されるかと思った。
ミセ*゚ー゚)リ「……ミセリ、と言うそうです」
「……なるほど。その口振りなら自分の状況を分かっているな。
記憶が無いと聞いているが、それは本当か?」
ミセ*゚ー゚)リ「はい。私自身、私が誰か分かりません」
私は端的に答える。
.
- 489 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:53:44 ID:SZlhC8WQ0
「ではなぜ、自分の名前が分かった?」
ミセ*゚ー゚)リ「ケータイがあったからです。
中に、自分のことが記録されてました」
ケータイのことを話すのは危険かとも思ったが、無駄な隠し事は無駄な疑念を生んでしまう。
今は平和的な方向へ向かって話を進めるべきだ。
「……ここに担ぎ込まれた時点で身体チェックは完了している。
その段階では携帯電話を持っていなかった筈だが、なぜ持っている?」
ミセ*;゚ー゚)リ「え、そうなんですか? 分からないです」
「……なら、それでいい。では、その携帯電話を見せてもらいたい」
ミセ*;゚ー゚)リ「……ごめんなさい。出来ません」
「……分かった」
非協力的な答えが連続しても、佐藤は顔色を変えなかった。
実際、自分がどうしてケータイを持っているかは分からないし、唯一の記憶の手掛かりを気安く渡す事も出来ない。
.
- 490 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:54:32 ID:SZlhC8WQ0
「健康そのものだと、さっき言ったな」
佐藤は追求せず、手早く話題を変えた。
ずいぶん呆気ないと思いながら、私は肯定の相槌を打つ。
「君の傷は全治一年は確実だった。
もっとも、あの状況で即死以外の状態というのも不自然だが」
ミセ*゚ー゚)リ「……私、疑われているんですね」
「いや、君は犯人ではない。
さっきの老人にキッパリ否定されているし、私もそれに納得した」
「話を戻す。君の復活の速さから推測するに、恐らく君は治癒能力を持っている。
その能力を使って、彼を治すことは出来ないか?」
佐藤は、命の恩人を一瞥して言った。
「私のところには治癒能力者が居なくてな、あのくらいの対処しか出来なかった。
生命維持は出来ているが、あの状態は見るに堪えない」
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- 491 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:55:29 ID:SZlhC8WQ0
ミセ*;゚ー゚)リ「あの、すみません……。
メモを見た限り、私に治癒能力はありません」
人を刺すような佐藤の視線が私に向く。
怖い。今にも両目を抉りにきそうで怖かった。
「なら、それも仕方ないな。荒巻に頼むとしよう」
そしてまた呆気なく、佐藤は話題を終わらせた。
「私からの質問は次が最後だ。君が見たものについて、聞きたい」
ミセ*゚ー゚)リ「見たもの、というと……」
「あの状況で起こったこと、君が見たもの、全て」
ミセ*゚ー゚)リ「……はい。分かりました」
私は回想する。黒い影と、あれと戦っていた少年の姿を。
ミセ*゚ー゚)リ「……あの人の名前、分かりますか?」
恩人を見つめ、佐藤に問い掛ける。
彼を語るのに彼の名前を知らないのでは、あまりに不便だ。
「ドクオ、と言うらしい」
ミセ*゚ー゚)リ「……では、ドクオさんが私の前に現れた所から、お話します」
私は、私として覚えている記憶を、一から語り始めた。
.
- 492 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:56:15 ID:SZlhC8WQ0
≪4≫
リビングに出ると、油断した様子のハローと目が合った。
彼女はそそくさと取り繕い、読んでいた雑誌を背後に隠して言った。
ハハ ロ -ロ)ハ「お話は済んだのですか?」
/ ,' 3 「これからだ。席を外してもらえるか」
ハハ ロ -ロ)ハ「どうぞ、使ってください」
テーブルに散らかした菓子の包装紙をグシャっと鷲掴みにし、席を立つ。
ハローはすぐさまその場を離れ、どこかに消えた。
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- 493 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:57:20 ID:SZlhC8WQ0
¥・∀・¥「さあて、何から話す」
マニーは奥の席に座ると、わざとらしく大仰に足を組んだ。
/ ,' 3 「なんで生きてる。こないだ殺しただろ」
荒巻はあえて立ったまま、上から鋭くマニーを睨んだ。
マニーは不敵に笑み、下からそれを睨み返す。
¥・∀・¥「逆に聞くが、あの程度で私が死ぬとでも?」
/ ,' 3 「当然。あの程度で死ぬ程度の男という認識だった」
¥・∀・¥「であれば先の答えは自明だろう。
単に君の認識が間違っていたのだよ、荒巻くん」
/ ,' 3 「……まあ、いい。で、今度は何をしにきた」
マニーの煽りを言い返せなかった荒巻は渋々本題に移った。
それを分かった上で、マニーは微笑んだまま答える。
¥・∀・¥「私の目的は変わらない。貴様の打倒、ただ一つ」
/ ,' 3 「……」
¥-∀-¥「……と、言いたいんだが、残念ながら今は貯金が少なくてな。
とても貴様相手に戦える状況ではない。だから貴様とは戦わん」
マニーは背もたれに体を預け、だらけた姿勢で片手を振った。
降参の素振りにしては極めて不快だったが、荒巻はそれを見逃してやった。
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- 494 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 02:58:41 ID:SZlhC8WQ0
¥・∀・¥「しかし、だ」
¥・∀・¥「身を潜め、表舞台から消えたままというのは性に合わん。
私も密かに行動を続け、まぁまぁの手札を三枚、用意した」
マニーはしたり顔で言い、続ける。
¥・∀・¥「――『敵の情報』、『tanasinnの倒し方』、『人生オワタ』」
¥・∀・¥「今日は新たに『ドクオ』という手札を揃えるつもりだったが、まあ、状況が変わった」
/ ,' 3 「……目的を言え、という質問だったのを忘れたか?」
¥・∀・¥「そう急くなよ荒巻くん。負けた気がして悔しいのかな?」
/ ,' 3 「貴様――」
¥・∀・¥「今回の目的はひとつ。ドクオを回復させること。
これは必要な立ち回りでな、誰かがやらねばならん」
荒巻が言い返してくる前に、マニーは口早に質問に答えた。
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- 495 名前:名も無きAAのようです :2015/08/18(火) 03:00:10 ID:SZlhC8WQ0
¥・∀・¥「ま、理解力の低いお前の事だ。いくらか説明が要るだろう」
/ ,' 3 「貴様の説明に無駄な表現が多いだけだ。
不快な語彙を記憶ごと添削しても構わんのだぞ」
¥・∀・¥「いいや的確な表現だね。
お前は強いが結構バカだ。だから私にも騙される」
語気を強めたマニーの発言に、荒巻は呆れたようだった。
マニーに対してというより、彼との再会にはしゃいでいる自分を自覚し、呆れていた。
荒巻は大きな溜め息の後、すとんと肩を落として言った。
/ ,' 3 「分かったよ、マニー。もう好きなだけ話せ」
椅子に腰掛け、荒巻は気だるそうに頬杖をついた。
マニーも真似して頬杖をつき、最初の微笑みを保ったまま言った。
¥・∀・¥「そうか? じゃあ遠慮なく 『ThisMan』 の穴埋めからいこうか」
/ ,' 3 「勝手にしてくれ……」
¥・∀・¥「そう自棄になるなよ。
主役は私じゃないが、そこそこ楽しめる事は約束しよう」
マニーは、それはそれは楽しそうに語り始めた。
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