291 名前: ◆gFPbblEHlQ :2015/05/23(土) 22:17:38 ID:P/ZE8Ycc0

≪1≫



 「……おい、ドクオ。おいってば」ユサユサ

('A`)「んあっ」

 ドクオは誰かに肩を揺すられ、気持ち悪い顔で目覚めた。


(;,,゚Д゚)「ったく、お前こんなとこで寝んなよ。スられても知らねぇぞ」

('A`)「おあ……お前、ザコじゃん……」

(#,,゚Д゚)「ギコだ。殴るぞバカ」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


('( ∀ ;∩「――――ッ!!」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



('A`)「……いま何時?」

(,,゚Д゚)「十二時ちょい過ぎだ。もうみんな居るぞ」

('A`)「どこに?」

(,,゚Д゚)「近くのメシ屋。決起記念、ダディクールの奢りだってよ」

.

292 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:19:10 ID:P/ZE8Ycc0


 ドクオは大きく体を伸ばして立ち上がった。
 噴水広場にあった人混みは、寝る前に比べれば大分マシになっていた。

 ドクオとギコは僅かに残った人の往来を背景に、立ち話を続けた。

('A`)「……あれ、ミルナは?」

(,,゚Д゚)「あいつ来てんのか?
    その辺に居ないから途中で別れたんだと思ったぞ」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


('( ∀ ;∩(クソッ……!)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


('A`)「あいつウンコしに行ってるんだ」

(;,,゚Д゚)「……そ、そうか。クソか」

('A`)「ま、後で迎えに来りゃいいだろ。それよりメシだ」

(,,゚Д゚)「そうだメシだ。男のウンコ待ちなんかしたくねぇよオレ」

('A`)「俺も。行こうぜ」

 二人は肩を並べて歩き出した。
 どこかで戦う一人の少年の事など、ほんの少しも知らないまま――

.

293 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:19:50 ID:P/ZE8Ycc0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 この大地において一番の人口と大きさを誇る街・クソワロタ。
 そこは未だ発展途上であり、その過程では放棄された区画がいくつかある。


('( ∀ ;∩(何かッ……何か考えなくちゃッ……!)


 なおるよは今、その放棄区画の中で戦っていた。
 人気は一切無く、たまに浮浪者がそこら辺を歩いているだけの空間。


 ほぼ孤独、完成された孤立無援。
 そんな状況下に置かれながら、なおるよは懸命に戦い続けていた。


( ゚д゚ )


 ――無表情な顔が一つ、なおるよを追い続けていた。

.

295 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:22:04 ID:P/ZE8Ycc0

≪2≫



 クソワロタに戻る途中で、なおるよは幾つかの方針を決定していた。


('(゚∀゚∩(一つ。放棄区画から入って、広場まで一気に突っ走る。
      人混みに足止めされてる余裕は無い。これが最善ルートだよ)

('(゚∀゚;∩(二つ。見つかるのは時間の問題だから、絶対に立ち止まらないこと。
      ミルナに見つかる前にオサムに会えなければ、もう殆どダメだよ。考えたくないけど)


('(゚∀゚∩(三つ。話が出来そうならする。
      その上で和解が出来るなら和解する)


('(゚∀゚∩(……四つ)

 なおるよは紙切れとペンを持ち、そこに自分が死んだ場合の事を書き記した。

('(゚∀゚∩(……これを書き終わったら、自分が殺される想像は二度としない)


 以上四つの方針を胸に、なおるよはクソワロタの街に再度足を踏み入れた。

.

296 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:23:57 ID:P/ZE8Ycc0


 放棄区画から入る場合、目的の噴水広場はほぼ反対側になってしまう。
 メリットは足止めを食らわないこと、無関係な人の迷惑にならないこと。

 主に後者を心配してのルート選択だったが、それが運良くミルナの死角を突いていた。
 結果、なおるよは難なく放棄区画に立ち入る事ができたのだった。


('(゚∀゚;∩(……よし、まだ来ない。気付かれてないんだよ)

('(゚∀゚;∩(時間は……)チラッ

 人気のない大通りを走りながら腕時計を一瞥。
 時刻は午前十一時を数分過ぎた直後だった。

('(゚∀゚;∩(あと十分も走ればこの区画を抜けられる!
      それまで気付かれなければっ……!)



 なおるよが希望を持って思った時、それは、空からやってきた。


('(゚∀゚∩「――――」ピクッ

 頭上に落ちた黒い影。
 なおるよは反射的に顔を上げ、一気に目を見開いて叫んだ。

.

297 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:25:17 ID:P/ZE8Ycc0

('(゚∀゚;∩「――来たッ!!」ズザザザッ!

 なおるよは咄嗟に踏ん張って立ち止まり、全力で後方にジャンプした。
 直後その場に爆風と砂塵が巻き起こり、なおるよは衝撃の余波に大きく吹き飛ばされた。

('(゚∀゚;∩「おおっ!?」

 飛ばされた先は廃屋。
 なおるよは古びた窓ガラスを突き破り、中の家具もろとも床を転がった。
 砕けたガラスが彼の体に降り注ぎ、いくつもの切り傷を作る。


('(゚∀゚;∩(一つ! 止まらないッ!)ガバッ!

 なおるよは一瞬で立ち上がり、振り返らずに廃屋の奥へと駆け込んだ。

.

298 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:25:59 ID:P/ZE8Ycc0



 グチョッ・・・
          ”
 . ..:.“..:.:. .:..:. :::.,..;;;(⌒ 、 . ..”
:.:.:. .. .:..ノ;;ゞ/,,リ、∵∴ ∴) ...
  ”(∵ ⌒" ∴∵∴ r'. ..:.: グチッ・・・
 (●)∴¨"、,∵∴∵.∴.). .:.:
  ..・・¨   γ    ∵  ”


 一方、空から落ちてきた定形すらない黒い塊は、


 ゆっくりと、なおるよの後を追い始めた。

.

299 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:27:06 ID:P/ZE8Ycc0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 なおるよは廃屋の裏口から路地裏に出た。
 左右をそれぞれ一瞥し、より広い場所を目指して進路を決める。

('(゚∀゚;∩「あっち!」

 なおるよは右に向かって飛び出した。
 間髪いれず、彼を追って黒い塊が背後に現れる。
 黒い塊は水のように流動し、一定の速度を保ってなおるよを追跡した。


('(゚∀゚;∩(あの感じ、やっぱりミルナと同じだよ……)

 一瞬振り返って黒い塊を目視するなおるよ。
 彼はその物質から、ミルナと同じ雰囲気を直感した。

('(゚∀゚;∩(……話し合いは無理だ……!)


.

300 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:29:43 ID:P/ZE8Ycc0


 路地裏から大きな通りに出て、再び左右を見回す。
 噴水広場への道順を急いで整理し、今度は左に向かって走り出した。

 そうしてしばらく走ってから、ふと背後を振り返る。
 そこに、黒い塊の姿はない。



('(゚∀゚;∩「……」

 走るのを止め、ゆっくりと歩いてみる。
 自分の足音が消えた今、そこには不穏な静寂が広がっていた。

 放棄された場所だからという理由だけではない、もっと別の違和感。
 言葉を変えれば、なおるよが肌で感じたものは 『危機感』 だった。

 こっちからは見えないが、敵がどこかから見ている。


('(゚∀゚;∩(……屋内に入るんだよ)

 なおるよはじりじりと壁際に寄り、大きめの廃屋を選んで中に入った。

 元は飲食店だったであろうその廃屋は、開店当時のまま放棄されたのか、
 各所に分厚い埃を被っていても家具や食器はしっかりと整理されていた。

 それはそれで不自然だったのだが、今は無駄な事を気にする余裕はない。


('(゚∀゚;∩(とりあえず入り口を塞ぐんだよ)

 なおるよは店内のテーブルや椅子を持ち寄ってドアを封鎖した。
 あの物質なら液体のようにすり抜けてくるだろうが、少しでも足止め出来ればそれでいい。

 ミルナの追跡は手強い。今後更に激化するのも目に見えている。
 だからこそ、今ここで考える時間を作らなければ先が無いのだ。

.

301 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:30:35 ID:P/ZE8Ycc0

('(゚∀゚;∩(……ハッキリした攻撃がまだ来てない。
      どうして? こっちの能力が分からないから警戒してる?)

('(゚∀゚;∩(あの黒い塊で僕の能力を探ってるのかな……。
      だったら逆に、向こうの能力を探ってやるんだよ……)

 なおるよが持つ超能力は『無効化』の能力。
 三つの条件を満たした場合に限り、他者の超能力を問答無用で消滅させる能力だ。


('(゚∀゚;∩(発動条件その1・対象の能力を理解すること)

('(゚∀゚;∩(まず、この状況を利用してミルナの能力を把握するんだよ……)

 活路を見出し、再び奮起したなおるよ。
 外から水音が聞こえてくる。黒い塊が追いついて来たのだ。


('(゚∀゚;∩(まあ、素早くないのだけが救いかな……)

 ピチャピチャという水音はドアの向こう側にしばらく留まった後、呆気なく沈黙した。
 なおるよはジッとドアを睨みつけ、黒い塊が入ってくるのを待ち構えた。

.

302 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:34:24 ID:P/ZE8Ycc0



 ――ふぉん。


 風を切るような、軽い音。
 その直後、近くにあったテーブルが真っ二つに分かれ、床に倒れた。


('(゚∀゚;∩(……前言撤回)

 切断されたテーブルを一瞥し、なおるよは拳を固く握りしめた。

.

303 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:35:29 ID:P/ZE8Ycc0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



( ゚д゚ )(……外した、のか)

 なおるよが隠れた廃屋を観察しながら、ミルナは物陰で小さく呟いた。


( ゚д゚ )(tanasinnの感知能力、感知範囲はともかく精度が駄目だ。
     俺自身が力を制御出来てない証拠だな……)

 ミルナが頭の中で 『戻れ』 と唱える。
 すると、なおるよを攻撃していた黒い塊はいそいそと彼の所に帰ってきた。
 黒い塊はミルナの影に混ざり、居なくなる。


( ゚д゚ )(形状の変化も難しいし、不定形の維持もすごい疲れた……。
     遠隔操作は燃費が悪いな……)


 物陰を出て歩き出し、胸元で右拳を構える。
 ミルナは超能力『マグナムブロウ』を発動した。

( ゚д゚ )(ドクオに怪しまれるし、さっさと殺して戻ろう)

.

304 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:36:44 ID:P/ZE8Ycc0

≪3≫



 ドアノブを捻って手前に引くと、足元をテーブルや椅子が塞いでいた。

( ゚д゚ )(……バリケードなのか?
     引くドアだから意味無いんじゃ……)

 ミルナは普通に障害物をどかし、中に入った。
 細かい埃が舞い上がり、視界を濁らせる。


 目の前の埃を手で払い、店内を見渡す。
 ミルナはその途中、二つに切断されたテーブルが床を転がっているのを見つけた。
 二つに分かれたテーブルをよく観察すると、わずかに血痕があった。

( ゚д゚ )(……掠っていたか。感が冴えん)

 血のついた手で触ったであろう痕跡も周囲にいくつか見受けられる。
 ミルナはそれらを冷静に見つけ出し、血痕を辿った。


( ゚д゚ )(血は奥に続いてる。厨房に逃げ込んだな)

 ――と、ミルナはここまで考察して我に返った。


(;゚д゚ )(感知すりゃいいんだった)

 集中し、なおるよの居所を探る。案の定、やはり厨房の中に居た。
 しかも先程の攻撃が致命傷になっていたらしく、彼は厨房の壁際に座ってグッタリしていた。

.

305 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:39:17 ID:P/ZE8Ycc0


( ゚д゚ )「……」

 ミルナは忍び足で厨房のドアに近づき、ドアを少し開けた。
 その隙間から荒い息遣いが聞こえてくる。しかし、なおるよの姿は見えない。

 ミルナは徐々にドアを押し広げた。


('( ∀ ;∩「ぐううううッ……!」

 やがて、痛切な唸り声が右側から聞こえてきた。
 ミルナは勝負が決した事を察し、厨房に入ってなおるよを捉えた。

( ゚д゚ )「……」

('( ∀ ;∩「はぁ……はぁ……!」

 なおるよは右肩から腰骨にかけて大きな切り傷を負っていた。
 出血量も凄まじく、放っておけば確実に死ぬのは明らかだった。


( ゚д゚ )「……」

 放っておけば、彼は苦しんで死ぬ。
 ミルナはしばし考えてから、なおるよに歩み寄った。

.

306 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:40:20 ID:P/ZE8Ycc0


( ゚д゚ )「中途半端に当てて悪かった。
     今、止めを刺す――」

 なおるよの前に行くと、ミルナは超能力を解いて床に片膝をついた。
 彼の首元に手刀を当て、その手にtanasinnの黒煙を纏わせる。

('( ∀ ;∩「や、やめ……」

( ゚д゚ )「ここで生き延びても殺す。諦めろ」

 黒煙を纏った手刀が首の薄皮を切り、グッと押し込まれる。
 首筋からたっぷりと血が溢れ、死が近づいてくる。


('( ∀ ;∩

 最中、なおるよは笑っていた。

.

307 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:42:54 ID:P/ZE8Ycc0


( ゚д゚ )(……なんだ?)

 違和感を覚えて手を止めるミルナ。
 嫌な感じがした。その一瞬の停滞が、彼に冷静な思考をさせてしまった。

 後ろで、何かがパチパチと鳴っている。
 ミルナは咄嗟に振り返った。

( ゚д゚ )(あれは――――)

 点火済みのガスコンロと、それに加熱される多数のガス缶、ガラス片。
 それを見つけ、彼の笑みの理由を察した時には手遅れだった。

(;゚д゚ )「こいつッ!!」 バッ!!

('(゚∀゚;∩「おああッ!」

 ミルナが身を引くと同時になおるよは動いた。
 彼は隠し持ったガラス片を振りかざし、ミルナの太腿に深々と突き刺した。

(; д )「ぐッ!」

('(゚∀゚;∩「舐めんなッ!」 ゲシッ

 なおるよは足を抑えて悶えるミルナを蹴り飛ばし、自分は窓を突き破って外に逃げ出した。

.

308 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:46:04 ID:P/ZE8Ycc0


 直火に晒されたガス缶が、いよいよ炸裂した。

 中身がコンロの火に引火して燃え上がり、巨大な火炎となって一気に膨れ上がる。
 なおるよが仕掛けた罠は、たった今ミルナを“詰み”の状況に引きずり込んだ。

 0.5秒にも満たない時間の最中、ミルナは咄嗟に体を丸めて防御の体勢を取った。

(;゚д゚ )(tanasinnならまだ間に合ッ――)

 更にtanasinnを用いて守りを固めようとした瞬間、多数の鋭い痛みが彼の思考を遮断した。
 ミルナは反射的に、自身の両腕を見直してしまった。


(;゚д゚ )(これは――)

 腕には透明な破片がいくつも突き刺さっていた。
 それには見覚えがあった。ガス缶と一緒に加熱されていたガラス片だ。
 ガス缶の炸裂で細かく砕けたガラス片が、火の手よりも早くミルナを攻撃したのだ。


(;゚д゚ )(――――)

 そんな無駄な思考を経て視線を戻すも、思考が状況に追いつかない。
 膨大した火炎は、一瞬でミルナを包囲した。

.

309 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:46:50 ID:P/ZE8Ycc0

≪4≫





(,,゚Д゚)「あそこだ。先に始めてやがる」

(;'A`)「まともなメシ、久し振りな気がする……久し振りばっかだ……」

 店に入ったギコとドクオは、奥のテーブルに集まったダディクール一行のもとに行った。


|(●),  、(●)、|「おお、来たか。元気にしてたか?」

('A`)「不健康そのものだよ。そっちは元気そうだな」

(,,゚Д゚)「お前そっちつめろよ」 グイ

【+  】ゞ゚;)「押すな」

ノパ听)「おう。元気が一番だ」ムシャムシャ

|(●),  、(●)、|「まぁとりあえず食べるぞ、話はそれからだ」

ノハ*゚听)「ぶっちゃけ監獄の方がメシ美味かったけどな!」

.

310 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:48:22 ID:P/ZE8Ycc0


 その後は、各々好き勝手に飲み食いしながら雑談を楽しんだ。

(#,,゚Д゚)「それオレのもんだぞ!」

ノハ*゚听)「追加注文しろよどうせ奢りだろ〜」

(,,゚Д゚)「じゃあこれ貰うぞ」ヒョイパクー

ノパ听)「あっ殺す」

(,,゚Д゚)「は?」

(#,,゚Д゚)「上等だ女ァ!! 表出ろォ!」

ノハ#゚听)「出たらメシ食えねェだろ馬鹿かァ!?」


(;'A`)「タベモノガ・・・モウナイ・・・」

【+  】ゞ゚;)「……俺のをやる」

 がっつく二人に気圧されて貧困根暗クソ野郎と化したドクオ。
 棺桶死オサムはクソ野郎を哀れみ、自分のスパゲッティを分け与えた。

.

311 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:50:26 ID:P/ZE8Ycc0


('A`)「……棺桶死、だったよな?」

 フォークでスパゲッティを巻き取りつつ、ドクオは無難な話題で彼に話し掛けた。

【+  】ゞ゚)「呼び方は何でもいい。それも偽名だ」

('A`)「……じゃあオサム。お前それ眼帯、カッコイイよな」

【+  】ゞ゚;)「同じ事を、脱獄の日にも言われたが」

( 'A`)「そうだっけ? でもマジでカッコイイぜ、それ」

 ちゅるりん。ドクオはスパゲッティを食べた。カルボナーラ(笑)

('A`)「あん時な、脱獄の時。手ぇ貸してくれて助かったよ。
    お前すげー強いんだな。ビックリしたわ」

【+  】ゞ゚)「それならこいつのおかげだ。あの晩、俺は役立たずだった」

 彼は得意気に右目の眼帯を叩いた。
  ,_
('A`)「……それがぁ? なんで」

【+  】ゞ゚)「異物を知らないか? 何も無くても超能力を使えるんだ」



('A`)

('A`)「……マジかよ……」

 今までの俺の努力は何だったのか。ドクオは脱力して呟いた。

.

312 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:51:33 ID:P/ZE8Ycc0


('A`)「――あっ」

【+  】ゞ゚)「どうした?」

('A`)「そうだ、見たわ。お前の言う『異物』を使うすごい奴」

 ドクオはフォークで空中に弧を描いた。

('A`)「八頭身! あいつ凄かったなぁ」

('A`)「なんか凄いデカイ剣を持っててさ、その剣に水晶はめるんだよ。
   そしたら色々出てくんの。しかも水晶いっぱい持ってたし、あれ反則だって」

【+  】ゞ゚)「……凄いあやふやだが、異物を複数持ってたのか?
        確かに凄いな。異物の扱いは結構難しいんだが……」

('A`)「そうなの? お前の眼帯も?」

【+  】ゞ゚)「こいつの場合、はっきりした人格と意思を持ってる。
        それに認められない限り、力は使えないんだ」

(;'A`)「……ふ、ふ〜ん……」

 ドクオは歯切れ悪く言ってから、オサムの眼帯をチラ見した。

.

314 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:53:03 ID:P/ZE8Ycc0

(;'A`)「……ちなみに、俺じゃ使えない?」

【+  】ゞ゚)「……付けてみるか?」

(;'A`)「……中の人に怒られない?」

【+  】ゞ゚)「見込みが無ければ、そもそも話も出来ない」

 ドクオは少し考えてから、オサムに手の平を差し出した。


(;'A`)っ 「……ちょっといい? ダメ元で試す」

【+  】ゞ゚)「まぁ根は良い奴だ。話せるといいな」

 ドクオは渡された眼帯をまじまじと見つめてから、意を決してそれを装着した。



【+】A`)

【+】A`)「似合う?」 チラ


( ゚"_ゞ゚)「……」

【+】A`)「……」


.

315 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:54:01 ID:P/ZE8Ycc0





('A`)「ところでさ、お前はなんでココに来たんだ?」

【+  】ゞ゚)「……なんで、というのも分からんな。
        動機の話でいいのか?」

 直前三十秒間のやり取りを忘れ、二人は話を続けた。


('A`)「正直この中じゃ一番冷めた感じがするから、不思議に思った」

【+  】ゞ゚)「お前こそ、女の為に体を張るような感じはしないがな」

( 'A`)「……察しろ恥ずかしい」

 わざとらしく顔を背けたドクオを見て、オサムは頬を緩めた。


【+  】ゞ゚)「……俺は、なんというか……」

 シャキンが言った事を確かめる為、とは言えず、オサムは語尾を濁す。

【+  】ゞ゚)「……そうだな、強いて言えば気まぐれだ」

(;'A`)「あー出た、強い奴にありがちなヤツ」

('A`)「ったく、強い奴は主体性がない法則でもあんのかよ」

 呆れた様子で瞑目し、頭を振る。
.

316 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:54:48 ID:P/ZE8Ycc0


('A`)「……そういや遅いな」


【+  】ゞ゚)「料理がか?」

('A`)「いや、ミルナ。あいつ今ウンコしてるんだ」

 ミルナという言葉に、オサムの眉がピクリと跳ねた。


【+  】ゞ゚)「……来てるのか?」

('A`)「ああ。なおるよも来てたんだぜ、さっき帰ったけどな」

(;,,゚Д゚)「帰った!? なんでだよ、引き止めろよ!」

 山盛りポテトを抱えたまま、ギコが話に割り込んできた。

(;'A`)「いやっ! だって流石に小さすぎるだろ! 危ねぇよ!」

(;,,゚Д゚)「貴重な戦力が……。つーかお前も十分ガキだっての!」

 ギコはそう言い、ポテトでドクオをつついた。

.

317 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:56:44 ID:P/ZE8Ycc0


【+  】ゞ゚)「……探しに行ってくる」

('A`)「お?」

 ドクオは席を立ったオサムを目で追った。

【+  】ゞ゚)「ミルナがどこに行ったか分かるか?」

('A`)「その辺のトイレだろ? 別に探しに行かなくても……」

【+  】ゞ゚)「……襲われてるかもしれないだろ。
        俺達の思惑を向こう側が知れば、何かあっても不思議じゃない」

(;,,゚Д゚)「いや、考えすぎだろ。俺らが動き出したの一週間前だぞ」

【+  】ゞ゚)「俺だってそう思う。だから見てくるだけだ。
        本当にトイレが長引いてるならそれでいい。
        紙が無くて困ってるだけかも知れん」

('A`)(ありそうだなぁ……)


 ダディクールは、視線をティーカップに向けたまま思考した。

|(●),  、(●)、|(……『本当に』か。何を探っているんだかな……)


ノパ听)「行くならお前らで行ってくれよな。あたしはメシを食うから」ムシャムシャ

(,,゚Д゚)「お前は周りに合わせるって事を覚えろ」サクッ

 ヒートの鼻に熱いポテトが突き刺さった。


【+  】ゞ゚)「それじゃあ、また後でな」

('A`)「……俺も行こうか?」

 ドクオは提案したが、彼はそのまま店を出て行った。

.

318 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 22:58:15 ID:P/ZE8Ycc0

≪5≫




 クソワロタの放棄区画に、男の声がこだまする。


\(^o^)/「色々売ってるよぉ〜」


\(^o^)/「仕入れも出来るよぉ〜」

 男は健気に売り文句を言いながら、周囲を見回しながら客が来るのを待っていた。
 しかしここは放棄区画。小さな露店を構えて数ヶ月、客足は絶滅していた。


\(^o^)/「……」



\(;^o^)/「……」



 彼の名前は人生オワタ。
 ('A`)は撃鉄のようです第8話に登場し、黒ローブの男と戦った一般的な会社員である。


 そんな彼がなぜ、一体どうしてレムナントの街・クソワロタに居るのか。
 その理由を簡潔にまとめると以下の通りになる。

 1・『ThisMan』の一件が色々作用して会社が倒産
 2・色々あって一文無しに
 3・以上の理由でレムナントでの生活を余儀なくされる

 社会の荒波に揉まれた結果、彼はこの街に流れ着いたのだった。
 世の中には色んな事があるため、決して不自然な事ではなかった。
.

319 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:00:07 ID:P/ZE8Ycc0


\(;^o^)/「ハァ〜〜客なんか来る訳ねえだろ〜こんなトコでさぁ〜〜」

 オワタは弱々しく空を見上げた後、がっくりと肩を落とした。

\(;^o^)/「あんな奴の言うこと聞くんじゃ無かった……。
       こっちに居た方が利口だとか……完全に騙されたわ……」


\(^o^)/(……お?)

 遠くに足音を聞いたオワタは、咄嗟に姿勢を正して身構えた。
 この客の羽振り次第で今日の夕飯が決まる。心身は自然と滾った。

\(;^o^)/(ぜってえ逃がさねぇ……!)



('(゚∀゚;∩「……」

 しかし、やってきたのは大怪我をした子供。
 とても金銭を期待できる雰囲気ではなかった。

.

320 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:00:51 ID:P/ZE8Ycc0


\(;^o^)/「……いらっしゃい」

('(゚∀゚;∩「……水、ある?」


\(;^o^)/「……水ってか、絆創膏とかあるけど、買う?」

('(゚∀゚;∩「……水だけ」

 なおるよはポケットから紙幣を掴み取り、数えもせずにオワタに渡した。
 オワタは状況が分からず面食らったが、すぐに水入りのペットボトルを彼に差し出した。



('(゚∀゚;∩「……銃……」

 ボトルを開けて水を飲み始めたなおるよが、商品として出されていた拳銃に目をつける。
 なおるよは水を飲み干してボトルをポイ捨てし、拳銃を指した。

('(゚∀゚;∩「あれ、使えるの?」

\(;^o^)/「一応使えるけど……え、買うの?」

('(゚∀゚;∩「……お金、さっきので足りる?」

\(;^o^)/「足りるけど……お前、何? どうかしたの?」

('(゚∀゚;∩「子供にも色々あるんだよ」

 なおるよは拳銃を受け取り、弾が入ってるのを確認してポケットに差し込んだ。

.

321 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:01:59 ID:P/ZE8Ycc0


('(゚∀゚;∩「助かったよ。じゃあ急いでるから……お願いね……」

 なおるよは軽く頭を下げ、オワタの前を去った。


\(;^o^)/(……物騒な街だぜ。
       ガキがあんなに逞しいってスゲー……)



\(^o^)/(でもまぁ何にせよ収入ゲット!
       これでまともなメシを食える! うおお!)

 オワタは早速売上金を数えた。
 今回の売り上げは五万円。今のオワタにとって、これは十分すぎる額であった。

\(^o^)/(なんという奇跡……ありがとう名も知らぬガキよ……)

\(^o^)/(これを元手にして、いつか向こう側の生活に戻ってやる!)




\(^o^)/「……お?」

 その時、オワタは紙幣の中に別の紙切れが混ざっているのを見つけた。

\(^o^)/「なんだこりゃ……」

 オワタは紙幣に紛れていた紙切れをつまみ、訝しげに広げた。


.

322 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:05:14 ID:P/ZE8Ycc0

≪6≫




 ミルナは 『不幸』 を自覚した事が無かった。

 彼は、『俺は不幸だ』と人に言った事が無かった。


 彼には、昔からこういう考えがあった。
 自分より弱い人間に助けを求めるのは、それ自体が暴力であると。

 ミルナは殆どの他人を『弱者』だと思っていた。
 自分より弱く、頼るに値しない存在だと認識していた。
 決して周囲の人間を見下していた訳ではないが、少なくとも、助けを求めるには脆すぎる存在だと思っていた。


 実際それは正しい認識だった。
 tanasinnと関わる以前でも、ミルナに匹敵する強者はそう居なかった。
 だから誰にも頼らなかった。あらゆる事を一人でこなし、あらゆる敵を一人で倒してきた。


.

323 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:05:59 ID:P/ZE8Ycc0


 しかし、tanasinnに出会ってからその生き方は一変した。


 彼は変わりゆく世界を生きながら、時に仲間を作り、tanasinnに立ち向かった。
 結末は全滅。何度仲間達と戦いを挑もうと、その悉くを皆殺しにされた。

 結局最後には何も残らず、誰もついて来ていない。
 振り返れば、そこには死体の山が積み上がっているだけ。

 死体の山を見る度、彼は自分の言葉を思い出して自責した。
 そして、孤独に耐え切れず、自分以下の存在に囲まれて現実逃避に励む自分を強く自覚させられる。

 上には立ち向かわず、延々下に向かって吼えているだけ。
 tanasinnを得て強くなった筈なのに、ミルナは自分がどんどん弱くなっている気がしていた。
 一方的に与えられた力は、呪いに他ならない。

 ミルナは自責する。


( д )(俺はこんな人間じゃなかった筈だ)

( д )(自分より弱い人間を、こんな風に利用する卑怯者じゃなかった筈だ)

( д )(俺は、自分の現実から目を背ける為に他人を利用している……)

.

324 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:07:42 ID:P/ZE8Ycc0


 深い深い漆黒の中にひきこもった彼は、孤独を享受した。
 そうせざるをえなかった。

 誰彼構わず人に頼る弱い自分を否定しながら、
 一人で何にでも立ち向かっていた頃の自分を演じるには、孤独に身を潜めるしかなかった。

 自分の人生から他者を排除する事でしか自分を守れない。
 そんな人間に成り果ててしまいながら、ミルナは心の奥底で願い続けていた。

 いつか自分より強い誰かが現れて、この弱さ諸共自分を消し去ってくれないか。
 この願いすら自分の弱さだと自責しながら、彼はひたすら漆黒の中で考え続ける。

 漆黒を出て、荒野を歩き、今に至っても。
 ミルナの願いは、それだけだった。

.

325 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:10:58 ID:P/ZE8Ycc0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



('(゚∀゚;∩「……もう少しだよ……!」

 なおるよは、確実に噴水広場へと前進していた。
 傷を負った体を懸命に動かし、彼は放棄区画を抜ける寸前にまで来ていた。

 人の声がだいぶ近くに聞こえる。
 ほんの少し、胸をなでおろす。


('(゚∀゚;∩(……頭がぼーっとする……切りすぎたかな……)

 なおるよが負った右肩から腰骨にかけての大きな切り傷。
 それは、自らガラス片で作った自作自演の傷であった。
 ミルナを誘き出して注意を引く為とはいえ、やりすぎたと反省する。

('(゚∀゚;∩(まぁ、あの程度で死んだはず無いけど、足止めは出来た、と思いたい……)

('(゚∀゚;∩(追ってきたとしても、今なら僕の能力で対抗できる……はず)

 なおるよの無効化能力の発動には、対象となる能力への理解が必要である。
 十分ではないにしろ、なおるよはミルナの力を多少なり理解している。
 いずれ追いつかれた時には、問答無用で超能力を発動するつもりだった。

.

326 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:12:17 ID:P/ZE8Ycc0




 ――黒煙の具現化、形状変化、遠隔操作、感知能力、撃鉄の能力。

 そして更に回復能力もある、となおるよは推測していた。
 ミルナが追って来ないのも、恐らく肉体の回復に手間取っているからに違いない。

('(゚∀゚;∩(……はず。多分。分かんないけど)

 何にせよ前進を急ぐべきだ、と結論を出す。
 あらゆる推測に自信を持てない今、出来るのは前に進む事だけだ。

 なおるよは傷の様子を見つつ、走り出した。



('(゚∀゚;∩


 ――その矢先、なおるよは背筋に冷気を感じた。


 今度のは分かりやすい脅しではない。
 凍てついた殺意。それが背後に現れた。


.

327 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:13:24 ID:P/ZE8Ycc0


('(゚∀゚;∩「クッソ!!」

 なおるよは脇目もふらずに疾走した。

 あと少しで人気のある場所に出られる。あと十秒あれば安全圏に出られる。
 当初は人混みを避けようと考えていたが、もはや人混みを利用してでも前に進むしかない。
 なおるよには伝えなければならない事がある。自分しか知らない『この事』を、誰かに残さなければ……。

 彼は薄暗い小道を光に向かって走った。殺意がそれを追い、どんどん近づいてくる。
 猶予は無かった。崩れ落ちていく崖が一歩後ろにあるような絶望感が、今にも彼の足を掴もうとしていた。


('(゚∀゚;∩(間に合う――ッ!)

 あと数歩で明るい日差しのもとに出られる。
 彼は微笑んだまま、光の中に身を投げた。




.

328 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:17:00 ID:P/ZE8Ycc0



 ――鮮烈な太陽の日差しが、なおるよを照らした。


 彼は勢い余って倒れ込み、地面をごろごろと転がった。

('(゚∀゚;∩(――間に合ったッ!)ガバッ

 すぐ近くに聞こえるガヤガヤした声、ドタバタした足音。
 いつもは小うるさいとしか思わない雑音に心底安心を覚えながら、なおるよは汗ばんだ顔を上げた。


.

329 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:18:53 ID:P/ZE8Ycc0



('(゚∀゚∩


 なおるよが聞いた、それらの雑音。

 それには、ノイズが混ざっていた。


 人の声には悲鳴が。
 足音には、足ではない物が地面を叩く音が混ざっていた。

 赤い塊がひとつ、地面に落ちて転がっていく。

 なおるよは目に映る光景を理解出来ず、立ち上がるという思考すら出来なかった。
 何かをする、という段階まで脳が動かなかった。


.

330 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:21:14 ID:P/ZE8Ycc0




 形振り構わず逃げていく人々がとは別に、道に巨大な人混みがあった。
 数人が、それぞれ超能力を発動したまま誰かを睨んでいる。

 一人の能力者が意を決して中心に飛び込む。
 それが箍を外したのか、他の能力者も一斉に動き出した。

 次いで、風を切る音が響いた。


 直後、人混みを形成していた人間は全て血飛沫に変わった。
 ある程度は肉として残ったが、大半は粘り気のある血飛沫になって広範囲に飛び散った。

 人が消えた事で、なおるよにも中心が見えた。



( ゚д゚ )

 無機質な瞳と、目が合う。

 そこに居たのは、黒煙を周囲に漂わせたミルナだった。
 ミルナの視線は一直線にこちらに向いていた。


('(゚∀゚;∩「ひっ……!」

 押し潰された悲鳴が小さく上がる。
 なおるよは逃げるとか戦うとか以前に、全身から力が抜け落ちてしまった。


.

331 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:25:47 ID:P/ZE8Ycc0


 この場の人間が、ミルナの黒煙によって次々と血肉に変わっていく。
 ミルナに近づく者は何度もシュレッダーに掛けられたように粉々になり、
 逃げていく者はわざわざ黒煙で引っ張り戻されて殺された。

 標的に例外は無かった。
 泣き叫ぶ子供も、それを守ろうとした母親も細切れになって死んだ。
 そこで行われているのは、単なる屠殺作業でしかなかった。

( ゚д゚ )

 ミルナの視線はなおるよを捉えたままだった。
 その傍らで、ミルナの黒煙が作業的に人々を殺していく。

 “お前が巻き込んだ”。

 ミルナの目は、そう語っていた。



('(゚∀゚;∩「……やっ……」

 やめろ、とは言えなかった。なおるよは直感して分かっていた。
 彼らを巻き込んだのが自分で、自分の考えが甘かったせいで、こうなってしまった事を。

.

332 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:29:00 ID:P/ZE8Ycc0


 ミルナの作業はものの数十秒で終わった。
 生きている人間は、少なくともこの周辺には二人だけ。
 それだけ徹底的に邪魔者を排除した以上、次に殺されるのが自分なのは考えるまでもなかった。


( ゚д゚ )「……この傷は……」

 ゆっくりと歩き出したミルナは、その歩調同様にゆっくりと話し始めた。
 彼は、自身の顔に残った火傷の痕を指でなぞった。

( ゚д゚ )「俺が 『人間』 として負った、最後の傷になるだろう」

( ゚д゚ )「……目撃者は皆殺しだ」



('(゚∀゚;∩(……な、何か……何かしなくちゃ……)

 なおるよは腰を抜かしたまま後ずさり、言う事を聞かない体を動かした。

 その時、なおるよはポケットに硬い感触を覚えた。
 それはさっき露店で買った古い拳銃。彼は咄嗟にそれを掴み取り、ミルナに突き付ける。


('(゚∀゚;∩「……」

 だが、その行為は自身の非力さを際立たせるだけだった。

('( ∀ ;∩(今更こんなの出して、何が出来るって言うんだよ……)

.

333 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:32:23 ID:P/ZE8Ycc0


( ゚д゚ )「……お前、銃を持つのは初めてか」

 一歩一歩、ミルナが着実に近づいてくる。

( ゚д゚ )「……お前、こんな事をするタイプじゃないだろう」

('(゚∀゚;∩「……」

 気を持ち直し、なおるよは唇を食いしばってミルナを見返した。
 なおるよの口元に血が滴る。


( ゚д゚ )「……小さな正義漢という訳か。
     だが、そのせいで多くの人間を巻き込んだ」

( ゚д゚ )「さっさとお前を殺しておくべきだった。
     そうすれば無駄な殺しをせずに済んだ」

 なおるよの目前に立ったミルナは、周囲をたゆたう黒煙をなおるよに差し向けた。

( ゚д゚ )「言いたい事があれば聞くぞ」


('(゚∀゚;∩「…………」


( ゚д゚ )「…………」


.

334 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:33:31 ID:P/ZE8Ycc0




('(゚∀゚;∩「……なんで」


 すこし考えて出てきた言葉に、なおるよは点々と言葉を繋げていった。


('(゚∀゚;∩「なんで、人を殺すの……?」

( ゚д゚ )


('(゚∀゚;∩「……ドクオと居る時の、あの時のアンタは……」

 なおるよは固唾を飲んだ。

('(゚∀゚;∩「そんなに悪い人じゃないって、少し思ったよ……」


 ミルナは答えを探すように視線を泳がせてから、はっきり答えた。


( ゚д゚ )「人殺しは俺だけじゃない。殺しなら、あの面子の殆どが経験している」

( ゚д゚ )「無論、棺桶死オサムもだ。他の奴らに聞け」


('(゚∀゚;∩「……オサムも言ってたよ、俺も人殺しだって。
      でも、オサムの言葉は違ったよ。アンタの言葉より、もっともっと重かった……」

( ゚д゚ )「……言い返せないな。俺はもう、人が死んでも動じない。
     俺にとって、人殺しはとても軽い……」

.

335 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:35:43 ID:P/ZE8Ycc0

('(゚∀゚;∩「……アンタが、何の為に人を殺すかは分からないよ。
      でも、殺さない事だって出来たはずだよ……」

( ゚д゚ )「だろうな」

 俺は暗闇の中でずっとそうしてきた。
 ミルナはそう思いながら、なおるよを冷ややかに見下ろした。

('(゚∀゚;∩「今からでも、止めればいいんだよ。
      人が死ぬのは、たとえ他人であっても嫌なんだよ……」


 間を置いてから、ミルナはたっぷり溜め息をついた。

 子供らしい、白紙のような意見だと思った。
 希望で塗り尽くされているように見えて、実は何も書いていない。
 人間はそういうものを希望と呼ぶ。ミルナはそういうものに対して、本当に呆れきっていた。


( ゚д゚ )「……お前は優しいな。優しすぎるが故に、何も救えなかった。
     正しさだけでは救えない人間が居るという事を、お前は分かっていないんだ」

 ミルナはじっとなおるよを見つめたまま、淡々と言った。

.

336 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:36:37 ID:P/ZE8Ycc0


 瞬間、なおるよは拳銃の引き金を引いた。
 大きな銃声が空に響く。

 彼なりに不意をついたつもりだったが、弾丸は黒煙が受け止めていた。

('(゚∀゚;∩「……ハ」

 乾いた笑いさえ、まともに出てこなかった。


( ゚д゚ )「……何なら、お前の能力も使わせてやろうか」

( ゚д゚ )「悪あがきもそれが最後なんだろ。やってみろ」

.

337 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:39:09 ID:P/ZE8Ycc0


('(゚∀゚;∩「……考えてる事が分かるの?」

( ゚д゚ )「まぁな。どうする?」

 最後の一策をも見抜かれてしまい、なおるよは思わず嘲笑をもらした。
 ミルナの口振りから察するに、きっと彼の能力を無効化する事は出来ないのだろう。
 出来たとして、きっと大した意味を成さないのだろう。

 あと、自分に出来る事は何だろうか……。


('( ∀ ∩(……いや、もう、やれる事はやった。
      残せるものも残した……大丈夫、あとはみんなが……)

 なおるよは、一時の安楽の為に考える事を放棄した。


( ゚д゚ )「……もし次があったら、身の丈にあった生き方をするんだな」

 黒煙が巨大な刃をかたどり、なおるよの体を包囲する。
 なおるよは空を見上げ、微笑んだ。

('(゚∀゚∩(……死んだら親に会えるとか、考えとこうかな)

 それが、彼の最期の思考だった。

.

338 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:39:51 ID:P/ZE8Ycc0

≪7≫







(,,゚Д゚)「あー食ったァー」

ノパ听)「ここ一週間分は食った。満足」ゲップ


|(○),  、(○)、|「……予算が……」

(;'A`)「そら無くなるよ、かなり食ったもん……」

 ダディクール一行は長い昼食を終え、外に出ていた。
 噴水広場周辺のベンチを陣取り、今はオサムとミルナが帰ってくるのを待っている。


|(○),  、(○)、|「……宿泊場所は同室でいいな?」

 白目を剥いたダディクールが低い声でギコとヒートに問い掛ける。
 反対意見は許さないと暗に伝わってくる雰囲気に、二人は押し黙ってコクンと頷いた。


.

339 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:41:01 ID:P/ZE8Ycc0


 ――ぽつん、と冷たい感触がドクオの頬を叩いた。


('A`)「……あ?」

 ドクオは空を見上げた。頭上には、灰色の大きな雲が広がっていた。
 青空を覆いきる程の雨雲ではなかったが、嫌な予感がして、ドクオは皆に声を掛けた。


('A`)「おい、なんか雨降りそうだぞ。お前ら先に行ってていいぞ」

 ドクオに言われて気付いたギコは怪訝な表情で空を見た。

(,,゚Д゚)「……マジで雨か。珍しいな」

 レムナントでは滅多に雨は降らない。
 メシウマ側だけ雨、こっちは超快晴みたいな事も多々ある。
 なのにも関わらず突然の雨雲。ダディとヒートも、この空の様子を不思議に思った。

(,,゚Д゚)「不思議な事もあるもんだ」

 ギコは口を半開きにしたまま、暗んでいく空を望遠した。


|(●),  、(●)、|「しかし君はどうする? ミルナとオサムを待つのか?」

('A`)「そのつもり。でも少しだけだ。さすがに遅すぎる」

('A`)「多分何かあった。なんとなく、そう思う」

.

340 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:41:42 ID:P/ZE8Ycc0


|(●),  、(●)、|「……ならば全員で待とう。
            個人の危険を皆で分かつ、その為に手を組んだ」

('A`)「……良いこと言うぜ」


ノハ;゚听)「え゙ぇ゙ー! アタシは寝たい!」

(;,,゚Д゚)「お前ほんとに自分勝手だな!」

 やがて、しとしとと雨が降り始める。
 四人は適当な軒下に逃げ込み、二人の帰りを待った。



( 'A`)「……遅いなぁ」

 ドクオは俯き、地面の泥をぼんやり眺めた。

.

341 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:42:33 ID:P/ZE8Ycc0









.

342 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:43:14 ID:P/ZE8Ycc0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



【以下、レムナント監獄に入っていたなおるよ】

  ハ_ハ  
('(゚∀゚∩ 「みんな〜」
 ヽ  〈 
  ヽヽ_)



【以下、なおるよの弟妹6人】

  \ワイワイ/
      ハ,,ハ   ハ_ハ \ドッ/
  ハ_ハ('(゚∀゚∩∩゚∀゚)'ハ,,ハ  
(^( ゚∀) ハ_ハ Y ハ,,ハ('(゚∀゚∩
  )  (^(    )^)    )^)   〈
  (_ノ_ノ )  /´ `ヽ  ( ヽヽ_)
     (_ノ_ノ     ヽ_ヽ_)

344 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:44:13 ID:P/ZE8Ycc0

('(゚∀゚∩「兄ちゃん!」 (六男)

('(゚∀゚∩「兄ちゃん!」 (五男)

('(゚∀゚∩「兄ちゃんだ! 久し振り!」 (四男)

('(゚∀゚#∩「どこ行ってたの! みんな心配してたんだよ!」 (三男)

('(゚ー゚*;∩「こらこら、怒らないの!」 (長女)

('(゚∀゚;∩「兄ちゃん、凄い怪我してる!」 (次男)


('(゚∀゚*∩「これくらいヘッチャラだよ! すぐになおるよ!」

('(゚∀゚*∩「それより今は、またみんなに会えて嬉しいんだよ〜〜」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


('( ∀ ∩(兄ちゃんは……凄いことを沢山やって、帰ってきたんだよ……)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


.

345 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:44:53 ID:P/ZE8Ycc0


('(゚∀゚*∩「すごいことしてきたの!? すごいよ!」 (六男)

('(゚∀゚∩「それじゃ意味分かんないよ」 (四男)

('(゚∀゚;∩「また危ないことしたんでしょ! もぉ〜」 (次男)


('(゚∀゚*∩「えへへ! でもね、良い事をしたんだよ!
      悪い人を出し抜いてね、恩人に恩返しもしたんだよ!」

('(゚ー゚*∩「兄ちゃん、すぐご飯にするから休んでて!
      自慢話もいっぱい聞くよ!」 (長女)

('(゚∀゚;∩「兄ちゃんの自慢話は長いんだよ〜〜」 (三男)


('(゚∀゚*∩「分かったよ! じゃあ、いっぱい話しちゃおうかな!」

('(゚∀゚*∩「話す事はいっぱいあるから! いっぱい――」



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



('( ∀ ∩(いっぱい……話したい事が……)





.

346 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:45:49 ID:P/ZE8Ycc0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



【+  】ゞ )「……何をした」


 雨の中、声が聞こえた。
 ミルナはなおるよから目を逸らし、背後を振り返った。


( ゚д゚ )「……来たらこうだった」

( ゚д゚ )「驚くよな。俺もだ。
     俺の事は知ってるか? ドクオの……」

 白を切るつもりで口走った名前で、ふと思い止まる。
 ミルナは一度口を閉じ、改めて言った。


( ゚д゚ )「……ああ、俺がやった。分かってて聞いてんだろ」

 オサムは血と肉にまみれた地面を一歩、また一歩と進んだ。
 雨の匂いに意識を集中する。
 でなければ正気を保てない程の臭いが、この場所には充満していた。



.

347 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:47:24 ID:P/ZE8Ycc0


( ゚д゚ )「……お前がこいつに尾行させたんだな。
     自分でやれば、こうはならなかった」

( ゚д゚ )「……俺はお前達にだけは手出ししないつもりだった。
     お前が無駄な事を考えなければ、俺もここまではしなかった……」

【+  】ゞ )「……」

( ゚д゚ )「……弱い人間に頼ったから、こうなる」


 その時、空の雨雲が雷鳴を放った。

 周囲の電灯、電光板が光を失い、炸裂して煙を上げる。
 現象の原因は停電ではない。棺桶死オサムが、超能力を全開発動していた。


( ゚д゚ )「……この力、まだ加減が出来ない。
     逃げるなら今の内だが、しないだろ」


( д )「……後悔するなよ」

 お前も、俺も。
 ミルナは周囲の黒煙を硬質化させ、甲冑のようにして全身に纏った。
.

348 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:49:21 ID:P/ZE8Ycc0




【+  】ゞ゚;)(――なんだ、これは)

 黒い甲冑を纏ったミルナの変わり様に、オサムは思わず戦意を忘却した。


【+  】ゞ゚;)(光を使わずに超能力。しかも、これは……)

 目の前で起こった現象は、甲冑を着たというより、何かと融合したと言う方が的確だった。
 体格や気配も変化し、一瞬前とはまるで別人になっている。
 これが同一人物のものだとすれば、明らかに常軌を逸し、人として破綻しているとしか思えない。


 「……」

 二つ角の兜の奥に、赤い双眸が輝く。
 だらりと伸びた獣の尻尾が、雨に濡れて黒光る。

 聞こえてくる呼吸音は最早人間のそれではない。
 白い息が兜の口元から立ち上り、低く唸るような声が聞こえてくる。

 人の形をした別の生き物。
 似たような物に言い換えるなら、人の形をした黒竜。
 
.

349 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:50:03 ID:P/ZE8Ycc0


( д )「……」

 ミルナは膝を折って背中を丸め、視線をオサムに集中した。
 既に人としての意識を失っているのか、素振りは乱雑で、野生動物のようだ。

 その瞬間、ミルナが立っていた地面が弾け、彼の姿が消えた。


【+  】ゞ゚;)(来る――ッ!)

 雨がほんの一瞬、止んだ。
 ミルナの速さについていこうとしたオサムの目が、そう錯覚させたのだ。


【+  】ゞ゚;)(やはり、あの男の言う通りだった――!)


「――――■■■■■■■■■■■!!」

 人外の咆哮が、暗い雨空に響き渡った。
 

.

350 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:50:50 ID:P/ZE8Ycc0









.

351 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:51:46 ID:P/ZE8Ycc0

≪8≫






 ドクオは雨中に人影を見た。一人だった。
 雰囲気から、それが棺桶死オサムなのは何となく分かった。


('A`)ノシ 「お〜〜い。どうだったよ〜〜」


 遠くから声を掛ける。しかしオサムは何の反応も示さなかった。


|(●),  、(●)、|「……様子が変だ。行くぞ」

ノパ听)「……嫌な感じがする」

 ダディとヒートが雨の中に飛び出す。
 ドクオとギコも彼らに続き、棺桶死オサムのもとに駆けつけた。

(;,,゚Д゚)「ったく、何だってんだよ」


|(●),  、(●)、|「おい、何があった。棺桶死!」

 ダディはずぶ濡れのオサムの肩を揺すり、はっきりした口調で呼び掛けていた。
 それでもオサムはしばらくの間、完全に沈黙して口も開かなかった。

.

352 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:52:49 ID:P/ZE8Ycc0


【+  】ゞ゚)「……やられた」

 呆然自失の状態から、ようやく少しだけ回復する。
 彼の瞳に光が戻り、体にも少し力が戻ったようだった。

 やっと出てきた一言は殆ど雨音にかき消されたが、辛うじてダディだけが、オサムの言葉を聞き取っていた。

|(●),  、(●)、|「……連れて行ってくれるか」

 ダディの頼みを聞いたオサムは、何も言わずに来た道を歩き出した。



(;'A`)「……どうしたって?」

|(●),  、(●)、|「……やられた、とだけ」

 心配そうなドクオに簡潔に答える。

ノパ听)「……行くぞ。お前らも」

(;'A`)「……なんなんだよ」

(,,゚Д゚)「……覚悟はしておけ、ドクオ」

 皆は、オサムの後に続いて雨の中を歩き出した。
 その先に待つものが何なのか、予感していなかったのはドクオだけだった。

.

353 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:54:03 ID:P/ZE8Ycc0






 なおるよを前にして、オサムを含む五人は言葉を失っていた。

('( ∀ ∩

 激しい雨が冷たい体に降り注ぐ。
 彼が生きていた証は、この雨が全て洗い流してしまった。

 血の流れは終わり、死んでいるとは思えないほど綺麗なまま、なおるよはそこで死んでいた。
 壁に背もたれ、俯き、微笑んだまま。


|(●),  、(●)、|「……認識が甘かった……」

 ダディは、まるで全員の言葉を代弁するかのように言った。
 ダディだけはなおるよに近づき、彼の肉体がその機能を終えているのを確認した。


|(●),  、(●)、|「……オサム。念のために聞くが、お前じゃないな」

【+  】ゞ゚)「……俺が来た時には、もう死んでいた」

 腰を上げ、ダディは皆を一望して言った。

|(●),  、(●)、|「この街に知り合いが居る。
           彼に頼んで、なおるよを葬る」

.

354 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:54:43 ID:P/ZE8Ycc0

('A`)「……冷静だな」

 なおるよを見たまま、ドクオがぽつんと囁く。
 ドクオの静かな怒りを感じ取ったギコが、彼を宥める為に喋りだした。


(,,゚Д゚)「……こいつを殺した奴が今もその辺に居るかもしれない。
     取り乱したらダメだ。いいか、冷静とかって話じゃないんだ」

(,,゚Д゚)「何で殺されたのか、誰が殺したのか。
     今それを考えたら動けなくなる。言い方は悪いが、黙れ」


('A`)「……俺はなおるよに会ってた。昼に、少しだけ話をした」

('A`)「こいつ、『頑張れ、ありがとう、またね』って、そう言ってた……」

 ドクオはギコの制止を無視して喋りだした。
 誰かに向けての言葉ではなかった。
 しかし今すぐ吐き出さなければ、胸の内でより大きな怒りを生み出しかねなかった。

('A`)「手伝ってくれるって言った。でもまだガキだと思って、俺は帰るように言った……」


('A`)「……それが、コレか……」


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355 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:55:44 ID:P/ZE8Ycc0


('A`)「……なんで殺された……」

(,,゚Д゚)「……やめろ」

('A`)「誰が殺しやがった……」

 ドクオの頭いっぱいに、素直クールが目の前で殺された時の光景が蘇る。


( A )「……誰だ……」

 その時、ドクオはペンライトを点けて超能力を発動した。
 左腕が強固な装甲に覆われ、背中に二つの撃鉄が具現化する。

 そして彼自身は自覚していなかったが、彼の周囲には不透明な靄が漂っていた。
 蜃気楼のように漂うそれは、ドクオの怒りに応えるように、少しずつ黒くなる。

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356 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:56:31 ID:P/ZE8Ycc0


(,,゚Д゚)「……どうやって相手を見つける。
    一人でどうやって居場所を突き止める」

( A )「……」

(,,゚Д゚)「そいつと会えたとして、お前は勝てるのか?
     俺達は協力しないぞ。自分勝手な行動には誰もついて来ない」


(,,゚Д゚)「……だけどな、今ここで『それ』を抑えられるんなら、俺達はまだ仲間で居られる。
    今、それを抑えられないなら、お前はただの人殺しだ」

( A )「……俺はただの人殺しでいい……」

(,,゚Д゚)「……」


(,,-Д-)「……ああそうかよ。だったら言ってやる」

 ギコは目を閉じ、息を吐いてから言った。

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357 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:58:09 ID:P/ZE8Ycc0


(,,゚Д゚)「なおるよを殺したのはお前だ。
     お前はとっくに、ただの人殺しだ」

( A )「……そうだ。だから殺した奴を殺す」

(,,゚Д゚)「償いにはならねぇ」

( A )「それでいい」

 ドクオは即答した。

(,,゚Д゚)「分からず屋か」

 ギコもまた、即答した。



(,,゚Д゚)「……じゃあ好きにしろ」

 するとギコは呆気なく、ドクオを突き放した。

(;'A`)「…………」

(,,゚Д゚)「……どうした行けよ。お前がそう言った」


(#'A`)「……ッ!」

 何か言いたげにギコを睨む。
 しかしそれも一瞬で、ドクオはみるみる内に息苦しそうな顔になり、目を伏せた。

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358 名前:名も無きAAのようです :2015/05/23(土) 23:59:40 ID:P/ZE8Ycc0



【+  】ゞ ;)「……ダディクール」

|(●),  、(●)、|「……どうした?」

【+  】ゞ ;)「後を、頼む……」

 弱々しく名前を呼ばれて振り返ると、脱力して倒れゆくオサムが視界に入った。

|;(●),  、(●)、|「――棺桶死ッ!!」

 ダディは咄嗟に手を伸ばして受け止めようとしたが、オサムはそのまま地面に崩れ落ち、意識を失った。


(;,,゚Д゚)「こいつ怪我人かよッ!」

 ギコはオサムの傍で膝をつき、彼の呼吸と心音を確かめた。

|;(●),  、(●)、|「どうだ……?」

(;,,゚Д゚)「……息はある。だが、心臓が無い……」

ノハ;゚听)「……は? 何が無いって?」

 ギコは自身が理解する前に、ありのままを伝えた。

|;(●),  、(●)、|「……不可能を可能にする能力だ。
            恐らくそれで生きている。光源のある場所で絶対安静だ」

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359 名前:名も無きAAのようです :2015/05/24(日) 00:00:43 ID:.vSxxcK.0

|;(●),  、(●)、|「ヒート、みんなを連れてホテルに行ってくれ。
             場所は分かるな? オサムもすぐに寝かせてやれ」

ノパ听)「了解だ。ギコ、そいつ運べ」

(;,,゚Д゚)「急に仕切んな。つーかマジで分かってんのか?」

ノハ#゚听)「いいから黙ってついて来い。そいつ死ぬぞ」

(;,,゚Д゚)「……分かった」

 ヒートとギコはオサムを連れて走り出した。
 周辺には早くも野次馬が湧いていたが、彼らはそれを突っ切っていった。


(;'A`)「……オサム……」

|(●),  、(●)、|「君もだ」

 ダディはドクオに対してキッパリと言い、なおるよの体を慎重に持ち上げた。

|(●),  、(●)、|「私はなおるよを知り合いの家に運ぶ。
           ここに置いておけば雑多に始末されてしまう」

(;'A`)「……」

|(●),  、(●)、|「……どうした。まさか動かないつもりか?」

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360 名前:名も無きAAのようです :2015/05/24(日) 00:01:31 ID:.vSxxcK.0


(; A )「……一人で動くのは危ない。俺も一緒に行く……」

 長い沈黙の末に、ドクオは絞り出すように言った。
 それはドクオが自分で導き出した、今出来る最善の行いだった。

|(●),  、(●)、|「……分かった。遅れるなよ」

 ダディはドクオへの視線を切り、力強く駆け出した。




(; A )「……」


 友達になれる。笑い合う仲間にもなれる。

 そう思ったからこそ、なおるよを巻き込んではいけないと思った。
 俺みたいな奴と関わってはいけないと、そう思った。


 だが、なおるよは死んだ。誰かに殺された。誰かに……。


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361 名前:名も無きAAのようです :2015/05/24(日) 00:02:11 ID:.vSxxcK.0




 全てを洗い流すこの雨に、ぬるい雫がこぼれ落ちる。


 この胸の苦しさは、俺に戦いの始まりを告げているのか……。



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362 名前:名も無きAAのようです :2015/05/24(日) 00:02:55 ID:.vSxxcK.0


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       第二十二話 「不治のくらやみ その2」

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363 名前:名も無きAAのようです :2015/05/24(日) 00:03:36 ID:.vSxxcK.0




 ――なおるよは、夢の中に六人分の笑顔を思い浮かべていた。


 ただ、それだけで良かった。



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