33 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:32:39 ID:tpcqJCsI0

≪1≫


 ドクオがレムナント監獄を飛び出し、ミルナの後を追い始めておよそ二十分。
 荒野を黙々と歩き続けるミルナの足並みは早く、追いついた時にはすでに監獄が遠くにあった。

(;'A`)(つーかなんだよあの地面、不自然すぎるだろうが……)

 ドクオはふと足を止め、乗り越えてきた岩だらけの悪路を見返した。

 監獄周辺の地面は先日の戦いの終盤、棺桶死オサムによって一度完全に引き裂かれている。
 オサムはそれを超能力によって再度くっつけたが、当然元通りとはいかず、地面には激しい隆起の跡形が残っていた。

('A`;)(いい加減、追いつかねえとな……)


('A`)ノシ 「おーい!」

 片手を大きく振りながら、ミルナの背中めがけて大声で呼びかける。
 ミルナは立ち止まって振り返り、手を振るドクオの姿を見つけた。

  _, ,_
( ゚д゚ )

 彼はとても微妙な表情のまま、ドクオが追いついてくるのをしばらく待った。

.

34 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:33:46 ID:tpcqJCsI0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

            第十七話 「Waste Land」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

.

35 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:34:49 ID:tpcqJCsI0



( ゚д゚ )「……事情は把握した。でもなんでついてきた」

('A`)「色々聞きたい事があった。教えてもらいたい事も」

( ゚д゚ )「……質問は受け付ける。教えて欲しい事も即教えてやる。
     だが終わったら連中のところに戻れ。これでいいか」

('A`)「……なんで外に出たんだ? 引きこもりかと思ってた」

( ゚д゚ )「外に出る理由ができた、だから出た。それだけだ」

 ミルナは歩を速め、ドクオを振り切ろうとした。


(;'A`)「その理由を聞いてるんだよっ」

 足早に追いかけ、さらに問いかける。



( ゚д゚ )「質問は終わりか? じゃあさっさと消えろ」

(;'A`)「まさかイラついてんのか? なんかあったのか?」

 途端、ミルナは振り返ってドクオの胸倉を掴みあげた。
 ドクオは恐縮して口ごもり、身動きを止めてミルナの言葉を待った。


 険しい表情を無理矢理に素面に戻すと、ミルナは溜め息をついて手を離し、ドクオを地面におろした。


( ゚д゚ )「……関わるな、これ以上は。お前言っただろ、お前の問題はお前の問題だって」

( ゚д゚ )「それだよ、これは俺の問題だ。首を突っ込むな」

.

36 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:36:53 ID:tpcqJCsI0


(;'A`)「……お前は手掛かりだ。あいつを助ける為にはどうしても必要だ」

( ゚д゚ )「力はくれてやっただろ。それで何とかしろ」

(;'A`)「助け出した後の問題だ! 助けるだけならお前なんかいらねえよ……。
    でも別世界とかtanasinnとか、俺だけじゃどうにもできない問題があるんだろ?」

 まだ言葉を返してくるドクオに、ミルナの苛立ちが沸点を超えた。
 ミルナはその怒りを露にし、声を荒げて言った。

(#゚д゚ )「だから! それが俺達の問題なんだ!」

(#゚д゚ )「ついてくれば否応無しに巻き込まれる! そうなればお前はまず助からない!」

(#゚д゚ )「お前は奴を助けて平和に暮らしてろ! 俺はお前がそうすると思ったから力を渡したんだ!
     今のお前は超能力のせいで万能感に浸ってるだけなんだよ!」

(#゚д゚ )「お前は素直クールを助けてハッピーエンドで終わりだ、絶対にそうするべきだ!
     だが、俺達と深く関われば全部が変わる! すべて終われなくなる!」

('A`)「……んだよ」

 ドクオはミルナを見返し、彼の胸倉を掴み返した。

(#'A`)「じゃあ死ぬまであいつの愛想笑いを見てろってのか!?
    俺には何もできないから、俺がガキだから! あいつの嘘と優しさに甘え続けろっていうのか!?」

(#'A`)「そんなん二度とごめんだから強くなるって決めたんだよ……!
    他人の嘘と優しさに生かされてたら、俺はずっとガキのままだ……!」

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37 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:37:57 ID:tpcqJCsI0


 それからしばらく、二人の間に長い長い沈黙が流れた。

( ゚д゚ )「……」

 選ぶ自由さえ無くこの道を歩き始めた自分と、選んでこの道を進もうとするドクオ。
 ミルナは、自分とドクオの境遇を比べて考えていた。


 今の自分には後悔しかない。叶うことなら全てをやり直したいとさえ思っている。
 しかし現実はただ前へ進み続ける。
 例え行く末が底無しの断崖であっても、現実は一定の速度で淡々と進んでいく。

 断崖へと続く未来を変える方法はただ一つ。
 今ある道をはずれ、見ず知らずの道に一歩踏み出す事だ。

 もし、ドクオの存在によって何かが好転するのなら……。


( ゚д゚ )(……駄目だ。それで何かが変わった試しは、ない……)


 誰かが居れば何かが変わるのではないかという、無責任で楽観的な思考。
 一時の安楽の為に考える事を放棄し、希釈され尽くした希望に未来を放棄する。

 そんな子供染みた考えに今一度縋りつくような真似は、彼にはもう決して選べなかった。
 彼の過去は、後悔と戒めに満ち溢れている。

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38 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:40:12 ID:tpcqJCsI0


 そこまで考えて、ミルナはようやく自分の立ち位置を思い出した。


( ゚д゚ )(『役立たずのろくでなし』だ、結局はな……)


 どれだけの実力を有していても、それが全く活用できず、いくら努力しても目指しているものに届かない。
 才能や努力が成果に結びつかない期間が長続きすれば、人はいつか諦念と堕落に行き着いてしまう。

 人間を本当の意味で終わらせるのは生まれや能力の優劣ではなく、
 山ほど積み上げた努力の産物を、誰にも知られずひっそりと、胸のうちで絞め殺した時だ。

 ミルナはその経験を何度も味わってきた。
 元の世界に戻る――最初はその事だけを考えて行動したが、それが残したのは夥しく連なる後悔の痕だ。


 かつての世界。ミルナは仲間を集めてtanasinnに挑み、その仲間達を全滅させた事がある。
 しかしそれを悲しむ暇はない。この世界はタイミングが来ると、tanasinnが生み出す次の世界へと作り変えられていく。


 次の世界にはまた別の常識と正義が存在する。
 ミルナは次の世界に順応する為に、自分の記憶にだけ存在する過去の仲間達を忘れ、自分の中の正義を塗り替えた。
 時には前の世界を全否定する悪のような正義にも、彼は“元の世界に戻る”という目的の為に従った。

 そしてある時、ミルナは全てを諦めた。
 彼は自分の中の正しさを塗り替えていく中で気付いてしまったのだ。
 もうとっくに、自分という存在は無色透明に塗り潰されているのだと。


 彼はtanasinnへの反抗をやめ、誰も居ない場所で静かに停滞し続けることを選んだ。
 100万回生きた男は100万回生きて死に、そして100万回分の後悔を抱え、無限に続く人生を漂い始めた。
 そうした生きながら死を演じるような無様な生き方は、彼の心をすぐに鈍化させていった。

.

39 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:40:52 ID:tpcqJCsI0



 ミルナは心を落ち着け、ドクオをどうするべきか考え始めた。


 世界が変わる度に過去を切り捨て、百万通りの正義を使い分けてきた彼にとって、
 今更誰がどれだけ干渉してきたところで、思う事は何もない。
 正直ついてきても構わないと思えるが、問題は……


( ゚д゚ )(……いや、問題も何もない。勝手にしろ、それだけだ)

 十分に鈍化した彼の心は、最終的にそういう結論を出した。

.

40 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:41:32 ID:tpcqJCsI0



( ゚д゚ )「……ついてきていい。放せ」

(;'A`)「……気持ち悪いぐらいあっさりだな」

 ドクオはそう言い、胸倉を掴んでいた手を放した。


( ゚д゚ )「……俺には行く当てがない。ついてきていいとは言ったが、道はお前に任せるぞ」

('A`)「……お、おう……」

 一瞬前の様子とは打って変わり、今は不気味なまでに穏やかなミルナ。
 その姿に、ドクオは大きな不気味さを覚えた。

( ゚д゚ )「続きは歩きながら喋るぞ。急ぎたいだろ」

('A`)「……そうだな」

 ドクオは心配そうな目でミルナに一瞥を送ってから、一歩を踏み出した。

.

41 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:42:12 ID:tpcqJCsI0



( ゚д゚ )「……」


('A`)「……どうした、来ないのか?」


( ゚д゚ )「……行く。ちょっとな」


 ミルナもまた一歩を踏み出し、いよいよレムナントを回る二人の旅が始まった。



( ゚д゚ )「暇潰しに俺が一番好きなお話をしてやる」

('A`)「藪から棒にも程があるだろ」

( ゚д゚ )「話したい気分なんだ。その話はな、百万回生きた猫って話でな……」


.

42 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:44:41 ID:tpcqJCsI0

≪2≫


 ドクオはレムナント監獄を出発してから西へ歩き続けた。
 ダディ達と一緒に見た地図では、目的地は大体こっち方向だった覚えがある。
 記憶は酷く曖昧だが、この先の森と崖を超えていけば、あとは土地勘で何とかなるとドクオは考えていた。


('A`)「……必殺技、欲しいんだよ。
   こないだ戦ってる時に名前思い付いたんだけどさ……」

( ゚д゚ )「必殺技か、俺も一時期やってたな。今思うとすごい恥ずかしい」

('A`)「叫びたいんだよ……カッコイイやつを……切実に……」

(;゚д゚ )「やめとけやめとけ、本気でドラゴンブロウとか叫ぶの結構キツイぞ」

('A`)「えっ? ドラっ……」

( ゚д゚ )

('A`)




('∀`)「カッコイイな! それな! それ貰っていい?」

(;゚д゚ )「好きにしていいからこの話はやめろ! ほら、あれが目的地だろ!」


('A`)「……おっ、もうすぐそこじゃん。案外早かったな」

 雑談に花を咲かせている内に、彼らは一つ目のチェックポイントである森林を目前にしていた。
 レムナントで唯一植物が群生しているあの森を抜け、崖を飛び越えればドクオの故郷はもうすぐだった。
.

43 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:45:21 ID:tpcqJCsI0


 ミルナは空を見上げ、太陽の位置からおおよその時間をはかった。
 太陽はほぼ真上に位置している。

( ゚д゚ )「あの森を抜ける、か……半日で行けると思うか?」

 ドクオは森に向かって目を凝らした。
  ,_
('A`)「……けっこう広いな。しかも奥の方は結構暗いぞ。昼間なのに殆ど光が差し込んでない」

( ゚д゚ )「……どうする?」

('A`)「……今日はとりあえず森を抜けよう。
   無理でも森の中なら火を起こせるし、食べ物もあると思うし」

( ゚д゚ )「だな」

.

44 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:46:02 ID:tpcqJCsI0



 ――森に近づいていくにつれ、二人は先程の目論みがどれだけ甘かったかを徐々に理解していった。


 木々はその一本一本が高く図太く、地面にも多くの雑草が生い茂っていた。
 見る限り道と言えるものも存在しておらず、進行は手探りにならざるをえない様子だった。

 地形の高低差もかなり激しい。
 途中から上り坂と下り坂が入り乱れており、下手な進路をとればすぐに体力を消耗してしまう。
 素人の二人で乗り越えるには、この森はあまりにも広大で複雑なつくりをしていたのだ。


 森の入り口まで来て立ち止まったドクオとミルナは、今一度森を見渡してあんぐりと口を開けた。

(;゚д゚ )「おい半日じゃ無理だろコレ」

(;'A`)「……とりあえず真っ直ぐ進めばオッケーの筈だから、深く考えずに直進してこうぜ」

(;゚д゚ )「真っ直ぐか、なら大丈夫だろ……」

 森の怖さを知らないままに、二人は森の中を歩き始めた。


.

45 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:50:15 ID:tpcqJCsI0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 三時間後、二人は迷子だった。


('A`)


('A`)「は?」

 ドクオは逆切れ気味に呟き、後ろについてきているミルナを睨んだ。


( ゚д゚ )「いやこっち見るなよ」

('A`)「ここどこだよ。結構歩いたよな? は?」

( ゚д゚ )


(;゚д゚ )「……あー。そういや何度目かの休憩で真っ直ぐじゃなくなった気が……」

('A`)「言えよ」

( ゚д゚ )


(#'A`)「それ言えよ!!」

 ドクオはついに逆切れし、近くにあった木に拳で八つ当たりした。
 木々がざわめき、木の葉が空中を舞い落ちていく。


( ゚д゚ )「……」

 途端、ミルナは空中を見上げた。
 それを不思議に思い、ドクオは一時の怒りを忘れて彼に尋ねた。

('A`)「どした」

(#゚д゚ )「伏せてろ!」

 瞬間、ミルナは超能力を発動し、振り返ると同時に拳を突き出した。
 超能力によって鋼鉄に包まれていた彼の拳は、ガキンという音をあげて何かを打ち落とした。

.

46 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:51:12 ID:tpcqJCsI0


(;'A`)「――トゲ!?」

 ミルナが地面に打ち落とした物を見て、ドクオは一歩遅れて周囲の気配に気がついた。
 ドクオは身構えて周囲を見回し、敵の存在を視認した。
 木々の陰に隠れて輝くそれらは、森に住む生物達の双眸だった。


(#゚д゚ )「なんでか知らんが怒りを買ったらしい!」

 ミルナは木陰から次々と飛来する巨大なトゲを的確に打ち落としながら言った。

(;'A`)「お、俺もッ!」

 危機感を覚えたドクオは能力を発動しようとしたが、その為の光源を持ってくるのをすっかり忘れていた。

(;'∀`)「……やっべ」

 冷や汗が頬を伝って流れ落ちていく。
 その様子から今が好機と悟ったのか、茂みの中から生物達がなだれの様に飛び出してきた。

 驚く事に、飛び出してきた動物達はその多くが超能力らしきものを発動していた。
 火達磨のリス、八首のヘビ、全身を針に覆われた犬、ミサイルを携帯した鳥、
 体が水で出来ているクマ、三羽そろって牙をむくスズメなど、そのバリエーションは種族超能力ともに多岐に渡った。

.

47 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:52:36 ID:tpcqJCsI0


('A`;)「ヤバイ! ヤバイってミルナおいこれ逃げた方が!?」

(;゚д゚ )「同感だ! この数はさすがに今はッ……!」

 二人が背を合わせて切迫している間に、動物の大群の中から、人型の鳥が先行して接近してきた。

(# ゚∋゚)

 3メートルはあろう鳥人間の肉体は完璧な二足歩行で走り続け、
 そのまま二人に体当たりをかまそうとしていた。

(;'A`)「くっそ!」

( ゚д゚ )「……」

 鳥人間から逃げようとしたドクオは、そのとき急にミルナの雰囲気が変わったような気がした。
 その感覚は、ミルナが光源なしに物質を具現化した――tanasinnの力を使った時に似ていた。

 ミルナの左腕に、黒い煙が巻きついた。

('A`;)(――止めねえと!)

 ドクオは咄嗟にそう思った。
 何が起こるか具体的に想像した訳ではなかったが、心身が一瞬にして“あれは危険だ”と察知したのだ。

 ドクオは踵を返し、ミルナの肩に手を伸ばした。
 だが既に、ミルナと鳥人間の間には何者かの攻撃が割り込んできていた。

.

48 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:54:08 ID:tpcqJCsI0


 二人の間に割り込んできたもの。
 それは、地面や草木を容易に切断しながら飛んでくる殺人的な旋風だった。

(; ゚∋゚)「ッ!」

( ゚д゚ )「新手……」

 直撃が危険と悟った鳥人間は急停止して後方に飛びのいたが、
 ミルナは悠然と左腕を振るい、腕に巻きついていた黒煙を放って旋風に直撃させた。

 黒煙と旋風はぶつかると同時に相殺し、やわらかな風を残して双方消滅した。


(;'A`)「……」

 ドクオは、旋風が飛んできた方向に目を向けた。
 すると間もなく、森の奥から長身の男がぬらりくらりと歩み出てきた。





.∧_∧
( ´Д`)「参ったな……」

 男は、後頭部をかきながら呟いた。

.∧_∧
( ´Д`)「あんな握りっ屁に消される技じゃなかったんだが……」



.

49 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:56:28 ID:tpcqJCsI0


.∧_∧
( ´Д`)「……あんたら」

 男はミルナとドクオをそれぞれ見てから、ドクオに声を掛けた。

.∧_∧
( ´Д`)「俺は八頭身。見ての通り、剣士だ」

 八頭身と名乗った彼は、身の丈を超える大刀を肩に担いで自己紹介した。


(;'A`)「でっけ……」
.∧_∧
( ´Д`)「見慣れないだろ。こいつが案外ただならねえ」

 八頭身はドクオの訝しげな反応に不敵な笑みを返した。
 それは、自身の技量と刀への信頼を表していた。

.∧_∧
( ´Д`)「クックル、さっきのはただの八つ当たりだろうよ。
      こいつらに敵意があった訳じゃねえさ」

( ゚∋゚)「……」

 鳥人間――クックルは八頭身の言葉に耳を傾けたようで、小さく頷くと、彼は森の生物達に視線を送った。
 すると動物達は静かに超能力を解き、静かに森の中に帰っていった。

.

50 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:57:40 ID:tpcqJCsI0


.∧_∧
( ´Д`)「俺は探しモンでここに来た。
      コイツ、クックルには道案内を頼んでる。ただの迷子じゃねえさ」

.∧_∧
( ´Д`)「一緒に来るか? 俺の用事を手伝ってくれりゃ金も取らねえよ」

(# ゚∋゚)

 クックルは八頭身の隣に立ち、ドクオをじっと睨んだ。
 まだ怒っているのだと察したドクオは、バッグから食料の一部を取ってクックルに差し出した。

(;'A`)「……これ、ビスケットだけど要る?」

(* ゚∋゚)

 餌付け、完了。


.∧_∧
( ´Д`)「で、どうするよ。クックルがいりゃあ夜中襲われる心配もねえが、今の内に動きたいだろ」

('A`)「……そりゃそうだ。ミルナ、こいつらに付いてこうぜ」

( ゚д゚ )「……ああ」

.∧_∧
( ´Д`)「そんじゃあクックル、案内頼む」

 クックルが歩き出すと、各々もその後に続いて歩き始めた。

.

51 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 22:58:44 ID:tpcqJCsI0

≪3≫


 道程は長く、三人は歩きながらの雑談で暇を潰していた。
 特に何かがあるわけでもないので、適当な事を話すしかやる事がない。
 今の話題は、八頭身が呆然と語る“剣士とは何ぞや”だった。

.∧_∧
( ´Д`)「……まぁ剣士なんざ結局二通りよ。
      斬り合ってるか刃物集めてるかのどっちかだ」

.∧_∧
( ´Д`)「たまに獲物自体が超能力持ってたりするしな、剣の腕はあんまり関係ねえのが現状だ。
      俺もそんなに腕は立たねえ。俺はこの刀ありきで今までやってきた。さまさまだ」

('A`)「アンタのそれも、凄い刀なのか?」

.∧_∧
( ´Д`)「すげぇのなんの、石ころひとつで姿形と能力が変わる化け物だ。
      鍔のとこにへこんだ場所があるだろ、そこに石をはめこむんだ」

.∧_∧
( ´Д`)「名前は『大長刀・アハト』。自慢の一振りだ」

 八頭身は少し屈み、背中の大刀をドクオに見せつけた。
 強固に作られた鍔の部分には球形のくぼみがあるが、今はそこに何も収まっていなかった。

.∧_∧
( ´Д`)「俺が今探してるのはその石ころだ。
      この先の崖下にあるらしいんだが、ほんとに見つかるかどうか……」

('A`)「……俺達が手伝う用事はそれか?」

.∧_∧
( ´Д`)「そうそう。頼りにしてるぜ」

 八頭身は振り返り、ドクオに笑顔を送った。

.

52 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:00:00 ID:tpcqJCsI0


.∧_∧
( ´Д`)「俺が探してる石ころ、その名も『両刀・太刀猫』よ」

(;゚д゚ )「……ろくでもない名前だな」

('A`)「?」



.∧_∧
( ´Д`)「……そういやぁ兄さん、さっきの煙、ありゃ何だよ」

.∧_∧
( ´Д`)「俺は驚いたんだぜ、だって光もなしにあんなの出したんだ。
      世の中にゃあ生身で大地震起こす熊みたいな化け物が居るらしいが、アンタ、それとも違うだろ」

( ゚д゚ )「……あらかじめ能力を発動してただけだ。剣士にしては目が悪いな」

.∧_∧
( ´Д`)



.∧_∧
( ´Д`)「は? お前あとでぶった切るからな」

(;゚д゚ )「真に受けるな! 冗談だよ!」

.

53 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:00:42 ID:tpcqJCsI0


('A`)「……能力と言えば、なんで森の生き物が能力出してたんだ?」

.∧_∧
( ´Д`)「あぁそれか、それは俺にも分かんねえ。不思議な事もある」


( ゚д゚ )「……認識の違いだろう」

( ゚д゚ )「俺達にとって光は人工的なものだが、生き物にとって光は太陽だ。
     その認識の差異が長い年月をかけて超能力の違いを生み出した、とかな」
.∧_∧
( ´Д`)「進化の過程で超能力が枝分かれしたか。
      案外そうかもしれねえよ。アンタ頭良いな」

 ミルナの空気の読めないマジレスに、八頭身は優しく対応した。


( ゚∋゚)「そろそろ森を抜ける」
.∧_∧
( ´Д`)「あいよ。ご苦労さん」

(;゚д゚ )(こいつ喋れたのか……)

(;'A`)「……クックル? さん……は、種族的に何なんですか?」

 ドクオは勇気を出して聞いてみた。
 雰囲気がどことなくクマーに似ているので、ドクオはクックルを怖がっていたのだ。

.

54 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:01:29 ID:tpcqJCsI0


( ゚∋゚)「……鳥人間、というよりは人間鳥」

( ゚∋゚)「昔は完全に人間だったけど、気付いたら鳥だった」

(;'A`)「気付いたら!?」

( ゚∋゚)「寝て起きたら空とか飛べそうだった……それで鏡見たら羽毛もっさもさだった……」

(;'A`)「そ、そんな感じでいいんすか……?」

( ゚∋゚)「元々森に一人で住んでたから、特に生活に変化とかない。
     生き物の言葉が分かるようになっただけ、むしろ便利」

.∧_∧
( ´Д`)「しかもコイツ、聞いたら人間に戻る方法知らねえんだってよ。ずっとこのままだと」

(;゚д゚ )「……森で生きてたから、超能力の概念も動物寄りになったのか……?」

( ゚∋゚)「超能力、とても不思議」

.∧_∧
(*´Д`)「まあ今の方が断然カッコイイと俺は思うけどな! いいじゃん人間鳥!」

(* ゚∋゚) ポッ

 八頭身はクックルの肩に腕を回し、高らかに笑った。

(;'A`)(こんな気楽な話じゃないと思うんだけどなぁ……)

.

55 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:02:23 ID:tpcqJCsI0


.∧_∧
( ´Д`)「――っと! いよいよお目当ての場所だ!」

 森の出口が間近に迫ると、八頭身は走り出してクックルを抜いていった。

( ゚д゚ )「森を抜けたら次はなんだ?」

('A`)「崖、っていうか谷かな……。地面がばっくり割れてる場所」

( ゚∋゚)「凄い昔に、凄い剣士が作った谷、らしい」

 間もなくして、ドクオ達も八頭身に続いて森を出た。
 久方振りの太陽が、彼らの頭上で眩く輝いた。


 そして先頭に立っていたミルナは、突然足元に広がった断崖絶壁に目を丸くした。

( ゚д゚ )「は?」


(;゚д゚)「おっ↑ちる!!!!!!!!!」

 ミルナは声を裏返らせて言い、落ちる寸前でなんとか踏み止まった。
 しかしすぐそこが崖なのを知らなかったドクオは

(*'A`)「わぁ〜崖だぁ〜」

 などと意味不明な供述をしながら崖下に落ちていった。

.

56 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:05:22 ID:tpcqJCsI0



('A`)(…………あ……?)



('A`)(………………)



('A`)

('A`)「あっ」



 ようやく気付いたその瞬間、ドクオは腹の底から悲鳴を上げた。


(;゚A゚)「死ぬぁアアアアアアアアアアアアアア――――……」



(;゚д゚ )「あンのバカ野郎ッ!!」

 ミルナは遠のく悲鳴を追いかけるように体を前傾させて崖を飛び降りた。

.

57 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:06:56 ID:tpcqJCsI0



('A`)「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……」

(;゚д゚)「ビビってんじゃねえ! 手ぇ伸ばしてろ!」

 ミルナは体を大の字に開いて落下しながら超能力を発動した。
 右腕が鈍色の装甲に覆われ、彼の背に撃鉄がひとつだけ具現化する。

(;゚д゚)(少しは力が戻ったか……!)

 ミルナは右腕を真下に向け、それを左腕で支えた。
 照準をドクオに絞り、ミルナは何万年振りに背の撃鉄を落とした。

(;゚д゚)「ぐッ……!」

 それを切欠に背の撃鉄から光が溢れ出した。
 光の流動が生み出した推進力は彼の落下速度をさらに上昇させ、ドクオとの距離を瞬く間に縮めていく。
 だが、長い間超能力を発動せずに居たミルナには、マグナムブロウという超能力の反動は余りにも大きすぎた。

(;゚д゚)(ここまでッ……)

(; д )(ここまで鈍ってるのかッ……!)

 加速し始めた途端、右腕の装甲が一気にひび割れて崩れ始めた。

 装甲は肉体との結合を維持できず、破片になって空中に散っていく。
 装甲がはがれる度に、生身から分厚く皮膚をめくられるような激痛が彼の全身に突き刺った。

(; д )(なまるにも程があるだろッ……!)


(;'A`)「――おい! 大丈夫か!?」

 あと少しで手が届くというところで、ミルナの意識は激痛によって打ち切られた。
 ふっと力が抜けて自由落下を始めた彼の手を、ドクオは咄嗟に掴み取った。

(;'A`)(このままだとコイツごと地面に――!)

 ドクオはこの状況を何とかしようと考えたが、やれる事は何一つとして思い浮かばない。
 せめて傷のない自分が下になろうとミルナを庇い、ドクオは覚悟して目を閉じた。


.

58 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:08:03 ID:tpcqJCsI0



 ――目を閉じる最中、ドクオは崖下に奇妙な姿を捉えていた。
 それは、地面から空中を睨んで居合いの構えをとっている八頭身の姿だった。



.∧_∧
(#´Д`)「クックル! 二人を止めるぞ!」

 八頭身は深く息を吐きながら『大長刀・アハト』の柄に手を触れた。
 そしてドクオらが攻撃範囲に入った瞬間、一気に腰を切って抜刀。火花が散るほどの加速をもって刀身を弾き出す。
 同時に爆風が巻き起こり、抜刀の衝撃波が空気を切り裂いて飛翔していった。


(;゚A゚)「おおおおおっ!?」

 衝撃波はドクオとミルナに直撃し、二人の落下を一時的に止めて見せた。
 しかしふんわりとした浮遊感は一瞬で、一秒と経たずして、二人は再度地面に向かって落ち始める。

 そこに手を伸ばしてきたのは、背中に純白の両翼をたたえたクックルだった。

(; ゚∋゚)「危ない危ない……」

 クックルに手を掴まれると、ドクオはようやく安堵して口元を緩めた。

(;'∀`)「……すっげー……マジで鳥だ……」

 クックルと一緒に空を飛びながら、ドクオ達は徐々に地面に降りていった。

.

59 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:09:50 ID:tpcqJCsI0

≪4≫



 目が覚めると、ミルナは満天の星空に迎えられた。
 体に掛けられていたタオルケットをはがし、ミルナは体を起こした。


('A`)「……よう。森でキャンプ中だぜ」

 ドクオは焚き火をつつきながらそう言い、森の木の実をひとつ口に入れた。

( ゚д゚ )「……気絶してたのか……」

('A`)「年を考えろってヤツだ。助けに来てくれたのは素直に感謝してるけどな」

( ゚д゚ )「……あの二人は?」

('A`)「刀探しでまだどっか歩いてる。俺もさっきまで手伝ってたけど、見つかんなかった。
    でもお礼にペンライト貰えたんだ。これで俺も戦える」

 食料の入ったバッグから缶詰と缶切りを取り出し、ドクオは缶詰を開けて食べ始めた。

('A`)「食べる? 二人分の食料は十分あるぞ」

( ゚д゚ )「……働かざる者だ。今夜は飯抜きでいい」


.

60 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:11:59 ID:tpcqJCsI0


('A`)「そういやクックルに地図も貰ったんだ。
    次の目的地までは半日かからないってよ」

( ゚д゚ )「次か。次はどこだ?」

('A`)「俺の故郷。久し振りに帰ろうと思って」

( ゚д゚ )「なんだ、親の顔でも見に行くのか?」

('A`)「……いや、親は居ないんだ。育っただけ。親の顔なんざ見たこともねえよ」

( ゚д゚ )「……じゃあ何の為に寄るんだ?」

(;'∀`)「おいおい、質問攻めは勘弁してくれよ……」

 ドクオは苦笑いを浮かべてミルナの方を向いた。


('A`)「ついでに俺も聞くけど、あの時、崖から落ちてる時、なんで超能力に頼ったんだ?」

('A`)「あるんだろ? まだよくわかんねえけど……tanasinnとかっていうのの力がさ。
    森で動物に襲われた時には使ってたけど、どうしてあの時使わなかったのか気になったんだ」

( ゚д゚ )「……さぁな、どうしてだろうな……?」

 ミルナは本心でそう言って俯いた。

.

61 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:12:45 ID:tpcqJCsI0


 ドクオが少しの間沈黙していると、ミルナは考えをまとめて話し始めた。


( ゚д゚ )「……今朝、ついてくるなってお前に言っただろ。
     あの時、俺は諦めたんだ。結局人を巻き込むんだなって」

( ゚д゚ )「それでも希望はあった。
     お前が切欠で何かが変わるんじゃないか、とかそういう……無責任な希望だ」


( ゚д゚ )「一歩踏み出す直前、俺はその考えが間違っていると思った」
     だったら一体、何が正しいのか……」

( ゚д゚ )「正しさはあらゆる要素によって無限に定義される。
     だが、今の俺には正しさを定義する材料が何もない」

( ゚д゚ )「……そこで俺は、お前に合わせてみようと思った。
     この世界でひどく馬鹿らしい生き方をするお前にだ」

( ゚д゚ )「tanasinnの力を使わなかった理由はそれだ。
     ……素直クールも、お前の前ではあの力を使わなかっただろう」

( -д- )「言っちまえば今の俺は素直クールの後追いなんだと思う。
      アイツも、今の俺も、きっと『正しく』とかじゃなくて、普通に生きてこうとしたんだろうな」

.

62 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:13:31 ID:tpcqJCsI0


('A`)「……」


('A`)「……主体性がないって言うんだろ、そういうのって……」



(;゚д゚)「……そう言われると……」

 思わぬマジレスにミルナは困惑した。


('A`)「……まぁ俺に合わせるのも勝手にすりゃあいいけどさ、
    正しいとか間違ってるとか、考えてても終わらないだろ。自分一人でだと特に」

('A`)「俺は自分のやってる事は間違ってると思う。でも正しい事をしてる自負もある。
    あれだ、矛盾だ。世間のルールが矛、俺のアイツを助けたいって考えは盾」

( ゚д゚ )「……よく分からんな」

('A`)「俺もわかんね。でも逆に、分かってた方が不自由ってことも多いし、別にいいだろ」

( ゚д゚ )「……それはよく分かる」

.

63 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:14:18 ID:tpcqJCsI0



( ゚д゚ )「……荒巻と俺は、力量的には殆ど互角だ」

 ミルナはふたたび寝そべり、焚き火を見つめながら次の話題にうつった。

( ゚д゚ )「ドクオ、お前が知ってる奴で最強の奴を一人思い浮かべてみろ」

('A`)「デルタ関ヶ原。間違いなく、あの人が最強だよ」

 ドクオは考えるまでもなく即答した。


( ゚д゚ )「荒巻はそいつより強い。無論、俺もだ」

('A`)「にしては随分弱ってたけどな……」

(;゚д゚ )「リハビリ中だ。仕方ないだろ!」

 ミルナが逆ギレ気味に反論すると、ドクオはへらへらと笑って彼を宥めた。

( ゚д゚ )「……この先も俺と一緒に居れば、お前は確実に荒巻に会うだろう。
     こないだ、監獄の騒動に乗じて奴の部下が俺を殺しに来た。
     荒巻もまた、動き出そうとしている」

.

64 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:15:32 ID:tpcqJCsI0


('A`)「……」

( ゚д゚ )「先に聞きたいんだ。荒巻に会った時、お前は荒巻に戦いを挑むか?」

 ドクオは少し考えてから開口した。

( 'A`)「……タイミングによる。さすがにもう闇雲に戦ったりしねえ。
    俺より強い奴には山ほど出会った。ヤケクソじゃ勝てない……」

('A`)「看守長にもギコにも、結局は負けちまったしな……」

( ゚д゚ )「……お互い、今はクソ雑魚ゴミ野郎だな……」

('A`)「やる気なくなること言うなよ……」


( ゚д゚ )「……俺は、荒巻に会ったら、正直どうするのか分からない」

('A`)「戦うかどうかって話か?」

( ゚д゚ )「……いや、ちょっと違うな。奴に協力するか、それとも奴に殺されるか。
     多分俺は、そういう選択を強いられている」

(;'A`)「協力? つーか聞いてなかったけど、荒巻とお前の関係ってどうなってんだ?」


( ゚д゚ )「……それはまた今度だ。まだ体が痛いから寝る。お前もさっさと寝ろ」

 ミルナは寝返りをうってドクオに背を向けた。

( ゚д゚ )「明日から俺のリハビリに付き合え。特訓好きだろ」

('A`)「……いや、明日は駄目だ」

( ゚д゚ )「……明日は、お前の故郷か」

 それ以降ミルナはなにも喋らず、ドクオも缶詰を食べ終えるとすぐに横になった。
 ドクオはゆっくり時間をかけて明日への緊張を飲み下し、眠りに就いた。

.

65 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:18:22 ID:tpcqJCsI0

≪5≫


 翌朝、クックルに起こされた二人は近くの川で体の汚れを落とし、軽い朝食をとった。


( ゚д゚ )「お前にやる」

 朝食の途中、ミルナはドクオに衣服を差し出した。

( ゚д゚ )「ずっと囚人服のままは嫌だろ。俺が昔着てたのをtanasinnで具現化してみた」
  ,_
('A`)「……tanasinnの力は使わないんじゃなかったのか?」

( ゚д゚ )「こんな便利な能力だぞ? そりゃ必要最低限は使うだろ」

(;'A`)「……確かに……。ま、ありがたく貰うわ」

 衣服を広げて現れたのは、深紅のシャツ(DEAD or DIEと書かれている)と、
 黒のレザージャケット、致命傷と言うほどのダメージ加工を施されたジーンズだった。
 必殺技のくだりでもドクオは思っていたが、ミルナは案外痛い趣味をしているようだった。

(;'∀`)「……やっぱジャケットだけ貰うわ……」

( ゚д゚ )「そうか? 俺の中では渾身の組み合わせなんだがな……」

('A`)

 ドクオは笑いを我慢した。

.

66 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:20:07 ID:tpcqJCsI0


 出発の準備を済ませた二人はクックルの後について歩き始めた。
 一時間経たずして森の出口に到着。クックルに掴まって空を飛び、崖を飛び越える。



.∧_∧
( ´Д`)「おう、元気そうだな」

 崖の向こう側では八頭身がしたり顔で待ち構えていた。
 よく見ると彼の背中にある刀に変化があった。鍔のくぼみに、昨日にはなかった球体がはめこまれていたのだ。
 球体があるせいなのか、刀は二本に分かれていた。

 ドクオの視線に気付くと、八頭身は待ってましたと言わんばかりに話し始めた。

.∧_∧
( ´Д`)「今朝方見つけた。お前らのおかげだ」

 刀を小突き、八頭身は朗らかに微笑んだ。

('A`)「お世辞言うなよ。……太刀猫だっけ? いいな、カッコイイぜ」

( ゚д゚ )(言葉の意味は教えないほうがよさそうだな……)

.

67 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:20:55 ID:tpcqJCsI0


.∧_∧
( ´Д`)「なんにせよここでお別れだな。あんたら良い話し相手だったぜ」

('A`)「あ、ちょっと待ってくれ。クックルさんも。
   聞いて欲しいことがあるんだった」

.∧_∧
( ´Д`)「お? なんだ?」

( ゚∋゚)「?」

 八頭身とクックルを呼び止め、ドクオはレムナント制圧作戦の事を二人に伝えた。
 二、三週間後に大きな戦いが始まる事を知ると、二人の表情は徐々に険しくなっていった。

.∧_∧
( ´Д`)「……参ったな、そいつは……」

(;'A`)「あえっと……。俺らはレムナント監獄から来たんだよ、あそこ脱獄してさ」

 慣れない説明役に戸惑いながら、ドクオは言葉を続けていく。

(;'A`)「出所は監獄の看守長だよ。確信が欲しいなら一度監獄に行ってみてくれ」

(# ゚∋゚)「……」

 クックルは沈黙したが、その雰囲気は怒りに満ち溢れていた。

.

68 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:23:23 ID:tpcqJCsI0


.∧_∧
( ´Д`)「ふぅん……制圧作戦ね……だから俺を……」

 八頭身は腕を組んで考える素振りを見せたが、考えても分からないのですぐに居直った。

.∧_∧
( ´Д`)「とにかく分かった。嘘でも本当でも言いふらしといてやる」

(*'A`)「おお! 助かる!」

 八頭身はドクオらに背中を向け、二つに分かれた二本の大長刀・アハトを両手に構えた。


.∧_∧
( ´Д`)「それじゃあ今度こそお別れだ。
      しかも厄介な話を聞いちまった、善は急げってヤツだぜ」

 刀を地面に突き刺すと、八頭身はポケットに手を突っ込んでその中身をジャラジャラと音を鳴らした。
 次の瞬間、彼は勢いよくポケットから手を抜き出した。

 同時に、八頭身の手の平からビー玉ほどの水晶が大量に空に放たれた。
 彼が先日話した通りならば、空中に飛ばされた全ての水晶は、超能力を有している事になる。


(;゚A゚)「――マジかっ!?」

(; ゚∋゚)

(;゚д゚)「バカだろ」

.∧_∧
( ´Д`)「大マジだ」

 ドクオの驚愕も束の間、多数の水晶はアハトと八頭身を中心に浮遊し始め、一斉に超能力を発動した。
 実に三十はあろう水晶達はぼんやりと輝き、炎や水、氷、稲妻、風などの超能力をその身に纏った。

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69 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:25:11 ID:tpcqJCsI0


.∧_∧
( ´Д`)「縁がありゃあまた会える。そういうもんだぜ人生」

 超能力が一度に三十種類も発動した光景に圧倒され、三人は息を飲んだまま目を泳がせていた。

 八頭身は空中に浮遊する水晶をひとつ取り、それを大長刀・アハトに装着した。
 刀身は輝きながら形状を変え、最終的にスノーボードのような形に変形する。
 果たしてこれを刀と言うのか分からなかったが、とにかく凄かったのでドクオは何も言わなかった。

.∧_∧
( ´Д`)「ドクオ、ミルナ、クックル。ついでに俺の名前も広めといてくれ。
      どうやらこっちじゃ無名らしいからな、売名も大事な活動なんだ」

(; A )「頼むから超能力一個分けてくれ!」

(;゚д゚ )「あっおい! 俺のがあんだろ!」

.∧_∧
( ´Д`)「俺の名は八頭身、またの名を『東方の抜刀神』だ。
      確かに伝えたぜ、武神の馬鹿弟子さんよ」

 八頭身がスノーボードに乗ると、氷雪系の能力を持つ水晶が彼の前方を走り始めた。
 大地を凍らせながら水晶が走っていく一方で、ボードの後部では風の能力を持つ水晶が低く唸り声を上げていた。

(;'A`)「ちょっ! 武神って――」

.∧_∧
( ´Д`)「また会おうぜ、あばよ!」

 風の水晶はエンジンのように唸って爆風を噴射し、ボードは一気に最高速度に達して動き始めた。
 八頭身は瞬く間に離れていき、結局ドクオの質問はうやむやになってしまった。

.

70 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:26:11 ID:tpcqJCsI0


( ゚д゚ )「……もしかして、凄いヤツだったんじゃないのか?」

(;'A`)「……かもしれない……」

 二人はしばらく黙ったまま、八頭身が見えなくなるまでそこに立ち尽くした。
 十秒もすれば、八頭身は完全に見えなくなってしまった。

 そこでミルナはドクオの肩をポンと叩き、自分達も先を急ごうと言って歩き出した。


(;'A`)「……抜刀神、ダジャレかよ」

 ようやく落ち着いてきた所で、ドクオはクックルの方を向いて軽く頭を下げた。
 次いで荷物のバッグから食料をいくらか差し出し、昨日の一件を改めて謝罪した。


('A`)「……それじゃあ俺らも行きます。クックルさんも、森のみんなも元気で」

( ゚∋゚) コクリ

 もう一度頭を下げると、ドクオは身を翻してミルナのもとへ駆けていった。

.

71 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:27:13 ID:tpcqJCsI0


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(`・ω・´)「――向こう側に行きたいだと?」

 メシウマ側にある巨大な塔、ステーション・タワーの一室。
 シャキンは事務机から視線を上げてそう言うと、目の前でピンと突っ立っている少年と目を合わせた。


<_プ−゚)フ「もうすぐ制圧作戦が始まります。あそこはもう戦場になる。
        それまでに助けたい人が、あの町に」

(`・ω・´)「誰だ」

 シャキンは右手のペンを一回転させた。

<_プ−゚)フ「育ての親です。……もう年です。こちら側に住まわせたい」

(`・ω・´)「……越権行為だが、いいだろう。デミタスに話を通しておく。
      しかしあくまで制圧作戦の一環としてヤツに提案する。却下されても知らないからな」

<_プー゚)フ「ありがとうございます!」

 エクストは満面の笑みを見せ、さっさと部屋を後にした。


.

73 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:32:25 ID:tpcqJCsI0

 ≪ ( ゚д゚ ) / マグナムブロウ ≫

【本体名】 ミルナ

【タイプ】 近距離/具現・装着型

【基本能力】 

[破壊力:D] [スピード:D] [射程距離:D]

[持続力:E] [成長性:F]

A=かなり凄い B=けっこう凄い C=まぁまぁ良い
D=人並み    E=よわい     F=論外


【能力概要】
ドクオの能力の原型で、右腕版のマグナムブロウ。
ドラゴンブロウという必殺技(名前だけ)がドクオに受け継がれた。

長年の停滞によって過去最弱の状態にまで落ちぶれている。
少しずつ感覚を取り戻していこう。

74 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:33:05 ID:tpcqJCsI0

 ≪ ( ゚∋゚) / (本人が考えていない) ≫

【本体名】 クックル

【タイプ】 身体強化型

【基本能力】 

[破壊力:-] [スピード:B] [射程距離:C]

[持続力:B] [成長性:D]


【能力概要】
鳥になれるぞ!

75 名前:名も無きAAのようです :2014/11/17(月) 23:34:02 ID:tpcqJCsI0

    .∧_∧
 ≪ ( ´Д`) / 大長刀・アハト ≫

【本体名】 八頭身(抜刀神という異名がある)

【タイプ】 異物

【基本能力】 ※水晶なしの状態

[破壊力:B] [スピード:C] [射程距離:B]

[持続力:A] [成長性:-]


【能力概要】
超能力を有した水晶を鍔のへこみに装着すると、その水晶の能力が発動する。
使い込んだものは装着する必要もなく発動可能。
現時点で少なくとも30種類の超能力を有しており、とてもすごい。

通常のままでもとてもすごく、爆風を起こして攻撃する事が出来たりする。
刀身は3メートルくらいある。とてもすごい。


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