798 名前: ◆gFPbblEHlQ :2014/08/10(日) 15:37:07 ID:uaFp24EM0

≪1≫


 暗黒に染まっていた部屋に、暖かな光が生まれた。
 その光は部屋の内装を浮かび上がらせ、くっきりとした影を隅々に作った。

 特殊監房“漆黒”。そこに居た三人目の男、ミルナ。
 ミルナはオイルランプを床に置き、自身もその近くに腰を下ろした。

( ゚д゚ )「最近、腹の調子が良くなくてな……」

(;,,゚Д゚)「……アンタ、ずっとトイレに?」

( ゚д゚ )「お前達が来る前からな。しかしランプを消しといて良かった、チンコ見られずに済んだ」

(,,゚Д゚)「……本当に良かった」

('A`;)「チンコじゃないだろ。それより聞きたい事があるだろ、山積みだろ」

(,,゚Д゚)「……それもそうだな」

 ギコとドクオも床に座り、三人はランプを中心にして固まった。
 壁際にはテーブルと椅子があったが、一人分しかなかったので持ち寄らない事にした。

.

799 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 15:38:36 ID:uaFp24EM0


( ゚д゚ )「……自己紹介をやり直す。俺はミルナだ。
     もう随分長い間、ここで生活している。分からない事があったら言ってくれ」

 ミルナが質問を煽ると、ギコは早速床のランプを指して言った。

(,,゚Д゚)「なんでランプがあるんだよ。つーかこの部屋のどこにランプがあった」

( ゚д゚ )「そんなんお前が知る必要ないだろ」

(,,゚Д゚)

 彼の挑発的な返事に、ギコは鋭い目をつくった。

( ゚д゚ )「おい睨むな。分からん事は言えと言ったが、答えるとは言ってない」

 性格の悪い屁理屈だった。


(,,゚Д゚)「……長い間ここに居るって言ってたな。俺も長年ここに居る。
    だがお前は何者だ? 噂を聞いた事もないぞ」

( ゚д゚ )「噂される程の奴じゃないという事だ」

(#,,゚Д゚)「……分かった。もう疑問はない。ありがとう」

 二つの質問の返事から、ギコはミルナを“大したことのない男”だと評価した。
 確かにミルナの風体は中背中肉で、見た目も決して若々しくない。
 しかし、たったこれだけの要素でギコがミルナを評価したのは、単にミルナの態度が気に入らなかったからだった。

 核心を分かっていながらそれに触れず、飄々と人の話を受け流そうとする。
 ミルナがそういうタイプの人間だと、ギコは早々に理解していた。

.

800 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 15:40:08 ID:uaFp24EM0


('A`)「ところで飯は出る?」

 剣呑になりつつあった空気が、ドクオの呑気な質問によって和らげられる。
 ミルナはドクオを一瞥し、彼の質問に答えた。

( ゚д゚ )「一日二回。朝と夕方。ちなみに今日はもう出ない」

('A`)「そっか……」


 ミルナはギコに視線を送り、小さく呟いた。

( ゚д゚ )「人を疑ってかかるより、よっぽど生産的な質問だ」

(#,,゚Д゚)

 ギコはミルナの事が嫌いになった。

('A`;)「……たった一晩だ、怒るなよ」

(#,,゚Д゚)「……寝直す。お前も早く寝ろ。時間の無駄だぞ」

 ギコは口早に言って立ち上がり、一人ベッドに戻っていった。

.

801 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 15:41:31 ID:uaFp24EM0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 ギコがベッドに行ってから、少しのあいだ沈黙が続いた。
 頃合を計り、ミルナは静かに口を開いた。


( ゚д゚ )「……煽りが効きすぎたな。悪いことをした」

('A`)「……さっきのはわざとか?」

 眠りに就いたギコを気遣ってか、二人とも声の大きさを一段落として話し始める。

( ゚д゚ )「一対一でないと話しにくくてな。ま、だからと言って喋る事もないんだが……」

 ミルナは床に寝そべり、自分の体に『毛布』を掛けた。

( -д- )「……じゃあ、俺ももう寝る……」

('A`)「……」


('A`)「……ちょっと、聞いていいか?」

( -д- )「手短にな」


(;'A`)「……アンタ、今どっから『毛布』を出したんだ?」

 ドクオの疑問は単純なものだった。
 一瞬前、ミルナは極自然に、さも当然のように毛布を出現させた。
 これがもし手品の類であるなら完璧な技だった。
 人並み以上に良い目を持ったドクオでさえ、毛布がどこから現れたか全く分からなかったのだ。

.

803 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 15:45:00 ID:uaFp24EM0


( ゚д゚ )「……気になるか?」

(;'A`)「当たり前だろ……」

 ミルナはドクオの反応に満足して体を起こし、胡坐に座りなおした。
 毛布をドクオに渡すと、彼はドクオの首元にあるペンダントを指差した。

( ゚д゚ )「俺もそいつが気になってる。
     そのペンダント、誰に貰った?」

('A`)「誰って……知り合いだけど」

( ゚д゚ )「そいつ、名前が『素直クール』だろ」

(;'A`)「!」

 目の前で起きた手品に加えて、次は言ってもいない人物を言い当てられた。
 ドクオは言葉を失い、ミルナと目を合わせたまま静止した。

(;'A`)「マジかよ……」

( ゚д゚ )「……当たりか、荒巻の差し金にしては無用心だしな。そりゃそうだ」

(;'A`)「……なんだ? 何を話してんだ?」

( ゚д゚ )「まずお前の事を知りたい。どこまで喋っていいか、それを見極める」

.

804 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 15:46:22 ID:uaFp24EM0


( ゚д゚ )「……俺と、拳を合わせてくれないか」

 ミルナは躊躇いを孕んだ調子で言い、ドクオに向かって右の拳を突き出した。

(;'A`)「……お前、マジで何者だ? 何を知ってんだ?」

( ゚д゚ )「……お前の知らない事を知っている。お前の疑問にも、いくらか答えられる筈だ」

( ゚д゚ )「二度目になるが、俺の名前はミルナ。
     素直クールの仲間だった奴とでも思ってくれ」


(;'A`)「……じゃあ、一つだけ先に聞かせてくれ。頼む」

 ドクオは不安を滲ませた表情をミルナに見せ、ゆっくりと左の拳を上げた。


(;'A`)「……あいつは生きてんのか?」

( ゚д゚ )「……そいつは断言できる。あいつは今も生きてるよ」

(;'A`)「……気が合うな。乗ったぜ」

 ドクオの拳が、鈍い音を立ててミルナの拳にぶつかった。

.

805 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 15:47:27 ID:uaFp24EM0



 ――二人が拳を合わせてから、時間にしておよそ十秒後。
 ミルナはピクッと身じろぎ、それから、ゆっくりと拳を下ろした。


( ゚д゚ )「……かなり巻き込まれてるな、お前」

('A`)「……なにに?」

( ゚д゚ )「……能力、欲しいんだよな」

('A`)


('A`)「待て待て」

 ドクオは早急に話を進めていくミルナを止めた。

(;'A`)「今ので何が分かったんだ? ちょっと触れてただけだぞ?」

 そう言われ、ミルナはハッとして頭をかいた。
 目を閉じ、今更焦る必要はない、と自分を落ち着かせる。

( ゚д゚ )「そうだな、今度は俺が何者かを教える番か……。
     今の質問含めて、すこし自分語りが必要だろう……」

 ミルナは短い沈黙を挟み、意を決した鋭い輝きをもった両目でドクオを捉えた。



( ゚д゚ )「俺は――」


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806 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 15:50:46 ID:uaFp24EM0




( ゚д゚ )「――この世界の人間じゃない」



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807 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 15:51:56 ID:uaFp24EM0

≪2≫


 正午を少し回った頃、ミルナは国道沿いのファーストフード店でハンバーガーを口にしていた。

 彼が食べているのは『三日月バーガー』という三日月型のハンバーガー。
 企業迷走の末に生み出されたこの商品、通常のバーガーの三割増しの値段という詐欺商品だった。
 そんなものを目新しさだけで注文してしまうミルナは紛うことなき情弱だった。


 ミルナは店内一番奥の、窓際のテーブル席から外の景色を見つめていた。
 泥水を吸ったような黒雲が空を覆い、辺りは真っ暗だ。雨は降りしきっているが、これでも先刻に比べれば大分マシになっていた。
 ミルナがここに駆け込んできた時など、身を切るような雨が隙間なく空から降り注いでいた。

( ゚д゚ )(やっぱり、約束がある日は天気予報を見るべきか……)

 この天気だ。店内に客は一人も居なかった。
 聞こえてくるのは窓ガラスに激突する雨の音と、ポテトが揚げ終わった事を告げるメロディだけ。
 もっとも、あまり人混みが好きではないミルナにとって、この環境はけっこう居心地がよかった。

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808 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 15:53:54 ID:uaFp24EM0


 ずっしりと水を吸った彼の靴は、今はテーブル下の片隅に寄せられていた。靴下も靴に詰め込まれていた。
 出来れば上着も脱ぎたかったが、公共の場で上半身裸になる事は流石に危ぶまれた。
 びしょ濡れ半裸の変態として顔が知れては取り返しがつかない。

 ミルナは煙草をくわえて火を点けた。僅かに息を吸い込み、火を煽る。
 煙草を吹かして出た煙は、外の黒雲に比べれば一層綺麗なものに見えた。
 これだけ綺麗なのに有毒だというのだから、煙も何も見た目で判断してはいけない、とミルナは一考する。

 ぼんやりと視線を外に向けていると、駐車場に一台のバイクが入ってきた。
 ライダーは大急ぎで駐車を済ませ、店内に駆け込んでくる。

川;゚ -゚)「……」

 ライダーがフルフェイス・ヘルメットを外すと、その端整な顔立ちと腰まである黒髪が露になった。
 彼女こそミルナの約束の人物、素直クールだった。

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809 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 15:56:25 ID:uaFp24EM0


川;゚ -゚)「いやぁ、凄まじい雨だった……」

 彼女はミルナの向かいに来ると、びちゃびちゃのライダースーツを胸元まではだけた。
 ほてった体は湯気を立ち上らせており、正直かなり色っぽい。
 残念ながら彼女はスーツの下にちゃんと服を着ていたので、スーツの下は素肌で谷間ガーという展開はなかった。


( ゚д゚ )「今日の仕事は?」

川;゚ -゚)「この雨の原因を叩くそうだ。外は凄い雨だぞ」

( ゚д゚ )「見れば分かる。また奴らか? ジジイと若作りジジイ」

川;゚ -゚)「ああ。ネーノは断言していた」

( ゚д゚ )「……そう言った本人は来ないのか」

川;゚ -゚)「濡れるのが嫌なんだと。彼らしい理由だ」

( ゚д゚ )「帰ったら風呂に突き落とす」

川;゚ -゚)「スギ花粉を鼻腔に散布しよう」

( ゚д゚ )「それだ。よし、休んだら行くぞ」

 もう一人の仕事仲間、ネーノへの八つ当たりを決定し、
 二人はポテトやハンバーガーで腹を満たしてから仕事に向かった。
 目的地は、ここから程近い場所にある山の中だった。
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810 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 15:58:34 ID:uaFp24EM0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 降りしきる雨の中、ミルナは森の中を疾走していた。
 木々の隙間をすり抜けながら、ぬかるんだ地面を跳ねながら、雨中の森を突き進む。

 すぐ後ろには、まるで影のように追走してくる一匹の獣が居た。
 犬のような体躯に黒い体毛、赤い瞳。まともに喰い付かれればひとたまりもない巨大な獣だった。


( ゚д゚ )「上から叩く! 止めておけ!」

 そう叫び、ミルナは超能力を発動して地面を殴りつけた。
 そのたった一撃で地面の水と泥は吹き飛び、ミルナの体は空に上がった。

川 ゚ -゚)「任せろ!」

 間髪入れず、遠くの木陰から素直クールが飛び出した。
 獣は視界から消えたミルナを標的から外し、素直クールに向かって加速し彼女に飛び掛っていく。

 だが、獣は彼女の目前でピタリと停止させられた。素直クールの超能力が獣の自由を奪ったのだ。
 まるで獣とその周囲の空間だけ時間が止まったように、獣の体は微動だにしない。

 それを合図に、遥か上空から甲高い金属音が四回連続して聞こえてきた。
 空中のミルナが攻撃の準備を終え、背の撃鉄を落としたのだ。

 素直クールは空を見上げるまでもなく木陰に退避し、ミルナが引き起こす次の衝撃に備えた。
 
.

811 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:01:23 ID:uaFp24EM0



 ――瞬間、雷の閃光がミルナの体を照らし出した。


 右腕には、肩までを完全に包み込んだ銀の装甲。
 関節部分から垣間見える装甲内部は義手のように精密に入り組み、荒々しく波立った装甲はそれ自体が牙のように鋭い。
 拳部分の装甲は特に堅牢に、より一層分厚く具現化されていた。

 背の左右には鈍色に輝く撃鉄が二つずつ、あわせて四つの撃鉄が具現化していた。
 普段は背骨を軸に畳まれているが、今はすべての撃鉄が羽のように開いており、眩い閃光を止め処なく噴出させていた。

 閃光よりも白く鮮明な、ミルナの能力【マグナムブロウ】が放つエネルギーの激流。
 その勢いに身を任せ、彼は地上へ向けて全速力で落下した。

(#゚д゚ )「ごおおおおッッ!!」

 身動きを封じられた獣は逃げる間もなくミルナの攻撃に直撃する。
 直撃から数瞬遅れて、爆発的な衝撃が獣の体に響き渡った。
 地面に叩きつけられ、ねじ伏せられ、獣の体が歪に変形していく。

 獣は暴れてもがいたが、ミルナがひとたび力を入れると、獣は地面ごと陥没して弱々しい泣き声を上げた。
 能力によって生み出された存在とはいえ、動物に対する一方的な破壊には気が滅入る。

( ゚д゚ )「……恨むなよ」

 ミルナはその迷いを拭い、再度身構えて獣の頭部めがけて拳を振り下ろした。
 すると獣の頭はガラスのように砕け散り、そして生命を失い、徐々にもとの物質――大量の紙幣に戻っていった。

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812 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:03:16 ID:uaFp24EM0


 ミルナは立ち上がり、装甲のある右腕を一振りした。
 剣についた血を振り払うように、戦いにひとまずの区切りをつける。


川 ゚ -゚)「上手くいったな」

 戦闘が終わったのを察し、素直クールが駆け寄ってくる。
 彼女が拳を向けてきたので、ミルナもそれに応えて拳を突き出した。
 軽く拳をぶつけてから、ミルナは周囲を一望して言った。

( ゚д゚ )「雨が止まん。どういうことだ?」

川 ゚ -゚)「原因が違ったんだろう。上から確認してくる」

 クールは能力を発動しかけたが、それより先にミルナが地面を殴った。

( ゚д゚ )「俺の方が早いッ」

 ミルナは先程と同じように地面を叩き、反作用によって上空にあがった。
 風雨に揺れ動く森を一望しながら、彼は敵の居場所を探り始める。

 目を細め、森の中、木々の一本ずつを凝視していく。
 そうしてしばし探していると、この雨のなか、不自然にピンと木が立っている地帯を見つけられた。

 目処を見つけたミルナは地面に着地した。
 水溜りが跳ね返り、素直クールの衣服に泥がかかる。
 気にする事でもないとそれを見逃し、クールはミルナに成果を尋ねた。

川 ゚ -゚)「どうだった」

( ゚д゚ )「見つけた。山頂付近だ。あそこに居るはずだ」

川 ゚ -゚)「山頂? あるのは送電線くらいのものだが……」

( ゚д゚ )「動くのが先だ。走るぞ」

 ミルナの言葉に無言で頷き、二人は山頂に向かって走り出した。

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813 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:04:00 ID:uaFp24EM0

≪3≫



(; A )「待て待て待て」

(; A )「頼むから待ってくれ」


( ゚д゚ )「ん?」

 饒舌に語っていたミルナを切実な思いで呼び止める。
 ドクオは眉間にしわを寄せ、彼の意味不明な話によって浮かんだ感想を一まとめにして言った。

(;'A`)「駄目だ意味わかんねえ」

( ゚д゚ )「……だろうから、1から説明しているんだが」

(;'A`)「1からわかんねえんだよ」

( ゚д゚ )「……駄目だったか?」

(;'A`)「いきなり戦ってるところ言われてもな……」

.

814 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:06:00 ID:uaFp24EM0


 ミルナの話はよく分からなかったが、それでも少しは気になった事がある。
 とりあえず、ドクオはその疑問から話を広げていくことにした。


('A`)「この世界の人間じゃないって、そのままの意味で合ってるのか?」

( ゚д゚ )「そのままだな」

('A`)「そっか、なんか大変そう……」

( ゚д゚ )


(;゚д゚ )「……腹立たしいほど他人事だな」

('A`)「ああ。わりとどうでもいい」

(;゚д゚ )「そこまで言い切るか」

('A`)「別世界とかなんとかってのはお前の問題だろ、知らん」

(;゚д゚ )「現代人つめてぇー……」

.

815 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:08:27 ID:uaFp24EM0


('A`)「お前が別世界から来たんなら、多分あいつもそうなんだろ」

( ゚д゚ )「……そうだな。俺と同じ経験をしてるのは素直クールとネーノだ。ネーノの奴は、もう居ないが……。
     あとは荒巻スカルチノフと、その友人か何かのマニーという奴だ。
     他に同類が居るかは知らんが、こいつら以外の同類には一度も会った事がない」

('A`)「荒巻とお前らは敵同士なのか? ……荒巻が、クーの奴を殺す理由とかは……」

( ゚д゚ )「確かに俺達は敵同士だった。だったが、今の俺は誰とも敵対してないし、誰の仲間でもない。
     荒巻があいつを殺す理由は全く分からん。というか、荒巻は素直クールを殺せないはずだが……」

('A`)「殺せない?」

( ゚д゚ )「……こっちの問題だ。そうだろう? だがそれでもやっぱり断言できる。荒巻はあいつを殺さない」

('A`)「……だったらいい。今の俺にはそれだけで十分だ。根拠がなくても簡単に信じられる」

( ゚д゚ )「騙されてるかもしれないぞ?」

('A`)「そんなんつきものだ。いちいち気にしてらんねえよ」

( ゚д゚ )「バカだな」

('A`)「純情と言え」

.

816 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:09:54 ID:uaFp24EM0


('A`)「最初の質問がまだだったな。あんたさっき、どこから毛布を出した?」

( ゚д゚ )「……そういう能力がある。ただそれだけだ」

 そう言ってミルナが床に手をかざした。
 掌と床の間に、黒い霧が渦巻き始める。

( ゚д゚ )「俺はこの世界の人間じゃない。ルールが違うんだ。つまり、俺の能力は光を必要としない」

 ミルナが話している間に、霧がはっきりとした輪郭を描き始める。
 黒い霧は、四角形のまっさらな紙になって床にヒラリと落ちた。


(;'A`)「……物質の具現化? なんにも無しにか!?」

 超能力の発動には人工の光が必要不可欠。
 そのはずが、たった今ミルナは光を使わずに物質を具現化して見せた。
 目の前で、この世界の法則が破壊されたのだ。

( ゚д゚ )「今やったのはタナシンの力の応用だ。なんでも具現化できる力で間違いはない」

( ゚д゚ )「……間違った力だがな」

 ミルナは重々しく言い、視線を落とした。

.

817 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:11:51 ID:uaFp24EM0


( ゚д゚ )「……お前のペンダント、それはtanasinnの片鱗という物だ」

('A`)「……これか?」

( ゚д゚ )「簡単に言うと願いが叶う代物だ。だが今は鍵がかけてある、素直クールの仕業だ」

(;'A`)「……嘘だろさすがに……」

 ドクオはペンダントを手に持ち、固唾を飲んでそれを見つめた。


( ゚д゚ )「なんなら超能力だって手に入る」

('A`)

 反射的に顔を上げると、ミルナが真剣な眼差しでこちらを見ていた。

( ゚д゚ )「……力が欲しいか。それもまた良しだ。それは鍵付きでまともには使えんが、片鱗なら俺のがある。
     ありったけ全部くれてやる。好きなように願って叶えるといい」

('A`)「…………」

( ゚д゚ )「……片鱗があれば対価も代償も必要なく、一方的にお前の願いを実現できる。
    tanasinnの片鱗は100%完璧に、お前の願いを叶えるだろう」

.

818 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:13:06 ID:uaFp24EM0


( ゚д゚ )「……さっき、お前の拳に触れて分かった」

 ミルナははっきりとしない口調で、感慨深そうに微笑みながら続けた。

( ゚д゚ )「たとえ刹那を歩くような一瞬だったとしても、お前の存在は奴の心を救っていた。
     死に向かい続ける恐怖からあいつを救っていたのは、間違いなくお前だ」

('A`)「……」

( ゚д゚ )「俺がお前に片鱗を渡すのはそれに対する礼だ。
     そして願わくは、この先の未来、ずっとあいつの傍に居てやって欲しい」

( ゚д゚ )「……これは片鱗には叶えられない願いだ。お前にしか頼めない」

('A`)「……っていうか……」


(;'A`)「……tanasinnってなんだ?」

( ゚д゚ )


( ゚д゚ )「……凄いパワーを持った凄い何かだ。片鱗はそれのパワーを貰える凄い物だ」

('A`)「なんか凄いな……」

 凄い。

.

819 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:14:43 ID:uaFp24EM0


('A`)「……でもよ、あんたはどうするんだ? 戦えるだけの力、持ってるんだろ?
    なんでその……片鱗? とかいうので荒巻と戦わないんだ?」

 ドクオの言葉に、ミルナは自嘲をこぼした。

( ゚д゚ )「ただの馬鹿でかい力に意味なんか無い。
     力に意味があるのではなく、人の意思に力が宿る。世の中そうあるべきだろう」

( ゚д゚ )「俺にはもう意思がない。俺自身の……いや、tanasinnの力に、俺の意思が追いつけなくなった。
     だからこんな所に引きこもって、いつか死んでやろうってずっと考えている」

( ゚д゚ )「俺の力は全部お前に渡す。そうすれば俺の不老不死もなくなって、俺は死ねる」

(;'A`)(なんの前振りもなく不老不死とか言われた……)

( ゚д゚ )「素直クールのこともお前に任せる。
     俺の力は荒巻と互角以上だ。何があってもなんとかなるだろう」


( -д- )「俺の役目は、今ここでお前に力を渡して死ぬ事だ。
      俺が死ねば素直クールを殺そうとしてる奴も黙るだろう。それで終わりだ」

 口振りから察するに、ミルナは自分の死に対してなんの感情も抱いていないようだった。
 それどころか、ドクオを利用して死ぬことに、彼は諦めにも似た救いさえ感じていた。

.

820 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:16:03 ID:uaFp24EM0


 平然と死を受け入れているミルナには、ドクオは何も言えなかった。
 自分自身がかつてそうだったが故に、何を言えばいいか分からなかったのだ。

 だが、ドクオはふと素直クールの言葉を思い出した。
 彼女と初めて会った夜、彼女も今の自分と同じことを思っていたに違いない。
 だったら今度は俺が言葉をかける番だ。そう悟ると、ドクオの口は自然と言葉を発していた。


('A`)「……何万年、何百万年生きたって、人が死ぬのは一度だけだ。
    その一度が来れば、この世の誰だって怯えて縮こまる」

('A`)「俺も死にたいと思ってた頃がある。9歳とかの時だ」

( ゚д゚ )「……早すぎないか?」

('A`)「若気の至りだ」

(;゚д゚ )「すごいな若さ」

.

821 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:17:58 ID:uaFp24EM0


('A`)「その時の俺は死ぬのが全然怖くなかった。失うものが何も無かったからだ。
    ガキで馬鹿だったからな。近くに何があるのかも分かってなかった」

('A`)「でも俺はあいつに出会って救われた。ぼっちじゃないと初めて思えた。
    それからだ。俺が死ぬのが怖くなったのは」

('A`)「戻りたくなかったんだ。あんな孤独で、生きてるんだか死んでるんだか分からない世界には」

('A`)「どうしても取り戻したかった。全部があった、あの頃を……」

 ミルナは、過去を取り戻したいというドクオの言葉に共感した。


('A`)「……悪いけど、お前の力は受け取れない。
   人の意思に力が宿るなら、今のお前の力はゴミだ」

( ゚д゚ )「……ゴミ?」

('A`)「そうだゴミだ。あるだけ邪魔なんだよ」

 ドクオは辛辣に断言した。

('A`)「間違えるなよ。俺は力が欲しいんじゃない。俺自身が強くなりたいんだ。
    それがなんでお前の粗大ゴミなんか受け取らなきゃならねぇ。ふざけんなよ」

(;゚д゚ )「粗大ゴミ!?」

('A`)「そうだ粗大ゴミだ。参ったか」

.

822 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:19:17 ID:uaFp24EM0


('A`)


('A`)「分かったら俺を強くしてくれ。できれば能力とか欲しい。強めのやつ」

(;゚д゚ )「……お前けっこうアレな性格してるな……」

 あれだけ拒否しておきながら一瞬で手の平を返すドクオの様は芸術的だった。

( -д- )「……ったく」

 ミルナは大きく溜め息を吐いた。
 いつの間にか、彼の自嘲は穏やかな笑みに変わっていた。

 ややあってから、ミルナはドクオに向かって再度拳を突き出した。


( ゚д゚ )「分かった。自分の死に方は別の世界で考える。しかしこいつは受け取ってほしい」

( ゚д゚ )「俺自身の能力をほんのちょっとだけ、切欠になる程度だけお前に分け与える。
     簡単な能力だ。使い方はコイツ自身が教えてくれるだろう」

( ゚д゚ )「能力名は【マグナムブロウ】。こいつと一緒に、俺は撃鉄のミルナと呼ばれていた」
  ,_
('A`)「……強いのか?」

( ゚д゚ )「あたりまえだ。俺の自慢の拳だぞ。鍛えりゃ誰とだって張り合える」

( ゚д゚ )「お望みどおりだ。この能力は、お前と一緒に強くなっていく」

.

823 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:20:36 ID:uaFp24EM0


('A`)「でも、大事な力だろ」

 遠慮気味に呟くと、ミルナがぐいと拳を寄せてきた。

( ゚д゚ )「このまま持ってても腐るだけだ。
     それなら意思あるお前に使ってもらいたいと、俺は思う」

( ゚д゚ )「ちゃんと鍛えて真っ当に強くなりたいお前にしてみれば、これが受け取れない力だってのも分かる」

( ゚д゚ )「けどな、お前さっき俺の力をゴミとか言っただろ」

 ミルナは険しい表情を作り、威圧するような態度で言葉を続けた。

( ゚д゚ )「だったら試せよ俺の力を。ゴミかどうか、自分で使って確かめてみろ」

( ゚д゚ )「お前が売った喧嘩だぞ。ただで帰られたんじゃ俺も死にきれねぇんだよ」

.

824 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:22:03 ID:uaFp24EM0


 その時、ミルナは拳にちょっとした痛みを感じた。
 ドクオの拳が、渾身の力でミルナの拳にぶつかっていた。

( ゚д゚ )「……受け取る気になったか」

('A`)(……デルタさんに殴られるな。他人の情けに甘えるなって)

 人に与えられた力は呪いそのものだ。
 その呪いは人の心に限界を作り、無償の力への屈服を誘惑してくる。

 与えられた力に屈服すれば成長は止まり、与えられた者は、親から離れられない子供のように弱さを抱えたまま大人になっていく。
 そんな風に成長した奴が大人と言える訳がない。それは単に、幼年期がいつまでも続いているのと同じだ。

 だがそれでも。

 たとえ呪われる事が分かっている力だとしても、形振り構っている時間はドクオにはない。
 たった一つの戒めを胸に、ドクオはミルナと拳を合わせたのだ。

('A`)「……返せっつっても返さねえからな。貰った力は全部俺のもんだ。
    どんだけ強い力だったとしても、感謝もごめんなさいも言わねえぞ」

( ゚д゚ )「当然だ。お前を屈服させる気はねえよ」

(;'A`)「……心読んだな」

 さっきから拳を合わせているので、ミルナにはドクオの考えが筒抜けだった。
 しかしミルナはそれを笑わず、

( ゚д゚ )「立派な考えしてるよ、お前は」

 と、素直にドクオの姿勢を認めた。

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825 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:23:14 ID:uaFp24EM0



( ゚д゚ )「……集中しろ、シンプルだが結構な暴れ馬だ。
     気を抜けば持ち主にだって殴りかかる」

('A`)「……」

( -д- )「……素直クールのこと、頼んだぞ」

 言葉の後、ミルナの拳に淡い光がともった。
 光は徐々にドクオの拳に移っていき、やがてドクオの体にとけていった。


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826 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:24:40 ID:uaFp24EM0



 ランプの火が消え、部屋にふたたび暗黒が戻る。


 ドクオの胸に、小さな火種を残して。


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827 名前:名も無きAAのようです :2014/08/10(日) 16:25:59 ID:uaFp24EM0


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       第十四話 「Before my body is dry」

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