738 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:47:54 ID:ymq1rMDs0

≪1≫


「なんにも見えねえぞ」

 乱闘騒ぎから特殊監房“漆黒”に入れられてしまったギコとドクオ。
 漆黒の中に光は一切無い。今はトイレの場所も、ベッドの場所も分からなかった。
 完全な暗闇が演出された空間で、二人はこれから一晩を過ごさなければならなかった。


「とりあえず手探りに探すしかねえだろ」

 ドクオの呟きに対し、ギコが適当に答える。

「そうだな。俺は壁伝いに左回りで動く。お前は右回りでどうだ?」

「分かった。一応声掛けるぞ。音の具合で広さも分かるだろ」

「だな」

 てきぱきと行動を決め、ドクオは壁に手を当てて歩き出した。

.

739 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:48:48 ID:ymq1rMDs0

「いってえ!!」

 その矢先、ギコの叫び声が聞こえた。
 何かに足をぶつけたのだろう。

「何にぶつかった?」

 笑いながら問うと、ギコが痛そうな呻き声を上げながら言った。

「壁にぶつかった……つーかドアか? 開けてみる」

 ドアの開く音がしてから、またもギコが声を上げた。

「うわくっさ!! 便所だ! でもくっせえぞ!?」

「……後で掃除だな。今は放っておいていいぞ」

「たりめーだ、こんなの……」

 動いて数歩でギコのテンションはガタ落ちだった。
 彼はトイレのドアを閉めると、次は特に慎重に進んで行った。

.

740 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:49:52 ID:ymq1rMDs0


「いてっ……おっ?」

 今度はドクオの方に収穫があった。部屋の角を曲がったところで、何かに頭をぶつけた。
 それは触った感触からしてベッドのようだった。しかも二段ベッドで、どちらもしっかり枕と毛布が揃っている。

「ベッドだ。二段だが、お前どっちがいい?」

「下で頼む。頼む」

 こんな暗闇の中で梯子の上り下りなど絶対に痛い目を見る。
 既に痛い目を見ているギコの頼みは悲痛だった。

「分かった。じゃあ俺が二段目な」

「……助かる」

.

741 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:50:32 ID:ymq1rMDs0


「おい、こっちに椅子とテーブルがあったぞ」

「水道がある。水は冷温どっちも出っ……いやこれお茶か? お茶出るわ」

「本棚と本が置いてあるな。読めねぇよ……」

「こっちは壁に絵がある。見えねぇよ……」

 二人は次々と発見したものを言い合い、最後に扉の反対側の壁で正面衝突した。
 探索の結果、特殊監房と言うには豪華すぎる内装なのがよく分かった。

 あと見ていない部分は部屋の真ん中だけになった。
 しかし壁際を歩くだけで必要最低限の物の位置は把握できた。
 これ以上下手に動いて怪我するよりは、もう動かない方が得策だった。

「こりゃあ、ベッドから動かないのが一番だな……」

 ドクオが頭をかきながら言う。
 ギコは頷いて答えたが、暗くて頷いたことが分からないので意味が無かった。

「俺は寝るぞ。お前はどうする」

 ドクオに聞かれ、ギコはふとダディの指示を思い出した。

(そういえばコイツを味方にするんだったな)

 改めて考え、ギコは返事した。

「俺も寝る。体を痛めてる事だしな」


.

742 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:51:20 ID:ymq1rMDs0

≪2≫


 目が暗闇に慣れるのを待ってから、二人はベッドの方にゆっくり移動した。
 ドクオは梯子で上段に上がり、毛布にくるまった。


('A`)(……)

 ドクオは、デルタ達武神の言葉を思い出しながら考えに耽り始めた。


 先程のギコの言い方を考慮すると、素直クールが生きている可能性は確かにある。
 逆に言えば死んでいる可能性も十分にあるが、それは修行時代の頃も同じだった。

 武神のもと、修行に専念している間もドクオは不安に思っていた。
 彼女が今も生きているのかどうか……。
 もしかしたら彼女は既に死んでいて、こんな修行はするだけ無駄なんじゃないのか……。

 ある日、ドクオはそういった考えを武神に見抜かれ、叱咤を受けた事がある。
 今の自分が帰るべきはそこだった。“誇るべき初心”の存在を、ドクオは忘れていなかった.。

.

743 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:52:10 ID:ymq1rMDs0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 年中雪景色をたたえる雪山の山頂。
 そこには巨大な屋敷があり、八極武神なる化け物どもが暮らしている。
 ドクオはその武神屋敷の庭先で、修行という名の生き地獄を半年間じっくりと味わっていた。

 それは、修行が始まってそろそろ一月という頃だった。
 ドクオは唐突に修行の打ち切りを宣告され、武神デルタにある選択を強いられた。


(;'A`)「なっ……なんで急にッ……!」

( "ゞ)「くだらんことを考えてるからだ、このクソ雑魚以下のゴミが」

( "ゞ)「女の生き死にが気になるか。んなもんどっちでも同じだ」

(;'A`)「……」

 不安を言い当てられ、ドクオは消沈した。
 この頃のドクオはまだ不安に駆られており、修行にまったく身が入っていなかった。
 デルタが言うとおり、この頃のドクオはまさにクソ雑魚以下のゴミだったのだ。

.

744 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:53:04 ID:ymq1rMDs0


( "ゞ)「だが一回だけチャンスをくれてやる。
    伸るか反るか、決めろ」

 手のひらに一枚のコインを乗せ、デルタはドクオにそう言った。
 これがドクオが強いられた選択であった。そしてもちろん、ドクオはデルタの誘いに乗った。

(;'A`)「……やらせてください」

( "ゞ)「分かった。今から俺が二回コインを投げる。
    お前が二回とも表裏を当てたら修行再開だ」

( "ゞ)「外した場合、即刻消え失せろ」

(;'A`)「……表で」

( "ゞ)「……迷いが無いな。自分のことだからか?」

 言いながら、デルタはコインを空に打ち上げた。
 彼は落ちてきたコインを手の甲に受け止め、もう片方の手でコインを覆い隠した。

 ゆっくりと、開ける。

( "ゞ)「……表だ」

(;'A`)「……次も表です」

 二分の一を引き当て、続く二回目の表裏を宣言する。
 しかし、デルタはすぐにはコインを投げず、ドクオを威圧するように条件を追加した。

.

745 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:53:45 ID:ymq1rMDs0


( "ゞ)「次は生き死にを賭けろ」

('A`)


(;'A`)「えっ!?」

( "ゞ)「素直クールの生き死にをだ。表なら生きてる、裏なら死んでる。
     改めて聞くぞ。表か裏か、お前はどっちに賭ける」

 この時点で、ドクオはデルタの言わんとする事がなんとなく理解できていた。
 それを踏まえた上で、ドクオは意を決して答えた。

(;'A`)「……表です」

( "ゞ)「……分かってんならいい。迷うだけ無駄だ、今は目の前に集中しろ」

 デルタは言い切り、ドクオに向けてコインを弾いた。
 ドクオは慌てて手を出し、コインを掴み取る。

 手を開くと、コインの表面が目に映った。

('∀`)「表!」

( "ゞ)「どっちも表だ。この程度さっさと見切れるようになれ……」

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746 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:54:26 ID:ymq1rMDs0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



('A`)(……結局のところ、弾いたコインが落ちてくるまで俺の勝負は終わらない。
    そして、ギコのおかげでこのコインの『表』を再確認できた)

('A`)(生きてるかもしれない。それだけで十分なんだ)


('A`)(……あんなの見て勘違いしちまったけど、今なら思える)

('A`)(コインはまだ『落ちていない』。俺が賭けた『表』にはまだ可能性がある)
    だから俺は目を開けたまま、しぶとくその時を待ち続ける……)

 ドクオは暗闇の中に手を伸ばし、力強く拳を作った。

('A`)(決着がつく、その瞬間を……)


('A`)(……デルタさんなら今の俺に何を言うかな)

 話にならん、もっと強くなれ。
 考えたが、これが一番ありえそうだった。

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747 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:56:21 ID:ymq1rMDs0


('A`)(……もっと、強く……)


 ――人には、“相応しいステージ”というものがある。

 アイドルにはアイドルの、レスラーにはレスラーの。
 漫画家には漫画家の、ミュージシャンにはミュージシャンの。
 他超多数、人の数だけの“相応しいステージ”がある。

 例えばいわゆる超がつく有名人。世界のトップランカー達。
 そこらへんにゴロゴロ転がってる化け物染みた現人神。
 鼻水垂らした少年少女はそんな彼らを見て育ち、そして夢焦がれ、惨めに散るなり中途半端に成就するなりして生きていく。

 散っていく者と成就する者の違い、それは実力だけだ。
 上を目指すには実力が要る。どうしても必ず絶対に。
 たとえどんな事情を抱えていても、努力が必要であることに変わりはない。

 実力にはあらゆる要素が含まれる。
 死ぬほど積み上げた努力。とびきりの運。才能。家柄。特別な能力。

 大半の人間が努力以外の道を持たないため、実力主義の世界は努力によって牛耳られている。
 度合いによっては、努力のみで豪運も天才も御坊ちゃまも超能力者をもなぎ払う人間さえ存在する。
 ドクオに近しい人間で言えば、八極武神デルタがそれに当たる。

 そして、実力こそ全ての現実から目を逸らした者から、次々と前者に分類されていく。
 分類された彼らは自身の実力のなさから目を逸らし、“僕は失敗作ですよ”というレッテルを自分で自分に貼り付ける。
 そんな連中が今より上のステージを目指そうなどと言うのは最初から無理だ。はっきり言ってふざけている。

 彼らは消えて当然の弱者だ。そこに言い訳の余地はない。夢見る者は弱い奴から消えていく。
 雑魚を置いておけるほど“上のステージ”は広くない。上るにつれ、一人、また一人と奈落の底に落ちていく。

 これが現実。実力こそが全て、強さだけが真実だ。
 上を目指す者達の義務は勝利。負けたら最後、死ぬまで汚名を背負って生きるしかない。

.

748 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:57:31 ID:ymq1rMDs0


 もっとも、ここまでの覚悟をして夢を追う人間などそうそう居ない。
 大体がなんとなくでそこそこのステージに落ち着く。それが一番無難で平和だからだ。

 だが、ドクオはもっと上を目指さなければならなかった。
 今よりもっと上のステージを、素直クール一人のために。

 現在、ドクオの実力は武神の修行によってギリギリのラインを超えている。
 超えてはいるが、それは、今まさにステージから転げ落ちんとする弱者に過ぎなかった。

 戦うことは出来るが、このステージの人間には絶対に勝てない。
 今のドクオはそういうレベルだった。いうなれば“実力の壁”に直面していた。

 ドクオは『ThisMan』というメシウマへの片道切符を使い、
 自分より上のステージをほんのちょっぴり体験し、それでようやく自覚した。

 俺はまだ弱い、話にならない。
 サイボーグの女、黒ローブ、1さん、ツンと呼ばれた少女。
 きっとシャキンとデミタスにも今の俺は勝てない。最早荒巻は俺を相手にすらしてくれないだろう。

 メシウマに行き、そこでどうしても倒せない敵を多く目の当たりにした。
 目下、ドクオが考えるべきは、“どうすれば彼らを打倒できるほど強くなれるか”だった。

.

749 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:58:45 ID:ymq1rMDs0


('A`)(……)

 何十分と、ドクオは自分が強くなれる方法を考えた。

 武神の所に戻るのが一番手っ取り早い方法だが、脱獄の手間がかかる。
 かと言ってこんな場所でできる鍛錬など高が知れているし、なにより、ほとんど成果が出る気がしない。

('A`)(……脱獄)

 その単語を思い、ドクオは現状を脳内にまとめた。
 動き出すなら絶対にここから出なくてはならない。何をするにも、ここでは何も始められない。

 行き着いた考えは、とにかくレムナント監獄の看守達を倒せるほど強くなり、脱獄する。
 よってドクオは、今ある実力と少しの鍛錬だけで、ここの能力者達と互角以上になる必要があった。

 何としてでも、更に強くなるしかない――。


(,,゚Д゚)「おい、起きてるか」

 考えが決着しようとしているところに、ギコが話し掛けてきた。
 ドクオは遅れて反応し、すっとぼけた声を出した。

('A`)「んあ」

(,,゚Д゚)「お前に話がある。適当に聞いてくれ」

 二段ベッドの下段から、ギコの話が聞こえてきた。

.

750 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 14:59:43 ID:ymq1rMDs0

≪3≫


(,,゚Д゚)「――そういう訳で、脱獄のため、お前の力を貸してほしい」

 少々の前置きを経て、ギコは本望を口にした。

('A`)「……」

 ドクオは数瞬、ためらうように黙り込んだ。
 今まで一度も考えたこともない、仲間というものを想像してしたからだ。

 考えてみたが、ドクオには仲間が分からなかった。
 ドクオが沈黙したのは返答を考える為ではなく、たった二文字の言葉の意味を理解する為だった。

(,,゚Д゚)「……気を使わなくてもいい」

(;'A`)「いやっ! そうじゃない、そうじゃないんだよ……」

 これ以上深く考えても話がこじれるだけだと思い、思考を切り替えて理性を働かせる。
 ドクオの第一目標はここからの脱獄だ。ギコとその共謀者三人の誘いを拒む理由はない。

('A`)「……分かった。お前達の仲に加わる」

(,,‐Д‐)「……なら明日には顔合わせか。さっさとしてくれて清々しいぜ」

 ギコは体を起こして胡坐になり、面倒もなく役目を終えられたことに安堵した。
 屈辱的だが、ドクオ相手では力尽くも無理だと分かっていたので、話だけで了解をもらえたのは助かった。

.

751 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:00:24 ID:ymq1rMDs0


('A`)「……なぁ」

(,,゚Д゚)「……あぁ?」

('A`)「仲間って何だ?」

(;,,゚Д゚)「……はぁ?」

 気が抜けるような問いに、ギコは腕を組んで考え込んだ。

 ギコもこれまで、いわゆるそういったものとは無縁だった。
 一時誰かと手を組むことはあっても、仲間や友達といった風に形容できる存在は一人も居なかった。

 居たとすれば、たった一人。
 ギコは、自身の育ての親の存在を思い浮かべた。
 そして、彼との思い出に追随する様々な教訓の中に、ちょうど今使えそうな話を見つけた。

(,,゚Д゚)「……結構前の話だ」

(,,゚Д゚)「あるちいせえガキが、ある戦闘狂の後ろについて色んな所を旅して回っていた」

(,,゚Д゚)「その人はガキの育ての親みたいなものだった。だが奴は、今の俺以上の極悪人だった」

 ギコはこの話が自分の話だとは決して言わず、そのまま、話を続けた――

.

752 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:01:15 ID:ymq1rMDs0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 奴は強かった。無能だったが、能力者達を素手で倒せるほどに強かった。
 ある日、奴に出会ったガキはその強さに心奪われた。
 残飯漁って生きてたガキが、そこでようやく自分の意思をもって動き出したんだ。

 ガキは奴についていき、故郷を離れて世界を回った。
 最初は一言も交わさなかった二人だが、時間が経つにつれ、少しずつ話すようになった。
 旅の最中、ガキが唯一楽しみにしていたのは、奴と森の中で焚き火を囲んで話す時間だけだった。

 いつもどおり、森の中で焚き火を囲んでいた夜のことだった。
 ガキはふと奴に尋ねた。お前は寂しくないのか。
 そん時、ガキは自分の故郷のことを思い出してやがった。そのせいでそんな事を口走ったんだろうな。

 奴は答えた。

「“誰もが孤独だ。我輩も、貴様も”」

 ガキには意味が分からなかった。
 だからガキは焚き火を木の枝でつつきながら聞き返した。じゃあ孤独は怖くないのか、ってな。
 すると奴は相変わらずの無表情で、光を失った右目と、辛うじて光を捉えている左目でガキを見据えた。

 奴の両目は全くと言っていいほど機能していなかった。
 手酷くやられた右目は誰彼の復讐によって二度と開かなくなり、
 左目も、右目の分まで酷使されて殆ど視力を失っていた。

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753 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:01:55 ID:ymq1rMDs0


「“孤独を恐怖するのは、己が孤独から抜け出たと思い上がった者だけだ”」

 奴はガキにそう言った。
 戦いの様子からは想像できないほど、とても静かに。

「“孤独を忘れた者は、ふたたび一人になることを恐怖する”」

「“それが孤独を恐怖するという事だ”」

「“なりたくない、ではなく、戻りたくないから孤独を恐怖する”」

 奴は語ったが、ガキはまだ理解できていなかった。
 それを悟ってか、奴は後にこう付け加えた。

「“我輩が居る内は、貴様が孤独を怖がる必要は無い”」

「“だがな、ギコ。貴様と我輩の生き方は違う。いずれ別れの時も来るだろう”」

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754 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:02:49 ID:ymq1rMDs0


「“もしその時、貴様が涙なく我輩の前から消えたならば”」

「“――別れのきわ、貴様が内なる孤独ではなく、我輩と向き合っていたならば”」

「“我輩は貴様の存在を、かつて拳を交えた幾百の闘士と同じく、未来永劫の友とするだろう”」


 奴は、杉浦ロマネスクはガキの頭に手を乗せた。


( ФωФ)「“我輩には、数え切れない強敵(とも)が居た”」


( ФωФ)「“貴様も来るか、拳の世界へ”」


( ФωФ)「“言葉ではなく、拳で語る我らが世界へ――”」


.

755 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:03:30 ID:ymq1rMDs0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



(,,゚Д゚)「……ま、そういうのが分かるのは決別の瞬間だって話だ」

 語り終え、話を要約して適当に言う。

(,,‐Д‐)「仲間とか友達とかナントカって奴はな……俺ぁそう思う」


('A`)「そのガキと杉浦は、最後どうなったんだ?」

(,,‐Д‐)「ガキが杉浦に挑んで、そんでこっ酷くやられた。ガキは相手にもならなかったとさ」

 ギコはやる気のないふざけた声で返した。

('A`)「……自分より強い奴に挑むのは、怖くないのか?」

(,,゚Д゚)「……お前が俺にそれ聞くか? ……嫌味か?」

(;'A`)「あ、いや、そういう意味じゃない。ごめん……」

(,,゚Д゚)「……さっきのは俺が個人的にお前の実力を確かめに行っただけだ。
     正直なところ、素手であんなに強いとは思ってなかった」

(,,゚Д゚)「素手に自信があった分、けっこうショックだった」

.

756 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:04:15 ID:ymq1rMDs0


(,,゚Д゚)「だが、もう一度お前と戦うことに恐怖はない」

(,,゚Д゚)「誰が相手でも同じだ。俺は弱い自分がとことん気に入らねぇ。
     だから何が相手でも死ぬまで戦い切る。当然死んだら最後だが、俺は今んとこ死んでねえ」

(,,゚Д゚)「俺はいつだって自分の為に戦う。気に入らねぇものをブッ潰す為に戦う。
     俺が俺であり続ける為に、アイツの敵であり続ける為に……」


(,,‐Д‐)「……なんでもない。寝言だ」

 途端、羞恥心が差して言葉を切り上げる。
 ギコは言葉で語りすぎたことを戒め、寝返りをうって口を閉じた。

 二人の会話はそれで打ち止めとなり、ドクオも眠ることにして思考を取りやめた。
 杉浦ロマネスクという人物に思うところはあれど、それも後でいいと割り切る。
 目標が出来たなら備えるだけだ。漆黒の中、ドクオは徐々に意識を鎮めていった。





 「――話は聞かせてもらったぞ」



 が、淀みゆくドクオの意識をその一言が覚醒させた。

 ギコではない、ましてや自分でもない誰かの声だ。
 ドクオは跳ねるように体を起こし、声がした方に目をやった。
 視界はまったくの暗闇で何も見えないが、気配だけでも探りを入れていく。

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757 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:05:02 ID:ymq1rMDs0


(;'A`)「……お前じゃないよな」

(;,,゚Д゚)「当然だ」


 緊張し、周囲を警戒する二人。
 次に聞こえてきたのは、ちょうど下痢気味の時にありがちな汚らしい音だった。


(;'A`)「……トイレだな」

(;,,゚Д゚)「ああ」

 音の出所はトイレ。二人の意識もそこに集中した。


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758 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:05:44 ID:ymq1rMDs0


 「俺の名前はミルナ」


 「頼む、紙を取ってくれ……」


('A`)

(,,゚Д゚)


 ピッ。ゴシュオオオ。
 その音と共に、ミルナの下痢が水と混ざって流れていった。
 最悪の地の文だった。

(,,゚Д゚)(俺……)

 ギコは後悔の限りを尽くして後悔していた。そして先程の自分の台詞を思い出していた。
 うわくっさ!! 便所だ! でもくっせえぞ!?
 人が使ってる時に開ければそりゃあ臭い。ギコは色んな意味で死にたくなった。

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759 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:06:25 ID:ymq1rMDs0


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          第十三話 「撃鉄が起きた日」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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760 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:07:05 ID:ymq1rMDs0

≪4≫



/ ,' 3 「今度の事は少々疲れたな」

 上着を脱ぎ捨て、荒巻スカルチノフは窓辺に歩いていった。

 ステーション・タワーの最上階。
 そこは広々とした展望室になっており、荒巻が気に入って休日を過ごす場所でもあった。
 『ThisMan』の一件からしばらく――メシウマの統べる荒巻にも、ようやく暇が巡ってきた。


/ ,' 3 「デミタス君」

 振り返らず、荒巻は景色を一望しながらデミタスを呼んだ。
 デミタスは荒巻の背後、少し離れたところに立ち尽くしていた。

(´・_ゝ・`)「はい」

/ ,' 3 「君の質問にいくつか答えよう。なんでも構わんよ」

(´・_ゝ・`)「……ソファにどうぞ」

/ ,' 3 「立ち話ではダメか?」

(´・_ゝ・`)「なら、このまま」

.

761 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:07:58 ID:ymq1rMDs0


(´・_ゝ・`)「先日は申し訳ありませんでした。
      秘匿事項への接触は処罰に値します」

/ ,' 3 「だな。君は素直クールのことを知ってしまった」

(´・_ゝ・`)「……」


 デミタスは、荒巻と戦う覚悟をしてここに来ていた。
 素直クールの存在を守秘するならば、荒巻は確実に自分を殺しに来る。
 現に相棒のシャキンが行方不明になっていた。シャキンとは最近一切の連絡がついていない。

 それが意味するところを考えれば、デミタスは警戒を怠る訳にはいかなかった。
 たとえシャキンが既に死んでいたとしても、デミタスはたった一人で生き残る気でいた。


/ ,' 3 「とりあえず奴を紹介しておこう」

/ ,' 3 「話を進めるには必要だからの」

(´・_ゝ・`)「……奴?」

/ ,' 3 「すまんなデミタス君、今日は色々と驚かせるかもしれん」


.

762 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:08:38 ID:ymq1rMDs0


/ ,' 3 「三月兎だ。ワシとは百万年近い付き合いになる」

(´・_ゝ・`)

 その時、コツンという靴音がデミタスの背後で鳴った。
 デミタスは振り返らず、荒巻が言った三月兎なる者が視界に入ってくるのを待った。


(メ._凵j


(´・_ゝ・`)「……ウサギさんですか。いやあ驚きました」

 無表情に徹して軽口を零す。
 白い体毛、長い耳と片目傷。漆黒のマント。

 三月兎は荒巻の傍に立ち、デミタスを睨んだ。
 デミタスもそれに答え、二人は少しの間、目を合わせた。


.

763 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:09:26 ID:ymq1rMDs0



/ ,' 3 「さて、話を続けよう。なんなりと聞いてくれたまえ」

(´・_ゝ・`)「この場で私を殺しますか?」

/ ,' 3 「いや別に」

(´・_ゝ・`)「正直、私は今もあなたを恐れている。
      お願いです。私を殺さないでください」

 デミタスは恐れなど一抹も含めずに言った。

/ ,' 3 「殺さんよ。むしろ今は君ではなく、ワシが下手に出なければならない」

(メ._凵j「荒巻」

 何かを察した三月兎が沈黙を破って言った。

/ ,' 3 「構わん。撃鉄が起きたのだ。ワシらも動き出す時だ」

(メ._凵j「……」

 三月兎が口を閉じると、荒巻は話を戻した。

.

764 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:10:07 ID:ymq1rMDs0


/ ,' 3 「素直クールは『鍵』だ。ワシはあれを守り通す。何があっても」

(´・_ゝ・`)「守るですか。確かに細切れだったら収納しやすい」

/ ,' 3 「あの女は死んではおらん。死んだように見せかけたのだ」

(´・_ゝ・`)「質問。荒巻さんの『能力』は一体何ですか?」

/ ,' 3 「能力はない」

(´・_ゝ・`)「分かりました。どうぞ」

/ ,' 3 「……あのなぁ」

 荒巻は困惑したような声で言った。

/ ,' 3 「ワシは聞いてくれと何度も言っているんだが?」

(´・_ゝ・`)「ええ。……何か?」

/ ,' 3 「もう少しグイグイ聞いてほしい。君はそんなに理解力のある男だったか?」

(´・_ゝ・`)「理解できないことは後回しにする主義です。
      あなたが何歳だとか、そのウサギさんが何者だとか、能力がないだとか」

(´・_ゝ・`)「もう本当に意味が分からない。そうなんだすごいねとしか言えません。
      知らない小説の設定集でも聞いている気分です。だから後回しです」

.

765 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:11:42 ID:ymq1rMDs0


/ ,' 3 「……そう煽らなくともよい。今ここで君に危害を加える気はない」

/ ,' 3 「しかしこれでは話が進まんな。ならば言葉を変えよう」


/ ,' 3 「シャキン君を殺されたくなければ、私の思い通りに動きたまえ」

(´・_ゝ・`)「断固拒否します」

 デミタスは即答する。

/ ,' 3 「……ほほう……」

 荒巻は振り返り、デミタスを見た。
 デミタスの手にはペンライトが握られていた。

(´・_ゝ・`)「あれが殺されるのは別にいい。別に全然気にしない」

(´・_ゝ・`)「まったく興味がない」

(´・_ゝ・`)「腹が立つのは『思い通り』にという部分だ」

/ ,' 3 「……」

.

766 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:12:37 ID:ymq1rMDs0


(´・_ゝ・`)「そんなに質問されたいなら聞いて差し上げましょう」



(´・_ゝ・`)「――俺を舐めてるのか?」

 瞬間、デミタスのペンライトが点灯して鋭い光を放った。
 光は能力発動のために根こそぎ吸収され、同時に、デミタスの隣に紫色の水溜りが具現化していく。
 荒巻はその様子を認めると、ふぅと一息ついて頭を振った。

/ ,' 3 「らしくない高揚ぶりだな。シャキン君のことで怒ったか?」

/ ,' 3 「しょうがない、話をいくつか飛ばそう」

 三月兎に下がるよう促し、荒巻はワイシャツの袖を捲くった。

/ ,' 3 「君には強くなってもらう。具体的には今の十倍だ。それでようやく戦力になる」

/ ,' 3 「敵は『撃鉄』の男ミルナ。奴が動き出そうとしている」


(´・_ゝ・`)「それが最期の言葉か。意味不明だな」

 紫の水溜りから、ずるりと何かが這い出てきた。
 片手、頭、上体、足、下体。
 徐々に姿を見せるそれを、荒巻は視界の片隅に捉えていた。

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767 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:13:39 ID:ymq1rMDs0


(´・_ゝ・`)「……いきなり大仕事で悪いな」

 デミタスは具現化した能力に対して話しかけたが、反応は返ってこない。

 水溜りから現れたのは、毒々しい紫色の液体に塗れた女性だった。
 常に全身から流れ出る液体は見た目通りの猛毒。

 毒の能力――毒の姫君(ポイズン・メイデン)。
 これがデミタスの超能力だった。

(´・_ゝ・`)「で、何が、どうしたって?」

/ ,' 3 「……先の言葉は撤回だ。これなら三倍で事足りる」

(´・_ゝ・`)「こちとら常々強くならねーと生きてられない性分でな。
      特に、お前みたいな気に入らないのが居ると、更に気合いが入る」

/ ,' 3 「気に入られたものだ。嬉しい限りだよ」

(´・_ゝ・`)「……話聞いてたか?」

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768 名前:名も無きAAのようです :2014/02/08(土) 15:14:47 ID:ymq1rMDs0


/ ,' 3 「殺す気でかかってこい」

 荒巻は身構えた。

/ ,' 3 「殺される気は毛頭無い。が、途中でワシを殺しても構わん」

/ ,' 3 「ワシが賭けるのは命だ。さて、これでジジイの若者苛めには付き合ってくれるか?」

(´・_ゝ・`)「個人的にお前が大嫌いだ。理由はこれでいい」


 一瞬、空気がピタリと静止した。


(´・_ゝ・`)「メイデン、跡形も残すな」

/ ,' 3 「意気込み、大いに結構――」


 言葉の後、二人の男が床を蹴った。

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