- 653 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 17:51:29 ID:tDHPir8A0
≪1≫
事件から数日後、『ThisMan』と呼ばれた男と、それらに関する全ての事案に決着がついた。
『ThisMan』とは、荒巻スカルチノフと部下一同が協力して行った抜き打ち避難訓練だったのだ。
巻き込まれた住民達からは非難轟々であったが、荒巻はそれらの声を真正面から受け止めた。
まず、荒巻はテレビ番組や新聞社のインタビューに登場し、メシウマ住民達の危機意識の低さを論理的に指摘した。
反荒巻派のデモ活動にも現れ、今回の事で意気を強めた反抗勢力に対しても彼は毅然として対応した。
過激なゴシップ誌では『ThisMan』の一件を『政府面汚しの夜』などと揶揄されるも、
荒巻とその部下達の活動はまずまずの効果をあげ、街の情勢は、少しずつ落ち着きを取り戻していった。
( ´_ゝ`)「……っていうのが表向きの結末。どうだ、乾杯」
そう言い、兄者はエクストにグラスを差し出した。
<_プー゚)フ「乾杯」
ジュースの入ったグラスを持って、エクストは乾杯に応じた。
.
- 654 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 17:52:14 ID:tDHPir8A0
事件後、二人は約束通りに話し合いの場を設けた。
レムナントとメシウマを隔てる壁、その近くにあるメシウマのバーが待ち合わせ場所だった。
薄暗い店内には流石兄者とエクスト・プラズマンの二人だけ。
壁が防音仕様なのか、外の喧騒もまったく入ってこない。
物静かな店内、寡黙なマスター。話しをするにはうってつけの環境が揃っていた。
( ´_ゝ`)「表向きはそれとしてだ」
( ´_ゝ`)「俺らの見た光景は、おそらく事件の真実に一番近い」
<_プー゚)フ「俺は何にもわからねぇ。いざ戦おうと思ったら逃げ始めてたからな」
<_プー゚)フ「だから教えてくれよ。あそこに居た、あの野郎の頭ん中を」
( ´_ゝ`)「ほらよ」
エクストに聞かれると、兄者はテーブルに数枚の資料を並べた。
エクストはそれらに視線を落とし、改めて口を開いた。
<_プー゚)フ「マニー、資産家、荒巻さんの元同僚、隠居中、先日病死」
<_;プー゚)フ「……没、七十二歳?」
エクストが違和感を口にする。
( ´_ゝ`)「そういう事ができる能力なんだろ、考えるな」
<_;プー゚)フ「でも、コレにはマニーが能力者だなんて書いてないぞ?」
( ´_ゝ`)「あの光景を覚えてるだろ。お前も見ただろ? 何よりの証拠だ」
.
- 655 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 17:52:55 ID:tDHPir8A0
( ´_ゝ`)「ま、今更だけどな。上がそういう風に片付けた以上、俺達の言ってることは妄言だ」
( ´_ゝ`)「おいワイズマン。今の情報で代金チャラにしとけよ」
( ゚_つ゚)「……釣りは出さんぞ」
ワイズマンと呼ばれたマスターに適当なカクテルを頼み、兄者は本命の話題を切り出した。
( ´_ゝ`)「……ドクオ、だな」
<_プ−゚)フ「……」
<_プー゚)フ「……どうだった。元気にしてたか」
エクストが、ドクオという名前を懐かしんで微笑んだ。
そんな反応を見せたエクストの思考は分かっていた。
人知れず、兄者は能力を発動していた。
.
- 656 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 17:53:57 ID:tDHPir8A0
( ´_ゝ`)(……)
エクストは何も知らなかった。
ドクオがレムナントを飛び出し、武神との修行に明け暮れていたことを。
こちら側から自分と素直クールと奪取しようと、一人で戦いに来ていたことを。
そして、今のエクストはこんな事を思っていた。
“一人で生きてけるくらい、あいつは強くなってるかな”と。
ドクオを一人にした張本人が良い兄貴を気取っているようで、本当に馬鹿らしかった。
そもそも、完全な部外者である兄者には、エクストのやっている事は単なる格好付けにしか見えなかった。
最終的に素直クールを救出してレムナントに帰り大団円――要約すると、それがエクストの思惑だった。
( ´_ゝ`)(違う。お前は、逃げ出した先で都合の良い未来を妄信してるだけだ)
厳しくそう思いながらも、兄者はそれを口に出さなかった。
子供は人の真意を受け止め切れない。子供は、自分の真意を語ることすら恐怖する。
“ぼくのかんがえたさいきょう何々”で現実と距離を置くことでのみ、子供は平静を保てる。
だから語らない。
現実と真実から目を背け、言い訳一つで馬鹿な子供を続けている、そんな奴には――エクスト・プラズマンには。
流石母者が目をつけたドクオの親友だと言うから期待したが、エクストは、兄者には期待外れの人間だった。
( ´_ゝ`)(今回限りかな、面倒見るのは)
兄者は出てきたカクテルを一口飲み、そう結論付けた。
.
- 657 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 17:54:37 ID:tDHPir8A0
( ´_ゝ`)「ああ、元気だったよ」
<_プー゚)フ「そうか……まだあの町に?」
( ´_ゝ`)「いや、今はどうだろうな。レムナントには居るだろうが」
確かにドクオは今レムナントに居る。嘘は言っていない。
<_プー゚)フ「会いに行きたいんだけどな、どうにも都合がつかねえ」
( ´_ゝ`)「いつか会いに行けよ。今すぐじゃなくても大丈夫だろうさ」
兄者は、エクストの夢物語が求める返事をしてやった。
<_プー゚)フ「そうだな。まぁ、元気そうで良かった……」
( ´_ゝ`)「……そろそろ帰るわ。けっこう忙しいんだ、特課」
<_プー゚)フ「ああ、じゃあ俺もカンパニーに戻る。またな」
またな、という馴れ馴れしい言葉に苛立ちを覚えたまま、兄者はバーを出た。
( ´_ゝ`)(得る物も与えられる物もなかった。無駄な時間を過ごしたな……)
これ以降、兄者は自分からエクストに連絡を取らなかった。
.
- 658 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 17:55:19 ID:tDHPir8A0
≪2≫
フォックスは、ウォーク港の埠頭でマリントンの船を待っていた。
爪メー`)「おっ。来た来た……」
爪メー`)ノシ 「おぉ〜い!!」
船がフォックスの目の前につけられる。
実に二年振りの再会。マリントンは、変わらない調子でフォックスの前に現れた。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ 「オーライ、ナイスガイ! いかつい見た目になっちゃって!」
爪;メー`)「……相変わらずだな……」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ 「あとお客さん。レムナントからの」
遅れて、マリントンの船から男が降りてくる。
こちらの男も、実に二年振りの再会だった。
( ・−・ )「よう」
爪メー`)
爪;メー`)「何があった!!!!!!!!!」
フォックスは一大事を察した。
.
- 659 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 17:56:05 ID:tDHPir8A0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
フォックスの案内で三人は近くのカフェに入った。
マリントンはなぜかついてきた。
爪;メー`)「お前よぉ、引きこもりのお前がレムナント出てくるって、お前……」
席に着くなりフォックスが動揺を露にする。
シーンとの付き合いは長いが、その中でシーンが海を渡ったという話は聞いたことがない。
それがいきなり渡海して目の前に現れたのだ。フォックスもさすがに驚いた。
( ・−・ )「まぁこれ読め」
シーンはテーブルに新聞を置いた。
そこには『ThisMan』についての顛末が特集として載せられていた。
爪;メー`)「……お前が犯人か?」
( ・−・ )「いいや。だが間接的に関わった。歯車王を金で売った。今そのせいで追われてる」
爪;メー`)「……お前ならいつかやると思ってたよ。悪いが親交は絶たせてもらう」
( ・−・ )「つれねぇな」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ「……ドクオ、だろ? もったぶる必要、ないと思うけど」
マリントンの一言で、シーンの話を冗談で済ませていたフォックスの顔色が変わった。
.
- 660 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 17:56:53 ID:tDHPir8A0
爪メー`)「あいつを巻き込んだのか」
( ・−・ )「巻き込んで、向こう側に送り込んだ」
爪メー`)「……そうか……」
フォックスは黙り込み、それ以上ドクオの事を聞こうとはしなかった。
そうしている内に、シーンが勝手に開口した。
( ・−・ )「結論から言うと駄目だった。
俺が渡したHMDも、装備も、向こう側には通用しなかった。役に立たなかった」
爪メー`)「そう言われると、なんだかお前の商品の実験台にされたみたいだな、あいつは」
( ・−・ )「俺もただで働く気はない。だから体で払ってもらった。
ドクオは十分な成果を出してくれた」
爪メー`)「分かりやすい憎まれ口だな。責任感か?」
( ・−・ )「……あいつは今、レムナントに居る。牢屋の中だ」
語気を弱め、シーンはポケットから新聞記事の切り抜きを取り出した。
小さな記事だが、そこには少年の顔写真が載っていた。間違いない、ドクオの顔だった。
( ・−・ )「……これは俺を誘き出す罠だ。
特課が俺とドクオの関係を確かめようと撒いたエサだ」
( ・−・ )「俺は……俺は、こんな見え見えの罠にかかるほど馬鹿じゃない」
爪メー`)「……」
.
- 661 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 17:57:54 ID:tDHPir8A0
少しの沈黙を挟んでから、シーンはフォックスに向かって深く頭を下げた。
( ・−・ )「頼む。俺のかわりにドクオを助けに行ってくれ」
( ・−・ )「今の俺には何もない。あるのは歯車王を売って得た大金だけだ。
ドクオを助ける力はない。そして、そんな力が金で買えない事も俺は知っている」
( ・−・ )「……俺が馬鹿だった。どうか、ドクオを助けてやってほしい」
爪メー`)「……マリントン、どう思う」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ 「オレ、別にそこまでして助けに行く義理無いし? 別に?」
爪メー`)「ああ、俺もそう思う」
( ・−・ )「……辛辣だな」
シーンは頭を上げ、マリントンとフォックスをそれぞれ一瞥した。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ 「だってノープロブレム。ドクオ、マジ強いから」
爪メー`)「それに俺が行っても多分無駄だ。敵が敵だからな。ドクオ自身がもっと強くならなきゃ意味がねぇ。
ここが踏ん張りどころだろうが……俺が出たら台無しだ」
.
- 662 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 17:58:34 ID:tDHPir8A0
( ・−・ )「……弱音を吐いた。すまない、なんでもない」
爪メー`)「そのとおりだ。お前はほんとに馬鹿だな」
( ・−・ )「お前にだけは言われたくなかった」
シーンが新聞紙を片付けると、マリントンが話題を変えて話し始めた。
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ 「そんでフォックス、お前これからどうすんの? つかその右目、なに」
爪メー`)「まぁ色々。修行が激しくてな、潰しちまった」
フォックスは今はない右目をポンと叩き、笑って見せた。
おどけているが、大きく変化している――二年振りに会ったフォックスに対して、マリントンはそう思った。
爪メー`)「俺はこれから人探しの旅だ。片目傷の奴と、先代武神様の二人」
( ・−・ )「そっちも遠出か……次に会うのはいつになるか」
爪メー`)「お前が死刑囚にならなきゃまた会えるさ。マリントン、そろそろ船出してもらえるか?」
|;;;;| ,'っノVi ,ココつ 「オーライ。世界一周だろうと付き合ってやるぜ」
三人はほんの少しの談話を済ませると、再会を約束し、それぞれの行く先へと向かっていった。
.
- 663 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 17:59:17 ID:tDHPir8A0
≪3≫
レムナントの空は灰色がかった雲に覆われていた。
久方振りの雨が、レムナントの大地に降り注がれようとしていた。
俺としては、天気など気に留めることでもないが……。
あの少年がここに――レムナント監獄にやってきたこの日の天気だけは、やけにハッキリと覚えていた。
ドクオという少年が俺の目の前に現れたのは、そんな鬱々とした日の事だった。
.
- 664 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 17:59:58 ID:tDHPir8A0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第十一話 「ようこそレムナント監獄へ」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
- 665 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:00:51 ID:tDHPir8A0
壁に囲まれ、都市メシウマから完全に隔絶された荒野、レムナント。
無法こそ唯一の法などという謳い文句はあれど、現実は名実通りのゴミの掃き溜めに過ぎない。
自然など極一部にしか存在せず、文化水準もメシウマに比べれば惨めなものだ。
だが、近年になってメシウマ側がレムナントの地域開発に乗り出してきた。
その一環で建設されたのが“レムナント監獄”。メシウマ側の法律が適応されるレムナント初の施設だ。
無法こそ法――監獄の建設は、メシウマ側がこの謳い文句を打倒するために放った布石だった。
監獄の建設当初から、レムナントの荒くれ達はメシウマ側の思惑にまんまと乗せられてしまっていた。
無法者は規律正しいものを嫌う。監獄などもっての他だった。
よって半ば当然のように、建設開始から間もなく、建設に反対する者達による妨害活動が始まった。
それこそがメシウマ側の思惑だった。
メシウマ側は妨害活動を予測し、建設現場付近に多数の能力者を配置していたのだ。
無法者達の妨害、を読んでの待ち伏せ。
これにより最初の妨害グループはことごとく確保され、レムナント監獄最初の囚人となった。
通常、待ち伏せは一度使えば二度目は通用しない作戦であるが、レムナントには十分な連絡手段がない。
おかげで“待ち伏せされている”という情報は殆ど広がりを見せず、後の第二、第三のグループも最初の者達と同じ結末を辿った。
始めから一致団結して事に当たっていれば話は違っただろうが、彼ら無法者は生半可な馴れ合いを拒む。
自信過剰が骨身に染み込んだような連中だ。目的の完遂よりも意地とプライドをとってしまうのは仕方のないことだった。
以降は小規模な攻撃が断続的にあっただけで、監獄の建設はまったく滞りなく進んだ。
レムナント監獄が完成した頃には、反対派だったほぼ全ての人間が檻の中で生活していた。
何もかも、メシウマ側の思う壺だった。
.
- 666 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:01:31 ID:tDHPir8A0
話はこれで終わらない。俺自身がレムナント監獄の囚人だからだ。
投獄された理由は他の奴とは違うが、どうせ同じ穴の狢だ。差別化する必要は無い。
監獄の生活について、俺が知るところを語る。
レムナント監獄に監視という概念は無い。
収容者達はそれぞれの部屋を持ち、好きなときに好きな事ができる。
ただし超能力が発動できるようなもの――大半の電子機器の利用は、無能力者以外には禁止されている。
敷地は有刺鉄線とレーザー網付きの鋼鉄の壁に囲まれている。
壁から内側の施設までには10メートルの間隔があり、夜間はここをカンパニー隊員が巡回している。
(レーザーも一応“光”だが、レーザーの指向性と能力者達の光の吸引力はまるで出力が違う。
吸収それ自体は可能でも、レーザーを捻じ曲げて吸収できるだけの引力が人間には出せない)
正門を抜けると右手に詰め所があり、左手にはカンパニー隊員が待機する平屋がある。
ここには十人前後の隊員が常駐している。以前正面突破を試みた奴が居たが、もちろん返り討ちにあった。
待機所は他に二ヶ所あり、各生活棟の中にも隊員が二十人ほど待機できるスペースが用意されている。
敷地内には棟が三つあり、それぞれ能力者用の生活棟、出入り自由の総合棟、無能力者用の生活棟となっている。
一際大きいのが三階建て総合棟で、ここには大量の漫画小説と健康ランド的各種設備、
映画、アニメ、ドラマの録画データが詰まったテレビなどがある。
たまにテレビ見たさに能力者が暴れるが当然すべて押さえ込まれている。
しかし、これだけの優遇があれば相応の働きが求められるものだが、この監獄には勤労の義務も決められた起床時間もない。
むしろ食って寝て起きるというルーチンが推奨されているほどだ。
しかもこれが長年レムナントで生きてきた連中を骨抜きにして戦意を奪っているのだから、やはりこれも向こう側の思惑通りなのだろう。
.
- 667 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:02:12 ID:tDHPir8A0
看守長を務め、実質的に監獄を仕切っているのはカーチャンという女性だった。
ババアと言うと怒るが、普段は穏やかで話の分かる人だ。
監獄の環境も相まって、ニートを養う母親のように皆には思われている。
噂では、彼女も能力者でかなり強いらしい。
誰も相手にしたことがないので真偽は分からない……が、こんな所を仕切る人間が只者ではないのは明白だ。
脱獄の際には一番の脅威になるかもしれない。実力は未知数だ。
レムナント監獄を守るカンパニー隊員の数は、およそ五十人。
対して俺達囚人はそれより少し多い六十人。能力が使えない以上、数の利はあまり意味をなさない。
なにより相手には一方的に能力を使われてしまう分、囚人側は相当の不利を負っている。
脱獄となれば、やはり団結が鍵になってくる。
中心になって囚人達をまとめようとする奴も居るが、そいつの脱獄計画に加担する奴は少ない。
ここはかつてない倦怠が許された空間だ。脱獄する理由がある奴のほうが珍しい。
俺も脱獄する理由はない。
ここには自分の意思で入った。出ていく気は毛頭無い。
俺は今日も総合棟の図書館にこもり、ささやかな孤独に身を浸す。
それを繰り返すだけの生活が、もう一年くらい続いていた。
.
- 668 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:03:34 ID:tDHPir8A0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
レムナント監獄、総合棟一階の食堂。
昼の十二時ということもあって、囚人の大半が食堂に会していた。
五十人余りの囚人と、昼休憩のカンパニー職員達が座ると、食堂内のテーブルはほとんど埋まってしまった。
当然、マナーもエチケットも知らない無法者共の食事なので、壮絶を極めたうるささである。
そんな食堂の喧騒の中に一つの集まりがあった。
たった四人の小さな集まりだったが、彼らはテーブルを囲み、とある話で盛り上がっていた。
今日、監獄に新しい囚人がやってきたのだ。
脱獄計画を企てる彼らは、その新人を仲間にしようと話し合っていた。
ノハ;‐凵])「……だけど、さ」
素直ヒートは腕を組んだまま疑問を述べた。
ノハ;゚听)「それって憶測に憶測を重ねただけだろ? 頼る当てにしちゃあ頼りねえぞ?」
(,,゚Д゚)「おまけに子供なんだろ? お前が言うとおり、その新聞記事の奴が来たって言うならな」
ヒートの言葉に、ギコが同調して付け加える。
(,,゚Д゚)「少し、というか全面的に信じられない。
十六歳のガキが自力で壁を越え、何らかの荒事を経てここに来るなんて話……都合が良すぎるぞ」
.
- 669 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:04:14 ID:tDHPir8A0
|(●), 、(●)、|「……『ThisMan』の事件に紛れ、年端もいかない少年が壁の向こうへ行く」
一度に二つの意見を受け取ったダディクールは、目の前に座る二人を相手に話し始めた。
|(●), 、(●)、|「恐らく、それ自体はやる気があれば簡単だ。
壁とは行っても抜け道はある。運び屋に声をかければすぐだろう」
|(●), 、(●)、|「問題は次。この新聞記事の内容だ」
ダディクールはテーブル上の新聞紙を指した。
指先には、レムナントの少年が保護されたという記事があった。
(,,゚Д゚)「今朝読んだ。レムナントの少年を保護、更正施設へ……だったな」
|(●), 、(●)、|「そう、しかし間違っている。この記事の内容は捏造されている可能性が高い。
今までにメシウマに忍び込んだ奴らは、こんな風には書かれていない」
('(゚∀゚∩「!」
('(゚∀゚∩ 「きっと子供だから表現に気を使ったんだよ!」
やっと口を挟めそうだと感じ、なおるよは反射的に即答した。
ノパ听)「いや、レムナントって言葉は向こう側にしてみりゃ汚物の別称みたいなもんだ」
ノパ听)「気を使うってんならまず『レムナント』とは書かないな」
('(゚∀゚;∩「はっ。そういえばそうだよ……」
即答を即論破され、なおるよは再び口を閉じた。
.
- 670 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:05:39 ID:tDHPir8A0
ノパ听)「つー事は、この記事はウンコ保護しましたって書いてあるようなもんか。確かに変だ」
|(●), 、(●)、|「言葉は下劣だがヒートの言うとおりだ。
この文面は、……中途半端に生易しい。まるで誰かを誘う罠のように」
(,,゚Д゚)「誰かって、誰だ?」
|(●), 、(●)、|「件の少年――ドクオ君をメシウマに送り込んだ張本人だろう。
メシウマ側はそいつを誘き出すため、必ずドクオ君をここに連れてくる」
(,,゚Д゚)「……つまりアレか。ドクオっていう奴がここに来るかもしれないが、確証はないとかいうアレか」
|(●), 、(●)、|「そういうことになる」
(,,゚Д゚)
(#,,゚Д゚)「だから! それが根拠がねえって言ってんだよ!」
|;(●), 、(●)、|「なっ……これだけ情報源を絶たれた環境下での推測だぞ!?
もっと大事にしてくれてもいいだろう!?」
('(゚∀゚∩「あ! これが希望的観測ってヤツなんだよ! なおるよ知ってるよ!」
ノパ听)「なんか、メシのおかずにもならねえ話だったなぁ……」
ヒートは席を立ち、一人勝手にランチを注文しに行ってしまった。
.
- 671 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:06:19 ID:tDHPir8A0
|;(一), 、(一)、|「じゃあもう希望的観測として聞いてくれ!」
開き直った。
|(●), 、(●)、|「……我々は二週間後、脱獄計画を実行する。
だが、やはりまだ戦力不足は否めない」
|(●), 、(●)、|「我々四人は生身の戦闘はほとんどダメだ。
ペンライトでも入手すれば何とかなるが、それまでの戦闘で確実に取り押さえられてしまう」
(,,゚Д゚)「……ドクオ君には戦闘経験がある筈だ、とか言うなよ」
|(●), 、(●)、|「当たりだ。能力者ならもっと大事件になって保護とか言ってられないからな。
十中八九、ドクオ君は無能だ。しかし、我々には必要な力を持っているかもしれない」
(,,゚Д゚)「……いいか、ダディクール」
ギコは語気を強め、立ち上がってダディクールを見下ろした。
(,,゚Д゚)「実行の時には俺が特攻してライト手に入れてくる。くだらん話で意識をかき乱すな」
|(●), 、(●)、|「もちろん頼りにしている。現状、四人の中で一番まともに戦えるのは君だ」
(,,゚Д゚)「それだけ分かってりゃいい。俺が戦う。俺を舐めるなよ……」
.
- 672 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:06:59 ID:tDHPir8A0
ダディクールを一睨みしてから、ギコもテーブルを離れていった。
ギコはプライドの高い男だった。だからこそ今の自分に腹が立ち、脱獄計画にも参加したのだ。
それが今更子供の力を当てにするなど、彼のプライドが許さなかった。
ノパ听)「なんだなんだ、もう決裂か〜?」
そう言いながら、ヒートがトレーを持って帰ってきた。
彼女は席にかけると早速ランチを食べ始めた。人の話を聞く気はなさそうだった。
|(●), 、(●)、|「いつもどおりさ。これでいい……お友達ごっこをしてる訳じゃない」
('(゚∀゚;∩(あれ、僕ら友達じゃなかったっぽいよ……)
|(●), 、(●)、|「あとは、彼を味方にできれば心強いが……」
ダディクールはもう一人の心当たりを頭に浮かべた。
.
- 673 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:07:58 ID:tDHPir8A0
途端、棟内に放送がかかった。
天気の話題を口火に、カーチャンが例の新人について連絡を始める。
中年ニートを養う母親のような哀愁を漂わせながら、彼女は穏やかに話していった。
『知っていると思いますが、新人さんがもうやって来ています』
『部屋は第一生活棟の219号室。名前はドクオさんです。気弱な子なので優しくしてあげてくださいね』
『……それではまた夜の放送で』
それだけを簡潔に言い終え、放送はすぐに終了した。
今の放送のために多少静まっていた食堂に、さっきと同じ喧騒が戻ってくる。
|(●), 、(●)、|「ドクオ……確かに聞いたぞ。どうやら私の予想が当たったらしい」
ノパ听)「でも無能じゃなさそうだな。第一棟だ」
|(●), 、(●)、|「どちらでもいいさ。なんであれ、味方候補が出来たのだ」
|(●), 、(●)、|「さっそく彼を出迎えに行こうか」
これで脱獄がより確実になるかもしれない。
ダディクールは期待を胸に、なおるよを連れて第一生活棟に向かった。
.
- 674 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:09:19 ID:tDHPir8A0
≪4≫
時刻は少し巻き戻り、昼前のレムナントにて――
三台のバギーカーに囲まれた護送車が、レムナントの荒野を走行している。
それらはレムナント監獄に向かって一直線に進んでいた。
「また会ったな」
護送車の後部に設けられた小さな部屋で、部隊長の男は目の前の少年を睨んでいた。
二人はそれぞれ窓側のシートに座っており、少年――ドクオの手足には錠がかかっていた。
「世も末っていう言葉がある」
部隊長は股座で手を組んで語りかけた。
「俺はこの言葉が好きだ」
「世も末だと思った時にこそ、俺はこの世界の最先端に居るんだと実感できる」
「平和に安全に暮らすことは簡単だ。そのまま緩やかに死んでいく人生だってアリだ」
「なのにわざわざ危ない橋を渡りに行く。その点、俺とお前は同類だよ」
「俺だって分かってる。こんな仕事辞めて、別の楽な生き方を選んだほうが良い。楽だってな」
「でも利口に動けないんだよな。どうしても自分から逃げ切れないんだよ。俺も、お前も」
目の前のドクオが、ぴくりと動いて反応した。
「やりたい事はいつも苦難の先にある」
「だからやるしかねえ。苦しみ抜いて生きていく。俺が俺の為に生きていくにはな……」
.
- 675 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:10:09 ID:tDHPir8A0
部隊長は姿勢を崩し、鉄格子の窓から空を見上げた。
空は暗雲に覆われていた。
「嫌な天気だ」
通常、護送車内は会話厳禁で、対象の拘束ももっと厳重にするはずだった。
それがデミタスの計らいにより、対象には最低限の拘束しかなされていなかった。
部隊長がデミタスに頼まれたのは対象の説得。
カンパニーへの所属、その最後の勧誘であった。
「……一度はオーケーしたんだろ。けっこう悩んだ末にだ。なのに何でまた断った?」
ドクオは俯いたまま、部隊長に顔を見せようとはしなかった。
部隊長と少年は先日の一件で一度だけ会ったことがある。
その時と今とでは、ドクオはまるで別人のように退廃していた。
あれだけ活発だった子供が、こうも一瞬で死人同然になるのか……。
口癖どころか座右の銘と化した“世も末”という言葉を浮かべ、部隊長は小さく嘆息した。
.
- 676 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:10:49 ID:tDHPir8A0
「……核心を突くぞ。何を見た」
('A`)「……なに、を……?」
弱々しく言葉を繰り返し、ドクオが重たい顔を上げた。
「そうだ。もうお前が仲間になってもならなくても関係ない。
俺は俺個人として真実を追求する。教えてくれ、タワーの奥で何を見た?」
(;'A`)「・・・ナッ・・・ナニヲ・・・」
それは、部隊長の目にも明らかだった。
先程まで死人のように大人しかったドクオが、たった一つの問いで狼狽し始めたのだ。
カチカチと歯を鳴らし、体中を震わせ、顔に大粒の汗を浮かび上がらせる。
「おい、大丈夫か!?」
部隊長は堪らず席を立ち、ドクオに接近した。
(;゚A゚)「……ッ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」
瞬間、ドクオは頭を抱え込み、大きく息を吸って大口を開いた。
.
- 677 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:11:30 ID:tDHPir8A0
(;゚A゚)「――うあああああああああ!!」
(;゚A゚)「あああああああああああああああああああああああ」
(;゚A゚)「……ああああああああああああぁ!!」
(;゚A゚)
(;゚A゚)「……あああ……あああああああぁぁぁぁ……」
(;゚A゚)「……あ……あああああ……あっ……あ……あ……あぁ……」
.
- 678 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:12:30 ID:tDHPir8A0
――人間が崩壊している。
部隊長はドクオの背中をさすりながら、ドクオが“正常”ではないことを悟った。
発狂した人間は大体こんな感じで喚き散らす。
部隊長の経験の中にも、今のドクオと同じように狂って死んでいった部下が居る。
その仲間とて発狂してすぐに死んだ訳ではない。
精神に異常をきたしたあと十何年と生き地獄を味わってから、あっさり首を吊って死んだ。
おそらく、ドクオももそういう風になってしまうのだろう。
廃人としてみすぼらしく泥水をすすって生き残り、自分という存在を跡形も無く失って気楽に死んでいく。
ならいっそここで終わらせてやろう……と考えるも、部隊長がそれをしたことは一度もない。
情けにもならない中途半端な慈悲だという自覚はある。
だとしても、自分がそいつを殺す理由も、そいつが俺に殺される理由も曖昧に、誰かを殺すことは彼には出来なかった。
(……死神と背中合わせに生かしてやるしかない)
(死神に連れて行かれるか、逆に死神をブッ殺して生還するかはコイツ次第だ)
(俺に出来る事は何も無い……何様気取りの人殺しにはならねえよ……)
.
- 679 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:13:29 ID:tDHPir8A0
「ドクオ、俺の目を見ろ」
部隊長はドクオの前に座り込んで彼の顎を掴み、無理矢理自分に目を向けさせた。
「生き地獄を生き抜くしかないんだ……俺みたいなのも、お前みたいなのも」
「俺はこうだ。死ぬ理由がないから生きてる。お前はどうだ。なんで生きてる」
(;゚A゚)「……」
(;゚A゚)「……おっ……」
「おっ?」
まともに口を開きかけたドクオに、部隊長は気の抜けた反応をした。
(;゚A゚)「……俺も、前はそうだった……死ぬ理由がなくて」
「でも生きる理由もなかった、だろ」
(;゚A゚)「それはあった……クーがくれた……でも、もう生きる理由……なくなったんだ……」
その時、突然ドクオが体を起こし、部隊長の胸に倒れ込んだ。
本当は肩に掴みかかろうとしたのだろうが、手足の錠がそれを阻んだ。
部隊長に支えられながら、ドクオは必死の形相で部隊長に訴えかけた。
(;゚A゚)「いまっ……今の俺にはっ! 死ぬ理由しかないんだよ!」
(;゚A゚)「それが怖いんだ!! 『死んで当然』『なんで死なないんだ』ってどうしても思うんだ!!」
(;゚A゚)「俺はッ!! 俺はどうして生きてるんだよ!! なんでッ……」
.
- 680 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:14:13 ID:tDHPir8A0
「……俺はこうだ」
焦燥しきったドクオとは反対に、部隊長はとても落ち着いた声で言った。
「生きることは結果だ。だから今更いくら考えてもゼンブ無意味だ」
だから俺はこう思う。『生きる』っていうくだらねえ一つの結果に、色んなもんを足してやろうってな」
「そうすりゃお前、唯一無二の自分だけの人生だろ。ありきたりだが俺は気に入ってる」
「だがな、ただ生きてるだけじゃあ延々スタートラインに突っ立ってる馬鹿だ。
歩いて走って這いずって、そこでようやく『人間』だ」
「……今のお前は、『崖っぷちの産まれたてのドクオ』って所か」
(;゚A゚)「……? ……えっ?」
急に意味不明なことを言われ、ドクオの情緒不安定が加速した。
「これもデミタスさんの計らいだが、今からお前が行くところは正直ヌルい。
今のお前にはちょうど良いかもしれないな。そう思っての措置だろうが……」
「まぁとりあえず生きてろよ」
「生きるとか何とかって事の答えは、結構マヌケでアホっぽいもんだ」
.
- 681 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:17:41 ID:tDHPir8A0
そうこうしている間に護送車はレムナント監獄に到着した。
護送車を降りると、大勢のカンパニー職員がドクオのために道を作っていた。
「色々言ったが、しばらく休んで素面になったら声掛けろよ」
「デミタスさんに気に入られたんだ。すぐこっちに仲間入りできるさ」
「そんじゃあな! 元気でやれよ!」
(;゚A゚)
言いたい放題言い切って、部隊長はドクオの前から消えた。
ドクオは護送車を呆然としてまま見送った。
(;゚A゚)「……」
(;'A`)「……」
(;'A`)「……ちょっと落ち着いた」
口に出し、自分にそれを言い聞かせる。
かなり取り乱したが、ようやく感情の起伏が穏やかになってきた。
なるべく素直クールのことを思い出さないよう、冷静に努めて息を整える。
部隊長の自分語りにより、ドクオは逆に落ち着いたようだった。
J( 'ー`)し「あらあら、それは良かったわねぇ」
するとそこに年増の女性がやってきた。
彼女はカンパニーの制服を着ていた。そして不自然に胸がでかかった。
J( 'ー`)し「看守長のカーチャンです。ようこそレムナント監獄へ。案内します」
('A`)「……カーチャン……」
ドクオはカンパニー隊員が作った道を通り、レムナント監獄に足を踏み入れた。
.
- 682 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:18:25 ID:tDHPir8A0
≪5≫
カーチャンと二人の看守に連れられ、ドクオは監獄内の大体を見て回った。
途中で食堂に寄るかと聞かれたが、早く考え事がしたいのでお断りして先を急いだ。
昼食時のせいか、監獄内の人影は少なかった。
そんな閑散とした廊下を歩きながら、ドクオはようやく自分の部屋へと案内されていた。
J( 'ー`)し「ここは第一棟です」
('A`)「……」
ドクオは平静を保つために、無心無反応を心がけて足だけを動かしていた。
これまでの施設の説明も大半を聞き流していた。
案内もどうせ様式的なことだ。聞かなくても不都合はないと判断したのだ。
J( 'ー`)し「本当は能力者用の生活棟なんだけど、デミタスさんの言いつけでね」
J( 'ー`)し「特別にこっちに部屋を割り当てたわ。あなた能力者並に強いんだってね。凄いわねぇ」
.
- 683 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:19:31 ID:tDHPir8A0
ドクオの部屋は219号室。
第一生活棟、二階の一番奥の部屋だった。
J( 'ー`)し「ここがあなたの部屋よ。好きに使ってね」
部屋の前に到着すると、カーチャンはドクオに部屋の鍵と囚人服を渡した。
J( 'ー`)し「服だけは決まりだから許してね」
('A`)「……」
J( 'ー`)し「……無反応ばっかり。カーチャン悲しいよ……」
(;'A`)「……ああ」
今更だが紛らわしい名前である。
血縁関係もないのにカーチャンと言われると激しい違和感があった。
それに加えて謎の罪悪感まで沸いてくる。ドクオも思わず返事をしてしまった。
J( 'ー`)し「……あと、部屋の中にあなたの持ち物も置いてあるからね。
デミタスさんからの手紙もあるわ。読んでおいてね」
J( 'ー`)し「言う事はこれで全部。それじゃあ後は消灯まで自由に生活してね」
(;'A`)(……雰囲気で分かる。こいつ頭おかしいぞ……)
ドクオはカーチャンに対して、なんとなく同族の臭いを嗅ぎ取った。
あんまり信用しない方向で行こう。そう心に決めた。
.
- 684 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:20:11 ID:tDHPir8A0
説明を終えたカーチャン達は、そのままドクオを置いてどこかへ歩いていった。
上の空で聞いていた話だが本当に自由らしい。監獄と聞いて身構えていたのが無駄になった。
('A`)(……考える時間は山ほどある。とりあえず、ゆっくりしよう)
ドクオは部屋の鍵を使ってドアを開けた。
考え込むのに邪魔が入っては不愉快なので、しっかりと内側から鍵をかける。
('A`)「おぉ……」
内装は思いの外立派なものだった。
窓は鉄格子ではなく、カーテンのあるガラス製のものだった。
窓の下にはシングルサイズのベッド。枕元には目覚まし時計が設置されていた。
床は木目のフローリングで茶色のカーペットまで敷いてある。
壁紙は清潔感のある白。壁際には机と棚が並んでいた。
一体これのどこが牢屋なのか。
ここはドクオが経験した中で一番立派な部屋だった。
(;'A`)(住めば都どころか、ただの都じゃねえか……)
ドクオはとりあえず部屋に入り、囚人服に着替えた。
囚人服だけが、ここが監獄であることを自覚させた。
ただ、これだけ部屋が立派だと、ふとした瞬間にも監獄である事を忘れてしまいそうだった。
.
- 685 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:20:51 ID:tDHPir8A0
気が引き締まるような、気が抜けるような、どっちつかずの心境のまま、ドクオはベッドに転がってみた。
枕に頭を乗せ、ぼんやりと天井を眺める。
こんな風に落ち着いて天井を見上げるのは、本当に久し振りのことだった。
そういえば、と思うと、ドクオはもう昔の事を思い出していた。
昔の事――それはほとんど素直クールについての記憶であった。
思い出さずにはいられなかった。この状況が、彼女と過ごした過去をどんどん想起させていく。
('A`)(……空から女の子か。死にたがってたら落ちてきたんだよな)
素直クールとの出会いは七年ほど前だった。
かつてレムナントで細々と生活していたドクオの小屋に、ある日素直クールが落下してきた。
それから紆余曲折あって一緒に暮らすようになり、デミタスが来るまでは充実した生活を送っていた。
('A`)(デミタス……そういや手紙があるんだったな)
デミタスの名前からカーチャンが言っていた事を連想する。
ドクオは起き上がって机の上に目をやった。
('A`)「……」
(;'A`)「!」
机上の物を認めた途端、ドクオはすぐに立ち上がって机に駆け寄った。
.
- 686 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:21:31 ID:tDHPir8A0
(;'A`)(これ……)
ドクオは机上を見下ろし、そこにある二つの物を手に取った。
一つは茶封筒――開けるとデミタスからの手紙が入っていた。
もう一つは黒いペンダント。素直クールからの貰い物だが、今まで没収されていた。
(;'A`)(……)
(;'A`)(……このペンダント、確かクーの能力で作ったヤツだよな……)
今、自分は何かに気付きかけている。
ドクオはペンダントをじっと見つめ、さらに思考した。
(;'A`)(能力者が死んだら、発動されていた能力はどうなる……?)
(;'A`)(……図書館で調べられるか……?)
(;'A`)(つーか……図書館とかあるのか? ここ監獄だよな?)
しかし、カーチャンが総合棟に図書館があると話していたような気がする。
やっぱり話を聞いておくべきだったと、ドクオは今になって反省した。
.
- 687 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:22:11 ID:tDHPir8A0
そこで部屋がノックされた。
しかし、ノックにしてはかなり乱暴な音だった。
ドアの向こうには、確かな敵意が感じられた。
それと同時に、ドクオはふと自分自身を顧みた。
戦うための力はもう十分にある。向かうべき場所もはっきりした。
だが、一つだけ足りていないものがあった。
それが今、ようやく直感できた。
('A`)(俺に足りてなかったのは、はっきりした敵か……)
ドクオは既にデミタスを敵とは思っていなかった。
一度ぶん殴ってスッキリしたのもあるが、それ以上に巨大な敵が居ると分かったからだ。
('A`)(荒巻スカルチノフ……だっけな)
('A`)(……アイツか……アイツが俺の敵だ……)
荒巻スカルチノフ――その名前を胸に深く刻み込む。
ようやく明らかになった本当に敵。ドクオの眼に、ふたたび生気が宿った。
.
- 688 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:22:51 ID:tDHPir8A0
≪6≫
――219号室の前には、ドクオを“歓迎”するために数人の男達が集まっていた。
メシウマから送られてきた気弱な子。
そんな事を聞いては、メシウマ側を忌み嫌う連中が黙っていなかった。
連中は殴る蹴ることを想像しながら下卑た笑みを浮かべていた。
「おい、お前も新入りに用か?」
醜悪な表情のまま、連中の一人が俺に声を掛けてきた。
俺は壁に寄りかかり、無言で目を逸らした。
( ゚"_ゞ゚)「……」
「……見物か。悪趣味はお互い様だな」
声を掛けてきた奴は床に唾棄して視線を戻した。
それから程なくして、ドアがゆっくりと開き始めた。
('A`)
開いたドアの先に居たのは、カーチャンの言葉通りの面をした少年だった。
.
- 689 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:23:31 ID:tDHPir8A0
「……ガキか?」
少年の見た目から出鼻を挫かれたのか、連中が一瞬戸惑いを見せた。
「構わねぇよ……」
そう言いながら、連中の中でも一際大きな男が一歩前に出た。
背丈も体重も、明らかにコイツの方が上だ。
「おい、お前メシウマ側から来たんだってなぁ」
大男は指をボキボキと鳴らしてドクオを脅しかけたようだった。
後ろから見ているだけで状況は分からなかったが、
少なくとも、これから起こる事がリンチにも満たない惨めな行為なのはよく分かった。
「来て早々悪いんだけどよ、オレらの憂さ晴らしに付き合っ――」
不意に、バクンという大きな音が鳴った。
俺はこれから起こる惨劇を見まいと目を伏せていたが、その不気味な音を聞いてはっと顔を上げた。
連中を再度見ると、あの大男がよろめき、俺の隣にまで後退してきていた。
大男の顔面は血に濡れ、目が虚ろになっていた。
( ゚"_ゞ゚)(……何が起こった……?)
「ごふっ……」
なんとか意識を保っていた大男は、最後に鼻血を噴いて意識を失った。
ズドンという重々しい音と共に、大男は床に落ちた。
.
- 690 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:24:12 ID:tDHPir8A0
('A`)「おいお前ら」
少年の一言で連中がざわついた。
連中には先程のような余裕はなくなっていた。
( ゚"_ゞ゚)(……)
大男が失せたことで、俺の位置からでも少年の姿が見えるようになった。
やはり拳に血がついている。大男を倒したのは、間違いなくドクオだった。
('A`)「おいお前」
ドクオは連中の一人に目を向けた。
選ばれた男はビクッと反応すると、覚悟を決めたのか、腕を振ってドクオに殴りかかった。
しかし、それよりも早くドクオの右掌底が男の顎に直撃した」。
男は堪らず膝を折り、大男に続いて沈黙した。
('A`)「……じゃあお前……」
ドクオの歓迎に集まったのは全員能力者だ。
今は能力を使えずとも、彼らは今まで超能力を使って戦ってきた。
だから能力無しでもそこそこの運運動能力はある。
それを、しかも自分より大きな相手を、目の前の少年は簡単に粉砕して見せた。
驚愕するには十分な光景だった。無意識のうちに、俺の視線はドクオに釘付けになっていた
.
- 692 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:25:06 ID:tDHPir8A0
「なっ……! ……なんだよ……」
次に選ばれた奴は分かりやすく意気消沈して反応した。
敵わないと判断したのだろう。賢明と言える。
('A`)「図書館どこだ」
(,,゚Д゚)「……おい、ゴルァ」
だが、残りの連中の中にまだ諦め切れていない奴が残っていた。
(,,゚Д゚)「次は俺だ、クソガキ」
そいつの名前は知っていた。ギコという男だった。
ここに来る前はレムナントを転々として荒事で稼いでいたらしく、そのせいか性格は乱暴だ。
そして何より素で強い。たとえ能力無しだろうと――
(;'A`)「――ッ!!」
(;,, Д )「マジっ……かッ……!」
一瞬で決着していた。
ギコは驚きの声を漏らしながら床に跪いていた。
血は出てないが、立ち上がることができないようだった。
一方ドクオも一撃食らいかけたのか、肩身を引いて身構えていた。
もう十分に理解した。このドクオという少年、明らかに実力が違う。
.
- 693 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:25:47 ID:tDHPir8A0
(;'A`)「……図書館探してるだけなんだよ。後じゃ駄目か」
(;,, Д )「冗ッ……談、ぬかせ……! 立つに決まってんだろ……!」
ギコは膝を震わせながらゆっくりと立ち上がった。
おそらくギコは軽い脳震盪を起こしている。にも関わらず立ったのは意地とプライドが原因だ。
(;'A`)「……今は俺のほうが強い。やめとけ」
(;,,゚Д゚)「……」
(;,,‐Д‐)「……ああ。認める……」
ギコは呆気なく言い放ち、目を閉じて拳を下ろした。
しかしその後、彼は明らかな自信のもとに言い切った。
(;,,゚Д゚)「次やる時は能力を使う。それで互角だ。だから、今はお預けだ……」
(;'A`)「……とんだ歓迎会だな」
戦いの熱気が収束していくのが目に見えて分かった。
ドクオが自分の強さを知らしめたのだ。
最早、最初の連中もギコもドクオに歯向かおうとはしていなかった。
.
- 694 名前:名も無きAAのようです :2014/01/08(水) 18:26:27 ID:tDHPir8A0
(;'A`)「……」
それから少しすると、ドクオが構えを解きながら“もう勘弁してくれ”という目でこちらを見てきた。
俺は一息ついて動揺を心の奥に押し込んだ。
首を横に振り、戦意がないことを示してから、俺は口を開いた。
( ゚"_ゞ゚)「……図書館なら知っている。案内するか?」
(;'A`)「……ほんとか?」
俺は特に理由もなく案内を申し出た。
あえて理由をつけるなら、単純にこの少年に興味が沸いた。
背格好から見てもまだ子供。それが何があってこんな所まで落ちぶれてきたのか……。
( ゚"_ゞ゚)「図書館は総合棟だ。ついて来い」
俺はドクオに先んじて歩き出した。
だが、その矢先のことだった。
耳をつんざく笛の音が、勢いよく廊下を突き抜けた。
俺達は揃って音のした方を向いた。
そして誰もが気がついた。でかい音を出して暴れすぎたと。
(;,,゚Д゚)「……」
(; ゚"_ゞ゚)「……」
(;'A`)「……」
J( 'ー`)し「……ドクオ……」
看守を連れたカーチャンの悲しげな目が、こちらをじっと見つめていた。
.
←第十話 / 戻る / 第十二話→