- 611 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:05:35 ID:bLgF02Ts0
≪1≫
目の前のドアが開いた瞬間、ドクオは昔のことを思い出した。
確かあの日の夕食はカレーだった。彼女が作ったカレーの味は今でも思い出せる。
そして、あの日と同じ表情――以前よりも真実味を帯びた笑顔で、デミタスはドクオの前に現れた。
(´^_ゝ^`)「どーもこんばんは! 観光案内なら、私達カンパニーにお任せですよ!」
('A`)「……」
ドアを挟んで目を合わせたまま、二人は沈黙した。
その最中、ドクオの感情がかつての熱量を取り戻していた。
( A )「……ハッ」
(# ∀ )「ハハハ! くッ……。アッハハハハハ!! くぅ〜……くッ、へへへ……」
有り余った激情が行き場を求め、笑いという的外れな形になって外に溢れ出る。
(# ∀ )「あーーーーーーー……」
(´・_ゝ・`)(怖いな……精神的な発作か)
('A`)
('A`)「死ね」
(´・_ゝ・`)「じゃあ殺しに来いよ」
('A`)「ああ」
云年越しに放たれた一撃が、デミタスの頬に直撃した。
.
- 612 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:08:39 ID:bLgF02Ts0
(;´(#)_ゝ゚`)「いってあ!!!!!」
(# A )「ッ!」
勢い余って二人は廊下に飛び出した。
手加減なしでデミタスの顔面を殴ったドクオは、その勢いのまま二発目を構える。
もう一度、デミタスの顔面めがめて拳を放つ。
(;´(#)_ゝ゚`)「まじいって――」
(# A )「あぁああああ!!」
今度は口に直撃した。デミタスの言葉が痛烈な音に遮られる。
ドクオの拳は前歯を砕き、口内にまでねじ込まれていた。
(`・ω・´)(爽快だな)
体勢を整え、一歩踏み込んで片足を垂直に振り上げる。
つま先がデミタスの顎を蹴り、彼の体が強引に直立させられた。
(;´(#),ゝ `)「ごっふぁ……」
(# A゚)「この野郎ォ……!!」
肘を突き出す形で腕を上げ、さっき振り上げた足で更に踏み込む。
目標は無防備に曝け出されたデミタスの鎖骨部分。ドクオはそこに肘を振り下ろした。
鎖骨の折れる綺麗な音が、廊下に響いた。
(# A゚)「死いッ……」
気絶して当然なだけの手傷を負ったデミタスは、もう自力で立つこともできないようだった。
まだ攻撃しようとするドクオとは対照的に、デミタスの体は後ろに倒れ始めていた。
(`・ω・´)(やれやれだな)
シャキンは咄嗟に二人の間に割って入った。
既に能力を発動させていた。
.
- 613 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:10:12 ID:bLgF02Ts0
パシ、という音もなく、ドクオの拳はシャキンの手の平に受け止められた。
物体への作用を消す能力――しかし、どこか感触が違った。
ドクオがシャキンと関わったのは数年前の話だが、それでも違いがあると分かるほどに。
(`・ω・´)「……俺のことを覚えてるか」
(# A゚)「……お前は次だ」
(`・ω・´)「じゃあ俺の言ったことは覚えてるか」
(# A゚)「あぁ……?」
(`・ω・´)「あの時の男は助かったのか」
(#'A`)「……ああ」
フォックスの事を思いながら反応する。
(`・ω・´)「……そうか。ならいい」
シャキンは落ち着いた口調で言い、掴んでいたドクオの拳を解放した。
ドクオは数歩下がり、シャキンを睨んだ。
.
- 614 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:13:07 ID:bLgF02Ts0
(`・ω・´)「……もしも質問に答えず、あのままコイツに殴りかかってたら」
ドクオと見合ったまま、シャキンはデミタスを指差した。
(`・ω・´)「コイツの考えには反対する気だった。お前、少しは大きくなったか」
(#'A`)「黙れよ……何様だてめえ」
(`・ω・´)「止められて止まるのが大人だ。行き過ぎてから止まるのはただのバカだ」
(`・ω・´)「最近は漫画とかのせいでバカを褒め言葉みたいに受け取るガキが多い。
お前は、そんなガキよりよっぽど大きく見える。まぁ、行き過ぎてるようにも見えるけどな」
(#'A`)「講釈垂れんな……ガキでも大人でもどっちでもいい。止まる気なんざ最初からねえよ」
(`・ω・´)「……幼年期(ガキ)以上、だが大人にもなりきらないか」
そうだ、大人には“なる”ものだ。
自分の意思で子供を卒業しなければ、絶対に大人にはなれない。
大人になろうとも考えず、ただ二十年間のうのうと生きただけのガキを、俺は大人だとは思わない。
そんな事を思いながら、シャキンは床に倒れたデミタスに視線を送り、彼に意識がないのを確かめた。
(`・ω・´)「こういうの任せるって、いつも言ってるだろうが……」
呆れ返ったように呟き、またドクオと見合う。
僅かな沈黙を置いてから、シャキンは声を張った。
(`・ω・´)「お前を素直クールに会わせてやる」
(#'A`)「……」
( 'A`)
( ゚A゚)「えっ」
ドクオは目を丸くし、気の抜けた声を漏らした。
.
- 616 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:14:55 ID:bLgF02Ts0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(`・ω・´)「コイツ殴って少しは気が晴れたか」
('A`)「……」
(`・ω・´)「……とりあえずコイツを治療したい。先に仲間のところへ行くが、いいか?」
('A`)「いい。それより本当に会わせるんだろうな」
廊下を歩きながら、二人は牽制し合うように言葉を交わしていた。
シャキンは痛々しい様子のデミタスを背負い、ドクオはその後ろに続いていた。
(`・ω・´)「ああ。素直クールは地下に居る。よく彼女の居場所が分かったな」
( 'A`)「……ここは目立つ」
(`・ω・´)「……そうか」
(`・ω・´)「素直クールに会うまでは、とりあえず身の保障はする」
(`・ω・´)「これも渡しておく。好きに使え」
シャキンは立ち止まってデミタスを床に捨て、ドクオにある物を差し出した。
それは拳銃だった。
.
- 617 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:15:56 ID:bLgF02Ts0
('A`)「……」
(`・ω・´)「撃ちたきゃ今ここで撃ってもいい。後で撃ってもいい。持っとけ」
ドクオは素直に拳銃を受け取った。確認すると、弾は六発分装填されていた。
(`・ω・´)「……銃の扱い、知ってるのか」
( 'A`)「……」
(`・ω・´)「……俺のせいか」
あの時の事が一人の子供にどれだけの苦難を与えてしまったのか……。
銃の扱いなど、あの町で平和に生きていたドクオには必要ない知識だった。
(`・ω・´)(俺がそれを変えてしまった。戦う術を必要にさせてしまった……)
後悔など今更する気はない。
しかし、心の痛む感覚がどうしても後を引く。
(`・ω・´)「……なんでもない」
シャキンは捨てておいたデミタスを背負い直し、先を急いだ。
.
- 618 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:17:37 ID:bLgF02Ts0
シャキンの後についていき、今居る階から五階までエレベーターで下りる。
五階には、カンパニー職員達がそこかしこに待機していた。
もしここまで考え無しで進んでいたら、ドクオはすぐに確保隔離されていただろう。
(`・ω・´)「いま街で『ThisMan』とかいうのが暴れて……いや、終わったんだっけな」
(`・ω・´)「とにかく皆忙しい。ちょうど事後処理が始まったところなんだ。
タワーに逃げてきた奴らは、多分今夜は帰れないだろうな」
('A`)「……」
しばらく歩いた先のドアで、シャキンは立ち止まった。
ドアの脇には『休憩中 入室厳禁』と書かれた簡素な札がある。
シャキンは振り返り、ドクオに話しかけた。
(`・ω・´)「ここだ。開けてくれ。手が塞がってる」
('A`)「……ああ」
(`・ω・´)「すまなかった」
シャキンは素直に謝った。
.
- 619 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:18:28 ID:bLgF02Ts0
部屋に入ると、シャキンは無表情で室内に視線を巡らせた。
目的の人物はテレビ前のソファに寝転がり、雑誌を読んでいた。
ξ゚听)ξ「何かご用ー?」
彼女は寝転がって雑誌に注目したまま、手のかわりに足を振ってみせた。
(`・ω・´)「ツン、急患だ。頼みたい」
シャキンは部屋の奥に進み、デミタスをツンの前に投げ捨てた。
ドクオは、彼らのやりとりを椅子に掛けて傍観することにした。
ξ゚听)ξ「ディスマンとかいうの大丈夫なの?」
(`・ω・´)「ああ、お前がサボってる間に片付いた」
ξ゚听)ξ「休憩中なだけよ。まさか休憩無しで働けって言うの? 冗談じゃないんだけど」
(`・ω・´)「じゃあコイツ治したら帰っていい。頼む」
ξ゚听)ξ「当然。治すのだってタダじゃないんだからね」
ツンはソファを立ち、デミタスの傍らで膝を折った。
.
- 620 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:19:21 ID:bLgF02Ts0
ξ;゚听)ξ「うっわボロボロ……死んでない?」
(´(#)_ゝ・`)「生きてるよ」
デミタスはパチと目を開け、自分を見下ろすツンに生存を報告した。
ξ;゚听)ξ「うっわ生きてた……でもこれ重症じゃない?」
(´(#)_ゝ・`)「そうだな。こんなに痛いのは先週の虫歯治療以来だよ」
ξ;゚听)ξ「そういう虚勢はみっともないってば……ほら、お手」
ツンはそう言い、デミタスの胸に手を置いた。
(´(#)_ゝ・`)「お手って、俺は犬か」
デミタスはプルプルと手を伸ばし、ツンの手を弱々しく握った。
('A`)「……おっ」
天井の照明が不意に点滅し、ドクオは思わず声を出した。
誰かの能力か? と彼が思案していると、
ξ;‐凵])ξ「……はい終わり。寝るから出てって!」
(´・_ゝ・`)「お〜しスッキリ。全快だぜ」
その間に、あちらの用事は終わっていた。
.
- 621 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:20:20 ID:bLgF02Ts0
(´・_ゝ・`)「効いたぞお前の。強すぎる。ヤバイな」
復活したデミタスがシャキンと一緒に戻ってきた。
ドクオは一瞬目をそむけたが、ややあってから、心情を割り切りデミタスの顔を直視した。
('A`)「……あいつ、能力二つあるのか」
ドクオはツンを指した。
彼女はすでにソファで眠っていた。健やかな寝息を立てている。
ドクオの質問にはシャキンが答えた。
(`・ω・´)「先天的に能力を二つ持っている人間は世界中どこにもいない。
あれは訳有りで二つあるだけだ。彼女自身の能力は治すほう」
(´・_ゝ・`)「まーいいだろ。それより下だ。素直クールだ」
(`・ω・´)「だな。行こう」
(´・_ゝ・`)「つれー」
デミタスが首を鳴らしながら部屋を出ていくと、シャキンもようやく楽が出来ると安堵してデミタスの後を追っていった。
.
- 622 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:21:12 ID:bLgF02Ts0
( 'A`)(……気ぃ引き締めねえとな)
ドクオも部屋を出ようと歩き出す。
ξ゚听)ξ「待って」
だがその瞬間、ツンがドクオの片手を掴み取った。
ξ゚听)ξ「ついで」
さっきと同じように照明が点滅する。ツンが能力を発動したのだ。
('A` )「……んだよ」
ξ゚听)ξ「おやすみ」
ツンはそれだけ言い残し、そのまま床に倒れて寝てしまった。
('A`;)「……なんなんだよ」
(`・ω・´)「治ってるだろ」
廊下から顔を覗かせ、シャキンが言った。
言われてみると確かに傷の痛みがなくなっている気がした。
ドクオは、あの赤鎧の剣士に切られた脇腹を恐る恐るさすってみた。
( 'A`)「……治ってる……」
ポカンとする間もなく廊下から二人に「行くぞ」と声を掛けられ、ドクオは部屋を後にした。
.
- 623 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:22:15 ID:bLgF02Ts0
≪2≫
小さなエレベーターに三人で乗り込む。
素直クールが居るという階に直通する秘密のエレベーターらしい。
エレベーターは、ゆっくりと下降し始めた。
(´・_ゝ・`)「……ドクオ」
('A`)「……」
(´・_ゝ・`)「……合ってるよな? 名前」
( 'A`)「……ああ」
(´・_ゝ・`)「俺が憎いか?」
( 'A`)「……ああ」
(´・_ゝ・`)「すまなかった」
( 'A`)「……」
(´・_ゝ・`)「あの頃は何でも屋で金を稼いでた。そんである時、仕事の依頼が入った。
素直クールを連れてこいっていう依頼だ。これ秘密なんだからな? だって人攫いだ。人権に反する」
( 'A`)「報酬次第で人権無視する奴が、何を語ってんだかな」
(´・_ゝ・`)「言葉を返す気はない。だが、あの一件のおかげで俺達はここに居られる」
(´・_ゝ・`)「これはエクストも同じだ。奴も俺達と同じくカンパニーに居る。まぁ今は別件で居ないけどな」
( 'A`)「……元気か?」
(´・_ゝ・`)「もちろんだ。それを約束してここへ連れてきた」
('A`)「…………」
(´・_ゝ・`)「……えぇとだな、お前にひとつ、話がある」
デミタスはばつが悪そうに頭をかいた。
.
- 624 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:23:15 ID:bLgF02Ts0
(´・_ゝ・`)「交換条件って訳でもない、ましてや脅迫でもないんだが……」
(´・_ゝ・`)「どうだ? こっちに来てみないか?」
('A`)「……どういう意味だ」
ドクオは冷たく聞き返した。
(´・_ゝ・`)「俺のところで働いてみないか?」
('A`)「……」
返事がないので、デミタスは遠慮なく話を再開した。
(´・_ゝ・`)「お前、素直クールと会って、無事を確認した後はどうするつもりだ」
('A`)「……」
(´・_ゝ・`)「連れて逃げ切れると思うのか? この街から、あれを追っていた本当の奴から」
,_
('A`)「……本当の?」
ドクオが眉間にしわを刻んだ。
(´・_ゝ・`)「俺達に素直クールを連れてくるよう命令した奴だ」
デミタスは会話を区切り、大きく息を吐いてから言った。
(´・_ゝ・`)「――荒巻スカルチノフだ」
('A`)「……アラマキ……」
.
- 625 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:24:21 ID:bLgF02Ts0
(´・_ゝ・`)「あれを連れて逃げ出せば、荒巻は絶対にお前と素直クールを追う。
お前、荒巻がどういう奴か知ってるか?」
('A`)「……偉い人だろ。それがなんだよ」
(´・_ゝ・`)「違う。イカレたサイコジジイだ。俺はあの男が大嫌いだ」
(`・ω・´)「酷い言いようだろ、でも俺も同意見だ」
('A`)「……それで、だから何なんだよ」
(´・_ゝ・`)「今お前が考えてることをすれば、確実に死が待っている」
('A`)「……」
ドクオは俯き、デミタスが話したことを思案し始めた。
その思案に割り込むように、デミタスは続ける。
(´・_ゝ・`)「分かりやすく言う。俺は荒巻が気に入らない、だからいつか反逆する。
お前はその時まで俺の部下になれ。荒巻を倒すため、お前の力を貸してほしい」
(´・_ゝ・`)「俺は荒巻さえ消せれば他はどうでもいい。
だから、全てが終われば素直クールはお前に返す。彼女とエクストと三人で、好きに生きていけ」
(´・_ゝ・`)「だが、このままだとお前は俺達二人、そして荒巻を敵に回すことになる。
もちろんロクでもない結果に終わり、多分、そこからはもう二度と這い上がれない」
(´・_ゝ・`)「……一時でいい、お前と手を組みたい」
('A`)「アタマ大丈夫か」
ドクオの素っ気無い反応を受けて、デミタスは意味深な目になった。
.
- 626 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:25:05 ID:bLgF02Ts0
(´・_ゝ・`)「……なるほどっ。じゃあ言葉を変えよう。
そっちのほうが効果的かもしれない」
こっちの方がエクストには効いたな、とデミタスは懐古しながら言った。
(´・_ゝ・`)「素直クールを殺されたくなければ頭下げろ、仲間にしてくださいってな」
( 'A`)「頭は大丈夫そうだな」
ドクオはふてぶてしくそっぽを向いた。
まるで相手にされていない、そういう印象を受ける素振りだった。
( 'A`)「今のは全部聞かなかったことにしてやる」
(´・_ゝ・`)「……」
それから少しして、チン、という間抜けた音が鳴った。
エレベーターが開き、デミタスとシャキンが先行して前に出る。
ドクオは冷静に周囲の様子を記憶しながら、ゆっくりとエレベーターを降りた。
.
- 627 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:26:38 ID:bLgF02Ts0
('A`)(……嫌な雰囲気だ)
素直クールが居るというこのフロアには、まるで生活感がなかった。
デミタス達に聞いた限りでは“特別な場所”程度の想像だったが、実際に見ると特異、あるいは不気味な場所に思えた。
白い壁。赤線で二つに区切られた一本道。天井の監視カメラ。
今のところ、ドクオの視界にはこれだけの物しか映っていない。
('A`)「……なんかの研究所か」
(´・_ゝ・`)「さぁな。俺にもそれは分からない。ここが何のためにあるのか」
(´・_ゝ・`)「だが安心しろ」
デミタスが歩き出しながら言う。
(´・_ゝ・`)「間違いなくここに素直クールが居る。
俺とシャキンが、確かに見届けている」
(`・ω・´)「ああ」
('A`)「……そうかよ」
デミタスとシャキンを前にして、三人は前進していく。
.
- 628 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:27:30 ID:bLgF02Ts0
しばらく歩くと、このフロアが意外と広い事が分かった。
反面、部屋は一つも見当たらなかった。廊下だけが四方向にめちゃくちゃに伸びている。
そんな空間を右往左往して数十分。
('A`)「……おい」
ドクオが沈黙を破って話しかけた。
(´・_ゝ・`)「なんだよ」
('A`)「まさか迷ってねーだろうな」
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「安心しろ。俺は路頭に迷っても大丈夫な男だ」
(`・ω・´)「そりゃあ言えてる。俺が太鼓判を押す」
('A`)「……どうしてだ、なんでお前らが迷う。ここはお前らの庭だろ」
二人のふざけた返答を無視し、ドクオは端的に聞いた。
(´・_ゝ・`)「……荒巻が何かした。それ以外にない。ここはあいつの庭だからな」
('A`)「また荒巻……偉い奴なのは知ってるが、そいつは一体何者なんだ?」
(´・_ゝ・`)「興味が湧いたか? さっきの話、そういえばまだ答えを聞いていないな」
.
- 629 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:28:22 ID:bLgF02Ts0
(´・_ゝ・`)「……っと。いい加減、歩きっぱなしも癪だな」
(´・_ゝ・`)「おいシャキン、仕事だ」
(`・ω・´)「ああ」
デミタスに言われると、シャキンが急に立ち止まった。
シャキンは目を閉じて壁に手を当てると、周囲の光を取り込んで能力を発動した。
(`-ω-´)「先に行け。この規模は時間がかかる」
('A`)「……ああ」
シャキンを残し、デミタスとドクオは前に進んだ。
('A` )「置いてっていいのか?」
(´・_ゝ・`)「いいんだ。あいつにも働いてもらわないとな」
(´・_ゝ・`)「こんなハリボテ迷路がカンパニーに通じると思うなよ、荒巻」
敵意を滲ませ、デミタスは小さく呟く。
(`・ω・´)「終わったぞー!」
まもなく、背後からシャキンの声が聞こえてきた。
その声に応じるように、ふっと一瞬、廊下の全ての照明が光を失った。
.
- 630 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:35:42 ID:bLgF02Ts0
(´・_ゝ・`)「――ここだ」
(;'A`)「おっ……」
そして光が戻ると、ドクオの目の前には巨大な扉が鎮座していた。
今までの純白極まりない彩色に反して、その扉はまったくの漆黒。
全貌は見上げるほど高く、扉の形にポッカリ空間が抜け落ちているような錯覚さえしてしまう。
そう錯覚するほど、扉は今までの純白の空間に対して矛盾していた。
(´・_ゝ・`)「さて、ここで最後の話し合いだ」
デミタスがドクオの前に回り込み、扉との間に立ち塞がる。
(´・_ゝ・`)「素直クールはこの先だ。会っていい。俺が許可する」
(´・_ゝ・`)「しかし俺が決めたいのはその先のことだ。
俺達の仲間になるか、これからも敵対し続けるか」
.
- 631 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:39:15 ID:bLgF02Ts0
('A`)「……」
(´・_ゝ・`)「……」
(´‐_ゝ‐`)「……いや、さすがにくどかったな。悪い」
デミタスは、諦めたように両手をあげた。
('A`)「……」
('A`)「……仲間になってもいい」
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「……ここまで来て改心って、中々ねぇぞ、お前」
あげた両手をおろし、デミタスは無表情ながら驚いた。
彼は咄嗟に次の言葉を考える。このパターンは、考えうる中でも一番ありえないものだった。
.
- 632 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:40:30 ID:bLgF02Ts0
('A`)「銃も返す」
ドクオはシャキンに渡された拳銃を差し出した。
('A`)「とりあえず今と、今後少しの間だけだ。お前の部下になるのは」
('A`)「時が来れば土下座なり何なりしてもらう。
俺じゃなくて、あの二人に」
(´・_ゝ・`)「……今はその言葉だけで十分だ」
(´・_ゝ・`)「カンパニーへようこそ。感謝する」
デミタスは手を差し出したが、その手で銃は受け取らず、ドクオに握手を求めた。
('A`)「……終わったらエクストに会わせろ。あいつは殴らなきゃ気が済まねぇ」
(´・_ゝ・`)「殴るのは勘弁してやれ。一応、仲間だ」
ドクオは、汚物を触るようにデミタスの手を軽く握った。
(´・_ゝ・`)(なんかあられもない侮辱を受けた気がする……)
.
- 633 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:41:15 ID:bLgF02Ts0
(`・ω・´)「じゃあその銃は餞別として送っておく」
追いついてきたシャキンがドクオの肩を叩いて言う。
(`・ω・´)「エクストもきっと喜ぶ。お互い、しばらく喋りにくいだろうがな」
('A`)「……居るんだよな」
誰とはなしに言い、ドクオは扉を見上げた。
その内心を気遣ったのか、デミタスは扉の脇にどいた。
(´・_ゝ・`)「……開けてやれ、シャキン」
(`・ω・´)「ああ」
シャキンがもう一度能力を発動して扉に触れた。
完全な黒だった扉が、周囲と同じような白色に変化していく。
.
- 634 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:42:04 ID:bLgF02Ts0
(´・_ゝ・`)「この先にはまた通路があって、更にその先には『漆黒』って言う特殊な部屋がある。
能力者の命とも言える『光』を完全に遮断し、特殊な素材で吸収している。
素直クールが居る――もう言葉を濁さず言うが、彼女が隔離されてるのはそこだ」
('A`)「……」
ドクオは扉の取っ手に手をかけ、手前に引いた。
意外にも、扉は大した力も使わずにすんなりと開けることができた。
開けた先には縦長の通路。
奥に行くほど段々と暗くなっている。突き当たりは暗くて見えない。
(´・_ゝ・`)「入ってすぐ右の壁にコンソールがある。電気点けてくれ」
('A`)「分かった」
通路に入り、ドクオはすぐに右を向いた。壁に長方形のコンソールを発見する。
ドクオはコンソールの前に行き、それを操作した。
(;`・ω・´)「そんな事までできるのか」
( 'A`)「詳しい人に教えてもらった」
(;`・ω・´)「凄いな」
設定を終えると、“漆黒”の人工的な暗闇が徐々に引いていった。
さっきは見えなかった通路の突き当りにはまたしても扉があった。木製の扉だった。
,_
('A`)「……なんで木製? ミスマッチすぎるだろ」
(´・_ゝ・`)「知らん」
.
- 635 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:47:05 ID:bLgF02Ts0
(`・ω・´)「……デミタス」
シャキンは頷きながらデミタスに視線を送った。
その意味を悟ったデミタスは、ポンとドクオの背中を叩いた。
(´・_ゝ・`)「行けよ。感動の再会ってヤツだぜ。堪能しろ」
('A`)「……」
(;'A`)「……ッ!」
ドクオは弾けるように走り出した。
(;'A`)(クー……!)
最後の扉を開け、ドクオはその中に駆け込んだ。
.
- 636 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 15:59:22 ID:bLgF02Ts0
――そこは、無数の照明によって真っ白に照らし出された巨大な空間だった。
空間の中央に人影が見える。
ドクオは床を蹴り、渾身の力で叫んだ。
(;'A`)「クー!」
(;'A`)(変わってない! あの頃と同じ……!)
後ろ姿だけで確信できた。あそこに居るのは素直クールだ。
足に一層力を入れ、彼女との距離をどんどん縮めていく。
.
- 637 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 16:00:56 ID:bLgF02Ts0
(;'A`)「クー!!」
もう一度彼女の名前を絶叫する。
その時だった。
.
- 638 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 16:02:26 ID:bLgF02Ts0
目前にあった素直クールの姿形が、
/ 3 「――何を」
(;゚A゚)「……えっ」
/ ,' 3 「しておるのかね?」
荒巻スカルチノフの出現と同時に、
まるでジグソーパズルが壊れるかのように――
.
- 639 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 16:03:22 ID:bLgF02Ts0
細切れになって、崩壊した。
.
- 640 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 16:04:20 ID:bLgF02Ts0
(;゚A゚)「……」
/ ,' 3 「こんなところで、なぁ? 子供が迷い込むには度が過ぎるだろう」
(;゚A゚)「……あ……あああ……」
突如として現実感が霧散した。
現実を上手く捉えられなかった。
目に映るのは大量の血塗れの肉傀と、その隣に立つ一人の老人。
前に進んでいた足が少しずつ力を失っていく。
一瞬前まで生気に満ちていた自分の体が、破裂した風船のように一瞬で力を失っていた。
ただ、取り返しのつかない現実だけが目の前にあった。
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- 641 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 16:05:01 ID:bLgF02Ts0
(;゚A゚)「あぁ……」
声にならない叫びを上げ、ドクオは遂に膝をついてしまった。
ぐちゃぐちゃにかき乱れる思考を支えるように、頭を抱えて視線を落とす。
視線の先には、血に塗れた黒い髪の毛がある。
(;゚A゚)(…………)
(;゚A゚)(……あいつが、死んだ……)
到達したのは、その現実だった。
(;゚A゚)(……死んだ……?)
顔を上げ、床に散らばった赤い物に目をやる。
それによって得たのは、これが間違いない現実だという確たる絶望だった。
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- 642 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 16:06:31 ID:bLgF02Ts0
(;´・_ゝ・`)「おい、どうしッ――」
異変を察知して走ってきたデミタスが、荒巻とその傍らの肉傀をそれぞれ一瞥した。
そしてすぐドクオの隣にしゃがみ、彼の顔を覗き込んだ。
(;´・_ゝ・`)「おい、なんだ、どうした!? 何があった!?」
ドクオの肩を揺らしながら、自身も状況を把握するために思考を走らせる。
(;´・_ゝ・`)(荒巻が……素直クールをやったのか?)
(;´・_ゝ・`)(そんな筈ないだろ、だったら何の為にここに――)
/ ,' 3 「ここへの立ち入りは禁じていたはずだが? デミタス君」
(;´・_ゝ・`)「……申し訳ありません」
呼び掛けられ、デミタスは訝しげな表情になって立ち上がった。
茫然自失となったドクオは、かすかな嗚咽を漏らしながら小刻みに震えていた。
(;´・_ゝ・`)「……素直クールに会わせること。
それが、彼が我々の仲間になる条件だった」
/ ,' 3 「スカウト、という訳か」
/ ,' 3 「……私の帰りを少し待っていれば、彼に『これ』を見せずに済んだな」
/ ,' 3 「らしくない失敗だ。その少年に情けをかけたつもりか」
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- 643 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 16:07:36 ID:bLgF02Ts0
( A )「……」
/ ,' 3 「――――」
(;´・_ゝ・`)「――――!」
耳がやけに遠くなっていた。
周囲で言い合う大人達の声が、ドクオにはもう聞こえていなかった。
視界も朦朧として、心臓の鼓動も自覚できない。
また会えると思い、今までを生きてきた。
彼女を抱きしめ、柔らかい頬に触れ、またあの頃のような朗らかな日々を送れると思っていた。
そんなささやかな希望さえ、たった今目の前で潰えてしまった。
より大きな絶望に叩き潰され、生きる意味も目的もなくなってしまった。
ふと、エクストの顔が脳裏を過ぎった。
続けてフォックスや、マリントン、デルタ達――彼らは、ドクオの中に僅かに残された生きる糧達だ。
しかし、無限に広がる喪失感がドクオの中からあらゆる記憶と生きる糧を洗い流していく。
かつて何度も想像した死のイメージが次々とフラッシュバックし、ドクオの頭を埋め尽くす。
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- 644 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 16:08:16 ID:bLgF02Ts0
ドクオは、はっきりと思った。
( A )(死のう)
最後に彼女の顔を思い浮かべる。
そして、こんな男と少しでも一緒に生きてくれたことを、彼女に感謝した。
ドクオはゆっくりと拳銃をこめかみに当て、瞼を閉じた。
( A )(……好きだった……)
もはや躊躇いはなかった。
撃鉄を起こし、引き金に指をかける。
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- 645 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 16:08:56 ID:bLgF02Ts0
(;`・ω・´)「デミタス!!」
瞬間、シャキンが全速力でドクオのもとへと駆け出した。
だがどうしても間に合う距離ではなかった。
彼は、デミタスに向かって咆哮した。
(;`・ω・´)「ドクオを止めろォ!」
(;´・_ゝ・`)「なッ――」
( A )
ドクオは銃の引き金を引いた。
耳をつんざく乾いた銃声が、真っ白な空間に響き渡った。
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- 646 名前:名も無きAAのようです :2013/12/30(月) 16:09:36 ID:bLgF02Ts0
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第十話 「世界の終わり」
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