776 名前:名も無きAAのようです :2015/01/17(土) 00:13:49 ID:YvnZVZpg0

ζ(゚ー゚*ζ「どこで間違えたんだと思う?」

('A`)y-~~

不意に言った。
彼女が一糸纏わぬ姿でベットに横たわっているのは、先程まで所謂情事というものに励んでいたからで。
俺はベッドに腰掛けながら一服している所で。
ムードなんてあるわけなく世間話のトーンで振られたそれの意図に気付くには俺の頭は足りなかった。

('A`)y-~~「主語がないぞ」

ζ(゚ー゚*ζ「私とドクオの道よ」

道。
つまり道路だとかああいう実態のあるものでなく、人生として比喩される道だろう。

少しだけその言わんとしている所を考えて諦めた。煙草を灰皿に押し付けて彼女の横に寝そべる。
セミダブルのベッドとはいえ二人でいると狭く、必然肩が触れ合うことになる。
少しだけ汗ばんだ彼女の肌は確かに情事の名残があった。

('A`)「抽象的な話は嫌いだ」

ζ(゚ー゚*ζ「そうやって逃げるのね」

('A`)「言いたいことがあるならはっきり言え」

ζ(゚ー゚*ζ「なら聞くけど、私とドクオの関係ってなんて言うと思う?」

777 名前:名も無きAAのようです :2015/01/17(土) 00:14:34 ID:YvnZVZpg0

少し驚いた。
普段ならほんの少し俺が威圧しただけで彼女は口を噤むのに、今日は食らいついてきた。
つまり今日は真剣で、勝手に俺が眠るのは許さないということだ。こうなると彼女はしつこいから、俺は考えなくちゃならない。

しかし関係と言ったって、

('A`)「幼馴染だろう」

そう言うと彼女はこれでもかと言う程の深い溜息を吐いた。
非常に不可解だ。幼馴染に間違いはないはずなのに。
実家が隣同士で、同じ年に生まれて、小中高大とずっと一緒にいるのが幼馴染じゃなくてなんだと言うのだ。
しかも彼女が仕事をし始めて、俺が研究職に就いてからは一緒に暮らしている仲でもある。どう考えても幼馴染だ。

ζ(゚、゚*ζ「違うわ」

('A`)「何がだ。幼馴染だろう」

ζ(゚ー゚*ζ「確かに私とドクオは幼馴染よ。でも他にあるでしょう」

他に。念を押すように言って、見つめてくる薄茶の目には俺の間抜けな顔が映っている。
ああ人間の関係は色々な言葉で言い表せるからか。幼馴染では不満だったようだ。

他、他……

778 名前:名も無きAAのようです :2015/01/17(土) 00:15:25 ID:YvnZVZpg0

('A`)「……友達?」

ζ(゚ー゚*ζ「友達! ああそうドクオは友達とセックスするんだ」

('A`)「え、あ、いや」

ζ(゚ー゚*ζ「それともセックスフレンドって言いたいの?」

しまった。
完全に失敗した。心の機微に疎い俺でも流石に分かる。友達は間違っていたようだ。
セックスフレンド、と自分で言って整った眉を歪めた彼女は俺に背中を向けてシーツに包まってしまった。

……どうしようか。

このまま彼女をほっておくのは非常によくない。
付き合いが長い分どうなるかくらいはわかる。寝て怒りを忘れるどころか蓄積するタイプなのだ。
ならどう声をかけるか。それが重要だ。


さっきのは違うんだよ――どう違うっていうのよ


駄目だ答えが思いつかない。これは却下だ。


そういうつもりじゃなくって――ならどういうつもり


これも駄目。どういうつもりったって関係が幼馴染以外にもあるって言うから俺は答えたまでで、
友達という答えに彼女が納得しなかったのだ。友達も間違いじゃないはずなのに。

そもそも友達の何が気に入らないんだ。
ただでさえ友人と呼べる相手は片手で足りる俺の一番の友達なのに。
何も言わなくても察してくれる、わかってくれる彼女はそれの何が気に入らないのだろう。親友の方がよかったのか?

「……この前ね、」

779 名前:名も無きAAのようです :2015/01/17(土) 00:16:13 ID:YvnZVZpg0

思考に没頭していたら唐突に彼女がか細い声を出した。
彼女の方に視線を向けても見えるのはこんもりとした白いシーツの山と隙間から零れ落ちた癖のある亜麻色の髪だけだが、
誰かと話す時は相手に視線を向けるのが俺のポリシーだ。黙って次の言葉を待つ。

「……会社の上司に、勧められたの」

('A`)「何を?」

「…………、お見合い、」

そう言ったきり再び彼女は沈黙した。
おみあい。何度か反芻して、やっと理解できた。お見合いか。
男女が結婚相手を探すときに取る手段の一つのあれか。

('A`)「受けるのか」

考える前に言葉が出た。それに自分で驚いた。
しかも咎めるような響きを含んでいた。あまりに驚いて心の中で何言ってんだと自分に突っ込みを入れたほどだ。
俺に彼女のお見合いを止める権利があるのか。

「……どうしてドクオに責められなきゃなんないの……?」

780 名前:名も無きAAのようです :2015/01/17(土) 00:17:02 ID:YvnZVZpg0

どうしてって、それは。
幼馴染に止める権利なんてあるわけがない。むしろ、いい相手だといいなと送り出すべきだろう。
友達だってそうだ。セックスフレンドなんて言わずもがな、じゃあさよならで終わる関係だ。

でも俺は止めたいと思ってしまっていて、
でも俺には彼女のお見合いを止める権利なんてなくて、
それでも彼女が他の男の元に行くなんて嫌で、俺の元から離れるなんて考えたくもなくて、


そうか


('A`)「俺はデレが好きなのか」

シーツの山がびくりと揺れた。
こちらの様子を窺うように、それでも期待の輝きを宿した瞳が俺を映した。
さっきよりも随分間抜け度の増した俺の顔に、自分で笑いがこみ上げてきた。

ζ(゚ー゚*ζ「……今なんて言った?」

('A`)「俺はデレが好きなんだ、なんで気づかなかったんだ、」

781 名前:名も無きAAのようです :2015/01/17(土) 00:17:53 ID:YvnZVZpg0

言葉が続けられなかったのはデレに抱き着かれたからで、女性らしい柔らかい身体がこれでもかと押し付けられる。
それをしっかり抱きしめながら、やっと見つけた解を彼女の耳元で口にし続ける。

('A`)「好き、好きだ、好きなんだ。俺はデレが好きなんだ、ずっと昔から、好きだったんだ」

ζ(;ー;*ζ「バカバカバカバカバカ! ほんとドクオって馬鹿なんだから!」

好きだと口にする度、心臓の奥から熱が零れだすようだ。
どんどん増幅していく。好きだ。好きなんだ、デレのことが好きでたまらないんだ。
肩が濡れた感触がする。デレの声が揺れて、所々掠れている。泣いているらしい。

('A`)「なぁ、デレは俺のこと好きか?」

ζ(;ー;*ζ「わかんないの? ほんっと、ドクオってば、最低よぉ」

('A`)「言われないとわからない。知ってるだろ?」

ζ(;ー;*ζ「知ってるわよ、嫌ってほど! ばか、大好きよ、好きに決まってる!」

('A`)「そうか、嬉しい。俺も好きだ。デレ、俺に毎朝味噌汁を作ってほしい」

ζ(;ー;*ζ「……、ば、ばか!!! 意味わかってんでしょうね!?」

('A`)「わかってる。デレ、これからも俺と一緒にいてほしい。
   デレのいない生活は考えられない。一緒の墓に入ろう」

ζ(;ー;*ζ「ほんっと、ムードもなにもない、ばかよ、おおばかよ、ドクオなんて、」

('A`)「俺と結婚してくれ」

ζ(;ー;*ζ「何年待たせれば気が済むのよ! 私以外じゃドクオの面倒みきれないんだから、」

驚いた。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔なのに、物凄く綺麗で愛しくてたまらない。
耳まで真っ赤になってるデレはこんなに可愛かったのか。いやこんな顔初めて見たのか。

ついキスしてしまった。
いやこんなに可愛いだなんて思ってなかったんだ。勝手に身体が動いたんだ。
プロポーズの返事の途中だったのに。そうか俺プロポーズしたのか。結婚申し込みの真っ最中か。

思考が追いついていない。ふわふわして、ああでもいいか。
デレは俺にしがみついたまま止まることを知らない涙を流し続けては馬鹿、だの好き、だの言って頷いているし、
つまりはそれが返事ということでいいんだろう。

ごちゃごちゃした思考はいらない。
今はただ、俺の幸せの形をしたデレという女性を抱きしめるだけで十分だ。


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