907 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/07(土) 00:53:05 ID:zkSXS8IA0
■39      - 変えられるもの -



( ´_ゝ`)はかつて信仰教団としての責務は果たしつつ、
しかし ミセ*゚ー゚)リやζ(゚ー゚*ζ、
その他の信者による行き過ぎた勧誘を、それとなく止めるよう努めていた。


【ふたごじま】話中に記述された用語を紐解くとこうなる。


破折屈伏(はしゃくくっぷく)とは、いわゆる折伏を指す。
人をいったん議論などによって破り、自己の誤りを悟らせること。

摂受(しょうじゅ)は、
心を寛大にして相手やその間違いを即座に否定せず反発せず受け入れ、
穏やかに説得することをいう。


ミセリとデレは前者ばかりに気をとられていた。
兄者によって日頃から後者の心を説かれてはいたものの、
結局最後まで改善することはなかった。

とどのつまり、兄者は組織には馴染めても島の信仰に染まっていなかった。
そんな彼だからこそ、いの一番に価値観を変化させることができたのだろう。

908 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/07(土) 00:55:06 ID:zkSXS8IA0
ふたごじまの信仰は以下の特徴がある。


・御神体(ビコーズ)を奉っていた。
・神、および天使や神の使いの存在を肯定していた。
・信者はみんな灰黒色の木札を持っていた。


…典型的な偶像崇拝。
崇めるべきは神であり、心のない依り代を用意してまで
"見えないものを、目に見える" まで追い求める。

突き詰めてそれは
"神を信じる" のではなく、
"神を信じている自分を盲信しているだけ" だと弟者は思った。
だから弟者は耐えきれず、追放に至る。


兄者は違う。
"神を信じる" ということは、
"同じものを信じる仲間も信じられるはず" なのだと、
信仰の先にある対人感情を求めていた。

909 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/07(土) 00:56:05 ID:zkSXS8IA0
天かける儀式から数年…。
大空洞の兄者の元に、かつての信者として以後毎日を過ごす沢山の迷い人が訪れていた。


『あれから夜も眠れません…。
陽が昇れば思えます、新しい朝が来た、と』

『…夜の帳がおりるたびに気持ちが塞ぐんです。
もう二度とあの日には戻れないのだ、と』

『自分には何もないことを思い知ったよ。
見続けていたのは幻で、身に付いたのは身体の贅肉ばかりじゃて…』

『こんなことなら、ああしておけば良かった…こうしていたなら……
そんな思いばかりが募るのよ、ねえ』


異口同音に語られる不安。
ロマネスクですら、時に口をついて溢すことがあった。


( ФωФ)『…我々の信仰とは、一体なんだったのだろうか』

( ´_ゝ`)『皆も、きっとおなじ気持ちなのでしょうね』


そこで彼はまず話を訊き、肯定し、相手の言葉を促す。
――摂受。

そうすることではじめて、人はこちらの言葉を求める時が来る。
彼は言葉を結ぶ。
――折伏。


( ´_ゝ`)『……しかし輝く過去も、薄暗い未来も、すべては貴方の心が作り出した執着でしかない。
貴方を否定しているのは、他ならぬ貴方自身です。
誰一人として貴方を否定していない』

( ФωФ)『…』

( ´_ゝ`)『好きだった頃の貴方はもう居ないことを認めましょう。
そうすれば、きっと誰かが助けてくれる。
…たとえばそう、昨日はじめて出逢った人が縁を結ぶこともあります』

910 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/07(土) 00:57:21 ID:zkSXS8IA0
いつか見たやり取りを、ここにもう一度記述しておこう。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ξ゚听)ξ「…儀式、結局はどう思ったの?」

( ´_ゝ`)
つ□~ 「…変わらんさ。 変われないよ」


無反応ではないが、やはり気落ちしているせいですべてを諦めたように彼は呟く。


( ^ω^)「神はまだ、兄者の中にいるかお?」

( ´_ゝ`)
つ□~ 「……どうなんだろうな」

( ^ω^)「……」

( ´_ゝ`)「…でももしかしたら、俺はもう町に居ても仕方ないかもしれないな」


そう言って彼は顔を伏せ、膝を折ってしゃがみこみ、祈るように少しだけ涙を流す。

それは海へ向けて…

かつて自分が追放した、もう会うことのできない弟へ向けて…


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ここで兄者が流した涙は、失われた島の信仰に対するものではない。
人の心と向き合わなかった島民と己の末路に涙したのだ。

きちんと向き合えていたなら、
弱った彼らは互いを慰められるはずなのだから。

911 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/07(土) 00:58:22 ID:zkSXS8IA0
そしてもうひとつ。
兄者の葬儀でロマネスクはこう語った。



( ФωФ) 『肉体は朽ちても、魂がいく場所は我らの記憶の中なのだ』

( うωФ) 『彼はそう、我輩に説いてくれた… それで…良いのだろう?』



後年の兄者の生活は、時に挫けることもあれど、きっと充実していたのではないかと思う。

人は人と居ることで向き合う準備を整える。
人は人と触れ合うことで向き合える。


ふたごじまから三日月島へと名を変えたこと…。
それを物語る一端に、兄者を筆頭とする
"変われた者" たちが確かに居た。


世に蔓延る信仰を否定こそしないが、ないがしろにしてはいけないものも必ずあるはずだ。

遺されるものを考えて祈るべし。
本質として何が大切かを考えるきっかけになるだろう。


――願わくば、
死の間際に空っぽな記憶だけが灯び甦らないことを切に願う。


変われるものは救われる。



<了>


戻る




inserted by FC2 system