938 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/13(金) 09:44:55 ID:wsl8WmY60
■33      - コンプレックスの塊 -



領地世間ではバルケンの名を継ぐ形となった(-@∀@)。


彼自身は父バルケンを恨むこともなく、
バルケンもまたアサピーを邪険に扱うことなく、幼少期こそ普遍的な家族として過ごした。


だが一般家庭とは異なり、
バルケンは公人としての勤めに日々忙殺されていた。
アサピーが成長し、手がかからなくなるにつれて家族の時間も失われ、
二十歳を間近に控えたある日、バルケン夫妻は決別した。


( ,'3 ) 『…オヌシはどうする、無一文の女の元に行くか?
それともここでワシの仕事を覚えてみんか』

(-@∀@)『ついていきましょう。
そうまでして公人…いえ、女王に与する貴方の仕事にも興味がわいていたので』


アサピーは幼い頃から何事もこなす神童といえた。
体も頭もよく動く青年だった。

――その一方、人の情というものを心から理解していたかどうかは疑わしい。
バルケンや母から具体的にそれを教わるような教育を受けたことはなかった。

それを感じ取れるような生活を育んだことがなかった…。

939 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/13(金) 09:45:51 ID:wsl8WmY60
彼が実の父であるバルケンに手をかけたのは、当時の情勢に基づいた客観的判断でしかない。

領民の心が離れても。
大陸戦争が終わっても。
バルケンは己に課せられた業務と欲望に向き合い、忠実に生きていた。



(-@∀@)
  _つ◇ 『シナーさんにもさきほどお話し済みですが、これはあの御老公が隠していた過去の商売に関わる記録…』

(-@∀@)
  _つ◇ 『つまりは帳簿ってやつです』



アサピーがそれを入手したのは他者への言い訳のため。
親殺しの責任から目をそらし、
あくまで世間が求めた結果であると言わんばかりに転嫁した。



( ↑∀"↑) 『だ、そうだよニダー。
私も彼には何一つ期待などしていなかった。
サラリー目当ての男なぞいずれこうなると思っていた』



彼からシナーへの報酬は多額だった……、一介の戦士に支払うにしては多すぎるほどに。
シナーは常々、複雑な思いを抱いたことだろう。

それほど高く評価されているならそれでよし……。
だが――対面してこそ感じる、奥底に情のないアサピーの瞳をシナーが見逃すことはない。

940 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/11/13(金) 09:46:35 ID:wsl8WmY60
公人として人心を掌握できた彼は、
しかし個人間における人情というものを理解することができなかった。

表面的には合理的かつ才人。
…その実、知れば知るほど
節々で彼のアンバランスな性格は滲み出てしまう。

アサピーはある意味、[かがみ]の向こう側で形成された人類のなれの果て…
終末年の人々をわずかながら彷彿とさせるような人格であったといえる。


それでも彼がAA表示されていたのは情とは全く別物の――
"生きたい渇望" を色濃く抱いていたからに他ならない。


彼の欲望の一文。
それを最後に記そう。



「気分がいいんだ、あれを食べてから……
本気かって? 嘘をつく理由があるか?
自分を偽って生きることにもう疲れたんだ。
人生最後のひとときくらい良いだろう!
私利を!
私欲を!!
我が儘を叶える資格も私には無いのか!」



<了>


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