877 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/10/31(土) 20:56:57 ID:tTdXfKsE0






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878 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/10/31(土) 20:57:44 ID:tTdXfKsE0
■24    - 越えられない壁 -



( ^ν^)「まだかよ、とーちゃん」


ウォール高原から南に程遠くなく。
イプシロン山脈と呼ばれる細長い山地がある。

尾根は大陸文化を分断するほどに高い。
さらに大陸中央を縦に割っている河と相まって、
入り組んだ複雑な地形を構築している。


( ^ω^)「もう少しで着くはずだと思うお」

( ^ν^)「なあ…なんでいちいちあんな余計なことしたんだ?」

(;^ω^)「余計って… 荷運びしてるだけだお?」


荷物には依頼主の心が一緒に包まれているという言葉を思い出す。


( ^ν^)( 運ぶよりも気を遣ってたよな、明らかに )


…誰に渡すのか、何を渡すのか。
…どんな気持ちなのか、何を伝えたいのか。


今回ニューが同席して判ったのは、
ブーンは依頼主からそれを訊き出すのが得意だということだ。

879 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/10/31(土) 20:58:52 ID:tTdXfKsE0
当時まだ魔導力もなく、【破壊】の概念も持たぬブーン。

相手からしてみれば見ず知らずの人物に大切なものを預ける行為…。
猜疑はかけられて然るべきであろう。
だが父はそれを難なくクリアしてしまった。


( ^ω^)「待ち遠しくてウキウキしてるかもしれんお。
早く向かうお!」

( ^ν^)「……遅くなったのはとーちゃんのせいだろ」


息子であるニューの仕事も郵送屋だった。
だから、初対面の相手から信頼を得るのがどれだけ大変か…身に染みて理解している。

そして今回。
なんの変哲もない品物が運び手となるブーンの手によって、
文字通り手心を加えられていく一部始終をみた。


( ^ν^)「そのままのほうがいいと思うんだけどな」


――自分にはそこまで出来るだろうかと思わず考えてしまった。

父のように休みなく動くことが出来るわけではないが、
ニューもまたこの仕事を気に入っている。


喜びも、時に悲しみも運んでしまうとしても、決まって人々から礼を言われるのは悪くない。

…だからこそ。
ニューは品物を触らない。
これまではなにも訊かず、黙々と職務をこなすだけだった。

880 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/10/31(土) 20:59:43 ID:tTdXfKsE0
朝日を背負い、夕焼けを背負い、月夜を抱いては空の涙に目を覚ます。
…そんな一日を過ごしてようやく辿り着いた目的地。


地図にも載らない小さな町は谷風が強いものの、
比較的安定した気候を保っている。

稲穂と緑に囲まれて建ち並ぶ背の低い平屋は、
信者が山々に膝をついて崇めているかのようだった。


(;^ν^)「ねえ、マジでやるの…?」

「あたりまえだお!  (^ω^ )
ニューも早くこっちに来るお!!」

「……、チッ」  (( (;^ν^)


「"それ" を忘れちゃだめだお!」
潜めつつも大きなブーンの声が耳を打つ。
ニューは隠れて深い溜め息をついた。


やがて送り先となる一軒の扉の前に立ち、準備する。

大の大人がゴソゴソとなにやら企んでいる様子は誰にも見られなかった。
…でなければ、カブに火を灯した時点で放火犯とでも間違えられかねない。



《 コ   コ
   ン、  ン… 》 

室内へと響かせるノックの音。
…ニュー自身の胸にも似たような音が鳴り、それはどんどんと大きくなっていく。

聴こえていないはずなのに、
隣で父はクックッと笑っていた。



       やがて扉が開くと…………

881 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/10/31(土) 21:00:29 ID:tTdXfKsE0
「うわぁっ――?!」


目線は下。
何者よりも早く驚きをあげた小さな小さな子供。

だがその瞳はすぐに細まり、口許には微笑を浮かべた。


( ★ω^)「お届け物ですおー☆」
( メΘνΘ)「……どうも」


仮面の下から覗かせる二者二様の表情。

ブーンはまず持っていたカブのかがり火を手渡すと、
次いで背負っていた布袋からは
星々を描いたひとつの箱を子供に差し出す。


( ★ω^)「遠く離れた、君のお父さんから。
炎は魔除け。
箱のなかにはこわーい魔物と戦うための武器が入っているお」

「お父さんから?! やったー、おばあちゃん、みてー!
お父さんからーー!!」

( メΘνΘ)「…早く開けるんだ、さもないと、俺が君を食べてしまうぞ」


嫌々ながらニューも役割を果たす。
フルフェイスの被り物は傷痕を目立たせて、死者を連想させる。

彼は悪霊として、子供に退治されなくてはならない。
家のなかでは笑みを携えた老婆がこちらを柔らかく眺めていた。


「オバケなんて、オバケなんてあっちいけ!」


箱から出てきたのは――樫の木で造られた玩具の杖。
振り回すだけで効果を発揮する、魔法のステッキだ。

882 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/10/31(土) 21:02:50 ID:tTdXfKsE0
( ★ω゚)「あばばばばば!」

「キャッキャッ!」

「……」       (ΘνΘ メ)


秋の収穫と、
つつがなき幸福の訪れを祈願して、
この家族にもたらされる福音の儀式。


「あばばばばばば!!」 (( ( ★ω゚)

       「まてー!」

(メ ;ΘνΘ)「…真面目か」


死ぬこと叶わず、
地獄にも落ちることのできない悪霊のお伽噺を依頼主から訊いていたブーン。

それを偶像ではなく実在する存在として、自らを重ねていたのかは定かではない。


(メ ΘνΘ)

(メ ΘνΘ)「…まあいいや」


いくつになっても楽しそうな父親だと思った。
仕事も、家庭も、
真っ直ぐ向き合うその姿にニューは何を思うのだろう。


少なくともあんなおちゃらけた真似は出来そうもない。
…だがせめて、見知らぬ子供に優しく出来る程度の器量は見習いたいと彼は思う。


そのためにはもうしばらく、この父の背中を見ていることになりそうだ。




<了>


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