949 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:22:11 ID:rR00NBjg0






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950 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:23:30 ID:rR00NBjg0
■22       - 視線の先に -



(゚、゚トソン 「お湯加減はいかがでしょうか?」


水の都。
円形を縁取る、左右対称の宮殿内部には至るところに水の姿を見ることができる。

兵士の詰所と、憩いの庭園があるフロア1階。
浮遊する円盤形のエレベータで一つ上がれば、十字に区切られた空中回廊。
それを繰り返し、最上階には女王の私室や大浴場がある。


「悪くないよ、いつもありがとう」

(゚、゚トソン 「なによりです」


観音開きの扉の向こうから、クーの声が柔らかに届く。
侍女の一人、トソンは見えるはずのないお辞儀をすると
ゆったりとした動作でその場を後にした。


(゚、゚トソン 「女王様の召し物を選んできますね。
その間、ここをお願いします」

('、`*川 「はい」


緊急時に鳴らされるハンドベルを手渡されたペニサスが代わりに扉の前に立つ。
スタスタと軽やかに離れるトソンの背中を見送ると、
ソワソワして場に留まっていた。

951 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:24:16 ID:rR00NBjg0
('、`*川 ( あぁ…クー様 )


呼び出されるまで静かに待つのが役目。
背中合わせの空間にいるはずの女王を想い、ペニサスはトソンの遅い帰還をかすかに願う。


武力的緊急事態でもなければこのフロアに他の衛兵は誰も立ち入らない。
手に持つベルが鳴るか、宮殿に対する衝撃が走らなければそれが平穏の調となる。


「いまそこにいるのはペニサスか?」

('、`*;川 「――はっはい!」

「先の食事は誰が?」

('、`*;川 「本日のメニューは僭越ながら私が決めました。
近海で獲れた貝類が最近とても美味だと、都で耳にはさんだもので…」

「そうか」

('、`*;川  「お…お気に召しませんでしたか?!」

「いいや違うよ。
言う通りとても美味しくて今も舌に心地好く残っているものだから」

('、`*;川 「はい、コック長にも伝えさせていただきます」

「うん、いつもありがとう」

952 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:25:46 ID:rR00NBjg0
ペニサスの思考が止まり、空を巡る間…。
クーの私室ではトソンが
あれでもない、これでもない、と、湯上がりの着物をコーディネートしている。


(゚、゚トソン 「宮殿内の気温、室内の湿度を考慮すると……」

(゚、゚;トソン 「ああ…でもそうすると女王が昨夜召した外套と色が似すぎているし……」

(゚、゚トソン 「そう、昨日はどんな夢を見たと仰っていたかしら。
今夜もよりよい安眠についていただくために…」

(゚、゚トソン 「思い出しました、汽車…汽車ですわ。
どこかも分からない場所に行くつもりだったのだと」

、゚トソン )) 「そんな不安な思いを抱かせてはいけません。
森のなか、それとも海辺でゆったりと癒されるような一時を
せめて夢の中でも過ごしていただかねば……」


侍女たるもの、どんな些細なことも見逃してはならない。
総てが女王のためになるように考え抜く。
一般市民の生活からはかけ離れているとしても、
これがトソンの毎日の日課だった。


(゚、゚トソン 「決まりました、これにしましょう」


薄すぎず、厚すぎず。
わずか数時間後にはまた催しを変えるであろうもののために、
トソンがかけた時間は小一時間にのぼった。

953 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:26:58 ID:rR00NBjg0
一日を終えたクーが、二人に語りかける。


川 ゚ -゚) 「なにか変わりなかったか?」

(゚、゚トソン 「事故や事件はありませんでした。
('、`*川  民からの嘆願書もすべて目を通しましたが、これといって…」

川 ゚ -゚) 「わかった。
でも少しでもひっかかることがあれば、いつでもなんでも伝えてほしいんだ」


「もったいないお言葉です」
――侍女二人の声が重なると、クーは満足げに微笑み、手招きする。


(゚、゚トソン 「!」 ('、`*川


寝る前に必ず行われる儀式の合図だ。
トソンとペニサスが跪き、クーの前に顔を近付ける。
クーもまた、彼女たちの瞳をじっと覗きこんだ。


二人にはそれが何を意味するのか分からない…。

だがいつもこの儀式を行った後のクーはとても嬉しそうに眠りについた。
そのためならば、どんな不可解な行為であっても甘んじて受ける気概を彼女らはもっている。


川 ゚ -゚) 「おやすみ」

(゚、゚トソン 「よい夢を」

('、`*川 「明日もまたよい日を」


そして二人はれーすのヴェールを隔てたすぐ隣の部屋へと帰っていく。

女王の私室に隣接して過ごせるのも、彼女たち二人だけに赦されし特権といえた。
そして万が一、
――有り得ないだろうが――
女王に害成さんとする者が侵入することがあれば、盾となり刃となることが義務付けられた。


選ばれし侍女になるためには女王の許可が必要となる。
今のところトソンとペニサス以外、その役目を承ることが出来た者はいない。

954 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:27:51 ID:rR00NBjg0
「お願いします、私も女王様のためにここで働かせてください!!」


都の民からの志願者は後をたたない。
誰もが皆、素晴らしき女王のためにその身を捧げる覚悟をもって懇願に現れる。


(゚、゚トソン 「貴方は以前もいらっしゃいましたよね?」

('、`*川 「名前はたしか…」

「ガナーです、一昨日に仕事もやめてきました」

(゚、゚トソン 「なぜそこまで?
貴方は子供を指導する公職に就いていたかと記憶していますが」

「ひとえに女王様と国を尊敬しているからです!」

('、`*川 「我を通すために仕事を放り出す人を、女王がお認めになると思いますか?」

(゚、゚トソン 「貴方を慕う子供たちを見捨てるのですか?」

「…」


少しだけ怒気を孕ませるガナーが、手提げ鞄からいくつもの白封筒を差し出す。

…子供たちからの寄せ書きだった。
たどたどしい文字で綴られるそれはいずれもガナーという人物に対する、
無垢で不器用な礼と応援のメッセージに埋めつくされていた。


「背を向けて逃げるような生き方はしていないつもりです。
今よりももっと大きな平穏をお手伝いするために、覚悟をもって来ています」


この時のガナー眼差しは曇りなく見えた。
偽っているとは到底思えない。

前回はクーの不在により日を置くこととなったが、その間に二人は彼女の身辺調査を完了していた。
少なくとも、ガナーという人物は客観的評価からも誠実に値している。


(゚、゚トソン 「わかりました、これ以上はなにも申しません。
女王の謁見手続きに入ります…どうぞこちらへ」

「あ、ありがとうございます!」

955 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:28:39 ID:rR00NBjg0
ガナーが謁見の間に入ると、一段高い場所からクーが見下ろしていた。


川 ゚ -゚) 「ここで働きたいと」

('、`*川 「侍女として、希望されております」

「女王様、何卒…何卒、この都の礎として務めさせてはいただけませんか!」


興奮するガナーに手で制すトソンを、さらにそれをクーが制した。
クーは優雅に立ち上がり、女王の座席からゆっくりと降りる。
侍女で二人が辞儀を促すまでもなく跪いてしまう緊張感が辺りを包んだ。


川 ゚ -゚) 「…」

「…………っ」

川 ゚ -゚) 「顔を上げてくれ、そうかしこまらなくてもいいんだ」


おそるおそる顔を上げたガナーの瞳が、クーとぶつかる。


川 ゚ -゚)

「……」

川 ゚ -゚)

「……」

956 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:29:21 ID:rR00NBjg0
――そして、クーは黙って立ち上がる。
そのまま座席へと戻り、こう言った。


川 ゚ -゚) 「君には今まで通り働いてもらいたい」

「…!」


答えは、ノー。
侍女の資格なしと断された彼女はがっくりと項垂れ、かき消えそうな声で礼を陳べると
それきり俯いたまま宮殿を後にした。


(゚、゚トソン 「クー様、お目にかないませんでしたか」

川 ゚ -゚) 「……」


トソンの問い掛けには答えず、ただ悲しそうにクーは微笑んだ。

957 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:30:55 ID:rR00NBjg0
クーも、ガナーの人格を否定するつもりはない。
侍女から渡された調査結果も、実際にみた印象にもなんら問題はない。

…しかし瞳の奥にある光沢に陰を視た。
誰にもわからないだろう、それはクーにだけ感じられる違和感でしかない。


川 ゚ -゚) 「このあと少し出掛けても良いかな」

('、`*川 「お忍びですか?」

川 ゚ -゚) 「個人的懸案事項があってな、出来れば他の者たちにも黙っていてほしい」

(゚、゚トソン 「分かりました…都に何かあった際は?」

川 ゚ -゚) 「君たちが対処してくれ。
【ホワイトボア】の起動許可は出しておく」

川 ゚ -゚) 「それともし…私が一ヶ月以上戻らない時、どちらかは西の都の工房に来るように」


長くしなやかな指に一枚の地図が挟まれている。
トソンが恭しくそれを受け取ると、クーも自室へと戻っていった。


(゚、゚トソン 「……」 ('、`*川


 

958 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:31:53 ID:rR00NBjg0

クーが真っ直ぐに人の瞳を見つめるときは、光沢の真贋を判断しているときだった。


やましい思いを見破るものではない。
虚心坦懐に生きているかどうかを見抜くものでもない。


だが、陰が差した者にはいつか裏切りが訪れることをクーは学んだ。
記憶にないかつての悲劇も、
それを知っていれば違う現在がここにあったのではないだろうか?


川 ゚ -゚) 「……さて、四代目に逢ってくるか」


不死者の一人、クーがその過去を省みることは出来ないのだが。



(了)


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