965 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:41:25 ID:rR00NBjg0






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966 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:42:11 ID:rR00NBjg0
■21       - 賢者の忠誠 -



――ある時は、名もなき平地で。


爪'ー`) 「……遅すぎた、か」


至る場所でわずかにあがる灰煙。
戦争が終わってもそれは怨念のようにくすぶり続け、もう十数年は経つ。

人の気はなく…しかし鼻をつく腐臭が本来そこに在ったはずの痕跡を報せる。
そんな残魂の匂いに囲まれ、一人の青年が溜め息混じりに呟いた。


そげた頬に細い肩。
いつもより渇いた川風に泳がされる伸ばしっぱなしの髪が
その身に蓄えた疲労を空に伝える。

脱力した身体にぶら下がる両腕がこんなにも重いのだと、
彼はその日はじめて知ることができた。


柱から崩れ、廃墟と化した小屋という小屋。
中には屋根を貫いた煙突が備わっていたものもいくつか見当たるが、
半ばひび割れ、もしくは倒壊してしまっている。


青年――若き日のフォックスはトボトボと、
自分の記憶に比べて変わり果てた故郷の風景を噛み締めるように歩き始めた…。


爪'ー`) 「ふは…ははは…なんだ、これ」


幾つもの村と人の命を巻き込み終結した大陸戦争――。
十五年という時の移ろいは、大地を削り、川を枯らし、歴史に大きな爪痕を残している。

フォックスの足元に転がる鏃の燃えかすも、この村においてその一端を担った戦犯だろう。

967 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:42:58 ID:rR00NBjg0
彼が生まれてすぐに拡がった戦禍は、一般市民にすら戦う力を求められた。
さもなくば最低限の自衛すらままならないほどに激しい戦であったことを物語るように。

両親と共に疎開した先でフォックスは魔法を習い、扱うようになる。
そしてその才能たるや、凡人の域に収まるようなものではなかった。


…とはいえ彼が更にその腕を磨き、
軍兵にも劣らぬ力を得る頃には戦争は終結してしまうのだが。


「この村の者か」

爪'ー`) 「――!  …誰だ」


偲ぶフォックスの意識がひらける。
いつかの我が家…その壁の名残をなぞっていた指を慌てて離した。


川 ゚ -゚) 「誰?」

川 - ) 「……そうだな、なんと言えばいいのか」

爪'ー`) 「?」

川 ゚ -゚) 「…失礼、私はクーという」


今は大陸を旅している者だ……そう言葉を繋ぐと、
彼女は青年の警戒心を解くつもりで無防備に横へと並んだ。
その横顔は彫刻のように整い、殺風景なこの場所に似つかわしくない美しさを醸し出す。

火の粉が舞い上がるまでのほんの数秒…フォックスはクーに見惚れていた。


川 ゚ -゚) 「ひどい有り様だな」

           ――火の粉?

爪'ー`) 「…有り様だった、というべきかな」


《ゴウッ》――。
      クーの口が動くよりも早く。
炎のオーロラが大地に踊り始め、辺りを一斉に赤く染めた。

盛え波打つ赤い帯は二人を避けて、村の痕跡を消し去るように拡がっていく。

968 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:43:40 ID:rR00NBjg0
クーは唇を閉じ、黙ってその光景を目に焼き付けた。
村を焼き付くす炎がいよいよ夕陽を押し退け、空模様を入れ替えていく。


爪'ー`)       バチ バチ
川 ゚ -゚)        バチ  …


火は人為的な魔導力によってもたらされている。
寂しげで、しかし満足げな横顔から…クーはこれがフォックスの仕業であることを確信した。


川 ゚ -゚) 「いいのか?」

爪'ー`) 「こうも半端に遺されると余計に心苦しいんだ」


彼の育ったこの場所は、人口にして100人に充たない小さな村だった。
再建するにも踏み荒らされた水田は干からび、抉れ、使い物にならない。

何年…あるいは何十年とかけて土壌を甦らせることは不可能ではないかもしれない。


だが戦争中ずっと疎開していたフォックスには農耕の経験がなく、
そのための何かを学んだこともない。
……彼が手にいれたのは、村を助けるための力だった。


爪'ー`) 「邪魔な物をスッキリさせただけだ…リセットだよ。
空いている椅子であれば、またいつか座る人達がいるかもしれないだろう?」

川 ゚ -゚) 「…」

爪'ー`) 「独りになった私が、もうこの村を縛る謂れはない。
大切な思い出くらい自分の中で留めておけばいいさ」


思い出は――記憶。
その衝撃が強ければ強いほど、人に深く荒々しく刻まれる聖痕。


しかしそれを留めることが出来ない者は、どうすればいいのだろう…?
クーには、フォックスという名のまだ若い人生が羨ましく思えた。

 

969 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:44:28 ID:rR00NBjg0

――ある時は、砂漠の民の元で。


瓜#゚∀゚) 「なぜ我々が退くのか!!
失せゆく大地を自然の流れというならば、戻るのを待つもまた自然づ!」


太陽の下、甲高い怒声が轟き渡る。

草の芽吹きつつある土を踏み締める仲間。
それを目の前にして、地団駄を踏む娘の靴底からはばらばらと黄土が舞う。


大地の色を境目に、ひとつの民が崩壊を告げようとしている。


瓜#゚∀゚) 「貴方たちのいう "砂漠の民" とはなんづ?!
砂礫と生きる強き者ではないのか?
それともただ砂鉄と砂金を追い求む、我欲強き者だったのか?!」

瓜#゚∀゚) 「生き死にならばまず私たちが自ら閃き、
導きを経て継承してゆくべきではないのかづ!
そうやって民は何代も過ごしてきたではないか!」


蹴りあげた砂が、日差しに影を作ったのも一瞬。
荒く吐かれた言葉と息が虚しく木霊した。
それでも娘の癇癪は止む気配がない。

…離れていく仲間たちの行歩も、止まない。


瓜#゚∀゚) 「…」

970 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:45:18 ID:rR00NBjg0
仲間の背中が草木に隠れ、視界からいなくってもしばらく。
残された娘、づーは立ちすくみ…その場を動こうとはしない。

…やがてはまっすぐ射していた足先の影も左手に寄り添った頃。


川 ゚ -゚) 「すまない、道を尋ねたいのだが」

Σ 瓜;゚∀゚) 「!」


俯いていた顔をあげるとそこには女がたっていた。
仲間たちのいた場所で、入れ替わるように影も向き合う。


瓜゚∀゚) 「道を…?」


づーは後ろを見やる。

砂漠で構築された地平線。
間近に寄ればでこぼこと砂丘が視界を遮り、
隆起したキメの細かい砂山が行く手を阻む。

まさかこちら側では無いだろう。
そう問うが、女…クーは首を振ると案内を願った。
「伝統を積み重ねて生きる大地をこの目で見たい」のだと。


瓜゚∀゚) 「奇特な人だづ…」


つい先ほど、現住の民が手放したものこそ "伝統" であるというのに。

971 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:46:03 ID:rR00NBjg0
女の二人旅…デザートコースと呼ばれる天然路を辿る。
初めて逢った者同士なのに、彼女たちは不思議とウマがあった。


瓜゚∀゚) 「ここでは砂漠と高原が、ぐるぐると回るように入れ替わっていくんだづ」


砂漠化と緑地化がまぜこぜに進行する地域。

この砂漠では。
陽の出ているうちはその場にいるだけで灼熱が身を焦がす。
少なからずこの環境に慣れているはずのづーも、うっすらと額に汗粒を作った。

その横で、クーは涼しい顔を崩さない。


川 ゚ -゚) 「中心には何があるんだ?」

瓜゚∀゚) 「オアシスだづ。
それも他とは比較にならないほど、大きくて清んでいるづ」

川 ゚ -゚) 「豊富な水……それはいい」

瓜゚∀゚) 「そこで皆は身体を休めて次の目的地に向かうづ」

川 ゚ -゚) ( …いいや、少しの間でも人が住む場所は選べないな )


なにかを思案するクーに、づーは気付かない。


一方では砂漠が拡大し、しかしその一方で緑が蘇る輪廻の地。
百年という時間をかけて変わるその景色を、
一人の人間が同じ場所で観察できることは稀だった。


瓜゚∀゚) 「本来、親子で継がれるべき生きる道……なのに

瓜 ∀ )                        ――私たちは…」


この日、づーの仲間は永住の地を移すべく旅立った。

中には最低限の知識だけ与えられた後、
単独でこの地を出るよう告げられた幼な子もいる。

972 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:49:40 ID:rR00NBjg0
  瓜゚∀゚)
川 ゚ -゚)   「……」


二人は沈黙を背負っていた。
歩を進める足を砂にとられることも厭わず、しかし荒くなる呼吸。

疲労によるものだけではないだろう。
「いるべき人の消えた土地は、その姿を変えてしまうのではないか?」
そんな言葉がクーの耳に届いた。


川 ゚ -゚) 「人の消えた土地?」

瓜゚∀゚) 「誰しも皆、生まれた場所を選べないからこそ、故郷への想いも特別だと考えていたづ」

瓜゚∀゚) 「自然の成り行きを否定はしないづ。
もしかすると土地が人を拒絶することもある…、この砂漠のように」

川 ゚ -゚) 「ああ」

瓜#゚∀゚) 「それでも私たちは先祖代々この場所で生きてきた…。
苦しくても生きる力を手にいれてきたつもりづ……!
領地を隔てて高原で過ごす遊牧の民も、きっとその気持ちは同じだづ…!!」


次第にヒートアップするづーの口調。
もう戻らないであろう、仲間への憤りがつぎつぎ噴出する。


瓜#゚∀゚) 「生き辛い生活ならば、何度でも自ら変えてみせたら良いづ!」

瓜#゚∀゚)「生き難い環境ならば、一時だけでも離れたらいいだけだづ!!」

川 ゚ -゚)

瓜#;∀;)  「……決して!
束の間の休息と、綿々たる放棄は取り違えてはならんづ…!!」

瓜#;∀;) 「大地が人を突き放しているのではない!
住まう人が…! 民が……!!
他でもない私たちが、この砂漠を見棄ててしまったんだづ!!」


太陽光に遮られない慟哭は延々と空に舞い、クーはただそれを見つめていた。
故郷を失う…ましてやそこに生まれた子が自ら選択してまで、
生まれた場所…いわば親を。

失った者は次に何を成すべきか、づーの背中をさすりながらクーは考えていた。
 

973 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:50:24 ID:rR00NBjg0

――ある時は海上で。


爪゚A゚) 「命だけは助けよう…積み荷は戴くがぬ」


艶かしい声で言い放つ妙齢の男、ぬーが腕を高く振る。

それを合図とし、背後に控えていた乗組員がわらわらと散っていく。
続けてドカドカと乱暴な足音が甲板を乱れ叩き、異を唱える人の声をかき消した。

酒樽、木箱、銅筒…。
次々と運び込まれるその中身は本来、
とある港町から出港した船に積まれていたはずの品々。


爪゚A゚) 「ほかにも鋭利な物、鈍器、武器になりそうな物が見付かればすべて奪うんだぬ」


甲板にずらりと並ぶ、屈強な男の群れが例外なく後ろ手を縛られている。
――略奪を生業としている海賊たち。
悔しさを滲ませつつも睨む彼らの双眸が真に怯むのは、
歴然とした力の差を見せつけられた時しかない。


ぬーが外套をバサリと翻し、風になびくその奥で巨大なマストが後光を射した。
縦帆を3枚、横帆を1枚備える彼の船が、
一回り小さい海賊船たちの動きを封じたのはものの数分前のことだ。


爪゚A゚) 「おっと、この船もそのまま返すわけにはいかんぬ。
ボートならくれてやるからそれで陸まで戻るがよい」

爪゚A゚) 「……ぬ」

974 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:51:37 ID:rR00NBjg0

川 ゚ -゚)


縛られ悪態をつく海賊たち…その最後尾。
場に似つかわしくない美しい娘を見つけると、ぬーは思わず近付いた。


爪゚A゚) 「…君は一人だけ趣が違うぬ?」


もっと間近でよく見たい…突き詰めればそんな下世話な審美眼。
無意識の瞳が捉えた一種の神々しさがそうさせたことを彼が自覚するのはまだ後だ。


川 ゚ -゚) 「だろうな、私はこいつらとは関係ない」

「海に浮かんでたところを助けてやっただけの行きずりだよ」


舌を打ちながら頭目らしき海賊が言った。
隠し持つものなどなさそうな女の薄手の格好から判断し、
ぬーは縄をほどくよう部下に指示をし解放させた。


不慮の事故などにより海に落ちて溺れる者は少なくない。
だが水溜まりや河などと違い、
長い間浸かると人の身体が溶けてしまうという話をきいたことがある。


爪゚A゚) 「漂流者か、怪我はないかぬ」


手首をさすりながら頷き、クーは礼と自身の名を口にした。


川 ゚ -゚) 「やはり海は広すぎた」

爪゚A゚) 「??」


その真意が判る者は誰もここにいない。
彼女がなぜ大海原に漂っていたのか、後のぬーにも話されることはなかった。

975 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:54:24 ID:rR00NBjg0
推進力を得て動き出したぬーの船が海路を行く。
浅瀬に乗り上げぬよう…、荷を積みすぎぬよう…。

目的地を直接口にする者は誰もいない。
それでも皆、ひとつの目的をもって統率されていた。


爪゚A゚) 「陸地に戻るのはあと一度、稼ぎを得てからだぬ」

川 ゚ -゚) 「稼ぎ?」

爪゚A゚) 「なに、一般船は襲わぬよ、対象はあくまで海賊のみだぬ」


商船などを襲い金品を強奪するのが海賊とするならば、
更にそれを襲い収穫を奪い返すのもまた等しく海賊である。

もとはといえば大陸戦争中、避難する人々を襲う荒くれ者が多い事例を嘆き、
自ら海の世界へ飛び込んだという。

「虎穴に入らずんば虎児を得ず…だぬ」
そんなぬーの言葉を信じるには時間も事例が足りないが、適当な相槌をクーは返すだけだった。

そして見渡す。
運航中はもっとのんびりした装いを想像していたが、船内は忙しなく指示が飛び交っている。


爪゚A゚) 「そろそろ君は部屋に入っておくんだぬ」

川 ゚ -゚) 「出来ればここで見学させてもらえると嬉しいのだが…」

爪゚A゚)σ" クイッ クイッ


指し示す先の水平線。
大陸から距離をおけばおくほどに綺麗な蒼が広がる。
世界は広い。
キュイキュイと鳴く鳥も、ピチピチと跳ねる魚も――いない。


爪゚A゚) 「もうすぐ嵐が来るんだぬ」


ぬーは更に指示を飛ばし、自らも休むことなく船のなかを走り回っていた。
数年に一度あるかどうかの大嵐に船が巻き込まれるのは、この数十分後のこと。

世界は広く、まだまだ人智に至らぬことばかり。
人はそれにあやかり、そして従い生きる寄生者に過ぎない。
周囲の喧騒とは裏腹に、クーは自身の両手をじっと見つめていた。
 

976 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:55:05 ID:rR00NBjg0

――ある時は、名もなき岬で。


爪゚ー゚) 「僕はこうして風を浴びることに幸せを感じるんだじ」


きっかけは離れの町で耳にした噂話だった。
もう何年も…夜明けになると岬に立ち続けては、日が暮れる頃に姿を消す若き変人がいると。


川 ゚ -゚) 「君はいつからこうしているんだ」

爪゚ー゚) 「うーん……」


若者は顎を上げてこめかみを指差す。
思案する――素振りを見せてそのまま数分が経過した。


川 ゚ -゚) 「…いや、いい。 無粋な質問だったな」

爪゚ー゚) 「もう覚えていないじ」


彼は屈託なく微笑みを見せる。
性別は異なるが綺麗な顔立ちをしている、とクーは思った。


川 ゚ -゚) 「飽きないのか?」

爪゚ー゚) 「毎日違う風が吹くんだじ。
一度たりとも同じ風の声が聴こえることもないから、そんなこと考えたこともなかったじ」

爪゚ー゚) 「自ずと見える景色も変わる。
だからなんとなく…自分の視野が広まる気がするんだじ」


果たしてどうか。
遠くにいるだけでは、何かを成すことはできない。


川 ゚ -゚) 


…近くとも成し遂げられないものも確かにあるのだが。

977 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:55:47 ID:rR00NBjg0
じーと名乗る若者はいわゆる世捨て人だった。


日がな一日を岬で過ごしては、眠る時間になるとふらりと何処かへ行く。
…雨さえ降らなければその場に寝転がり、そのまま夜を明かすこともあるのだという。
温暖な季節もそんな彼の習慣を増長させた。

魔物も近寄らない不思議な岬だった。


爪゚ー゚) 「悩みごとがあるのかじ?」

川 ゚ -゚) 「そう見えるか?」

爪゚ー゚) 「強いて言えば…なにかに悔いているような」

川 ゚ -゚)

爪゚ー゚) 「独りになりたい時はなればいいじ。
離れてみて、はじめて気が付くこともきっとあるじ」


彼の達観した言葉は奇妙な説得力をもった。

そこに生きた時間の長さなど関係のないことくらい、クーにも分かっているつもりだ。
それでも…少しだけ意地悪をしてみたくなる。


川 ゚ -゚) 「君はここにいて、何かを得ることができたか?」

爪゚ー゚) 「うーん…」

川 ゚ -゚) 「この土地で生まれたのか?」


首を横にふるじーの仕草は柳の葉を思わせた。
そしてまたニコリと微笑み、彼の日常へ戻ってしまう。


川 ゚ -゚) 「…」


岩地がオレンジ色に染まる。
水平線もまもなく月を映し出す頃だ。

978 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:56:29 ID:rR00NBjg0
爪゚ー゚) 「大陸戦争にまつわるこんな噂を聞いてるじ」


クーがその場を立ち去ろうとした時だった。
背中にかけられた唐突な言葉が彼女の足を止める。


川 ゚ -゚) 「噂?」

爪゚ー゚) 「紛争地域…とりわけ直接的な戦いが起こった場所ではその後、次々と星が降ったと」

爪゚ー゚) 「ここもかつては灯台が町を照らしていたらしいじ」


足下は長く続く断崖絶壁。
泡白い海が、絶え間なく灰淡い飛沫を岩肌に打ち付けている。


爪゚ー゚) 「戦争で失われたものはとても多かったと聞くじ。
ましてやその最中に注がれたという流れ星の輝きが、
かつて有ったいろいろなものを壊してしまったのだとしたら…」


明るいうちはまだ見えない粒子状の空星も、
夜になれば惑星のなり損ないとして、その渇いた存在を主張するだろう。


だがもし現実にそんなものが降ってきたのなら
この岬はとうに消滅していても可笑しくない。
……クーはそう口にしようとして、やめる。
なぜそんなことを知っているのか自分でも不思議だった。


川 ゚ -゚) 「……だとしたら?」

爪゚ー゚) 「その星を是非とも見てみたい」


じーが爽やかに微笑んだ。
破滅を求める顔ではなく、あくまで好奇心からくる笑顔。


爪゚ー゚) 「人智を越える現象こそ、世界のもつ最大の魅力だと思うんだじ」

979 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:57:17 ID:rR00NBjg0
魔導力を利用した魔法学は、戦争によって大きく進化した。

黎明期たる大戦の時代が終わる頃に迎えた成熟期は、
人々と土地土地の荒廃からリスタートしている。


川 ゚ -゚) 「本当にそう思っているのか?」

爪゚ー゚) 「悲劇があったことも承知しているじ。
それは痛ましくて、肯定するつもりもないじ」

爪゚ー゚) 「僕はただ単に知らないことを知りたいだけ。
誰もやらないことをやる…それがきっと好きなんだじ」


そういって若者はどこかに去っていく。


ざあざあと、さざ波がクーの意識を取り残した。
ふと見上げれば暗がりに浮かぶ月と目が合った。

……それはなんとなく、嗤っているようにも見える。


川 ゚ -゚)


記憶をなくしてからずっと。

姿なき罪悪感が、透明な剣となってクーの胸を刺している。
悟られない感触だけがひたすらにその重みを増している。


大陸戦争を引き起こしたという記憶を失って…。
しかし生々しい記録をその目に焼き付けるたび、彼女は思うのだ。



        『私は一体、
         いつまでここに居ればいい?』



 

980 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:57:59 ID:rR00NBjg0

―― 10年後。
癒えぬ戦争の爪痕は、隠しきれぬ生々しさを未だに露呈している。


土地の廃退、生活の困窮、文明の後退……。
そしてなによりも顕著なのは動物たちのモンスター化だった。

空には火の鳥が舞い、森にはトレントが息を潜める。
海に出れば水獣と成り果てた大魚が牙をむく。


クーが出逢った四人の姿はいまひとつの大森林にあった。
大地がぽっかりと開けた口に、密やかに浮かぶ島。


瓜゚∀゚)  爪゚A゚)
  爪゚ー゚)  爪'ー`)


お互い面識はない。
散り散りに現れた面々が、しかし吸い寄せられるように島の中心へと並んで歩く。

道すがら風景に混ざる二足獣が好奇の目で見つめている。
襲ってくる気配はなく、ただただ目を合わせるに留まった。
モンスターにしては珍しい生体だと誰かが呟く。

やがてそれも過ぎ去れば、
見えてきたのは四人を出迎える樹冠のアーチ。


爪゚A゚) 「…この地形で多雨林などとは珍しいぬ」

爪゚ー゚) 「湿ってはいるけど、悪くない風の通り道があるじ」


ゆっくりと、しかし目的を持って彼らは歩く。
澄んだ空気に反して、いつの間にか…しとしと雨が降っていた。

981 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:58:39 ID:rR00NBjg0
頭上に展開される葉が雨避けとなってくれているため、皆の身体が濡れることはない。
同様に太陽の光も遮っているが、不思議と視界は明るみに満ちている。


不満があるとすれば。
樹々の多さと水捌けの悪さによって、道らしき道が用をなしていない。

このままでは往来には向かず歩きづらい…という点か。


瓜゚∀゚) 「でも、これだけの雨が降るなんて羨ましい限りだづ」

爪'ー`) 「そうかな…何事も過ぎたるは及ばざるが如しといえるがね」


一言、二言話すその様子から緊張感はみられなかった。
中には笑顔を見せる者もいる。

穏やかなムードが彼らを包む。
いつしか足音も重なりあい、
各々がバックボーンを推測できる程度の言葉を交わし終える頃…。


爪'ー`) 「そろそろのようだな」

982 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 19:59:21 ID:rR00NBjg0
先頭のフォックスが軽く手を上げ、三人を制した。
森はまだ抜けていない。 …しかし、拓けている。
空から差す陽光が彼らを神々しく見下ろした。


             チキチキ…
瓜゚∀゚) 「ここはずいぶんと暖かいづ」

爪゚A゚) 「また海の上とはかけ離れた景観だぬ」
    チキチキ…


空に木霊する、四人の感嘆と鳥の囀り。
苔むした岩や貧弱な細木は、
こうも輝かしく照らされているだけで生命の息吹を力強く感じさせるのかと思わせた。

チキチキ…
段差のある土に、がらごろと石畳だけが乱雑に敷かれている。
辺りにそのような物質は存在しないので誰かが置いたのは間違いなかろうが、
それがかえって人工的な匂いからますます遠ざけていた。


爪゚ー゚) 「…なるほど。   チキチキ…
これなら満遍なく空気も循環するはずだじ」


言い終わる前に、じーが腕を振るった。
流れる指先が白い風を纏い、木の葉を散らす。
       パタタタタ ッ
――小鳥が異変を察して飛んでいく。

風は円を描き、やがて彼の前で上昇すると、
わずかながら視界を遮っていた枯塵も空高くに舞った。


爪'ー`)∂" 「…」


パチン、という音はフォックスのものだ。
…誰かが彼に向き直るより早く。
燃えたことすら悟らせない瞬きの間に蒸発する枯塵。
あとには火の粉の残滓が蛍のように浮かび揺れている。

983 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 20:00:04 ID:rR00NBjg0
爪゚ー゚) 「そこまでしなくとも…」

爪'ー`) 「いつかどこかで土になるんだ。
わざわざ人の手を加えるなら、片付ける手間もどのみち必然だろう」


労力を省いてやったのだと言わんばかりのフォックス。
その目の前で蛍火が橙から――蒼に変化していく。


爪'ー`) 「おや?」


気付いた時には、彼の魔導力の粒子がぽかんと間抜けに弾けた後だった。


爪゚A゚) 「そのわりに後始末が雑だぬ」

爪'ー`)y‐ 「最後はこのタバコに火をつけようと思ったのだがね」

爪゚A゚) 「屋内ではやらぬように頼みたいものだ」


フォックスはちらりと窺う。
口五月蝿そうに警告した男の手のひらがしっとりと濡れていることを。

魔導力は相剋に従う。
じーの風は彼の火に呑まれ、
今まさにぬーの水で打ち消されたように。


瓜゚∀゚) 「手の内の見せっこは私で最後かづ?」


少し高い声に、三人とも振り向いた。
紅一点の彼女は屈むと土を撫でる。

「でこぼこな大地だづ」という。
同じ自然に生まれたものが、
気候や人の手の有無…そして年月によってこうも姿形を変えるのか。

故郷の砂漠の匂いを思い出しながら、彼女は魔導力を放つ。



爪゚ー゚) 「――…おお」


 

985 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 20:01:04 ID:rR00NBjg0
吐息に音を乗せたのはじーだけではない。
ぬーも、フォックスも同じように…目の前の景色に目を奪われる。


爪'ー`) 「すごいな、私には思い付かない」


一度だけだ…足元をなにかが通り抜けたように感じられたのは。
地軸が滑り動く錯覚のあとには、
石畳が織り成す立派なメインストリートが地平線まで連なり出来上がっていた。

土壌は均され、樹木が並木道を倣う。
大樹の変移動に伴い、
大きく拓けた枝葉の隙間から天道様が堂々姿を現している。
あとは建造物さえあれば誰もが人の生活の気配を感じるだろう。


爪゚ー゚) 「これは誰かに?」

瓜゚∀゚) 「独学。
大地に生えるものはすべて深く根付いているづ。
土を揺らせばそれが丸ごと動いてしまうのも自然の摂理だづ」

爪゚A゚) 「ここが数分前まで鬱蒼とした森だったとはもう誰も思わんぬ」


一度は離れた鳥たちが仲間を連れて戻ってきた。
棲み処を失くさずに済んだ、嬉しそうな鳴き声がピィピィと響き渡る。


瓜゚∀゚) 「驚かせてすまなかったづ」


――吹かせ、燃やし、相殺する。
多くの魔導力は、経てして誰かを傷付けるためのものが主眼だ。

戦争が促進させたとはいえ、人は過剰な力を得る際、
たんなる暴力の延長線上をイメージしてしまうのかもしれない。

万物に宿りし魔導力。
多くの人間によって地水火風へと箱をわけられてはいるが、
その本質が想像によって創造を成すエネルギーであることを
このなかでづーだけが掴みかけている。


      「ありがとう、ここまで来てくれて」


いっそう大きくなる鳥の声。 四人の視線もひとつに重なる。
空白のメインストリートの向こう側に小さな影がぽつりと現れた。

986 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 20:02:01 ID:rR00NBjg0

近付く影がその輪郭を明確にしたのと、空の色が同化したのは同時だった。
白きメインストリートだけが風景に浮いている。


瓜;゚∀゚)  爪;゚A゚)
  爪;゚ー゚)  爪;'ー`)

            《シャラン…》

鈴に似た音が全員に聴こえる。
星雲が渦をまき、天がますます暗くなる。
 ――だが反して眩いほどの星光。
闇をいいことに数多の存在を一粒残らず主張し始めた、魔導力の星。


      「【パーティクル】」


その声主をここにいる誰もが知っていた。
まだ遠くに居るはずなのに何故だか分かった。
…しかし放たれた言葉と魔法を、これまでに見聞いたことがない。

   ・・・・・・
それは術者を境界線に、"街が創り出されていく" 奇跡を生み出していた。

一歩足を踏み出すたび、色が塗られていく。
殺風景だった島に新たな国が建造されようとしている。


爪;゚ー゚) 「…なんとも珍しい風に逢えたじ」

      「それはよかった」

爪 ;ぅA゚) 「いよいよ平和に耄碌してきたかぬ…」

      「それも良いことだと思うが」


超常現象的に創られている街。 扇状に拡がる影響。
返ってくる口ぶりから、それは一人の人間の手で行われていることが窺えた。

まるで不可視のベールが剥がされていくにつれ顕になる、その全体像が見えてくる。

987 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 20:03:07 ID:rR00NBjg0
瓜;゚∀゚) 「ど…独特のセン…じゃなくて、
色々な土地が混ざっているかのような多彩さだづ」


づーのいう通り、街と呼ぶには統一感というものがなかった。

木でできた平屋もあればビニール製のテント張りもある。
かと思えばそのすぐ隣で、
何倍も背の高い灯台や石造りの館が生まれている。

歪なのだ。
コンセプトはなにもなく、頭のなかで思いついたものを
片っ端から具現化しているような唐突さにも思える。


      「づー…君の優しさは失われていないんだな、安心したよ」

爪;'ー`) 「…」

      「フォックス、わかってるさ。 君たちを呼び出した理由だろう?」

爪;'ー`) 「……さっきまではね」


なにかを求めるように、彼だけが片足を踏み出した。


(( 爪;'ー`) 「もうどうでもよくなった。
なんだ、その魔導力は…??」


フォックスの胸中は穏やかでいられなくなった。
どうしようもなく惹かれていた。

未知の魔法…。
そしてそれによって創られたらしき、紛うことなき故郷の一角。
それはあの日、自分で燃やし尽くした彼の家だった。


 (( 爪;'ー`) 「時間を巻き戻せるのか?」

    爪;'ー`)つ 「十年という記憶のなかにある君が、
いま目の前にいる君と何一つ変わらない事実と、なにか関係があるのか?!」


わざわざ彼が歩まずとも陽の位置は変わっていく。
影が明るみの元に晒され、ようやくその姿を照らした。


川 ゚ -゚) 「私にももう無いんだ。 故郷だけでなく、家族すら」

988 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 20:04:00 ID:rR00NBjg0
その手には錫杖が握られている。
二つのリングがシャラリとぶつかり鳴り響く。


爪;゚A゚) 「……摩訶不思議な…歳を取らぬのか?」

川 ゚ -゚) 「どういうわけかは私にも判らないがね」


頷くクーはそう答えると一度だけ振り向き、隠れてため息をついた。


川 ゚ -゚) 「時は戻せないし…人の魂もどうにもならない」


言葉より、目に見えるクーの表情が何よりも物語る。
それでもなお、
『       』――。
四人は彼女の存在を神格化し、そして違う単語で…彼女を同じく形容した。

      爪;'ー`) 「…そう、か…」


肩を落とす彼に追い付いた三人も、興奮した様子でクーを囲んだ。


爪;゚ー゚) 「こんな魔法があるなら…!」

瓜;゚∀゚) 「私たちにも扱えるのかづ??」

川 ゚ -゚) 「…いいや」


―― 【パーティクル】はクー自身の魔導力に依存しない。
ある条件下でのみ発動する、借り物の力。


爪;゚A゚) 「そこんな街を創ってどうする気かぬ?」


――長い沈黙。
クーは唇に指を当てしばし思案している。
ここに来るまで、彼女なりの選びに選んだ言葉ではあったが、
結局は一番シンプルな言葉を口にした。


川 ゚ -゚) 「皆さえ良ければ、しばらく私とここで暮らさないか?」

989 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 20:04:40 ID:rR00NBjg0


瓜;゚∀゚)  爪;゚A゚)    「――は?」
  爪;゚ー゚)  爪;'ー`)


 

990 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 20:05:22 ID:rR00NBjg0
共同生活は楽ではなかった。
生まれも育ちも異なる五人。
考え方も合わなければ、欲するものもバラバラだ。

…だが、どこか似た境遇は目的意識を同じくする。
島中の森林が切り開かれる頃にはいつしか
[都]と呼ぶに相応しい街に生まれ変わることとなった。




瓜#゚∀゚) 「フォックス、どうしてあの橋を壊すんだぬ!!」

爪'ー`) 「あの構造のままでは船が通過できないだろう? 作り替えるために必要な作業だよ」

爪゚ー゚) 「船を小さくすることはできないのかじ?
船体の下半分を潜水させるとか」

爪゚A゚) 「面白い発想ではあるがぬ…。
ドックを宮殿に隣接させる以上はその他の設備も含めて、
遅かれ早かれやはり必要になるぬ」

川 ゚ -゚) 「すまないな、づー。 今回は橋を動かそう」

瓜#゚∀゚) 「〜〜、我慢を強いられるのは民の暮らしだづ!」

爪゚ー゚) 「…うごかす……――そうか。
フォックス、壊すのは橋の真ん中だけにできるかじ?」

川 ゚ -゚) 「いい案でも浮かんだか?」

爪'ー`) 「……ははあ、じーが言うならばなんとなく分かったぞ」

川 ゚ -゚) 「よし、作業期間は宮殿を一部開放しよう。
民への説明も、負担もすべて私たちが受け持つようにな」

991 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/12/13(日) 20:06:22 ID:rR00NBjg0


クーは都の主として長く、そして安定した生活を維持した。

驕ることなく、騙ることなく。


四人は魔導力を磨き続け、そのほとんどを人々の生活向上に役立てた。
やがて民からは尊敬の意を評して "四賢者" と呼ばれるまでになる。


この都は一度だけ、水害に属する天災に見舞われたことがある。
都にも壊滅的な被害がでた。

四人は【パーティクル】を求めたが、
当時のクーはこれを詠唱することができなかった。


都の建造物が白を基調として作り替えられたのはこの頃を境としている。

修復時、泥に汚れた壁や道を払拭したいがための色選びではあったが、
結果としてクーとぬーの魔導力に浄化された周辺海域によく合い、
復興後は[水の都]のステータスとしてその清潔性を轟かすに担った。



四賢者がクーに忠誠を誓うには、何十年と積み重ねた実績が必要だった。
耳障りのよい言葉だけでなく、行動、そして結果がなによりも大事だった。



クーにとって、水の都とは…。
過去は取り戻せないが、少なくとも今その時を生きるに充足した信頼を得られた時代。

時間にして百年足らずではあるが、
憶えのない罪に罰を与えられたクーの心を助けていたのは
この四人の賢者たちが最も身近に寄り添っていたおかげである。



(了)


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