438 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:21:03 ID:TjukTr1o0


『やった、ついに倒れたぞ!』


――そこには宙があった。


『皆は無事か?!』


果てはない。
…あるのはただ、彼方まで見渡す限り一面の闇。
それに抗うように点々と灯る小さな小さな光りだった。


『まだ近寄ってはならぬ!
第一衛兵長、騎兵隊長らで囲め!
あれだけのことをしでかしたのだ、万が一を考え――』


感触を確かめるべく手を伸ばすことは叶わない。
寒くもなく、暑くもない……そんな意識すらどこか遠い。


思考と乖離した、どこか身近な心の臓。
ドクドクと穴を開けて冷たいなにかを垂れ流している…そんな気がした。


『女王様! 女王様は無事かぁ!』

 

439 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:22:56 ID:TjukTr1o0

      ( …なにが女王だ )


あるかどうかもわからぬ胸中に独りごちる。
舌打ちができない。

…比喩ではなく。
その身体は中心部に大穴を開けられたのだから。


( 、 トソン 『女王はご無事です。
貴殿方はこの不届き者の処置を…それを民衆も、女王も望んでおります』

『トソン殿、かたじけない…我々がもっと早く――』

( 、 トソン 『侍女たる我らに遠慮や配慮は無用。
さぁ、準備をしましょう、都の人々に伝えるのです……』


( 、 トソン 『賢者様殺害、その一連の犯人が死んだことを』



       ( …そうだったね )


呪術師が招いた、脆く短きディストピアの崩壊を告げる侍女の声。
目視できぬ表情…しかしその声色から、俗物らしく
《してやったり!》
とでも言い含んでいることだろう。


       ( はぁ、くだらない )



――思い、"彼" の意識はそこで呑まれる。

 

440 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:23:44 ID:TjukTr1o0



"生まれて" はじめて。


若き不死は、今から長い夢に入る。


その死体の傍らで、粉砕した幾ばくかのオーブの欠片を散らかしたまま。


 

441 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:25:40 ID:TjukTr1o0
( ^ω^)千年の夢のようです


- 夢うつつのかがみ -

442 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:26:34 ID:TjukTr1o0


从 ー∀从      (・ω・` )



気がつけばそこに在た。
…辺りの風景は先ほど感じていたものと変わりはない。

     ―― 闇。

かつては星のように形を遺していたのだろうか…。
黒に残留する白い粒子に囲まれたショボンの前には、
いつか見た、跳ねっ返りの髪を垂らす女性が立っている。


从 ー∀从 ″

从 ゚∀从 「……おっ」

从 ゚∀从 「おいでなすったか」


乱暴に後頭部をかきながら、
「お前が来るのは珍しい」と囁いた。


(´・ω・`) 「…ハイン、リッヒ?」

从; ゚∀从 「……あれっ?」

443 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:32:18 ID:TjukTr1o0
彼女は辺りを見回す。
地面も空も存在しない、頼りなき黒の空間にはショボンと二人だけだ。


从 ゚∀从 「なんで憶えてんだ??」

(´・ω・`) 「? …僕はそんなに記憶力に問題のあるタイプじゃないと思うけどね」

从 ゚∀从 「いや、そういうつもりじゃあないんだが……」

(´・ω・`) 「…常人からすれば随分と長い年月ではあるかもね。
あれは大陸戦争よりも前…ふたごじまのアサウルスを倒した後だったか」


こんなことを話すには意味がある。
ショボンは当たり前を口にするのがむしろ嫌いだった。
差し障りのない返答で間を繋ぎながら、ショボンはハインを観察する。

それは警戒心ではなく、目の前の彼女が表す戸惑いを受けてのものだ。


从∀゚ 从


ハインはやはり何かを否定するよう、ほんの少しだけ…かぶりを振った。


从 ゚∀从 「まあいいや。
せっかく来たんだ、ゆっくりしていけよ」

(´・ω・`) 「…そうだね」


答えながら――
ショボンの頭の中では一瞬だけ《パチリ》と音がした…気がした。


ゆっくりする……、休息をとる…?


(´・ω・`)


たしかになにもすることはない。
ここではなにもする必要がない…。

444 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:33:26 ID:TjukTr1o0


(´・ω・`)


思考に蓋をされている気分だった。
違和感。
なにかがおかしい。


(´・ω・`)


だが、その何かは思い出せない。


(´・ω・`)


なぜ、思い出せないのかも思い出せない……。

 

445 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:35:57 ID:TjukTr1o0
从 ゚∀从 「しばらくは俺と話でもするか?
いまなら俺も落ち着いて話していられる」

从 ゚∀从 「それとも一人、想い出にでも浸るか?
お前が望めば、いつもより多くの出来事を視ることも可能だろうな」

(´・ω・`)

(´-ω・`) 「そうだね、そうしよう」


ハインの提案に乗るようにショボンはわざとらしくニヒルに笑い、
その心では "思い出すという作業を棄てる" ことにした。


分からないことは仕方がない。
ならばそれはそれとして、確認できることがあるはずだ。
極めて単純な質疑であっても。


(´・ω・`) 「ここは、一体なんなんだ?
どうして君はここにいる?」
 

446 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:38:55 ID:TjukTr1o0

从 -∀从

从 ゚∀从 「ここは…俺にも正直わからねえんだよなあ」


先程とは異なり、間はあれど、淀みのない口調でハインは答えはじめる。


(´・ω・`) 「自分がいる場所もわからないのかい?」

从 ゚∀从 「自らすすんで来た場所ではあるが、望んで来た場所じゃあないんでね」


ハインはお手上げ…というように、両手を軽くあげておどけてみせた。

若干の嫌味を混ぜこんだつもりのショボンの言葉にも、彼女は動じない。
言葉遊び的な回答の真意は解らないが、特に深入りするつもりはショボンにもなかった。


どうでもいいのだ。 自分が作り出す目的以外は。
彼はいつも永い間、そうやって生きてきたつもりだ。


从 ゚∀从 「だが本来、ここはお前ら "不死者が死んだ" ときに来る場所だ」

从 ゚∀从 「イコール、お前は死んだからここにいる」

(´・ω・`) 「だから、死んだらなぜ僕らはここに来るのさ」

从 ゚∀从


――今度こそ。
ハインはその動きをはっきりと止める。


从 ゚∀从 「……この空間でその質問をしたのは、お前がはじめてだ」


どことなく…笑っている気がする。



   まるで来る時がきたかのような、
   待ちわびた者の笑み。


 

447 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:45:00 ID:TjukTr1o0
----------------------------------------


(゚、゚トソン 「申し訳ありません、クー様。
此度は宮殿内にまで賊の侵入を許し、あまつさえ緊急用ドックの避難扉まで……」

川 ゚ -゚) 「いや、構わない。
私もちょうどそちらを壊してでも侵入するところだったからな」

('、`*;川 「面目も御座いません…、備えてあった【クーチラス】すら破壊され――」

川 ゚ -゚) 「お前も気にするな。
もはや年代遅れの自動戦車ごとき、また造ればいい」


水の都…
延々続くかのようなメインストリートを真っ直ぐ進むその奥に佇む、碧白き宮殿。
その内部。


川 ゚ -゚) 「死傷者は?」

('、`*;川 「はい!
衛兵からの報告では怪我人こそ多数出てしまいましたが、命に別状ある者はいなかったようです」

川 ゚ -゚) 「ここに運べ。 私が治療しよう」


【シールド】を施す紋章が刻まれた大扉
――横一文字に斬りつけられ、大破している――
の向こう側…。
両指を前に握りしめ、背筋を伸ばした女性が三人。

448 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:46:02 ID:TjukTr1o0
ドーム型をした天井は、骨を支えるため放射線状に壁中で柱を組む。
180°視界の開けたこの大広間は普段は開放されており、一般人も自由に出入りができた。


都中と同じく白を基調とし、
薄碧のレリーフが彫られた壁面は眼に優しく、
しかし滞在する人々の姿を浮き上がらせる。

衛兵と侍女が許す限りは、女王との謁見も比較的寛容だ。


…しかし、いまここには彼女たちしか居ない。
まるでその身分を示すように、
クーと呼ばれた女性だけが玉座を背に、他二人へと向き合っていた。


川 ゚ -゚) ( …あれだけ暴れて、誰一人として死なせず突破したか )


クー。
不死者であり、現在は水の都の女王。


川 ゚ -゚) 「都の中でその他の被害を確認しているなら報告してくれ。
些細なことでも構わない」


――同時に。
彼女が大陸戦争を引き起こした一国の主であったことは、都の誰も知る由はない。
 

449 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:47:06 ID:TjukTr1o0

(゚、゚トソン 「建築物、及び潜水艦などへの被害は微小。
数週間もあれば修復は可能との報告が上がってきています」

('、`*;川 「確認中のものとして、重要文化財にあたる物品の窃盗や破壊はいまのところ見られていません」

(゚、゚トソ 「以前、フォックス様より住民に配布されたオーブも、持ち運びされた様子はないと……」

川 ゚ -゚)


侍女らのいうオーブとは、
ワカッテマスの創り出した泥人形フォックスからの監視アイテム【ホークアイ】の亜種。


川 ゚ -゚) 「オーブとは?」

('、`*;川 「あっ! 失礼しました。
オーブについては女王不在時の処置として、賢者様から安全確保の名目により配布されておりまして――」


あえてクーは素知らぬ演技をした。
それはショボンからの願い事でもある。
 

450 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:51:55 ID:TjukTr1o0

(´・ω・`) 『君が都を大切にしたいなら、時には騙し合いもしなくちゃならないと思うよ』

(´・ω・`) 『騙される民ならとことん騙してやればいい。
君が感情に正直でいることと、他者がそれに従順でいることはイコールにはならないはずだ』



クーにとっては、いらぬ苦労をかけられている気がしてならないが仕方ない。

わざわざ単独での暴動を引き受け、あまつさえ
《内側からしか開けることの叶わない避難口まで侍女を誘導することにより、
唯一その道を知っていてもおかしくない女王と外側から合流させる》
という、遠回しな作戦を成し遂げた、
同じ不死の若造に払う敬意くらいは示さねばならない。


川 ゚ -゚) ( …ブーンやツンとはまるで逆なんだな )


侍女ペニサスの報告は続いているものの、その言葉はクーの耳に届かない。
その脳裏では、
自分以外の者が一時でも一つの国を統治、掌握したかもしれない未来が描かれていた。


摂理からすればそれもまた致し方ない。
本来ならば人の世において不死の存在がイレギュラー。

だが統治者が変わるときは、国も大きく形を変えなければならない。
更に言うならば、クーは自身を決してイレギュラーだとは考えていない。

産まれてきたのだから意味をもつのだ。
彼女もまた世界を構成する部品…卑下する要素など、何一つ在りはしない。


川 ゚ -゚) 「そうか…では、そちらにも私が処置を新たに施そう。
あとですべてのオーブを持ってきてくれ」

('、`*;川 「す、すべて…ですか?!」

川 ゚ -゚) 「すべてだ。
人も、オーブも、一つ残らず必ず頼むぞ」


…不死者は果たしてどこから来るものなのか。
ショボンよりも古い存在の彼女の記憶からは、失くなっている。


----------------------------------------

451 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:53:38 ID:TjukTr1o0
从 ゚∀从 「―― こんな感じだ」

(´・ω・`) 「なかなか面白いものがあるね」


二人は顎を――ハインはショボンに比べるとより高く――上げ、
正面に浮かび陣取る空間へと目を向けていた。

彼ら以外に唯一、闇に浮かぶそれは薄紫のモヤに潜む円長形をしている。
ハインはそれを[かがみ]と呼んだ。


从 ゚∀从 「確証はないが、恐らくいまは現実の時間にリンクしてると思う」

(´・ω・`) 「…とは?」

从 ゚∀从 「仕組みは知らねえから答えられないぞ。
それと、俺単独ではクーの景色しか視れない」

(´・ω・`) 「僕にも視れるのかい?」

从 ゚∀从 「やってみな」


ハインの言葉のすぐあと、ショボンが[かがみ]に向かって一歩踏み出す。
視界一面は[かがみ]に埋め尽くされ、
替わりに下がったハインのことを思い出す前に、空間は歪み始める…。


从 ゚∀从 「…お前自身のことについてなら、過去が視れるだろう。
念じてみろ」

从 ゚∀从 「ただし強すぎる願いはやめとけ。
これはあくまで思い出を映
            す
           だ
        け
       の

   [かがみ]

        だ
       か

      ら



   な」
 

452 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:54:22 ID:TjukTr1o0

 

453 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:55:39 ID:TjukTr1o0



       風景が、
           歪む。

 

454 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 19:57:31 ID:TjukTr1o0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「――  の?」


「――軍師どの!」


気が付けば…次第に誰かを呼ぶ声が聴こえはじめ、その音量は時間と共に肥大していく。
声色はひとつではなく……重なり、やがて明瞭さをも欠きはじめた。


「…ショボンどの!」


そんななか最後の呼び掛けがハッキリと耳に届く。
同時――皮膚を焼く熱、バチバチと鼓膜を打つ気泡音も。


若干の不快感を抑えながら無表情に顔をあげた。
植物の画が施された黒い首輪を装着した男が、ショボンの顔を覗き込んでいる。


      《くそっ一体だれが!》

「しっかり!! どうかご指示を。
森が…森が焼けているモナ!!」

(´・ω・`) 「…ああ、わかってる」




   《だれが?!
    呪術師どもに
    決まってるだろ!》


 

455 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 20:03:51 ID:TjukTr1o0

……赤い森。
大陸戦争終盤に突如発覚した、
呪術師たちの反乱を発端とした――と、騙られる――ジェノサイドの舞台。

それがいま、空と大地を赤く染めていた。


(´・ω・`)つ 「森の住人を無理矢理にでも避難させろ!
こんなことは軍として望んではいない。
火の元を見掛け、もしそれが――」


時代は二つの大きな国が大陸を奪い合っていた。

ショボンは[空の軍]軍師として、部隊を率いてここにいる。
だが火の鳥游ぐ混乱の最中、瞬く間に発生した状況について誰一人として追い付くことが出来ていない。


「モナー! どうなってる!!
斥候隊に火炎ボトルや火炎放射銃でも配ったのか?!」

「入るたびに構造の変わるこの森は計り知れなかったから…
可燃障害物の除去用としてチームごとに配布はしたモナ」

「じゃあそれだな!
制御もできないようなとんだ不良品をつかませやがって!」

「そんな…、そんなことないはずモナ!
たとえ不具合が起きても、ここまで大規模に燃え広がるような武器なんて、モナは製造してないモナよ!」


モナーと呼ばれた男はヒステリックになる一歩前、心を沈めつつも激しく動揺する。


(´・ω・`) 「いちいち騒ぐんじゃない。
訓練を受けた国軍ならば、目の前のことに集中するんだ」


モナーの生業はアイテム調合…そして自動機械の製造。
しかし、決して人の命を殺めるための道具を造ったことはないと自負していた。

456 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 20:05:02 ID:TjukTr1o0

モナーが "マッシュルーム" と名付け製造した大型のオートマトンがある。
下腹部に用途ごとの異なるアタッチメントを装着することで、人間には不可能な作業を難なくこなす。

それか戦場に投入されたとの話を聞いたのは、
ショボンに呼ばれ、城下町を二人で歩いている時に聞こえた人の声からだった。


『あれがモナーかぁ。
細工師って聞いてたけど、厳つい人なんだな…まるでウドの大木だ』

『知らないのか?
マッシュルームもあの人が一人で造ったらしいぜ』

『マジかよ! この前の中央区での戦場じゃあ、ずいぶんと敵軍を蹴散らしたらしいじゃないか!』

『ああ…あれがいくつもあれば、それだけでも勲章ものだろうな』

『なるほどねえ〜。 それで軍は彼を召集したってワケだ』


…本来あれは可動式除障害機として造り上げたものだった。
それなのに、いまや[空の軍]が誇る落城用突撃兵器などと呼ばれていることに、モナーは酷く悲しんだ。
 

457 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 20:06:56 ID:TjukTr1o0
まだ若きモナーが開発したアイテムは、他にも数知れない。


単なる装飾品から…
素人にも扱え、かつ生活水準の向上をめざしての日常雑貨…
逆に専門性の高い、注文する当人以外にとってはなんの価値も見出だせない物すら造り上げた。

個人作業のため生産ペースに限界はあれど、依頼人たちは待ち続け、完成を喜んでくれた。
彼もそれで充分だと思っていた。

受け継いだ技術が他人に認められることは、
一族の生きた証明を認められることと同義だった。


『次戦に投入されるらしい新兵器は、半永久的に敵を燃やし尽くす火石だそうだ』


――だが大陸戦争は、そんな発明者の意に反し、彼と彼の発明品を利用していく。
交換不要なカンテラも、もはや悪魔の獄炎扱い。

今回使われた火炎ボトルもそうだ。
指向性をもたせ、日陰に強い木ばかりが育たぬように開発した森木の間引き用アイテム。
念入りに調整し、発火後の空気に触れれば約20秒以内に消化されるようにしていたはずだった。

【フレアラー】などの魔導力を意図的に加えでもしない限り、
いま森で起きているような大惨事にはなり得ない。
使い方次第でこんなにもなってしまうのかと…モナーは落胆している。


人殺しは、人が生み出す歪みの象徴。
戦争は……歪みの頂点なのかもしれない。


(´・ω・`) 「モナー、…モナー?」

「――あ、…」

(´・ω・`) 「落ち着け。 大丈夫か?」


ハッとして顔を上げた。
優しく声をかけてくれていたのは、祖父の故郷の恩人であるショボン。


――そう、ショボンだけは。
モナーにとって彼だけは、これまで信頼を裏切るような真似をしたことがなかった。

458 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 20:07:59 ID:TjukTr1o0

モナーは深く呼吸した。
一度、二度。
…心拍数が平常に戻るのを感じる。

身体の大きい彼は、深呼吸によって全身に久しく酸素を送り込んだ気がした。
視界が少しだけクリアに感じられるようになった。


すると、サルビアよりも真っ赤な大火に自分の身を晒していることに改めて気付かされる。
…なぜか?
日に日に依頼人から裏切られる思いの中で、
いまや彼のためにモナーはここいると言っても良い。


(´・ω・`) 「一番、二番隊は僕と奥に進む。
残りは全員武器を収め、救助活動に専念しろ」

459 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 20:08:39 ID:TjukTr1o0
指示を飛ばすショボンの背中を見つめながら、モナーだけが所在なさげに立ち尽くす。
心ない騎士の言葉が頭を反芻した。


「……」

( ´・ω) 「モナー、行こう。
誰も君を心から責めてなんていない…
あんなもの、単なる八つ当たりだ。 気にするなよ」

「…モナ」


彼らのルーツとなる孤島では独自の細工技術が培われていた。
ショボンが青年となり、身体的成長をピークに留める頃、
すでに当時の技術者が何人も大陸に遠征している。

ふたごじまという本来閉ざされた島…。
広く新しい繋がりを持たせることで、信仰とは異なる心の芯を創りだした一時代。


それは、
自身が背を丸め、何かに縋りつかずとも、
自信が背を押し、奮い起たせてくれる概念。


そんなショボンに付き添うモナーもその子孫の一人だ。
巡りめぐって軍師となったショボンの隣で、大陸戦争の一隅に加わっているのは稀なる偶然といえる。


「…ちっ、熱すぎる」

       「おい離れるなよ」


額から…、首裏から…、
背中、腰に至り……。
篭る熱を冷却しようと、身体の中の水分がとめどなく絞り出される。

460 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 20:12:22 ID:TjukTr1o0
  (( (;´・ω・) 「…」

「……汗が止まらないモナ」

   「なあモナーさんよ。
    アンタ、こう…身体を冷蔵するようなアイテムは持ってないのか?」

「この暑さじゃあ水なんてすぐに温まってしまうモナよ」

    「じゃあ氷は? 小型の製氷機とか…」

「荷物がかさばりすぎる。
あれは水と風の魔導力を組み合わせて、波動を安定化させないといけないモナ。
持ち運べるサイズなんてとてもとても……」

       ボソッ 「…役立たずだな」

   「やめろ、モナーの言うことは確かだ。
   魔法の使えないお前が知らないだけさ」

          「…なんだと?」

「…… モナ」

(;´・ω・`) 「くだらない言い争いはやめろ。
…何が起こるか分からないんだ」


単体で氷の魔導力を発せられるのは、
大陸西に古来より鎮座し[氷河の牙]と呼ばれるアイスキャニオン…
そこから採れる "生きた氷塊" のみ。


歴史上、人間の魔導師が扱える魔導力は
炎… 水… 風… 土…
この4種に限られている。

その他の波動が発見できないのか、
それとも存在しないのかは定かではなかった。
ショボンも魔法を使えないため、詳しくはない。


なお獣の肉や根菜など、生活を送るために
食糧を冷凍保存する補助的アイテムの人工的な製造は出来るものの、
魔導力の循環を考慮するとどうしてもサイズが大きくなる。

461 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 20:14:41 ID:TjukTr1o0
    「……持ってくればよかったですね」

(;´・ω・`) 「"生きた塊" を?
誰がこの現状を予測できたものか。
知ってたらそれこそ貨物車で運んできて、炎を消すために使うさ」


つまり…必要ならば直接採取に行くのだ。
すでにこの時代、商人たちのなかには傭兵を雇い、氷山と街を往復する者もいる。

幸い "生きた氷塊" は文字通り、
生命を感じさせるほどにしぶとく効果を発揮する。


誰もが同じく、手首に巻かれたリストバンドで汗をぬぐう。
しきりに辺りを見回しては目を凝らし、時には立ち止まった。


       (( (;´・ω・)


唯一ショボンだけが休むことなく足を動かし続けた。
その歩みは普段に比べても遅い…しかし、騎士たちは追い付くのに必死だった。

流れ落ちるまえに蒸発する汗…。
しかし気に留める様子もなく滴らせている。


「…みんな、少しペースが乱れてるモナ?
状況が状況だから大変だろうけど、軍師どのに頑張って追い付いてくるモナよ」

「わかってるさ、…おい皆!」


明け空すら埋めようとする炎の森。
紅い顋が揺らめく。
長く続く大陸戦争……屍の上を進むこともある。

それと比較しても森の異質な光景に怯みつつ、騎士同士が引ける腰を叩きあった。
少し坂になった道のりが、ショボンの背中を頼もしく、そして大きく見せる。

462 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 20:15:46 ID:TjukTr1o0


           (;´-ω-`)_з


――真剣に職務を全うしているだけならば、彼の後世への遺恨もなかっただろう。

モナーも、騎士たちも、そう思っていた。
この軍師はいま、戦争の勝利と人命救助を秤にかけているだけなのだと。


(……この焼けつく熱) (;´・ω・)


――いつかのアサウルスの咆哮にも似た肌の感触。
それをひとり思い出しているとは露知らず。


 

463 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/06(土) 20:16:27 ID:TjukTr1o0
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〜now roading〜


(´・ω・`) ω・´)

HP / C
strength / C
vitality / B
agility / B
MP / C
magic power / A
magic speed / C
magic registence / B


------------

467 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:11:14 ID:.DLLpjNY0
----------


「ちくしょう、ひとっこ一人いやしねえ」

「広すぎるんだよ。 しかもこの炎…
こんなんじゃ当の村人らを捜すのも一苦労だ」

「状況次第では戦闘を避け、避難活動を優先するほうがいいのでは?」

「避難させるもなにも、ここはあの呪術師たちの住む森だぜ?!
俺たちがどうこうしなくたって、ただでさえこんな ――ああッくそ、熱ぃなぁ!」


森内のどこか。
周囲に気圧され悪態づく兵士たちの姿。
大陸戦争の後期ともなれば国軍の訓練も追い付かず、命令系統はやがて脆さを露呈する。

彼らは皆、前衛からも外された偵察隊の一ピースに過ぎなかった。
立ち振舞いに規律はなく、任務の遂行よりも無事この場をやり過ごすことを考えていた。


「死体の二、三でも見付かればそれを手土産にして引き揚げちまおう。
…なあに。
首を落として、顔を切り刻んじまえば陣営だの住人だのはわからねえさ」


薄汚い手の甲をボリボリとかきながら、名も知らぬだれかは言った。
群衆に指揮官らしい人物は見当たらない。
半数以上は傭兵で構成され、だからというわけではなかろうが動きは鈍重で粗悪だった。

しかし例外なく首には識別用のリングプレートをかけている。
くすんだ裏面には死亡時の墓標と化す名前の刻印。

胸元から取り出したそれを眺めていた兵士の一人が、思い出したように前方に向けて声をかける。


「…おい、あんまり列から離れるなよ。
どうせ何も見つからないさ」

468 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:12:43 ID:.DLLpjNY0
ミ,,゚Д゚彡 「火の元も、人の姿も、ちゃんと調べないといけないから」


堕落しかけた群れのなか、異質を放つのは金色の髪を靡かせる青年。
身の丈を大きく上回る騎兵槍が、軽々と背負われる凛々しさを感じさせた。

炎すら彼を避けているかのように、その顔には一筋の汗もかいていない。


「真面目な野郎だな。
その槍といい…たしかお前も傭兵だったか」

ミ,,゚Д゚彡 「そう」

「……」


ナナシに話しかけた兵士は、
無骨な外見に憂いを帯びた瞳を揺らしながらリングプレートをインナーの奥へとしまいこむ。
過去の怪我であろう…右目だけ、不自然に細い。

その間、ちらりとナナシが兵士を見やった。
まくられた長袖の肘から手首にかけて、長く深い、ノコギリ刃でつけられたような斬り痕が目に入る。


「……いつの間にこんな傷…?」


兜の隙間から覗く顔の皺から、彼がナナシよりもだいぶ年上であることがわかる。
ナナシの視線に気付き、そう呟くと、兵士は腕を動かした。

腕を上げるその動きはぎこちなく、傷によって阻害されていることは明らかだ。

きっと最近できた怪我なのだろう。
兵士は苦笑いしつつ、諦めたように手を降ろした。


「ははっ……もう満足に自分の身も把握できてない奴が、偉そうに言っていい台詞じゃあなかったな」

ミ,,゚Д゚彡 「きっと、いまは興奮してるだけだから。
手当てしたほうがいいから」

「…」


ナナシは腰元からヒールポットを取り出し、兵士の傷口に振り掛けた。
夜でも灯る魔導の粒子が泡立ちはじめ、みるみると皮膚は再生する。


――そう、皮膚だけが。

469 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:14:15 ID:.DLLpjNY0
「……なにかが骨に挟まってるような」

ミ,,゚Д゚彡 「違和感がある?」


魔導力における回復魔法【ヒール】には、
肉体の再生促進はあっても後遺症の復帰には役立たない。
どうやら彼の腕はこれまでのように動くことはないのかもしれない。

戦仕事…とりわけ傭兵家業でもよく聞く話だ。
戦闘中は興奮状態によって認識していなくとも、一段落したとたんに負傷…
時には、糸が切れたように倒れ、息を引き取る者もいる。


「いや……きっと俺みたいな奴は潮時なんだろうな。
心も体も」


肉体が資本である彼らは、使える武器がなくなれば戦から身を引くしかない。


崇高な意識をもった兵士だろうと。
報酬にしか興味のない下衆な傭兵だろうと。
仕事の役に立てない者など、雇う側からみれば何もできない無垢な子供と同じ…穀潰しだ。


ミ,,゚Д゚彡


かける言葉は思いつかなかった。
兵士はその佇まいや年齢的にも、ナナシよりよほど長い時間を戦場で過ごしている。
ナナシが言えることなど、とうに自覚しているはずだ。

470 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:15:56 ID:.DLLpjNY0
一人で懸命に探索を続けようとするナナシの背中で、
「……みんな、一旦止まってくれ」
と、手当てを受けた先の兵士の声がとんだ。

ナナシが再度振り向くと、他の兵士らも同様に顔をあげる。


「いま敵軍に襲われるような事態になっても、まともに戦える状態じゃない。
…森の民の捜索もそうだ。
ここは一度だけ気を引きしめて、短時間でさっさと終わらせないか?」


身の回りでパチパチと燃え盛る炎壁が彼らを照らし、じっとりと焦がしていく…。

齢を重ねた声が、緩んだ場を律した。
指揮の経験を思わせる一声。


――『早く終わらせる』という言葉に大きく同意したのかもしれない。
一部に不満げな態度は見せつつも、一同は汗を拭い、乱れた足並みを揃え始める。

声をあげた兵士はそんな反応を眺めると、ナナシに振り向き、言った。


「…道なき道は諦めろ。
ひとまず通り抜けられるところだけでも充分だろう?
全員がお前に付き合うこともできないからな」

ミ,,゚Д゚彡 「ありがとうだから」

「ふん…傭兵が真面目に仕事をこなす横で、
国軍の俺たちが堂々サボるわけにもいかないってだけだよ」

ミ,,゚Д゚彡 「……」

「[空の軍]も、この森にいるはずだからな」


そう言う兵士の背筋が伸びた。
ナナシも釣られて姿勢を直す。


「…その代わりと言ってはなんだが。
やつらと戦闘になったときは頼むぞ」
 

471 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:17:15 ID:.DLLpjNY0

[空の軍]――。
長きにわたり、優秀な王が統べるという噂だけが先行するも、
何十年とその姿を見たものはいないという。

ナナシの雇い主は、それを相手取り戦争を引き起こした[都の軍]。
…その頂上には、美しき女王が君臨する。


「早く終わらせて、女王の声でも聴きながらうまい酒を飲みたいもんだ」

「だな。 こんなところで死ぬのはおれも御免だ」


先程よりも軽くなった行進。
しかしもはやこの場から心の離れてしまった兵士たちの言葉は、傭兵のナナシには解らない。

この兵士もまた国に属する以上、女王を崇めているのだろうか?

人間の上に存在する人間。
ナナシの住む村の長とはまた違う、絶対的信仰にも似た崇拝は、
戦場に向かう兵士たちにとって心の支えになっているのだろうか?


ミ,,゚Д゚彡


崇めるもののないナナシには解らない。
 

472 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:18:49 ID:.DLLpjNY0


元来、赤い森には様々な仕掛けがあった。


一歩森に足を踏み入れれば、
色とりどりの花を咲かせた木々が無秩序に立ち並ぶ。
見上げて空の形が歪なのは、大地が隆起している証…それが虹色の起伏ともなる。


しかしそれらはすべて束の間を支配するのみで、時が経つごとにガラリと姿をまるで変えた。
二度と同じ表情を現すことのない森は、外部の人々をおおいに惑わせる。

…とはいえ確かに路は存在する。
脇を見やれば大小の岩々が常に草に寄り添う。
森の民だけに判る、呪術によってマーキングされた、極めて自然で不自然なオブジェ。

広大な自然物のなかに、呪術で反応する魔導感知機が備わったものが点在するのだ。
土を掘り起こせば、赤黒い魔導力によって動き、宙を舞う円盤も隠されている。


他に類を見ない魔導力…そしてテクノロジーが伝えられているのが、赤い森の特異性ともいえる。


それに目をつむっても。
鳥がさえずり、昆虫や、大人しい草食動物が自然の生態系を作り上げていた。

人間が空から見下ろせたなら…
この一帯は色彩鮮やかな密林として、
いつか人々の瞳を癒やす景勝地にも成り得たのだろう。




だが今やこの地は、地獄の焦土の口を開けている。



赤い森は紅く染まり
今日をもって消えるのだ。


 

473 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:19:54 ID:.DLLpjNY0
------------


〜now roading〜


ミ,,゚Д゚彡

HP / A
strength / A
vitality / B
agility / D
MP / H
magic power / H
magic speed / E
magic registence / D


------------

474 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:26:12 ID:.DLLpjNY0


異変は[都の軍]から始まった。
一人の兵士が、突如うずくまる。


「おい、大丈夫か?」


傍らにいた仲間への返事はなかった…。
兵士は自身の両肩を抱き、ガタガタと震えている。


「……おい?」


訝しげに覗きこむ顔。
邪にも思える覗かれた顔。
…まだ少し幼さを残す表情をした仲間は、たしかにそれを見た。


いまにも倒れ込むほどに膝をつく。

――口が裂け、だらしなく垂れ落ちる唾液を。

――薄く開いた瞼から射し込む、黄色の瞳を。

――肩に食い込ませた爪から滲み出る、赤いはずの黒い血液を。


《    ィ゙ ―― ォ   》


 

475 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:32:14 ID:.DLLpjNY0

そしてあがる、濁音の悲鳴。


(・ω・` ) 「…いまの音…」


ショボンの元にも微かにそれは届いた。
様子が窺えないが、常時に響くべき音ではない。


「…見てくるモナ?」

( ´・ω・) 「…」


火の手がさらに伸びる。
ショボンは少しだけ顎をあげると、眉をひそめてこう言った。


(´・ω・`) 「……進軍は終わりだ。
全員この森から退避してくれ」

「モナっ?!」

(´・ω・`) 「来た道はできるだけ使うな。
戦闘も絶対にするな。
何が起きているのかも、確認する必要はなくなった」


モナーは汗をぬぐう。
素直には頷けず他の反応を窺うも、しかし騎士の半数は忠実に命令通り、素早く行動に移りだしていた。

とはいえ走り出してから…ショボンの言葉に首をかしげた者もいる。
まだ場に残る騎士たちに、ショボンは言葉を続けた。

476 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:33:45 ID:.DLLpjNY0
(´・ω・`) 「残るならば、命の保証はできない。
僕の軍師としての役目は、この言葉で終わりとする」


それきり、ショボンは軍に背を向けて歩き出してしまった。
なにかが鳴いた方角へと。


「……な、なあ、どうする?」
「どうって…」
「おいおい! 自分だけさっさと逃げるのか?!」


慨嘆の声にも、ショボンは振り返らない。


「……」
「なんなんだよ、一体…」


間もなくショボンは去った。
――残された戸惑い。
人として、唐突なショボンの態度の変化に文句の一つでも言いたくなるのは当然だった。


「…モナ」


短すぎた一連のやり取りの間、モナーも動けなかった。

なぜショボンは急にそんなことを言い出したのだろうかと、その意味を探るが…
いまはただ、紅く染まる茂みの奥へと消えていった彼を見て、茫然とするしかない。
 

477 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:36:23 ID:.DLLpjNY0
ショボンにとって…それはなんら進歩のない、いつかの行動と同じだった。
彼にしてみれば、ひとたび口にすれば己の義務は果たされ、後の判断責任は相手側にあるのだと未だに思っている。


「…やっぱり納得できないモナ」
「おっおい、モナーどこに行く!」


……言葉とは本来、受けとる側にも時間と理解が必要だ。
伝え、伝えられるために、人は常に心を労する。

その努力を怠る果ては、無差別な暴力と遜色ない。
待ち構えるは、ただただ心傷付く末路。


『ショボンか…。
思えば彼の未来観は、わしらとは違ったのかもしれないな』

『ふたごじまに住んでいたままであったなら決して知ることの無い知識や経験…わしらはそれを得た』

『新天地には未知があり、それを既知とするには自ら行動を起こさねばならない』

『待つだけでは駄目なのだ。
例えば信仰を棄て、代わりに何かを求めるように……
誰かに教えられずとも、わしらは手探りで生きてきた』

『辛いことも多かったが…楽しくもあった。
そしてショボンは今もずっと生きておる…』

『もし、お前が彼に出逢ったときはこう伝えておくれ…――』


モナーはそんな祖父の言葉を思い出しながら、ショボンを追い掛ける。


「軍師っ――いや、ショボンどの!
待つモナよーー!」


次いで消えたモナーの姿。
それを見送り、[空の軍]は撤退をはじめた。



……彼らにとっては幸か不幸か。

ショボンだけが感じ取ることのできた、
前方で産声をあげた脅威の片鱗に気付く能力は備わっていない。
 

478 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:37:50 ID:.DLLpjNY0



(´-ω-`) 「小さな波動だったけど…間違いない」

(´・ω・`)「蟻は…すべて潰す――」



紅模様の空の上。
太陽に偽装した眼球が卑しく見下ろしていたのを、ショボンは見逃していなかった。


 

479 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:39:26 ID:.DLLpjNY0
----------

       「ゴルルゥゥ…ッ!」

ミ;,,゚Д゚彡 「待って!! 皆どうしちゃったから?!」


[都の軍]は、まさに混乱の渦中。

人あらざる咆哮が隊列を貫いたかと思えば、
あっという間に "それ" は感染し、
兵たちの共喰いが炎を背景として繰り広げられている。


咀嚼音が地鳴りのように響く。
喰われたものから、喰うものへと変貌しては他の獲物に身体を預ける。
食まれた肉は容易く千切れ、赤子の口許のように脂を塗った。

わずかな緑を残していたはずの土壌すら、飛び交う血涙に背景を同化させていく。


餓鬼の住まう地獄、
      その切り取り絵図――。
ナナシは昔、孤児院で読み聞かされたお伽噺のなかに、こんな風景をみた気がした。


    「…ガ アグルゥゥゥ……」

ミ;,,゚Д゚彡

「ナ……ナ゙シぃぃ…っ」

ミ;,,゚Д゚彡


迷い、どうすることもできないナナシの前にも "それ" は立ち塞がった。

――腕には皮膚を塞いだはずの、ノコギリ刃の斬り痕。

今では痕の闇が広がり、わさわさと黒い粒子が灰のように舞い流れている。


「ナ…na≠ィ……


       逃げ  っロぉ」


ミ;,,゚Д゚彡 「!!」
 

480 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:40:22 ID:.DLLpjNY0
――気が付けば、ナナシは走っていた。

恐怖からではない。
正気にも聴こえた声に反応したのとも、また違う。


元は人であったはずの兵士達…
変貌し、怪物となった彼らであっても、
騎兵槍で根こそぎ薙ぎ倒す気にはなれなかった。

それだけならまだその場に留まり、呼び掛け、
事態の収拾に努められたかもしれない。


   ハァッ
            ハアッ

         ;,,゚Д゚

       ハァッ



無数の朱一色の灯籠が残像となり、視界の外側へと融けていく。


それでも時々、振り向いてナナシは探した。

呪術師……そう呼ばれる森の民も護らなくてはならない。
[都の軍]としてここに来たのはそのためだったのだから。

だが、彼を突き動かした本当の理由は。



     ミ゚Д゚,,;彡



ナナシが本能的に感じ取った、
『主の元に還らせてくれ』
という無味無臭の強烈なイメージ。


あの兵士の傷痕から湧き出る黒い粒子が放っていた、
この背中の騎兵槍へと向けられていた執着心。
 

482 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:42:42 ID:.DLLpjNY0
その後も彼の心を脅かす呻き声…それとも怨嗟の声だろうか。
数分、それとも数十分…。


ミ゚Д゚,,;彡

ミ;,,゚Д゚彡 ( …?! )


時間の経過が体感できなくなった頃、森に孤立したナナシの耳に轟きが飛び込んできた。

がむしゃらに走ったせいで、完全に方角を見失っている。
ただでさえ赤い森の構造は単純ではない。
土の起伏と、たびたび遮る樹木によって道が路を成していない。


ミ,,゚Д゚彡 「…!」


――突如としてふたたび動きだしたナナシの足。
彼の耳には、幻聴ではない誰かの声が聴こえた…。

              爆炎。

ナナシの目の前で、ひときわ目立っていた巨木のひとつが頭から割れていく。

咆哮に混ざる聞き慣れた金属音が、
見えない腕としてナナシを引っぱるように連れていった。


ミ;,,>Д゚彡 「くッ…!」


周囲はますます紅く染まりつつある。
熱風はナナシの身体を締め付け、視界をぼやかす。
意思とは裏腹に揺らぐ脚をふんばり上げ、彼は走る。


枯れた葉が、頬を切り。

濡れた頬が…風を切り。

 

483 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:43:49 ID:.DLLpjNY0


      風が――視界を切り拓く。

 

484 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:46:50 ID:.DLLpjNY0

( ω・` ) 「…」


血塗られた抜き身の得物を携えながら、
ショボンはその鈍色光る先端を見つめている。

軽く一振り…。
血糊が弾かれ、片刃の剣が露になった。


( ω・` ) 「実戦では初めてだったね、これを使うのは」


握るのは、"隕鉄" と呼ばれる鉱石から造られた刀。

時に山奥で… 時に砂浜で…
ショボンはひとつひとつ、小さな隕鉄をかき集め、
来たるべき戦いに備えていた。


細工をした職人が『天からの贈り物』とまで称した天然物質、隕鉄。

しかしその正体は、ショボンが三日月島でアサウルスと対峙したあの日、
ブーンを助けるために海の中で霧散した "蟻" やアサウルスそのものを原料としている。


(´・ω・`) 「剣としては最高の出来だ。
あの約束は面倒でも、モナーに苦労をかけた甲斐はあった…」


呟いて、辺りを見回す。
やがてその視線はある一点に注がれた。


(´・ω・`) 「蟻…、いや違う?」

485 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:49:56 ID:.DLLpjNY0

アサウルスの波動は感じない。
ガサガサと仰々しく…茂みが音をたてた。

やがて立ち現れたのは、今しがた斬り伏せ終えた黄色目をした蟻の軍兵ではなく、
瞳の奥に確かな意志を持つ、金色髪の青年。


ミ,,゚Д゚彡 「!」


葉を掻き分けてナナシが見たものは――足元に転がる[都の軍]兵士の累死体。
無傷の生存者の手には、灰色を浮かべた剣。
その鋭さと色は周囲の風景からも浮き、得たいの知れない不気味さを窺わせた。

自然かつ素早く、ナナシは背中の騎兵槍に手をかける。


対峙するショボン。
しかし慌てることなく、ゆったりとした動作で正面に向き直して剣を収めた。


(´・ω・`) 「まて。 君はあっち側の兵か?」

ミ,,゚Д゚彡 「?!」


敵意を感じられず、慌ててナナシも踏みとどまる。


(´・ω・`) 「争うつもりはない。
僕はいま森の民と、この状況を作った原因を探しているところなんだ」
 

486 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:57:52 ID:.DLLpjNY0


…金色の青年はナナシと名乗り、呼応してショボンも名を告げる。
慎重に言葉を選び、
[空の軍]につい先ほどまで所属していたこと…
事態を鑑みた上で立場を捨て、単身ここにいることを話した。


ミ,,゚Д゚彡


ナナシは硬直し、聞いているのかいないのか判別しかねる反応を示す。
――だがショボンが次いで状況を伝えようとした瞬間、
ひどく興奮した様子で駆け寄ってきた。

ナナシの手には騎兵槍。
切っ先はこちらに向いていない。
敵意は感じられずとも思わず怯み、手で制し、理由を訊く。

(´・ω・`;) 「まて! どうしたっていうんだ」

ミ,,゚Д゚彡 「やっと逢えた!」

ミ,,゚Д゚彡 「しぃが、貴方を捜してるから!!」

(´・ω・`;) 「――!」




(推奨BGM:A return indeed (piano ver.)
 

487 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 20:58:55 ID:.DLLpjNY0


しぃ。



……ショボンにとって、懐かしい名前だった。
当然、それほどの時間を置き去っていたわけではない。


(´・ω・`) 「……」


だが、彼女の元に戻るつもりは毛頭ない。
戻れない。


(´-ω-`) 「……」

(´・ω・`) 「…君は、しぃの何なんだい?」

ミ,,゚Д゚彡 「ナナシはしぃの幼馴染みだから!
しぃに頼まれて、ショボンを捜し回っていたから」


いまここに居るのも、ショボンを見つけるためだったと彼は言う。


しぃが無事でいること…
戦場外れの孤児院で子供を産んだこと…
その後は彼の故郷に住まいを移したこと…

嬉しそうに…ナナシの口から、伴侶のいまの姿が楽譜に並ぶ音のように流れてくる。


(´・ω・`) 「そうか…」


ショボンは思う。

子供の名前はどうしたのだろう?
これからしぃが立派に子を育て上げることが出来るならば、
不死である自分がいずれ出逢う時が来るかもしれない…。


ミ,,゚Д゚彡 「ショボン、二人で一緒に帰ろう!」
 

488 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 21:00:23 ID:.DLLpjNY0
………しかしショボンは答えない。
最初の言葉以外には、何も質問もしなかった。


しぃの話を聞くにつれ、
アサウルスに縛られていた人生観…その胸中に差し色渦巻く感覚。
心地好くも浮き足立ち、落ち着けなくなる感情が、何処からともなく湧くのだ。

当時もいまと同じ思いに襲われていたことに、このとき気付かされる。


(´・ω・`) 「…僕には捜し物があってね。
過去の失態を取り戻している最中なのさ」


……しぃと繋がりをもったのも、
子を産んだ不死者の話を聞いて興味をもったからに過ぎない。
彼女とどこで出逢ったのかすら、思い出せない。


(´・ω・`) 「もしかすると、この森は当たりなんだ。
だから…僕がなんとかしなきゃ」


……しぃと共に過ごした時間を忘れたのではない。
記憶に薄いのだ。
とはいえ愛ではなく情くらいはあったのだろう。
彼女を選んだのは――縁、ただそれだけ。


そう、それだけのつもりだ。
 

489 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 21:01:46 ID:.DLLpjNY0
(´・ω・`) 「すべてが終わったら帰ろうとは思っている。
…森を出たら、しぃにそう伝えてくれないかな?」

ミ,,゚Д゚彡 「家族を置いてまでやらなきゃいけないことが、この世にあるの?」

(´・ω・`)


それだけだと…
ひとり思い込んでいただけだった。



ミ,,゚Д゚彡


そして、ナナシは察している。
ショボンは戻らないのではないかと。


(´・ω・`)


ショボンが帰らなければ、しぃの子供は父親を得られない。


孤児であるナナシにとって――どこかに存在するはずの両親。

名も顔も知らぬ二人は、ナナシの深い深い記憶の底で、能面をかぶり眠っている。
何事もない日常… 戦場を駆ける瞬間…
それはまるで泡のように突如浮かんでは、残滓も残さず消えていくのだ。

だから、いつかはその面を外し、自分の本当の名前を呼んでくれるのではないかと…
ナナシは心のどこかで期待している。


子の傍に居られない親とは、果たしてどんな事情があるのか。
子を捨てる親とは、どんな気持ちなのか。


ミ,,゚Д゚彡 「しぃの子は、ショボンの子だよね?」

ミ,,゚Д゚彡 「なのに逢いたくない…から?」
 

490 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 21:10:47 ID:.DLLpjNY0
ナナシも、しぃも、孤児院にいた他の子供も、皆一度は大人に尋ねたことがある。


『どうしてぼくにはママがいないの?』
『なんでパパはわたしに会いに来てくれないの?』


決まって、大人達は誰もが微笑み、
『パパやママはね、すこし忙しいだけなの。
居ないからって泣いていたら、心配しちゃうでしょう?
……だから、皆いい子で待っていようね』
と、言った。


(´・ω・`) 「だからだよ。
巻き込みたくないんだ、僕の過失に」

ミ,,゚Д゚彡 「…」

(´・ω・`) 「納得できない、か。
…君にも、なにか理由があるのかな?」


ナナシの顔は動かない。
周囲の炎がまた動き出す。
…まるで意志をもっているかのように。


( ´・ω・) ( 親、か… )


ショボンも実の親の顔を知らない。
シャキンとの命の譲り合いを経て、物心付く以前に衰弱して母は亡くなったらしい。
父に至っては後追い自死だったと、後に知った。

とはいえ兄者や弟者、ロマネスク爺、デレとミセリ……様々な大人が、彼には付いて回っていた。
ショボンにとってはそれで充分満たされていたのだ。


(´・ω・`) 「いいだろう。
望んで成った傭兵ならば、相応の覚悟も自然とできているんだろうしね」

ミ,,゚Д゚彡 「一緒に帰ってくれる?」

(´・ω・`) 「その前に聞いてくれ…この世界にはアサウルスという怪物がいる。
人の身も心も喰い尽くす蟻を従える……――


(BGMおわり)
 

491 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 21:11:58 ID:.DLLpjNY0

その話は毎日の平和を享受し、
穏やかに生涯を終える者達には理解できないであろう、荒唐無稽な物語の一欠片。

だが現に、蟻による感染はナナシも先程まで目にした光景だ。
素直にショボンの言葉を信じることができる。


ミ;,,゚Д゚彡 「……いつかは大陸中にも?」

(´・ω・`) 「その可能性はすでに現実になってしまった。
この炎も強くなるにつれて、微かな波動を感じずにはいられない」


結果、どちらの陣営でも同じ状況が発生している。
ショボンとしては、森の民がもはや蟻なのか…
蟻が無差別に仕掛けたせいで、たまたまこの森が失われていくのかも確かめたい。


ミ,,゚Д゚彡 「どうすればいい?
肝心の森の民も見付かってないし…」

(´・ω・`) 「僕の通ったルートにも居なかった。
…ということは答えは単純」

(´・ω・`) 「まだ誰も通ってない場所にいる。 単純明快だ」

492 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 21:12:58 ID:.DLLpjNY0

ショボンの所属する[空の軍]は、
大陸を迂回するように北から攻め込んできている。

対してナナシの所属する[都の軍]は南側から森に入った。


進軍ルートは南北に直進。
森内部の性質によって若干のブレを計算しても、
両軍とも大きく大陸外側へは外れないように指示されていることが、ナナシの話を加えて判明した。


ミ,,゚Д゚彡 「ということは、東寄りを捜せば――」

(´・ω・`) 「違う、恐らくは西寄りだ。
君らは名目上、森の民を守るためにここへ来たんだろう?」

(´・ω・`) 「だったら西寄りの方が可能性がある。
普通なら細かな進軍ルートを、内側だの外側だので現場にいない者が決めやしない」


ショボンは何度目かの空を見上げ、方角を確認する。
……一瞬だが、しかめ面を隠しきれなかったのを、ナナシは見ただろうか。


(´・ω・`) (知っていたんだ、"二人の女王" は。
森の民がいざとなればどこに逃げ隠れるのかを…)


 

493 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 21:14:11 ID:.DLLpjNY0
----------

『       !!』


――遠くに聞こえる叫びの直後、
全ての酸素をマントルの下から引っこ抜くかのような大きく短い音が轟き、
なにかを引き裂くような赤い津波が天高く地走るのを、二人は見た。

炎の壁が天を貫き、逆流する橙が森を深紅に染める。


 「あっちだ!」   三 ´・ω・)

三 ,,゚Д゚彡 「うん!」


日が暮れるにしたがい、明らかに変わる森の雰囲気。

ショボンの動きは速かった。
ナナシも決して鈍足ではないが、
この短時間で何度ショボンを見失いそうになったか分からない。


《大陸に――を呼ぶ―――族め!
我―が王と、――ショボンの名において
皆殺しに―――――!!》


分厚い炎と木々の向こう。
途切れ途切れの叫びが聴こえた。
地鳴り響く、違和感を残す "割れたような音" 。


三 ;,,゚Д゚彡 「……?? なんの音だから」

三 ´・ω・) 「擬態音だ。
こうして離れて聴くとよく判るな…」

三  `・ω・) 「…しかも好き勝手なことを言ってくれる」

494 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 21:15:14 ID:.DLLpjNY0
アサウルスはもちろんのこと。
ショボンが探していた蟻も、蟻に感染し尖兵となった人間も、
本来まともに人語を喋ることは出来ない。

宿主の声帯と知識をほんの少し利用して、それらしく喋るのが関の山だ。


三 ;`・ω・) ( 擦り付ける気か?! 僕とクーに、この事件を… )

三   ;`・ω・) ( …いや、下手をすれば―― )

 

495 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 21:16:23 ID:.DLLpjNY0

赤い森への侵略命令は、
――対外的には "王" であり、極一部の人間のみ知る事実としては "女王"――
から下されたもの。
森の民が利用するであろう隠れ場への誘導も、女王から下されたもの。


[空の軍]……クーの軍。
[都の軍]……敵対する女王の軍


`・ω・) ( 僕がここにいるのは、アサウルスの蟻を探してのことだ。
ハインの伝言以外、クーには話していない )

`・ω・) ( ならばクーは何故、森の民を狙った?
どうして…呪術師を巻き込んだんだ? )


思考の最中。
眼前に迫っていた焔の枝を、首を捻って躱す。

《ゥガァアーーッ!》

転がった丸太を飛び越えつつ、帯熱する岩を踏み台に跳躍すると
茂みの奥から、ショボンを追うように人の形をしたものが飛び出してきた。

黒い首輪、そして黄色の瞳を一瞥するなり腰元からの一閃。
牙剥き出しの口が限界以上に裂けると、蟻と化した騎士はその身から脳と眼球を切り離される。


;,,゚Д゚彡 「ショボン!」

`・ω・) 「分別している! 人なら殺さないさ」


心配とは別の答え。
判断の良さに驚いての咄嗟の呼び掛けではあったが、
それがむしろショボンに対する信用にも繋がろうとしている。

ナナシにとって、人を殺さない戦士が自分以外にもいるのだと。


…ショボンとしては、単にモナーとの約束を果たしているに過ぎないのだが。

496 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 21:24:04 ID:.DLLpjNY0

――呪術師たちの死に場所――


二人が次に足を止めたのは、もはや人の立つ場ではなくなった惨状の跡…。
息を切らせた不死者と青年。


(;`・ω・´) 「…民すら標的か、アサウルス」


周囲を炎でぐるりと囲まれた広場には、紅と碧の和服に身を包んだ人々。
大人だけでなく、まだ幼い者もいた。


              /,, ∀;;;)


翠色の礼服に身を包む父親らしき男の下敷きになった子供が、ナナシにもわずかに見えた。
血にまみれ、辛うじて原形を保ちつつも
その顔は獣に食むられ歪に欠けてしまっている。
誰も彼もが血の池に溺れ、例外なく身を千切られ…
噴血した赤水を啜る蟻だけが、ギラリとこちらを向いた。


三 ;`・ω・´) 「くそ!」

ミ#,,゚Д゚彡 「だあああっ!!」


得物を握り、地を蹴る二人。
神速を誇るショボンと、ナナシの騎兵槍の先端が同じ位置を陣取った時。

蟻が獲物から手を離し、新しくやって来たエサにその牙をカチカチ鳴らした時。



"彼女" は空から降ってきた。

 

497 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/07(日) 21:27:19 ID:.DLLpjNY0
------------


〜now roading〜


( ´∀`)

HP / B
strength / C
vitality / D
agility / E
MP / G
magic power / D
magic speed / D
magic registence / E


------------

508 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 20:53:13 ID:RpgHiXcc0

代々の呪術師が踏み締め歩んだ大地に辿り沸き上がるは
森林を燃やす焔とは異なる、艶やかな丹赤。


「【フレアラー】!」


細く白い腕が鞭のようにしなやかに振られ、
魔導力の軌跡に沿った純紅の炎が扇状に撒き散らされる。


《ッゴアァ?!》
       《ゲキャ――》


炎幕に晒された蟻の群れ。
歪んだその身を怯ませ、
ショボンらに向けて踏み込まんと差し出していた足が止まる。

509 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 20:57:40 ID:RpgHiXcc0

三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
ヽヽヽヽヽヽ\\ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ
ヽヽヽヽヽヽ \\ ヽヽヽヽ ヽヽヽ ヽ
ヽヽヽヽヽヽヽ \\  ヽヽヽ  ヽヽ
ヽヽヽ ヽヽ   \\   ヽ    ヽ
ヽヽ ヽ  ヽ   \\ ズアッ !!
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三

「サポートか、有り難いね」

               \\ ザシッ
         ̄ ̄ ̄`・ω・)   \\
            ∪    \\,,'
            ↑     \
             レ     ,゛`


有無を言わせぬ追撃の【切断】。

一振りで幾重も対象を斬り刻むショボンの技は、蟻の命を容赦なく屠っていく。

――さらに瞬刻、ショボンの後頭部を逆撫でる重力が発生した。


ミ#,,゚Д゚彡 「ふんっ…!」


ナナシを中心にして荒れる一陣の大旋風。
ショボンは振り向かず、額を土に擦り付けるほど低く屈む。

…騎兵槍そのものは空を割くに留まった。
だがその膂力が生む衝撃によって、
炎の壁は煽られ揺らぎ、蟻の宿り主である騎士の身体が浮き上がる。


まだ終わらない。
更にナナシが身体を一回転させ――


ξ゚听)ξつ 「【グランダ】!」

       ――《ブシュッ》
間髪いれず降り注ぐ岩石群。
《ブシュッ》――、肉と骨の狭間から空気をひと欠残さず押し出したような《ブシュッ》音が残響する。

510 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:00:07 ID:RpgHiXcc0
ミ;,,゚Д゚彡 「わっ…と!」


たたらを踏む。
力の矛先を失った騎兵槍が、周囲の熱によってとろけた土を抉った。


(`・ω・´) )) 「っと」


ショボンが一歩下がると同時、岩の墓標が音もなく突き刺さっていく。
地面を伝わる振動。
1つ…2つ……では足りない、場にいた全ての蟻の墓。


ξ゚听)ξ 「これなら生きていても、そうそうには動けないでしょう?」


…言って振り向いた姿は、この場に似つかわしくない華麗さを照らし魅せる。
一呼吸おき、表情を動かさずにツンは微笑んだ。


それはまるで西洋彫刻の像にも似て…。
ふたごじまで見たレリーフの女英雄が単身、
現実に脱け出してきたのではないかとショボンが思うほどだ。


―― ツン。
ブーンと行動を共にする不死者の女。
ショボンとはアサウルス絡みで、すでに面識がある。


ミ,,゚Д゚彡 「み、味方?」

(´・ω・`) 「敵ではないよ。 少なくとも、僕と君よりはね」

ξ゚听)ξ 「久し振りね、ショボン。
こんなところで逢うとは思ってもなかったけれど…」


二人の顔を交互に見るナナシを嘲るように、
再会を懐かしむ不死者の余韻を吹き飛ばすように。
…辺りは爆炎が一層盛り出した。

511 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:02:16 ID:RpgHiXcc0
ミ;,,゚Д゚彡 「あっ!」

ξ;゚听)ξ 「……ふぅ」

(・ω・`;) 「…ゆっくり話す時間も無くて残念だ」


もはや森の大半は焼け落ちて原型をとどめていない。
ショボンらが通ったわずかな道も、ツンの通った空の道も塞がれる。

死屍の転がる広場は今、ひときわ分厚い炎の檻の中と化した。


ξ゚听)ξ 「ただの炎じゃないんだわ…
アサウ…いえ、蟻の性質が本体に近付いているみたいな…」

(´・ω・`) 「同意見だ。 奴も時を経て成長するのかもしれない」


――もしくは、アサウルス本体が降臨しているのか?
ショボンはそんな言葉をひとり呑み込んだ。


(´・ω・`) 「ブーンもここにいるのかい?」

ξ゚听)ξ 「別行動……よっ!」

512 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:04:03 ID:RpgHiXcc0
発言が終わる前に、再び振るわれるツンの腕。

こんどは魔導力の軌跡が蒼く描かれ、淡い粒子を残したかと思えば…
水面に映る泡のように弾けて消えた。
だが、ツンの詠唱はそこで止まらない。


ミ,,゚Д゚彡 「…す、すごいから!」


感嘆の声。
入れ替わり発現したのは巨大な濁流の渦…
宙を起点に、竜巻を起こしながら巡る水槍だ。


(;´・ω・`) ( ここまでのものか、魔法とは )

ξ゚听)ξつ 「突き破るわよっ、【アクアデス】!!」
       ズ ァ ァ
            ァ ァ ァァァ
             
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
ァァァアアアアアアアアアアアアアアア
      アアアアアアアアアアアア

ミ;,,゚Д⊂彡
    「 「 …ぅおぉッ !?! 」 」
(;`・ω・⊂)

        アアアアアアアアアアアア
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三



【アクアデス】…死を冠する水の鉾。
焔を吸い込みながら術者の意思に従い突き進んでいく。

巨大な竜神が頭から檻を飛び出さんと暴れまわる。
着弾の余波が多量の蒸気となって破裂し続け、ショボンらの頬を焦がした。

「少し我慢してよね…!」
と、ツンの声が聴こえた気がした。
…蟻が産み出したであろう周囲の炎檻も、紅い毒を無遠慮に撒き散らす。

513 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:06:45 ID:RpgHiXcc0
    ――だが。


ξ;゚听)ξつ 「…だめだわ! 他の炎とは厚みが違いすぎる!」


術者であるツンには手応えがあり、しかしいま一歩足りないのだと警告する。


「ならば…!」      ̄ ̄`・ω・)

   ミ;,,゚Д゚彡 「ショボン!」


その呼応は素早かった。
止まぬ熱源に突入するショボン。


…しかしナナシが見たのは彼の背中だけではない。
炎との距離を詰めるほど、
無音の悲鳴をあげ、ばりばりとあからさまに捲れていくのは――ショボンの肉と皮膚だった。

514 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:09:40 ID:RpgHiXcc0

「こんなもの――     (`・ω;;


アサウルス本体の咆哮に比べればまだマシだ』

…ショボンが思い浮かべた言葉はただそれだけ。


身体の信号が途切れ、脳が感触を見失い、
目が潰れて何も見えなくなろうかというところで居合いの一撃を見舞う。


「これでどう…だッ」  (;`・ω::


不死の身に宿す風の魔導力をもって、炎の壁を【切


                  断】。



 

515 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:12:18 ID:RpgHiXcc0


ξ;゚听)ξつ 「――   」


……ツンの言葉は炎熱にかき消え、聴こえなかった。

熔けゆく目蓋でショボンがかすかに見たものは、    なおも立ち塞がる炎壁。


             (` ω;;


――まだ路は拓けていない。
こればかりはショボンにとっても想定外だ。


所詮は人の身。
【切断】のリーチが足りていない。
永年生きた驕りが彼の警戒を疎かにしたのか…

それほどに厚があり、圧を持った蟻の炎。


森中を焼く総てのフレアが今、この広場に集まっているとしか思えなかった。
アサウルスの咆哮と同性質を得た焔は、まだ幼いながらも不死者を苦しめる。

…だがあと一息のはずだ。


       (` ω;; ( …もう一撃を)


力尽きる前に放たねばならない。
意識なき得物が推進する。


 

516 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:13:21 ID:RpgHiXcc0


  三三 ミ#,,゚Д つ
       (; ω;; ( …あと一撃を )

 

517 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:14:26 ID:RpgHiXcc0
求める一撃。

それを加えようと迫っていたのは、不死ではない青年だった。

この光景を黙って眺めていられるナナシではない。
魔導力のない彼は、己のちからのみを率いてショボンの真後ろを追ったのだ。

…そして目の前で膝から崩れるショボンの頭上を飛び越える。


              ミ#,,゚Д

` ω;;       その槍…


金色の髪に灯火、身に付けていたプレートアーマーも融けて剥がれていく…。

なのに、その騎兵槍は…――



       #,,゚Д゚ 「ショボンは!


  ショボンは、しぃの元へ帰すから!!」



 

518 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:15:29 ID:RpgHiXcc0


《同胞の魔導力を感じる》


持ち主の意志に反して――


       《喰わせろ… 還してくれ》


       しかし呼応し――


    《ぉお…力が…戻ってくる》


     異なる目的を達成する――。

 

519 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:18:10 ID:RpgHiXcc0
------------


〜now roading〜


(  ∀ )

HP / B?
strength / C?
vitality / D?
agility / E?
MP / G?
magic power / D?
magic speed / D?
magic registence / E?


------------

520 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:21:50 ID:RpgHiXcc0
(推奨BGM:The Wanderer of Darkness)


----------


どれだけ歩いたことだろう。


草花や生木が燃えた匂いに混ざって、人体の焼けた臭いが辺りに蔓延している。
硝煙混じりの暗雲が、狙って顔の高さにまで降りてきたかのような悪視界。

行く先見えない森は、体力も時間も…そして気力も奪っていく。


「だれか、誰かいるモナかーー??!!」


軍ともショボンともはぐれたモナーは、鎮火しつつある灰土を一人進む。
過ぎる時間と共に、足取りもひどく重くなった。
延々とした地化粧の空が、彼を見下ろしている。


「…」


川の流れが止まったかのように静かな森の跡で、ときおり届くのは枯れ木の鳴る音だろうか…。
あれほど盛っていた炎の海も、もう蛍のように残骸を灯すだけだ。
道中、断片的に耳にした誰かの声も、もう聴こえない。


「…はぁ……」


腕も足も限界がきた……。
ついぞ、その場で立ち尽くす。

521 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:22:56 ID:RpgHiXcc0
カサカサと、木っ端が主張するのは惨劇の残り火。
所属を示す黒い首輪が、煤だらけの軽鎧とよく似合った。
…まるで闇に紛れるように。


「なにをやってるモナ…自分は……」


赤い森はもはや荒野と化した。
鮮やかな彩りも、ひたすらな紅も、森の面影はなにもない。

何者にも邪魔されることなく、緩やかな風が吹いた。


「だれか…――

     ショボンどのー!

       ――もう、だれでもいい!
居るなら返事をしてくれモナーー!」

 

522 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:24:02 ID:RpgHiXcc0
虚しく天を抜けるモナーの野太い声。
星のない夜空を見上げれば闇の大地に成り変わり、
空転する意識はそのまま背中から倒れ込みかねない。

モナーの疲れはピークに達していた。

戦場における大声など、
敵に聴かれれば自軍の位置を知らせる愚行でしかないが、彼は叫び続けている。

その声が枯れるまで。


「だれかぁーーー!」


…モナーは名声など求めていなかった。
敵兵に見付かろうと、戦う意思も残っていない。
ショボンに追い付けさえすれば良い。


追い付いて、彼の態度に憤り、肩を掴み、
――『貴方は何を抱えているのか?』
そう問い質すつもりだった。
 

523 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:25:48 ID:RpgHiXcc0
ふと気付いたことがある。
奇しくもそれは、祖父からの伝言と異口同音なのだ。


「はぁ……はあ…はァ………」


感謝を口にしていたはずの好好爺が、
礼ではなく、なぜそんなことを言いたかったのか…
いまのモナーになら判る。


言葉少なげな者が誰しも、心になにかを抱えているわけではない。

他者への気が回らない。
人目が怖い。
そもそも興味がない。

理由は様々あれど
育つ環境と、自身の思い込みによって形成された性格というものも多分にあるだろう。


しかし、ことショボンにおいてはいずれも当てはまらない。
彼は充分に気が回り、他人を恐れなかった。
堂々とした振る舞いで、効率的な物言いをする。
かと思えば…どこか人をくった涼しげな言葉すら操る男だ。


「……疲れたモナね…」


だからこそ何故、あの瞬間だけ…
泣き出しそうな、幼い顔を見せたのだろう?

524 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:26:55 ID:RpgHiXcc0
まもなく夕焼けを喰らい尽くすであろう地平線。
沈む太陽にあやかり、その身を共に伏せてしまうほどに休息を欲した。

頬の触れた大地は、見た目より固く生ぬるい。
倒れ込んだ勢いから不意に口内を侵す泥を、唾液で濡らし乱暴に吐き出した。
何度も、何度も、異物感が拭えるまで。


「…」


脱力感。
モナーの両手両膝が深く土にめり込んでいく。
熱で熔けた土塊がその身を汚すのも厭わない。



横倒しの世界は、
モナーの意識に浮遊感をもたらす。

 

525 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:31:00 ID:RpgHiXcc0


       ――コトン コトン。

工房の扉に取り付けたノックハンドルが、来訪者を告げる音。





     『ごめんください、モナーさん』


(推奨BGM:Ruins of the east)

 

526 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:32:27 ID:RpgHiXcc0


……いつかの夕暮れ時だった。
単身、謝罪に現れた老婦人を思い出す。


声の主は、モナーにアイテム製造を依頼した者の代わりに。
のちのち戦争へと、身勝手かつ想定外に利用した立場の代理として。


『きつねどの?
今日はまだ納めの日ではなかったはずモナ』

イ从,,゚ ー゚ノi、 『王の命とは別件で来たの。
…償い足らずとも、せめて私からだけでも、貴方に謝りたくて』


きつねと呼ばれた老婦人は一礼し、工房の扉を後ろ手に閉める。
一体何かあったものかと…モナーは室内への移動を促した。
彼女に対して警戒心など抱くこともない。


イ从,,゚ ー゚ノi、 『作業中なのにごめんなさいね』


なぜなら…開店して一年ほどの細工工房に彼女が現れるのは、これが初めてではなかったからだ。

527 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:33:37 ID:RpgHiXcc0
国からの依頼が徐々に増えたのは、大陸戦争のはじまる数ヵ月前。

…日に日に増える生産量。
出来上がり次第、納品しては入れかわり舞い込む依頼。
きつねは国からの使者として、モナーの元をたびたび訪ねていた。


普段ならお茶のひとつでも淹れるのだが、その日はきつねの方から謝辞された。
疑問符を浮かべるモナーにゆっくりと彼女は話し始める。


イ从,,゚ ー゚ノi、 『貴方が製造した品々が悪用されているの…。
それを伝えたくて』

528 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:34:51 ID:RpgHiXcc0
『えっ…??』

イ从,,゚ ー゚ノi、 『それとまもなく、城からの官がここを訪ねてくるでしょう』

イ从,,゚ ー゚ノi、 『貴方を、戦場へと連れに』


"悪用" …… "戦場" ……。
どちらもすぐには脳に染み込まない単語。
呆けるモナーを前にしたきつねはうつむき、少し咳き込んで、すぐに顔を上げた。


イ从,,゚ ー゚ノi、 『見てしまったの。
貴方の製造品を手にした騎士たちが、魔導師の集う訓練所で実験していたところを……』

イ从,,゚ ー゚ノi、 『でも、それは――』


魔導力を回復させるマナカプセル。
そして凡庸武器の依頼も含まれてはいたが、その程度の依頼ならば日常茶飯の範疇に過ぎない。
大陸には野生のモンスターが生息し、
その生活テリトリーを破る際には誰しも必要とするものだ。

問題は、他の品の扱い方なのだと彼女は言う。


彼女を通じて城から注文されたのは、
…容器内の水体積を減らすケロロンポーチ。
 兵糧の一部を手軽に運ぶための生活雑貨。
…弱魔導力を乱反射するライトレンズ。
 耐久性にまだまだ改良点はあるが、使い捨ての夜光補助アイテム。


イ从,,゚ ー゚ノi、 『私も先日まで気付けなかった。
ひとえに王を信用していたから。
もし、アイテムをあのように扱うつもりであるなどと最初から知っていれば…』

イ从,,゚ ー゚ノi、 『貴方が庶民の生活に貢献してきたこと…しもじもの者たちほど、よく理解してる。
そして私もその一人でありながら、
故郷と家族かわいさに、上役に逆らうことができなかったの』


イ从,, ー ノi、 『……止められるかもしれない可能性を見捨てていたの』

529 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:36:58 ID:RpgHiXcc0
重力に逆らわず、両手両膝…額まで床に擦り付ける彼女は、幾度も謝罪を口にした。


イ从,, ー ノi、 『ごめんね…モナーさん…。
本当に…面目ない……』


年老いた彼女にも家族があり生活があることくらい、独り身のモナーにも理解はできる。

…しかしなぜこの老女が謝らなければならないのだろう。
頭の片隅で違和感を覚えたが――すぐにかき消した。

よほど職務に忠実なのだと思うことにした。
彼女の態度から多大なる罪悪感が伝わってきたのだから。


そうとも。
きつねは右から左へと、言伝と製品を運んでいたに過ぎない。
職務上やるべきことをしただけだ。


イ从,,゚ ー゚ノi、 『いいのよ。
しがない国の下僕とはいえ、私も無関係ではないから。
それに…この戦争はきっともっと大きくなるわ』


庇う言葉をかけるモナーにも、彼女は首をたてには振らなかった。
――それどころか前髪に隠れて伏し目がちな瞳が、まるで東方の刀のように鋭く映る。
緩やかに歪曲し、しかし美しさを兼ね備える刃。


しかしそれも一瞬のこと。
袖口からチラリと見えた数珠がカラ…と哭いた時、そこにはいつものきつねが映っていた。

530 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:38:56 ID:RpgHiXcc0

きつねはモナーの知るどんな女性よりも不思議な人だった。


老女ではあるが、年月によって刻まれるべきシミやたるみはほとんど見当たらない。
首元のシワを見てはじめて、年齢を推測する材料のひとつに数えられる程に若々しい。


他の人々とは一線を画す雰囲気も特徴的だった。
老いて凛々しく柔らかなその物腰は、自然とモナーの口を緩ませる。


イ从,,゚ ー゚ノi、 『孫は何人も…ええ、おかげさまで。
みんな良く出来た子達でねぇ、こんなお婆になっても元気を分けてもらえるんですから』

『孫かぁ…自分は子供すらできるかわからないモナ』

イ从,,゚ ー゚ノi、 『子供を作るのは女の役目。
貴方みたいな人はどーんと構えて過ごしていればいいんですよ』

『でも…毎日仕事しているだけモナよ?』

イ从,,゚ ー゚ノi、 『いいじゃないですか。
男なら人として、出来るだけ大きな証を遺してみせれば。
生来、女より出来ることがひとつ少ないのだからそれくらい頑張らないといけません』

イ从,,゚ ー゚ノi、 『手の届くことだけでいい…
それだけで、自然と貴方の思い出は形を変えて、次の世代に必ず引き継がれるわ』

『だったらなるだけ長生きしないと。
モナには細工師の道を極める夢があるモナ!』

イ从,,゚ ー゚ノi、 『そうね。
短く儚い命でも、たくさんの人たちに勇気を慈しみを与えたお話しだって世の中にはあるわ。
いつか死んでしまうからこそ、人は頑張れる。
それでいいの。 …それがいいのよ』


仕事中は誰とも時間を作らないモナーだが、彼女とならば不思議と世間話に花を咲かせた。
祖父母や両親が他界してからというもの、久しく無かった小言も心地好い。


だからこそ――何故、他人のために?

531 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:40:48 ID:RpgHiXcc0

モナーの職人としての憤りは胸中に秘められつつ、確かに権力者へと向けられる。

すなわち己から汗をかかず、欲と利権のみを貪る肥えた豚。
心を痛めるのはいつも仕える者たち…利用される側だ。


イ从,,゚ ー゚ノi、 『私は戦争がはじまる前に里に戻るつもり。
…もはやあの王を止められる者は、この国にいないでしょうから』

イ从,,゚ ー゚ノi、 『だからせめて。
乱心の片棒を担いだ "責任" を、老いた私なりに取らせていただこうと思うの』

532 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:42:31 ID:RpgHiXcc0

組織に属した者の世界は、ヒエラルキーによって支配される。

信仰だろうと、
  職業だろうと、
     血の繋がりであろうと。
       たとえ偽りにまみれようと、
天から下される命令を民意と称され、否が応にも従わなければならない。

臆面なくマイノリティという黒羊の皮を被って、人々の心に忍び寄り添ってくる偽善。
気付けば無垢すら色に染まるだろう…背向くものには容赦なく、そして無寛容だ。

きつねをそうしたように。



『きつね? …申し訳ない。
私は本日付けで製品の受け渡しを担当することになった、フサグという者だ。
…まだこちらに来たばかりでね、前任のことは特に知らされていないんだ』


翌日から老女の代わりに来た男は若かった。
礼儀正しく、決められた時間もよく守る。
大陸東の出身で、故郷の山には色とりどりの花が咲き乱れるのが自慢らしい。

…だが彼を知るため交わした会話はそれだけ。

その後、ショボンがモナーを迎えにくるまで、フサグが無駄口を叩くことはなかった。


きつねのように、
フサグとモナーが笑いかけ合うこともなかった。


 

533 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:44:12 ID:RpgHiXcc0
「……ぁ…」


遠ざかっていた意識を戻すと、もうすぐ夜が来ようとしている。
モナーはゆっくりと身体を起こし、大きなため息をついた。

大陸で生活を嗜み、感じてきたことを思い羅列する。


霊長類どころか、指先ほどの虫たちと変わりない管理社会。
共感を強いては個を認めない。
かと思えば一部の例外者の成功だけを模倣し、いつのまにやら我が物顔で共有を語りだす…。

もしも虫呼ばわりが無礼ならば。
獲物を無理矢理にでも地に組伏せるその様は、かの肉を喰い千切る獣と何が違うのだろうか。


『さようならモナーさん。 イ从,, ー ノi、
どうか貴方は自分に精一杯、忠実に生きて……』


……以来、きつねがモナーの元に現れることはなかったが、
彼女のことは今でも印象深く、モナーの確かな記憶に刻まれている。


だからこそ、あの日のきつねと先のショボンに、似た影が差していたことを気にかけた。
立ち上がり、乾きつつある泥も払わず、モナーはもう一度叫んだ。


「人がいるなら、早くこの森を出るモナよー!」


…喉の奥が痛んだ。
胸中は不自然なまでにざわついている。


「……誰か、誰でも、いい…。 もう、…」

534 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:46:38 ID:RpgHiXcc0
それきり暫し動くこともできないまま、
改めて自分が今、なにをしていたのかを俯瞰し、とうとう自覚してしまう。


「……最低モナ」


モナーが本当に捜していたのはショボンではない。
―― "森の民を連れて帰る" 。
そんな大義名分だ。


このまま独りおめおめと戻れば、
混乱に乗じて軍を離れた臆病者の称号とともに、
戸の立てられぬ噂の的になるのではないか…。

軍師として大陸戦争に貢献していたショボンとは違い、たかだか一介の細工師。
戦闘の実績もなく、提供した製造品も己の意の通りに使われた試しがない。

頭のなかではシルエットの群れがモナーを囲み、こぞって指をさしていた。


「自分以外を利用して…」


身震いする。
かつてのきつねの言葉が心を苛んでいく。
記憶を写した羊皮紙が虫喰われ、不規則な穴をあけるように。

535 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:48:20 ID:RpgHiXcc0
嘲笑は恐くない。

だが…祖父から受け継ぐ一族の信頼を、自分の代で失うことを彼は最も畏れた。
生きた証を遺すため、自身に忠実に行動した結果が "誰かを利用する" ことになろうとは。


……果たして、そんなモナーが遭遇する。


       「だれか、いるの?」


「!! 子供の声…どこにいるモナか?!」


       「……ここ」


跳び跳ねる心音を抑えつつ、消えそうな声を頼りに近寄るのは
焼け残った樹木、木炭、廃材の数々が崩れ重なったバリケードのような殻。

モナーには知り得ない、人為的に造られた天岩戸。


中からは出られないのだろうか。
モナーが瓦礫を取り崩す音だけが響く…軽く触れただけで、ガラガラと。


「あとすこし…っ、待ってるモナよ!」


(推奨BGMおわり)
 

536 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:49:45 ID:RpgHiXcc0

廃瓦礫の隙間から姿を見せたのは、
軍員には含まれるはずもない、まだ小さな男の子だった。


「君は…ひょっとして森の子、モナね?」

「……」


子は答えなかった…しかしそうなのだろう。
怯えているのか、眼球が落ち着きなく揺れている。

モナーは膝を抱えて震える子の手をとり立たせると、
少しでも安心させるように目線を同じくした。
全身煤だらけではあるが、穏和そうな顔つきの男の子だ。


「怪我はしてないモナか? 痛いところとか…」

「……」

「大丈夫、なにもしないから。
とはいえ森はこんな状況モナ…」

「…」

「またなにが起こるか分からない。
次に炎に囲まれたら、モナーだって逃げられるか判らない…だから――」

「もう……いやだよぉ」

「…ぁ」


みるみる表情が崩れていたかと思うと、子は膝を折って座り込んでしまった。
隠しもしない嗚咽が、モナーの耳に嫌でもこびりつく。


「ぅわあぁぁああん……あぁぁん………」

「モナ…」

537 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:51:50 ID:RpgHiXcc0

しばらく立ち尽くすも、泣き止まぬ幼な声は時間だけを食し続ける。
困り果てたモナーはやがて意を決するようにもう一度、子の腕を握りしめた。


「泣いてたって、なんにもならないモナよ」

「ぐすっ…ぐすん……」

「モナは人を追い掛けてたんだけど…
でももうここを出た方が絶対にいい。
君の親も、もしかしたら森の外で待ってるかもしれないモナよ?」

「……」


沈黙、


「    …嘘だ」


拒絶。


「モナ?」

「おとうさんも、おかあさんも……ぼくの目の前で殺された」

「――!!」


子の目付きが鋭くなる。
黒く、深く…。
まだ小さく未発達な瞳の奥で、
眉をひそめるモナーを映した瞳孔だけが明らかに大きくなった。

538 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:52:57 ID:RpgHiXcc0
「……その首輪、おんなじだ。

おしさんたちが……お前たちが…!

お前たちが!! おとうさんとおかあさんを!!」

「…ちょっ…ちょっと落ち着くモナよ!
モナはただ――」

「ゆるさない…!」


立ち上がり、我を忘れ、怒りを "増幅" させられた、
生き残りである呪術師の子が右腕を大きく振りかぶる。


    「 赦 さ な い ! 」

 

539 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:55:11 ID:RpgHiXcc0
森に蔓延していたのは蟻の炎だけではない。
紅蓮を失してなお、この時点においては
"人の心を先走らせるなにか" が充満していた。


呪術師の子には "恐怖" と "恨み" 。
モナーには "焦燥" と "諦観" 。


    「「 うわあああ!! 」」


重なる叫喚。
危害を加えるべく降ろされ、それを防ぐべく振り上げられた…大きさの異なる手と手の狭間。

赤子の頭を潰すかの如く、ひしゃげた人形が嗤い歪んだ。


それは呪術師が造りあげた、子供たちへの儀式のための人形。
泥を詰め、髪を添え、生まれた使命を果すために……



練り込められた魔導力――【ドレイン】。

540 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:56:33 ID:RpgHiXcc0
生起せし呪術のトルネイド。
二人の目に映る景色は闇に染まり、血に埋まった。
赤黒い魔導力が煙となって蒙蒙と噴きあがる。

最後にモナーが知覚出来たのは、食い込んだ指先に当たる泥の感触。


「ぐああぁぁああ…ッッ!!」
「うわぁあーーー!!」


異なるオクターブによって彩られる悲鳴。
発動した【ドレイン】から逃れようにも、指が人形から離れない。

二人の身体を行き来する魔導力が、二色の勾玉となって巡り廻る。
ぐるぐる…ぐるぐるぐるぐる…と。
息をするように吸い込まれ、頭を垂れては吐き出される輪転の波動。
二人の身体が意思とは裏腹に、ゆらりがくりと揺れ動く。

    吐血するモナー。


「モナ…ァあが…が…――」


…呪術師の人形。
天の恵みである雨水。
赤い森で採れる恵みの土。
それが混ざった時に出来る "泥" ……。

その泥に練り込まれる呪術【カース】と、
人形の穴を塞ぐ際に使われる、髪と糸に編み込まれた呪術【プーラ】によって、
はじめて儀式のための準備が出来るのだ。

    皮膚を突き破らんと盛り上がる管。
    行き場を失いかけた血が、
    ここぞと爪先から噴き出し始める。


( まさか…このまま死ぬ……モナか…?? )

541 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:57:18 ID:RpgHiXcc0
    呪術師の血をひかないモナーには
    禍害にしかならぬ、赤黒い魔導力。


【プーラ】とは身代わりの呪術。
一族を想う気持ちが強ければ強いほど、その効力も大きくなる。
護られる対象は、一定量のダメージならノーリスクでやり過ごすことができる。


「痛いよぉ…おと…さん、おかあ、さ……」

( 死にた…くない……モナ、… )


    モナーの腕がだらりと下がり、
    そのいかり肩を、子におぶした。
    魔導力が往来の速度を増す。

542 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:58:35 ID:RpgHiXcc0

【ドレイン】の波動は群を抜いて異質だ。

【プーラ】に護られているはずの子供たちですら、例外なく哭き叫び、気を失う。
宿す魔導力をかき回され、精魂尽き果ててしまうのだ。

…モナーを巻き添えにし、意図せず儀式を開始したこの子も同じく。
いまは歯を食いしばって目の前の仇に意識を向けるので精一杯だった。


呪術師たちはなぜ儀式に人形を使うのか?
それは【ドレイン】の循環によって失われる生気を少しでも還元するためだ。
命なき人形が得られないエネルギーは、元あった子供の身体へと帰還する。


( …――ぁ   う  )


それなのに、今はモナーという存在が加わっている。
【ドレイン】によって二つの魂は、悪戯に混ざろうとしていた。
適正もなく、身代わりの呪術もないモナーでは、そもそも【ドレイン】に堪えられない。


…弱っていた彼の魂が、やがて呪術師の子へと片寄り始める。


( ――たく…ない、死にたくな――…ま、だ、やりたい  こと …が          )


 

543 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 21:59:33 ID:RpgHiXcc0


モナーの記憶から、



             《工房》…

《祖父》…

       《故郷( ルーツ )》…

 

544 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 22:00:33 ID:RpgHiXcc0

消えていく、




   《(´・ω・`)》…



             《隕鉄の刀》…

 

545 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 22:01:45 ID:RpgHiXcc0

流れ出ていく、





       《イ从,,゚ ー゚ノi、》



生きた証。


 

546 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 22:03:42 ID:RpgHiXcc0


 

547 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 22:05:17 ID:RpgHiXcc0


…やがて。
赤い森の片隅で、静寂はその力を取り戻す。
赤黒い渦は粒子となりて、
闇中をか弱く羽ばたく蛍のように空に散った。


細かな魔導力が飛び立ったであろう大地。
そこには独りぼっちの生命が、所在なさげに膝をついていた。

傍らでは植物の画が施された黒い首輪をはめる青年が静かに横たわる。
青年が伸ばした腕…その先で、なにかを掴まんとする掌はもう動かない。


彼の魂は途上ながらにして
もうひとつの可能性に満ちた男子に献上された。

記憶…そして存在意義も。




       【ドレイン】




人生はしばしば川の流れに例えられる。
大海に出る路もあれば、いつかは尽きる路もあるだろう。


モナーという人間はこの日、この赤い森で、その路をたしかに閉じた。
 

548 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 22:06:22 ID:RpgHiXcc0



       ( ´∀`)



モナーの死を眺めるのは、
同世代である仲間たちの儀式を横目に脅え、なにもできなかった小さな独り。


人形ではなくモナーという青年を通して、今しがた【ドレイン】の儀式を終えた男子。


呪術師の一族として後継されし真実なる生き残り…
その彼に、生きた証の総てを託してモナーは絶息した。



   ( ´∀`)



『死にたくない』――。
渇望してなお、願いは叶わなかった。

しかしまだ呆けている生命の中で、モナーという路が新奇に創られようとしている。




( ´∀`)「……この人のこと、頭に流れ込んできた…」


(  ∀ )
 

549 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 22:08:03 ID:RpgHiXcc0

( ;∀;)「ごめ、ごめんな…さい」


屍に向けてはじめて口にしたのは、贖罪の言霊。


( ;∀;)「この人は…もっと生きたかったって…。
ぼくと、おんなじ……もな」


( ;∀;)「…?… 一族を大切にして、でも、こわくて、お母さんがぼくを隠してくれて」


"結魂" した記憶はまだ結合しきらない。
しかし、それも時間の問題だ。


( ;∀;)「ごめんなさい、ごめんモナ、ごめんなさいモナ…――」


モナーという青年の抱いていた夢と願望に惑わされながら、
自らの名もまもなく思い出せなくなる呪術師の一族。

やがて慟哭止まぬまま歩きだす。


「…うぅ〜〜…――」::( つ∀ )::



「ぅぁあァあん……っ――!」 ::( ;∀ )::




その足は無意識に森の出口を目指す。


小さな後ろ姿。

一度…二度、大きく深く呼吸して、
彼は地平線の彼方へと消えていった…。



 

550 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/06/24(水) 22:08:54 ID:RpgHiXcc0

----------


ξ゚听)ξ

HP / G
strength / A
vitality / C
agility / D
MP / B
magic power / C
magic speed / C
magic registence / H


------------

559 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:16:31 ID:GBXca2Xg0
(推奨BGM:)



----------


( 熱が…ない? )


その身へと、徐々に五感が戻る感触を得た。 狭い痛みを確かめながら目を開く。

視界の端…いや、近すぎてぼやけているのだろう、
白く優しい光に包まれたショボンの身体に降り注ぐ【ヒーラ】の魔法。


背後にいるであろうツンに感謝し、まずは状況の把握に努めんとした。
眼球を右へ、左へ…上にも巡らせる。
灰色の夕暮れが、鉄色となった大地に抗っている。


(´・ω::) 「なるほど」


脳への情報は少ない方が整理しやすい。
ショボンを渦巻いていた炎は一切の動きを止めている。


ξ;゚听)ξつ 「……消えた、けど――」

(´・ω:: ) 「…?」


獄炎を演出していたはずの広場は音を無くし、元凶すらも姿を失っている。
見渡せば月明かりも届かぬ冥い大地…。
人と蟻――と化した騎士――の屍床。

炎壁が遮っていた向こう側も、たった一点を除いて同じ光景があった。

560 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:18:02 ID:GBXca2Xg0

       「…あなたたち、何者?」


まだ人であることを証明するかのように、明確な発音が届く。
その女性の長髪、そして長袖の紅い礼服に身を包んでいるおかげで呪術師を推測させたが、
距離が離れているため、ショボンにはその表情まで読み取れない。


ツンから見るに母親なのだろう…頭部だけになった血塗れの子を大切そうに抱えていた。

            :::д/:川


       「いえ、それよりも…――

ξ;゚听)ξ 「…」

      その子から…離れて…っ!」


女呪術師が指をさす。
その方角には――


「……ナナシ?」 (;´・ω::)


 

561 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:19:55 ID:GBXca2Xg0


       ミ,,●皿●彡


(;´・ω::) 「ナナシ…!」



彼が無造作にぶら下げる騎兵槍は蒸気を噴き、煮えたぎるよう赤く染まっている。
…碧色の死者をその尖端に深々と突き刺して。

自らの意志で人を刺したことのなかったナナシの腕から洩れ放たれる、明確な殺意。


(;´・ω::) 「ツン、何が起きたんだ?」

ξ;゚听)ξ 「彼が薙いだ瞬間、その槍が "吸い込んだ" のよ、辺りの炎を全部」

         「…感染したんだわ、
         この兵士たちのように」


ナナシのとる姿勢は、人間たる骨格を差し置きまるで四つ足獣を体現する。
赤熱の騎兵槍と相まって、見る者の恐怖心を煽った。

関節の可動限度を超えた首がグルンと逆さに捻れ、二人の不死者をその瞳で貫く。
――眼はまるで呪術師の瞳孔。
   ――覗かせる牙は蟻を連想させる。


       ミ●皿●,,彡


怪するナナシを挟んだ反対側、女は抱いた娘の額に軽くくちづけた。
別れも惜しまず、礼服の胸元へと小さなそれをしまう。


「……あなたたち二人は "まだ人間" なのね?!
逃げて! どうせもう私たち一族は助からない」

「空の王、そして軍師ショボン!
その二人が滅ぼしたわ、怪物を使って!
それを伝えて欲しいの!」

562 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:21:01 ID:GBXca2Xg0
森の民らはショボンの姿を知らない。
目の前に偽られし仇がいるとは思わず、呪いを託す。


(;´・ω・) 「…」

ξ;゚听)ξ 「諦めちゃダメよ!
私がそっちに行くから、待――」

           「逃げてーーー!」


             ̄ ̄ミ,,●皿●彡


遺言代わりの懇願が木霊する。
ナナシの身体…いや、 "騎兵槍が女の元へと低く滑る" 。
煙を噴き上げ、淡い軌跡を直線に伸ばさんと触手の残像をなびかせながら。


…恐らく、過去争いなく過ごしてきた平和な森の民に、それはどう映っただろう。

祈り捧ぐ天国への閃光か。
無慈悲な地獄の終着点か。


       ――《グしゅリ》…。
再び人間を貫く騎兵槍の醜い音は、身体に穴を開けた者の耳にだけ届いたに違いない。
 

563 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:22:53 ID:GBXca2Xg0

「あ…あ…」


わなわなと、ふるえる唇。


「あなた…――」


ミ,,●皿●彡 「……」



苦虫を噛み潰す表情のショボン。
ツンは詠唱していた回復魔法を放たず、手中に保留している。

そして女は小さく口を開け、背中から生えたその赤い翼をただただ見つめていた。




(;´-ω・`) 「――……」


騎兵槍が喰い破ったのはショボンのわき腹。
女に辿り着く前、神速を以てその身を庇っていた。

564 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:23:41 ID:GBXca2Xg0
ミ,,●皿●彡

(;´-ω・`) 「…ナナシ、目を覚ますん――

::(;´ ω ):: ――グ…おぉお お お ッ!!」


発火量を増幅させる騎兵槍。
ショボンを内部から焼き付くさんと、更なる魔導力を放出する。


ξ;゚听)ξつ 「【ヒーラス】!」


【ヒール】、そして【ヒーラ】を超える最上位回復魔法【ヒーラス】を発動させるツン。
素早く、そして大きな光がショボンに染み込みはじめた。

…しかしこのままでは盛り続ける騎兵槍からのダメージによって、
癒しの魔導力もすぐに相殺されてしまう。

――それでもショボンは。


「…三日月島の時から、」


(;;`・ω メ 三  ( ズリュ…ッ )   ミ●皿●,,彡


その僅かな無痛の瞬間を利用し、騎兵槍ごとナナシを突き飛ばす。
槍という外装で不死の血を舌なめずりし、名残惜しそうに騎兵槍がケタケタと嗤った。


(;;`・ωメ) 「思っていたけれど、よくぞここまで気が利くものだねツンは。
…でもまたこうして助かった、礼を言う」

ξ゚听)ξ 「ショ――…うがないでしょう。
でも、どうしてナナシは……」

565 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:25:25 ID:GBXca2Xg0
思わずショボンの名を呼びかけそうになるツンだったが
呪術師の手前、寸で止めた。
ヘタな誤魔化ししかできなかったのは、言い換えて彼女の誠実さにも繋がっている。


(;;`・ωメ) 「…」


ショボンの脳裏には、時を遡り集束していくひとつの答えが導かれつつあった。


炎の壁に挑むナナシの姿…騎兵槍…。
形状は異なるはずが、
石突きとなる柄頭に刻印された金糸を確かに視た。


それは三日月島で末者がしたためた槍とまったく同じ印。


「…貴様、あのときの小僧か」 ミ●皿●,,彡

Σ (;`・ωメ) 「――!?!!」

「久しいが…
     忌まわしき不死め」 ミ●皿●,,彡

566 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:26:06 ID:GBXca2Xg0

――赤い森の惨劇よりも、


ξ;゚听)ξ 「…」


――呪術師たちの怨みの矛先になるよりも、


「あの日以来、永く意識を失いはしたが
時を経ても貴様に逢えたということは…
これが相剋というものか」  ミ●皿●,,彡


――ショボンの心を蝕む邂逅。


(;`・ωメ) 「…人語を、理解しているのか」

「魔導力さえ喰えれば、
他は貴様らとなんら違いない」 ミ●皿●,,彡

567 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:27:09 ID:GBXca2Xg0

…かつて末者が黒い棒として加工した隕鉄は、いわばアサウルスの卵だった。
しかも、魔導力の空っぽな生きた屍。

それが別個体のアサウルスの太陽と接触した際、
ごく僅かな魔導力を得たことにより、生物としての反射行動を起こした。


「あの日、邪魔さえ入らなければ
貴様を媒体に降りたものを…」 ミ●皿●,,彡


結果、アサウルスの本能は最も身近にあった物体を餌に喰らおうとする。
…それが単なる騎兵槍であったことが、このアサウルスの不幸。


(;#`・ωメ) 「邪魔……だって?」


ショボンは悟る。
目の前にいるのが幼き自分に飛来した、あの黒い槍であることを。

…兄者の仇は、この固体こそなのだと。


「可能性をいくら持てども、人間のままでは駄目なのだ。
蟻を生む排泄物にしかならぬ」 ミ●皿●,,彡

ξ゚听)ξ 「……」

(;#`・ωメ) 「…兄者さんのことか?
兄者さんは僕の恩人だ、お前の餌なんかじゃ――」


だが飢えはアサウルスを殺さない、殺せない。
意識なき100年余りの刻は天災に幸をももたらす。


「我は、貴様だ」       ミ●皿●,,彡
 

568 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:28:06 ID:GBXca2Xg0
ξ-听)ξ 「…」

「あなたたち、なんの話をしているの?」


女呪術師はただならぬ雰囲気を感じつつも想像には至らない。
先とは異なり、今度はツンが黙しつつも密かに【ヒール】を放出した。

呪術師の傷が柔らかく癒えていく。


(;#`・ωメ) 「……なんだって?」

「貴様が産まれ、我も産まれた。
我々は純粋にエネルギーを欲し、不死たる
貴様らに惹かれているだけ…」 ミ●皿●,,彡

(;#`・ωメ) 「…」

「長く生を得れば知識も増える。
永く命を保てば理も身に付く」 ミ●皿●,,彡

(;#`・ωメ) 「不死者の数だけお前たちが生まれるのか?
だったら…ナナシから離れろ」

「この人間なぞ媒介に過ぎない。
我が身は未だ封じられている」 ミ●皿●,,彡


ナナシの口で語るアサウルス。
かざし示す騎兵槍は尚も炎熱し、蒸気を炊いた。
内包する忌々しさを代弁するかのように。

569 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:29:46 ID:GBXca2Xg0
「…が、我を一介の獲物扱いなど癪にさわる。
このまま生きるも一興か」   ミ●皿●,,彡

(;`・ωメ) 「恐らくナナシはなにも知らず、その騎兵槍を使っている」

(;`・ωメ) 「…お前にも理があると言ったな?
彼には彼の人生がある。
用があるなら代わりに僕の身体を直接使えばいい」

ξ;゚听)ξ 「ちょっと…!」

「……そうして内に秘めた我を殺すか?
あの日、この身を利用してまで我が
同胞を葬ったように」     ミ●皿●,,彡


「ならばこの者もしかり葬る」 ミ●皿●,,彡


(;#`・ωメ) 「彼を巻き込む必要はない!
お前達の目的は僕だろうっ!」


「その通り。
我らアサウルスにとって、人間は路傍の石にも足りえぬ。
欲するは不死の生命のみ」   ミ●皿●,,彡


「我らは各々、不死と同一…相剋の存在。
――だがしかし」       ミ●皿●,,彡


ナナシの躯の構えが変わる。
腕を引き、腰を落とした半身の態勢…。

570 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:31:21 ID:GBXca2Xg0
「貴様はひとつ、運命を反故した。
故に我も禁を犯そう」     ミ●皿●,,彡

(::`・ωメ) 「…運命の反故、だって?」

「すなわち相剋の黙殺。
我々アサウルスは定められし天敵のみと争うべきなのだ。
弱肉強食…
魔導の理を貴様が失した」   ミ●皿●,,彡


騎兵槍からたぎる炎が更に強大に膨れ上がった。
   …一変する空気。
静まったばかりの広場も再び赤く染まると、
既に刀に手をかけていたショボンの姿も照らされる。

その時既に、両者の射程圏内。


   ̄ ̄`・ωメ) ( …ナナシ、頼む! )


「貴様に関わるものすべて我らの大敵と知れ」


       ミ●皿●,, ̄ ̄ ̄

 

571 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:32:03 ID:GBXca2Xg0
アサウルスが操るナナシのランスチャージ。
纏うは咆哮の業火球…
それも見上げんばかりに強大な灼熱のメルト模様がナナシの姿を覆い隠す。


対する【切断】。
蟻の炎の壁すら届かなかったこの技術では相性が悪いことをショボンも自覚している。

…ブーンの【破壊】であれば、この火球を打ち崩せたかもしれない。
しかし居ない者にすがることは出来ない。

なにより、これはショボンの闘いなのだ。



    ̄ ̄`・ωメ)   ミ●皿●,, ̄ ̄


ショボンは立ち向かう。

自らの落とし前をつけるべく。
天敵を滅ぼすべく。
仇をとるべく。

衝突間際。


【切断】を、相手の精神に作用させた。


 

572 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:33:26 ID:GBXca2Xg0



       ミ●皿●

 

573 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:34:20 ID:GBXca2Xg0

        ●Д゚,,彡 「――!!」

 

574 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:35:34 ID:GBXca2Xg0
魂を乗っ取っていた共有意識が【切断】された時間は瞬きの間にも満たない。

しかしその一瞬がナナシ本体の抵抗を生んだ。
ランスチャージはガクンと勢いを失うと、身体をわずかに宙へと浮かせる。


        Д゚,,彡 ( ショボンを… )


ナナシの目的はしぃのため。
幼馴染みの願いを叶えるためだけに、ショボンにすら斬られる覚悟も厭わない。
アサウルスはまさしく路傍の石につまづいたのだ。


そして――


       ̄ ̄ ̄ ̄`・ωメ)


未だ業火球は健在。
これこそツンの【アクアデス】に加えてショボンの【切断】にも耐えた、
あの分厚い炎の壁を【リフレクト】している。


ξ#゚听)ξ
 つ∴o キュゥゥ


ならば同じことを繰り返したところで往々にして無駄となる。
それでも、ツンは詠唱を止めていなかった。

575 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:36:23 ID:GBXca2Xg0
ξ#゚听)ξつ サッ


…ツンもそれは重々承知している。
自身の魔導力では足りないのだ、最大級の魔法をもってしても。
不死であろうと至らぬものは認めなくてはならない。


         ・・・
だから、唱えるのはこっちだ。


ξ#゚听)ξつ 「【ライブラ】!」
 

576 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:38:06 ID:GBXca2Xg0
攻撃力をもたぬ補助魔法…。

掌から生命感知の波動が放たれると、元は一つだった光の塊が枝分かれに分離した。


緩くも速く着弾し、同時に発光。


呪術師の女、
ツン、
ショボン、
ナナシ、

――騎兵槍。



( そこか…ッ! )   ̄ ̄ ̄ ̄`・ωメ)



業火球と槍の中に身を隠すアサウルスの生命が、その在りかを輝き示した。
…それだけでいい、総てを斬る必要はないのだから。

・・・・・・・・・・・・・
アサウルスだけを斬ればいいのだから。


いまのショボンに事足りる、どんな攻撃魔法より強力で頼もしい最大のサポート。

577 名前: ◆3sLRFBYImM [炎の中――] :2015/07/12(日) 22:39:25 ID:GBXca2Xg0


       ,゜..
     "`\\ 
       \\
        \\

578 名前: ◆3sLRFBYImM [アサウルスが――] :2015/07/12(日) 22:40:46 ID:GBXca2Xg0

            \\
             \\
              \\


               (`・ω:メ)
                  ∪
                  |

 

579 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:41:36 ID:GBXca2Xg0

ξ;゚听)ξ





ミ●皿●,,彡





        「…手応えは、」 (・`ωメ´::)
 

580 名前: ◆3sLRFBYImM [――グッグッと、嗤う。] :2015/07/12(日) 22:42:31 ID:GBXca2Xg0


           ゴフッ ;`, (゚ωメ´::)


ξ;゚听)ξ 「!!」


ショボンにも手応えはあった。
――それでも。
喉を迸るのは、抗えない五臓の悲鳴。
色を失くした呪術師の森に赤い色を返り咲かせる。


ミ,,●皿●彡 「狙いは良かったのだろう。
だが伝えたはずだ…
"我々は天敵のみと争う" べきだ、と。」


ミ,,●皿●彡 「我は貴様にとっての相剋だ」


ナナシを包んでいた、散り散りに火の粉舞う魔導力…。
再び意識を共有化したアサウルスが騎兵槍を肩に担ぎ、ショボンへと向き直った。

581 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:43:58 ID:GBXca2Xg0
「…な、何が起こったの? 彼はどうして…」

ξ;゚听)ξ ( ……【切断】は風の魔導力、でも―― )


魔導力には属性が帯びられる。
火は水に、水は土に、土は風に、風は火に…それぞれ相剋の関係によって喰われてしまう。

照らし合わせるならば、
そもそも炎の壁が【アクアデス】に耐えた違和感に、ツンも気が付いた。


ξ;゚听)ξ ( 【リフレクト】にしても理に適っていない。
アサウルスがキズを負った形跡も、反射ののタイムラグもない )


ショボンへのダメージは更に不可解だった。

アサウルスはショボンに対して攻撃をヒットさせたように見えなかった。
先の接触は【切断】の一方的なアタックではなかったか…?


ショボンの手から隕鉄の刀が滑り落ちると、同時にその肘から先も共に沈む。
千切れた片腕からドロ
          ッ…
            と、血溜まりが大地に円を描いた。


               ::(-ωメ´:;;)::
              ハア ハア

ミ,,●皿●彡 「利き腕がなければ、もはや得意気に剣技も繰り出せまい。
…最も、あろうとなかろうと同じ愚行を繰り返すだけだが」

            「…」 ::(゚ωメ´::)::

ミ,,●皿●彡 「不死とて死は一時訪れる。
だから我は死を与え続けよう……
貴様に、命脈刻む暇すら与えぬ矛盾の命を」

582 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:44:39 ID:GBXca2Xg0

アサウルスの意思の元、ナナシの身体が一歩前に出る。


       ( これは違う…。
【切断】のダメージじゃあない ) ::(゚ωメ´::)::


騎兵槍の尖端が届くとき、
ショボンの心臓なり脳天は貫かれるだろう。




( ダメージだけ切り取って具現したような…
反射ならこの感触は有り得ない ) ::(゚ωメ´::)::


波動感知に長けるショボンにとって、自身の魔導力と特性を見誤ることは考えにくい。
かといって、アサウルスだけが無傷のカラクリも判らない。


,●皿●彡


現実は容赦なく迫ってくる。
もはや避ける体力など残っていない。
近づく死に抵抗すべく、視界は緩慢な時の流れを映し出した。


    ( 相剋…… 天敵…… ) ::(゚ωメ´::)::

583 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:45:54 ID:GBXca2Xg0
ショボンは思考を走らせ続けた。
違和感をヒントに、目の前の危機にギリギリまで抗う。

…アサウルスの歩調が変わる。


  ミ,,●皿●彡

( 存在… 不死と、アサウルス ) ::(゚ωメ´::)::

ξ;゚听)ξつ 「【ウィンダラー】!」


逃げられないショボンを救うべく動くのはツン。

【ウィンダラー】…広範囲に巻き起こる魔突風とカマイタチ。
アサウルスを中心に添え、溶け残る鎧の隙間、肉を切り刻んでゆく。


     ::ミ,,●皿●彡::

ξ;゚听)ξつ 「くっ…」


…しかしその歩みを阻害するには至らない。
ギチギチ軋む音をたてつつも、発生した慣性に逆らい前進するアサウルス。
顔を歪ませ、握り直した騎兵槍を――


         ミ,,●皿●彡 「!」


――正面に突き出して…虚空に触れた。
そこにあったはずのショボンの姿が無い。


(;´-ωメ:) 「……ぅ…」


静かに首を振った先、
【ウィンダラー】の余波に吹き飛ばされた不死の青年を改めて捉える。

584 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:46:57 ID:GBXca2Xg0

アサウルスはゆったりとした動作で振り向いた…。
焦る様子はない。
背負う月と濁った星光…
そして宵雲に潜む二つの太陽がなおも健在している。


「……娘…小賢しい真似をするな」 ミ●皿●,,彡

ξ゚听)ξ 「…」

「貴様も我の因果に含まれたいか?
余計な手を出さず、望みさえすれば
まだ長生きさせてやるが…」 ミ●皿●,,彡

ξ゚听)ξ 「…?」

ξ゚听)ξ 「そうね、お願いしたいわ」


交わす言葉とは裏腹にぶつかる視線、退かぬ不死。
蚊帳の外にいる女呪術師だけが後ずさりした。


【ウィンダラー】の狙いはアサウルスへの攻撃でなく、ショボンの緊急回避。
ダメージを伴いはしても、まだ死にはしないと踏んでのこと。

…そしてそれは思わぬ副産物をツンに与えたらしい。
表情から焦りが消える。
睫毛をはじかせ、勝ち気な眉をますますつり上がらせた。


ξ゚听)ξ 「他にも試してみる?」

⊂ξ゚听)ξ 「…【リジェネ】」


挑発する仕草でそのしなやかな腕をユラユラと揺らしたかと思えば、
流れる動作で魔法を発動する。


(;´-ωメ:)

585 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:48:17 ID:GBXca2Xg0
光の魔導力がショボンを包む。
――反応はそれだけだった。


          「……」 ミ●皿●,,彡

「ククッ、知恵は回れど実力が追い付かぬか。
弱々しき癒しの波動よ」    ミ●皿●,,彡

ξ゚听)ξ 「逃げて。
森や皆は残念だけど…貴女だけでも生きるのよ」

586 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:49:19 ID:GBXca2Xg0

「……えっ」


認識には一呼吸分の時間がかかった。
女呪術師が、場にそぐわぬ声をあげる。


ξ゚听)ξ 「大丈夫。
せっかくアサウルス様が長生きさせてくれるっていうんですもの」

ξ゚听)ξ 「ねえ?」

         「……」 ミ●皿●,,彡

ξ゚听)ξ 「ほーら、認めてるわよ」

「……」


そのやり取りに、
心中を困惑させながらも女呪術師は、一歩…また一歩と下がっていく。
視線はそれぞれに泳ぎ、やがて無防備な背中を晒しながらこの場を離れる。

自身の娘に向けていた別れの口づけとは対照的に、名残惜しそうに振り返っていた。

ツンに向けては申し訳なさそうに…。
アサウルスに向けては怒りの矛先として…。


              ミ●皿●,,彡


アサウルスは静かにそれを見送るだけだった。

騎士道精神では決してないだろう…。
とはいえ、意識を朧気とさせるショボンの薄目に入るアサウルスがとても人間臭く映った。
 

587 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:50:07 ID:GBXca2Xg0

ξ゚听)ξ 「…    さて、と」


女呪術師が居なくなるのを見届けると、
ツンは逆手に指を絡ませ、リラックスするかのように伸びをする。
   《カチャリ…》。
騎兵槍から突撃準備の鐘鳴。


「不死すら敵わぬ我に、人間が
随分と余裕を見せるものだな」 ミ●皿●,,彡

ξ゚听)ξ" 「あら、アサウルス様?
ご存じ無いのね……」


ξ゚听)ξ 「【コンフュ】!」


伸びをしたまま――指先から放たれるは、神経回路の混濁魔法。


        「?!」 ::ミ●皿●,,彡::
            ドクンッ

色彩なき横倒しの刃が騎兵槍を貫通する。
直後、アサウルスがよろけ始めた。


ξ゚听)ξ
 つ∴o   「貴方はショボンのことしか眼中にないのかしら?」

588 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:50:50 ID:GBXca2Xg0
続けて詠唱したのは【フォース】。
ひたすらに物理的でしかない衝撃がアサウルス本体に襲いかかる。

吹き飛ぶ騎兵槍…
だが、ナナシの手がグリップを離さない。
重量に引きずられた身体が僅かに浮いた。


 「グゥっ…小癪――


  三ξ゚听)ξ !!」 ミ●皿●,,彡


その眼前に距離を詰めていたツン。
【コンフュ】から解放されたアサウルスの元へと駆け出し、


      ξ`゚听)ξ 「っハァ!」
        ⊂彡

・・・・・・・・・
ショボンの隕鉄の刀を振り降ろす。

589 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:51:30 ID:GBXca2Xg0

           《ギチィ  ―ィン!》


 

590 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:52:17 ID:GBXca2Xg0

     灰色の空に木霊する金属音…。


ξ゚听)ξ 「…」

ミ,,●皿●彡 「…」


       重なりあう、刀と槍。


ミ,,●皿●彡 「…なんのつもりだ」

ξ゚听)ξ 「今度は反射しないのね。
意図して? それとも…アタシにはできないのかしら」

ミ,,●皿●彡 「なるほどやはり小賢しい」


鍔迫り合いする互いの武器。
…ツンはナナシの胴をすり抜け、騎兵槍を直接叩いた。
疑念を払拭するためだけに。

グッグッ…と、また嗤い声がした。


ミ,,●皿●彡 「だがこうも近付いたのは、やはり貴様の力不足というものだったな」




(;´-ωメ:) 「    ぅ…」


(;´・ωメ:) 「……はあ、はあ…」


(;´゚ωメ:) 「!!」

591 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:52:58 ID:GBXca2Xg0

   ド
::ξ;゚听)ξ:: 「――…ッッ!」
     ス

       ッ



         …ツンの身体が跳ねた。 何度も、ガタガタと。
極短の縄で繋がれた家畜のように、決められた空間だけで痙攣を赦される。


ξ;;゚-)ξ,゚、 「が――ふっ…」


徐々に上がっていく高度。
足が大地を離れ、小さなブーツを伝ってボタボタボタボタと血を垂れ流す。


…騎兵槍がツンを貫いていた。
何が起こったか、当人は把握することもままならず。


ミ,,●皿●彡 「この躯はとても良い。
身の丈を越える得物をここまで自在に操れるか」

::ξ;; )ξ:: ビクッビクンッ

(;´゚ωメ) 「――くそ…、ツンーーー!!」

592 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:53:53 ID:GBXca2Xg0

ショボンの身体は少しずつ動くようになっていた。

不死者といえど、自然に回復するわけではない。
これは【リジェネ】の段階的治癒の発動によるものだ。

即効性のある【ヒール】と違い、
本来ならば毒のような継続ダメージを受け続ける環境下で本領を発揮する。
消費魔導力の少なさから、非戦争地帯での治療にも役立てられる。

ツンはアサウルスの注意を引き付けるため…
そしてあえてショボンがすぐに動かないよう活用した。


やがて…ツンの痙攣が止む。


ミ,,●皿●彡 「ふむ…」


刀の扱い方を盗めなかったツン…。
瞬時に繰り出された旋風槍に対処できず、その刃を弾かれ、返り討ちにあってしまった。


ミ,,●皿●彡 「どこかでこんな死体を見たな」


結末は――百舌鳥のはやにえの如く。
槍に貫かれたその姿は、ショボンの記憶からかつての兄者をフラッシュバックさせる。


(;#´゚ω゚) 「アサウルス!!」

ミ●皿●,,彡 「邂逅…そうか。
これはいつかのお前でもあった」
 

593 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:54:34 ID:GBXca2Xg0

       グッグッ、グッグッ、
       …嗤いが止まらない。

       そうだ、このまま
       女を投げつけてやろう。


…アサウルスはそんな風に考えていたのかもしれない。
ショボンから顔をそらさず、
騎兵槍を振りかぶろうとして……その意識は完全に余所見をしていた。



    「…やっぱりね、
       ショボンのことしか
            見えてない」
Σ ミ●皿●,,彡

594 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:55:22 ID:GBXca2Xg0
 「アタシも不死者なの。听)ξ 
…貴方は知らなかったみたいだけどね」

ミ;,,●皿●彡 「!!!」

(;´・ω・) 「ツン!!」

   「【リベンジ】!!」听#)ξ


アサウルスの狼狽――同時、爆散する闇色の太陽光。




  ::《ゴ ア ァ ア ァ ァ ッ ッ》::




            獣の断末が
              哭き響く。

 

595 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:56:12 ID:GBXca2Xg0



       ( 推奨BGM:Distorted Space )
       
 

596 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:57:00 ID:GBXca2Xg0

    シュゥウゥ……




: ::  ,
ミ,,○皿○彡


(;´・ω・) 「…や、ったの……か?」

       ξ )ξ 

(;´・ω・) 「ツン?」


膝をつくアサウルス…地に伏すツン。
どちらも立ち上がる気配は無い。


【リベンジ】…その身に受けた傷をそっくりそのまま放つ。
ダメージではなく概念であるため、
被爆した対象は痛みそのものや瀕死といった、発動者の状態をトレースする。


…かろうじて息があるのだろう。
ツンの身体は極々わずかだが、呼吸による上下運動が見られた。
貫かれた箇所は長く綺麗な後ろ髪に隠れて目視できない。

どのみち彼女も不死の者…。
生きてさえいるならば、その怪我の度合いよりも確認しなくてはならないことがある。


(´・ω・`) 「…アサウルスは」


: ::  ,
ミ,,○皿○彡

597 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:58:14 ID:GBXca2Xg0
ショボンは警戒しつつもアサウルスへと近よった。
しかし何も起こらない。


(´・ω・`) 「アサウルス、死んでいるのか?
いやしかし……」


空を見上げる。
夜空の彼方……雲の切れ間に、太陽は無い。


三日月島に出現したアサウルスは二つの太陽を破壊しても石化したまま、
島の海にその身を晒している。
いつの間にか現れた謎の物体として、
世間的認知が広がっているのをのちのち小耳に挟んだことがある。
生きているとは考えにくいが、消滅していないのも確かだ。

598 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 22:59:12 ID:GBXca2Xg0


             《 ( A ) 》


ならば東方のアサウルスはどうだろうか。
あの日あの空間でブーンが助けた男。
ハインの言葉を訊くに、彼がどうにかしたという。

599 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 23:00:12 ID:GBXca2Xg0
だが、東方のアサウルスらしき発見談などこれまでに聞いたことがなかった…。

人の多くはひとつの場所に定住するが、遊牧する民もいる。
訳あって大陸から東方に旅立つものもいるだろう。

よって東方の生き残りがいようがいまいが。
何かしら形跡が残っているならば、人々は伝え、いずれはショボンの元に情報が入る。

アサウルスと蟻の痕跡を追い続けた彼に。


(;´-ω・`) 「――ぃづッ!」


ツンから取り戻した隕鉄の刀で騎兵槍をつつくと、
感触が痛みとなってショボンに跳ね返った。

そこで今度は素手で優しくさわってみる。
…やはり、さわさわと身体をまさぐられる感触。


(´・ω・`) 「相剋…か」


ツンがショボンを残して【リベンジ】…自爆したのは、
このアサウルスが彼女でしか有効なダメージを与えられないことを悟ってのことだろう。
倒せる確信があったのかは彼女にしか判らないが。


ならばショボンが期待されているのはトドメではなく、


(´・ω・`) 「恐らくは――」

 

600 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 23:01:08 ID:GBXca2Xg0

ショボンはアサウルス本体である騎兵槍へと意識を向け、集中する。
やがて不可視の腕…その輪郭が伸び、宙を漂い始めた。

自身の腕ではない。
彼は両足のスタンスを自然にとり、両肩は下がったままだ。
魔法の使えない彼だが、代わりに独自の概念を編みだし応用していた。

ふわり、ふわりと。
ショボンによく似た形の腕が魔導力によって具現されている。


(`-ω-´) 「…」


騎兵槍――そこから魔導力の波動は感じられない。

生きとし生けるものには総じて魔導力が備わっている。
アンデッド、無機物の魔導生命体…
アサウルスも例外ではなく、灰蟻にすら纏われているもの。
それが魔導力。

601 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 23:03:06 ID:GBXca2Xg0
【ライブラ】が死んでいるものを生命感知出来ないように、
この不可視の腕もまた、魔導力のないものは感知出来ない。

これまでの経験と法則に則るならばアサウルスは死んでいるといえる。


――なのに、ショボンに対する相剋の特性は消えていなかった。


(`-ω-´) 「…」


もともと魔法を使えない人間からはパルス状の波動が流れているため、
ショボンの感知範疇にはもうひとつの存在が同様に捉えられる…ナナシもまだ無事のようだ。


アサウルスとの共有意識から完全に【切断】すべく、
自らの掌をナナシの顔に触れた。
直接魔導力を送り込めば、より強く意識を切り離すことが出来るだろう。


ミ,, Д ⊂(・ω・´ ) 「いま助けるぞ、ナナシ…」


騎兵槍たるアサウルスの処分はそれからだ。
そう思い、ショボンが【切断】を発した――

602 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 23:03:49 ID:GBXca2Xg0
ミ,, Д⊂(;`・ω・) 「!!」  ――その時。


感知内にもうひとつの魔導力。

かつて感じたことのない、破裂寸前の膨脹波動。
背後へと振り向く。


       ξ )ξ


ツンではない。


(・ω・´;)



(;`・ω・)

         他に、居る。



(推奨BGMおわり)
 

603 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/12(日) 23:04:37 ID:GBXca2Xg0
------------


〜now roading〜


ミ,,●皿●彡

HP / B
strength / B
vitality / B
agility / C
MP / C
magic power / B
magic speed / D
magic registence / H


------------

609 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:24:57 ID:RfOzNBBc0
----------


それは過去に無い感覚だった。


魔導力の波動……
ある日を境に世界で充満し始めたエネルギーをショボンが感じとる際、
様々なイメージをキャッチしている。

【火】が息苦しくなるならば、
【水】は重い。
【土】に締め付けられ、
【風】は感覚が薄くなってゆくかのように。
癒しを司る【光】の魔導力はむず痒さを覚えた。


(;`・ω・) 「……」


アサウルスの波動のような、チクチクとした刺々しさともまた違う。

未知に抱くは畏れもあり…。
しかしそれ以上に、彼がその場から逃げ出さないのは
心を埋め尽くすような赤黒い正体を掴みたいという好奇心が大きい。

立ち向かう精神はいつでも持ち合わせているつもりだ。


(・`ω・´;) 「……」


手は無意識に、いつでも抜刀できるよう腰に当てていた。
がっしりとした首を振るよりも忙しなく瞳を動かす。

廃巨木の奥、焼けて黒ずんだ岩の蔭、
それとも死体に擬装してはいないか…彼は意識を光らせた。

610 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:25:39 ID:RfOzNBBc0

      「……終わったの?」


だがその心配も杞憂に終わる。
ショボンの前に姿を見せたのは…ツンが逃がしたはずの女呪術師。


(`・ω・) 「まだ居たのか…どうして戻ってきた?」


問い掛けて、思わず息をのむ。
女の様子がおかしい。
敵意のベクトルをひしひしと感じさせる。
   …波動の発生源すら一致させて。


      「考えたの…私一人で逃げても仕方ないって。
       誰もいなくなって、私はなにを支えに生きるというの?
       独りで、どうしたらいいの?」

(`・ω・) 「命が惜しくなかったのか?
せっかく助かったんだ、せめてみんなの分まで――」

      「声が聴こえたわ…
       貴方が、ショボンだったのね」

(;`・ω・) 「!」

611 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:26:28 ID:RfOzNBBc0
彼女は脇に何かを抱えていた…。


ショボンは目を凝らす。
それは彼女が懐へとしまいこんだはずの我が子の首。
カタカタと腕を震わせているのは、隠しきれぬ感情によるものだった。


      「不死…って言ってたわね?
       本当に死なないの?」


その表情は氷のように、冷たい。
その瞳孔は闇よりも、黒い。

612 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:27:39 ID:RfOzNBBc0
(;`・ω・) 「…」


      「……返事してよ、でないと」


(;`・ω・) 「…」


『理由がある、これは僕の仕業ではない』
…などという言葉は出てこない。

ショボンは葛藤していた。
   三日月島の半壊滅、
    赤い森の消滅、
     森の民のジェノサイド……
言葉巧みに弁明すれば、もしかすると彼女からの罪は免れよう。


いずれもショボンが関わった事件だ。
しかし、彼自身が引き起こしたものではない。
ましてや望んだこともない。

アサウルスはショボンの意志とは無関係に、やがて現れただろう。
赤い森も、大陸戦争における国家間の諍いによる火の粉が降りかかったにすぎない。
ジェノサイドすら、その両方が同時に発生した不幸の結果論。


      「この怒りをどこにぶつけたらいいのか、分からないの…」


だが、しわ寄せはなんの罪もない人にこうして襲い掛かる。
それをどうして己が為だけに否定することができようか。

613 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:28:20 ID:RfOzNBBc0

さらにショボンが観察すると、女呪術師の瞳孔が大きく開かれていることに気が付いた。
子の生首の瞳すら見開き、こちらに向けられている。


(;`・ω・) 「…」


(;`・ω・) 「……僕だ」


それでも…


(;`・ω・) 「僕のせいで、君たちをこんな末路に導いてしまったのかもしれない」

      「!!!」

(;`・ω・) 「不死も本当だ。
僕は死なない…何をされても、きっとまた甦るだろう」

      「どう、して…」

(;`・ω・) 「…」

614 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:29:01 ID:RfOzNBBc0
望む望まないに拘わらず、他者の評価が自己を作り出す。
映る姿は真実には相違ない。

加害者の言い訳がどれほど求められようか。

被害者の言い分がどれだけ受け止められようか。

女呪術の瞳から、一筋の涙が流れ落ちた。


      「私の瞳が見えるでしょう…?
       この瞳孔は、一度開いたら元には戻らない。
       怨んでしまえばそれが晴れるまで求め続けてしまうのよ」


…彼女にも分かっていた。
目の前で一番にアサウルスと戦ったのもショボンであり、真に一族の仇ではないことを。


       《パキッ》
      「……どうして、貴方みたいな人がいるの?
       なんのため?
       私たちを巻き込むため?」

(;`・ω・) 「巻き込みたくはなかった…。
それでも、事実は変わらない」

      「貴方が居なければ、この森も無くならなかった?
       貴方が居なければ、私達一族ももしかしたら逃げることができた?」

      「――止まらないの、止められないの。
       聴かなければ良かった、あのまま逃げれば良かった。
       貴方が…ショボンが身を呈してまで私を庇ってくれた恩すら、
       この頭の中から消えていく……」

 《パキッ》
 

615 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:29:45 ID:RfOzNBBc0
混沌とした意識を維持できない《パキッ》のか、女呪術師の身体が更に振動し始める。
その背から、後光射す闇の波動が吹き出した。

…まるで、アサウルスの太陽コロナと同等の転輪を画いて。
《パキパキ…ッ》

(;`・ω< ) 「!!」

      「これは私達への呪い。
       制御不能な…魔導力……【ウラミド】の、 呪縛……」

      「逃げ、て……貴方が、
私達に、囚われるべき人、で…なぃ の       な ら    《パキパキッ》、 」


突如、
その手に掲げた子供の首がゴウッ――と、瞬時に燃えて発光し、散った。

616 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:30:57 ID:RfOzNBBc0

(;`>ω⊂) 「――ぐっ!?!」


ショボンが目を奪われたその隙、女呪術師の足元からは冷え冷えとした風がそよぐ。


宙に泳ぐ鮮血の粒子。
        《パキパキパキパキ――ッッ》
瞳孔から天を衝く闇柱。

蟻の顋を擁してあんぐりと開けた口から、零下の霜煙が吐き散らかされた。


(;`>ω⊂;:"`

       ―― 闇のブリザード。

(`>::"`

       ―― 一直線に彼のもとへ。

( ;::゙`





       ショボンの身体を
       正気に戻ったナナシが
       力任せに押し流した。


      それがショボンの
           赤い森の記憶――。

 

617 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:35:44 ID:RfOzNBBc0





    《  》


 

618 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:36:25 ID:RfOzNBBc0


 

619 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:37:45 ID:RfOzNBBc0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 

620 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:38:27 ID:RfOzNBBc0







「   」

 

621 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:40:01 ID:RfOzNBBc0







「       ――?」

 

622 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:40:55 ID:RfOzNBBc0


     ……目覚めよと、呼ぶ声がする。


 

623 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:41:37 ID:RfOzNBBc0


      早く起きろと、叱る声がする。


 

624 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:43:01 ID:RfOzNBBc0

       ( …うるさいなぁ )


眼が開くよりも先に、意識が覚醒した。


「       か?」


微睡む肉体に力は入らず、
しかし心地好い浮遊感が起き上がる義務感を結束させてはくれない。


「仕 な   。
 れてたん       だか  」


少しずつ聴こえ始めた音に嫌でも耳を傾けると、何者かの会話であることがわかる。

やれやれ…と。
まだ気だるげな四肢に無理やり電気信号を送り、身体を動かそうと試みた。


しかし長い時間を同じ姿勢で過ごしていたせいか、
命令を脳がキャッチするまで間があることに内心苦笑してしまった。

存外、不死の身体でも仕組みは人の枠を外れないらしい。
目蓋はなかなか開いてくれなかった。

625 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:44:17 ID:RfOzNBBc0

      《バシッ!》


頭に衝撃が走る。
誰かがショボンの頭をはたいたのだ。


从 ゚∀从 「ったく、何度揺り動かしても起きやしねえ」

『すまないな、こいつは根っからの寝坊助でね』

从 ゚∀从 「そうやって甘やかすからだよ。
あんまり長居はさせたくないんだがなー」

『なるほど一理ある』


話し声はハインと、もうひとりは男のようだ。
……いや、男が二人で計三人だと、なんとなく思った。

それよりも何故ハインに叩かれなくてはならないのか…
ショボンなりに考え始めるが、果たして納得がいかない。


从 ゚∀从 「もっぱついくか?」

『ショボンは我輩たちからみればいつまでも子供なのである。
優しくしてやってくれ』


       ( ――!?! )


今度こそ、ショボンの瞼が開かれる。
四人の声は明らかに異質で……

 

626 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:45:00 ID:RfOzNBBc0


从 ゚∀从 「よう、おかえり」


       (´・ω・`)


       (´・ω・`) 「……な、なんで」



(推奨BGM:Parting Forever)


627 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:46:08 ID:RfOzNBBc0


( ´_ゝ`)『ったく…お前は寝不足村の住人かっつーの』

(´<_` )『流石だな兄者、いつまでも発言センスは化石か』

( ФωФ)『久しいであるな、ショボン』


    …異質だが、しかし懐かしく。


       (´・ω・`) 「なんで居るのさ」
 

628 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:48:14 ID:RfOzNBBc0

( ´_ゝ`)『なんでって…』

(´<_` )『お前が呼んだんじゃないか』

(´・ω・`) 「僕が呼んだ?」


ショボンは彼らに近付こうとして、すぐに理解することになる。

相も変わらぬ闇のなか。
ハインはすぐ隣でしゃがみこみ、ニヤニヤこちらを眺めている。


( ФωФ)『ほら、せっかくなのだから早く起きるのである。
おお…大きくなりおって…』

( ФωФ)『撫でてやりたいが、子供扱いも失礼であろうか』


他の三人は違う。
よろりと立ち上がるショボンにしても、少し見上げた位置にいる。


彼らは…[かがみ]の "向こう側" に映し出されていた。

629 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:49:48 ID:RfOzNBBc0

从 ゚∀从 「最初に言っただろ?
念じればこの[かがみ]に映るんだ。
お前の過去の出来事も…お前の過去の記憶の人物も」


遅れてハインも立ち上がり、エッヘンとした様子で腰に手をやった。
ショボンからは背後にいるため見えないが。


(´・ω・`) 「そうか…なら過去を覗いているうち、兄者さんのことを考えた気がするよ」

(´<_` )『俺は?』

( ´_ゝ`)『ふっ、嫉妬するなよ愚弟』

(´・ω・`) 「思い出したのは死に様だけど」

( ´_ゝ`)『…』

(´<_,` )

( ФωФ)『赤い森…そしてそのあとの事も。
色々と見させてもらったのである』


(´・ω・`)

( ФωФ)『大変だったな、ショボン』

630 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:50:53 ID:RfOzNBBc0
自らの産み出した幻とはいえ、誰もが以前と同じだと思った…。
サスガ兄弟も、ロマネスク爺も、
かつて少年だった頃のショボンの記憶に彷彿とさせる。


(´・ω・`) 「……なんだよ」


だから、後ろめたさがあった。


(´・ω・`) 「[かがみ]の幻覚のくせに……」

( ФωФ)


時は経ち、ショボンは彼らよりもはるかに齢を重ねてしまった。
二度と変わらない背格好と、過ぎたる現実。
…もう、後戻りもできない。


ショボンがアサウルスと関わったことも。
赤い森が地図から消えてしまったことも。

ナナシがショボンを庇い、氷漬けになって生ける屍と化したことも。
それ以降、呪術師の生き残りであるワカッテマスに永く怨まれていたことも。


(´・ω `)


从 ゚∀从 「俺がクーの景色を覗けるように、
お前がモナーの景色を覗いたように…」

从 ゚∀从 「こいつらも、お前の記憶やその周りを覗くことができたみたいだ」

631 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:51:57 ID:RfOzNBBc0

(´<_` )『お前にも伴侶がいたんだな…。
心配してたんだぞ?
兄者が死んでからのお前はそれまでと、まるで別人だったから』

(´<_` )『ずっとじゃなくてもいいんだ。
誰かと過ごす時間…それが人生の潤いになる。
…俺がお前にしてやれなかったことを、他の誰かがやってくれたなら俺も嬉しいよ』


結局しぃとは生涯、顔を合わせなかった。
どんな顔をしておめおめと帰るべきか判らなかった。
誰にも伝えられない大罪に… 彼女とその子供に…
罪悪感を抱き続けていた。

632 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:52:45 ID:RfOzNBBc0

( ´_ゝ`)『なのにお前はずっと独りで…
"自分はこの世に独りきり" だと思い込んで、生きてきたんだな』

( ´_ゝ`)『あげく水の都で犠牲になったのは、ヒロイックな感傷にでも浸りたかったのか?
一度くらい死なないと、みんなに申し訳ないってか?』


同族を見渡せば…
クーは死ぬことでかつての記憶を失い、
ジョルジュはワカッテマスを失った。

不死であろうと、人は常に何かを失わねばならないのだと思っていた。


( ´_ゝ`)『人は孤独で死ぬことができる。
信仰という支えの無くなったあの島で、俺が一番気をもんだのは自死への対策』

( ´_ゝ`)『…お前の両親の分まで、俺はお前を孤独にさせないよう過ごしたつもりだ』


(´ ω `)

633 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:53:26 ID:RfOzNBBc0

叱られ、怒鳴られ、見損なわれても仕方のない生き方を、
ずっと…自分はしてきたのではないかと……どこかで考えていた。


( ФωФ)『ショボン…お主はバカタレであるな』

(´ ω `)

( ФωФ)『どれだけ人に愛されてきたのか、まだ分からぬか?』

( ФωФ)『思い出してみるが良い。
どれだけの人が、お前を助け、お前を生かしてきたのかを』


[かがみ]の住人は容赦なく言葉を投げつけてくる。

サスガ兄弟からは慰めを…。
ロマネスク爺からは一喝して諭すように。

634 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 21:55:02 ID:RfOzNBBc0
( ´_ゝ`)『ショボン、ふたごじまを…
弟者やロマネスク爺の住んだ三日月島を救ってくれてありがとうな』

( ´_ゝ`)『そして俺のためにアサウルスを延々と追わせてしまって…すまなかった』



(´<_` )『ショボン、お前は凄い奴だよ。
俺たちはすぐに老いぼれるから、
生き方をどうこうだなんて考える以前に楽な生き方を選びがちだ。
…島の技術や人々も、大陸各地にあるだなんて昔なら考えられなかったぞ』

(´<_` )『追放された俺でも、あの島でやっと生きやすさを見付けて天寿を全うできた。
息子の末者も、ちゃんとお前の力になってくれて良かったよ』



( ´_ゝ`)『ぇ、なにそれ、お前子供作ってたの?』

(´<_` )『デレとな』

( ФωФ)『それはそれは……祝えなくて残念だったのである』

( ´_ゝ`)

(´<_` )『…そういえば兄者はミセリよりデレ派だったっけか』

( ´_ゝ`)『実体があったら殴りかかってるところだよ……なあ、ショボン?』



(´ ω `)


( ´_ゝ`) 『……』 (´<_` )

 

635 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:02:10 ID:RfOzNBBc0

ショボンと兄弟の沈黙を受け、再びロマネスクが口を開いた。


( ФωФ)『仲間が出来たのであるな。
お主と同じ時間を共有できる……』

( +ω+)『不思議なものである。
ショボンも、彼らも、なぜ生まれたのであろうか』


(´ ω `)


( ФωФ)『…逆であるか。
生まれてきたからには必ず意味があるはずなのである。
必要だから生まれたのだと、我輩は信じておるよ』

( ФωФ)『一緒に日々を過ごしてくれてありがとう、ショボン。
…我輩は、お主が死ねないことを憂いる。
悦ばしいことも、怨めしいことも…凡てが永遠に終わらぬのだから』


从 ゚∀从 「…」


( ФωФ) 『ショボン、もっと強くなれ。
他人を頼るのだ』

636 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:03:59 ID:RfOzNBBc0

      ( 強くなって…他人を頼る? )


昔はなんと口うるさい爺だと、うっとうしげにあしらっていたものだった。
なのに今なら、ショボンにも分かることがある。
…ロマネスクも微笑んでいた。
血縁はなくとも、孫と話すことがとても嬉しそうに。


そして思う。
ロマネスクはこんなに難しいことを話す人間だったろうか?
会話からイコールが繋がらない。
少なくともショボンのなかではそうだ。

「どういうこと?」
いつのまにか幼い頃の声色となったショボンが真意を尋ねると、
淀みなくロマネスクは応えた。

637 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:05:01 ID:RfOzNBBc0
( ФωФ)『耳を塞ぎ、心を閉じてはならぬのだよ。
お主の過ごした時間は確かに誰かの命を奪い、しかし同時に誰かの命を救ったではないか』


(´<_` )『三日月島では兄者の代わりに俺が生きた。
兄者が生きていたなら、お前がアサウルスの手足になって島の人間を皆殺す未来もあったかもな。
…その手で兄者やデレ達を殺すような、考えたくもない架空の未来だけど』


( ´_ゝ`)『モナーは呪術師の血を薄めて、【ウラミド】の呪いを解き始めた。
…お前も後に逢っただろう? 二代目モナーはあの時の子供だよ』


( ФωФ)『水の都に至っては誰ひとり、その命を失ってはおらぬ。
他者には呆気なく映る平和的解決も、お主の迅速な行動が生んだ奇跡なのだ』


( ФωФ)『見誤ってはならぬ。 卑屈にもなるな。
考え方ひとつ、視点を変えれば人は感謝し合って生きていけるのである』


 

638 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:05:42 ID:RfOzNBBc0

ショボンは彼らの言葉を黙って聞いていた。

決して自分を責めない言霊が、
身体中に染み込んでいく心地よさに沈んでいく……。
足は地についているだろうか?

そんな不安に駆られたが、
そもそもここが大地なき宙闇の空間であることをなんとか思い出す。


沈下する目線に追い打ちをかけるよう
ポンっ――と、ショボンの頭に重みが加わった。
ハインの手のひらが置かれたのだと、見てはいないが理解する。


从 ゚∀从 「アタシからもひとつ教えといてやるよ」

从 ゚∀从 「[かがみ]が映すのは過去だけじゃない…
さっきのクーみたく、現在も映してくれる。
要するに思いの大きさ、想いの強さに影響を受けて投影されるってわけだが…」


つっけんどんな口調ではあるが、それはハインなりの照れ隠しなのかもしれない。

ショボンの視線はあくまで[かがみ]の三人に注がれているにも拘わらず、
どうして彼女までが微笑っていると分かるのだろう…。

639 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:06:24 ID:RfOzNBBc0

「前に出な… [かがみ]にもっと近付いて」
…ハインの声に導かれ、ショボンは恐る恐る歩を進めた。


眼前にそびえる[かがみ]。
――こんなに見上げるものだったろうか?
変わらず映るはあの頃の三人の姿。
願望に従い、考えるよりも早く腕を伸ばして触れる。


到着点はまっ平らな[かがみ]ではなかった。
紛うことなく、それは[かがみ]を越えて現れた
兄者、弟者、ロマネスクの三者三様の手の感触。

ショボンがそれに驚く間も無くぐいと引き寄せられると、四人は肩を寄せ合う形になる。


 

640 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:07:07 ID:RfOzNBBc0


『どうした、ショボン?』


       『…やれやれ』


   『家族の前では、
    いつまでも子は子であるな』



      「…うるさいなあ」


 

641 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:07:53 ID:RfOzNBBc0




     ( ´_ゝ`)
       ⊃(´;ω;`)(´<_` )
     ( ФωФ)⊂


 

642 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:08:36 ID:RfOzNBBc0


人はいつも誰かと共にある。
一匹狼を気取るのは、人を傷つけたことにすら目をそらす愚か者だ。



人はいつも誰かを求めている。
ひとたび出逢えば縁を紡ぎ、その蜘蛛の糸が千切れるまで助け合える。



誰に何を言われても強くあり続けることのできる存在などありはしない。
瞬間を生きる者も、悠久を過ごす者も、
同じ時を歩み寄り添う。




     ――そうやって、人が安穏と
     生きていければどれほど良いか。

 

643 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:09:17 ID:RfOzNBBc0


从 ゚∀从 「…」



从 -∀从



从 -






四人を遠目で見つめながら、ハインは闇に消えていった…。
その身を、黒い何かに巻き取られながら。




     ( ´,_ゝ`)o
       ⊃(`;ω;)(´<_,` )
     ( +ω+)⊂


ショボン達はそれに気が付かない。
今はただ[かがみ]が与えた記憶と邂逅に、
束の間のうつつを抜かす。

644 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:10:04 ID:RfOzNBBc0


        ―― 千年を生きる者。
―― 千年を過ごす可能性を秘めていた者。



[かがみ]に善悪はない。


只あるのは、
未来と、それを生き抜く概念と願望…


この世界を構築するエネルギーだけを貪欲に求めている。

 

645 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:10:57 ID:RfOzNBBc0


リミットは刻々と迫りつつある。



"彼ら" は手に入れなくてはならない。

運命を乗り越えなくてはならない。




[かがみ]による願望の投影によって
うたかたの合間、幼くなったショボンに



闇に光る粒子の灯りが不規則に、しかし…確かに三つの輝きが、



煌々と照らされ増えたことにも気付くことはない…。

 

646 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:11:59 ID:RfOzNBBc0

 ( …あの日以来、初めて )


 ( 少しだけ、心が休まった気がする )




 ( 自分を赦してくれる人と一緒に居るのは、こんなにも気持ちの良いものなんだ )






 ( でも兄者さんたちも、
僕が死んでここに来なければ逢えない幻覚… )







 ( 不死の僕には、せっかく
寄り添う存在が見つかったとしても
       必ず別れが訪れてしまう…… )


 

647 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/07/16(木) 22:13:41 ID:RfOzNBBc0





そしてショボンは少しだけ、








       ξ--)ξ
       ∪^ω^)



    ブーンとツンを、羨ましく想った。




(了)


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