- 329 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 18:48:36 ID:NIpLrbB.0
- ( ^ω^)千年の夢のようです
- 白い壁 黒い隔たり -
(推奨BGM:Ruins of the East)
- 330 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 18:50:18 ID:NIpLrbB.0
「さあ、歩きなさい。 罪には罰が与えられるのが決まりだ」
首から頭の先まですっぽりと覆う布兜。
他と異なる特徴的な格好の男が、二回り以上も細い腕を引っ張っていた。
ヽ/ ゚、。 / 「……?」
膝をつき、布兜の男へと懇願する母親を見て、
何が起こっているのか分からないという表情をした子供。
自分の足は動いていないのに景色だけが少しずつ傾いていく、そんなことのほうが興味深いように。
「フィレンクトさん、お願い、やめてください!
その子が居なくなったら私はどうすればいいんですか!」
母親は怒りを露にし、もはや泣き叫ばん勢いで男に掴みかかる。
…だがフィレンクトと呼ばれた布兜の男は動じることなく、母親に捕まれた別の腕を強く振り払って言った。
- 331 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 18:51:40 ID:NIpLrbB.0
- 「…両親も、法を守って貴女という一人娘を大切に育てたんじゃあないのか?
それを貴女は、貴女だけの都合で、規則を破り、国を想わず…
あまつさえ己の親をも冒涜するのか?」
── この国は訪れることのない充足感と常に戦っていた。
領地は広く、人口も多い。 …だがいくら作物を植えても豊作の年を迎えた事はない。
土壌や気候に問題があるわけでは無かった。
豊かなその高原地域は、人の過ごしやすい恵まれた大地と呼ぶに、一見して相応しい。
隣接する砂漠とは比べるべくもない。
「こ、子供がお腹にいると知った時、そそ…それを、殺せというの?!」
ただ不思議と…一定量を超える農作物は収穫できない。 不作の時期はあれど、豊作を迎えた史実がこの国には無かった。
他国との物品流通もどういうわけか滞り、資源が国内に溢れることはない。
月日を経て、それに逆らうように人口だけが増え続けた。
人はやがて個々の裕福さを願うようになる。
不足なく家族を養える豊かな生活にしたければ、他の土地へと移住するか、口減らしでもしなければその願いも成立しない。
それなのに──
- 332 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 18:53:12 ID:NIpLrbB.0
- 「……子作りをしなければ良かった。
一つの家庭において子は一人のみ。
昔からそう定められているにもかかわらず、産んだのは貴女の責任だ」
「違うわ! 避妊もした!
それでも子供は望んで私の元に産まれてくれたんです!」
フィレンクトはわずかな沈黙の後、言う。
「刑法20番列9記に基づき、ここに罪状を言い渡す」
「フィレンクトさんっ!」
「《罪人は二人目を産んだ時点で一人目の子を事実上破棄したと見なし、国家はそれを回収する。》
《これに従い、回収された子は国の恩情により、破棄まで一週間の猶予が与えられる。
面会は自由。
ただし、回収した子への物品受け渡しについては公務員監視のもと、許可されれば通すことができる。》
……以上」
国は対策として、育てられる子の数に制限を設けた。
…二人以上産めば罰せられる。
それに加え、〈汝の国を愛せ〉と叫ぶパトリオティズム。
その糾合のもと、一度でも居住を構えた人々は国から出ることを禁じられていた。
さもなくば、これも罰せられる。
二度と国に足を運びいれることは必ず、見つかり次第拘束されるだろう。
ウォール高原に領地を構えるのは、そんな国だった。
( ^ω^)「…」
とある安宿場の窓辺。
ブーンは嫌でも見聞きできる広場で繰り広げられるやり取りを、物憂げに眺めているところだ……。
- 333 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 18:56:12 ID:NIpLrbB.0
- ----------
ブーンが街にたどり着いたのは昨日のこと。
見渡す限りの草原を有した丘と、街を仕切るようぐるりと囲む白い壁が、もうすぐ終わりを告げる晴れた秋空によく映えた。
壁の背丈はブーンが見上げても首が痛くなる程に高い。
それにひきかえ、まるで猫が入るためとでも揶揄できそうな…
だが単体で見ればそれでも巨大な門扉を正面にして、入国を求める人々が集っていた。
「おやあんたはあの時の…もうオアシスから戻ってきたんですか?」
声がする方にブーンは振り返り──それが自身に向けられたものではないことを知る。
「ええ、売り物が無くなっちまったんでね。
なにせ運べる量はどうしたって限られてるでしょう?
そもそもの供給が足りなきゃ親父の代にあった荷を運ぶ車も、今じゃお役御免です」
「ハハッ違いない! おっとと、すみません」
商人同士の語らい。
ブーンを挟んで行われるも、頭ひとつ飛び抜ける彼の視線に気付いたことで間もなく止んだ。
「では、またあとで」
仲間に別れを告げると、商人はこちらにも愛想を振り撒いた。
咎めるつもりは毛頭無かったが、余計な気を遣わせてしまっただろうか。
ブーンも軽く手を挙げ会釈をしつつ、ゆるく笑おうとして……しかし表情筋がうまく動かなかった。
- 334 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 18:57:51 ID:NIpLrbB.0
銅鑼を鳴らす門番の合図音。
次いで大袈裟にカタカタ音をたて扉がせり上がる。
…しかしまだ誰も動かない。
ブーンが訝しく眉を細めた頃、二度目の合図が鳴った。
ようやく群れをなしていた待ち人達が歩き出す。
規律があったのだろう、ブーンも群れの一粒としてそれに倣った。
( ^ω^)「…おっ」
城壁とも見間違う白い壁の向こう側は、まばらに古家が建ち並んでいただけの荒れ地だった。
土はかたく、草もない。 だから路もない。
群れの大多数はそれに気を留めるでもなく散っていき、背後では門扉の閉まる音がゴリゴリと響いた。
「……前にも増して、がらんどうになったもんだ。
この国もそろそろ……──」
群れからはぐれた老人が隣で呟いた言葉。
ブーンには見えない郷愁の景色が重ね映し出されているのだろうか。
「お前さんは余所者だろう? こんな街に何か用かね」
( ^ω^)「…捜しものに」
「そうかい。 そろそろ陽も暮れる。
ここを左手沿いに歩けば、安くて、そのくせまだ使い込まれてないベッドの旅宿にありつけるよ」
向かい合わせた表情はどこか空虚に、老人はそのままどこかへ行ってしまった。
何を言いたいわけでもなかったらしい。
老人にとって話し掛ける相手は誰でもよく、それでも共有せずにはいられない言葉は淋しさの表れなのかもしれない。
- 335 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 18:59:35 ID:NIpLrbB.0
- それと思わしき宿が見えてくると、歩みが自然と遅くなる。
晴天空に泳ぐ雲が同じスピードで離れていく。
もしかすると夜には一雨来るかもしれない…と、ブーンはどことなく思い、視線を戻した。
なるほどたしかに安い宿だ。
屋根の一部は崩れたまま。
壁を白く染める塗装は剥がれ、灰色を暗く際立たせた。
窓から見える部屋の具合からは客が入っている様子もない。
つい先ほど交わした会話を思い出すに、使い込まれてないベッドとはジョークのつもりだったのか。
…とはいえなんら構うことなく、ブーンは入り口の扉へと近付いた。
- 336 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:01:09 ID:NIpLrbB.0
- 磨かれ清潔感を保つ両開きの扉には、
来客を告げる役目であろう、素材そのものの古さを塗り潰すかのような黄色のベル。
目を凝らすとどこか規則性のある凸凹のついたドアには、
可愛らしいピンク色のペンキでメッセージが書き込まれていた。
[☆Welcome Back! Dear Brother☆
(おかえりなさい、お兄様)
☆You Are Welcome! My Loving Family☆]
(私の大切な家族ですもの、また来てね)
もう少し顔を上げると目に飛び込む宿看板。
店名は──
( ^ω^)「[pO・Od]……なんて読むんだお?」
暗号か? 発音に困って動きを止めた時、宿の向かいに建つ小さな医院から声がした。
高く小さな声、揺らぐ静かな声、
そして…ハキハキとしつつも、しゃがれ声。
「せんせー! ありがとー!」
「本当にお世話になりました。
他のお医者さんには診てもらうことすらできなかったのに…なんとお礼をいったら良いか」
「いいんです、それが私の仕事なんですから。
お子さんに何かあればいつでも来てください。 夜中でも、朝一番でも」
一組の親子が手を振りながら医院を後にしていた。
微笑ましく見ていると、しばしの間をおいて、白衣の老人がその姿を見送るように顔を出す。
その視線は…横に歩く親子ではなく、正面からブーンを捉え、
「…どうしたんです? 貴方もなにかお困りですか?」
- 337 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:02:56 ID:NIpLrbB.0
ブーンが辺りを見回しても人影は他にない。
先ほど出てきた親子も、別の古家の向こうへと行ってしまった。
( ^ω^)「いや、僕は……」
「患者ではない」 ──そう答えようとして、言葉は紡がなかった。
あれからどれほどの時を過ごしたか。
あれからどれほどの出来事に気を囚われていただろうか。
あの日、確かに彼は言っていた。
ブーンもツンも、そのために時間を共にした。
あの迷い道で。
あの瓦礫にまみれた渇き路で。
『うん! 高原が近いかもしれません!』
息子の面影を彼に重ねた、辛くも心地よき、デザートコースでの記憶。
(,, ><)「いいんですよ。 どんなことでも話くらいなら聞けるんですから。
さあ、どうぞこちらへ」
ブーンの視界のなか…開け放たれた扉を背に、彼は奥へと引っ込んでいく。
しゃりしゃりとスリッパの音が耳に届いた気がした。
誘われたブーンは空を見上げ、そしてその足先を医院へと向ける。
……勘は外れていたのだろうか?
いつの間にか、
雲ひとつない空っぽの晴天。
- 338 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:04:26 ID:NIpLrbB.0
(,, ><)
つ□ 「すみません、お茶を切らしているので白湯ですが」
長居するつもりはないから、と
断りをいれながらも礼を述べ、湯呑みを受け取った。
その際に少しだけ触れた指と指から年月の刻みを感じつつ、記憶の面影を残した老医師を観察する。
(,, ><)「いやあちょうどお昼時ですね。
もうご飯は食べたんですか?」
事務テーブルの上…
老医師は探るように腕を泳がせ、やがて小さな包みを手を取ると膝元に寄せる。
可愛らしい黄色いハンカチ。
結び目をほどくとその中から握り飯がふたつ。
年老いているとはいえ、目の前の医師が食すにしては少なすぎる量だ。
( ^ω^)「…お弁当、可愛らしい包み布は奥さんかご家族の趣味かお?」
(,, ><)「いえいえ! 私は独身です。
家族ももういません。
これは先の患者さんが差し入れてくれたんです」
( ^ω^)「……」
(,, ><)「そうですか、可愛らしいですか…では、お返しする時そう伝えなくては」
- 339 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:06:10 ID:NIpLrbB.0
- 握り飯を何度か掴み直し、彼は口に運ぶ。
ブーンなら一口で含んでしまいそうなそれを、少しずつ、少しずつ、味わうように噛み締めている。
(,,*><)「うんめー! 胡麻塩が丁寧にまんべんなく効いていて、疲れが吹っ飛びますね」
( ^ω^)「おー、それは良かったですお」
(,, ><)「……あっ、すみません…年甲斐もなく興奮して」
「お金よりもなによりも、気持ちを込めたこういうものが一番嬉しいんです」
と彼は言った。
ブーンは笑みを浮かべて頷いたが、反射行動にすぎない。
- 340 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:07:20 ID:NIpLrbB.0
時間をかけて握り飯を食べ終わると、彼は手のひらとひらを
パンっパンっ
とはたき、白衣に米粒がついていないかを確かめるように手探る。
…膝元にポロポロと散らばる胡麻には気付かない。
( ^ω^)「まだ取れてないお」
(,, ><)「あれっ? そうですか」
ブーンはそれをはたこうと腰をあげかけ──やめた。
目の前の彼は子供でもあるまいに、言葉で伝わるのだから充分だと考え直した。
(,, ;><)「恥ずかしいです、この歳になっても食べ物をこぼしてしまって…」
(,, ><)「察するところ旅の途中ですか?
もし寝床がまだなら、隣の宿で部屋を用意させますよ」
( ^ω^)「おっ、貴方の宿でしたかお?
ちょうど行こうと思ってたんだお」
さっきまで身ぶり手振り動かしていたその身を、老医師は一瞬だけこわばらせる。
- 341 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:08:19 ID:NIpLrbB.0
- (,, ><)「んー私のというか、妹が作って建てたんです。 若い頃にね。
……10年前の流行り病で亡くなってからは私が経営してますが」
(,, ><)「なにぶん医療と二足のわらじ。
なかなか手入れも行き届かないところはありますが、ベッドだけは毎日綺麗にしてます」
(,, ><)「あたたかく柔らかいベッドは、私達兄妹の幼い頃からの夢だったんです」
医師は気まずそうに…
同時に照れるように頭をかき、言った。
( ^ω^)「……そう、かお」
( ^ω^)「なら宿の部屋をひとつ借りるお。
よろしく頼んでいいかお?」
(,, ><)「もちろんです、改めて自己紹介させてください。
私はビロード…この街で医療行為を行っているしがない鍼師です」
(,, ><)つ‡ 「受付にこれを渡してもらえればいいですよ、部屋の鍵です。
数十分後にはのんびりできるようにしますから」
( ^ω^)つ‡ 「ありがとうだお」
(,, ><)「良い夢を」
----------
- 342 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:09:34 ID:NIpLrbB.0
そして翌日、窓ガラスの向こう側……
広場ではいままさに幼子が布兜の男に手錠を掛けられ、連行されていく。
ブーンにとってなかなか見逃し難い場面に遭遇しているはずだった。
だが──
( ^ω^)「…一週間の猶予」
胸中に制止の声をかける。
ツンがここに居れば、
今にも飛び出していきくのではないか…そんな風に考えつつも、窓に背を向ける。
見知らぬ街で無闇に暴れる訳にはいかなかった。
人々が住む土地には、その住人によって培われたルールが存在する。
個人の倫理的にはどんな悪法であっても、全体を通せば利に適うものもある。
その場に残され咽び泣く母親の腕のなか、
幼子に買い与えたとおぼしき、動物のぬいぐるみが寂しげに抱かれていた。
(▼・ェ・)
- 343 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:11:02 ID:NIpLrbB.0
「…さあ、こっちだ」。
等身の高い場所から発される、警官フィレンクトの低い声。
ヾ/ ゚、。/ 「……ママは?」
警官とは国の公務員。
治安を維持する役目をもつ尖兵。
定められた法を犯す者を見逃さないこと…それが彼の役目だ。
それを示すはずの声色は、しかし、どこか揺らぎを感じさせた。
「いま行くのは…君だけだ」
なにかを噛み締めるようなフィレンクトの返答。
──ウォール高原。
ここでは情よりも、常人と罪人を隔てる法が優先される。
- 344 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:12:28 ID:NIpLrbB.0
公共の場で他者に迷惑をかけた者
…禁固1年。
他者の所有物を盗んだ者
…禁固2年。
他者に危害や暴行を加えた者
…禁固5年。
他者の命を奪った者
…禁固10年。
罪人を庇う者
…禁固15年。
そして多重育児は
…財産刑。
職務を放棄した公務員は
…生命刑。
── どちらも死刑。
- 345 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:13:21 ID:NIpLrbB.0
そう、法は決して民の為のものとは限らない。
法の中身を決めているのは一握りの立場の者であり、それを行使して裁くのも一握りの選ばれし者のみ。
それは機械が支配するプログラムや、はたまた信仰神が定めるルールを神自身が管理することとはまったく異なる性質。
この国では神を気取るその一握りが、元は優劣などない同じ人間を管理しているに過ぎない。
/ ゚、。 / 「…ねえ、どこにいくの?」
「………黙ってついてくるんだ」
フィレンクトが去った後、広場には再び人々の声が色めき始めていた。
中央を横目にして、口々に何かを話しあう人々。
だが、子を連れ去られた母親へと寄り添う素振りは誰一人見られない。
人々の頭に浮かぶ罪状は──罪人を庇う者…禁固15年。
警官の判断一つで、自身が罪に問われることを恐れているのだった。
(^ω^ )「…」
限界を感じたブーンは立ち上がり、宿から抜け出すと広場へ向かった。
「ぅぅ……どうして、だれが……」
そんな声が聴こえてくるから、とてもじっとしていられなかった。
- 346 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:14:11 ID:NIpLrbB.0
- 母親のすすり泣きが、より鮮明に聴こえた。
ぬいぐるみを抱いたその姿…
ブーンの記憶に一筋の痛みが走る。
『…私、忘れていたのかも。 )ξ
人の命は元々、預かりものなんだわ』
無力感に覆われ、誰かにすがりたいという思いが見てとれる母親の背中。
そこに、この国のルールをまだ知らないブーンが寄り添った。
「…ゥっ……あ、すみませ…ん、いま……立ちますから」
( ^ω^)「……」
『怯えないで。 僕は正義の味方だお』
…以前の彼ならばそんな風に答えるだろうか。
しかし今、なにも言葉は出てこない。
- 347 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:17:20 ID:NIpLrbB.0
ひとまず広場から離れ、事の顛末を聞く。
どうやら彼女の知らないところで家庭事情が警官側に漏れていたらしい。
…そして、国法や刑罰のことも知ることができた。
( ^ω^)「……お」
*(‘‘)*「…」ジーッ
(;^ω^)「…??」
咽び泣き続ける母親の家に着くと、
古びた玄関を開けた先の物陰から、小さな顔の女の子がこちらを覗きこみ──いや、睨み付けてくる。
そんな様子に気が付くことなく、玄関口でどさりと、母親は崩れるように腰をおろした。
「………はぁ…」
( ^ω^)「少し落ち着いたかお?」
「…はい、先程は失礼しました」
母親は名をレモナといった。
「あちらの娘はヘリカル。
……さっき警官に連れていかれた、ダイオードの妹なんです」
彼女はたどたどしく、寂しそうに話す。
特に…後半は周囲に気を配るよう声を潜めて。
こちらを信用しているわけでもあるまいが、あの広場で話し掛けたのはブーンただ一人。
ブーンは頷き、彼女の不安を和らげようと聞き手にまわる。
( ^ω^)「この家は他に誰かいないのかお?
おじいちゃんとか、おばあちゃんとか」
- 348 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:18:24 ID:NIpLrbB.0
- ブーンはこの時 "夫" という言葉はあえて発しなかった。
居るならばいの一番に頼られるべき存在だが、案の定レモナは荒く首を振る。
…子供を連れ去られたショックが強すぎるのか、動作のひとつひとつがオーバーに見えた。
「……きっと、誰かが密告したんですわ」
──忌々しげに呟くレモナ。
「でもこのあたりの人達は昔からの知り合いばかりで、ましてや怨まれることなんて身に覚えもないし…」
爪を噛みブツブツと塞ぎ混む様子は、ブーンの問い掛けるすきま風を通さない。
子供を多く産んでしまう家庭など──自然の摂理の枠内に過ぎないのだから──そんなものは腐るほどの前例がある。
- 349 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:19:50 ID:NIpLrbB.0
- レモナの話によると、ウォール高原では
親は二人目以降を生んだ場合、数年間その存在をひた隠して暮らしたあと、子を家庭から追い出すという。
その日を境に自立を余儀なくした子供達。
群れを作り、小屋を拵え雨露を凌ぎ、物請いで腹を満たす人生が例外なく待っている。
餓死…… 病死…… 事故死……
身体も小さく、まだ生きた経験の薄い子供にとっては甘い話であるはずがない。
「……ダイオードも、もう少しだったのに」
もし生き延びられるならば。
その頃に警官が来ても、もはや誰の子か判らないのだから連行はされない。
未成年法により14才以下の単独生活者は罰せられない。
この時初めて、刑罰は幼子や存在するはずの両親に対して適用外となるのだという。
( ^ω^)「…どうしてそんな法が」
ウォール高原はその豊かな土壌を騙り、望まれる資源の総量が明らかに限られていた。
供給は需要に追い付かず、しかし外の人々はうわべに聞く豊かさを求め、なにも知らないまま入国する。
そうして爆発的に増加する人口は国を圧迫した。
いまや自分の食いぶちを稼ぐにも知恵を絞らなくてはならない。
ここにいる住人は、元は故郷を離れた存在ばかり。
再び国を捨てる行為に呵責し、留まり続ける連鎖……。
国の生存権は、
孤独を生きてやっと得ることが出来るボロボロの片道切符だった。
- 350 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:21:02 ID:NIpLrbB.0
- *(‘‘)*「……まま、ねぃちゃんは?」
国は人口を増やしたくない。
…だから抑止力として法をかざす。
親は産まれてくる子を生かしたい。
…だから法をかいくぐる。
「──ウっ」
一度は止まりかけたレモナの嗚咽も、口を開けば反芻される。
「ごめんなさい…………。
もう、あの子は帰ってこないと思うと……。
明日、目が覚めてもっ…この家には自分とヘリカルしか居ない…なんて──ううぅぅっ!」
*(‘‘)*「……かえってこないの? ねぃちゃん」
( ^ω^)「…」
レモナに断りをいれてから、ブーンはヘリカルの方へと向き直った。
ヘリカルの足元には白い用紙が散らばっている。
ぱっと目に映る紙には、遠目ながらも人のようなものがふたつずつ描かれていた。
テーブルの上に置かれるガラスの調味料容れを再利用した鉛筆立てが、たった数本しかない色筆の淋しさを助長する。
*(‘‘)*「そっか」
( ^ω^)「…」
──違う。
ブーンはその瞳に潜む濁りに気が付いた。
ありもしない寂しさは助長されない。
*(‘‘)*「なに? おじちゃん」
──密告者は、この妹だ。
(推奨BGMおわり)
- 351 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:22:00 ID:NIpLrbB.0
- ----------
ガシャァン……と、硬く冷たい鉄格子のぶつかり合う音が空間に反響する。
「君の住む部屋は今日からここだ。
…母さんが会いに来たらまた呼びに来る」
/ ゚、。 / 「??」
フィレンクトの低い声が、まだ6歳になろうかという程の小さな子供に向けられた。
黒い牢獄で響き廻る鉄の音。
呪詛のように繰り返される硬い錠鍵のそれは、彼女の耳にどう届いたろうかとフィレンクトは気にかかった。
ここに来るまで娘に抵抗されなかったのは、現状を理解していないが故に。
…それもまたこの刑罰の狙いでもある。
大人になれば誰しも捕まりたくない一心から必死で暴れるため、その分また人手を必要とするからだ。
/ ゚、。 / 「いつまで待ってればいいの?」
「……迎えが来るまでだ。 なにか欲しいものはあるかい?」
"会いに来る" のは母親であっても、
"迎えに来る" のは母親ではないが。
/ ゚、。 / 「…あたしのヌイグルミ……」
「…分かった。 持ってくる」
- 352 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:23:21 ID:NIpLrbB.0
- そう言うと、フィレンクトは足早にダイオードから目を背ける。
職務とはいえ、知人の子を──
/ ゚、。 / 「フィレンクトさん、私、悪いことしたの?」
「……君は、」
/ ゚、。 / 「ごめんなさい…だから、おうちに帰して」
「、……」
──つい数日前にもレモナの留守中に面倒を見たことがあるこの娘を、こんな場所に連れてきたくはなかった。
「…私にはその権限がない。
寒くなったら、そこにある毛布を使うんだ。
足りなければ追加を持ってくるから」
/ ゚、。 / 「うん」
一週間後には失われる命が、少し微笑んだ。
彼女のなかで、まだフィレンクトは優しいおじさんで居られるらしい。
だから余計にフィレンクトの心を蝕む。
若さゆえに迷う警官は、牢の出入り口に紐で掛けられる書類に作業用チェックの印を付け、
地上への階段を逃げるように駆け登っていった。
- 353 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:24:52 ID:NIpLrbB.0
- ----------
( ^ω^)「もっと延々散開とした街かと思ったけど…」
中心部に近づくほど整備されていく路面と建物、そして人波。
安宿から見る景色とはだいぶ様変わりしてきた街並みが、ブーンを迎える。
居住区や商業区といった区画はなく、その曖昧な線引きは、ひとつ角を曲がれば姿を見せる。
その光景は ──変わらず白く、しかし薄暗い。
散策の目的は、ダイオードが連れていかれた収容所。
そう呼ばれるからには、もっと大きくて目立つ建物があるものだと想像しながら、ブーンは目を光らせ歩いていた。
だがむしろ、中心部のほうが小さくもよく似る建物ばかりが並び、よそ者のブーンには見分けがつかない。
( ^ω^)「…うーん」
白いキャンパスに鉛筆で外壁の線だけを横に一本ジグザグに描けば、この風景は完成するだろう。
色彩を欠くのは、その土地面積に対する国の資源の少なさを象徴しているのかもしれない。
時間だけが悪戯に過ぎていく。
- 355 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:26:23 ID:NIpLrbB.0
- (;^ω^)「だんだん下り坂ばかりになって……もはや自分がどこにいるかもわからんお」
^ω^ )))「いったん戻って、少しでも高い場所から見下ろしてみるかお」
^)))
(<● ))
(<●><●> ) ))
"( <●><●>) キョロキョロ
ブーンが踵を返したその場所で、入れ違いに現れた呪術師が辺りを窺う。
ワカッテマス──ブーンとの面識はまだない。
だからその一瞬だけでは、互いの存在に気付くこともなかった。
(<●><●> ) 「ふむ…こうして歩いてみるとなかなか広い街です」
( <●><●>) 「そして程よく濁って…」
( <▼><●>) 「…まるで領主の野心と同じ。
どこも同じ、誰も同じ」
- 356 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:27:53 ID:NIpLrbB.0
- 今から一ヶ月ほど前、この街から南西に位置する隣国公人の屋形に、この呪術師は居た。
アサピーを実験台として、不死者を弄んだ赤い森の怨念…その残り香。
( <▼><▼>) 「…少々時間がかかってしまいましたが」
懐にしまっておいた荷物が嵩張るのだ、とワカッテマスは独りごちる。
加工した "ポイズン" の臓物は、腐らぬよう氷の魔導力で凍らせてある。
覚えたての風水魔法で隔離することも考えてはみたが、その場合は繋ぐ先の空間を用意せねばならない。
人口の多い、かつ隠れる場所のないこの街ではどこに人の目があるかわからなかった。
( <●><●>) 「取りあえずは予定通り。
アサピーの話ではやや強引さの目立つ気質とも言っていましたが、しょせん俗物。
……さて、と」
( <●><●>) 「……そうだ、こうしましょう」
誰にも聴こえない声で呟きながら、ワカッテマスは何処かへとその姿を消した。
その目的──いまだ大陸への復讐を胸に。
- 357 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:29:36 ID:NIpLrbB.0
丘に面した外壁沿いを歩きながら街下を眺めるブーン。
その耳に、もの悲しげな声が届き始めた。
…それは民謡にも聴こえるが、
音程は酷く曖昧で頼りない。
( ^ω^)「おっ?」
歩みを止めず進み続ける。
やがて見えたのは…しゃがみこむ一人の男。
遠巻きにこうして見るだけで、頬も腕も痩せこけていることが明確なフォルム。
据わったその目付きは鋭く、しかし脱力した様子で街を睨み付けていた。
見覚えがある。
ブーンは悠久の生に沈む泡沫の記憶から、その糸を手繰り寄せ、想起する。
('A`)y-~ 「……〜♪」
ツンが己の隣にいた頃…
三日月島でアサウルスを倒した時…
あの不思議な空間で、ハインに頼まれ救った男に相違ない。
('A`)y-~ 「ぁ?」
('A`)y-~ 「なに見てんだ」
- 358 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:30:26 ID:NIpLrbB.0
丘の上を撫でてゆく風が、白い壁を避けて二人の頭上に草花を散らしていく…。
彡
彡
( ^ω^) ('A`)y-~
彡
あの時の二人は言葉を交わすどころか、
まともに目をあわせる余裕すら無かった。
現実空間に戻った時には、もう彼の姿はなかったのだから。
……名も知らぬ、不死の同族。
- 359 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:31:57 ID:NIpLrbB.0
- ('A`)y-~「…おい、なんか言えよ」
( ^ω^)「ごめんお、なんでもないお。
君はここで何してるんだお?」
('A`)y-~ 「ぁー? お前ここの人間……って感じじゃあねえな。
訊いてどうすんだ、そんなもん」
(;^ω^)「おっ……、僕は捜しものをしていて…
ここから見えないかと思って来たんだお」
('A`)y-~ 「…」
('A`)y-~ 「ふひ、なんだそりゃ」
男はブーンに "ドク" と名乗り、口角をつり上げた。
ブーンも同様に名乗ると一層つり上げ、しかしすぐに表情と視線を戻す。
同じ不死者と知っていてシンパシーを感じたわけではあるまい。
…だが彼を知る者からすれば、ドクは少し上機嫌に見えたかもしれない。
- 360 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:34:00 ID:NIpLrbB.0
- ('A`)y-~ 「俺も捜しもんさ。
ここから見えるわけじゃあねえけど…まあ待ってんだよ」
ひひひ、とドクは歯の奥から笑いを噛み洩らす。
( ^ω^)「そうなのかお。
もし良かったら、この街の収容所がどこにあるとか…知らないかお?」
('A`)y-~ 「あぁ? それなら」
ドクの指差す先…
街の中心から少し外れた屋根群のなか、ぽっかりと穴が開くように空洞になった箇所があった。
クレーター状の大地に建てられたこの街は道が平行でなく、坂を降るほど裕福で身分の高い者が住んでいる。
罪人からは連想しにくいが、公務員である警官が関わるならばそこではないかという。
ドクは諍いの起きていた余所の領主の首を献上するため、一足先に街の特徴を知っていたに過ぎないのだが。
( ^ω^)「高い建物だとか目立つ場所とばかり思っていたけど…まったく逆なのかお」
ε_ ('A`)y-~ フゥ
( ^ω^)「ありがとうだお、ドクオ」
- 361 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:35:12 ID:NIpLrbB.0
- 再び街中へと歩くブーンの足取りが、心なし軽くなる。
……百年越しの出逢い。
永遠を生きるブーンにも、同じ境遇の存在がこの世界にいることが嬉しくもあり…悲しかった。
繰り返される出会いと別れは怖くない。
慣れたといえば嘘になる……
だが、必然に駄々をこねるほど幼いつもりはない。
( ^ω^)「……そうだお」
怖いのは──二度と出会えないこと。
ましてやそれが同じ時を過ごす者同士であったなら、必然と切り捨てることが果たしてできるだろうか。
( ^ω^)「まずは一つずつ、出来ることからやっていくんだお」
『初心忘れるべからず! )ξ
見失っちゃダメよ、ブーン』
( ^ω^)「……だおね、ツン」
そのためにまずはここへ来た。
大陸中をしらみ潰し、必ずツンを助ける。
その方法を見付けるためなら、どんな苦労も厭わないつもりだ。
ブーンは想い、馳せる。
・・・
僕たちが、これまでと変わらず世界を旅するために。
- 362 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:37:08 ID:NIpLrbB.0
('A`)y-~
ε_ ('A`)y-~ フゥ
ピンッ ('A`)σ ⌒ 、
(A` ) 「……ん…?」
ドクの違和感が、何を捉える。
( 'A`)「──いや、こっちが先か」
そして同時に捜しものを捉えた。
どうするか?
もちろん…ドクにとって優先順位など決まりきっている。
準備は整った。
彼は炙り出さねばならない。
そのための準備に時間を費やしたのだから。
逃走劇の主役。
餌を食べ終わるまでその場を動かなかった愚かな野うさぎには罰が下るだろう。
('A`)「ひひっ」
太陽と月が気紛れに揺れる刻となったウォール高原に、二筋の闇が射していく。
- 363 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:37:52 ID:NIpLrbB.0
- 364 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:38:36 ID:NIpLrbB.0
『ねえ、ブーン? )ξ
私が──みるとしたら』
- 365 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:39:32 ID:NIpLrbB.0
- 366 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:40:43 ID:NIpLrbB.0
- ----------
収容所の入り口で、フィレンクトはぼんやりと考えていた。
「……私は、なぜ警官になった?」
国の法が法であるため、地域住人同士の繋がりは弱くない。
従順に従うならば、
生涯一人にしか使うことのない育児用品などに、限られた資源をその都度割り当てることも躊躇われるのが国の実情だ。
育児に限った話ではないが、この国において、人々は使い回せるものならば大切に保管して再利用する習慣がある。
……独裁者の理想通りにいけば、民との意識は一致するはずだった。
だが現実にはそううまくいかない。
- 367 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:41:31 ID:NIpLrbB.0
『……子作りをしなければ良かった。
一つの家庭において子は一人のみ。
国にそう定められているのに、
産んだのは貴女の責任だ』
「……支給されている粗末な避妊具で、それを守りきれるわけがないじゃないか」
あの時のフィレンクトの言葉は、かつて警官学校で習った教科書の一文をそのまま読み上げたもの。
無意識にも、本心ではなかったという彼なりのささやかな反抗ではあるが、一般市民がそれを知ることはない。
伝わらない想いは身勝手な自己犠牲の元、自身を肯定させる。
レモナとダイオードの顔を思い出し、胸が痛む。
そんな彼の頭上に、大きな影が乗っかった。
( ^ω^)「ここが収容所かお? 面会したい人がいるお」
フィレンクトははっとして顔を上げる。
にこやかな青年がそこには居た。
自身と同年代……
しかし、その身に纏う雰囲気は過去に出逢った誰よりも柔らかく、どんな犯罪者よりも威圧感を覚えた。
どれくらい呆けていたのかと反省しつつ、公務員として面会者のための手続きを準備する。
…誰にも悟られてはならない。
国家への反逆心さえ、自身は抱いてはならない。
フィレンクトは揺らぐ心をしまいこみ、職務へと戻る。
- 368 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:43:34 ID:NIpLrbB.0
- 「では本日の面会対象の名を」
( ^ω^)「ダイオード」
「──、わかりました」
規則にのっとり、面会者の指紋を採取する。
ブーンは特に抵抗なく受け入れたが、国民相手であれば拒否されることも珍しくはない。
犯罪者同士の繋がりを暴くためのシステム…なのに、こんな時までやらなくてはならない。
──バカな、あの娘は犯罪者ではない。
牢に続く第一の扉…チェーンを外し、三本からなる蝶番を順に引いていく。
都度、重たい金属音が壁の向こうで響いているのが平静を装う手から伝わった。
( ^ω^)「ずいぶんと厳重だお」
「法に背くと、大なり小なりの制約がついてしまいます。
この牢には軽犯罪者から重犯罪者までが収容されているので」
──そんな場所にあの娘を放り入れたのか、自分は?
フィレンクトの心に錯綜する、職務への忠誠と秘めた道徳心。
蝶番と共に、彼自身の鍵も弛んでいく。
無表情を装うフィレンクトが顔をあげた。
対するブーンの眼差しは真っ直ぐだ。
その単純な行為が、相手にとって護るべき "心の殻" を無意識にひび割れさせていく。
- 369 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:48:04 ID:NIpLrbB.0
- [目は口ほどに物を言う]…ブーンはそれを実現させる。
フィレンクトはブーンから目線を外すことができなくなり、まばたきすら忘れてしまった。
突き詰めれば、これもブーンのもつ【破壊】の魔導力。
良心への信仰と法への忠信に葛藤する若い警官の身に、正しい力が入るはずもない。
「……」
( ^ω^)σ「扉、開かないのかお?」
「………ッ、し、失礼。 少し具合が──」
( ^ω^)「君はきっと真面目な人なんだね」
どこか心を見透かされたことに恥ずかしさを隠しきれず、やっとの思いで顔を背けると、
ブーンの方を見ないようフィレンクトは扉をあけ、駆け足になった。
牢に続く階段を踏み歩く音が落ち着かない。
( ^ω^)「僕も力ずくで何かをするわけじゃないお」
「…」
( ^ω^)「僕の目の前で泣いてる人がいたから、手助けしたいだけなんだお」
「……」
収容所の気温は高く、暑い。
風邪をひいただろうか?
秋を忘れさせるような、なんともいえぬ汗が長袖の下、腕を伝うのはそのせいだと……フィレンクトは言い切れなかった。
- 370 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:49:12 ID:NIpLrbB.0
- / ゚、。 / 「フィレンクトさん」
「面会だ。 君の私物を届けてくれた人がいる」
フィレンクトの言葉に輝いたダイオードの目は、しかしブーンの姿を捉え、戸惑いに変わる。
/ ゚、。 / 「…おじちゃん、だれ?」
( ^ω^)「はじめましてだお。
つ(▼・ェ・) これ、君のだって聞いて
届けに来たんだけど…」
/ *゚、。/ 「あっ! びーぐる!」
「今はまだ上司がいる時間だから、牢の中にまでは渡せないが…
こうして私が見ている範囲でなら触って構わないよ」
隙間越しにぬいぐるみを抱き締めるダイオードを見ても、フィレンクトの表情に変わりはない。
……変わらぬように努めている。
/* ゚、。 / 「ねえ、もうおうちに帰れるの?」
- 371 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:50:09 ID:NIpLrbB.0
- ( ^ω^)「すぐ帰れるお。
だから良い子でもう少しここで待っててくれって、お母さんから」
本来そんなことは許されない。
フィレンクトの肩がピクリと動く。
国において法は守られるべき秩序であり、警官とはそれを執行する番人の端くれ。
この牢にいる罪人は、いわば国の所有物だ。
『他人の所有物を盗んだ者、禁固2年』
──耳の奥で法が囁く。
/* ゚、。 / 「ほんとー?」
( ^ω^)b「だお。 お母さんを待とうお」
「……」
──その法は、娘を救わないのに?
- 372 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:51:24 ID:NIpLrbB.0
- 子供をあやしつける方便にダイオードは気付くはずもなく、無邪気な笑顔を振り撒いていた。
そう、国内の人間ならば…
この大柄で笑みを絶やさない男が言ったのでなければ、フィレンクトは何の心配もしなかったろう。
ブーンを前にして、その純たる想いと、どこか底知れない旺然さに不安を覚える。
( *^ω^) / *゚、。 /
彼は旅人である。
どんな罪を犯そうとも、
こちらが捕まえる前に国を抜け出してしまえば……
警官としての虫の知らせだった。
体内に篭る細胞が、外部からの異分子に反応するように。
ブーンが法を犯す確証などあるはずもなく、ブーンという個人の人格を疑うことともまた別次元の話。
それでももし──
「それは君たちが決めることではない」
牢内が静まり返る。
…相対、奥にはまだいくつもの牢が並び、そちらからクックッと笑い声や呻き声が耳に届くようになった。
こんな場所で、ダイオードを一人にさせているのは誰なのか。
法か?
「…そろそろ面会時間は終わりとする」
いや、他ならぬフィレンクト自身だ。
ダイオードがここにいるという現実が…
ダイオードをここに連れたという事実が……
一度揺らいだ彼の心を、更に崩壊させていった。
- 373 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 19:52:15 ID:NIpLrbB.0
- ------------
〜now roading〜
( ^ω^)
HP / A
strength / B
vitality / A
agility / A
MP / H
magic power / E
magic speed / C
magic registence / F
------------
- 374 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:23:01 ID:NIpLrbB.0
様々な感情が行き交う、人の命は約100年……
東方では更に永く生きる人もいた。
楽しいことばかりとはいえないが、その触れ合いに寄り添うことは
ブーンのような不死者が生を実感できるチャンスともいえる。
それはもちろん、人から承けるのみに留まらない。
年月が経ち、姿を変える土地からは、また新しい発見をすることもあった。
ガヤ… ガヤ
( ^ω^)「…ツンなら、これからどうするお?」
ガヤ
ブーンがこのウォール高原に来るのは何百年振りだろうか?
隣り合う砂漠が、まだ砂漠になる前だったのは間違いない。
大地は目まぐるしく模様を変える万華鏡…
いくら時を経ても同じ絵柄が映し出されることはない。
だから旅をしていて飽くことも決してなかった。
……今までは。
ザワ
( ^ω^)「ダイオードを助けることは、レモナさんを罪人にしてしまうお…でも」
…ザワ
どこか灰色の世界。
思い出すのはヘリカルの瞳。
ダイオードに比べてあまりに貪欲に映ったあの眼差しは、しばらく忘れられそうにない。
ザワザワ
- 375 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:24:10 ID:NIpLrbB.0
- ガヤガヤ
周囲の音がよく聴こえるようになった。
思いにふけた意識を視界に戻すと、
街人らの頭が右往左往に流れていく夕暮れ時の景色に改めて気が付く。
それはただただ流れるのではなく……時にぶつかり、規則性からほど遠い無規律な雑流。
「逃げろっ!! 化け物が──」
「うわあぁあ!」
あがる悲鳴。
瞬時に切り替わるブーンの脳内スイッチ。
しばらく眠っていた細胞が目まぐるしく、弛んでいた身体の芯を引き締める。
「家の中じゃあ潰される…! 離れろ、離れろぉ」
「…向こうかお」
三( ^ω^)
呟きを置き去りにブーンは駆け出していた。
腰に下げた数本の剣が、がちゃがちゃりと静かに音をたてる。
視線の先、白い建物群の頭からは鈍色ひかる鉄の翼が生えていた。
- 376 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:25:28 ID:NIpLrbB.0
- ( ^ω^)「これは…」
境界線は無い、いつの間に足を踏み入れていたのか。
飛び交う瓦礫、人の身体。
血で血を洗うには些かその量が多すぎる。
弧を描くよう放られ、その場にタイミングよく現れたブーンの腕へ "がくん" と収まったのは肉のカタマリ。
仰向けに垂れる身体の中心には紅い背骨。
成人男性の死体。
( ^ω^)「……」
勢いよく飛んできてもその衝撃に身をよじることなく、ブーンは巨木のようにまっすぐ立ち、死体を見下ろす。
腕に伝わる死の感触……
首の肉も崩れ、千切れそうな舌がだらしなく口許から零れているのを直視してしまう。
たち込めるは新鮮な血の匂い。
死体はフィレンクトと同じ布兜…警官の格好をしていた。
ブーンの周辺にはいまもなお、宙に警官隊が浮かび、そしてぼとぼとと降り注ぎ続ける光景が止まない。
今この場を支配しているのは、聴く者を慄かせる破砕音と、雷を思わせる唸り声──
- 377 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:26:41 ID:NIpLrbB.0
《グ ゴ ォ ア ア ア ァ ア!!》
('∀`)「ひひっ、ひひひ!!」
(;^ω^)「ドク?!」
ひときわ巨大な鳥が大地を暗く染める。
広げる翼が、空の蒼さをその体躯以上に隠している。
その背中で笑うのは──不死者ドク。
- 378 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:27:51 ID:NIpLrbB.0
- ('A`)「おい、そこでいいのか?」
('∀`)「まーそのまま死ぬのもいいぜぇ?
ひひっ! 羨まーし〜ぃい♪」
誰に話し掛けているのか、グリガンの生み出す風に乗せられたドクの声が届く。
それを聴き取れたのは、辺り一面に動くものが無くなったからだ。
/::; <●>) …ゴトリ
──たった一つ、死体の山から立ち上がった呪術師を除いて。
大きな瞳孔、闇を模倣するフード。
その衣の奥から【カース】と囁く声がした。
ブーンがそれを捉えたと同時、黒い炎が柱となってワカッテマスを囲む。
「……気色悪いもん造りやがって」('A`)
('A`)
('A`) ( <●><●>) ('A`)
('A`)
(;^ω^)「──どうなってんだお」
- 381 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:37:12 ID:NIpLrbB.0
- ワカッテマスはいち早く領主に取り入り、土塊を製造していた。
元となっているのはボイズンの臓物。
そのすべての土塊の手に、長身の銃が握られている。
( <●><●>) 「…すり潰してみなさい。
貴方自身の内臓で良ければ
A`) ザザッ
( <▲><●('A`) ──ね」
ワカッテマスを護るよう身構える二体。
他の一体はドクに向けて走りだし、残る一体はワカッテマスの背後で…
('A`)「……」
('/ :
:/A`) ズ リ
ュ ッ
──身体ごと裂かれ、崩れる。
(<●><●>; ) 「?!」
( ^ω^)
つΓーーーー,
 ̄ ̄ ̄
土塊の身体から、温もりなき重い剣が姿を見せていた。
滴るものは何もない。
"隕鉄" とも異なる両刃剣は、土塊の肉と骨と血を切断面から【破壊】し尽くしたブーンの得物。
- 382 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:38:52 ID:NIpLrbB.0
- ( <●><●>) 「…何者です? いえ、答えずとも良いのですが」
だが、すぐ真後ろで起きたそんな迅速劇にもワカッテマスは動じていない。
頭から割れ伏した土塊から粉が舞い、光る粒子となって人形は消えていく。
呪術師の瞳…こちらの観察に努めているのだろうとブーンは感じ取った。
相手に恐怖という感情は恐らくない。
足元に残った砂を無造作に蹴飛ばしながらブーンは続ける。
( ^ω^)「見つけたお。
君だおね? ツンにあの呪いをかけたのは」
『黒い……瞳孔の大きな… ? )ξ
あれは赤い森の────』
( <●><●>) 「さあ? 存じません。
"この私ではない" と思いますが」
( ^ω^)「【カース】…ツンはその魔法を受けてから、ああなってしまったお」
( <●><●>) 「……………ほう?」
「興味がありますね……
- 383 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:39:44 ID:NIpLrbB.0
( <▼> <▼> ) …どうなりました? それ」
- 384 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:40:27 ID:NIpLrbB.0
- 下卑た笑み…その瞳孔を弧月に歪ませる。
後頭部が熱くなる気がした。
そんなブーンの視界に映るのは
『クックッ』と笑うワカッテマスと
空の上から墜ちる、喰い千切られた "ポイズン" の下半身。
( ゚ω゚)「……やっぱりお前なのかお」
"ポイズン" の下半身は大地を前に粒子となる。
土塊はその身を繋ぎ止める媒体が破壊されればこの世に存在できない。
真上には巨獣グリガンと、不死者ドク。
ダメージを受けた様子はなかった。
……土塊はドクの力をもコピーするに至っていない。
( <●><●>) 「……解凍が早かった…仕方ありませんか」
( ゚ω゚)「ツンを元に戻すお」
(<●><●> ) 「知らないものは戻せません。
先ほど言った通り、それは私ではない。
……ですが見せてもらえるなら──」
- 385 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:41:19 ID:NIpLrbB.0
- 突然ワカッテマスが大きく跳躍した。
動き自体は素早くないが、予備動作はなく、さらに周囲を囲む土塊までも同時にその場を離れている。
(゚ω゚ )「なん──っ」
追うつもりのブーンを襲う突風、そして鉄の羽根。
ワンテンポの遅れがその身を封じ、肉を切り刻む。
《ギィィイイッッ!!》
Σ(# ;゚ω゚)「ふおぉぉおっ!!」
──グリガンの【ダウンバースト】。
はるか上空から注ぐ刃と、
全体重を乗せた体当たりがブーンに迫り、
邪
魔
す
ん
な
と、
耳にがなり声をこびりつかせた。
爆発音はグリガンと共に、ブーンは白い瓦礫の山へと吹っ飛んでいく。
('A`)
「それは俺の獲物なんだよボケが」
- 386 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:43:59 ID:NIpLrbB.0
- ガリ(ガリ ガリ ;;゚ ガω゚リガリガリッ!
ブーンの意思を断ち切らんとする巨獣のメテオ。
背中に受ける衝撃が意識を失うことを許さない。
瓦礫の山を爆砕してなお、グリガンの【ダウンバースト】は止まらない。
遥か先で原型を保っていた建物という建物すら粉砕しながら翔んでいく。
('A`)「てめーはそこで戯れてな」
グリガンから降り、それを眺めていたドクは
そのままワカッテマスの消えた方角へと足を向ける。
( )「…」
( 'A)「…なんだと?」
…グリガンの攻撃が止んだ。
巨獣の体当たりは、この程度で終わる攻撃ではないはずだった。
「…待、つお……!」
空によく通る声がする。
衝撃の余波がびゅうびゅう土煙を押し退けていく。
ひらけてゆく景色…新たに出来た瓦礫の壁。
蜘蛛の巣状にひび割れたその中心に。
グググ…
::(;つ^ω^)つ::「…あいつには…訊かなきゃ、いけないことがっ、あるんだお!!」
グリガンの牙を抑え込み、膨張させた筋肉によって巨獣を怯ませるブーンの姿。
( 'A)「…」
( 'A)「ひひっ、おもしれぇ〜」
- 387 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:45:03 ID:NIpLrbB.0
- グググ…
::(;つ^ω^)つ::「ドクもアイツに用があったのなら、目的は一緒のはずだお!」
('A`)「んー、あぁ〜そうねえ〜」
::(;つ^ω^)つ::「それなら一緒に──」
('A`)「馴れ合うつもりはねえ。
どーしてもってんなら、てめーはそこでグリガンを倒してみろ。
おもしれーぞソイツは」
::(;つ^ω^)つ::「ド、ドク…頼むお!
僕は君と争うつもりはないんだお!」
('A`)「争ってんじゃねえか、どっちが先にワカッテマスを捕まえるかをよ」
::(;つ^ω^)つ::「ツンを助けるために、アイツから病気を治す方法を僕は知りたくて──」
('A`)「他人の事情なんざ知ったことか。
俺の用が済んでからにしろよ」
::(;つ^ω^)つ::「どうしてだお! 話を聞いてくれお! ドク!」
( 'A)「あばよ、ブーン。 …ひひっ」
そういって、ドクは去っていった。
グリガンの向こう側にいるブーンから見ることも出来ず、ただ気配でドクが居なくなったことを知る。
グググ…
::(;つ ω )つ::
::(;つ゚ω゚)つ::「……ドクオー!!!」
- 388 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:48:57 ID:NIpLrbB.0
- ブーンの叫びに呼応してグリガンの牙が震えだす。
──否、震えているのは鋭い体毛か。 それも全身。
七色の羽根をもつ孔雀が異性に対してアピールするのと同じように、鉄の羽根もまた、強者に向けて。
::(;つ゚ω゚)つ::「ま、マズイお!」
グリガンが短く鳴いた。
『お前の力、もっと見せてみろ』
そう言いたげに、無数の羽根が死神の鎌を連想させるほど逆立ち…欠けた月を作り出す。
『【バーストウィング】…!』
____、
`ーーーと(# ゚ω゚)つ::
ミ 「…ッこの──」
…羽根が身体を貫く音も、叫び声も、
ドクには届かない。
- 389 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:49:46 ID:NIpLrbB.0
- ----------
「ぐあぉお!!」ギシギシッ
「ははは ( <●><●>) ははは」
「ギャアァァッ」
ギシィッ
( < ●>< ●>) つ 「【カース】…」
ギシッビシッ
「あ゛ー! あ゛あ゛あ゛ー!」
ガッシャーン
⊂(<● ><● > ) 「…【カース】」
街中に次々と、氷の柱が生えそびえる。
ドクとグリガンから逃げるワカッテマスはしかし、素直に街から出ようとしなかった。
「しね…シネ…
<●> <●>
死ね…しネ…」
ピキリ、パキリと結晶を踏み締め。
優雅に歩くその姿はさしずめ童話の笛吹男だった。
いまや凍えそうな寒空の下、愉しげに振り蒔かれる赤黒い魔導力。
なす術なく人々は瞬時に石化し "凍って" ゆく。
それが柱の正体。
《バスッ!》
「おめーが死ね」('A`)
- 390 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:51:28 ID:NIpLrbB.0
- 咄嗟に目を向けるしか出来なかったワカッテマス。
その眼前にドクの弾丸が迫った。
( <●><▲> 「──
'=⊂('A`) ひひっ」
フード越しに頭が揺れる。
ドォゥンッ…と鈍く重い音。
──そして
('A`)「…! 野郎」
弾力性に富む分厚い衝撃吸収材を鈍器でなぐればそんな音がするだろう。
ダメージの大部分を散らす陽炎の壁がワカッテマスを囲んでいるのを、ドクは確かにみた。
('A`)「GC (ガードコンディション) …このタイミングでか」
( <●><●>) 「…貴方でなくグリガンであれば貫けたでしょうにね」
('A`)「それじゃあ意味ねぇんだよ」
- 391 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:52:45 ID:NIpLrbB.0
- 任意で一定量の魔導物理壁を張る【シールド】とは違い、
GCは発動もまちまちで、単一では弾丸を防ぐほどの壁も作れない。
──それが魔導研究者達の常識であり、大陸戦争時代には
[戦場の奇跡][女神のお目こぼし]とも呼ばれていたほどだった。
グリガンのような規格外の存在でもなければ覆せない。
人は群れ、心から仲間と連携し、団結することではじめてGCが発動するが──
( <●><●>) 「貴方の土塊とは随分と相性がよろしい…それを収穫としておきますか」
主従関係よりも強固な上下関係。
土塊人形とワカッテマスにはおあつらえ向きなのかもしれない。
('A`)「……」
('A`)「ひひひ」
土塊から奪った銃では貫けない。
本来の得物であればGCを減少させるリングが共に在ったはず──……などと悔やむのは、限られた時間を生きる者だけの特権。
千年を生きる彼の心に、悔いるという文字はない。
('A`)「俺が諦めると思うか?」
ドクは両腕をだらりと下げ、首をかしげると
ワカッテマスを見下すよう睨み付けた。
('A`)「たっぷり時間はあるんだ、遊んでやるよぉ〜っひひひ♪」
('∀`)「…お前の企みも、怨念も、生きる目的も希望も
手足も首も顔面も目玉も舌も血も肉も骨も、
全っ部 ────
もう、俺のもんだ」
----------
- 392 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:53:43 ID:NIpLrbB.0
街の至る場所で発砲音が紫空に舞っていた。
色に灰塵が混ざるのは、同時に放たれた炎のせい。
主人に寄り添うよりも優先度の高い命令を受けている土塊の所業は、常人にすれば狂気の沙汰だった。
「なぜ…私達がなにをしグェッ」
「助けてくれ! た──ッハギァ」
人々を襲う凶行。 止めることは出来ない。
土塊が引き連れた領主の姿を背景に残したまま、鉛の雨に撃たれて地に沈んでいくばかり。
|(●), 、(●)、| 「この区域の住人は反逆者だ!
収容所などもういらぬ! 資源の無駄だ!
老人もいらぬ! 国の未来に必要ない!」
|(●), 、(●)、| 「殺せ!」
興奮のあまり瞳孔を開いた領主がその手を振りかざし、控えていた警官たちも場の鎮圧にかかる。
──なにが反逆で、誰を殺せばよいのか?
誰一人としてそれを把握している者はいないのだろう。
国民を撲り倒し、流れ弾に貫かれながら、彼らの耳元では法が囁いている…。
『職務を放棄した公務員は、生命刑…つまりは死刑』
殺せ!
殺 せ!!
殺 せ!!
- 393 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:55:36 ID:NIpLrbB.0
『殺せ !』
『殺 せ !!』
『 殺 せ!!』
/; ゚、。 / 「…なんのおと?」
狂気を運んでいる張本人、
ウォール高原の領主の声が地に吸われ聴こえてくるそこは、地下に建設されている収容所。
冷えているはずの壁床からじりじりと熱を感じ始める。
フィレンクトも、制服の一部である布兜ごしに、パラパラ降る小石や砂埃の重みを感じた。
表情は自然と歪み、天井のあちら側から目が離せない。
「私にも分からない……石が降る、その毛布を頭に被っておくんだ」
/ ;゚、。 / 「う、うん」
「……いったい何が起こっている?」
人間とは思えないほど悪意に満ちた頭上の声を、ダイオードはどう受け止めるだろうか。
フィレンクトは無意識に階段へと足を向ける。
/; ゚、。 / 「おかあさん! ねえ、おかあさんは??」
- 394 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 20:58:47 ID:NIpLrbB.0
- 「レモナさん……そうだ! 避難活動はされているのか?!」
/; ゚、。 / 「えっ…」
「君はここで待っ……いや!」
フィレンクトは踵を返し、牢を開錠する。
二日ぶりに開かれる鉄柵。
その奥でいそいそと、薄汚れた毛布にくるまろうとするダイオードが慌てて顔を上げた。
「おいで。 私から離れないように。
レモナさんの所まで必ず送り届けよう」
/ ゚、。 / 「…うん」
もう分別のつく年頃だ。
地上に起こる騒動はともかく、フィレンクトの焦り…住民を守ろうとする優しさは感じとるのだろう。
その時──ひときわ大きな震動が収容所を揺さぶった。
他の牢ではまだ繋がれた罪人達が恐怖に叫び、
「俺達も出せ! クソガキ! おい殺すぞ!」
と、この期に及んでまだ恐喝じみた言葉を投げつけてくるが、フィレンクトの聴覚はそれを遮断する。
「上では何があるか分からないが…君はとにかくお母さんのところに行かなくては。
…怖いかい?」
問い掛けから間を置かず、
ダイオードは首を小さく横に振る。
/ ゚、。 / 「フィレンクトさんがいるならへーき」
……その口許は、笑っていた。
- 395 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:00:16 ID:NIpLrbB.0
- 警官として特にここ数年、フィレンクトがやってきたのは誰かを罰する職務ばかりだった。
──罪を犯すほうが悪い。
──なぜ法を破るのか?
……どうして規律を破ってまで私達の目を逃れ、信用してくれないのか。
いつしか意識の谷底へと沈んでいった。
公務員試験に合格し、当初抱いていたはずの
"純粋に誰かを守り、平和に過ごせるよう助けたい" という想い……。
それがまだ自分の中に残っていて、打てばこうして鐘を響かせるのだ。
なにも恨まれ疎まれる仕事で生涯を終える必要はない。
自分にはまだ道が他にもある。
この国に拘らず、素直に生きる人生がある。
(‘_L’) 「さあ、行こう」
そう考えたフィレンクトの顔は晴れやかで、活力に充たされる。
今までの死んだような顔ではなくなった。
そして誇らしげな微笑みをダイオードに向けると、
──頭から瓦礫に潰された。
- 396 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:01:46 ID:NIpLrbB.0
- パラパラ……
パラ…パラ … パラ
/ ゚、。 / 「……」
( ω )
ダイオードの目の前に広がる無惨な天井瓦礫。
大量の土がザラザラと…
夕焼けに照らされた砂煙が、牢獄の空を彩った。
フィレンクトと入れ替わりその場に現れたのは、先日顔を合わせたばかりの青年──ブーンの姿。
/ ゚、。 / 「……」
ダイオードはその瞬間を見ることが出来なかった。
フィレンクトはどこにいったのだろうと、幼い瞳は瓦礫、空、ブーン、砂を順番に見つめる。
( ω )「……ぉ」
ブーンが唸り、その身に背負っていた毛布をうっとおしげに引っ張り捨てた。
それはあまりに巨大で厚みのある、ダイオードにとって見たことのない、生々しい鉄色の光沢を映し出す。
ずる
り、ず
るり、ビ
( ω ) チャッ。 /; ゚、。 /
- 397 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:03:46 ID:NIpLrbB.0
- 彼女の頬に跳ねるは、血。
目の前に押し寄せられた毛布は一枚の絨毯のように牢獄を埋めつくし、
しかしところどころ羽をむしられ、むせかえる獣の臭いをダイオードの鼻腔に充満させた。
ブーンがそれに気付いたかは分からない。
…剣を立て、支えるように立ち上がる。
顔を上げるとはじめて辺りを見回した。
( ;; ω^)「……ダイオード?」
(;;; ω^)「いてて……。 じゃあここは、収容所かお?」
/; ゚、。 / 「……」
(;;; ω^)「?」
見開かれた瞼から覗く瞳孔が…
驚きによって小さな黒点となりながらも、ブーンからついて離れない。
正確には──その足元の瓦礫から。
- 398 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:05:36 ID:NIpLrbB.0
- ブーンは天を仰ぐ。 月のない空。
牢獄に開いた大穴から、相容れない熱と冷気が流れ込むのを感じた。
灰塵は見えどグリガンの気配はない。
翼を失いどこかへ去ったのだろうか。
深く息を吸って静かに吐く…。 すると背中にどっと汗をかいた。
手をあてながら、我ながら頑丈な身体と強運に感謝する。
運良くGCが発動していなければ、彼の胸を鉄の羽根が貫いていただろう。
(;;;^ω^)
つ◎ (そうなれば、後はやられ放題だったはずだお)
…肩から片翼を丸ごと分断して尚、
グリガンの攻撃は凄惨の一言に尽きるものだった。
思い出すに震える手で【ヒール】を発動する。
さらにその中のもう一つの救いは、完全にグリガンと密着していたことだった。
こちらの攻撃さえ届けばどんな強敵相手にもチャンスはあるのだから。
手の内にある使い古された両刃剣…
"デュランダル" を一瞥すると、ブーンはもう何度かの深呼吸を繰り返す。
永きに渡りブーンの愛用してきたこの不滅の刃は、不死すら屠ることが出来る。
ともすれば不死を屠るためだけに存在する剣。
- 399 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:06:29 ID:NIpLrbB.0
…ドサリ。
その時、何かが倒れる音がした。
見やればダイオードが尻餅をつき、小さな歯と身体を小刻みに震わせている。
( ^ω^)つ「驚かせてごめんお…どこか怪我してないかお?」
/; ゚、。 / 「やだ」
(;^ω^)つ「?」
/; ゚、。 / 「……いやだ」
差しのべた腕は、所在無く宙に留まる。
ブーンには理由が計り知れない。
(( /; ゚、。 / 「こないで」
(;^ω^)つ「?? 僕を忘れたかお?
ほら、おかあさんから頼まれて、ぬいぐるみを持ってきた──」
(( /; ゚、。 / 「いやあ!」
(;^ω^)「……あぅ」
はたと気付き、"デュランダル" を鞘に納めたが、ダイオードの態度は一向に変わる様子を見せない。
仕方なくブーンはその場を後にする。
「もう少しここに隠れていてくれお、おかあさんを連れてくるお」
……そう伝えてから階段を登った。
大地を揺るがした衝撃によって壊れそうな扉に、荒く手をかけながら一度振り返る。
先ほど自分の居た場所で、四つん這いのまま項垂れているダイオードの後ろ姿が見えた。
まるでそこに何かがあったかのように。
- 400 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:08:18 ID:NIpLrbB.0
- …きっとこの予感は当たっている。
ぬいぐるみを下敷きにしてしまったのかもしれない。
だがそれを確認するより、街の被害が拡大する前に安全を確保したかった。
レモナとダイオードを会わせなければ。
多少なりとも恨まれるのは構わない。
それでもできる限りのことはしてやりたかった。
(^ω^;)「すぐ戻ってくるお!」
返事は聞かず、地上に出てまずは周囲を確認した。
…やはりグリガンの姿はない。
代わりに人々が倒れ、秋夜の空気と混ざりあう冷気の湯気が例外なく立ちのぼっているのを見た。
場に残留する微かな魔導力が、
かつて【カース】を受けたツンを治療した際に感じたものとあまりに似通っている。
( ^ω^)「…ドクにやらせちゃダメだお」
ブーンの捜しものは形を為した。
ツンを治すための手掛かり…
ドクがあの呪術師をまだ殺害していなければ、間に合うかもしれないのだ。
そのためドクよりも先に、呪術師を捕まえる必要がある。
──だが。
はやる気持ちを抑えつつ、ブーンはレモナの住む郊外へと走り出す。
遠いどこかでブーンの知らない、誰かの笑い声が聞こえた気がした。
----------
- 402 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:09:12 ID:NIpLrbB.0
(推奨BGM:Eclipse of Time)
- 403 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:10:08 ID:NIpLrbB.0
ダイオードの拒絶以降、ブーンの表情は曇り続けていた。
道行く道は軍兵が無秩序に侵攻したかのように荒れている。
郊外に向かう分には迷いはしない。 クレーター状に緩やかなこの街は、坂を上れば高原側に進むことになるからだ。
だが街の中心地から離れても、離れても…。
惨劇の跡と静寂が、わずか半日で街中に蔓延っていた。
走るブーンの視界、白い建物は古び、冷気を帯びる死体の数もまばらになっていく。
(;^ω^)「…【ウォータ】ではこんな冷気を発しないお」タッタッタッ
(;^ω^)「まるで氷の……でもそんな魔導力は聞いたことないお」タッタッタッ
ツンの症状を思い出す。
緩やかな石化…一切の動きを停止した身体…。
(;^ω^)「誰かいないかお?!」タッタッタッ
張り上げたその声も虚しく暗闇に消えた。
この辺りはまだたくさんの人が溢れ住んでいたわけではない。
うまく避難していてくれたなら善し……さもなければ──
時折《パキリ…》と冷たい音がする。
氷の柱だった名残が、死体の一部から剥がれ落ちる音であると知り、ブーンの胸はざわついた。
まもなくレモナの家に着く頃。
前方にはビロードの医院が、その背と輪郭を現し始めた。
…窓はことごとく割れ、壁に大穴を空けて。
速かったブーンの歩調が更に速度を上げる。
- 404 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:11:39 ID:NIpLrbB.0
- (;^ω^)「ビロード!」
(^ω^;三「…ビロード?! 居るかお!」
穴からそのまま中に入り込むと、ブーンの声が再び飛ぶ。
医院内には人影もなく、死体も見当たらない。
「……だれ、ですか?」
(;^ω^)「!! ビロード!!」
返事があった。
弱々しくはあるが、それは紛れもなくビロードの声だった。
ブーンは声のする方角……医院の正面口へと走る。
(;^ω^)「良かった、無事だったのかお」
「………」
彼は外にいた。
[po・oq]の看板が外れ、土にめり込んでいるその真横…。
安宿入り口の石畳に座り込むビロードは俯き、顔は夜の暗さに紛れてよく見えない。
「その声は…あの時の」
( ^ω^)「だお。 怪我がなくてなによりだお」
「なにより……ですか」
- 405 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:13:18 ID:NIpLrbB.0
- 「私の隣のこれ…お店の看板ですよね?」
ビロードの手が優しげに置かれる。
数時間…いや数十分前には入り口の扉頭上に掲げられていたであろう看板。
ビロードが重い腰をあげると腕を伸ばし、看板の端から中央にかけてシワだらけの指を這わせる。
「私ね、途中からひょっとして…と思っていました。
お久し振りです、ブーンさん。
……ですよね?」
( ^ω^)「…!」
彼が立ち上がったことで、扉に描かれたウェルカムメッセージに深い影が差す。
目の見えないビロードは言葉を続けた。
「…ぽっぽちゃんが建てた宿、まだ営業できますか?
私の触れないところは、無事に形を残してくれていますか?」
「あっという間だったんです。
はじめは外が騒がしくなったな、と思う程度だったんです」
「でもそのあとすぐに地震が来て、私は夢中で医療用ベッドの下に潜り込みました」
その視線は当然定まらず、彼はずっとブーンに対して横を向いていた。
- 406 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:14:39 ID:NIpLrbB.0
- ( ^ω^)「…大丈夫だお、少し修理すればすぐに…」
「街の人々は無事ですか? この国は、旅人がまた泊まりに来てくれますか?」
……ブーンは答えられなかった。
広い街ではあるが、この現状が街の反対側で起こらなかったという保障はどこにもない。
領主が何をしていたのかすら、ブーンには把握しきれていないのだから。
「……すみません。
これでは八つ当たりですね、ブーンさんに私がしていいことではない」
「流行り病にかかった時、ぽっぽちゃんは宿の扉に貴方へのメッセージを遺してから逝きました。
私たちはあの砂漠道で、ブーンさんとツンさんから、大人としてのお手本を見せてもらいました」
( ^ω^)「……」
「子供に優しくすること。
命令ではなく、一緒に行動すること。
…なによりも、あんな子供だった私たちの個人の意思を、とても尊重してくれていたのだと。
歳をとるたび、私たちは様々なことを振り返っては、貴方たちに感謝したんです」
ビロードは白衣の裾で目元を拭う。
洩れない嗚咽は、彼がここまで生きてきた我慢強さの表れか。
──なのに、その顔が見えない。
- 407 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:15:51 ID:NIpLrbB.0
- 「おかえりなさい、ブーンさん
ここはウォール高原の貴方の家なんです。
僕たちの…もうひとつの家族のための」
ビロードは少しだけ笑っていた。
ブーンからは顔が見えなくとも、なんとなくそれが判った。
…ここにツンが居ないことを申し訳なく感じてしまう。
「一日だけしかおもてなし出来なくてごめんなさい。
もっともっと、貴方には柔らかなベッドで身体を休めて欲しかった」
「だからまた…この場所に来てください」
「その時に私はもう居ないけれど……証しを遺しておきます」
──ブーンの心臓が跳ねる。
続くビロードの言葉は、更にその激しさを増した。
- 408 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:16:52 ID:NIpLrbB.0
- 「少しだけ触れた、貴方の指先はあの頃のままでした。
さっきも貴方が呼んでくれた声で、確信できたんです」
「普通ならそんなはず無いけれど……
きっと、ずっとずーっと長い間、貴方は生きているんですね? ──そして、これからも」
「だからまた来て欲しいんです。 私たち兄妹が住んだこのお家に。
……ブーンさんとツンさんが、旅をして、またここに来ればいつでも休めるように」
「それが、私たちから貴方への恩返しです」
- 409 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:19:27 ID:NIpLrbB.0
最後まで、ビロードはこちらを向いていたはずだった。
……なのに最後まで
この時の彼の顔はブーンの記憶に残らなかった。
(推奨BGMおわり)
- 410 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:20:30 ID:NIpLrbB.0
- ----------
ザァザァと降りしきる秋の大雨。
いつもなら風に吹かれて草木も囁く高原の自由さを、頭ごなし大地に押さえつけるかのように強く…。
大粒の滴を、これでもかと言わんばかりに放出している黒雲の仕業だ。
( ^ω^)
丘の上、見下ろす景色はここへ来た時とそう代わり映えしない。
ただ今は天候のせいで見通しが悪い。
白く高い壁がぐるりと囲むウォール高原の街は、丘にいてなお、中の様子を窺い知ることは難しかった。
二段構えの白い壁は内側から丘を展望できても、外側からは不可視となる。
戦時の際の外敵から街を守りやすい構造になっているのだろう。
………そんなウォール高原に存在した国は、皮肉にも内側から崩壊した。
- 411 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:21:19 ID:NIpLrbB.0
- ( ^ω^)「なにが…原因だったんだお?」
ブーンからすれば、あっという間の出来事だった。
ドクとの邂逅…
思えばその時──ツンの居ない寂しさを抜きにしても──大きな喜びに浮き足立っていた気がしなくもない。
あの時点で予兆はあったのだ。
アサウルスを倒した不死者が『捜し物をしている』のだと…その言葉に、ブーンは自身の境遇を無条件に重ねてしまった。
もっと何かを感じても良かったのだ。
ドクに訊きたいことが、今になっていくつも頭に浮かぶ。
- 412 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:22:23 ID:NIpLrbB.0
ビロードと別れた後、レモナとヘリカルは見つからなかった。
置き去られたダイオードは
収容所のあの場所で疲れ果てたのか、眠っていた。
目の下に、泣き晴らした跡を残して。
あの街に残っているのは一部の住人だけだった。
領主は消え、生き残り解放された警官隊が涙を流して救助活動を行っていた。
ダイオードを抱えて宿に戻った時も、ビロードの顔はやはりよく見えなかった。
( ^ω^)
( うω^)グイッ
( ^ω^)
『まってるから )ξ
貴方がアタシを治す手段を見付けて──』
- 413 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:23:03 ID:NIpLrbB.0
( ^ω^)「…もう少し待っててくれお」
フードの呪術師、そしてそれを狙うドク。
手掛かりは増えた。
どちらかを捜すことでも、ツンを治す第一歩となる。
大丈夫…まだ大丈夫なはずだ。
そう自分に言い聞かせ、ブーンはウォール高原を後にする。
雨でぬかるんだ草と土がブーツにしがみつく感触を、少しだけ疎んじた。
- 414 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:23:49 ID:NIpLrbB.0
ビロードの親孝行は嬉しかった。
その気持ちに嘘はない。
だが、それを素直に受け取るためには
ツンが必要不可欠なのだとブーンは思う。
……ビロードの想いとは裏腹のエゴで。
土砂崩れに埋もれ命をおとした、
ニューのことが脳裏をよぎった。
そしてレモナの居ないあの街で、
ダイオードは大丈夫だろうかと悩んだ。
……知り及びもしない過ちに、ブーンは気付かないまま。
雨は人の言葉を通さない。
音を悪戯に拡散する。
止むまでは再現なく増殖し、見えるものも見えなくなる。
- 415 名前: ◆3sLRFBYImM :2015/01/22(木) 21:24:41 ID:NIpLrbB.0
すれ違う。
親の心、子は知らず……。
間違い続ける。
──子の心、大人は知れず。
迷い続ける。
自分自身に抗いながら。
それでももし、いつか。
その "いつか" の為に、
人は希望を抱き、
なんとか生きているのかもしれない。
(了)
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