170 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 16:58:11 ID:upfhhKc.0


 昔 むかし ちいさな山のなかで

 村の者が 誰も近付かないやうな
 浅くて深ぁい 森のなかに
 ひとりの若い山人が すんでおりました
 

171 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 16:59:14 ID:upfhhKc.0

 その山人は 樹をきり 獣をかり
 川みずをのんでは ねとこにつく

 村の者も だぁれも 山人と
 ろくに口も ききゃあしません

 くるひも くるひも 山人はひとり……
 

172 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:00:37 ID:upfhhKc.0

 なにせ山人を おとなは みていません
 はてさて
 在るのに居ないとは これ異かに

 村のこどもが 胆をためそうと
 山にたちいると 顔をみたといいます

 ですが おとなが覗きにいくと
 どこを歩いても いつ歩いても
 切りたおされた樹ぃや
 獣をめしたあとが のこるばかり
 ときに村をあらす 妖怪のほねばかり
 

174 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:01:44 ID:upfhhKc.0

 はじめこそ これはたたりだ
 いやさ 山のかみのいたずらだ と
 うわさしていた村のひとびとも


 《かみさまが獣をよく喰ふまいよ》


 といふ誰かのことばに うなずいて
 てっきり村の者たちは
 山人がてまえかってに すみついたんだ

 ……そう思ふことにしたそうな
 

175 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:02:28 ID:upfhhKc.0

 おとなの心配をよそに 子はあつまり
 山人のところへ あそびにいくといふ


 《山人あめたべた》 《山人にくとった》
      《山人うたぅた》


 どうやら害はなかろうと おとなも
 《あぶないことはするでないよ》
 と声かけるに とどまっておりました
 

176 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:03:22 ID:upfhhKc.0


 そんなある日 村のかわ上のほうがくで

 おおきな おおきな おぉーきな
 太陽をさえぎるほど おおきな太陽が

 よるをひき連れて 山にふってきます
 空をさいて 山をにじり 海をあらします


 おとなは残った子らをひっぱって

 《もうだめだぁ このよはおわりだあ》

 はばからず 泣いて
 ただ ただ うずくまっていました


 

177 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:04:08 ID:upfhhKc.0
( ^ω^)千年の夢のようです


- 東方不死 -

178 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:05:32 ID:upfhhKc.0



美しいものには棘がある。

華は寒暖から身を防ぐために棘を持ち、
明確な敵意をもったものに対して、その棘を剥き出しにする。


だが、それは人が後世に作りあげた空想だ。


本来の目的は違う。
己の力だけでは成長できないその華は、
寄り添った別の花に棘を巻き付けながら、利己的に生き永らえるためその棘を持つのだ。


巻き付かれた花は傷付き倒れ、
それを糧にして華はより強く、大きくなる。


<ヽ`∀´>


今日も一人、
そんな華の前にのこのこと現れた。

179 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:06:14 ID:upfhhKc.0

<ヽ`∀´> 「…御師が言っていたのはここニダね」


背中に巨大な太極図…陰陽印を背負うのは
大柄だが、見た目より柔らかな物腰の男。

辺りを支配する月と宵闇。
肌寒い秋夜に都合の良い厚手の和装。
口の広がった袖を、胸元に絡ませながら
正面に見据えるのは…古くより現存する湖。


<ヽ`∀´> 「見た目は綺麗な湖ニダが…」
 

180 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:07:10 ID:upfhhKc.0


約10年 ──。
この湖が大陸の闇と囁かれ始めてから
それだけの月日が流れていた。

数多の白魔導士が原因を調査してきたが
未だ解明と解決には至らない。


底深くにある何か…。
その存在が年々、力を増しては
解呪に挑む者の精神を崩壊させるケースも珍しくない。

観光地として身を休める旅人の憩いの場は
過去に "美しい湖" として名を馳せていた。


今では、その外観から似つかわしくない
曰く付きの場所として、人々から
── "偽りの湖" と呼ばれている。

 

181 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:08:19 ID:upfhhKc.0

<ヽ`∀´> 「こうも広いと、ウリだけの力でなんとかできるような結界は張り切れないニダ」


呟きながら、男…ニダーは
風のない湖の周りを一周しながらも、ある方角に集中させるように短かな鉄串を立てていく。

歩いてはざくり、歩いてはざくり、と……
男の何気無い動作は、大地の点穴を的確に刺していった。


峨嵋刺と呼ばれるその串は、両端が鋭く研ぎ澄まされた、東方に伝わる隠し武器の一つ。

島国のお伽噺話では頻繁に目にする鬼……
そして女性が心に秘め持つ鬼の角…
その角をモチーフとして製造された、文字通りの "暗鬼" 。


<ヽ`∀´> 「解呪ではなく、まずは惡氣点をずらして端に寄せてみよう。
攻か、防か……御師には攻であれと教わってはいるニダが」
 

182 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:09:17 ID:upfhhKc.0

ニダーは峨嵋刺で構築した場から離れると、
月を見上げ、影を見下ろした。


師から伝授されし風水術。

星や天地に備わる魔導力を借りることの出来る東方の魔法を、彼は行使する。

計り終えた立ち位置の上、
風も吹かないのに背中の太極図がなびいた。


<ヽ`∀´> 「北東鬼門に穴は開けた。
どれだけ強大な穢れなのか…ウリも確かめてみるニダ」


静かな湖畔に風が舞う……
大きくなるざわめきは歪な水面が起こす波。

波長どころか基の性質のまったく異なる二つの魔導力は、ぶつかり合わず、
湖を型どる蒼を湾曲させながら割った。


<ヽ`∀´> 「…」

          だが……それだけだ。

183 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:10:35 ID:upfhhKc.0

鬼門に流れゆく穢れは水と油のように。
彼の魔法と交わらないまま重心を傾けて、いまだ水面を制圧している。

ニダーは湖の底を覗いてみるが、さしたる発見もなく、次の動向を迫られた。


<ヽ`∀´> 「…重いけど、激しくはない。
まさか何もないはずは無いが …」

<ヽ`∀´> 「……ニダ」


そして己が感じ取ったものを優先する。

だがそこには、
誰が、いつ、湖に何をしたのか……
解呪の詳細は引き継がれていない。

それを取りまとめる国という機関はあれど、
現在はその機能を著しく停止している。


<ヽ`∀´> 「【デスペル】!」


それがニダーの仇となった。
せめて流れを寄せず、最初から解呪の魔法を放っていれば……

反動で押し寄せる穢れた津波が、その身に降りかかることもなかった。
 

184 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:11:27 ID:upfhhKc.0

── 眼前、鼻先。

<ヽ;゚∀゚> 「イ、イゴムォーーっ?!」


迫る手のひらの影。 うねる亡者の腕。
人ひとりを事も無げに握り潰せるほどの巨大さは、その圧力だけでニダーを後退らせた。

瀬戸際で接触を防いだのは両手に添えた双峨嵋刺。
加えて皮肉にも ──
今も継続する、鬼門点穴による引き寄せがなければ間に合わなかっただろう。


<ヽ;゚∀゚> 「ぐっ……ぎぎ!」

【デスペル】は風水魔法ではない。
彼の魔導力に吸い寄せられた湖の穢れは
目の前にぶら下げられた魔導力を【ドレイン】すべく、ニダーもろとも握り潰そうとする。

嵐吹き荒ぶかのように揺れる水面が、湖の体裁を保たなくなりつつある。


<ヽ; >∀゚> 「〜〜っ! こんなの聞いてないニダ!!」


ニダーの魔導力が光の粒となって湖の中に吸い込まれ、溶けていく。

偽っているのは見た目だけではない…
内包する穢れも、
秘める禍々しさも、
湖はもはや一介の人間が手を出せるような代物ではなくなっていた。

命を危機に晒されて始めて気が付く彼の思惑、そして自惚れた我が心。

185 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:12:28 ID:upfhhKc.0

『ニダー、俺達には時間がない。
お前なら間違いないからこそ頼む』

『何でも良い……人や獣を吸い込むという
魔の湖からその秘密を暴いて、収穫があれば持って帰ってきてくれ』


師の言葉が脳裏によぎる。
あの時、浮かんだ疑問を口にしていれば今頃どうなっただろう。
不出来な弟子と罵られながら過ごした修行時代を思い出し、反骨精神を奮い起たせる。



<ヽ;゚∀´> 「……ぐぎぎ」

ニダーも、この湖のことをまったく知らなかったわけではない。
周辺の生態系が緩慢ながら崩されてきたことくらいなら、大陸の行く先々で耳にしていた。

しかし彼の生まれる以前から、
果敢な戦士として…そして風水の使い手として活躍してきた師からの懇願が、
まだ若いニダーの心にどこか驕りを付けた。


<ヽ;゚∀´> 「…?!」


その時、湖の水面に浮かび上がる固形物。
── まだ闇を秘めているのかと、膠着状態ながら警戒を強める。

カチカチと震える双峨嵋刺を持つ腕の中、ぼんやりと考えるニダーではあったが
一方で冷静な思考が、固形物の正体を見極めようと努めていた。

時にそれは生死を分かつ "未練、執着" とも呼ばれるのかもしれない。

<ヽ;゚∀´> 「……あれは」

脳の処理速度だけが加速した世界で、捉えた輪郭が告げる見知った正体。


人の形。 その方角、南西裏鬼門。

186 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:13:24 ID:upfhhKc.0


一度発動した魔導力は継続してその効果を発揮しない。
少しずつデスペルの効力が薄まると共に、
亡者の腕が興味を失い、ニダーへの強襲は力を失っていく。

反して手伝うように、
継続して穢れを吸い寄せる風水魔法が、亡者の芯を向こう側へと引きずり込む。

<ヽ;゚∀´> 「っオ!」

ニダーは好機とみるや一歩下がると同時、素早く腕を振り上げた。
袖口から飛び出す複数本の峨嵋刺が、
その固形物の横をすり抜け ──巻く。


<ヽ;゚∀゚> ( 間に合えっ!)


人がいるとなれば放っておけなかった ──そこに師の言葉など関係ない。
そのまま勢いを殺さず、ニダーは更に大きく飛び退いた。


キリキリと袖先で鳴る音は、嘶く亡者の声にかき消える。

転がり離れる身体が砂を絡めて汚れていく。
受け身をとる余裕もなかった。
ひたすらに…、その場から逃れる。


── ォォン…  ── ォォン…
            ── オ オ ン …


            あとに残るは
     耳にこびりついた呻き声だけ…。

 

187 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:14:35 ID:upfhhKc.0


やがて鎮まりかえった偽りの湖…。


<??;゚∀゚> 「ハアーッ、ハアーッ…」

自由を取り戻した身体とは対照的に、心は得たいの知れぬ何かに縛られる。


ニダーは恐ろしかった。

これは単純な死の恐怖とは違う。
道半ばの魂を…自分という個を吸い取る、ただそれだけのために存在する亡者が……
手のひらの影が己を食むかのように
ばっくりと開かれていたのを、目の当りにしたあの瞬間が。


口内に溜まった唾液を呑み込もうとして…
しかし拒絶を表した喉頭によって反流し、無様に咳き込んでしまう。
 

188 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:15:36 ID:upfhhKc.0

<ヽ;`∀´> 、「けほっ…げほっ……」


何の目的かは知らないが…もし元凶がどこかにいるならば責任を取らせたい。
赤の他人がこんなものに関わるべきではなかった…と、ニダーはそう胸中で毒づいた。

こんなところに送り出した師への憤りも少なからずあるが。


<ヽ`∀´> 「── はぁ」


しばしの間、彼は片膝をつき、荒れた呼吸が整い終わると顔をあげた。

辿る視線は、袖口から繋がる炭素鋼に巻き付く人間。
結わく峨嵋刺が尾となり、回収を為したのだが……


<ヽ;`∀´> 「…何ニダ?」


炭素鋼に食い込む腕がピクピクと、筋肉の収縮を伝え抗う。
── 生きている。
あの穢れた湖に沈んでいたはずなのに?

ニダーは恐る恐る、うつ伏せているその人間の顔を覗き込んだ。

 

189 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:16:29 ID:upfhhKc.0






        「…ふひ、ひ」( ∀`)


砂に埋まるべたべたの横顔から、
邪に尖る奥歯を見せつけて

          "ポイズン" は嘲った。
 

190 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:17:12 ID:upfhhKc.0
------------


〜now roading〜


('A`)

HP / F >> C
strength / D
vitality / A
agility / A
MP / C
magic power / B
magic speed / C
magic registence / A


------------

191 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:18:23 ID:upfhhKc.0


ギュルギュルと響く機械音…。
末端のネジ一本からエンジンに至るまで。
街道を走る小型電動貨車が、土埃を舞わせながら木々をすり抜け駆けて往く。

固い土を踏みつけるたびに沈む車体。
しかし中にある運転座席や、後部荷台を思うほど揺らすことはなかった。


大陸戦争にも利用された運搬車ではあるが、その全てを廃棄されることは少ない。
むしろ堂々と現存しながら、この時代の人々の暮らしに役立てられている。


('A`)「…」

<ヽ`∀´> 「……」


広い荷台にはたった二人。

砂を払い切り、汚れの目立たなくなった服の上から、白く襟の立った上着を羽織ったニダー。
背中の太極図は一回り大きく見えるが表情は俯き、暗い。

そして乾きつつあるもののボロボロの黒い防弾衣に、炭素鋼と峨嵋刺で両腕ごと縛られたポイズン。
空を仰ぐ視線、口許は貼り付けたような薄ら笑い。

一見真逆に見える彼らに共通しているのは、濁った瞳。
 

192 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:19:28 ID:upfhhKc.0

('A`)「…なぁ?」


沈黙が支配する空間で、先に口を開いたのはポイズンだ。
当然ながら…なんとなく気まずいなどといったくだらない理由からではない。


('A`)「いい加減なにか喋れよ。 お前の名前でもなんでもいいから」


ふひひ、と洩らしながら命令口調でニダーに声をかける。
興味があるなどというくだらない理由からでもない。


<ヽ`∀´> 「…ニダー」

('A`)「よぉ〜やく喋ったか。 なにセンチしてんだか」

<ヽ`∀´> 「君には関係ないニダよ」


それだけ答えてニダーはまた俯く。
窓はなく、四隅に備えられた仄かな光源だけが、閉鎖的な荷台の二人をじっと見下ろしていた。

193 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:20:34 ID:upfhhKc.0

('A`)「……」

('A`)「ふひ」


ポイズンは笑う。
自分の状況にさして頓着せず、なぜ緊縛されているのかも、この電動貨車の行き先にも興味がない。


ただ直感だけ。
この後はお愉しみな出来事がきっとあると。
無為自然に過ごしていれば、いつも自分の元には愉快な奴が現れる。

自分はそういう世界にいるのだ。

この腐れた脳みそを使うのはその時で良い。
策士は策に溺れる。
臆病者は想い出に縛られる。
弱者は起きてもいないことを不安がる。

……なんと揃いも揃って馬鹿ばかり。
そんな愚かしいことは一切する理由がない。
死なばもろとも消えてゆくのだから。
      ── たとえ不死であろうと。


久し振りの揺れに車酔いしたわけでもないだろうが、ポイズンはどこか鬱陶しげに壁に寄り掛かると、冷えた感触がこめかみから伝えられる。
それは彼にとって思いのほか心地好かった。


( A` )「……タバコある? ひひっ」

 

194 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:21:22 ID:upfhhKc.0

<ヽ`∀´> 「…ここは火気厳禁ニダ」

( A` )「ぁーそー」


「ツマンネ」と吐き捨てるポイズンの横顔を見て、ニダーは少しだけ探りをいれた。


<ヽ`∀´> 「なんで湖の中にいたニダ?」

('A`)「君には関係ないズラよ」

<ヽ#`∀´> 「…」

('A`)「怒んなよ、ジョーダンじょーだん」

('A`)「まあ寒中水泳ってやつだ」


垂れ下がった目尻でヘラヘラとしたその調子は、何か隠しているようにも見える。
そんなポイズンを凝視して、一言──


<ヽ`∀´> 「… "長寿の法" 」

('A`)「はあ?」

<ヽ`∀´>「……いや、なんでもないニダ」


…どうやら投げ掛けた単語はかすりもしなかったらしい。
ポイズンの表情は微動だにしなかった。

その後は少しだけ雑談を試みるも、さしたる情報すら得られそうもないまま時間は過ぎていく。


<ヽ`∀´> 「……」


どうしたものかと、ニダーの思考は貨車の外へと浮かんで、そのまま消えてしまった……。

 

195 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:23:00 ID:upfhhKc.0


数日後、電動貨車から降ろされた山中のとある屋形の前。


「お帰りなさいませ、ニダー殿」


出迎えた剣士達は一様に脇差しを携え、先に歩くニダーを一瞥すると道を開ける。

葉を少なくした大木の下にはその場に不釣り合いな些か仰々しい機械類が置かれているものの、ポイズンの関心は別のところにあった。


('A`)「…サクラか」ボソッ

<ヽ`∀´> 「こっちに来るニダよ」


ニダーにそう誘われるも、二本の足をすぐには動かさない。
辺りを囲む剣士から刀の柄で背中を押され、やっと身体を揺らして歩きだした。
両腕は解放されなかった。

屋形内を回り込むように続く長廊下から見えるのは、やはり庭先に咲くサクラの花…。

天道虫が非力な羽を休めている。



<ヽ`∀´> 「サクラを知ってるニダね」

('A`)「……?」

('A`)「なんだ、そりゃあ」


今度はキョトンとした顔でニダーの顔を見返す。
ポイズンの反応の違いに対して、訝し気に首を捻りながらもニダーはそれ以上話し掛けなかった。

196 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:24:26 ID:upfhhKc.0

「ご苦労だったな、ニダー」

長廊下の角を曲がると、新たに続く直線の中腹で、白い髭を蓄えた背の高い老人が腕を組んでいるのが見える。


<ヽ`∀´> 「御師様、戻りました」

( `"ハ´) 「応。 収穫物は…そいつか」

('A`)「ぉ〜コイツがお前の言ってた師匠ってやつか」

(`"ハ´ ) ギロリ


── その老人。
かつてこの地域を取りまとめていたバルケン公を成敗し、その後の安寧を作り直すに貢献した一人。


<ヽ`∀´> 「ニダ……あの、御師さ ──」

( `"ハ´) 「3つ目に入れ、彼がお待ちアル。
2、1、1、1、5」

<ヽ`∀´> 「……」


言い切り顎をしゃくると、それきりシナーは無表情のまま廊下の柱に寄り掛かった。

齢にして90を超えたシナーから、孫ほどに歳の離れた弟子であるニダーの会話はそれで終わる。

…労いの言葉はない。
身を案ずる様子もない。

ポイズンを収穫物と言ってのけたことに対する、ニダーの疑問もかき消される。
眼をつむり、弟子の顔を見るまでもなく、シナーはじっとして動かない。

198 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:25:30 ID:upfhhKc.0


廊下に面した襖部屋を開け進んでいく。

('A`)「おめーバカにされてんじゃあねえか。 あ?」


<ヽ`∀´> 「……」

ニダーは応えない。
ただ無造作に襖を引き、ポイズンを先に進ませてから自分が入るという動作を繰り返す。


('A`)「…ぁ、図星だったか? ごめんなぁ、ふひひ!」

♪〜 ('A`)「弟子なんだろ、いつかは師匠なんて越えるもんだぜ」


ポイズンは流暢に言葉を続ける。
ニダーはそんな彼を相手にしない。


('A`)「少なくとも俺には師弟愛だのどーだのは感じなかったけどな」

<ヽ`∀´> 「…もうすぐ着くニダ」


('A`)「……。    ふひひ」




('A`)「…殺しちゃえよ」


 

199 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:26:45 ID:upfhhKc.0


何度も明け開いた襖の向こう…
物理法則に沿わない方角へと続く廊下の先に、垂れ幕で区切られた大部屋が鎮座する。

ニダーが「失礼します」と一声かけると、張りのない、短い返事が咳き込む音に混じって返ってきた。


(-@"∀@) 「ご苦労だったねえ」

<ヽ`∀´> 「ご気分はいかがニダ?」

(-@"∀@) 「良くは、ない」


ごっぷごっぷと、耳障りに痰の絡む濁音が広間に響く。
シワだらけの老人…アサピーはしばらくの間、喋ることもできず生理現象と争っている。


(-@"ц@) 「ぐぅ〜、ごけぇッ!」

(-@"∀@) 「…ぺっ! ……ぅー…。」

('A`)「…」

('A`)「ジジイ、うるせえぞ」

<ヽ;`∀´> 「こら! 控えるニダよ!」

(-@"∀@) 「よい…。 ングッ 私ですら同じ思いなのだからな」


若々しかった過去の姿は無く…
もはや墓の前にたつ骨と皮の残骸は、ポイズンの言葉にも動じる様子はない。

200 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:27:51 ID:upfhhKc.0

(-@"∀@) 「……君が、湖から引き揚げられた者か」

(-@"ц@)',: 「そうか…聞いた通り ──ゴッホ!」

(;'A`)「きったねえーなあ〜」

(-@"∀@) 「……ぐっぐっぐ…」


眼鏡の奥から鋭い眼光が射す。
隠さず咽が鳴った。
── ついに求めていたものを目の前にしたかのように。


(-@"∀@) 「ニダー、君はもう下がってよい」

<ヽ`∀´> 「…は」

(-@"∀@) 「シナー、連れていきなさい」

('A`) ハ ´) 「応」


いつのまにか、ポイズンの背後には老戦士シナーの姿。



            ド
             ス
               ッ
                !
直後、後頭部に貫く痛みが走る。
 ──尺半ばまで刺さった峨嵋刺。
そこでポイズンの意識はぶっつりと ──…… ..

201 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:28:33 ID:upfhhKc.0


 

202 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:29:16 ID:upfhhKc.0





           《山人、どこや?》

(推奨BGM:A Return, Indeed... (Piano) )


203 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:30:32 ID:upfhhKc.0

----------


《山人ー!》やまひとー

        《相手せいー!》
            あいてせいー


……静かな森の山に響き渡るのは、まだ澄んだ…誰かを呼ぶ声。
キンキンと高い音波が山の空気と起伏に反射し、無遠慮に木霊する。

風の弱い日はいつもこうだった。
島国であるこの土地には湿気が多く、僅かな冷涼を求めて日陰に身を潜める習慣がある。


だが彼が住み着いてからというもの。
もののついでと言わんばかりに、飽きもせず彼を捜し回る遊戯が流行ってしまったらしい。
歳を取ればくだらないことも、幼な子にとってみれば新鮮で好奇心を満たす、悦ばしい日々の出来事なのだろう。
 

204 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:31:38 ID:upfhhKc.0

《山人ー!》 や
         まひと 

      《どこじゃー?》ど
               こ
               じ
                ゃ


彼を求め、見えぬ手は鳴り止まない。
この遊戯は男を見つけるまで続けられる。

島国には四季があり、人が万年過ごしやすい環境とはお世辞にもいえない。
変化に耐えきれず身体に異変をきたす者や、不幸に見舞われ、一年を憂鬱に思い起こさせる時季が必ずやって来ることを嘆く者も在る。


   風暖かく、
   しかし大陸から病を運んでくる春。

   陽強く、
   しかし恵みをより引き立たせる夏。

   想い猛り、
   しかし決して叶えることのない秋。

   白雪舞う、
   しかし魂を誘っては永遠をよぶ冬。

 

205 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:32:44 ID:upfhhKc.0

彼が此処に辿り着いたのは遥か遠い冬。
今でも目をつむれば、白い結晶が溶けて赤く染まるような…傷付き疲れ果てた身体を引き摺っていたことを思い出す。

その時、山の麓の童に姿を見られたのが運のつきだった。
いくら施しを拒絶しても言葉は通じず、まるで自分勝手に振る舞う年端もいかぬ童たちは、彼の面倒を見る代わりにあることをねだった。


    《山人、うたうとぅてくれ》


この島国では唄に特別な想いを注ぐという。
 ── 悦びも、哀しみも。
      ── 怒りも、愉しみも。
言霊を詠んではころころと、目まぐるしく表情を取り替えていく。 それはまるでこの島の四季のようだと…根負けした彼は思った。
 

206 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:33:34 ID:upfhhKc.0


          《きゃはは》ゃはは

     《へたくそ!》たくそ!

《真面目にやってえ》ってえ


彼には唄の才能がなく、なんど月を見送っても、いくら陽が暮れようとも、みなの好奇心を満足させることは出来なかった。
そのたびに『もうやめだ』と彼が言っても、童たちの大合唱によって拒否を遮られる。
彼には注ぐ心がないのだと、みなが言う。

彼も否定しなかった。
注ぐものがなければ唄は吟えないのなら、きっと己れはそうなのだと。 だからもう諦めろと。


     《山人げんきだせ》


差し出されたのは一粒の飴…。
"白い花" と呼ばれたそれを、男は戸惑いながらも受け取った。 だが検討違いの慰めに、
『己れは何も落ち込んじゃあいない』と否定する。


  《さぁさ 山人あいてせい》てせい

 

207 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:34:20 ID:upfhhKc.0


ある日のこと、童の一人が尋ねた。


    《山人はなにがすきだ?》
…好きなものなんてない。

    《愉しいことすきか?》
…愉しいことなんてない。

    《嬉しいことすきか?》
……嬉しいと、思ったことがない。

    《怒ったりするのか?》
怒るほど誰かに期待しちゃあいない……。

    《そんなの哀しくないか》
……。 そんな風に考えたこともないな。

 

208 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:35:33 ID:upfhhKc.0

彼は自分に嘘はつかなかった。

長い月日のなか他人を欺くのは、正体を隠し、退屈を紛らわせるためだったが、自分自身を偽ったところでなんの意味もない。
無駄なことは好きだが、無意味なことには無関心。 そうやって長い間、気の遠くなるほど間延びした命を淡々と享受した。


この島国に来た理由を忘却し、ひたすらに生きる無意味さを、退屈しのぎによってまた忘却する……。
いつしか彼はその存在意義をも深淵に沈ませ、宙ぶらりと世界を漂うようになってしまった。


長い時間を生き過ぎた。 人が人としてもつべき心は…もう渇き切ったのではないか。

風が吹けばカサカサと崩れてしまう。
水を与えても吸い込む前にむせて吐き出してしまう。
土に還したくても周りと交ざり合うことが出来ない。


ならばいっそのこと燃やしてしまえばいい。
いたずらに摩擦を起こし、生命が命足るに必要不可欠な酸素という名の魂の血路を奪い、時には彼自身も火種の泥を被ってゆく。
 

209 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:36:46 ID:upfhhKc.0


《山人おるかー》るかー


   《山人うたつくってきたぞぅ》ぞぅ



……今日もまた、山のなかに。 麓に住む童たちが彼を捜し回る声がする。


《山人もこれならうたえるな》

      《山人はてがかかるな》


不死でも腹は減る。 男はやはり退屈しのぎに頭を割った獣のにくをたべながら、遠くて近いその音に、ただ静かに聞き耳をたてた…。



     《山人みぃつけたー》

              つけたー


 

210 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:37:29 ID:upfhhKc.0


 

211 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:39:47 ID:upfhhKc.0

----------


           《ヒタ… ヒタ…》




('A`)「…」
           《ヒタ… ヒタ…》


ポイズンが目覚めると途端に、すえた匂いが湿り気を帯びて鼻をつく。
体機能が動き始め、ただでさえ細い瞼を更に薄めて開いた。

           《ヒタ… ヒタ…》
── 四角い部屋だった。
暗く、飾り気どころか生活感もない…いや、目が慣れてくると、そこはむしろ人がおおよそ生活出来ないような空間であることが分かってくる。

           《ヒタ… ヒタ…》
冷えた人工石の感触が背中一面に広がる。
窓は一つもなく、天井は低い。
真っ暗闇にならないのはいたるところに生えた苔のおかげか……だが、それも淡く弱々しい。

どこからか水の滴る音がすると、悪ふざけのように幾度となく反響した。
耳の奥から脳に向けて潜り込んでくる不快感が、ますます時間隔を狂わせる。


           《ヒタ… ヒタ…》

 

212 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:40:38 ID:upfhhKc.0

('A`)「…チッ」
           《ヒタ… ヒタ…》

身を起こそうとしたが動かない。
両腕両足に枷が嵌められ、床の蝶番へとリングによって繋がれている。


           《ヒタ… ヒタ…》

('A`)


           《ヒタ… ヒタ…》

('A`)「…」


           《ヒタ… ヒタ…》

ポイズンは聴覚を研ぎ澄ませた。
……しかし水滴の反響によって邪魔されるのか、部屋の外の音を拾うことができない。
床に耳をつけても地響きすらない。

          …その違和感。


           《ヒタ… ヒタ…》
('A`)「…臭ぇなあ」


ポイズンは耳がいい。
自分に聴こえないならば、ここはどこか離れた場所にあるのだろうと推測する。

たとえば…
上下階層もなく、左右区域もないような。
生物の通る空洞も、川や水の通る道すらも ──


('A`)「水」

213 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:42:24 ID:upfhhKc.0

はたと違和感の正体を掴み掛ける。


建築物は必ず大地からはじまり各々を接触させている。

地下室であろうと屋上であろうと。
土から台が立ち、台は骨を組み、骨は肉をつけ、肉は皮を纏う。
そのいずれにも音は波長振動として伝わるものだ…伝わる面が大きければ大きいほど

防音対策による間接材や壁の厚みは、集中するポイズンの聴覚には意味をなさない。


('A`)「……なんで水が滴ってんだ?」


さながら雲から放たれる孤独の雨粒のようだった。
空に見放され、辿り着く先で瞬く間にその存在を消していくように。
ぶつ切りの訪れと終わりに、ポイズンの勘はよく働いた。

214 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:44:02 ID:upfhhKc.0

跡絶える部屋の音…
   2、1、1、1、5…
        突如出現したシナー…

('A`)「…」


理屈は必要ない。 結果だけで充分だ。
 ここは "空間が切り離される" ──。
数字は恐らくあの襖を開けた順番だろう。


その分け断たれた空間にもやがて来訪者がやってくる。
ギギイイと重苦しい錆音の隙間から、明るい空気と光源が入り込んだ。
ポイズンの片眼が反射的に閉じられる。

残り開く眼には…膝下まで隠す長いコート。


( <●><●>) 「……お目覚めですか?」

('A`)「てめーか」


あの時、偽りの湖へと共に沈んだ土塊。
後光射す佇まい…その身影から浮き上がる眼闇は、もともと特徴深かった黒を一層濃くしている気がする。

なによりも…纏う魔導力が土塊らしくない。
研究場でポイズンが身に付けた、本物のワカッテマスと同等同質か ──それ以上に感じられた。

215 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:45:01 ID:upfhhKc.0

('A`)「なんでここにいるんだあ?」

( <●><●>) 「…」


無言。
出入り口はいつのまにか閉められていた。
小さな段差を歩く時も、こちらに向かってくる時も、滑るようにワカッテマスは移動する。

コートの裾から見える硬そうなロングノーズブーツさえ無音を奏でた。
その不気味さが…かつて土塊だったワカッテマスの変化を薄々ながら明瞭に、ポイズンの勘を刺激する。


( <●><●>) 「……偽りの湖ではお世話になりました」

('A`)「…」

( <●><●>) 「水の都は貴方……ではないことはわかってます。
ですから不問としますよ」

('A`)「……都??」

( <●><●>) 「憶えていませんか?」


( <▲><●>) 「…貴方のそれ… "虫喰い" ですね」

216 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:46:11 ID:upfhhKc.0

('A`)

('A`)「…ぁ……?」

ポイズンにしては珍しく、演技でなく言い淀んだ。

( <▲><●>) 「…フフ」

なぜ目の前で自分を見下ろすワカッテマスが、それを知っているのか? ……と。


ポイズンは死ぬと記憶が途切れる。
途切れ方は様々であり、直前のことは憶えていても、それ以前のことを穴が開くように忘れる状態を彼は "虫喰い" と呼んだ。


だが誰かに教えるようなことは有り得ない。 そこに記憶の有無はまったく関係ない。
そもそもポイズンの中でしか定義付けしていないのだから。


( <●><●>) 「まあいいでしょう。
さっそく、戴きますよ」

('A`)「? 何を《ズ
          ボ ッ !》


言葉を待たず、ワカッテマスの腕が振るわれる。
…素早い動きだった。
ポイズンが不意に銃斧を構え、トリガーを弾くのと同じくらいに。


(; 'A`)、";  「── がはっ!!」

217 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:47:19 ID:upfhhKc.0

喉から込み上げてきた衝動に打ち克てず、天井に向けて血液をぶちまける。

…ポイズンが思うよりその量は多く、だが考えていたよりは飛ばなかったらしい。
痛みは耳鳴りを鷲掴んで遅れてやってきた。


О" ( <●><●>)
щ        「……まず一つ」


手鞠のように弄ぶのは優越感か。
ワカッテマスの手の中には小さく紅い臓器。
病的に痩せた指の一本一本から、研いだナイフのような鋭利な爪が主張している。


( <●><●>) 「…二つめ」


ポイズンがなにかを言う前に、次の手が皮膚を貫いて、先と似た大きさの内蔵を引き千切った。

耳の奥でブチブA ゚)
    (。Aチ
      ブ
      チィッ ──と、
視界明滅暗転不協和音
  ハ   シ   ヲ成ス。

 

218 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:48:28 ID:upfhhKc.0

( <●><●>) 「私はね。 これまで私が受けた仕打ちをどうしてももっと多くの人間に返さなくてはならないのです」


( <▲><●>) 「……そのためならば、今までのことはお互い水に流そうではありませんか」


( <▲><●>) 「この臓器から、私がもっと素直な貴方を創って差し上げます。
気に入らなければそれこそ何体でもね」


( <▲><●>) 「貴方はずっとここに居れば良いのです。
そして…時々は他の貴方が何をしているのかくらいは観せてあげますよ」


( <▲><●>) 「……聞いていますか?」




( A )


── ポイズンからの返事はない。
穴を開けた腹部から、止まず溢れる紅血が床を染めていくのみ…。
だらしなく開けた口の動きから、辛うじて息はあるらしいことがわかる。


( <●><●>) 「ふむ。
では、もう一つくらい……」

(;<●><▼>) 「── グッ?!」

219 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:49:46 ID:upfhhKc.0

言いかけて ──ワカッテマスは表情を変えると、足早にポイズンから距離をとった。

閉まりゆく扉の狭間に消えていくのは【キール】という言葉、赤黒い魔導力が彼に浸透していく音、そして

            ブスブス…
…気泡とも呼べない散乱体が弾ける音。


周囲の景色が変質し始めた。
苔ブスブス…が灼ける。
腕や脚を拘束する枷がみるみる錆びていく。

その場に残されたポイズンのブスブス…身体から発される猛毒のせいだった。
無味無臭…密室に充満する天然の害毒が、瀕死の身体を奮起させるよう暴散する。
    ブスブス…
沈んでいく身体が、床すらも腐食させ溶かしていることを示す。

ブスブス…
              ( A )ブスブス…

ブスブス…一度飛び散った毒……
その行き先は、



              ( A`)
           ブスブス…
  発生源に取り込まれ、その傷を癒した。


----------

220 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:51:44 ID:upfhhKc.0

            《パタン》


<ヽ`∀´> 「…ワカ殿、どうしたニダ?
顔色があまりよく ──」

( ∩ <●>;) ))
「……ご心配なく。 なんでも、ありません」

<ヽ`∀´> 「お…」


屋形の内廊下ですれ違い、そのまま離れてゆく。
急ぎ足で走り去っていくワカッテマスを見送りながらも、ニダーは廊下を曲がって行き止まり…
その先の唯一ある扉へと足を踏み入れた。


ギイィ  <ヽ`∀´>つ|


入口すぐの小さな段差は上がり框。
天井からぶら下がる垂れ紐を引くと、かちかち点滅した後ではあるが、頼りがいのある橙の明かりが隅々まで照らした。

なんともなし、ぐるりと視界を泳がせる。

そこは壁一面に画かれた太極図や人体図、古今の東方武具の尺図、妖怪絵馬の写しなどがひしめいている。


元はといえばバルケン時代、身内で茶会を行うために用意された広間だった。
アサピーの代には豪華な家財や壁紙を取り外し、いつしか戦術研究室となり、いまや風水師の彼らだけが使っている。


ニダーは慣れた動作で、今度は壁紐を引っ張ると換気扇が回り始めた。
片隅にまとめてある掃除用具から箒と塵取りを手にして、若き風水師は雑務に励む。


確実なる違和感を残したまま…。

221 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:53:06 ID:upfhhKc.0

ワカッテマスが同じ屋形内で過ごすようになってから5年…。
ニダーを取り巻く環境はいつの間にか、大なり小なり居心地の悪さを拭えない。


<ヽ`∀´> 「……」ザッザッ

師であるシナーは
老いを感じさせないほどに肉体的…とりわけ生殖機能に衰えを見せない好色だ。
平均寿命の長い東方出身者としても逸脱した現役の戦士であり、見た目もせいぜい還暦ほどにしか見えない。

屋形に住まう下女を手籠めにし、孕ませたことも数多くあったという。
ニダーは彼の十数人目の息子であり──嫡子でもある。
兄弟はみな先に死んだ。


<ヽ`∀´> 「…」ザッザッ

アサピーは年老いてなお先見の明を持ち、領地をこれまで公平無私に治めてきた。
…そう聞いている。

だが近年はどうだろうか?
修行の一環で立ち寄った村では、奉公人を寄越せとの通達に脅迫めいたものを感じることがあるのだ、と…
困り果てた村長に秘の相談を持ちかけられたこともある。


<ヽ`∀´> …ザッ…


<ヽ`∀´>


…この部屋には誰も立ち寄った形跡がない。
ニダーは掃除を終えて部屋を出る。
ガチャリと錠の落ちる音を背中に受け、部屋をあとにした。

塵取りにしまった埃からも明らかだが…なにより。

先のワカッテマスは、
どこから出てきたのだろう。
 

222 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:54:12 ID:upfhhKc.0


( `"ハ´) 「…」

イ从゚ ー゚ノi、 「…」


夜の帳は下り、屋形の内にて各々は食事をとる。

膳に乗せられた品数は多い。
主に山菜や川魚を素材とし、いずれも煮る、焼く、漬けるなど簡素な調理を施されたものばかりだ。
だが決して質素ではない。


<ヽ`∀´> 「遅くなりました」

( `"ハ´) 「構わん。 座るアル」


遅れて現れた弟子に、シナーが文句一つ言うことはなかった。
彼が求めるのは栄養摂取という目的の達成であり、必要な人間が揃った場で食を召すという習慣の順守である。


ニダーは師を正面とする下座に着くと一礼し、食事を用意してくれた奉公人…きつねにも謝意を示す。
シナーが料理に箸を付けてから、彼も続いて汁物に手を伸ばした。


イ从゚ ー゚ノi、 「…」


きつねはそれに加わらない。
ただ部屋の隅で用を言い渡されるのを、頭を垂れ、指先を揃えて待つ。
着物越しに覗く圧し饅頭のような谷間が、裸樹のように枯れた室内に薄紅花を添える。
 

223 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:55:38 ID:upfhhKc.0

( `"ハ´) 「客人はいつも通りアサピーのところか?」

イ从゚ ー゚ノi、 「そう存じております」

( `"ハ´) 「他に収穫物はなかったのか?」

<ヽ`∀´> 「……あれ一つニダ」


ニダーは答えながら、右手の人さし指と中指を交差させるように立てる。


( `"ハ´) 「そうだったな、すでに聞いたんだったか」


白湯を啜り、白身魚の骨ごと箸で切り口に運ぶ。
程好くホロホロと煮込まれたおかげで口の中を傷付けることもない。


<ヽ`∀´> 「御師……」

( `"ハ´) 「ご苦労だったな、ニダー。
お前は私の誇りだ」

( `"ハ´) 「……アサピーもワカッテマスも喜んだだろう」

<ヽ`∀´> 「…ありがとうございます」

( `"ハ´) 「なにか言いたそうだな?」

224 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:57:10 ID:upfhhKc.0

ニダーに向けて発されるのは、シナーからの明確な不快感。
── 俺のやることに何か間違いがあるか?
眼でそう言い、
シナーもまた人さし指と中指を交差させる。


( `"ハ´) 「しばらくはお前にもやらせることはない。
大人しく屋形のなかで風水の腕を磨け」

( `"ハ´) 「また新しい発見があれば見てやろう。
俺もまだまだ現役アルよ」


人さし指をトントンッとこめかみに当てながら、シナーはニヤリと笑う。
それは彼がニダーの稽古をつけている時にもよく見せる顔だ。


( `"ハ´) 「俺はこのあとアサピーのところに往くが…
おい、きつね」

イ从゚ ー゚ノi、 「はい」

( `"ハ´) 「お前はニダーの世話をしろ」

イ从゚ ー゚ノi、 「わかりました」


きつねは顔を上げぬまま、より深く辞儀。
奉公人は世話をするのが大前提だ。
あえて言葉にされるということは、奉公人にとっての『世話』とは一つの意味しかない。


( `"ハ´) 「今日の食事は終わりだ」


 

225 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:58:47 ID:upfhhKc.0

----------


(-@"∀@)"  ガツガツっ  ガツガツっ

( <●><●>) 「…お味はいかがでしょう?」

(-@"∀@) 「んぁ〜?
…不味いに決まって、っっ」

(-@"ц@).'; 「── ごっふ!」

( <●><●>) 「ですが我慢しなくては。
こぼした分はともかく…」


アサピーの私室…となった場所。
かつてここで命を落としたバルケン公が、主に使用していた広間である。

あの頃のバルケンより更に歳を召した息子は、偽りの湖の話が耳に届くたび、日々ある思いを強くしていた。


(-@"д@)、「ぜぇ〜… ぐフッグフッ! ぜぇ〜… 」

(; -@"∀@) 「………わか、てる」

( <▲><▲>) 「もっと味わってください?
……待ちわびた食材なのですから」

226 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 17:59:46 ID:upfhhKc.0

(; -@" ム@) ムングムング…


次の一口は吐き出さなかった。
一切調理されずに剥き身で差し出された "それ" は、冷めやらぬ血と粘膜でベタついており、老いた彼にとって飲み込むことも困難…。
               ブチッ
ある程度まではナイフで切断したものの、
『手を加えるほどに鮮度と効果が薄れてしまう』というワカッテマスの言葉に取り憑かれた。

   ブチッ
だから…噛み砕くしかない。
            ブチッ


( <●><●>) 「…さすがは名君としてこの地域を治めているアサピー殿。
やると決めたらやり遂げる気概を感じます」


( <▲><●>) 「長生きするべきです、アナタは」




(; -@" ム@) ムングムング…


               …ブチッ

227 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:00:29 ID:upfhhKc.0


      グチュ
            ニッチャ…

                ング


    ア モッ


 

228 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:01:19 ID:upfhhKc.0


ワカッテマスはそんなアサピーを見つめながら、白く細い手で口許を覆う。


指先が隠すのは吐き気ではない。

            …嘲笑み。

229 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:02:13 ID:upfhhKc.0




     ∠ ▲ ゝ  < ▲ ゝ



 

230 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:03:29 ID:upfhhKc.0


ニダーがポイズンを助けたのと同じく、
数年前シナーに引き揚げられたのがワカッテマスだった。

土塊である彼が時を経て風滅せず、今日まで生きているのは湖の力が関係している。


(-@"Д@) 「──ガハッ! けへっ、ぺっ」

( <●><●>) 「……まだお訊きしていませんでしたね。
なぜそうまでして貴方は、命永らえようというのですか?」

(-@"∀@) 「…はぁ、ングッ ──…ぷは」

(-@"∀@) 「…」

( <●><●>) 「いえ、失言でしたか。
私なぞ一介の調査員に過ぎません…聞き流して頂いても」


ワカッテマスの被る仮面はとある亡国の研究家。
穢れの解呪を試みたシナーをも欺き、湖から得た記憶によってそれを為す。


(-@"∀@) 「ただ純粋に、もっと生きたい…ではいけぬか?」

231 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:04:57 ID:upfhhKc.0

バルケンの支配がアサピーの統括へと替わってから70年…
領地内の生活水準は飛躍的に向上した。

なにも税を抑えるといったような短絡的な政りを行ったわけではない。
バルケンが肥やしたものを返還した後、領民がこれまで通り納める年貢に見合う報酬を適切に払ったに過ぎない。

アサピーの元に残る財産は必要最低限。
だが彼にとってはそれでも良かった。

いたずらに発展を求めなくとも、人は生きていけるのだ。
土地の整備にかかる範囲や費用すらも、彼は独断でなく必ず人々に相談することで反発を抑えた。
民主主義は密告を防ぎ、個人の責任を霧のなかに隠す。

なにより日常の振る舞いが、横暴な老バルケン公に比べ寛容で庶民的だった。
人々は彼の統治を喜んだ。

──近年までは。


(-@"∀@) 「怖いのだよ。
それを、誰かに任せてしまえば…また……」

( <●><●>) 「…」


そうして名君による統括は過去の話となりつつある。
とどのつまり彼は実権を握り続けたいのだ…と、生まれ変わったワカッテマスは思っている。

232 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:06:07 ID:upfhhKc.0

(-@"∀∩) 「……いや、私は何を言っているのか。
ほっほっ、忘れてくれ」

( <●><●>) 「私には政り事のことなど計り知れませんのでご安心を。
愚痴くらいならば聞けますがね」


( <●><●>) 「……ところで御老公、折り入って頼みが」


ワカッテマスの表情は変わらない。
── というよりも、今のアサピーにはそれが見破れない。


(-@"∀@) 「……またか?」

( <●><●>) 「どうしても人手が必要でありまして。
もしお借りできるなら、また新たな食事も献上できます」

(-@"∀@) 「…」

( <●><●>) 「作業は引き続いて山中に潜む "害虫駆除" と、私の研究所への輸送のみをお願いするつもりです」


その言葉に嘘はなかった。
だが、作業に充てられた人々は、その日を境に当たり前の日常を過ごせなくなることが確定するだろう。

233 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:06:58 ID:upfhhKc.0

         ──"害虫" 。


その言葉に、
アサピーとワカッテマスが捉えるものは
大きく異なっていることを
誰が知るだろうか……。
 

234 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:07:42 ID:upfhhKc.0
------------


〜now roading〜


( `"ハ´)

HP / D
strength / C
vitality / C
agility / C
MP / G
magic power / D
magic speed / C
magic registence / C


------------

235 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:10:19 ID:upfhhKc.0





           《山人、どこや?》


今日もまた童達が山を登る。
唄の吟えない男のために、切り倒された樹の合間を縫うように、よたよた、よろよろ、歩き続ける。

しかし、その日はどうやら勝手が違う。
野が燃え丘が燻る中に放り出されている。 童の顔は酷く強張り黒ずんで……声は枯れていた。
 

236 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:11:17 ID:upfhhKc.0



《なあ山人ー》山人ー


      《助けてくれぇ》くれぇ


がらがらと割れる音は、辺りを包む轟炎のせいだろうか。
……自分が思うように出せない悲鳴。
蕾にも似た唇には無数の線がはしり、ひとたび綴じれば独自の意思をもつかのように吸い付いて離れない。

潰された咽はまるで老婆のように、その童の姿がなければ、棄てられた姥が生涯最後の助けを呼ぶ声と思われても致し方ない。

熱波が山全体を囲う。 村に燃え移るのも時間の問題だった。


       《山人、たのむ》のむ

 

237 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:12:16 ID:upfhhKc.0

当の男といえば…唯々座り込んでいる。
まだ生きた切り株の上で胡座をかき、斧を担いでいるだけ。 銃の引き金を弄ぶだけ。
『ここまで来れたらな』…大きな影の元、無理難題を呟く。
上を向けば黒き太陽の腹がよく見えた。



《おとうがしんだ》しんだ

      《おかあもおらん》おらん


はぐれ童ら。 逃げた先で何を想う?
すがるもの亡き弱者の嘆きは必ずしも叶わない。


      《山人ー、はよ逃げよ》


幼子よ…。 何を以て其れにすがる?

…塞がっていなければ、両の腕が男の耳を潰したやも知れぬ。
 

238 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:13:30 ID:upfhhKc.0

いつか見た夢は落日。
いま或る現もどうせ落日であろう。
ならば……まなこの先に映る幻はどうだ。
息をきらせるまだ小さな楼閣。


《山人おった》


── とんだ愚図に懐かれたものだと嘆息して止まない。
ここに童達の未來なぞ在りはしないのに、ついぞこんな山奥まで…嗚呼、草鞋もどこへやったのか。


      齬 呀 嗚 嗚 嗚 嗚……


虫が獣の真似事をするな。
騒がずとも聴こえるとも。 聴こえるとも。
大きな虫は唾をはき、液にまみれた童の輪郭をむなしくも塗り替えてしまった。
童影は虚闇となり、音にならぬ咆哮を真似て叫び始める。


かつての童。
四つん這いのそれはもはや人に非ず。
 

239 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:14:29 ID:upfhhKc.0

なるべくして成った現実は、男の感傷を雀の涙ほどももたらさない。

だのに何故こうもがたがたと腕が揺れるのか、と…ふと思いはしたが、それは男の思い違いであった。
尖兵と化した蟻童に向ける銃は、曇りなく真っ直ぐと伸びている。


            《   !》


発砲音は無い……、男には聴こえなかった。
引き金を弾いたその瞬間だけ、切り取られた世界のなかで時間が進んだ。

引き金を弾く、引き金を弾く、引き金を……


切り取り線が元に戻されると、どこに潜んでいたのか烏がばさっばさっと数羽…焔の海から仄暗い天空へと放たれる。
かつて童であったものたちは動きを止め、最後の最後までなにかを囁いた。


           《     》
 

240 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:15:49 ID:upfhhKc.0



『…── そうか』
男は童と過ごした時のなかで初めて笑った。
だが、その笑みを見せる相手はもういない。 …居ればこう洩らしただろう。



     《山人、愉しそう》愉しそう



引き金は軽かった。 道連れた命も軽かった。 足手纏いがいなくなって我が身も軽くなった。


童の遺言はたしかにこの耳に届く。
  男の心も、幾分軽くなったものだ。


      『さあ、これで思う存分
        あの化け物と闘える』


そして、また笑う。

 

241 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:16:33 ID:upfhhKc.0


 

242 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:17:51 ID:upfhhKc.0




(-A`)「……んぁ?」


うたた寝していたポイズンが目を覚ますと。

    ( <●><●>)('A` ; )「うおっ」

──視界一杯。
瞳孔を大きく開き、不死を弄ぶ不気味な呪術師と目が合った。


ゆっくりその身を離され気付いたことだが、その手のなかに白く、黄ばんだ棒切れを握っている。


('A`)「なんだそら?」

( <●><●>) 「…」


軽い調子で声をかけはしたが返事は沈黙…。
ワカッテマスの腕が血で濡れていることを確認し、自身の身体を見やれば胸部に穴が開いていた。

今日の傷は腕を無理矢理捩じ込んだような跡…。


('A`)「…あぁ〜」


幾日も続いたこの確認作業に、ポイズンは飽き始めている。
どうやら睡眠中も臓器を抜き取る拷問もどきは続けられていたが、もはや夢からの覚醒に至らなくなったらしい。


( <●><●>) 「…貴方、痛覚が無くなってしまったのですか?」

('A`)「さあてねえ? ひひひ」

( <▼><●>) 「…」

('A`)「…ズイブンと表情豊かになったじゃねえか」

243 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:19:25 ID:upfhhKc.0

この余裕はどこから来るのか…互いの立場が交代しつつある。
負傷しその都度、毒素を撒き散らしていたはずのポイズンは、今やその素振りすら見せない。

拡げた傷口からじくじくと血が滴る。
なのに痛みも訴えず眠りこけた。
不死の肩書きに偽りなき、生きたオブジェ。


('A`)「それ俺の肋骨だろ? 意外となげえんだなぁ」

( <●><●>) 「……これで私が何をしてるのか…知りたくはありませんか?」

('A`)「いやー全然」


          他人に興味はない。


( <●><●>) 「……そうですか」


( <●><●>) 「残念です。
そろそろ私もここから御暇させて頂こうかと思っていたので、土産話にでも…と考えたのですがね」

244 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:20:22 ID:upfhhKc.0

呪術師の第一目的はすでに達成されている。
ワカッテマスがここに残っていたのは当初その精度を上げるためであり、
ポイズンが現れたことで発生した第二の目的は所詮 ″ついで″ だ。


('A`)「俺がすんなり逃がすと思うか?」

( <●><●>) 「思う思わないでなく、
逃 げ ま す 。
私は貴方と争うために生を受けたわけではない」

('A`)「ふひひ。 まっ、そりゃそ〜〜だ」


ポイズンはふらりと立ち上がり、凝り固まった間接各所を意識して可動させる。
…枷などとうに外していた。

錆び切って崩壊した残骸は、ぼろりと砂になり、床に散った。
ポイズンの毒が、鉄も、魔導リングすらも腐蝕させる程に効果を増している。


その事実にワカッテマスが気付いていたのかはわからない。
しかしその反応は却々に早い。
呪術師はすでに跳び退いていた。


('A`)「逃がさねえよ…ひ、ひひ」


あっという間に出入り口の扉を締めた呪術師の後を、ポイズンはゆったりと追い詰める。


慌てることはない。
いずれは追い付く。

245 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:21:34 ID:upfhhKc.0
----------

── アサピーの広間。

寝酒を誘う老師が、老公人の横で片膝を立てながら升酒を揺らす。
喉をならすのは彼一人。


(-@"∀@) 「…気分は優れてはいるんだがね…。
飲み交わすにはまだ辛いよ」

( `"ハ´) 「気にするな」


日課…とまではいかずとも。
シナーがこうしてアサピーの元でじっと酒を飲むのは、幾度となく繰り返されてきた習慣だった。


バルケン公の没日から数十年……
人生の大半を二人は常に、共に歩んだ。


アサピーは常に村々を想い領地を治め、
シナーは彼を手助けて報酬を得る。
世間の評判は他の領地に比べ、すこぶる良いものだったといえる。

人々は強く騙し合うこともなく、
大きな反乱も起こさず、
比較的穏やかな日々を享受しながら…
こうしている今も順調に、歴史は世代を引き継ごうとしている。


そんな文字通りの平和を作り上げたのは他ならぬ、アサピーの無利無欲、理想思想。
そしてシナーの頑固な自制心と行動力が合わさったことによる、たゆまぬ努力の結果といえよう。

246 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:22:32 ID:upfhhKc.0

( `"ハ´) 「…」

(-@"∀@) 「お互い歳はとったけど…君は恐ろしく若々しいな」

(-@"∀@) 「……羨ましいよ」


うつむき加減なシナーの顔を、アサピーは遠くを見るかのような表情で迎え入れる。

だからこの行為には気付いていない。
眼球を動かさず、しかし鍛えられたシナーの視野は、抜け目なく部屋の四隅を観察していた。


( `"ハ´) 「身体なぞ、努力と鍛練で手に入れるものアルよ」


シナーが捉えるのは、天井端に4巣構える鳥の棲みか。
自然界には有り得ない…すべてが同じ形をしている。


(-@"∀@) 「相変わらずだねえ」

(-@"ц@)."∴ 「けほっ! けほっ!」

  _,
(-@"∀@) 「……私は、いまになって父の気持ちがわかる気がする」


アサピーの日常において、奉公人が傍らに立つことを昔から許さなかった。
出来ることは自分でやる、というのが彼の方策であり、人手が必要なとき以外、奉公人を呼びつけることはなかった。

どんな雑用も自分で済ませたかった。
老バルケンとは違うのだ、と。

247 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:23:40 ID:upfhhKc.0

( `"ハ´) 「お前は今まで必死にこの領地を守ってきた。
バルケンのジジイの代わりとなり、自分の価値よりも、限りなく大勢の価値を守ってきた」


シナーは升に口づけて、一呼吸置く。


( `"ハ´) 「俺には到底無理なことアル」

(-@"∀@) 「…単なる結果じゃあないか」


その大勢とやらに入れなかった者を、あえて見て見ぬふりをしてきたこともある。


外枠の上に立ち、治める立場となって、アサピーがはじめて分かったこと…。

それは善悪が個に依存する以上、
誰の目にも明かな平和や公平などというものは、存在しなかったということだ。


(-@"∀@) 「過程があって、今がある」

( `ハ´) 「もちろんそうだ」


飢えが発生しないよう
食料を貯蔵する倉を造らせた。
    ……盗みを働くものがいた。

賊に襲われても身を守れるよう
警隊を組み、すべての村に派遣した。
    ……その警隊が略奪を起こした。

意見、希望が聞けるよう
村々で定例の進言会を開催させた。
    ……やがて誰もが真意を隠しだす。


(-@"∀@) 「私だけが多くを望んでも。
私だけがいくら手を差しのべても。
……それを受けとる人が居なければならなかったんだ…」

248 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:24:40 ID:upfhhKc.0

若かりし頃であれば貫けた信念。
だが満ち満ちた身体に、誰しもいずれ来たる不自由という名の枷が嵌められるたび、心は弱くなっていく。


( `"ハ´) 「俺ならそんなくだらん輩なんぞ放っておくがね」

(-@"∀@) 「父を…バルケンを討った時点で決めていたんだよ。
私は彼のようにはなるまいと」

(-@"∀@) 「なのに……」


白無垢の心と触れ合っているつもりが、なにかを成し遂げんとする己の色が交ざっていく感触…。
それは意図せぬ染色を引き起こす。

従うのは楽なものだ。
誰かの創り歩いた道をついていけば良い。
…アサピーが、バルケンの後釜を継いだ頃のように。


(-@"∀@) 「いまの僕は…、どうなった」


……名君の最後が得てして悲哀に見舞われるのは、自らの道を創り出す過程において、常に孤独という闇に立たされるからだろうか。


( `"ハ´) 「背負いすぎアル、お前は」


たとえサラリーが目的だったとしても、
隣には長年の相棒…片腕として寄り添う者が在っただけでも、バルケンとは違う。


── だが、それだけだ。

249 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:25:23 ID:upfhhKc.0


     やはり己も独裁者の一人だった。

           ( -@"∀ )


人の行動には必ず伴ってしまうその概念が、
年月の果てに淀みない魂すらも蝕む。

善悪とは形のない毒のようなものだ。
彼の価値は、理性という殻を溶かし、確実に変質してしまった。


人が生きる以上、
時の流れから避けることはできない。


( `ハ´) 「アサピーよ」

(-@″∀@) 「……わかっているさ」
  _,
(-@″∀@) 「だがそれでも」

( `ハ´) 「もうワカッテマスに協力するのはやめろ」


使いもしない奉公人を集い、ワカッテマスの元に出した。
その後、人々がどうなったのかは分からない。

……アサピーは、分からないままなのだ。



     「私は生きるよ、シナー」

250 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:26:29 ID:upfhhKc.0

----------


<ヽ`∀´> 「ワカッテマス殿がどこにいるか知らないニダか?」

「某が見たのは三日ほど前ですが…」
「お出掛けになって以降は、まだ戻られていないかと」


残り僅かなサクラ咲く玄関口でのやり取り。
見張りの剣士から帰ってきた答えは肩透かしたものだった。

客人として迎えられたワカッテマス。
住み着いてからずっと、屋形から離れることなく過ごしていた。


とはいえ、シナーの張った無限回廊によって、屋形内ですれ違うことは滅多にない。

だがアサピーに聞いても、奉公人に聞き回っても、ようとして所在が知れない…。
こうして見張りから聞いたのが最後となった。


<ヽ`∀´> 「…分かったニダ…ありがとう」


ざわめく心中。

── これほど早いとは予想外だった。

251 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:28:57 ID:upfhhKc.0

ニダーは踵を返して屋形に入ろうとして…
踏みとどまり、サクラの下に置かれている機械[ホークアイ]の基のパネルをタッチする。

キュイィ ──と、雀の鳴くような起動音に伴い、画面が映し出された。
分割される屋形内の映像は、すべてホークアイからの視点。


アサピーの広間にある
あの鳥の巣も[ホークアイ]だ。
紫色に光るワカッテマスの監視装置は時を経て進化していく。


<ヽ□∀□> カチ… カチ…


…映し出される限り、
やはりどこにもワカッテマスの姿はない。

廊下にはまばらながら奉公人が通る。
無限回廊は解除されているため、開けっ広げの襖の間が覗かれた。


アサピーはシナーと二人、自室で向かい合って座って待っているようだ…。
部屋四隅のホークアイから監視の眼が ──

<ヽ□∀□> 「…四隅すべて?」

      ── あるのはおかしい。

<ヽ`∀´> 「これを最後に触ったのは誰ニダ?!」


その半数は、ワカッテマスが居なくなったその日、シナーが潰しているのだから。

252 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:30:00 ID:upfhhKc.0

「恐らくは拙者ですが…」


はて何を、といった表情で、見張りの剣士はニダーを見返してくる。
その佇まいはいつもと変わり無く思えた。


──それがおかしいのだ。
何故、"彼らはそれを報告しなかった" ?
何故、″客人の外出を伝えない" のか。


<ヽ;`∀´> 「ここ数日でモニターに変わったことは?」

「私がみる限りでは。
引き継ぎもおなじく、いつも通り異常はありませんので」

<ヽ;`∀´> 「……分かった、…」


項垂れるニダー。
釣られるように、二人の剣士も項垂れた。
 ── その身を縛る炭素鋼の反動のせいで。


「ぐおっ」
「?! ニダー殿、なにを」

<;`∀´> 「きつね! 御師に伝えるニダ!
〈後手〉と!」


         《かしこまりマシタ》

呼び声に応え、どこからか若い声がする。
しかし同じ名前の奉公人よりも幾分低く。

253 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:30:44 ID:upfhhKc.0


( `"ハ´) 「!」

イ从゚ ー゚ノi、 「シナー様。 ニダー様よりお伝えに」

( `"ハ´) 「…〈後手〉か?」

イ从゚ ー゚ノi、 「ハイ」

( `"ハ´) 「応。 お前は残るホークアイを潰せ。
…アサピーに接する必要はない」


シナーの判断と指示は早い。
次の瞬間には姿を消すきつね。

屋形の外では剣士達のどよめきがあがり、
屋形の内では奉公人達のざわめきが蔓延っている…。


( `"ハ´) 「…棄てたか、既に拾った後か」


彼のなかに迷いはない。
だが後悔はある。

シナーの目線はいつしか固定されたまま、じっと正面を見据えていた。

254 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:31:28 ID:upfhhKc.0


(-@"∀@) 「…」


自室となる広間で、もはや人の道を踏み外してしまった老人。
…誰にそう教えられたわけではないが、シナーには半ば判ってしまっている。


( `″ハ´) 「あの日、金にもならぬお前の慈悲を素直に聞くべきではなかった…」

( `″ハ´) 「…あんな得たいの知れぬ者を掬い上げるべきではなかったのだ」

(-@″∀@) 「…」

( `″ハ´) 「その瓶底眼鏡を外せ」

(-@″∀@) 「私をどうするのだ?」

( `″ハ´) 「外せ」

(-@″∀@)


(つ-@∀@)スッ…

 

255 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:32:20 ID:upfhhKc.0

トレードマークであった眼鏡を外し ──


( ;`″ハ´) 「…………、 やはりそうか」


その奥に潜む眼睛。
そして流れ消えていく紅い泪を露にする。

こうして裸眼に見つめられるだけで、どこか頭がクラクラしてくるのは何らかの違和か、ただの思い過ごしか。


( ;∩ハ´) 「故郷に残る文献で読んだことがあった。
数百年もの昔から、この世界の人間に宿る禁忌を犯したものに表れると……」


よもや己の代にその片鱗を…
ましてや友にその片影を見てしまうとは。


( ;`″ハ´) 「……そこまでしてお前は」






( ↑″∀↑)


(#`″ハ´) 「踏み込んだか、アサピー!」



 

256 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:33:04 ID:upfhhKc.0
------------


〜no road***〜


( ↑"∀↑)

HP / #D
streeenth ゝ ∩
viτality / E
agilit〆 / D
〓P / C
-agic ¢oMer / D
ma--c speed , D
wa\ic regisбЭnce ! ゐ


(推奨BGM:DarkSaint)


------------

257 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:38:16 ID:upfhhKc.0



<ヽ`∀´> 「御師! 後はウリ達だけ ──

<ヽ;゚∀゚>  ── にだぁ?!」


ワカッテマスの手が掛かっていそうな全員を縛りつけ、駆け付けたニダーが見たものは…。


   ( `"ハ´)      ( ↑∀"↑)

<ヽ;`∀´> 「あれは…」


服装も、髪型も、座り方も…
紛れもなく彼が知るアサピー公。

      ── だが顔つきだけは別人。


( ↑"∀↑)「……ニダー、お前も」

( ↑"∀↑)「お前も私を責めに来たのか?」

<ヽ;`∀´> 「…なに……?」


若き風水師がここに来たのは
長く不審でありながら目的が不透明だった、ワカッテマスの失踪…その始末をどうするのか。
師であり父であるシナーの指示を仰ぐためだ。

アサピーの、このような異変など考えもしなかった。


( ↑"∀↑) 「お前も私が生きることに反対か?」

258 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:39:07 ID:upfhhKc.0

戸惑うニダーにしびれを切らしたか、アサピーの存在が変容し始める。


         空 

       邪   熱

     殺       妖

       瘴   豪   

         怒   


放たれるそれらは総てが "気" だ。
"氣"" に敏感な風水師の二人の肌を灼きしだかんと、今はまだ弛く波を打つ。


( `"ハ´) 「お前…」

( ↑"∀↑)「君が悪いんだよ、シナー。
君が私を…私を見限ろうとするから」

( `"ハ´) 「ワカッテマスに何をされた?」


アサピーの膝が伸びる。
曲がっていた背筋も。
心なしか、口から大きく吐き出した息は灰色のモヤがかかる。

…シナーが問い質す前とはうって代わり、
弱々しく見えた老人は何一つ恥じることなど無いように胸を張った。


( ↑"∀↑)「何かをされたなんて人聞きの悪いことを言わないでくれ。
彼は彼なりの誠意をもって、私に接してくれていた」

( ↑"∀↑)「私の愚かな話を聞いて、ただ純粋にそれを叶えようとしてくれたんだ」

( `"ハ´) 「だったら何故それを俺達に話して ──

( ↑"∀↑)「…そうだな。
君にとっては何気ない一言だったのかもしれない」


( ↑"∀↑)「あの日………──

259 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:41:24 ID:upfhhKc.0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


( <●><●>) 『── しかし貴方達は…偽りの湖へ一体何のために?』

(-@"∀@) 『水の都がまだ復旧していないうちに、恩を売ろうかとケホッ、思ってね。
…蔓延る穢れとやらを落としたかったのだが…』

( `"ハ´) 『俺の風水魔法ですら、お前を助けるので精一杯だった。
お前、どうやって生きてたんだ?』


 この日、
 ワカッテマスが真実を答えることはない。
 それより…呪われた彼が嗅ぎ取ったのは、
 迫り来る死に脅えた老人の心の闇だった。


 土塊だったはずの彼は
 以前よりも艶やかに、
 他人を観察できるようになっていた。


( <▲><●>) 『いえ、私にもなにがなんだか……』


 空っぽな彼に、
  10年の愉しみ…  20年の悦び…
    30年の苦悩……  40年の諦め……

 "穢れ" と身勝手に名付けられた
 様々な魂が、湖のなかで輪転し、
 何度も生き死にを体験させたために。

 

260 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:42:28 ID:upfhhKc.0

(-@"∀@) 『…長寿の法?』

( <●><●>) 『ええ。 湖にそんな噂がありましたので、私は調査のために』

( `"ハ´) 『そこを湖につけ込まれたか…間抜けな奴アル』

(-@"∀@) 「…」

( <●><●>) 『…危うく取り込まれるところを救って頂けたご恩もあります。
どうでしょう? 貴方達は湖に眠る収穫物を持ってくる、私はそれを解読して貴方達に差し出す…』

( <●><●>) 『私のような一介の研究者には、領地同士の繋がりや…いうなれば人類発展のためなどという大義名分は畏れ多くも抱きません』


『もしも利が一致するのであれば ──』
 …そんな初対面での荒唐無稽な甘言に
 耳を貸すほど、アサピーとシナーは
 落ちぶれてはいなかった。
 確かに鼻で笑い、一度別れたのだ。


( `"ハ´) 『人はどうせ死ぬ時に死す。
死に場所くらい自分で決めるアルよ』

(-@"∀@)


( <▲><▲>)



 だから、付け入る隙を遺す。


    淀み滓を湖から与えられたのか、
  土塊の意思で【ドレイン】したのか…

              ともかく
      湖は一つの魂を創り代えた。


            命短き運命に、
     千年の猶予を与えてしまった…。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

261 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:43:20 ID:upfhhKc.0


( `"ハ´) 「……」

( ↑"∀↑) 「なんの不都合があろう?
湖の穢れを解呪できれば、その土地の人々に恩を売れた。
国力の下がっている水の都に恩を売れた!」

( ↑"∀↑) 「…あわよくば、収穫物次第で私は不老不死になれた。
── いや、もしや既になれたのだろうか?」

<ヽ;`∀´> 「……アサピー殿…なにを…
本気で、言っているニダ?」


まだ若きニダーには理解できなかった。
小さくとも人の生活を纏める苦悩が。
……こうして生きていることが、誰かに用意された人生の辿り路であることを。

当たり前過ぎる暮らしの影に、
必ずどこかで
誰かの犠牲が成り立っていることを。


( ↑"∀↑) 「気分がいいんだ、あれを食べてから……
本気かって? 嘘をつく理由があるか?
自分を偽って生きることにもう疲れたんだ。
人生最後のひとときくらい良いだろう!
私利を!
私欲を!!
我が儘を叶える資格も私には無いのか!」

( `"ハ´) 「無いな」


 

262 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:44:15 ID:upfhhKc.0


     ── わずかばかりの沈黙。
それが、場を埋め尽くさんとしていた氣を霧散させる。

シナーの言葉は同情の色なく真っ向の否定。

たった三文字…
時間に換算すれば一秒に満たない発言は、
しかして高揚し、更に捲し立てようとしていたアサピーの思考をぶつりと停止させるには充分だった。


( ↑"∀↑) 「    ……なに?」

( `"ハ´) 「無い。
お前が選んだ道はそういうものアル。
本来ならば人の上に人はいない……。
にも拘わらず、望んで人の上に立ったのはお前だ」

<ヽ;`∀´> 「御師…」

( `"ハ´) 「死ね。 お前の天寿はもしかすると数年前、既に全うしていたのかもしれん」

( ↑"∀↑) 「…シナー」


( `"ハ´) 「人でない者が………」


シナーの震えた口許は…ある種の感情を携え、彼との70年間に訣別を告げる。

263 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:45:21 ID:upfhhKc.0

( う"ハ;) 「人の世界で生きていても、後は歪むだけだ」

⊂( ↑"∀↑) ⊃ 「歪みなんて誰にでもあるじゃないか…それを私にだけ押し付けて。
自分はまた晴れやかな気持ちで人生リスタートか?」

ピッ ,⊂( `"ハ´)

⊂( ↑"∀↑)⊃ 「するものか、しやしない、させや ──ツ?!


アサピーの頭がひとつ分、大きく逸れる。
後ろの壁にドスッと重い何かが穴を開けた。


<ヽ;`∀´> 「お、御師! アサピー殿!」

⊂( ↑"∀↑) 「…」

⊂( `"ハ´) 「…いつものお前なら避けられるとは思わなかっ ──


狼狽するニダーの視線の先。
 涙を振り拭ったシナーの手が
 同時に放った峨嵋刺。
    振り上げられたアサピーの腕。
    似たように動いたシナーの頭。



(- `"ハ )     …─⊂("∀↑-)
…スパッ             …スパッ


⊂( ↑∀"↑) 「…おやおや」

⊂( ↑∀"↑) 「いつもの君なら避けられると思っていたなあ」

264 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:46:18 ID:upfhhKc.0

一度の交錯を合図に、その戦いは静かに始まった。 広間はさながら能の舞台上と化す。

舞を演じるかのように踊る二人の姿は微塵も老いを感じさせない。
ニダーの目に映るのは、幾つもの光の筋が軌跡となり、互いの身をすり抜けていく峨嵋刺と炭素鋼の織り成すレーザー光。


背後が瓦礫となりて破壊されていく雑な摂理音が響き渡るのとは対照的に、芸を披露する二人の空間は無音に感じられる。

得物を放る指先、
      体重を移動させる腰の運び、
宙に浮く爪先、
      次の対象を見据える眼差し。


もし人間の動き、芸というものを点数や数値化するような無粋なシステムがこの世界に存在するならば、きっとニダーの方が彼らに勝るだろう。

そんなものとは別次元の概念がここにある。
彼らの動きひとつひとつが、
観る者の思考を気付けば領犯してゆく…。

265 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:47:17 ID:upfhhKc.0

そうして呆けていると、
交差するレーザー光の一線が頬を横切った。


<ヽ-`∀´> 「…」
ツウ…


無意識に一歩下がる。
背中の太極図が風圧になびく。

椅子も用意されない…しかし、特等席で観覧する闘の能は、ニダーの拳に汗をかかせる。


そうしてふと……袖口に隠す暗鬼の重みが気になった。

炭素鋼と峨嵋刺を組み合わせたニダーの武器。
そもそも隠し武器として使用する性質上、単一で完成度の高い暗鬼を組み合わせる必要はない。

それでもその両方を併せて使いこなす道をニダーは選びたかった。
かつて尊敬した二人の武器を使いたいがために、幼い頃から、シナーとアサピーの二人から手解きを一身に受けてきた。


<∩`∀´> ゴシ…


思い出せばむしろ、実の父親でなかった分だけアサピーの方が優しく接してくれていたような気がする。


…広間の節々に、赤い色が飛び散り始めた。

 

266 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:47:59 ID:upfhhKc.0

----------


('A`)「…〜〜♪」

('A`) 、 ぺっ


地に唾するポイズン。
彼の立つ場所はいずこかの山中であり、木々の間からはアサピーの屋形が、薄紅の花を屋根にして佇んでいるのが見下ろせる。


('A`)「〜♪… …あれか」


止む鼻唄。

ワカッテマスを追って部屋を出たのは良いが、見知らぬところへと放り出されてしまった。

あれから既に数日経っているため、恐らく、ワカッテマスがのうのうと屋形に居座っているとは考えにくいことも承知している。


('A`)「おい」

ハハ ロ -ロ)ハ 「ハイ」


ポイズンの背後の視界がスライドする。
その陰に重なっていたのは女…
金色の髪をもつ忍。


('A`)σ「そいつ必要か?」

ハハ ロ -ロ)ハ 「私が承ッタ指示に含まれてマスので」

267 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:49:09 ID:upfhhKc.0

ワカッテマスの波動を追う道中、ポイズンが出逢った忍はハローと名乗った。
彼女も荷物を取りに、隣接する村からアサピーの屋形へと帰るところだったのだという。

土地勘のなかったポイズンにとっては僥倖であり、ハローにとってはもののついでとして、断る理由なく同行している。


……問題はその荷物。
背負うことも憚れるせいで、彼女達の足取りは速くなかった。


('A`)「俺はもう行くから置いてくぜ」


返事を待たず ──
言い放ってポイズンだけが崖を跳んだ。
急勾配を跳ねて降るその姿は、忍も顔負けの身軽さを見せ付ける。

ワカッテマスに付けられた怪我など、まるでなかったかのように。


ハハ ロ -ロ)ハ 「…」


土埃も舞うことなく消えていく背中を追い掛けはしない。
ハローは荷物と共に見送った。


ハハ ロ -ロ)ハ 「アノ唄は……」


山道を歩くなか、ポイズンが途切れ途切れ、思い出したように口ずさんでいたのを隣で聴いていた。

しかしそれを彼女が問いただすことはない。
忍として、不用意な質問を他人にする躾は受けていないからだ。


それも…なんの変哲もない、ただの子守唄。
彼はどこで覚えたのだろうかと、疑問は心のなかに仕舞い込むことにした。

----------

268 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:50:04 ID:upfhhKc.0

(;;`"ハ´) ハアハァ…

(↑∀"↑) 「……凄いな、これは」

<ヽ;`∀´> 「御師…!」

(;;`"ハ´) 「手を出すな」


息を切らしたシナーが膝をつく。

はじめこそ互角に見えた戦いも、今となっては一方的な結末を迎えようとしている。
一人の足元には血溜まりが生まれていた。


ぬかるみに足をとられつつも、アサピーは炭素鋼の投擲を止めない。
防ぐシナーの両腕はボロボロと布切れを散らし、その下からは無数の傷が露わになる。


(;;`"ハ´) 「糞!」

…致命傷は必ず避けていた。
むしろシナーの峨嵋刺こそ、アサピーの身体中を刺して離さない。

⊂(↑∀"↑)⊃ 「…みろ、彼は約束を違えていない。
痛みのない身体…これはもはや不死と呼べるのではないかな?!」


…腕を大きく広げた格好は、まるで不出来なサボテンだ。
伸ばしきった指先は五本。
子供のように喜んだ表情を全身で表現しているらしく、甦る肉の弾力が峨嵋刺を押し返す。


⊂(↑∀"↑)⊃ 「それに比べて……いくら鍛えてもやはり限度があるようだね。
君の何十年を、私は勇気をもって踏み込むことにより数日で入手した事実をどう思う?」

269 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:50:47 ID:upfhhKc.0

乾いた音をたて、峨嵋刺が畳の上に転がる。


<ヽ;`∀´> 「アサピー殿、もう止めるニダ!
貴方も手当てしないと…」

⊂(↑∀"↑) ⊃「不要」

(↑∀"↑) 「そもそも…彼は私を明確に殺しに来てるじゃあないか。
ここに来て止めるとでも?」

(;;`"ハ´) 「その通りだ、ニダー。
何度も言わせるな…手を出すなアル」

<ヽ;`∀´> 「うぅ…」


ニダーの心中は相剋している。

指示に背いてでもシナーに荷担したい気持ちと、しかし出来るならば戦いをやめて貰いたいという思いが強く在った。

このまま黙っていても、いずれどちらかは倒れるだろうことは想像に難くない。
考えたくはないが…アサピーの様子を見る限り、シナーのほうが死に近い。


<ヽ;>∀< > 「……」


しかし選べない。
どちらも……ニダーにとっては尊敬する人生の師であるがために。
    選ぶことが、できない。

270 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:51:31 ID:upfhhKc.0

(;;`"ハ´) 「コイツはここで死んだ方が世のためだ。 俺が必ず殺す」

<ヽ;`∀´> ( ──嘘だ)


シナーはよく嘘をつく男だった。
他人から彼への第一印象は
容赦がなく、とりわけ修行や鍛練に関わる分野においては実直な誠実さを見せる。

…だが一方、暗躍という名の慈悲も見せる。
アサピーに関してもギリギリまで陰で動き、どうにかワカッテマスとの関係を断ち切らんと行動した。

ホークアイによる監視の目を逃れるため、
ワカッテマスも知らないようなジェスチャーで、表向きの言葉から欺こうと提案したのもシナーだ。


彼は誰かのためなら自身にも嘘をつける。
時にそれが思い込みだとしても。

…今回のような結果を招いたことは、
シナーの中でどれだけ葛藤があろうか。

271 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:52:25 ID:upfhhKc.0

( ↑∀"↑) 「だ、そうだよニダー。
私も彼には何一つ期待などしていなかった。
サラリー目当ての男なぞいずれこうなると思っていた。
出来れば…君のように若い人材にこれから働いて貰いたいんだ」

( ↑∀"↑) 「命尽きるまで、私の元で」

<ヽ;`∀´> ( ──それも嘘だ)


アサピーは嘘をつかない男だった。
初対面であろうと柔らかな物腰でスッとテリトリーに入り込み、人心の掌握に長けた。

シナーの現金な性格も、アサピーだからこそ長く続いたのだ。
報酬の先に潜む誠意を見たがるシナーを、誰よりも重宝した。
誠意には情で返すシナーの性質をわかっていた。


彼でなければこの領地を長く平穏に治めることなぞ出来はしなかっただろう。

…ワカッテマスに出逢いさえしなければこれほどの事件にならず、大陸の東半分は誰もが彼を讃えたまま人生の終わりを迎えただろう。

272 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:53:29 ID:upfhhKc.0

(( <ヽ;`∀´> 「…」

(;#`"ハ´) 「おい!」


もう…それも無理な話なのだろうか。
まだ間に合うのではないか?と考えれば考えるほど、ニダーは諦めきれない。

気が付けば、二人の間を遮るように立ち竦んでいた。


<ヽ;`∀´> 「ウリの望みは "和解" 。
もう、二人とも止めるニダ…」

( ↑∀"↑) 「私は止めてもいいよ。
…だが、それで何が解決する?
僕はこれまで通り、自分が思い描いたように周囲を動かしていく」

(;#`"ハ´) 「ニダーどけ!
餓鬼がでしゃばるな! 失せろ!
お前が死のうが誰も悲しまぬわ!」


「説得は無駄だ!」……シナーの怒声が、辺りの空気を静かに凍らせた。


<ヽ;`∀´> 「…」


          ……冷えた沈黙。

これが仲睦まじく語り合うかつての三人であったなら、天使が通ったとでもぽつりと囁き、笑いあえたのだろう。


── 残念。
褪めきったシジマは天使の笑みでなく、
世に孤立した悪魔の笑い声を運んできた。

273 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:54:28 ID:upfhhKc.0

       (↑∀"↑)ボソッ


 「…なに?」(↑∀"↑)

            ド
             ン
            ッ

       (↑∀"↑)


 「……あれ」 ( Γ ∀"↑)デロん


       ( Γ ∀"↑)'A`) 「ふひ」


            ( 'A`)
      《ドサリ……》


…そう大きな音がしたかは分からない。
糸が切れた人形のように倒れるアサピーの真後ろ。
五体満足に舞い戻ってきたポイズンの姿がそこにはあった。


(;;`"ハ´) 「アサピー!」

<ヽ;`∀´> 「アサピー殿!!」

('A`)「ひ……ふひひ」


手には血塗られた峨嵋刺が握られている。
…しかし、問題はそこではなく。

274 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:55:54 ID:upfhhKc.0

(;#`"ハ´) 「…アサピーに何をした」


何故、シナーの攻撃を受けても倒れるどころか、痛みさえ訴えなかったアサピーが伏したのか?


<ヽ;`∀´> 「ドク…戻ってこれたニダか」

('A`)「ぉ〜久し振りだなぁニダー。
つってももう時間の感覚がわかんねえけど」

('A`)「こんな半端な不死…
半死か? なんざ余裕だ、 よ・ゆ・う♪」

::( Γ"∀↑):: 「ガッ ── ガハァ……」

ポイズンが貫いた首の穴は貫通している。
喉から傷口から…アサピーの流血はその蛇口を止められない。

('A`)「…ぁん? なんでまだ生きてんだ…

       よっ!」
'.;( Γ Д"↑(# 「おごっ?!」

ポイズンのブーツ底は血に染まりつつ
    ミ゙ヂィッ!
と、アサピーの横面を踏み潰し、捻り回す。
ゴリゴリと頬の奥から軋みを鳴らし、アサピーの口許からは真っ赤に染まった固まりがこぼれ落ちた。

人生に一度しか生え替わらない硬い骨が、無惨にも寄生宿から永久に見放される。


<ヽ;`∀´> 「!!」

⊂(;#`"ハ´) 「やめろ!!」
 

275 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:57:11 ID:upfhhKc.0

 (= ('A`)「おっとぉ」

(;#`"ハ´) 「くっ!」


不死者の影上を空しくなぞった峨嵋刺。
だが疲労したシナーの投擲が不完全なのではなく、ポイズンが素早いのだ。

踏みつけていた足はアサピーから離れるも、身体を蝕む痛みにシナーはそれ以上立ち上がれず、追撃できないでいる。


そんなシナーに目もくれず、ポイズンはアサピーに向けて言葉を続けた。


('A`)「…おめぇ、喰ったのは肉だけじゃねえな?」


伸ばした両腕はブラブラと膝の上…
しゃがみ込んだポイズンが、半死の顔を不気味に覗き込む。


(; Γ "Д↑) 「…は〜っハビュ、…はハビュ〜っ」

(; `"ハ´) 「喰った、だと?」

('A`)「コイツの顔、見たろ?
喰いながら願ったんだよ
いや、渇望するって言葉が正しいのか?」

('A`)「並大抵の願望じゃねえが、しょせんは媒体も借り物…」

('A`)「だから "半死" っつったんだ」

276 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:58:02 ID:upfhhKc.0

「なあ?」
…その問い掛けに、アサピーは答えない。


シナーの知る文献には
"人間の禁忌" の具体的な中身、方法まで記されていたわけではない。

"肉" ……その単語が耳についた。
単純で最も連想しやすい物質。

そして確実なのは
ワカッテマスがそれを知り、
ドクと呼ばれた収穫物もそれを知っている、
          ……ということ。


(;;`"ハ´) 「…!」


目まぐるしく、老師は思い出す。
ポイズンの戯言を真に受けるつもりはない…

だがアサピーはどうだ?
真実ならば、事実の確定に至っていない一つの隙がある。


('A`)「お前をォ殺す〜ってか」


…ならば無駄ではないかもしれない。
己がきつねに指示したホークアイの処理と、それに伴う荷物の輸送は。

目の前の男に展開を任せてはいけない。
どこの馬の骨ともつかない若造に、アサピーを殺させるわけにはいかない。

277 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:59:05 ID:upfhhKc.0

('A`)「まあいいや、も「 待ってくれ 」


('A`)「?」

(;;`"ハ´) 「アサピーを殺すんだろう?
それは構わん…だが少し待て」

<ヽ;`∀´> 「…」

('A`)「… "待て" 、だと?」


よろけながらシナーは気丈に立ち上がり言った。
負傷は軽くないとしても、ここで立ち上がらなければならないという決意の元に。

対して考える素振りすら見られないポイズンはじっと、自身に歯向かう糞ジジイの目を見ているだけだ。


('A`)「なーんか勘違いされてるなぁ〜」

('A`)「ひひっ」


アサピーは激痛からの唐突な解放に戸惑いながらも、ゆっくりとシナーを見る。


              ── 同時、
  彼に飛び掛かる黒い獣…悪魔に似た
         ポイズンの後ろ姿も。

 

278 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 18:59:47 ID:upfhhKc.0
------------


〜now roading〜


<ヽ`∀´>

HP / C
strength / C
vitality / B
agility / C
MP / C
magic power / C
magic speed / D
magic registence / B


(推奨BGMおわり)
------------

279 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:04:14 ID:upfhhKc.0

敵から振り下ろされた己の武器が、己の頭上を掠めていく煩わしさ。

(;/;`"ハ´) 「ぐうっ!」

反撃にまっすぐ突き出した峨嵋刺は、大きく屈んだポイズンの髪を僅かに引きちぎるのみ。
次の瞬間、空いた脇腹に響く衝撃。
思わずシナーはたたらを踏むも、転ぶ。

そして濃い影がシナーを覆い尽くした。


('A`)「アサピーだのなんだの…殺すのに誰かなんて関係ねえ」

(;/;`"ハ´) 「…」


見下ろしたその顔はつまらなそうで…しかしどこか嘲笑っている気がする。
もしかしたら怒りを孕んでいるのかもしれない。

(;/;`"ハ´) 「…」

── わからない。
人が誰しも持つはずの "氣" が無いのだ、ポイズンには。
だから老師にはその男の動きも、思考も、感情も、何一つ読みきれない。

('A`)「てめーに命令される筋合いもねー」


唯一ポイズンの声から、それが本気であることだけは感じ取れる。
…見た目は20代の若造から、自身より遥かに長く生を明かしたかの如き超然感に気圧される。

"('Д`#)「餓鬼がでしゃばるな! 失せろ!」


::(;/;`"ハ´ii)::  ビクッ

── ポイズンの恫喝に、80年近く戦士を自負していたシナーが人生ではじめて慄いた。

尻餅をつき、無意識ながら腕の力でじたばたと退く姿は滑稽で…
まるでカラクリ人形が音に反応するかのようにカタカタと。

280 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:04:56 ID:upfhhKc.0

    ハアッ、ハアッ、ハアッ…ハアッ……

自身の息遣いが、耳元で爆竹でも鳴らしているのかと錯覚するほど大きく痺れる。
久しくなかった己の命の危機。
有言実行の気概、無感情に人を死せる殺意が目の前にそそり立つ。


怪我をしているだけで、こんなにも身体は言うことを聞いてくれないのかと魂が縮み上がった。

いつの間にか安全圏で生きていたことを嫌でも思い知る瞬間が、ついにシナーにもやってきてしまったのだ…。

281 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:05:50 ID:upfhhKc.0

('A`#)


('A` )「…なんてな」


「ひひひ!」と、書物の頁をめくる気軽さでガラリと雰囲気を変えたポイズンは踵を返し、シナー達に背を向け悠然と壁際に歩いてゆく。


(  )「ジジイの今の姿をみても」

(  'A)「…御師様ぁ〜ってか?」

(;/;`"ハ´) 「?」


ひととき、シナーにはそれが何のことか分からなかった。
…だがポイズンが壁に身を預けて座り込むと、弾かれたように真横を向いて…その意味に気が付いた。



  <ヽ`∀´>      ('A`)
(;/;`"ハ´)

ポイズンを見上げた時よりも高い位置にその顔があった。


<ヽ`∀´> 「それ以上はウリが相手ニダ」


…不出来な自慢の弟子。
甘えを捨てるべく、いつの日か父と呼ぶことを禁じた最後の息子。
 

282 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:06:43 ID:upfhhKc.0

('A`人) - ☆「いいねぇ〜、カッコイー」

=⊂('A` ) 「ほっ」

(;/;`"ハ´ii) 「!」


ぱちぱちと小馬鹿に手のひらを叩く様子から一転、ポイズンの不意打ち。
音よりも速い峨嵋刺の光線が。


《カラン…ッ》

   /'∩
<ヽ`∀´>         ⊂('A` )
 ∪,/   

果たしてシナーを貫くことはない。
その眼前で方向を変え、力なく宙を舞う。
…ニダーの炭素鋼がそれを阻んだのだ。


('A` )「…やるじゃん」


点の攻撃を線で防ぐのは易くない。
むしろ非効率的でもあるその手段は、しかしそれ以外の得物を携帯しないニダーにとって唯一ともなる。


<ヽ`∀´>「あくまで御師を狙うニダか?」

('A`)「あー、んじゃこっちでいいわ」

( Γ ∀"↑ii)「!」


次にポイズンは逆腕を振るった。
間近で横たわるアサピーの鼻先三寸で
  《ギャリン──ッ》
      …不快な金属音が木霊する。

283 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:07:28 ID:upfhhKc.0

<ヽ`∀´>つ 「させないニダ」


今度は峨嵋刺同士の衝突。
ポイズンの意図を読み切り、守りに徹する風水師。


(;/;`"ハ´) 「ニダー……」

( Г ∀↑ ) 「……」

"б('A`)「ん〜??」


ポイズンの心は煮え切らない。
ニダーは構えるもののそこから動く気配が無い。

純粋な意味での戦闘を行っていないとはいえ、ポイズンにはそれが納得いかない。


なにをまどろっこしいことをしているのか?
これほどの腕があるならば、果敢に攻めてきても良さそうなものを。

まるで時間稼ぎだ。

284 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:08:11 ID:upfhhKc.0

   『アサピーを殺すんだろう?
    それは構わん…だが少し待て』
 

285 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:08:57 ID:upfhhKc.0

('A`)


あぁ…と、
誰にも聴こえない吐息が漏れた。


('A`)「…面白くねぇ」


ポイズンは勘が良い。
だから想像する経過は違えど、予想した結果は同じだろう。

これは自己満足。 理解されない美徳。

そう考えながら、胸元のタバコを取り出そうとして…湖に漬かると消失したいつかの過去の現象を思い出し、吸うのを諦めた。

 

286 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:10:00 ID:upfhhKc.0

('A`)「おい」

<ヽ`∀´> 「…?」

('A`)「シナーが死ぬのは嫌か?」

<ヽ`∀´> 「嫌ニダ」


答えははっきりしている。
誰しも目の前で親が死ぬことを望みはしない。


('A`)「アサピーが死ぬのは?」

<ヽ`∀´> 「嫌ニダ…けど」

('A`)「この姿じゃ仕方ねえから迷ってる、か?」

<ヽ`∀´> 「…元に戻れるならきっと大丈夫ニダ。
だからそれまでは……」

('A`)「俺が元に戻す方法を知ってるなら?」

Σ <ヽ;`∀´> 「ほ── 本当ニダか?!」

('A`)「さっきみた通り、ダメージを与えることもできるんだから元に戻せたって不思議じゃねえだろ?」



「不死の仕組みがわかってりゃどーってことねえ」と、ポイズンは痰を吐き捨てた。

今このときでなければ、
『掃除するのはウリなのに…』というニダーの声が聴こえなくもない。

287 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:10:43 ID:upfhhKc.0

('A`)「俺が死ぬのは?」

<ヽ`∀´> 「…」

<ヽ`∀´> 「二人にこれ以上危害を加えないなら、ドクも嫌いになれないニダ」


懸命に本音を語る人間は、観察力が落ちる。
真摯であればあるほど。
その時ポイズンの目付きが鋭くなったことを…ニダーは気付かなかった。


<ヽ`∀´> 「ウリがドクを救ったせいで、こんなところに来させてしまったのが気になっていたニダよ…
考えてみれば、君はただ巻き込まれただけニダ」

<ヽ`∀´> 「それに…ドクの眼は。
どこかウリに似ることがあったニダ」

('A`)「…」


お人好しの言葉は止まらない。


<ヽ`∀´> 「そうでなくとも、一度知り合った仲なら良くしたいと思うニダ。
アサピー殿も、御師も、根は悪く ──

288 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:11:33 ID:upfhhKc.0

('A`)「あーそーかい」


耳が腐りそうになり、思わず遮る。

ポイズンからの問いはそれっきり…。
そのまま静かにうつむき、目を閉じたまま動かなくなった。

親子二人はしばらく様子を窺うが、時間がただ流れるだけ。



<ヽ;`∀´> 「……??」

(;/;`"ハ´) 「……。
ニダー、奴にはもう敵意はないようだ」


震えの止まった身体を立たせながら、広間のある一点を目指して足を引きずり歩きだす。


(;/;`"ハ´) 「それよりも、そろそろきつねから荷物が届く。
迎えにいってくれ」

<ヽ`∀´> 「し、しかし…」

(;/;`"ハ´) 「こちらは気にするな。 往け」


そう背中で語るシナーの姿が、なんだか小さく見えた…そんな気がした。

不安げにポイズンを一瞥してから
 ── 彼は置き物のように動かないが ──
ニダーは広間を後にする。


何度も、何度も…振り向きながら。

289 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:12:16 ID:upfhhKc.0

('A`)

(;/;`"ハ´) 「…」

(↑∀"↑ii) 「…ハア…ハア」


…しばし沈黙が流れる。
ポイズンは目を瞑り、アサピーの視点は先程よりも定まっていない。

やがてシナーは目的地に屈み、その手にかつての友の面影を拾い上げた。


(;/;`"ハ´)つ-@@ 「かけておけ」

(↑∀"↑ii) 「…いらないよ、まだ眼は見えてる」

(;/;`"ハ´)つ-@@ 「これは頼みだ。
どうであれ、来たるべき末路のために」


(↑∀"↑ii)


@@-⊂(↑∀"↑ii)スッ


横たわりながら…アサピーは眼鏡を掛け直す。
するとどういうわけか、その心に平静が訪れた。


(ii@∀"@-) 「…」

(;/;`"ハ´) 「好」

290 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:13:14 ID:upfhhKc.0

シナーは緊張の意図が切れたのか、その場にがっくりと座り込んで話し始めた。

並んで向かうはポイズンの方角ではあるものの、声を掛けるのはあくまで友に向けて…
小弱々しく…静かな…しゃがれた会話。


(;/;`"ハ´) 「お前は本当に、一度たりとも隠居は考えなかったアルか?」

(ii-@"∀@) 「……そりゃあ任せられる者がいるなら任せたいと常に思っていたさ」

(;/;`"ハ´) 「お前の息子にやらせれば良かっただろう。
若い奴には未来がある。
行動力も可能性も、俺達より遥かに ──」

(ii-@"∀@) 「まだまだ経験が浅い…
それに、近年の仕事ぶりではダメだ。
だからこそ村に派遣していたのに…グッ」

(ii-@"∀@) 「ま、だだよ…私がやれる内は ──げほっげほっ!
……私が、やるさ」

(;/;`"ハ´) 「その身体でか?」

(ii-@"∀@) 「そのために君といた」


「俺はいらないんじゃなかったか?」
そう鼻で笑うと、喉の奥から鉄の味がした。
口内からは出さず、それを舌で押し返す。

そもそも何年前から同じことを言っているのかと、少し歳上の風水師は重く息を吐いた。


二人がバルケンを討ったのはアサピーの息子よりも若い年の頃…
サクラのみならず、色とりどりの花々が咲き乱れる季節だったはずだ。

291 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:14:46 ID:upfhhKc.0

(ii-@"∀@) 「だが、何十年も共にいて、どうやら信用しきれなかったんだなあ……」


人は死に近付くにつれ猜疑心が増長する。

鈍くなった脳神経の伝達を補うための防衛本能の一種であるとすれば、やはり死は孤独への一歩を着実に踏み出させるのだろう。

アサピーの場合はここ数年で特にそれが顕著になったものだと、屋形の誰もが感じている。

実の息子ですら彼の傀儡でしかない。


(;/;`"ハ´) 「この期に及んでまだ諦められないのか?」


…にも拘わらず。
それまでの功績と、まったく破綻したわけではない人格などから彼に強く進言できる者はいなかった。

したところで、シナーの言葉にも頭越しに否定的な場面がよくみられたのだから、それも当然と言える。


(ii-@"∀@) 「なら君は…諦めたからニダーを生かしたのか?」

(;/; "ハ ) 「………」


アサピーがシナーを信用しきれなかったのは、こさえた子を悉く死に追いやっていたからに他ならない。

厳しさを履き違えた戦士は加減を知らず、また愛の与えかたもわからないまま子に接していただけ。

それは人としてどこか欠落していたのではないかと、アサピーはシナーを評価していた。


彼もまた、真意を隠す人々と同じだった。

292 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:15:39 ID:upfhhKc.0

これ以上言えば余計に自分が意固地になることが分かって、シナーも口をつぐむ。

もっと早く、お互い提言しておけば良かったのかもしれない。
……もはやその年月は経ち過ぎた。


麒麟も老いれば駄馬に劣るる ──。
自然の摂理に逆らったがために、アサピーも、シナーも、どこかで引き際を誤ってしまった気がしてならない。


時計は朽ちる準備を始めている。
次に取り付けるための新しい時計が、同じように動いてくれる保障はないのだ。


(ii-@"∀@) 「ウォール高原を治める領主が世代交代したのは…いつか君に言ったか?」


こんな風に、アサピーとの会話は常に政り事を軸としていた気がする。

もっと人として、子をもつ親として、彼と語り合えることがあったのではないだろうか。

293 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:16:35 ID:upfhhKc.0

(;/;`"ハ´) 「…数年前、一度顔合わせにきたことがあったな」

(ii-@"∀@) 「そう。
見た目以上に血気盛んな若者だ。
あれ以来、視察の名目で少しずつこちらの領地を削りに来ている」

(ii-@"∀@) 「…息子の役目ではないのだ……矢面に立つのは私でなければならない」

(;/;`"ハ´) 「だからといって、ワカッテマスを利用したつもりだったか?」


対する返事はない…だが、そうなのだろう。
いつからかアサピーの中では手段と目的が刷り変わってしまうほど、欲望を越えた渇望に抗えなくなっていた。


(ii-@"∀@) 「シナー、私は」

(ii-@"∀@) 「…まだ生きたいんだ。 どんな手を使ってもね」

(;/;`"ハ´) 「…」

(ii-@"д@) 「── げほっげほっ」

(;/;`"ハ´) 「…己の身体を労われない奴が言って良いセリフではないな。
……もう、俺も同じだろうが」




    ('A`) 「あーだめだ待てねえ」

 

294 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:17:40 ID:upfhhKc.0

シナーとアサピーが意識したとき、
いつしかポイズンは立ち上がっていた。


老いぼれ二人の時世の句…
それを求めたのはシナーであり、アサピーも薄々は気が付いていたのかもしれない。

生きたくとも、生きられない者がいる。
どれだけ求めても手に入らない物が、この世には絶対的に存在することも。


(ii-@"∀@) 「ワカッテマスを引き入れた時点で、お前が此処に来ることも運命として決まっていたのだろうか?」

('A`)「どーだろうなあ〜」

(;/;`"ハ´) 「まったく……最後の最後で余計なことをしたものだ。
アサピー、奴の次はお前アルよ」


彼らも立ち上がり、そして対峙する。
誰一人として思想や目的は一致していない。

だが…生きるために。


('A`)「せいぜい育んだ友情にすがりな」


それでも……生きるために ──

 

295 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:18:31 ID:upfhhKc.0




          なんてな、ふひひ。

 

296 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:19:18 ID:upfhhKc.0



(推奨BGM:A Return, Indeed... (Vocal Version)

 

297 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:22:29 ID:upfhhKc.0

----------


ドタドタと…長い廊下のどこにいても響くほどの足音が3つ、広間へと近付いてくた。

広間を隔てる布の幕が盛大にめくられる。


<ヽ;`∀´> 「御しっ ──




<ヽ;゚∀゚>  ──!!」

 

298 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:23:20 ID:upfhhKc.0

その肩に、めくられた幕の一部がパサリと降りかけられた。
ニダーの身体はそこで一切の活動を停止する。

足も、手も、胸の鼓動も、開いた口も…
視線すら硬直し、その身を伝う涙だけが一筋こぼれ落ちるのを見たものは居ない。


ハハ ロ -ロ)ハ 「ニダーさ…ッ」


ホークアイ破壊と荷物輸送を任された女も息を呑む。
ニダーの後ろから声をかけた彼女の鼻孔をくすぐったのは…腐臭。

それは彼女が生業上で嗅ぎ馴れた血の臭いよりも更によく知る、内臓や消化気管を傷付けた際に発される臭気と同じだった。


⊂ハハ ;ロ -ロ)ハ 「……そこデお待ちクダサイ」


ハローが "背後" に制止の声をかけ、歩を進めた。
努めて冷静に状況を把握しようとするも、その惨劇が覆らないことは明白に過ぎる。

299 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:24:07 ID:upfhhKc.0

<ヽ;∀;> 「……ぁ…ぉ、あ……」


がっくりと膝をつく若人…。
 横たわる二体の首なし死体。


ハハ ;ロ -ロ)ハ 「…」


むせ返る血生臭さよりも、その場を支配するニダーの嗚咽だけがハローの頭のなかを延々と巡りめぐった。

一通り死体をまさぐってみたものの、やはりシナーとアサピーの身体的特徴に相違ない。


忍である彼女の今の雇い主はシナーであったため、こうなってしまっては任務終了の旨を報告すべく忍の里まで戻らねばならない。


「きつね、もう入っていいかい?」


広間の前…荷物から声が上がった。

── その声は若き日の
      アサピーによく似ている ──

少しだけ悩みながらニダーを見るも、現実に打ちのめされた者から返事を得られないため、ハローは独断で肯定しておいた。

……隠し様など無いのだから、そうするしかなかっただけなのだが。
 

300 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:25:18 ID:upfhhKc.0

( ・∀・) 「…」

ハハ ロ -ロ)ハ 「モララー様、オ気を確かに」


入室した三人目…ハローが輸送してきた荷物とはアサピーの息子を指した。
彼はもはや肉塊と化した父の姿をただ呆然と眺める。


( ・∀・) 「いや、僕は平気だよ」


シナーの指示通りホークアイの破壊に向かったハロー…それは領地内に張り巡らされたものも含まれていた。

父からは屋形を与えられず、言われた通りに周辺地域の村々を転々とするだけの傀儡。

それがアサピーからの、息子への評価…。


(  - ∀ - )


( ・∀・) 「…公務の引き継ぎを行う。
すまないけれど、里に帰る前に一仕事頼まれてくれないかな?」

ハハ ロ -ロ)ハ 「わかりマシタ」


だがそれはホークアイの "誤った映像" により植え付けられた、不当な評価を多分に含めたものだ。

本来、モララーは父に似た才覚をもつことを…アサピーの胸には届くことがないままだった。


<ヽ;∀;> 「うぅぅぅ〜………」

( ・∀・) 「ニダー」

301 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:26:31 ID:upfhhKc.0

少しだけ歳上のモララーの手のひらが、がっしりとした風水師の肩に乗せられる。


( ・∀・) 「これが父と、シナーさんの末路であるならば、まずは甘んじて受け止めよう」

<ヽ;∀;> 「…ぅ……」

( ・∀・) 「これから忙しくなる。
領地内の統括も、ウォール高原の領主との駆け引きも、きっと僕だけじゃ無理だ」


バルケンの背中をみて育ったアサピーは
父のように決してなるまいと誓い、
自らの手を汚してまで名君を目指した。


( ・∀・) 「だから……君の力を貸してくれないか?」

( ・∀・) 「シナーさんが、僕の父に尽力してくれたように」


アサピーの背中をみて育ったモララーは
父のように名君たれと憧れ、
自らの手をこれから汚していくのだろうか。


<ヽ;∀;> 「……」

<ヽう∀;> グイッ

( ・∀・) 「そして、いつか二人でこの仇を討とう。
たとえ父の最後が誉められたものではなかったとしても、僕の誇りは父であり、君の誇りはシナーさんだった」

<ヽう∀´> 「…そう、ニダね」

ハハ ロ -ロ)ハ 「…」



<ヽ゚∀゚> 「ドク……赦さないニダ」



 

302 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:27:49 ID:upfhhKc.0
----------


── 刻は一週間後。

街道のない路をひたすら歩き続け、
彼はいま高原の丘を登っていく。


('A`)「〜♪」


上機嫌な様子で振り回すその手には、
何重にも巻く布に納められた首が二つ。


('A`)「…ひひ!」


月明かりの下、  ──彼は独り。


('A`)「………」


── 草木茂る丘の上で、独り。


('A`)「…  〜〜♪」


── 鼻唄の音だけが、哀しそうに。


('∀`)「〜♪」


── ポイズンだけが、嬉しそうに笑う。

 

303 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:28:43 ID:upfhhKc.0


       《…寄せては返す波》

('A`)「…〜♪」

       《…必ず訪れる朝と夜》


('A`)「……あんだっけか…?」



('A`)「〜…♪」

       《…貴方の優しさで
     頬がぬくもりに満たされても》


('A`)「…ぷっ」



('A`)「〜〜…〜〜♪」

     《…幸せな時の中で震えている》


('A`)「…」

    《それでもいつかはきっと… ──》



('A`)「… ──ひひ、」


('∀`)「   ふひ、ひひひひひ…!」


 

304 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:30:15 ID:upfhhKc.0




      「…いつか、なんて
         来やしねえよ」
 

305 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:31:01 ID:upfhhKc.0


 

306 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:32:00 ID:upfhhKc.0



夜が明けて…。


ウォール高原を治める領主の元には
二つの御首級が届けられた。


差出人は名乗らず、
特に領主への面会も求めなかった。


ただ一言、
『ここに瞳孔の大きな男が来ただろう?』
と質問をして、その姿を消したという。



問われた兵士は述懐する。


守秘義務により回答は差し控えたものの、
その男の眼光の前では
表情まで偽ることは出来なかった、と。

 

307 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:32:58 ID:upfhhKc.0


 かつて山人と呼ばれた男は孤独を探す。

 孤独でなければ戦えない男。


  誰かを誰を 誰のため誰が 誰に向け
  護る、庇う、救う、 赦す、求める?


 莫迦莫迦しい。 ──五月蝿い。
 そんなものは家畜の餌にも成りはしない。






     《山人、どこや?》

 

308 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:34:10 ID:upfhhKc.0

      ('A`)y-~

「逃がさねえよ……ふっひひ」


       A`)y-~

「ワカッテマスの野郎が目をつけるなら、恐らくは」


         )σ ⌒ 、 ピンッ





不死者の行く先、争いの跡在りて──
 

309 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:35:06 ID:upfhhKc.0


      《なあ山人》

 それでもいつかはきっと

 闇に光が生まれ
         《うたうとぅてくれ》
 悲しみのなかにきっと

 微笑みが生まれるはず

      《そう、それや》
 それでもどこかできっと

 闇に心が生まれ

 悲しみのなかに必ず
        《くすす、下手やなぁ》
 本当が生まれるはず


 あなたはいつか帰ってくるから…


  《山人、たのむ》


         あなたはいつか
          帰ってくるから…



    《山人とまた…遊びたいなあ》




(了)



311 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:39:46 ID:upfhhKc.0
--------------------------------------------------
    ※千年の夢 年表※
--------------------------------------------------

      -900年 ***********
→信仰の概念がうまれる
( ∵)は偶像生命体として同時に生誕。

      -400年 ***********
→結婚(結魂)制度のはじまり

      -350年 ***********
 【ふたごじま】→魔導力の蔓延

      -312年 ***********
 【銷魂流虫アサウルス】→前半
→ "隕鉄" が世界に初めて存在しはじめる
 【東方不死】→山人の夢 ☆was added!
→('A`) がアサウルスと相討ち ☆was added!

      -220年 ***********
 【銷魂流虫アサウルス】→後半
 【傷痕留蟲アサウルス】
→騎兵槍と黒い槍が融合
→('A`) がアサウルスから解放 ☆was added!

      -210年 ***********
→大陸内戦争勃発。
 【帰ってきてね】→前半

      -200年 ***********
 【帰ってきてね】→後半
 【死して屍拾うもの】
→ "赤い森の惨劇"

      -195年 ***********
→大陸内戦争終了。
 【はじめてのデザート】

      -190年 ***********
 【その価値を決めるのは貴方】

      -180年 ***********
 【老女の願い】→復興活動スタート

312 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:41:14 ID:upfhhKc.0

      -150年 ***********
 【老女の願い】→荒れ地に集落が出来る
→川 ゚ -゚) が二代目( ´∀`)に指輪依頼

      -140年 ***********
 【老女の願い】→老女は間もなく死亡
→指輪の暴走。 川 ゚ -゚) が湖に封印。

      -130年 ***********
 【人形達のパレード】
 【此処路にある】
→(´・ω・`)( ゚∀゚)川 ゚ -゚) の三人が集結
→二代目( ´∀`)死亡時期
→偽りの湖から( <●><●>)が引き揚げられる ☆was added!

      -120年代 ***********
 【命の矛盾】
 【東方不死】 ☆was added!

      -100年代 ***********
 【繋がれた自由】
 【遺されたもの】
 【時の放浪者】

      -40年代 ***********
 【老女の願い】→集落→町になる

      00年代 ***********
 【老女の願い】→( ^ω^)が
官僚プギャー、炭鉱夫ギコに再会

313 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/10/20(月) 19:42:47 ID:upfhhKc.0
★作中MAP更新

大陸戦争前

大陸戦争後



※あくまで大陸戦争が大きな区切りであるため、戦前・戦後の名称は便宜上の分け方です
9番のように厳密に言えば一部そぐわないものもあります


←(´・ω・`)ω・´): 傷痕留蟲アサウルス / 戻る / ( ^ω^) :白い壁 黒い隔たり→




inserted by FC2 system