808 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:02:00 ID:THvpQ3w60
( ^ω^)千年の夢のようです


- 銷魂流虫アサウルス -

809 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:02:49 ID:THvpQ3w60



(`・ω・´) 起きろ


(´・ω・`) …もう? 疲れてるんだけど


(`・ω・´) もうすぐアイツがくるぞ


(´・ω・`) いいよ。 どうせ大した用じゃない


(`・ω・´) 駄目だ。 起きろ


(´・ω・`) …真面目だなもう…わかったよ


(`・ω・´)  フェイントに気を付けてな



.

810 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:04:01 ID:THvpQ3w60

静かだった部屋に響き渡る堅いノック音。


( ФωФ) 「起きるのだ、朝礼の時間である」


年老いた特級神官の声は空間を仕切る扉などまるで無いかのように、しかと彼の耳に届けられる。


(´・ω・`) 「もう起きてるよ」

( ФωФ) 「それは失礼した。
準備が出来たら礼拝堂まで降りてくるのだ」

(´・ω・`) 「うん」


特級神官を見送り、ベッドから出ると同時。
手の届く範囲に掛けておいたハンガーから外行き用の法衣を掴み、乱暴に背中へと振り回す。

バサァ!と大胆に音をたてて広がり舞った法衣の勢いを殺すことなく片袖を通した。
…そして、もう片袖は放っておく。
だらりと垂れ下がる白の法衣の各部位に施されたゴシック模様。

使用されている金糸によって宗教組織の位を示しているが、
まだ幼さを残すショボンは法衣に着させられているようだ。

811 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:05:56 ID:THvpQ3w60

( ФωФ)つ | ガチャリ

Σ (´・ω・`;) 「うわびっくりした」

( ФωФ) 「……ちゃんと着るのである」

(´・ω・`) 「着る意味があるならね」


ショボンはそれを拒否する。 毎朝のように。

特級神官ロマネスクもそんな彼を叱るわけでもなく、再び扉を閉める。
二人の関係は、口うるさい老人と、少し背伸びした少年のそれだった。


足音でどこを歩いているのかが分かればもっと楽なのだが、とショボンは思う。
だがこのフロア全体に敷かれる絨毯のせいでそれは叶わない。

なにかと朝礼をサボる彼をわざわざ起こしに来るロマネスクとのやり取りは、もはや様式美というものだ。


(´・ω・`;) 「…フェイントってこれか?」


ため息をついて頭を上げる。

翼を背負い天を仰ぐ戦士達、
覆われた雲から射し込む太陽の光、
彼方を泳ぐ四つ足獣の影…

眠りにつく時、決まってうつ伏せになる彼は
その天井画が好きではなかった。

.

812 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:08:11 ID:THvpQ3w60


宗教的要素が日々の生活に取り込まれた孤島…
だが、ショボンが産まれる以前からすでに何も崇めてはいない。


礼拝堂で行われる毎日の朝礼。
誰かの長々とした話を聞く時間ではなく、
島の人々が気になる事、不便、不満などを報告し合うことが目的だ。


ミセ*゚ー゚)リ 「ーー 以上が昨夜中に発覚した設備不良だそうです」

( ФωФ) 「ふむ。 では072番、201番の柱の灯りは今日中に取り替えて…」

ζ(゚ー゚*ζ 「ロマネスク様、201ではなく210ですのよ」

( ФωФ) 「おっとすまぬ。 …歳を取るとどうにも数字に弱いのである」


この礼拝堂は全一階。
孤島全体の三分の二を占めるほど広いスペースを誇る。
それは海を渡ってきた何人もの旅人が
荘厳な入り口をくぐるに付けて必ず驚愕するほどに。


いつの日からか
島の住人がこの礼拝堂を家として
自由に眠り、自由に語らっていた。

いま現在もその風習は変わっていない。
この礼拝堂は寝起きする家であり観光地でもある。
旅人はカルチャーショックを受けつつも
そんな孤島を満喫するのだ。

813 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:09:06 ID:THvpQ3w60

ミセ*゚ー゚)リ 「大きな乱れは今日もありません」

ζ(゚ー゚*ζ 「細かいものはありますけれどね…
計11点の改善要望はこのノートに書いておきましたので後程ご確認を」

( ФωФ )
 つ◇⊂  「うむ、うむ」

( ФωФ)
  つ◇⊂  「……また壁画の縁と空調機の部品が一部紛失しているのであるか?」


顔のよく似た双子の妙齢女性から受け取った朝礼報告書…
そこには最近よく目にする一文があった。


ミセ*゚ー゚)リ 「外蓋を閉じるネジが欠けていたそうですよ」

ζ(゚ー゚*ζ 「何十とあるうちの数台ですので支障はありませんけれど…」

ミセ*゚ー゚)リ 「この前はたしか室外機だったわ」

ζ(゚ー゚*ζ 「どこかに転がってしまうのかしら?」

ミセ*゚ー゚)リ 「殆どは古い設備ですものね」

( ФωФ)
  つ◇⊂  「ふーむ?」


( ФωФ)
  つ◇⊂  「…兄者殿はいずこに?」


.

814 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:11:11 ID:THvpQ3w60


□⊂(・ω・` ) 「はい、今日の分」


ーー 同時刻。
島外れの海岸沿いにはロマネスクの呼び掛けを無視したショボンが居た。

その手には小さな布袋が握られている。
差し出した先には彼と似た法衣を羽織る壮年の男性。


( ´_ゝ`)つ□ 「いつもすまない、こんなことをさせて」


兄者は布袋をさっそく漁った。
手のひらにジャラジャラと展開するナットやネジ、ワッシャー等の細かなパーツを満足げに見つめ頷く。


( ´_ゝ`) 「またこれで作業も進みそうじゃないか?」

(´・ω・`) 「そろそろ完成でしょ?
あと必要なパーツを確認してみようよ」


ショボンもそう言って頷いた。
年の離れた兄弟のように仲の良い様子で。


……刻は引き潮。
二人はさらに礼拝堂から離れるように海辺沿いを歩いていく。
普段は水位が上がり通れない道も、
いまなら足も濡らさずに移動できる。

815 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:11:53 ID:THvpQ3w60

(´<_` )「お。 意外と早かった」

( ´_ゝ`)つ□ 「待ったか?」

□⊂(´<_` )「いや…むしろもう少し遅くても良かったかな」

( ´_ゝ`)「だってよ、ショボン」

(´・ω・`) 「そんなこと言ったって…」


崖下の死角に待っていたのは弟者とその持ち舟。
数十年前と変わらない弟者の舟は薄汚れていたが、当人にとっては何度も年を越した名誉ある相棒である。

当然のことながら何度も穴が開き、
船体は削られていった。
そしてそのたびに弟者は欠かさずメンテナンスを繰り返しながら大切に使用してきたのだ。


(´<_` )「ショボンに言っても仕方無いだろうに」


兄者から受け取った布袋の中身を確認し、
弟者もまた頷いた。
その仕草はついさっきの兄者にそっくりで
ショボンは少し笑ってしまう。


(´・ω・`) 「新しい船、これでもうできるかな?」

"(´<_` )「うーん…そうだなあ」

816 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:13:29 ID:THvpQ3w60

カチャカチャと音をたてる弟者の腕の先…

そこには四人乗れば限界な彼の舟よりも
二回りほども大きく、
だが近代的なデザインの船が鎖に繋がれ
浅瀬の上にたゆたっている。
その横にはブルーシートにくるまれた浮き袋。

この中に、今日と同じくこれまでショボンが
持ち運んだ数々のパーツが入っていた。
…いや、その他にも大きな鉄板や一般人が
見る機会もないような専門的な物品が
入っているらしい。


(´<_` )「…ざっと見た感じ、
わずかに足らないかもな。
あと兄者も手伝ってくれたらいいのに」

( ´_ゝ`)「俺は毎日仕事で
疲れてるんだって何度も言ってるだろ?
こうして島からすれば紛失した部品だって
適当な理由つけて帳尻あわせしたり
大変なんだから、んもう」

(´<_` )「俺もこの船造るために
色々向こうから持ちこみ過ぎて、
漁港組合からだいぶ睨まれてるんだぞ。
あとなんだよんもうって」


(´・ω・`) 「僕、手伝うよ」

( ´_ゝ`)「「危ないから駄目」」(´<_` )

(´・ω・`)  ショボーン

817 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:15:02 ID:THvpQ3w60

三人にはそれぞれ役割分担があった。


まだ若いショボンがこっそりと島の備品を拝借し、持ち出してくる。

兄者は素知らぬ顔でその備品を島に補充する名目で、依頼として弟者に注文を頼む。

唯一大陸に居を構える弟者は、組合からそれを取り寄せてこの島まで運ぶ。
…ついでに注文されていない物も持ってくる。


そうしてまで彼らが造っているのは
一隻の船だった。
だが、ただの船ではない。


( ´_ゝ`)「世界にまだない唯一の "潜水艦" か…」

(´・ω・`) 「本当に海を潜れるのかな?」

(´<_` )「俺の腕を信じろ。
理論的には充分可能なんだ」


…だが、まだ誰も挑戦していない。
人間は海を渡る概念を手に入れ、
それを叶えはしたが ーー それだけだ。

818 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:16:24 ID:THvpQ3w60
----------


きっかけはショボンの言葉だった。


(´・ω・`) 『…どうして海へ還すの?』


人が生命を終えた時、
その故人を悼み、遺族との今生の別れとする葬儀を執り行う…
いつの頃からか生まれたこの風習は、"ふたごじま" にも当たり前のように取り入れられている。


( ´_ゝ`)『……どうしてだろうな』


それは遺体を海へと送り出す海洋葬。
浜辺に作られた石畳は緩やかながら滑りのよい坂を形成し、柩はそこから海へと降ろされる。

その間、柩には遺族や親しい友人と同じ数の縄が繋げられ、周囲の人工柱へと結ばれていた。


(´・ω・`) 『意味もわからずやってるの?』


この時、兄者は答えを知らないわけではなかった。

《神の生んだ自然があるから人間は生まれた。
 それを母なる海へと還すのさ》

こう言えたならば楽だったろう。
…ふたごじまには
"神への信仰" が数十年前まで染み着いていた。


( ´_ゝ`)『誰もが同じ意味や想いを抱くわけじゃないからな』

.

820 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:18:53 ID:THvpQ3w60

周囲は無言で手を合わせる島の住人ら…
ーー そこに祈りの声はない。
松明の灯を縄に重ね、着火する。

故人への思い出と共に、
縄の繊維が一本、また一本と燃え千切れていく。


(´・ω・`) 『海中はどんなものがあるんだろう』

( ФωФ) 『これ、集中しなさい』

(´・ω・`) 『ねえ、なにがあるの?』

( ФωФ) 『うむ、魚がいるのは確かだが…
か ーー …人間は水に潜れない。
誰も海の中をきちんと見たことはないのである』


《神のみぞしる》…そう言いかけたロマネスクは唾を飲み込み誤魔化した。

目の前では全ての縄が焼き切られ、支えを失った柩がゆっくりと海へ流れていく。

それを見送るその場の人々は、
やはり声を押し殺して頭を垂れていた…。


(´-ω-`) 『死んだ人も安心していける海の中…か』

( ´_ゝ`)『……』


約30年前の神託以来、このふたごじまで
神への祈りは禁じられていた。

.

821 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:20:21 ID:THvpQ3w60

(´<_,` )『海に行きたいって?』

( ´_ゝ`)『海じゃない、海の中だ』


数日後、島に物資を運んできた弟者は
何を勘違いしたのか笑ってその話を聞いていた。


(´<_` )『なんだ…』

( ´_ゝ`)『弟者のような立場からみて、
海中ってのはどういうものかと思ってな』


(´<_` )『陸と同じさ。
俺達は酸素がなければ生きられない。
地中に潜って死にかけながら、あるかどうかも分からない何かを探すやつがいるか?』


それはそうだ、と兄者は思う。
普段なら気に止めない一言は、しかし
ショボンが発したからこそ頭に残された。


( ´_ゝ`)『じゃあ地中に何かがあって、
呼吸さえできれば…?』

(´<_` )『行く奴はいるだろうな。
だが誰もそれをしないのはその "何か" を必要としないからだ』

822 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:21:27 ID:THvpQ3w60

(´<_` )『……』


(´<_` )『そうか。 ショボンは…』


兄者にしては妙に突っ掛かってくると思った。

あの日、信仰が消えたこの町で、
兄者は島に残る人々を説得しながら新しい生き方を共に模索してきた。

根底を揺るがされた人の心をケアしつつ、
代理となる心の支え、習慣の改革を行った。


ーー そんな中のイレギュラー。
過去に例のないもうひとつの出来事は、
ショボン生誕時に起こってしまう。


( ´_ゝ`)『必要とするのかもしれない。
産まれた時、兄弟を死なせたアイツには』



----------

823 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:22:44 ID:THvpQ3w60


(´・ω・`) 「具体的にあと何が必要なのか言ってくれたら早いのになあ」


島全土が静まり返る真夜中、丑三つ時。

潜水艦の完成を間近に控えつつも、
残りのパーツ集めに礼拝堂の備品を物色するショボンの姿が闇に浮かんでいる。

船乗りである弟者の頭の中には設計図があるらしいが、兄者やショボンにそれを計り知れるはずもない。
おかげで余分不要な物も持ち出している可能性がある。


(´・ω・`) 「…あっ」


何かに気付き、礼拝堂に延々と建ち並ぶ柱の影に身を隠す。

こっそり顔だけを覗かせた視界の向こう側。

平坦な礼拝堂中央に唯一そびえる段差の前から
掠れ年老いた声と、落ち着き払った声がそれぞれ聞こえてきた。

824 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:24:55 ID:THvpQ3w60

( ФωФ) 「ーー が、……に…」

( ´_ゝ`)「…では、発 ーー りに……」


(´・ω・`) (こんな時間にロマネスク爺?)

ここからではよく聞き取れない…
そう思い、音を立てずに素早く、
柱から柱へと低い体勢で移動しながら近付いていく。


(よし、ここまでくれば) (´・ω・`)



( ФωФ) 「そうそう、ところで兄者殿」

( ´_ゝ`)「どうされました?」

( ФωФ) 「ショボンといつも何をしているのであるか?」

( ´_ゝ`)「…」

( ФωФ) 「ああ、隠さなくて良いのである。
これは我輩の好奇心ゆえ」


( ФωФ) 「きっとデレやミセリが聞けばガミガミ言うのであろう。
だが我輩の胸のうちであればやがて勝手に海に還るとは思わぬか?」

825 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:26:53 ID:THvpQ3w60

…兄者がその言葉にすぐ答えることは無かった。
しかし隠れていたショボンときっと同じ感想なのだろう。

ロマネスクはすでにこちらの悪巧みに気付きながらも、
いつからか見て見ぬふりをしていたのだ。


( ´_ゝ`)「…騙すような真似をしたことを謝罪します。
だからこのような時刻に私を呼び出されたのですね」

( ФωФ) 「うむ。 デレとミセリが気付き始めそうだったのでな。
陰ながら黙って見守るつもりではあったが
そろそろ我輩も知っておく方が根回しできるかと考えたのだよ」


「たまには悪巧みも悪くないのである」
すっかり白くなったヒゲや髪をさすりながら、ロマネスクはホッホッと笑って言った。


悪くない悪巧みとはまさに "巧み" という事か。
ロマネスクからすれば兄者も息子のような年齢であり、可愛く映るのかもしれない。


( ´_ゝ`)「ショボンの奴が海の中を見たいと言ったので、その準備をしています」

      (あ、言うんだ) (´・ω・`;)

( ФωФ) 「…いつかの葬儀の時か。
しかしなぜ兄者殿が手伝う?
ショボン一人でやらせるのも成長の糧であろう」

826 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:29:11 ID:THvpQ3w60

( ´_ゝ`)「そうですね。
単なる過保護なのかもしれません」


( ´_ゝ`)「…もしくは私も知りたいのかもしれない。
定義のなかで生きてきた人生の大半に逆らうように、
この島は信仰の代わりをまだ見付けきれていない」


( ∩_ゝ`)「いえ ーー 小難しい言い方はこの際やめておきます。
本来私達にもあるはずの冒険心や、未知への挑戦に私も一歩踏み出したい。
ただそれだけでは…どうでしょうか?」

( ФωФ) 「構わんよ、皆同じである。
特にそなたはこの島に、人々に、
饒舌し尽せないほど貢献してくれた」


( ФωФ) 「デレやミセリ、
そして我輩もそなたに救われた」


( ФωФ) 「…ショボンを特別可愛がってしまうのもな」

827 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:31:50 ID:THvpQ3w60

  (大人の会話は難しいな) (´・ω・`)

まだ少年の彼には理解できない。
 …人は言葉だけを弄するに非ず。
兄者もロマネスクも、伊達に数十年と共に生活しているわけではない。


( ФωФ) 「巧み…我輩に手伝えることがあれば言うが良い。
ーー だが」

( ФωФ) 「そなたらのやったことは横領である。
罰として向こう一週間の礼拝堂掃除当番を命ずる」

 (あーあ兄者さんかわいそ) (´・ω・`;)


( ´,_ゝ`)「分かりました、連帯責任としてショボンとやらせて頂きますので」

         (なにィ?!) (´・ω・`;)

( ФωФ) 「うむ。 では二人で二週間か」

(;゚_ゝ゚)
     (( な、なにィ?!?! ))
             (´゚ω゚`;)



…少年はこの瞬間理解した。
大人は歳を重ねれば重ねたほど、狡猾になるものなのだと。

.

828 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:33:22 ID:THvpQ3w60


.

829 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:34:36 ID:THvpQ3w60



(`・ω・´)  おい、起きろ


(´・ω・`) …また? まだ眠いよ


(`・ω・´)  アイツがくるぞ


(´・ω・`) 掃除当番の一週間も済ませたし、
     そろそろ船も完成するんだ。
     そしたら島ともしばらく ーー


(`・ω・´)  駄目だ。 やることができる


(´・ω・`) …もう、わかったよ……えっ?


(`・ω・´)  挫けるなよ、ショボン。 二回だ


(´・ω・`) ……なに言ってるのさ? シャキン…


.

830 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:36:27 ID:THvpQ3w60


その日の朝、ロマネスクは
いつものように彼の目を覚ましには来なかった。


ベッドから身体を起こし、
手の届く範囲に掛けておいたハンガーから外行き用の法衣を掴み、乱暴に背中へと振り回す。

バサァ!と大胆に音をたてて広がり舞った法衣の勢いを殺すことなく片袖を通した。
…そして、もう片袖は放っておく。


毎日繰り返すこの習慣も
考え方によっては儀式だな…と、ふと思った。
まだ幼さを残すショボンはこの法衣に着させられているようで、皆のようにきちんと着るには抵抗があったのだ。


(´・ω・`) 「…潜水艦出来たかな?」


毎日その事ばかりを考えている。

…だから、彼は自室の扉を開けて初めて
その異変に気が付いた。

831 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:38:14 ID:THvpQ3w60

(´・ω・`) 「……なんか騒がしい」


自室のあてがわれたフロアの静けさとは対称的に、礼拝堂の方角が騒がしかった。
構造上、一度は建物外に出なければならないためか、ショボンは面倒な気分を隠すことなくとぼとぼと歩き出す。


まだ太陽が昇りきらない時間…いつもなら朝礼が行われる時刻。

外に出るとよりその騒ぎが大きくなる。
人の声がうるさいといった騒ぎではなく、
混乱と往来でバタバタとしたやかましさ。


ミセ;*゚ー゚)リ 「ショボン! どこにいってたのです?!」


正門へと辿る長階段下でミセリを見つけた。
興奮している様子で大振りに手招きしている。
どうやらあちらもショボンを捜していた様子だが…


(´・ω・`) 「寝てました…なんですか?」

ミセ;*゚ー゚)リ 「そ、そら、空を見て!」




      ( ´・ω・) 「そら?」


.

832 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:39:56 ID:THvpQ3w60

(;ФωФ) 「なぜ…なにが起こったであるか?」

(;´_ゝ`)「太陽と、 ーー …」


太陽。
かつての信仰に沿うならば…
神はその眼球を抉り出し、世界のあらゆる物質を作りたもうた。


ミセ;*゚ー゚)リ 「…神の虹彩…」

(うω・` ) 「眼が霞んでてよく見えないな」


祈りは止めども、教典は心に残っている。
人々は誰もが棄てることが出来なかった。

いま、目の前にある神の創造 ーー



(´<_`;)「…なんだありゃ」


日課のように島へ向かっていた弟者も、
海の上で雲に隠しきれないそれを確かに見た。



"二つの太陽が人間を照らそうとしている" 。

.

833 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:42:29 ID:THvpQ3w60

ーー そしてそれは唐突に始まる。

陸地に居た者は気付かなかったが、
前兆は舞堕ちる硬質の灰だった。


(´<_`;)「雨…じゃないよな」


海面に浮かぶほんの細やかな気泡、波紋…
それはパラパラと何かが着水する様を映している。

細かすぎて微弱な反応。
稚魚の大群からはぐれた数匹が舟の周りを泳いでいてももう少しくらい波はたつ。


(´<_`#;)「 ーー って、オイ!」


水平線の向こう……空の上で。
兄者の視線は下がり始める。


異変は果たして。
弟者のいる海上ではなく
兄者達のいるふたごじまで肥大した。

834 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:43:41 ID:THvpQ3w60
「ショボン! あぶな ーー 」


その声は届けられるべき人間の元へ
不完全なまま届けられた。

ショボンは増えた太陽を直視せず、
少年特有の斜に構えた平静心で物事をしっかりと視なかった。
外見を気にして余裕振ろうと努めてしまった。

……現実を、自室の天井画と同じ程度に嫌ってしまった。


それが幸か不幸だったかは
本人にしか分からない。


ミセ* -( リ


ーー 突き飛ばされたショボンの眼前。

そこには煙のまとわりつく黒い岩石と
頭部を半分以上失い倒れたミセリの姿がある。
腹這いに…しかしその顔は少年ショボンの無事を確かめるように、地から反らしていた。


      (´・ω・`) 「……」


そして、
  どろり、
と。
降り注いだ岩石のせいで濁った血液は、残るミセリの頭蓋骨を盃にして他のすべてを紅く覆ってしまう。

特徴のない鼻も、口うるさそうな唇も、歳より少し若々しかった頬もすべて。

836 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:46:33 ID:THvpQ3w60

      (´・ω・`) 「……」


ショボンは無表情のままだった。
その胸中とは反対に。

ミセリから目をそらさないまま、笑う膝を抱えて立ち上がる。


(;´_ゝ`)つ|「外に出てる人は
早く礼拝堂に入れ! 危険だ!!」


坂の上では礼拝堂の扉を開けて待つ兄者の小さな姿が見えた。
まだ彼はミセリとショボンの動向に気付いていない。


      (´・ω・`) 「…」


後ろ髪を引かれる思いで階段を駈け上がるも、その足元はおぼつかない。
右、左、と足を動かすたび、
いつもなら歩き慣れたはずの段差にすらつまずきそうになる。

837 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:48:41 ID:THvpQ3w60

  аζ(゚ー゚*;ζ 「兄者様! 上を!」
(;´_ゝ`)つ|
      「わかってる! ショボン早くしろ!」


兄者と、その後ろに隠れるようにデレが叫ぶ。
その声から明確なのは
未だ脅威は空にある、という事だ。


            (・ω・`; ) ))


だがそれをショボンは理解できなかった。

いざとなれば状況認識もできない憐れな少年。
他人が慌ててるのは分かる…
しかし、
なぜ慌てているのか?
兄者とデレの言葉が何を指しているのか?

頭で反芻するばかりで意味を考えられない。


三(#;´_ゝ`)「このっ ーー 何をのたのた歩いてるんだお前はァ!」

|⊂ζ(゚ー゚*;ζ 「あ、兄者様!」



      ーー 空から音がする。


「シィーーー」 と、
間の抜けたガスが噴き出すような細い音。

.

838 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:50:33 ID:THvpQ3w60

空から大地へと墜落する "それ" は、
無防備に晒されたショボンのまだ幼い後頭部にグングンと迫る。


   三(#´_ゝ`)    (・ω・`; ) ))


階段を飛ばし飛ばし下る兄者と、
階段に足をつっかけながら登るショボン。


兄者は思った。
こんなに走るのはいつ以来かと。


ショボンは思う。
なぜ兄者はこちらへ向かってくるのだろうかと。

839 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:52:02 ID:THvpQ3w60


そして "それ" は笑った。
       顔のない顔で。


わざわざ二人、獲物が
己の着弾地点に入り込んだのだから ーー

.

841 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:53:28 ID:THvpQ3w60



(´<_`;)三 「ハッ…ハッ…」


弟者が浜辺に着く頃、
すでに周囲はいつもの孤島の空気を取り戻していた。

空は晴れ、太陽は一つ。
海上で見た灰も降り止んでいる。

いつも停泊する島の死角ではなく、今回は堂々と港から上陸した。
最も早く礼拝堂まで辿り着くために。

人々が無事なら安全だったのは建物の中だろう。


…弟者は思った。
陸をこうして走るのはいつ振りかと。


彼が舟の上で見ていたのは降り注ぐ隕石…
そして槍と見間違うような鋭い一本の細い黒線。

842 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:56:18 ID:THvpQ3w60

礼拝堂に続く長階段、
…その中腹に人影を見た。


(´<_`;)「はあ…はあ……」


砂浜に足をとられながら走ったせいで
思ったより体力を奪われたが、
もはやそれどころではない。

立ちすくむ。
呼吸が荒い。

だがそれは走ったせいだけではない。


(´<_`;)「……お前達、どうして…」


呟いてからの歩みは遅かった。
それでも一歩ずつ前に踏み出して階段を登る。
……時を同じくして、礼拝堂からも人影が現れる。


            ζ(゚ー゚*;ζ


デレもまた様子を窺いに来たのか。
彼女の姿は見えるのに
どうしてその途中にいる影の姿はしっかりと見えないのか…。


ーー 二人が向かい合う長階段。
交差する視線の間で佇む影は、やがてその瞳に正体を映す。

843 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 21:59:58 ID:THvpQ3w60


(  _ゝ )


人影は重なり、二つあった。

黒い槍に後頭部から胸部まで貫かれ
百舌鳥のはやにえのような有り様の兄者の死体。


そして……


( ;ω;`)


胸部から腰まで、同じく貫かれてなお
まるで痛みを感じてないかのように涙を流すショボンが居た。


弟者もデレも
しばし言葉を発することはなく…



    「…なんなのさ、これぇ……」


……ショボンの嘆きの息だけが、
   二人の耳にいつまでも残った。


.

844 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:00:56 ID:THvpQ3w60
------------


〜now roading〜


(´・ω・`)

HP / C
strength / C
vitality / D
agility / B
MP / C
magic power / A
magic speed / D
magic registence / D


------------

845 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:03:50 ID:THvpQ3w60


あの日から幾ばくの夜を跨いで ーー 。


兄者さんとミセリさんの亡骸は
ロマネスク爺によって葬られた。


信仰を失わされたこの島において、
形骸化した神官という立場をあえて貫いていた二人。

神ではなく己の信念を一から組み直し
困難には率先して立ち向かい……
後についてくる人々に新しい生き方を説いてきた二人。


( ФωФ) 『二人の御霊は我らと共にある。
肉体は朽ちても、魂がいく場所は我らの記憶の中なのだ』

( うωФ) 『彼はそう、我輩に説いてくれた… それで…良いのだろう?』


 ロマネスク爺の言葉は
ある日の兄者さんの言葉だったと後で知った。

846 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:06:19 ID:THvpQ3w60


ζ(;ー;*ζ 『……ミセリは…どんな気持ちだったのでしょう』

 デレさんの心は、死したミセリさんについて逝こうとしていた。


(∩<_∩ )『…代わりにあんたが精一杯生きてやれ』


(´<_` )『思い出は永遠だ……
だから俺も、兄者のためにそうする』

 それを止めたのは追放解除を求めた弟者さんだった。
彼はその日から島に戻ってくることになる。


外の世界で生きてきた彼は
新しい足跡を、デレさんと共に、
この "ふたごじま" に遺していく……。

848 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:07:31 ID:THvpQ3w60

(´・ω・`)


僕が変わっていったのはそれくらいからだった。

無力どころか、他者の足を引っ張ってまで生き残る自分の厚かましさに打ちのめされたから。


あの日、僕と兄者さんを貫いた黒い槍を握り締めて。
自分に出来ることから始めたんだ。


…不思議とクヨクヨしたりはしなかった。
しても意味がないと思ったし、
その権利すら…あの時に奪われたのかもしれない。


.

849 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:10:21 ID:THvpQ3w60

  _
( ゚∀゚) 「……」


ーー 話をぼんやりと聞いていたジョルジュは、
「ここまでで何か質問はある?」
というショボンの声で我に帰った。


ここは山小屋の寝室。
だが彼とショボンの数分にも満たない戦いによって、壁から天井にまで破壊跡が残されている。

  _
( ゚∀゚) 「…あんたは、生まれつきの不死者だったのか?」

(´・ω・`) 「どうだろうね。
恐らく僕が死んだのはそれっきりだし、
少しして歳も取らなくなったからそうだと思うってだけさ」


ショボンの答えは回りくどくもあり、
限りなく事実に基づいた彼らしい回答だった。

 不死者とは一体なんなのか…

……違和感を残しながらも、ジョルジュは話の続きを促す。


(´・ω・`) 「…場所を移そうか。 まだ長くなる」

850 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:12:06 ID:THvpQ3w60

破壊された部屋を出ると、すぐそこは階段。
ショボンはジョルジュに背を向けて先に降りていく。

ギシギシと軋む木造階段は、しかしてガッシリと二人分の重量を支える感触がした。



小屋の一階は広くもなければそう狭くもない、何処かの酒場のような雰囲気を醸し出している。

長テーブル席が縦に二つ、横に三つと並べられ、
まだ空いたスペースにはいくつもの大樽と…恐らく予備であろう長テーブルが横倒しに壁際へと寄せられている。

空っぽの陳列棚と向かい合うバーカウンター席に、二人は腰掛けた。


(´・ω・`) 「水くらいならひいてあるから喉が乾いたらそこのシンクで好きに飲んでいいよ」
  _
( ゚∀゚) 「ああ、サンキュー。
ここってあんたの家かなんかか? 」

(´・ω・`) 「ここ何年か勝手に拝借してる。
昔は傭兵やら旅人が集う酒場だったらしいけどね」

851 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:12:55 ID:THvpQ3w60

適当な相づちをうちながらジョルジュは回り込み、水道から出た水を手すくいで飲む。
ついでに顔も洗った。

…日常的な行為のはずなのに、どうしてか長いこと忘れていた感覚にとらわれる。

静かな空間で、しばらくシンクに当たる水の音だけが響き渡った。


(´・ω・`) 「大丈夫?」
  _
( ゚∀゚) 「……すまん、ぼーっとしてた」


水を止め、ポケットから取り出したハンカチで手顔を拭う。

  _
( ゚∀゚) 「…」

  _
( ゚∀゚) 「他に誰かいるのか?」

(´・ω・`) 「えっ?」


その視線に合わせてショボンは振り向く。

後ろには小屋の出入り口があるだけ。
しかし、特に物音は聴こえない。

852 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:14:04 ID:THvpQ3w60

(´・ω・`) 「……?」


ショボンも扉を開け外を見回したが、
やはり誰も居ないことを確認して席に戻る。

  _
( ゚∀゚) 「気のせいかな…」

(´・ω・`) 「僕には何も感じない。
でもまた何かあれば教えて」


その声は少しだけ警戒を滲ませていたが、二人は改めて席についた。
一度だけ、ショボンは肩で大きく息を吸う。


(´・ω・`) 「ーー さて、それからなんだけど」


その腰に下げた "隕鉄" の刀が揺れた。

853 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:16:28 ID:THvpQ3w60

(´・ω・`) 「兄者さん達が死んでから、
僕は当時の馬鹿な頭をフル回転させて原因を調べ始めたよ」

(´-ω-`) 「なぜ島にあんなものが降ったのか?
あの隕石はそもそもなんなのか?
…どうして僕は生物として死ななかったのか?」

(´・ω・`) 「潜水艦の製造も中止した。
弟者さんにはやることが出来たし、
僕の興味も海中から天空へと移ったからね」

  _
( ゚∀゚) 「俺はワカッテマスと同化した一族の魂みたいなもんだ…
でも、あんたみたいな人は普通に母親から産まれたんだよな?」

(´・ω・`) 「そうだよ。 両親はなんの変哲もない人だった。
…双子は産めなかったけどね」


"ふたごじま" ーー 。

それは産まれる子の殆どが双子であり
そこから名付けられた俗称ともいえる。



(´・ω・`) 「正確には双子 "だった" 。
僕もね。

でも片割れは死産だった……
僕だけが、こうして生きて産まれた」

854 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:18:34 ID:THvpQ3w60

島の歴史において、
彼は最も希有な命だったという。
流産、死産は数あれど
片割れが死体のまま出てきた例は無い。


(´・ω・`) 「島では一人っ子がまず神官職に就く習慣があってね。
僕もそうやってやりたくもない雑務をやらされてた」

(´・ω・`) 「……ずっと思ってたんだ。
ひょっとしたら僕の不死はその片割れ…
シャキンがもたらしているんじゃないかって」
  _
( ゚∀゚) (…兄弟と同化してるってことか?)


シャキンは時々、予言じみた言葉を残すためにショボンの眠りに現れる。

とはいえジョルジュとワカッテマスの関係とは異なり、あくまでショボンはショボンとして生きていると言った。


(´・ω・`) 「彼は僕のなかに存在するオラクルそのものだと思う。
ちなみに…さっき君と一戦交えた最後の攻防。

それも事前にオラクルとして知ったから出来た事だよ」

855 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:20:40 ID:THvpQ3w60

ひとつ、ジョルジュの合点がいった。

蹴り飛ばした刀の疑似チェーンソー…
あの瞬間、あの刹那、
ショボンは顔を上げることなく白羽取りしてみせた。

  _
( ゚∀゚) 「すげえ便利だな…いや、
これは不謹慎か、すまない」

(´・ω・`) 「いいよ。 なんせシャキンは曖昧だ。
その時のオラクルも何か教えてあげようか?」


(`・ω・´)o 『下は向くなよ。 ゲンコツだぞ』


(#´・ω・`)б 「ふざけてるよね、これ……
実際に飛んできたのは刀だよ?
僕はせいぜい君の脚だと思ったんだから」
  _
( ゚∀゚) 「ハハッ 子供かよ」


ジョルジュが笑うと、ショボンも少しだけ笑ったように表情が和らぐ。
こうして思い出話が出来るのは愉快なことなのかもしれない。

少なくともジョルジュにとっては
同じ時間を生きる存在としてショボンを認め始めている。

856 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:23:16 ID:THvpQ3w60

  _
( ゚∀゚) 「それで、隕石がなんだったのかは判明できたのか?
それが…なんとか虫のアサウルスってやつなのか?」

(´・ω・`) 「銷魂流虫、ね。
結論から言えば…僕達を襲った隕石や黒い棒。

それ自体はアサウルスでありアサウルスではなかった」
  _
( ゚∀゚) 「ん??」

(´・ω・`) 「これの刀身、何で出来てると思う?」


ショボンは腰鞘に収めた刀に手をやり
少しだけ抜いた。
鍔と鞘の隙間から輝く鈍色 ーー 矛盾した刃がその身を覗かせる。


(´・ω・`) 「 "隕鉄" さ。 特に銘付けはしてないけれど…
昔、知り合った職人に刀として加工してもらったのさ」
  _
( ゚∀゚) 「聞いたことくらいはある。
"隕鉄" って言ったら空から降る天の鉱石」
  _
( ゚∀゚) 「俺はそんな由来くらいしか知らないが…
成る程その通りのシロモノなんだな」


(´・ω・`) 「ただし、その職人はその後
長生きできていない。
…燃え尽きたんだ、人としての魂が」

  _
(;゚∀゚) 「……魂が、燃え尽きる?」

(´・ω・`) 「これはね、アサウルスの欠片なんだよ」

857 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:25:16 ID:THvpQ3w60

ーー ジョルジュが息を呑む音がした。
覗かせていた刃を収めてショボンは悪くなった座りを直す。


(´・ω・`) 「ここまで来ると、今度はアサウルスについて話さないとね」


ショボンは窓の外と出入り口を順に見やる。
ジョルジュもつられて顔を動かし、
  _
( ゚∀゚) 「……やっぱなんか居るよな?」

と聞いた…… いや、"言った" 。


(´・ω・`) 「…実は待ち合わせはしてるんだ。
でもいつ頃に来るかまでは ーー」


ショボンが言い掛けたその時、
初めて彼の耳に外からの音が聞こえる。

      ジャリ… ジャリ…と。

石ころを踏み歩く音が。


(´・ω・`) (…まさかこの音を聴いていたのか?)


ジョルジュの顔を横目に立ち上がる。

858 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:26:18 ID:THvpQ3w60

やがてその音が扉の前で止むと、
かちゃりとドアノブが捻られた。

  _
( ゚∀゚) 「……」

(´・ω・`) 「……」


かちゃり、かちゃりと ーー

…何度か同じ行為が繰り返されるも
一向にその正体を見せようとはしない。


(´・ω・`) 「……」


(´・ω・`) 「…あっ」


ーー 鍵がかかっているのだ。
だから普通なら扉は開かない。

859 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:27:10 ID:THvpQ3w60

「おい」


ジョルジュでもショボンでもない、
第三の声が室内にかけられる。

静かに、そして厳しく。


「開けろ。 さもなくば」

(;´・ω・`) 「ま、まずい!」


ショボンは狼狽し慌てて一歩踏み  …出そうとしたが


    「壊してでも入るぞ」


時遅く、扉はその一部を
外からの衝撃によって大袈裟に破壊された。

.

860 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/03(水) 22:28:19 ID:THvpQ3w60
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〜now roading〜

  _
( ゚∀゚)o彡゜

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866 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 20:52:08 ID:FCjsfqmk0
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〜now roading〜


( ゚д゚ )

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vitality / B
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867 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 20:54:08 ID:FCjsfqmk0


ふたごじま。


大陸の海岸から眺めた時、
ちょうど水平線に浮かぶように佇んだ島…

空から見下ろしたその形が月に酷似する事から、旅人の間では三日月の孤島とも呼ばれる。

868 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 20:57:05 ID:FCjsfqmk0

   ( ´・ω・)" 「ーー よっと!」


ロマネスクが天寿を全うし、
弟者とデレも年老いて、やがてこの世を去った。


(;´・ω・`) )) 「重いなあ、これ」


信仰の廃れと共に神官は居なくなり、
島の人口は全盛期の半分以下。
礼拝堂だった建物内部からは壁画、天井画が塗り潰し、
或いは取り外されていき……
観光地としての魅力は大きく損なわれた。


(´・ω・`) 「こんなものかな…」


双子もあまり産まれなくなった。
一両親に一人ずつ、新たな命は順番に宿っていく。



 ーー 約90年。
青年として、そして不死者として…
ショボンの歴史が始まり、経過した年月は
"ふたごじま" がそれと呼ばれなくなる程の時間を過ごさせた。

869 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 20:58:50 ID:FCjsfqmk0


「あの人、またなにかやってるのね」


離れた場所で一組の夫婦が
一つのバケツからいくつものザルへと
魚、貝、海藻、ゴミ… 収穫した海産物を
分別しながらひそひそと話している。


「漁の邪魔にさえなんなきゃ構わないよ、
こちとら生活が掛かってるんだから…」

「……不老不死って楽でいいわね。
飲み食いしなくたって生きていけるんでしょ?」


夫婦の視界の先…浜辺でショボンは杭を打ち付けていた。
その手には黒く長い槍が握られ、
それを一度振り下ろすだけで1m近い杭が音もなく軽々と砂に食い込んでいく。


(´・ω・`) 「よし」


一ヶ所に三本ずつ、
等間隔に打ち立てられた杭がずらりと並ぶ。
杭を打ち付けるたび、羽織っている法衣の裾がふわり。

漁に出るための舟が集う港から少し離れた場所で、ぽつんと独り、寂しげな光景を醸し出していた。

870 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:00:13 ID:FCjsfqmk0

「さあ、できた。
お前はそっちのバケツを持ってくれ」

「ええ。 …声、かけていかなくていいの?」


帰り支度を始めた夫に対し、妻が遠慮がちにショボンを見やる。


「いいだろ、俺のジイさんの代ならともかく…今じゃ単なる変人さ。
ったく、毎日毎日、飽きずに何してるんだか分かりゃしねえよ」

そういってその場を離れていく若夫婦。
……入れ違いに、礼拝堂の方から歩いてきた男が浜辺に現れた。


年の頃はショボンと同年代。
その身体は大きく、広い肩幅は恵まれた身体能力を隠しきれない。

871 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:01:03 ID:FCjsfqmk0

(´・ω・`) 「ひい、ふう、……15隻分か。
もう少し必要かな?」

腕を組み、片手を顎に当てる仕草がわざとらしくもある。


( ゚д゚ ) 「そろそろ休憩したらどうだ?」

そこへ背中から声を掛けられて、
ショボンは首から上だけで振り向いた。
一呼吸、顔を見合わせ視界を杭へと戻す。


(´・ω・`) 「ミルナか。 なんだい?
誰かに言われてきたの?」

( ゚д゚ )
つ□~ 「そう捻くれなくていいだろう。
コーヒーを淹れてきたから飲まないか?」

(´・ω・`) 「いらないよ。 コーヒーは嫌いなんだ」

( ゚д゚ ) 「……そうか」

872 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:02:34 ID:FCjsfqmk0

ショボンは砂浜に数式のような、
あるいは図面のようなものを描いていく。
いつも違うものを描いている気がするが…
ミルナにはそれが何を意味しているのか分からない。


( ゚д゚ )
つ□~ 「ここ毎日はずっとじゃないか。
部屋に戻った様子も無いから気になってな」

"(・ω・` ) 「…」ガリガリ


("Е◎゚ ) グイッ…

( ゚д゚ )
つ□~ 「…よほど大事なことなのか?」

(´・ω・`) 「君は自前の舟を持ってなかったよね?」

( ゚д゚ ) 「? ああ、俺は必要な時に
人から借りる程度しか使わないからな」


ミルナは "運び屋" だ。
島ではどんな重いものも顔色一つ変えず持ち上げる。
しかし、停泊した船から荷下ろしはするが自身が乗ることはない。

当のショボンは先の砂の数式に線を足し、
また作業を再開する。

873 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:04:06 ID:FCjsfqmk0

( ゚д゚ ) 「……」

(´・ω・`)" 「…」


カツン…!

ショボンが黒い槍を振り下ろす。
叩かれた長い杭が抵抗なく砂に埋もれる。

そうして繰り返される作業も時々何か気に食わなかったのか、深々と突き刺した杭を引き抜く場面も見られた。

舟を持たないミルナも、それを見て気付く。


( ゚д゚ ) 「これは一時的に舟を留めておくためのものか」

( ´・ω・)" 「…よく分かったね」


錨をおろさず、岸壁に係留させる時
主に使用するビットの役目を果たす係船柱…
ショボンが造っているのはその代わりとなる杭だった。

島には小型舟しか置かれておらず、
大きな船を造る技術もまだない。
だからこの杭でも充分実用に耐えうる。

例えば…予めここに小舟を用意し、
縄で縛り付けておけばそれを切るだけで何隻もの舟が同時に海へと出発することもできるだろう。


( ゚д゚ ) 「どうしてまたそんなものを…
しかもこんなに」

(´・ω・`) 「必要だから」

874 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:06:10 ID:FCjsfqmk0

( ゚д゚ ) 「……」


返ってきたのは簡潔で質素な回答だった。
だが不思議と不快ではない。


ミルナが小さい頃、礼拝堂の改築を行っていたショボンを思い出す。

当時は子供の我が儘と思って遊んでくれたのだろうか?
周囲の大人達は相談もなしに一人で黙々と改築作業を行うショボンを煙たがっていたが、
ミルナには優しかった気がする。


( ゚д゚ ) (…改築中に取り外した鉄骨をみて、
片手で持つショボンに憧れて真似たら
滑って膝を強打した事もあったっけ)

その時の傷はまだミルナの膝小僧に痕を残している。

だがやがて年を重ねるごとに、
ショボンと皆の間にはより深く溝ができていった。
ミルナともあまり話すことが無くなった。
ミルナが話し掛ければ答えはするが、人々がそれを見てコソコソ耳打ちする姿が燗に触る。

その都度、ミルナの両親のそのまた親、
つまりは……

( ゚д゚ ) (あの頃はじいさん達が率先して周囲をたしなめていたな)


二人の言葉。
彼は今でも思い出す事ができる。


.

875 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:07:47 ID:FCjsfqmk0


(´<_\` )『ショボンは私らの頃から
共に育ってきた仲間だ。 家族だ。
皆が思うほど悪い奴じゃない…それに ーー』


ζ(゚ー\゚*ζ 『彼は他の人と少し違ってるだけ。
偏屈だけど…根は良い子だから ーー』



(´<_\` )
      『島に必要な人間だから』
ζ(゚ー\゚*ζ


.

876 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:08:39 ID:FCjsfqmk0

そんな祖父母の影響が全くないわけではなかったが、ミルナは自分の意思でショボンを見続けてきたつもりだ。


当時は反感をかった礼拝堂の改築も、
「信仰を無くしたこの島には、もっと相応しい象徴と技術がある」として、
工芸作業場のスペースを一人で造り始めた。

荘厳なレリーフ、豪華な刺繍などは
島で代々育まれた技術であり、大陸に出れば唯一無二になり得る職種でもある。
…そう言って技術者を連れだって
大陸で宣伝、売り捌いてきた事もあった。

そしていま大陸では、三日月島出身の職人が各地で裕福な生活基盤を根付ける程、その技術を求められている。


長くショボンを快く思わない島の住人も未だに居る。
だが産業的な結果を出し、
かつ最古参となるショボンに正面から口を出せる者はいない。
 ーー しかも不老不死だ。

世代が変わるにつれ、ショボンは不気味な存在として誰からも一切話しかけられなくなった。
ショボンも、誰に話し掛ける事はない。


……例外はミルナだけ。

877 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:10:51 ID:FCjsfqmk0

( ゚д゚ ) 「なら舟はこれからか?」


たった一人、
弟者とデレの忘れ形見となったミルナだけが、今もショボンに臆さず話し掛ける。


(´・ω・`) 「もう8割方は準備できてる。
明朝には全て完成する予定だよ」

( ゚д゚ ) 「俺も手伝うよ」

(´・ω・`) 「……」

( ゚д゚ ) 「ダメか?」


( ´・ω・) 「いや、それなら別に頼もうかな」


そう言われて、ミルナは少しだけ驚いた。

申し出たのは自分の方だが…
ショボンから頼み事をされるのは初めてかもしれない。


( ゚д゚ ) 「ああ! 俺が出来ることなら」

(´・ω・`) 「じゃあ明日中に、住人全員が
荷物をまとめてこの島を出れるようにしておいてほしい」

( ゚д゚ )


( ゚д゚ ) 「……は?」

878 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:12:54 ID:FCjsfqmk0

つい今しがたまで喜んでいた内心に氷水を浴びせられるような一言。


(´・ω・`) 「出来る?」

( ゚д゚ ) 「待ってくれ。 突然過ぎて…
どういう事だ? 俺達にこの島を捨てて出ていけというのか?」

(´・ω・`) 「うん。 誤解を恐れず言えば、ね」


返事は簡潔で質素で…明確に冷徹だった。
数秒前とは真逆に。
ショボンの表情からある種の迫力を感じずにはいられない。


( ゚д゚ ) 「…」


だからこそ、ミルナは頷く。

879 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:14:14 ID:FCjsfqmk0

( ゚д゚ ) 「…分かった。 明日中だな」

(´・ω・`) 「ありがとう。 なるべく早くだよ」

( ゚д゚ ) 「しかし伝える理由はどうする?
俺が適当に決めていいのか?」

(´・ω・`) 「何も僕を庇わなくて良い。
でももし駄々を捏ねる人がいるなら……」


その問い掛けに少しだけ考えるように…
ショボンは手元の黒い槍を掲げる。


(´・ω・`) 「ねえミルナ。
君の父、末者さんがこの槍を造ってくれたのは知ってるよね?」

( ゚д゚ ) 「昔、隕石と一緒に降ってきた棒を
親父が不馴れながらも加工したと聞いている。 …それがどうした?」


(´・ω・`) 「それがまた降るかもしれない。
それも前回の比じゃなく」

(´・ω・`) 「これは "ふたごじま" 二度目の神託に値する」


.

880 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:15:06 ID:FCjsfqmk0


( ゚д゚ ) 「だからせめて一日だけ、緊急避難するつもりでこの島を離れてくれれば良いんだ」


その後すぐに人々を集めたミルナは
さっそくショボンの意と言の葉を伝えた。

昔の神官のようなまとめ役も階級も風習も
現在は存在しないため時間がかかった。
この場に来ていない人も当然いる。

本来こんな時こそ組織という団結力は必要とされるのかもしれない。


無精髭を蓄えた男が言う。

「…いきなり何言ってんだ? ミルナ。
困るよそんな急に……」

( ゚д゚ ) 「承知の上だ。 それでも伝えなくてはならなくなった。
今夜から舟も次々用意されるから早い方がいいと」


夫に寄り添った女が言う。

「ショボンがそう言ったからって…
悪いけど信用しにくいわ。
そんなことが起きるなんて、とても思えないもの」

( ゚д゚ ) 「過去に事実、同じ事件が起きているのは皆も知らない訳じゃないだろう?
当時も急に異変が起きたから…犠牲者が出た」


腰の曲がった翁が言う。

「信仰は終わらせたはずじゃが…なぜ
ショボンが神託を知るのだ?
なにか企んでおると考えてしまうのが皆の
総意ともいえるのだぞ」

( ゚д゚ ) 「…ならば逆に今、なぜショボンがそれを口にしたのかを考えてやってくれ。
そもそも何を企もうというんだ?」

881 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:17:47 ID:FCjsfqmk0

無意識のうちに…段々とミルナの口調は強くなる。
彼一人に対して人々は意見を口にするも、
その誰もが "ショボン" という各自のイメージフィルタ越しに見聞きする。

あまつさえ、客観的事実である島の歴史すら直視しようとしない。


      「でもなあ……」ボソッ

…人は過去の教訓すら生かせない。
それが、当事者にならなかった近くて遠い
隣人達の倫理観。


(#゚д゚ ) 「〜っ! 皆どうかしてるぞ?
島が危険だと言われても動かないのか?
自分で自分を見殺しにするのか?!
もし家族に何かあったら…」

(#゚д゚ ) 「自分で責任を取れるのか!!」


その一瞬、人々のざわめきが止まる。


(#゚д゚ ) 「俺の祖父母は弟者とデレだ!
当時ショボンを庇って死んだ流石兄者さんの兄弟と、ミセリさんの姉妹が俺の家族だ!」

(#゚д゚ ) 「ショボンがどうだなんて今は関係ない!
俺は祖父母から教えられた言葉を守りたいだけだ! 俺の意思で!
島全体に関わる問題を、たまたまショボンが提示しただけだろう?」

(# ゚д゚ ) 「アイツが皆に言えないから、皆がアイツを見ないふりするから!
こうして俺が伝えているんじゃないか!!」

882 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:20:49 ID:FCjsfqmk0

怒声、もしくは悲鳴か。
人々はそんな彼を見たことが無い。
若いながらもどっしり構えた青年というのが他者からミルナへの評価だった。

ミルナの心の中では亡き家族の在り方と
その言葉が強く遺されている。


たまたまその先にはショボンが居て……
そのショボンが皆に初めて語ってくれた島の危機。

見様によっては皮肉だ。
だから、人々からは尚も反論の声が上がる。


「だからよぉ! そもそもそのショボンが
注目されたくて適当言ってるんじゃねえか、と俺らは言ってんだぜ?」

「仕事がある…身重の妻もいる…身体の不自由なばあばがいる。
外は天気だっていつもと同じで変わりない」

「私も昔のことは聞いてるわ……けど、
その時は礼拝堂に居れば助かったって。
それじゃあ、ダメなの?」


……もはや言葉を交わすほどに呆れてくる。

彼らは単にショボンの存在ならばなんでも拒否したいのではないか。
彼らは恐らく面倒臭いという気持ちが、もしもの自衛の心を上回っている。

…ダメかもしれないから島を出ようと提示されていると、彼らは考えないのだろうか。

883 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:21:37 ID:FCjsfqmk0

長い人生の一日を惜しんだばかりに
残りの人生をフイにするかもしれないのに
…なにが人をこうさせるのだろう。

島への愛着か? ショボンへの嫌悪か?
ミルナはその場にいる全員の顔を見渡す。


(#゚д゚ ) 「……皆、動く気はないんだな?」


彼らは…
遠い先祖が災害で亡くなっても、
その警告が形として残されたとしても、
同じことを言うのだろうか?


    「「「 ………… 」」」


ーー 誰も応えなかった。
ショボンと自分の声が届かない。

島の歴史すら、
自分達のせいで蔑ろにされている。


それがミルナにはとても悲しかった。
…心のなかで、両親や祖父母、そして、
見たことのない兄者とミセリに謝罪する。

884 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:22:53 ID:FCjsfqmk0

    「 じゃあ島に居て良いよ 」

( ゚д゚ ) 「!」


礼拝堂に響き渡る声はそう大きくない。
それでも全員がその方向へと顔を向けた。


(´・ω・`) 「居れば良いよ。 この礼拝堂に」


正門に寄り掛かりながら腕を組み、
こちらを眺めているショボンの姿があった。


(´・ω・`) 「ただ、僕はもう君達には警告したからね。
明日中に島を出なかった人の命の保証はない」

(´・ω・`) 「…聴こえたよね?
後になって聞いてない、は通じないよ」


その言葉は挑発めいたものだ。
なにより ーー これはショボンの本心でもある。


( ゚д゚ ) 「ショボン……お前…」

885 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:24:10 ID:FCjsfqmk0

(( ( ´・ω・)「分かったろ、ミルナ?」


扉から背を離し、ツカツカと音をたてて
こちらへと歩いてくる。


(´・ω・`) 「僕が彼らと接しない理由。
それは僕が不死だとか、気に食わないとか色々あるのかもしれないけど」

(´・ω・`) 「要は相対的にしか物事を判断しないんだ。
視野が狭い。 現実を見ない。
自分達がどれだけ滑稽かも知ろうとしない」


その歩みはゆっくりとしているのに、
いつの間にかミルナと並ぶ位置にショボンは立っていた。


(´・ω・`) 「……この90年間、ずっと見てきたよ」

ーー 間近で見るその顔は、


(´・ω・`) 「君らは昔の僕と一緒だね。
いつも他人に甘えて…それを他人が許容してくれていた事に早く気付くべきだ」

ーー 燐として、しかし空虚な、


(´・ω・`) 「本当は、自分がどうしたいかが大切なのに人の顔色ばかり窺って。
今だって声の大きな人の後ろで悩んでる」

ーー いつかの後悔の顔。


(´・ω・`) 「…君達の人生は一度きりなのに、重大な決断を他人に委ねていいの?」

886 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:25:32 ID:FCjsfqmk0

静まり返る礼拝堂で、ショボンは一呼吸置き
彼らへの最後の言葉を伝える。


(´・ω・`) 「僕は無駄が嫌いだ…いい?
舟は16隻分、必ず用意しておく。
使わない分は僕が後で処分する」


(´・ω・`) 「自分の舟を持たない人が優先して使ってくれたらいい。
操作できる人は往復して皆を運ぶんだ。
そして少しでも早く島から離れること」


(´・ω・`) 「君らの人生は死ねば終わりだ。
僕と違ってやり直しは効かない。
それに比べれば僕に騙されることくらい、
なんてことないんだよ?」


(´・ω・`) 「それでも島に残る人は以後、
一切の苦情は飲み込むように。
言い換えるなら被害者面はしないでってこと」


(´・ω・`) 「どちらを選ぶのも君らの選択だし、背負う責任でもある。
意地でも僕の言うことを嘘だと決めつけるのは勝手だけど、隣人は巻き込むな」


( ´・ω ) 「…あとは大切な人の顔でも見て決めるんだね」


二度と聞き返されないようにハッキリと言った。
それきり、ショボンはまた礼拝堂の扉を出ていってしまう。

887 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:27:32 ID:FCjsfqmk0


( ゚д゚ ) 「ショボン…」


後に残された人々が困惑の表情を浮かべる
…その気持ち、ミルナには分かる。

とはいえ気の利いた言葉も見付からない。
無言でショボンを追いかけた。


( ゚д゚ ) (なぜだ? ショボン…)


そして考える。
なぜ無駄なことが嫌いならば、
ショボンは人々ともっと友好的に接して来なかったのだろう。
いわばそのための時間が彼には十二分にあったのではないだろうか?


( ゚д゚ ) (何かできない理由があったのか?)


ショボンも完璧な人間ではない。
ただ不老なだけだ。
  …ゆえに疑うならば。
彼は孤独をこじらせた、ただの甘ったれという見方も出来なくもない。

.

888 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:28:52 ID:FCjsfqmk0


    三日月島の夜が更けていく ーー 。



.

890 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:33:16 ID:FCjsfqmk0

----------


夜が明けて……
ミルナがちからなく砂浜へ向かうと、
舟に荷物を運び出す人々の姿がチラホラと見えた。


( ゚д゚ ) 「……これは」


既に何隻かは出発した形跡すら見られる。
昨日の出来事から皆、島に残るばかりかと懸念していたのだが…

率先して誘導する漁師たちが舟を漕ぎだし
仲の良いグループは集まり、荷分けして水平線を目指し陸離れしていく。
時刻はまだ朝焼けが出たばかりだ。


「あなた、ねえ急いで」

「ま、まってくれよ…お前だけ手ぶらじゃねえかよ」

「舟はまだあるらしいから慌てずに」


振り向けば、まだまだこれから荷造りを終えてくる者達。


( ゚д゚ ) (なんだ、皆分かってくれたのか)


ミルナは辺りを見回してあるものを捜す。
どこにいるのだろう?
浜辺から港へ…港から礼拝堂へと駆け足で通り抜ける。

891 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:34:46 ID:FCjsfqmk0

島の住人からは不揃いなパーツで組み立てられた舟に不安がる声も聞こえたが、
問題なく海面にたゆたう事を確認すると、
やがて浜辺を離れていく。

その行動はことのほか速やかで、
皆、仲間たちへ
思い思いに手を振り別れを告げていった。


( ゚д゚ ) 「……?」


だがそこにショボンの姿はない。
そして彼を捜す素振りも、人々からは見えない。

用意された舟をさも当たり前のように利用する住人達を横目に、
ミルナは島をまるまる一周するつもりで更に走った。

.

892 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:36:41 ID:FCjsfqmk0

島の死角 ーー 普段は潮の満ち引き次第で
足場の消える崖の下。
いつもなら踏み入れない領域を覗いた。



     :( ; ´>ω ):

ミルナがやっと見付けたのは、ブルーシートに寄り掛かってガタガタと震える
…ショボンの後ろ姿。

まだこちらには気付いていないのか、
振り向く様子もない。


( ゚д゚ ) 「…捜したぞ」


ショボンはゆっくりと立ち上がるも、
ミルナは見逃さなかった…
一瞬その背中が跳ねたことを。


( ´・ω) 「……君か」

( ゚д゚ ) 「皆早くからぞくぞくと避難しているようだ。
昨日のあれも結局はお前の作戦か?」

(´・ω・`) 「…ん、そうだね。
ねえ、避難はもう終わるかな?」

( ゚д゚ ) 「ああ。
あれなら昼頃までには全員済むんじゃないか。
お前の用意した舟も皆使って ーー」


(´・ω・`) 「それじゃあ駄目だ…予想が外れた」

( ゚д゚ ) 「なんだ? 指示通りだと思うが…
なんなら自分で見てきた方が ーー」


(´・ω・`) 「そっちじゃない。
予想より遥かに早いんだ…空をみなよ」


その言葉に、ミルナの背筋に言い様のない悪寒が走る。

893 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:38:32 ID:FCjsfqmk0

顔を上げると、濃い朝雲がこれでもかと空を覆い囲っている。
…今日は一雨来るのかもしれない。

そんな空模様のはずだった。


(´・ω・`) 「この時期に雨なんて降らないんだよ。
過去90年間で一度もね」


その言葉を聞いているまさに今。
雲が目の前で流動し、その速度を上げ始めた。

それも一方的に流れているのではない…
まるで大きな渦を作り出し、散り散りになりつつも一つの大きな生物のように集合していく。


(; ゚д゚ ) 「な、なんだ…おかしいぞ、空が」

(´・ω・`) 「さあ君も早く避難するんだ、ミルナ」


ショボンの足元には突き立てた黒い槍。
それを握ると、ショボンの震えはもう止まっていた。


(´・ω・`) 「さもないとなにが起こるかわからない」

894 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:40:23 ID:FCjsfqmk0

(; ゚д゚ ) 「しかしショボン…」

(´・ω・`) 「行くんだ」

(; ゚д゚ ) 「ならせめて一緒に ーー」

(´・ω・`) 「行くんだ」


命令を繰り返す。 親が子を諭すように。

そしてその返事を待たず…
ブルーシートの中から数本の鉄剣と鉄槍を
抱き上げてショボンは駆け上がる。


(´・ω・`) 「稼がなきゃ…時間を」

崖の上へと、
  「ショボン!」
     叫ぶミルナを置き去りにして。



空は今も渦巻いている……。
出てくるのは     鬼か。
             蛇か、


          蟻
            。

895 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:41:35 ID:FCjsfqmk0

「なんじゃあ、ありゃあ?」


舟に乗り込む一家の老父が最初に声をあげた。
ポカンと開けたその口に灰が落ちる。
まだ陸地にいる周囲の人々も何事かと見上げた。


「空が……黒い…?」


暗いのではない。
黒いのだ。
そして蠢いている… 二つ目の太陽の中で。

中心部から黒点が現れたかと思うと、
徐々にそれは大きくなって、まもなく太陽を遮るほどになる。


人々は釘付けになった。
太陽どころか、ますます大きくなる黒点は
モヤモヤと歪に形を変えながら、


「なにか降ってくるぞ?!」


出発して間もない舟々を海の上から押し潰し、悲鳴を飲み込みながら、


"それ" はついに出現する。

896 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:42:45 ID:FCjsfqmk0

(´・ω・`) 「ビコーズ!」


二本足で崖を登り礼拝堂の屋根まで登っていたショボンが、手の中から小さな珠を宙に放る。

…そして、一向に落下しない。
ゆらゆらと重力に逆らうように浮かんでいるそれは、過去にご神体と崇められた真球体。


      (( (  ) ))


   ( ー) キュィィ


( ∵) ザザッ


130年前、天かける儀式を経て魔導力を
世界にもたらしたとされる神の使い。


(´・ω・`) 「お前にも責任を取ってもらおう。
僕と一緒にね」

( ∵) ーー ザーザッ ーー


   (`・ω・´) キリッ 「さあ、行くよ」

.

897 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:43:30 ID:FCjsfqmk0
------------


〜now roading〜


( ∵)

HP / ??
strength / ??
vitality / ??
agility / ??
MP / ??
magic power / ??
magic speed / ??
magic registence / ??


------------

898 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:48:53 ID:FCjsfqmk0


"それ" は礼拝堂と同じ程の全長を誇った。
空から着水した衝撃だけで水飛沫がショボンの身体を濡らす。


(`・ω・´) 「…でかすぎる。 でもやらなきゃ。
ビコーズ、あれの情報を神託してくれ」


眉を吊り上げたショボンの声に圧されたわけではないだろうが、ビコーズは傍らで雑音混じりに神託を告げる。


( ∵) ザッ ーー 銷魂 流虫

( ∵) ーー アサウルス。 祈りの象徴 ーー

( ∵) ザザッ ーー お前たち人間が "光" と
   見誤っていた "闇" の偶ザ像 ーー


(`・ω・´) 「…だから信仰が問題視されていたのか。
弱点はあるのか?」

( ∵) ーー ザザザ…胸部の太陽 ーー


( ・ω・´ ) 「胸部……」

899 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:50:22 ID:FCjsfqmk0

四つ足の…まるで蟻か蜘蛛のような造形。
腹這いの姿は超巨躯であるがゆえか、人から見上げれば腹部が丸出しになっている。

ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《ゴゴゴゴ…》

島を出ようと舟に群がっていた人々を品定めするその顔、手足、背…
全身が硬質的な外殻に覆われているにも関わらず。
膨らみのあるその胸部には、
太陽を内包したような橙の灯りが神経筋や血管を浮き上がらせながら膨縮を繰り返す。

ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《…ゴググ…ゴグルル》

((@))((@)) ドック…ドック



(`・ω・´) 「なるほど、あれか」

  ーー そして、ショボンは一息ついた。


(;´・ω・`) 「…疲れた、"こっち" は休憩。
ビコーズ、僕から離れるなよ」

 〜 ( ∵)  ふよふよ


ショボンは高く跳び上がり鉄の槍を手始めに一本。

900 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:52:02 ID:FCjsfqmk0

「ーー うわああっっ」
「きゃあぁあ!!」


人を喰らおうと間抜けに開けた口許めがけて投擲すると、その剥き出しの牙に突き当てた。

ガィインッ、と金属同士がぶつかり合う音。

ィ'ト―-イ、
以`θ皿θ以 《ガアア…》


アサウルスの動きが止まる。
鉄の槍は刺さりはしなかったどころか反動で砕け散り、しかしその衝撃を伝えることには成功したようだ。

(´・ω・`) 「お前の相手はそっちじゃないよ」

ショボンは礼拝堂前に着地すると、屈んだ体勢を利用し走りつつ二本目を投擲。

距離200m以上先のアサウルス目掛けて
先の攻撃を超えるスピードを誇ったが

ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《…ゴゴゴ》


ィ'ト―-イ、
以`θ□θ以     パカッ

901 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:55:20 ID:FCjsfqmk0

::《ゴ ア ア ア ア ッ ッ ッ ! ! !》::

ビリビリ
:(>ω・` ;): 「うわっ」

ーー 辺りを咆哮が支配する。
視界は爆炎、
肌に感じる大気の熱が急上昇したかと思えば
アサウルスとショボンの間に核熱が過ぎ去った。

(´・ω・`;) 「…」

額から極冷の汗が流れ落ちる。
それと同時に疑問がわいたショボンは動きを止めることを良しとせずに再び大きく跳躍。

ィ'ト―-イ、
以`θ□θ以  パカッ

間髪入れず放たれる咆哮。
真下から炎が巻き上がり、爆風圧でショボンは更なる空へ投げ出された。


            彡

  彡
    "(;; ´つω<;)" 「 ーー っ!」
          彡
      彡
.

902 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:57:01 ID:FCjsfqmk0


( ゚д゚ ) 「ショボン!」


港まで戻ってきたミルナも、
爆炎に抵抗出来ず吹き飛ぶショボンの姿を捉えていた。

( ゚д゚ ;) 「…あんな怪物が…ショボンが言っていた島の危機だっていうのか?」

海を見れば視界一面にアサウルスが映るほど。
スケールが違い過ぎるのだ……ミルナは混乱の渦中にいる。


「どうするの、ねえあなた、どうするのよ」
「しらねえ……聞くなよわかんねえよ」
「うわあえあぁぁぁん!!」
「逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ!」
「どこに!」
「うるせえ!!」

( ゚д゚ ) 「……」

砂浜で右往左往する住人達。
海に出ようにもアサウルスが立ち塞がる。
舟が通るスペースは十二分に有り余るも、
誰も獅子の股ぐらを潜ろうとは考えない。


( ゚д゚ ) 「…皆、このままここにいても危険だ、早く舟に乗れ!」

「はあっ?! お前あれが見えないのか?
無理言うなよ! バカが!」
「島の反対側に行きましょ! 少しでも離れないと!」

903 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 21:58:30 ID:FCjsfqmk0

壮年の夫婦が舟から離れるように後ずさる。
動ける者からそれに倣い始めた。
……まとめた荷物も、そして老人も置きざりにして。


(#゚д゚ ) 「おい待っ ーー」

「まあまあ、あんたらちと待ち!」


遮る若い女の声。
ミルナの思いと異口同音のその言葉は
人々の動きを制止した。


(#゚ -゚) 「落ち着きや。 こうして喋ってる暇があるんやからまだ平気っちゅーこっちゃ」

(#゚ -゚) 「荷物も家族も見捨てるなや、けったくそ悪い。
…よく考えてみぃ? 象が蟻を気にしてわざわざ踏むか?」


ミルナも見たことのある女だった。
たしか緊急時には礼拝堂内にある分娩室に待機する助産婦の一人だったろうか…?
うろ覚えではあるが。


「あんなもん象とか蟻とか関係あるかよ!
だったらお前一人で行け!」

(#゚ -゚) 「そうさせてもらうわ。
そしたら舟はあんたらの元から一隻、
確実に減るけどな」

    「「 ?! 」」

904 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:00:36 ID:FCjsfqmk0

「あたしたちを見捨てるっていうの?!」
「自分だけ逃げる気か!」

(#゚ -゚) 「はあっ? たったいま動けない家族を見捨てようとしたのはあんたらや。
一緒にするなんて失礼やろ」


( ゚д゚ ) 「皆、落ち着け。
舟であの怪物を通り過ごしたとして…
また外から戻ってくるのは現実的じゃないという事だろう?」

「…ぁ……」


人は顔を見合わせた。
女は鼻で笑い、頷く。


(#゚ -゚) 「フン、そーいうこっちゃ…
ここにいる誰が好き好んで往復できる?
一度往くなら決死も覚悟できる。

だのに何度もウロウロしとったら象かて運よく蟻を踏むこともあるわ」

(#゚ -゚) 「それに…… 定員オーバーは?
全部合わせても残り7隻、誰が運転できる?」


「手ぇ挙げてみぃ?」
その声に、ちらほらと頭上に挙がる手のひら…
およそ7人。 舟の数と同じ。 そして ーー


(#゚ -゚)σ 「あんたらの家族にせいぜい数人ずつ足すとして…全員が乗りきれるか?」

(; ゚д゚ ) 「……そうか、その問題もある」

905 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:03:47 ID:FCjsfqmk0

元より漁船であれば大人数が乗っても
重量の点ではなんとかなる。
大波さえ来なければ転覆する心配もない。

…問題はショボンの用意した手作りの舟。

かつて兄者と弟者の三人で造船していた
潜水艦パーツを分解し、それを分けるように造り上げたそれはせいぜいが1隻ごと7人乗りにしかならない。


「の、乗れるんでしょ? ショボンはそうやって人数分造ったんじゃ…」

(#゚ -゚) 「なんやその根拠……
なら試そうや。 論より証拠でな」

( ゚д゚ ) 「……」


きっと乗りきれない… かもしれない。
彼女はさっさと島を脱出したい一心で人々をうまく誘導している気もするが…

今日このタイミングであの怪物が襲ってくるのは、ショボンにとっても予想外だと口走っていたのをミルナは聞いてしまった。


ーー 後ろで礼拝堂の屋根が爆発炎上。
いまもショボンがアサウルスを引き付けている。


Ъ(#゚ -゚) 「はよしいや。 ああやって爆発したいんか?
…子供とジジババから乗りぃ」


.

906 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:04:57 ID:FCjsfqmk0


フヨフヨ
( ∵) 〜
     (´・ω・`;;) 「…なにをまごついてるんだ、あっちは」


焼け落ちた屋根の残骸と共に外気に晒け出された礼拝堂で毒づく。
ショボンがアサウルスに仕掛けているのは
時間稼ぎのためだったが、その身に受けたダメージは正真正銘。
爆炎の咆哮は規模が大きすぎてうまく避けられない。

    (∵ ) 〜
(´・ω・`;;) 「このままじゃ先にこっちが参るね」

そう言うショボンの口調からまだ焦りは見られない。
既にいくつかの情報をアサウルス自身から
引き出せている事が、彼を立ち上がらせる理由だった。

907 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:06:44 ID:FCjsfqmk0

身体に残った屋根の残骸を手で払い除けつつ辺りを見回す。
礼拝堂の二階部分…ちょうど彼自身の私室に落ちたらしい。

砕かれたコンクリートまみれになったベッド脇。
その引き出し棚を乱暴に引っ張り開けて中身を握り込む。

なんでも良かった。 手探りに漁る。
手の中の万年筆や鉛筆、消ゴム、あらゆる事務用品を法衣の袖の下にしまいこんでいく。

(´・ω・`) 「あっ」

引き出しの奥で堅いなにかが指先に引っ掛かった。

(´・ω・`) 「……」


灰黒色の木札 ーー それが三枚。

それも法衣の内ポケットにしまい、
ショボンは再び高く跳び上がった。



            〜 ( ∵)

908 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:07:40 ID:FCjsfqmk0

(#゚ -゚) 「なんや全員乗れたやんか」


アサウルスが鎮座する目の前の浜辺で
島の住人達は各々舟に乗り込み終わるところだった。


( ゚д゚ ) 「…お前は乗らないのか?」


……その中に、女とミルナの姿はない。
二人は礼拝堂への長階段に腰掛けていた。


(#゚ -゚) 「皆で荷物を減らしてやっとやからな。
あたしまで乗らん方がええやろ」

( ゚д゚ ) 「そう変わらんと思うがな」


通常よりも深く沈む舟は重くゆっくりと…
怯えるように陸を離れて旅立っていく。

アサウルスがどこを見ているのか定かではないが、今も空では爆炎が轟いている。
きっとショボンが何かしているのだ。


::《ゴ ア ア ア ア ッ ッ ッ ! ! !》::


咆哮と共にビリビリと震える空気に
鳥肌をたてるのは何度目だろう。

昨日まで何事もなく過ごしていた日常は
もう跡形もない。
そこかしこで現実離れした炎が破裂するうちに、どこかの神経が切れてしまったのだろうか。

909 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:08:39 ID:FCjsfqmk0

徐々に小さくなる舟の上で人々は屈み、
頭を上げる様子はない。
それは少しでも恐怖から逃れたい表れであり、彼らに出来る唯一の抵抗だった。


( ゚д゚ ) 「…無事でいてくれよ」


その言葉は誰に向けたか。
女には島を出た人々に向けたものと感じられたが、ミルナにとってはこの女にも、ショボンにも等しく伝えたい言葉。

取り残された二人……
先にミルナが立ち上がり、礼拝堂へと向き直る。


(#゚ -゚) 「どこにいく?」

( ゚д゚ ) 「俺がここに残ったのはショボンを助けるつもりでもあった。
アイツが確保していた武器を借りて俺も戦う」

(#゚ -゚) 「本気で言ってるんか?」


顔を上げる。
爆風に飛ばされながらも鉄の槍を投擲して
怪物 ーー アサウルス ーー に攻撃を仕掛けるショボンの姿が見えた。


(#;゚ -゚) 「あんなこと出来るわけがないやろ」

( ゚д゚ ) 「当然だ。
別に同じことをするわけじゃない…
けど、アイツだって一人であんなバケモノに勝てるわけないじゃないか」

910 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:09:32 ID:FCjsfqmk0

(#゚ -゚) 「アタシも親から聞いてるで。
ショボンは不死なんやろ? だったら ーー」


ーー 任せておけば良い。
そう言いたいのだろう女の言葉は、
瞬時にミルナの思考を巻き戻す。


( ゚д゚ ) 「違う。 不死でも人間だ。
たとえ死ななくても、俺達と同じ人間だ」

( ゚д゚ ) 「お前は見てないからそう言えるんだ。
皆だってそうだ、アイツを見てこなかったから……」


.

911 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:10:47 ID:FCjsfqmk0
------------------------------------------------------------


『ショボンがそう言ったからって…
信用し難いわ ーー』

     『またなんかやってるよ…』


   『ーー 今じゃ単なる変人さ』


『ショボンはそうやって人数分造ったんじゃ…』




『……不老不死って楽でいいわね。
飲み食いしなくたって生きていけるんでしょ?』


------------------------------------------------------------

912 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:11:35 ID:FCjsfqmk0
------------------------------------------------------------


     :( ; ´>ω ):


------------------------------------------------------------

913 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:13:19 ID:FCjsfqmk0

不死……
決して羨ましいとミルナは思えなかった。


単に不死身ならば何も恐れることはない。
怪我を厭わなくていい。
暴君として振る舞えば反逆も許さなくていい。

他人に媚を売る必要もなければ、
誰かを救う必要もまた無いはずだ。


( ゚д゚ ) 「ショボンが一度でも暴力を振るったか?
一度でも島の人らを支配しようとしたか?

細工技術の場を用意したのはアイツだ。
島と大陸の繋がりを作ったのもアイツだ」

( ゚д゚ ) 「ああして舟を造ったのも、島の危機を伝えたのも、皆に避難を勧めたのも、今も怪物と戦ってるのも、全部アイツだ」


(#゚ -゚) 「……」

( ゚д゚ ) 「そんなショボンが…
子供みたいに独り怯えていたんだ。
あの怪物が現れる前」


不死は不老であり、その身体は生き続ける。
だが心はそのままでいられるのだろうか?

人の心は本来、ひどく脆い。

914 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:15:08 ID:FCjsfqmk0

(#゚ -゚) 「…怯える? アイツが?」


彼女がそれを想像することは難しい。
これまでに知るショボンのイメージとは
だいぶかけ離れていたから。

たまに見かけるショボンの姿はむっつりとしていて、人に興味を示さない…
遠巻きに見ても物事に動じない男性だと、
なんとなく思っていた。


( ゚д゚ ) 「だからせめて側に居てやりたい」

(#゚ -゚) 「…なんやそれ、
あんたはショボンの何なん? 恋人か?」

( ゚д゚ ) 「友達だ」

(#゚ -゚) 「なら大人しく逃げるべきやったな。
友達を亡くしたくないやろショボンかて」


:( ゚д゚ ): 「…見解のちが ーー」
      :《ゴ オ ウ ン ッ ! !》:

:(#;゚ -゚): 「?!」

915 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:16:37 ID:FCjsfqmk0

二人の会話を咆哮が遮る。
これまでより更に間近で起きた爆炎が
二人の頭の上に瓦礫の雨を降らせた。

ーー そしてアサウルスと孤独に戦う男も。


(;´-ω・`;;) 「っいてて…」

( ゚д゚ ) 「ショボン!」

(;´・ω・`;;) 「なんだ、皆と逃げなかったの」


心配して駆け寄るミルナの顔も見ることなく、ショボンは高く跳び上がった。


( ゚д゚ ) 「おいショボン、まて!」


…彼はそうして跳び上がる。
何度も、何度も。

全ては島の住人が乗り込んだ舟、
そしてミルナ達を巻き込まないために。


.

916 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:17:46 ID:FCjsfqmk0

(´・ω・`;;) (何度も試したが…間違いない。
アサウルスの咆哮は接触着弾型。
…そして僕が気を引いてるうちは、舟もあのまま通り抜けられるはず)


互いの間に障害物があればそこを基点として爆発が起こる ーー
今もまたショボンが腕を振るうと同時に、
咆哮と爆炎が襲い来るアサウルスの攻撃。

爆風で後ろに吹き飛ばされても肌が焼ける程度で済んだ。
何度も熱でめくれ上がった皮膚…ショボンの腕は中の肉が見えそうだ。
筋肉が動くたびに軋み、痛む。

とはいえ常人なら一歩間違えば即死。
運良く生き延びても、こう分析出来るほど冷静ではいられないだろう。

            (∵ ) 〜
  (´・ω・`;;#) 「ふんっ!」

ショボンは残る鉄の武器を使わず、
先ほど手に入れた事務用品を投擲し始める。


そのたびに視界を埋め尽くす
     咆哮、爆発、核熱、雲煙 ーー

917 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:18:53 ID:FCjsfqmk0

三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三
三三三三            彡
三三   彡      (( :(∵ ): ビリビリ
三     :(つω<`;;): 
三三     ビリビリ  彡
三三三三三
三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三



今度も直撃はしていない。
ショボンがチャフの様に投げ付けた備品を
アサウルスがその有り余る魔導力で破壊した。
熱源に近くなるほどショボンの身が焦げていく。


ビコーズは風に揺れることはあっても
熱や煙に干渉を受けないのか、無傷で漂い寄り添う。

何かを語っているようにも見える…
だが、その声を今のショボンが聴く事はできない。


(;´-ω-`;; ) 「ふぅ… ふぅ…」

(;´・ω・`;; ) 「……はーあ、子供っぽい」

918 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:21:42 ID:FCjsfqmk0

その言葉は自分自身の滑稽な姿か、
……それともアサウルスへと向けられているのだろうか。


(´・ω・`;;) (アサウルス…あいつには
僕が何を投げつけているかなんて見えてないんだ。
最初の一撃が何度も来ているものだと奴は思い、反応してるだけじゃないか)


(´・ω・`;;) (…見た目の通り、まるで虫だ)


次の段階へと進む心の準備はできた。
煤にまみれた礼拝堂の瓦礫を踏み砕き、
残骸をまた法衣の袖にしまう。


背中には黒い槍…
腰にぶら下げた数本の鉄剣…
これが今のショボンの武器となる。
…浜辺から、今度は跳び上がらず純粋にアサウルスに向かって海の上を疾走。

ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《……ゴァ、ゴァ》


海を走り立ち昇る水飛沫が線となり、
 その軌跡をウェーブ上に描いていく。


.

919 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:22:30 ID:FCjsfqmk0


( ゚д゚ ) 「なあ、でぃ。
この武器は使わないと思うか?」


その頃、ミルナはショボンを見付けた時の
ブルーシートを漁っていた。
塩水に浸からないよう、シートの中には
浮き袋と共に防水袋に包まれた大小様々な
パーツがしまい込んである。

中には古今東西の得物を模したような武器の数々。
剣ひとつ見ても同じ型のものはなく、
ーー この時のミルナには理解できない ーー
刀、手甲鉤、峨嵋刺などの東方武具も揃っている。


(#゚ -゚) 「えらい量を溜め込んでたな。
こんな所に置いといて後でも糞もないやろ」

( ゚д゚ ) 「そうだな、持っていこう」


女は "でぃ" といった。
ミルナは彼女の職業以外を知らなかったが、でぃはミルナをよく知っていたらしい。
曰く、
   『ショボンに懐くウドの大木』
……でぃの周りではそんな声が挙がっていたのだとか。

体格に恵まれ、力もあり、仕事も黙々とこなす……しかし、ただそれだけのつまらない男。

920 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:24:08 ID:FCjsfqmk0

アサウルスの視界に入らない為か、
少しだけ緩やかな時間が流れる気がした。
連続する爆発音も心なし遠く聴こえるように。


( ゚д゚ ) 「…お前、そんなもの扱えるのか?」

(#゚ -゚) 「適当や適当。
そもそもどれだって一緒やろ?
そんなら遠くに届きそうなこれにするわ」


でぃが手にしたのは柄の丈も刀身も尺の長い長刀。
ツヴァイヘンダーのようにはいかずとも、
似たような扱い方が出来る。

( ゚д゚ ) 「なら俺は……」

そう言ってミルナが取り上げたのは……
極めてオーソドックスな型をした長剣。
ショボンが投擲用に持ち忘れたといっても良いほどに何の変哲もない。


(#゚ -゚) 「…あんた、ほんまつまらんな〜」


ミルナは堅実な男だった。
無理をせず、自身がこなせる身の丈をよく知っている。

だからこそ島の女性から
"異性としてつまらない" 男と呼ばれていたのだろう。
堅実は時に雄の持ち味を殺す。


(#゚ -゚)つ‖ 「あんたはこれを持ちぃ。
なぁに、なかなか似合うと思うで?」


こんな非常時に、でぃはニヤリと笑った。

.

921 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:27:02 ID:FCjsfqmk0

いざアサウルスに近付いてみると、遠巻きでは分からなかった事がある。
接近戦を挑み始めたショボンだったが ーー

(; ・ω・`;;) 「くそっ! うざったいなあ!」

思わず毒づいてしまう程に苦戦を強いられる。
腕と言わず身体全体を振り回して蟻を振り払おうとする。


最初はただの灰だった…
アサウルスから散り散りと分泌されるそれは、やがて無数の蟻となって身体にまとわりつき ーー

「がっ…」 ( ゚ω゚`;;) ーー 喰われる。


焦げた頬を。
爛れたその腕を。
焼けた法衣の奥にある胸を、背中を。

腐肉をついばむ死鳥のような遠慮のなさは
ショボンの考えていた戦略ごと毟っていく。


だがショボンにとって恐ろしいのは
"喰われる痛み" ではなく、
"喰われる痛みが無い" ことだった。

剥き出した肉が風に触れる痛み…
剥き出した骨が海に濡れる痛み…
激痛はそのせいだ。

"蟻の咀嚼そのものは痛くない" 。


だから気付くのが遅れた。

922 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:28:32 ID:FCjsfqmk0


ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《ガアア…》

ィ'ト―-イ、
以`θ□θ以 パカッ


アサウルスの動きも緩慢そのものだ。
咆哮が来るタイミングも判別しやすい。


            (∵ ) ))
      (;・ω・`;;) 「ーー ッ!」


…にも関わらず、もはや身体は言う事を利いてくれなかった。





       ・ω・`;;) 「しまっ ーー 」

何かが光った気がする。



       ω ) 「



彼の耳が一切の音を遮断した。


          「



     爆炎の咆哮は ーー 聴こえない。



.

923 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:36:41 ID:FCjsfqmk0

----------


(#;゚ -゚) 「どういうこっちゃ、これは」

(; ゚д゚ ) 「俺に聞くな」


思い思いの武器をその手に持ち
ショボンを追いかけたその時、異変は既に起きていた。

二人は肩を上下に揺らすほど、荒い呼吸を抑えられずにいる。


「グウ″ウ″ウ″ル」
「ミルナぁ……」 「でぃい……」

(; ゚д゚ ) 「…皆、やめろ!」


二人の目の前。
口から牙を覗かせ、黄色に輝く瞳…

姿型は島を出るときと同じでも、決定的に異なってしまっている人々の群れがあった。


今も続々と船から人々が降りてくる。
大人も、子供も、…赤ん坊までが自力で。

大陸から戻るにしては早すぎると思っていた…
そこには揃いも揃って振り子のように、
まったく同様に頭を揺らしこちらへと近付く島の仲間達の成れの果て。


(#;゚ -゚) 「近寄るなや!」


それが不気味に佇みながら迫ってきた時、
ミルナもでぃも…反射的に武器を振るってしまった。

二人の足下に血塗れで倒れる男女の姿。
…ミルナが昨日まで言い争っていた若い夫婦の末路。

924 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:37:30 ID:FCjsfqmk0

(#;゚ -゚) 「ミルナ! おかしいでこれは」

でぃは長刀を両手に握り直す。
手が汗で滑る…
しかし、それは果たして汗だけのせいだろうか。


(; ゚д゚ ) 「なにが……どうなっているんだ」

見倣うようにミルナも武器を構えた。
長身のミルナを遥かに越えた尺の騎兵槍。

それを…黒蟻と化したかつての同郷者へ。


ショボンが用意していた中でも群を抜いて
目立つそれは、
皮肉にもいまやミルナが持つべきものといわんばかりに馴染んでいる。


「やめろ…だと?」

( ゚д゚ ) 「ーー !」

くぐもった声…辛うじて聞き取れた言葉は
醜くしゃがれていた。

925 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:40:34 ID:FCjsfqmk0

「やめてくレえェえ〜ッ?」

這いつくばり、にじり寄る老人が信じられないような動きで飛び掛かってきた。
ーー まるで虫のように。

(; ゚д゚ ) 「うわああっ?!」

振り回した騎兵槍で老人を横殴りにする。
グニャリと柔らかな感触が伝わると同時に
老人が吹き飛ぶと、それきり動かなくなった。

老人の瞳にあった黄色の輝きは濁った黒色へと。


(; ゚д゚ ) 「ハア……ハア……」

振り抜いた体勢のまま、ミルナの動きは止まってしまう。


    俺は何をしているのか…?
    なぜ島の人間にこんなことを…?


(; ゚д゚ ) 「……」

思考力が失われていくのをぼんやり自覚する。
今の老人もそうだった…、
やはり昨日、自分と言い合った翁その人。

(; ゚д゚ ) 「それを……俺は…?」

(#;゚ -゚) 「ぼさっとするな! 脚!」

(; ゚д゚ ) 「?!」

926 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:42:44 ID:FCjsfqmk0

いつのまにかミルナの脚はガリガリと齧られている。
それも…赤ん坊に。


「やめろぉ?」
            「やメろ?」
   「 ヤ め ロ ォ ? 」


一体どこから声を出しているのか?
だが確かに赤ん坊から放たれる、
呪詛のように繰り返される言葉は先のミルナの言葉だった。

(; ゚д゚ ) 「なっ?!」

痛みがないせいで気付くのが遅かった。
パニックになり脚をいくら振り回しても、
赤ん坊を振りほどくことができない。

((; ゚д゚ )) 「くそぅ、離れろ! やめろ!」

地団駄を踏んでも、手で押し退けても、
赤ん坊の牙はミルナの皮膚を喰い破っていく。


(#;゚ -゚) 「なにしとるんや?! あんたが死ぬで!」

(; ゚д゚ ) 「だ、だが…!」

 三 (#;゚ -゚) 「〜〜っ クソボケがぁ!」


でぃの振り下ろした長刀は上から下に真っ直ぐ砂浜に吸い込まれる。

「ぴギョあぁッ」

……赤ん坊の首と胴が別れ、ゴロリと転がった。

927 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:44:44 ID:FCjsfqmk0

(#; -゚) 「……ぅ」


その傷口から   
      ド
       ロ
        リ と…。
赤黒い血液が砂に吸い込まれていった。


(#; -゚) 「……ぅぅ」


赤ん坊の小さな身体に見合わない量の出血。

でぃが助産院で勤めた理由は
新しい命を掬い上げる喜びを知りたかったからだった。


(#; - ) 「…ぐゥっ……」


今…それを自ら断ち切ってしまった。
動いていたのは蟻なのに、
死んで肉と化した赤ん坊は人間になった。


(#; л゚) 「    うぷっ…」


無我夢中のさなか、
脳内麻薬にもマヒさせる事のできない良識が。


(#; ц ) 「ーー うォエッ」


…でぃの口から胃液と共に喪われる。

928 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:48:05 ID:FCjsfqmk0

(; ゚д゚ ) 「でぃ! しっかりしろ!」

ミルナの心中は罪悪にまみれる。
異状な事態…異状な現状に呑まれた自分と違い、でぃの気丈さに甘えていたのかもしれない。


(# ц )


でぃは跪き、そのまま頭を垂らして動かなくなった。

そのつもりが無くても、女であるでぃに
赤ん坊を斬らせてしまった事を悔いる。
自分の手を汚さず、彼女に被せてしまったのだ……。

:(; >д< ): 「すまん… すまない……!」

心から贖罪する。
今すぐにでも心臓を掻き毟りたくなる程の衝動にかられる。
なんの解決にもなりはしないのに。


しかし彼を取り巻く状況はそれすら許されない。
これを機と見たのか、他の人々も襲い掛かってくる。

四本足で、間接を曲げ、蟻のように…。



      「ミИ,ナぁー〜」

929 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:49:53 ID:FCjsfqmk0

(; ゚д゚ ) 「うわあああー!!」
ミルナは騎兵槍を振り回した。


     「あ あ あ あ っ !」 ( д ;#)
          ただ闇雲に振った。



   何も考えられなくなるくらい
  心に恐怖が "感染" していく事に、
    彼が気付くことはない。


                 .

930 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:51:05 ID:FCjsfqmk0
(推奨BGM)





ーー その時。

931 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:54:57 ID:FCjsfqmk0

コツン、と。
ミルナの頭に固いものが当たる。

襲われたものだと思い、腰を抜かしながら
慌てて頭上を見上げた先……



           (( (∵) )) フワフワ


それはショボンと共に行動していたはずの
ビコーズ。


(; ゚д゚ ) 「……あ」

もちろんそれをミルナは知る由もないが、
あまりに危機感なく滑るような動きに目を奪われた。


ビコーズの声はミルナにも聴こえない。

だがその動きはまるで、

      (∵ ) ーー もう大丈夫 ーー
           「大丈夫?」

……そう言っている気がした。


( ゚д゚ )


ーー そしてハッとする。
自分自身はまだ、何も失っていない事に。

932 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:55:56 ID:FCjsfqmk0

この身体はまだ無事なのだ。
ショボンに守られ、でぃに護られていた。

ーー だから聴こえた気がしたのではない、
現実に声が聴こえたのだ。


気付けば周囲の蟻の動きも止まっていた。
皆、一方向に顔を向けている。

( ゚д゚ ) 「……ぁ…」

少しだけ冷静さを取り戻したミルナも
同じく顔を向けてそちらを見やった。


ブラウンの巻き髪、うすい唇。
ミルナとは真逆にその場にいる全員にわざと聞かせるかのような透き通る声。



ξ゚听)ξ「困っているなら力になるわ」


      ( ゚д゚ ;) 「…あんた…は…?」


.

933 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:56:46 ID:FCjsfqmk0


(´・ω・`) パチッ


ショボンが目を覚ました。

慌てて身体を起こすとそこは海…ではあるものの、海面ではなく舟の上。


(・ω・`;) 「いてて…… ーー ?」


爛れた皮膚に触れる潮風が痛覚を現実に引き戻す。


記憶を手繰る。
ーー 爆炎が直撃するあの瞬間、
何かに護られるような感覚に陥ったことを朧気に思い出した。

935 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:57:39 ID:FCjsfqmk0

(´・ω・`;) 「……そうか、僕は…」


途中まではショボンが長年蓄えてきた知識と予定調和の範疇で戦いは進んでいた。

しかし、予想を超える計算ミスが続けて
起きたせいで危うくアサウルスに殺されるところだったのだと…
素直に自覚する。


「大丈夫かお?」


そしていま自分の向かいに立つ者。
彼のお陰でショボンは行動不能にならずに済んだ。

低いとも高いともとれないような…
しかし喉元から力強く発される青年の声。


(´・ω・`) 「ありがとう、助かったよ」


心から礼を述べる。
目の前の彼のような存在が現れることは
シャキンのオラクルによって既に伝わっていた……
とはいえ、不安要素の一つだったのは間違いない。

936 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 22:58:45 ID:FCjsfqmk0

ショボンの本当の役目。
…それは己のできうる限り、
アサウルスの戦闘情報を集めておくこと。


(´・ω・`) 「こんな状況だけど…
歓迎するよ、僕以外の不死者さん」


(^ω^;)「…どうやらとんでもないことになってるみたいだおね…」



         かつて、ビコーズの
  一度目の神託を目の当たりにした者。


------------------------------------------------------------

( ∵) 『不死 ーー ザザザ ーー は
 ーーザザーー を操り、
  これを迎撃できる可能性を
  秘める』

------------------------------------------------------------


          ビコーズの神託に
    当てはまる、もう一人の不死者。

937 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 23:00:20 ID:FCjsfqmk0
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


(´・ω・`) 「急ぎ現時点までに集まった情報を伝える。
頼む、一緒に戦えるならこれほど
ありがたいことはない」

( ^ω^)「もちろんだお!」


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


     「なんでこんな所に…」( ゚д゚ ;)

   ξ゚听)ξ「呼ばれたのよ、アレにね」


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


      〜 ( ∵)  フヨフヨ


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


ィ'ト―-イ、
以`θ益θ以 《ガガガ…》
((@))((@)) ドクンドクン


∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

938 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 23:01:10 ID:FCjsfqmk0

      ((@))((@))

             ドクン…
                 .

939 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 23:02:17 ID:FCjsfqmk0


    ( ( @ ) ) < 人 人 > ( ( @ ) )

            ドクン…

                 .

940 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 23:03:11 ID:FCjsfqmk0


  ( ( ◎ ) )   ⊆从 -∀从⊇   ( ( ◎ ) )


          ド ク ン ・・・






(続)

941 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 23:04:54 ID:FCjsfqmk0
------------


〜now roading〜


( ^ω^)

HP / A
strength / B
vitality / A
agility / A
MP / H
magic power / E
magic speed / C
magic registence / F



ξ゚听)ξ

HP / G
strength / A
vitality / C
agility / D
MP / B
magic power / C
magic speed / C
magic registence / H


------------

942 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/09/05(金) 23:05:53 ID:FCjsfqmk0
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

          ディスクを入れ換えてください。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


←( ゚∀゚) :此処路にある / 戻る / (´・ω・`)ω・´): 傷痕留蟲アサウルス→




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