- 297 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 15:56:56 ID:LOmy0xS.0
- ( ^ω^)千年の夢のようです
- 死して屍拾うもの -
- 298 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 15:58:38 ID:LOmy0xS.0
目が覚めると、そこは暗闇だった…。
そんな神の話をどこかで聞いた気がする。
平穏が崩壊した瓦礫の下で、
常識が覆された死体の山の下で、
焼き尽くされた土煙の屑に吹かれて、
破壊し尽くされた戦場の空気に囁かれて、
(;;'A;`)「ーー ぶはっ」
血にまみれた身体を一人奮い立たせた。
手には吸い付くように銃斧が添えられ、握っていないにも関わらず血でぴったりとへばりついており離れない。
(うA;`)「…あー…やられてたのか」
ゴシゴシと顔を拭いながら軽い調子で呟いた。
('A`)「ふひひ、ベトベトして気持ちわりぃ」
ベッ!と、口内から血の固まりを吐き捨てて、準備体操のようにぐるぐると首を回す。
- 299 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:03:31 ID:LOmy0xS.0
周囲を見渡してみればそこは戦場だった ーー かつては、だが。
落城用突撃兵器 "マッシュルーム" の残骸が目立つ上に、へし折れた剣、砕けた杖、ひしゃげた鎧が散乱する。
生存者はひとりとして居ない。
日が暮れて、夕闇にそよぐ風の音と、蒸せ返る死臭だけが、蘇った "ポイズン" と共に戦地に置き去られている。
('A`)y-~「…臭いがまだ強いってことは、今回それほど時間も経ってないな、こりゃ」
押し潰されてグシャグシャになったタバコに無理やり火を灯した。
魂の新陳代謝のような赤黒い煙がモクモクと唇から洩れる。
目覚めてまずやることといえば、自分が倒れてからどれほど経過しているのか、その判断材料を探すこと。
それが数少ない習慣になったのはいつからか。
- 300 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:05:09 ID:LOmy0xS.0
ーー 不死者。
ポイズンは何十年も、何百年も昔から、世界をこうしてさ迷っている。
例え殺されても蘇り、歳老いて死ぬこともない。
永遠の命をもつ者。
しかし、その代償として
('A`)「なんで死んだ? 相変わらず思い出せねえ… うへ」
彼は死ぬ前からの、ある程度の記憶を失う。
今回も、戦争に参加すべく傭兵として潜り込んだまでは確かに記憶にある。
…だが、どうやってここまで来たのか。 なぜ死んでしまったのかは記憶がない。
身体中に血痕があることから、自殺ではないことは間違いないだろう。
無意識に胸に手を当てると、一際ぬかるんだ感触と、心臓にむず痒さを覚える。
('A`)「…なーんかここに刺されたかな。
そのあとも全身に食らわされて、ってところか?」
('A`)「ふひひ、犯人が生きてるなら見つけて殺すぅ〜っと♪」
散歩に出掛ける気軽さでポイズンは歩き始めた。
あてなど無い。 どこから来たのか覚えていない以上、方角すら頭に入っていないのだから。
- 301 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:06:52 ID:LOmy0xS.0
荒れ地をしばらく歩いた先。
大陸を縦断する大きな河を越える前に、身に付けていた鎧を脱ぎ捨て、
シャツにこびりつく血をすすぎながら、
素肌に付着した、今はどす黒くなってしまった血液の瘡蓋を洗い落とす。
首もとには識別リングプレートが残っていた。
誰も彼の死体に手をつけなかった証拠だが、そんなことは気にならなかった。
シャツは血の色が広がり汚ならしい薄茶に変色してしまったがやはりどうでもいい。
要は衣類としての役目を果たしてくれれば良いのだ。
まだ濡れたままのそれを着ながら乾かすように、しばらくその場に留まる。
('A`)「………」
('A`)「… 〜〜♪」
無意識に鼻唄を唄う。 これも癖だ。
だが…どこで覚えたのだろう?
もう忘れてしまった。
手持ち無沙汰に河の流れを眺めていたその時、不意に聴こえる音。
どこかで誰かがこの河の水にバシャリと足を浸けた音。
…目に見える範囲には誰も居ない。 ならば、上流か下流のどちらか…
その方角が分かるまで耳を澄まし、やがてポイズンは音のする方へと歩き始める。
- 302 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:08:15 ID:LOmy0xS.0
----------
(推奨BGM)
そんな夕闇の下。
広げた両腕ほどもある樹が生い茂る林を駆けていく。
動きと体力には自信があったはずが、いざその場面となると呼吸は思い通りにリズムを刻んではくれない。
ノハ;゚听) 「ハアッ…ハアッ…」
赤い髪の女が、息を切らして疾走する後ろから迫る気配に追われてどれくらい時間が経ったのか。
走り始めた頃の見事な前傾姿勢はもはや鳴りを潜め、顎も上がりはじめてしまっている。
踏みしめる木枝と草は "さわさわ" "ばきばき" と遠慮なく音をたてて止まない。
女は時々後ろを首だけ振り向いて視界を移すが、一見何者も見当たらない。
だが確実にこちらを追い掛け、迫ってきている事を彼女は知っている。
- 303 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:10:09 ID:LOmy0xS.0
ノハ;゚听) 「…ハアッ、くそう、あと何人だ!」
焦燥する。
片手が塞がっていることも本来のように走れない原因であることは間違いない。
だが、それを放棄することはできない。
そのために見えない相手達に追われているのだから。
やがて視界がひらけて草原に出る。
ここからは相手も姿を隠すことはできず、また女も相手を撹乱しながら走ることは出来なくなった。
ノハ;゚听) 「はー…はー…
やるしかない、出てこい卑怯ものめ!」
「里の秘薬を持ち出した輩が我等をそう呼ぶか」
女は予想より早い返答にぎょっとした。
考えていたよりも近い距離でこちらを追い掛けていたらしい。
「その顔。 本来の走りでないとはいえ、まさか…とでも思っているか?」
黒装束は女の右手側にすでに立っていた。
そして、挟み込むように左側にももう一人の気配。
…挟まれた。
- 304 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:11:08 ID:LOmy0xS.0
「その秘薬はお前が思っているような代物ではない」
「いまならまだ間に合うぞ、こちらに渡すのだ」
二人の黒装束は交互に話し掛けてくるが、どちらかに振り向けば隙有りとみてもうどちらかが襲い掛かってくるだろう。
正面を向き、鍛えあげた己の視野に頼る。
ノハ;゚听) 「見逃せとは言わない!
けど、どうしても必要なんだ!」
「その秘薬が必要な時など有りはしない」
「貴様の住む村ごと死ぬ気か? ヒートよ」
ノハ;゚听) 「この、わからずやめええええ」
ヒートは持っていた麻袋を、腰縄に取り付けた手甲鉤にひっかけ、腰を落として構える。
半身で片腕を前に差し出すことによる、防御優先の体勢。
「仕方あるまい…アレに傷はつけるな」
「当然。 ヒートのみ戦闘不能にするぞ」
('A`)「ほー、そんなに貴重なのかアイツが持ってるのは」
ノハ;゚听) 「!?」
- 305 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:12:24 ID:LOmy0xS.0
唐突な乱入者の相づちに体勢を乱される…だが、それは黒装束にとっても同じことだった。
「なっ! 何奴だ」
「曲もっ ーー ガッッ!」
機に乗じて弾丸のように翔び込んできたヒートの低空からの横蹴りが黒装束の脇腹に深く突き刺さり、
そのまま着地と共にもう一方の黒装束にも天を衝くような回し蹴りでこめかみを突き上げる…一瞬の出来事。
ポイズンから見えたその動きは鮮やかで気持ちよかった。
我慢しきれず瘡蓋から血がはち切れたような…
ヒートの赤い髪が一陣の風のようにその場でなびき、黒装束らが左右に散る様が、
焼け焦げて炭と化した古いからだを脱ぎ捨て、真新しい心臓がドクリと脈打つがの如しコントラストを映やす。
そして彼女はまた一瞬屈むと、足の裏で大地を思い切り蹴り出し、
三三 ノパ听)
「チャンスだあああ」
…結果に目をくれず、そのまま草原を駆け抜けて行った。
☆- (人'A`)「…おお〜、やるじゃんあの赤髪」
逃走も兼ねて流れるような一連の動作だった。
パチパチとのんきな様子で手を叩き、もはや届かない称賛を贈る。
ポイズンにとって、これは素直な気持ちだ。
だが、黒装束にとっては邪魔をされたこの事態…面白いはずがない。
「貴様」
- 306 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:13:17 ID:LOmy0xS.0
黒装束の一人は脳震盪を起こして立ち上がれない。
脇腹を抑えながらゆらりと立ち上がるもう一人が乱入者を威嚇する。
首もとからクナイを素早く握り、
「馬鹿が、事情も知らずにっ!」
言い終えた時にはすでに手は降りおろされ、空 ーー
ポイズンの眼前にクナイが迫った。
('A`)「いや、油断してるお前らが悪いだろ今のは」
ふひ、と笑顔でそれを躱す。
黒装束の動きを真正面から見つめていたのだから、首に手をやった時点で殺意を察して身の軸をずらすのは容易かった。
黒装束の身体は次の瞬間、眼前に。
飛びかかり、今度は逆の手に握られたクナイが迫る。
速い、 ーーが、ポイズンの動きはそれより速い。
バスンッ!、 と銃声が周囲の大気を震わせた時には黒装束の身体は背後へと吹き飛んだ。
- 307 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:14:59 ID:LOmy0xS.0
いつ味わっても最高の感触だと思っている。
発砲時の重力や反動。
肩まで響きわたる衝撃の痺れ。
なにより相手へのダメージを如実に表すかのような潔い発砲音が特にたまらない。
剣、棍、槍、弓、いずれも満たされなかった快感が、この銃斧からは得ることができる。
すべてを敵にまわす人生において唯一無二のパートナー。
('A`)「あーあー、腰のくびれがすげえことになったぞ。激ヤセだな、ふひひ」
更に、音を聞き付けて意識を取り戻し始めた黒装束にもポイズンのパートナーが意気揚々と、間髪入れず咆哮。
立ち上がろうとしていた勇気が災いし、頭の先から胸元まで喰らい尽くされるはめになったが、きっと痛みを感じる前に逝けたことだろう。
下半身だけとなった死体からもうもうと、火薬と死の臭いを空に巻き上げた。
('A`)ノシ「あの世に俺は行けないからな〜
…待たずにさっさと成仏したほうが楽だぞー」
彼なりの念仏を唱えたつもりでその場を後にする。
さて、これからヒートと呼ばれた赤髪の女を追い掛けてみるのはどうだ?
少し愉しそうだろ。ふひひ。
どうせ目的なんてあってないようなもんだからな。
ーー そう心のなかで呟くポイズンの顔は、子どもが秘密基地を見つけた時のような希望を秘めた笑顔にもみえた。
(推奨BGNおわり)
- 308 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:16:35 ID:LOmy0xS.0
追い掛ける先にヒートの影を見出だすのは難しくなかった。
大陸内でも有数の山脈に向かう道のりで、ポッキリと欠けた刀や黒装束の身に付けている布の切れ端、
時には負傷した黒装束の男そのものを発見できた。
当然彼らは木陰や背の高い草に隠れて息を潜めているが、ポイズンの耳にはその呼吸が聞き取れるため、どこにいるかがよくわかる。
彼は耳が良い。
戦場のような乱戦時には発揮できない、隠密殺しの特性が本来の持ち味だ。
やや、怪我をしていますね、大丈夫ですか?ーー と、
敵意を示さない程度に声をかけながら肩を叩く気軽さで、
驚く間もなく黒装束を撃ち殺しつつ、彼は山脈内を歩み進む。
- 309 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:17:40 ID:LOmy0xS.0
山に踏み込んだはじめこそ、小綺麗な草木を生やして侵入者を歓迎したくせに、やがて傾斜が高くなり始めるとろくな足場がなくなり空気も薄くなる…。
これは "いい加減に出ていってくれ" という自然界のボディランゲージか。
ゴツゴツとした岩肌やうっすらと申し訳程度に存在する雑草だけが広がる、殺風景な姿に変化してきた。
だが戦闘の足跡はまだ終わらない。
血斑点が岩肌の灰色に同化しようと試みているものの拒絶され、その赤さをより強調している。
それはまだ空気に触れて間もない証。
それがヒートのものか、黒装束のものか…
想像して歩きながら、これが普通の人間ならそこそこの退屈しのぎにちょうど良いのかもしれないな。
と、ふと考えたりする。
寿命をもつ人間と不死の人間にとって、"一瞬" は同じ一瞬なのだろうか?
こうして思考したり、大地を歩いている時の感覚はきっと大きな隔たりがあるのだろう。
('A`)「なんてな。 …ふひっ!」
- 310 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:19:14 ID:LOmy0xS.0
ポイズンの視界に山頂を捉えた頃、すでに気温も下がり始め、辺りは小雨が降り始めていた。
こうなると音で追うことは空気の反響と手伝って難しくなる。
だがそうなる前に見つけることができたのは幸いだ。
赤い髪の女が立ち往生していたのは、山々を繋ぐ長い木橋の前。
いつもなら人が二人並んで歩けるほどの幅と少々のことでは揺れない足場、
流れる川の頭上を渡ることで目的地への行き来が楽になるであろうはずの信頼されていた橋は姿を消していた。
橋渡しの縄をくくりつけるための木杭だけが左右にその形跡を残す。
雨のせいで向こう側を見渡すこともできない。
ヒートの隣で顔から地に伏せている黒装束は見えるのだが。
ノパ听) 「…くそう…もう少し、もう少しなのに…」
そこではっとして振り向くと、目尻を垂らして薄汚れたポイズンがぼんやり立っているのだ。
('A`)ノ「よっ」
目的地が同じ? そんなはずはない。
ではなぜ私を追いかけてきたのか?
…そう考えて、ヒートは構える。
ノパ听) 「お前、さては悪いやつだな」
('A`)「えっ…」
言うが早いか、飛び掛かってくる。
雨のなかとは思えないほどのスピードで、ポイズンの足元目掛けて赤い影が迫る。
- 311 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:20:49 ID:LOmy0xS.0
戦うつもりがなかったせいで、反射的に動いてしまい重心を後ろにした挙げ句、銃斧を降り下ろす。
当たるはずもない斧刃はむなしく地に突き刺さった。
(;'A`) (!? なにやってんだ)
我に帰る。
こんな攻撃は素人がびびってやるようなことだ。
つまり完全に "降り下ろさせられた" 。
彼のやる気が無かったにしても、容易く誘導されたことにも驚く。
ぬかるんだ足場をものともせずに眼前で体をずらしたヒートから、突き出しの掌がポイズンの脇腹にめり込んだ。
( 'A`);." 「ぐぼっ」
大きく吹き飛ぶが、ぬかるみのせいで下手に踏ん張らずに済んだ。
ダメージを逃がしながら二転三転し、慌てて顔をあげる。
- 312 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:23:42 ID:LOmy0xS.0
ヒートの追撃は… …こない。
半身で掌を前に構えながら、肩を上下させて息を荒くし、ポイズンの動きを見ているだけだった。
……表情は疲労。
その証拠に掌を喰らわされた脇腹は痛むが、その内部的なダメージは思ったより少ない。
軽くもないが。
('A`)「げふ、おまえすげぇせっかち?
ただ興味本意でついてきただけだっつーの …お〜いてえ」
念のため言葉で牽制しながらよろりと立ち上がる。
その様子は相変わらず身に力の入っていないぼんやりとしたものだが、彼の心のなかではスイッチが切り替わり、構えができている。
もしまだ向かってくるなら、面倒くさいので腕や脚を撃ってしまおう…
そう考えた。
ノパ听) 「……」
('A`)「黒装束のやつらなんなんだ?
お前が逃げたあと俺も襲ってきたんだぞ」
全員撃ち殺したけどね、ふひひ、とは言わない。
ノパ听) 「おまえはどっちの国だ?」
不明瞭な問い掛け。
ーー 話の順序を知らないのかこの女は?
せっかちなのは間違いなさそうだ。
- 313 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:24:34 ID:LOmy0xS.0
('A`)「よくわからんが…もし出身や所属を聞いてるならどっちでもねえよ」
いま大陸内で起きている大規模な戦争…その対立国を知りたいものと仮定して素直に答える。
ポイズンに故郷はない。 そして贔屓にする領地や国も有りはしない。
彼は一人だ。
今までも、これからも。
ノパ听) 「…嘘はついてないみたいだな。
死臭がこびりついてるのは?」
('A`)「おぅふ、俺臭ってる?」
洗い流しきれてなかったかとニオイをクンクンと嗅ぎ確かめる。
ノパ听) 「違うよ、それはおまえに、おまえのニオイとして身に付いてるんだ。
私には分かる」
('A`)「…あ〜、そっか」
ノパ听) 「でもとりあえず敵じゃないことはわかったぞ!
殴ってすまなかった」
うんうんと一人納得したヒートは、改めて橋のあった崖を見やり、何かを確かめるように視線をなぞらせた。
- 314 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:26:05 ID:LOmy0xS.0
ノパ听) 「私は急いでるんだ。
黒装束はまだまだ追ってくるかもしれないから離れるぞおお」
そういって彼女は返事を待たずに来た道を走り出す。
…本当に会話すら満足にできないのか、とウンザリしたが、ポイズンの視界から消える前には振り向き、手招きしているのが見えた。
どうやら一緒に来ても良いという意味らしい。
ポイズンがヒートに向けて歩くように足を動かすと、それを見届けて視界から消える。
('A`)「…童話のいたずら好きの妖精みたいな振舞いだな」
旅人を道案内する時、いく先々で少しだけ姿を見せては消えて、方角だけを教えるかのように。
会話がまともに成り立たないところも、その想像に拍車をかける。
そんな出逢いをポイズンは、
('A`)「しちめんどくせぇ」
と言って無下にしてみせる。
そして彼女とは違う方角へと歩き出した。
- 315 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:27:32 ID:LOmy0xS.0
他人のペースで物事を決めるのは大嫌いだが、理由はそれ一つではない。
ヒートに合わせる義務もなければ、それ以上にわざわざ同行する必要がなかっただけだ。
彼女が崖越しに目をやった方角くらいなら覚えていたし、適当に歩けばその痕跡も見ることができた。
('A`)「…案の定だったな〜」
先ほど別れた当初こそ平和な道のりを歩いてこられたが、徐々に黒装束の倒れる姿が確認できるようになる。
雨はまだ続いてる。
だが血のニオイは流されても、切り刻まれたこの仲間の屍を追えば黒装束達がヒートに辿り着くのは難しくないだろう。
今なお黒装束を戦闘不能に追い込む体力には感心するが、どうも後始末や煙にまくような小細工は苦手なようだ。
当然、ポイズンが屍を隠蔽してまわる義理もないので素通りする。
自分が殺したわけでもないのだから念仏も唱えない。
もはや外観の一部となった死体を死体とすら認識することなく歩みを進める。
気付けば鼻唄を振り撒きながら、
山脈を下って谷を渡る頃には小雨になり、さっきよりも標高の低い山に足を踏み入れた頃…空は雨曇を退かして星々を招き入れている。
つかの間の草原に雨露が身を休めて。
…彼は気付くのが遅かった。
招かれたのは星だけではなかったことに。
- 316 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:29:04 ID:LOmy0xS.0
- ------------
〜now roading〜
ノパ听)
HP / D
strength / C
vitality / B
agility / A
MP / D
magic power / D
magic speed / C
magic registence / A
------------
- 318 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:36:25 ID:LOmy0xS.0
違和感に目を背けていたつもりはなかった。
ヒートは黒装束を素手で倒していた。
ポイズンに襲い掛かった時もそうだ。
ーー つまり、岩肌についた血痕や、切り刻まれた死体は彼女によるものではない。
彼がそう思った頃にはすでに目の前で、天災と並び称される巨獣と合間見えていた。
(;'A`)「おーやべえ、ひひ、これやべえ」
それは本来、そこにいるはずのない生物。
地上では四本足で動き、その体格は人間の3倍以上。
触れれば突き刺さりそうなスピアを隙間なく生やした体毛、そのところどころは赤く血塗られている。
…蒼い百獣、グリガン。
最大の特徴は自身の体躯を二倍は超える大きな翼を操ることで、
大空を舞って山頂から山頂を渡り翔ぶ姿は神々しくもあり、一部の地域では神と崇められることもある。
性格は狂暴だがテリトリーを破ることはなく、他の獣や人間も原則近寄ることはない。
その習性から、山頂部以外で遭遇する話など聞いたことがなかった。
- 319 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:37:42 ID:LOmy0xS.0
だからこそ、なぜこんな高度の低い場所にいるのか…。
ポイズンも、さすがに今まで生きてきてこの巨獣と無事に戦ったものがいるという話も聞いたことがない。
(;'A`)「あ〜…邪魔だな。
手ぇだせば殺せるかな? 殺されるかな?」
グリガンは幸い後ろを向いていた。
ポイズンは不死であり、従って死に恐怖は抱かないが、単なる戦闘狂ではないと自負する。
なにより今は ーー 彼の望みとは少し違う戦いになる。
戦わなくて済むならば…と、一歩後退した時、グリガンの向こう側から叫び声が聞こえる。
ノパ听) 「でえぇぇぇやああぁぁぁ!!」
跳躍して宙に逃れたグリガンの居た場所に、掌を突きだして代わりに立っている赤い髪の女、ヒート。
グリガンは滞空しながらミサイル雨のように羽根を撒き散らすが、ヒートもすぐに飛び退き距離をとる。
小さな草原に音をたてて突き刺さる何束ものスピア群。
- 320 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:39:31 ID:LOmy0xS.0
('A`)「おまえ馬鹿なんだなあ」
ノパ听) 「あ、どこいってたんだ!
捜し…うおおっ!」
天災に見舞われてるとは思えない軽口を互いに交わしつつ、ヒートはさらに降り注ぐ羽根を、さらにさらに距離をとって避け続ける。
('A`;))「こっちくるなって」
…ヒートが距離をとるその都度、ポイズンの場所まで近付いてくるのは偶然だろうか。
ノパ听) 「えっなに? 聞こえない!」
「キュェワーーーツツ!!」
後退るもむなしく、とぼけた調子で走り寄ってきたヒートのせいで結局二人立ち並ぶ位置についてしまう。
グリガンは大きく鳴いて地上に降り立ち、後ろ足で地を蹴り遊ぶような様子。
大地が都度、掻きむしられる。
おそらくこの時点で、ポイズンもグリガンの獲物としてインプットされてしまっただろう。
- 321 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:41:01 ID:LOmy0xS.0
('A`)「おまえアレがなんだか知ってるのか?」
ノパ听) 「知るもんか!」
「キュイィーーー!」
グリガンが牙を剥いて襲い掛かる。
無知な愚か者め! とでも一喝するように
巨躯が数倍に膨れ上がるよう錯覚させられる。
たまらず左右に別れて地を転がる二人の耳に届くのは、背後にあった樹が抵抗なく噛み砕かれる軟らかで聞き慣れない破砕音。
あれが人間の身体であればもっと弾力ある音が聞こえる事だろう…ただし本人には一生聞き取れないが。
崩れた体勢を整えるのはヒートが早いが、先に攻撃に移ったのはポイズンだ。
身体を起こしきる前に銃斧の引き金をひく。
バァン!と火を噴く音はすれど、聞き慣れた着弾音が聴こえない ーー 寒気。
その時点でもう二、三度、自分の意思で転げまわった……
引き金をひいた時に身を置いていた大地は、グリガンの翼の先端がギロチンのように降り下ろされ土をえぐり草が舞っている。
(;'A`)「ひゅー」
本能からすでに宙に逃れていたグリガンの横顔はニタリと微笑を浮かべているようにも見えた。
その人間臭さにはポイズンも少しだけ驚き、…そしてなおさらムカついた。
- 322 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:42:37 ID:LOmy0xS.0
ヒートもいざ反撃に移る直前、
翔び上がり翼を降り下ろしてきたグリガンの攻撃を察知して背後に回り込むように接近し直していた。
腰に縛り付けてある手甲鉤を片腕分だけ装着し、跳躍する先はグリガンの背中。
すべての動きに無駄がなくしなやかだ。
…だが、その一連の素早い動きをしても無造作にグリガンが振り回す尻尾に阻まれ振り落とされる。
ヒートがくるくると回転しながら元の位置に着地すると同時に、グリガンは滞空しつつ振り向きざまに翼をはためかせたかと思うと、
まるで空気の壁を蹴ったように突進してくる。 再び膨張する巨躯。
草原が根こそぎ刈り取られるほどの突風が足元を揺らした。
だが、ヒートは揺れない。
躊躇う素振りもなく、グリガンに正面から地に伏せそうなほど低い体勢を維持したまま手甲鉤だけを大きく振りかぶる。
そして激しく、
ーー 衝突 ーー
聴き取れないほどの高音が耳をつんざいたかと思えば、
グリガンは衰えない勢いのまま上昇し、今度は安易にこちらの手が届かないところまで飛んでいく。
ヒートは超低空のまま見えない鉄棒で逆上がりをさせられるように何度も回転しながらも、やがて両足で着地。
禿げた地を上塗るように、ビチビチと音をたてて鮮血が遅れ零れた。
- 323 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:43:35 ID:LOmy0xS.0
常人のまばたきほどの接触。
手甲鉤を振り抜くことが出来ず、弾かれた腕を悔しげに抑えるヒート。
…そして悠々と大空を舞いながらも、横面を淡く血で濡らす忌々しげなグリガン。
('A`)「…直撃してその程度か?」
そして銃口の余韻。
ーー グリガンの血は衝突に合わせて発砲したポイズンによるダメージだ。
人間に容易く大穴を開ける銃斧の一撃も、百獣にとってはせいぜい鈍器で殴られた程度の衝撃に成り下がる。
- 324 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:44:56 ID:LOmy0xS.0
グリガンほどのスケールとなると、その羽ばたきや突進が生み出す衝撃波だけでも並みの人間に抵抗できるものではない。
だがヒートは怯むことなく真っ向から立ち向かった。
瞳には燃えるような焔の色が宿り、敵を見据えて。
おそらくグリガンも、そのヒートに釣られて "正面衝突させられた" のではないか。
半ば避けられることを考慮しつつも、あわよくば放った銃斧の一撃はたしかに蒼い百獣の肉体に傷を付けた。
…しかし、ダメージを通した喜びとは裏腹に、この銃斧では百獣を貫けないという事実。
ノハ;゚听) 「くそーー、硬いぞー!」
('A`)「……」
ノパ听) 「なあ! なにか良い手はないか!?」
('A`)ノシ 「いやあ〜無いな、ナイナイ」
ノパ听) 「え、ええ〜…」
ーー 良い手、なんてものは、な。
- 325 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:46:08 ID:LOmy0xS.0
ノパ听) 「あれっ?」
その時、空を泳ぐグリガンの躯がぐらついたように見えた…一瞬だが確実に、翼を硬直させて高度を落とした。
('A`)「……おやあ?」
違和感を覚えたのはポイズンも同様だった。
グリガンと鉢合わせた時点で、"自分の身体からは見えない毒が散布されている"。
意識的にはもちろん、興奮すると無意識にもフェロモンのように体外へ、半径20〜50m範囲への毒…【ポイズン】を無差別にばら蒔いてしまうのだ。
敵や味方といった区別なく…
もし彼に家族が居たならば、ふとした弾みで披毒し、その生命を奪うだろう。
それ以前に、恋に焦がれたり性行為に及ぶ段階で興奮から【ポイズン】が発動するかもしれない。
だから家族は作らない。
彼は人と信頼関係を作れない。
グリガンにはどうやら【ポイズン】が発症した。 百獣の戸惑いがこちらからも見てとれる。
…だが…ヒートは?
- 326 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:47:28 ID:LOmy0xS.0
ノパ听) 「あいつ、苦しんでる?
銃が効いてるのか?」
こいつ、気付いていない?
毒が効いてないのか?
ノパ听) 「チャンスだあああぁぁ!!」
ヒートは翔び上がり上昇して、手甲鉤を振りかぶる。
距離が足りない…躯の大きさから遠近感が狂い易いが、グリガンはヒートの想像以上に空高く舞って安全地帯を確保しているのだ。
ノパ听) 「"竜" !」
そこへ、ヒートが構わず虚空を殴り付ける。
安全地帯ではなかった ーー ジャラララン!と、チェーンの擦れる音と共に手甲鉤がヒートの腕から更に飛び出した。
次の瞬間、標的目掛けて空を駆ける鉤爪は、まるで昇り竜の如き波打つ軌道を描いてグリガンの翼を強かにその躯ごと撃ちつけた。
「グィギィィッ!?」
短い悲鳴とともに、グリガンがさらに高度をあげてその場から距離を置こうと飛び上がる。
ノハ;゚听) 「嘘だろー? その辺の獣なら簡単に真っ二つにできるのに…」
- 327 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:48:22 ID:LOmy0xS.0
渾身の鉤爪も刺さらず、銃斧でも撃ち抜けない。
やはり致命傷を与えるだけの攻撃力がなければ、グリガンを倒すことは至難だ。
('A`)「おーい、そろそろ俺は逃げさせてもらうぞ」
だからこれが潮時と判断してポイズンは撤退を宣言する。
グリガンが意表を突かれて戸惑っている今なら逃げられる。
ノパ听) 「どうしてだ!
まだまだ戦えるぞ!」
('A`)「ふひひ、ならお前だけで一生やってろよ…
何時間かかるか知らんけどな。
奴のテリトリー外にさえ出れば追ってこないんだから俺は楽な方を選ぶぜ」
そう言って今度はポイズンが返事を待たず先に駆け出し、山脈奥に逃げ出した。
ノパ听) 「あっこらまて! 卑怯ものめ!」
- 328 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:49:27 ID:LOmy0xS.0
('A`)「卑怯でいいんだよ、誰も皆そうさ」
ポイズンは毒づきながら的を絞らせないように体を振り走る。
空からの気配は感じられないが、チラリと背後を見るとヒートもついてきていた。
('A`)「ほらみろ、てめーも卑怯ものの仲間入りだ」
元々、秘薬とやらをどこかに届けるべく急いでいたのだから、悠長に戦っている暇など無いことに気付いたか…
それとも単に釣られて走っているだけか。
木々の合間を抜けてしばらく走ったが、グリガンが追ってくる様子は無い。
…やはりテリトリー意識のほうが強い。
あの場所もたまたま奴の休憩所のようなスポットで、そこに俺たちは踏み込んだのかもしれないな…
道中の黒装束達も知らずに踏み込み、グリガンの玩具ないしエサとなっていた。
ポイズンはそう思い、一旦、足を止めた。
('A`)「おい」
すぐ後ろを走るヒートも横に並び止まる。
辺りを見回しながら相づちをうつのは、グリガンというより黒装束を警戒しての事だ。
ノパ听) 「なんだ?」
('A`)「なんだ?じゃなくてなあ…
お前どこに向かってたんだ?
俺は単にあの場から逃げただけで目的地なんてないんだぜ」
ノパ听) 「……あ、そうか!」
ポンと手を打ち、
こっちだ!
と、今度はヒート主導で走り出した。
- 329 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:50:29 ID:LOmy0xS.0
グリガンさえ追って来なければあとは人間同士の範疇でやり合えばいいのだから楽なものだ。
ノパ听) 「そういえば名前まだ聞いてなかったな!
私はヒート、おまえは?」
('A`)「…ぁあ?」
確かに彼女の名は黒装束との会話から聴いたが、互いに名乗ることはしていなかった。
走りながら思い出そうとする。
…名前、なんだったろうか。
"ポイズン" というのは、あくまで戦場における通り名のようなもので名前ではない。
考えてみれば、いつもなんと名乗っていたのだろう?
はたと思いだし、首もとの識別リングプレートを無造作に外して裏面を見る。
血と砂で汚れているため、文字が欠けていた。
('A`)「 ーー《ドク》 だ」
…ここでも "毒" の冠。
本名だとすれば我ながら面白くないジョークだと思い、
('A`)「ふひ」
笑った。
ノパ听) 「ドクかー、なんだかへんてこな名前だな」
ドクの心中には気付かないであろうヒートが、指差し進路を誘導しながら話を続ける。
- 330 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:51:37 ID:LOmy0xS.0
ノパ听) 「私のいた里でも、なんとか男…とか、ほにゃ郎…とか、ただのどすけ平…とか」
('A`)「それ人の名前か?」
ノパ听) 「そうだぞー、不思議な呼び方だろ?
ドクも見た目は全然違うけど、ルーツは近いのかもな。
ドクオ…とかなら変じゃないぞ」
ヒートがいう里とは、東方の島国と同じ文化を持つ。
あの黒装束達や、ヒートが使う手甲鉤も、大陸内においては一般的に流通しているものではない。
たとえ流通してもまともに扱うには特殊な訓練が必要になる。
身体能力にしても彼女は非凡だ。
ましてあの百獣グリガンと短い時間でも張り合うほどにはどれだけ鍛練しなければならないか。
…そして、無数の黒装束とも。
('A`)「お前、まさか抜け忍ってやつか?」
ノパ听) 「抜けてない!
この秘薬を借りたかっただけで、用が済めばまた里に戻るさ!」
当然のように言うが、カマかけにはひっかかった。 やはり彼女は忍者らしい。
ならば果たしてそれはどうか…
ドクやグリガンが殺してしまった黒装束らは傷跡から弁明はできても、彼女が秘薬を持って追手に対立した事実は変わらない。
それともそれが許されるほど緩い組織なのか。
- 332 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:52:53 ID:LOmy0xS.0
ーー そんなはずはない。
この黒装束達が、ドクの記憶の彼方に知る忍者の里の者であればそんな甘さは有り得ない。
山中の崖道にこしらえた小さな縄木橋の前で、嬉しそうにヒートは小さく笑いだした。
見るものが見れば、それは赤い髪の少女の顔に戻っていたと気付いたかもしれない。
ノハ*゚听)σ 「そろそろ目的地だぞー、私の生まれた村だ。
物心つく頃には忍の里に出るしきたりだから、今あそこにいるのは戦えない男と子供を産む女達だけしかいないけどな」
('A`)「ほほ〜」
「…やっと、帰ってこられたんだ」
弾む声を抑えきれず、ヒートは深呼吸する。
ひさびさにゆっくりと吸い込む山の空気は美味しかった。
- 333 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:54:27 ID:LOmy0xS.0
ドクが知る由もない彼女のこの帰郷は、幾度とない追手の襲撃と一ヶ月余りの眠れぬ日々の連続だった。
発端は修行中に届いた手紙…。
『ばあ様が病に伏せた。
もう長くないだろう。』
ヒートはその一文だけで帰郷を決めた。
齢にして150にもなる、病気ひとつしたことのない、村名物のばあ様はヒートの育ての親でもあった。
飄々として掴みどころなく、しかし本質を見抜いて子供達の長所を伸ばしてやるのが得意なばあ様。
ヒートが忍者という厳しい環境にもめげず、常に堂々と生きてこられたのは、ばあ様のおかげだと誇る。
そのばあ様が、ついに倒れた…。
そしてヒートは己が出来うる最大の恩返しを考える。
【すべてを救うといわれる秘薬】…。
忍の里に大切に保管されていたその秘薬の持ち出しを彼女は強く願ったが、許可されたのはその身一つで里を降ることだけだったのだ。
だから…彼女は秘薬を勝手に持ち出した。
- 334 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:55:38 ID:LOmy0xS.0
ノハ*゚听) 「これでばあ様も救われるはずだ!
まだまだばあ様には元気で生きてもらわないとな!」
('A`)「ああそう」 ーー バスン!
ヒートの影に気配ごと隠れた木陰から、黒装束が口元の筒から何かを発射する前に、ドクの銃斧が明確な殺意を宿した弾丸を発射する。
ノハ;゚听) 「!?」
唐突な銃斧の登場にも驚いたが振り向き、それ以上に黒装束の接近に気が付けなかったのは村を前にした喜びからか。
完全に油断していたヒートを置き去りに、銃斧を構えたままドクは一歩前に出た。
('A`)「用ならさっさと済ませてくれば?」
ふひひ、と笑う。
一見して女を守る勇ましい男の姿。
だがヒートを助ける…そういう美意識は彼に一欠片もない。
彼の瞳に映るのは、今から血にまみれる都合の良い黒装束達の未来だけ。
- 335 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:57:33 ID:LOmy0xS.0
ノハ;゚听) 「す、すまないな、行ってくるぞ!」
村へ駆け出すヒートを見送りながらも、ドクの頭にちらつくのはあの秘薬の効果。
彼女があれをどう使おうというのか?
愉しいことになるんじゃねえか?
それともまさか本来の使い道通りに?
('A`)「ふひ、ふひひひ!」
思い出したわけではない。
彼の千年の記憶は歪みっぱなしだ。
だが、それでも笑う。
「ヒートを止めろ、手段は問うな」
黒装束が続々と湧いて現れる。
('A`)「まあまて、ここは通さねえ」
「それどころではない! あの秘薬は…」
「関係ない者がなぜ我らの足を止める」
('A`)「ふひっ なんちゃって…
なぜ? だって?」
ひきつった笑みを堪えながら銃斧を身体に引き寄せて、銃身に手をかけると…
銃から手斧が分離する。 そのまま腕を広げる格好は、痩せ細った彼のスタイルと相まって悪魔的な影を闇に浮かび上がらせた。
- 336 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 16:59:27 ID:LOmy0xS.0
ドクの手にそれぞれ添えられたガンとアクスは、その気になれば死神よりも仕事をこなす自信に満ち溢れている。
そのまま右手の銃で、いままさに翔びかかろうと腰を落とした黒装束の心臓を撃ち抜き、左手の斧では真横を通り抜けようとした黒装束を頭からカチ割る。
「相手にするな、あの縄木橋を抜けてしまえばいい」
「応!」
('A`)「抜けられるといーねえー♪」
いつもの軽口と、それに反比例した銃声が響き渡る。
一発では済まない…二発、三発と立て続けに放たれる弾丸に、黒装束達が面白いようにその身を命ごと削り取られていく。
黒装束達も黙ってはいない。
だが同時に迫る何本もの反撃の飛びクナイはアクスの刃を盾代わりにすることで弾く。
さらにその視界の影から迫る黒装束達の短刀がドクの横腹と腕を斬りつけるが、彼は怯まない。
痛みはある。 意に介さないだけだ。
そのまま通りすぎていく黒装束を一人として逃さず背から撃ち抜く様は、とても銃身の長かった銃斧のままでは成し得なかったろう。
ーー 三人、四人と黒装束達が橋の下へと落下していく。
このために彼はガンアクスを分離させたのだから。
('A`)「さて、まだその辺にいるんだろ?
こんだけ血の臭いがするんだ、通りすがりに降ってくるぜえ」
「…なにを言ってーー 」
- 337 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:00:31 ID:LOmy0xS.0
土煙が舞いはじめ、大地を震わす咆哮がその場の全員に届いたのはまさにその瞬間。
「ギュオオアアアアアアアッッ」
ビリビリと空気が震えた…否。
これは突風と、混ぜ込められたスピアの雨が実際に振動して降り注いでいるのだ。
「がぼぐっ」
「ああ"ッ」 「ごォ」
「まば ーー 」
「ビシャァ!」 「逃 」
".; ('A`)「ほ〜〜らきたっ …げふ!」
黒装束達の絶命音が森から轟く。
空から百獣の奇襲。 ここもグリガンのテリトリーに入っていた事を、ドクは知っていたわけではない。
風の魔導力を帯びたグリガンの【ダウンバースト】による重力に巻き込まれ、ドクも避けきれず鋭い体毛に貫かれる。
「墜とせ、このままでは全滅だ!」
黒装束達の目標はドクから変わって空の天災に向けられる。
だがドクやヒートですら満足にダメージを与えられない相手に、クナイだけで立ち向かうのは無謀だった。
('A`)「ふひひ、お前らは俺の盾に成りな」
両手首に別々のリングを嵌ながら、不気味な笑みを絶やさない不死者の呟きはグリガンの作り出す風に消える。
そして、リングに反応して左手のアクスが焔を纏い始め…グリガンの風にも消えない魔導力がドクを戦いへと駆り立てた。
- 338 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:01:24 ID:LOmy0xS.0
- ------------
〜now roading〜
('A`)
HP / F
strength / D
vitality / A
agility / A
MP / C
magic power / B
magic speed / C
magic registence / A
------------
- 339 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:09:17 ID:fmnOfmms0
大陸内のどこかの山中に、確かに存在はするものの人々から秘匿され、村ありきで作られた村。
人が集まって出来たのではなく…
不自然に存在する場所だからここに村が出来た。
村正面から窺える大きな水門がどしりと構え、村の水路を細かく整備している。
このおかげで村が大雨や洪水による被害を受けた歴史はない。
東方を模倣した瓦屋根、金箔や紅に彩られた建物は平屋にしては天井が高く、階層建てられているならば低い。
村を通る数本の川には水車小屋が造られていて、子供達が跳ねた水で無邪気に遊んでいた。
- 340 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:13:20 ID:fmnOfmms0
ヒートが村に戻るのは何年ぶりになるか…
幼い頃、ばあ様と村の皆に見送られて忍の里に旅立ったきり。
そんな記憶が甦ると、まるで彼女の心も当時に遡るようだ。
水車小屋の中では穀粉や酒などが造られている。
いまならお酒の味も分かるだろうか?
昔は嫌いだった麦飯も、成長した今ならありがたみがよく分かる。
ノハ*゚听) 「……」
Σ ノパ听) 「そうだ、ばあ様のところへ!」
思い出に浸ってしまう気持ちを抑え、ヒートはばあ様の屋敷へと駆けていく。
昔は広大な土地だと身体全体に感じていた村の風景が、今では数歩翔び歩くだけでガラリ、ガラリとその姿を変えていく。
畑仕事をこなすジジ達、
大荷物となる洗濯に勤しむ女達、
番犬の世話を兼ねて探検隊を組む子供達。
その誰もがヒートの帰郷を笑顔で迎えてくれる。
何年経っても、生まれ故郷は自分を祝福してくれるものだ。
…例え、どんなに汚れ仕事をしていても、
…例え、罪を犯しても、
…例え、一度は故郷を棄てたとしても、
故郷は優しく出迎えてくれる。
それはきっと、産まれた場所に還りたくなる本能として人間が最後に願う事なのかもしれない。
きっとばあ様にも喜んでもらえる。
ヒートは長旅の疲れも吹っ飛ばして村の最奥へと走った。
- 341 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:14:08 ID:fmnOfmms0
ノパ听) 「ばあ様!」
ヒートがガラッと屋敷の戸を豪快に開けた先で、暢気な様子で棚上の埃取りに精を出す老婆が振り返る。
lw´‐ _‐ノv 「……あれえ?
なんでヒートがここに?」
ノパ听)
ノパ听) 「……あれえ?」
老婆はヒートのばあ様であるシュー、その人だった。
しかし、腰も曲がってなければ顔や腕にシワも見当たらない。
唯一、首に刻まれたシワだけがそれを見分ける特徴。
若々しい女性だと誰もが思う容姿が、名物婆さんと呼ばれる所以だ。
だがヒートが驚いたのはそんなことではない。
ノパ听) 「病に倒れたんじゃないのか!」
lw´‐ _‐ノv 「倒れたよー。
そん時は忍者も真っ青の宙返りで鶏もびっくりしてたもんさ」
ノパ听) 「すげえ!」
- 342 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:15:06 ID:fmnOfmms0
騙された! とは思わない。
ばあ様は無事に生きて生活している…その事実の方がヒートには大切だった。
だが飄々として言葉を交わすものの、シューの表情には真剣味が増し始める。
lw´‐ _‐ノv 「…それで、なんであんたがここに帰ってきたんだい?
まだ忍の修行が終わる歳でもないだろう」
ポンポン、とハタキを反対の手のひらで弄ぶ。
手首に巻かれた数珠がカラカラ哭いた。
忍の里に出た子らは皆、使い物にならなくなる年齢になって初めて帰郷する。
もしくは任務中の死や、五体不満足による戦線離脱が常となる。
ノパ听) 「そうだ! 病に伏せたっていうばあ様のために薬を持ってきたんだ!」
lw´‐ _‐ノv 「薬?」
訝しげに問うばあ様に、ヒートは腰縄にくくりつけた秘薬袋をちゃぶ台の上にぽつりと置く。
直後、シューの目の色が変わった…
驚き、そして、怒りへと。
ヒートは気が付かない。 その変化に。
ノパ听) 「忍の里で伝えられてる、すべてを救う秘薬だ!
これならばあ様の体調もーー 」
.
- 343 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:16:15 ID:fmnOfmms0
ーー バチン!
言葉の終わりを待たず、シューは手に持つハタキをちゃぶ台に叩き付けた。
折れたハタキ棒が力なく畳の上にコロコロと転がる。
lw #´‐ _‐ノv 「これはなんだい?」
ノパ听) 「…え?」
lw #´‐ _‐ノv 「この…バカタレが!!」
怒声が耳をつんざく。
グリガンの猛攻にもひるまなかったヒートの身体が反射的にビクンと跳び跳ねる。
ノハ;゚听) 「え? え?」
lw #´‐ _‐ノv 「これは門外不出の秘薬だったはずだろう!
あんた、勝手に持ち出してきたね?」
ノハ;゚听) 「……ば、ばあ様のためと思って」
lw #´‐ _‐ノv 「ほー、私がこれを望んだって?」
シューの全身から立ち上る怒気は屋敷全体に留まらず…
外でまどろむカラスの群れもその場からバサハザと逃げ出し、
村の各所を見張る番犬達が一匹の例外もなく身を縮めた。
村の子供達にはその理由がわからず怯える番犬を宥めていた事を、ヒートは知る由もない。
- 344 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:17:03 ID:fmnOfmms0
ノハ;゚听) 「あ、あの…」
lw #´‐ _‐ノv 「そういうのはね、ヒート」
見たことも聞いたこともないばあ様の叱咤に震えるヒートをおいて、一呼吸後にシューは言葉を続ける。
lw #´‐ _‐ノv 「あんたがやりたいことを私のせいにしてる…そういう話さ」
ノハ;凵G) 「!!」
そんなつもりではなかった。
喜んでもらう一心で、ヒートは我が身の明日を省みずに行動した。
ばあ様の身体を気遣ってここまで来た。
その気持ちに嘘偽りはない。
それなのに…
lw´‐ _‐ノv 「今は動けるけど…確かに私はそろそろお迎えが来るだろうね」
lw´‐ _‐ノv 「でもそれは自然な事だよ。
150年も生きてきたことが不自然なのさ。
それをあんたの独断で反故にしようって?」
ノハ;凵G) 「違う! そうじゃない!!」
lw´‐ _‐ノv 「ねえ、ヒート?
よくお聞きよ」
狼狽える孫娘…もう何人目か分からない、自分の子孫を前にシューはその怒気を抑えて優しい口調に切り替える。
その顔は、ヒートのよく知る慈愛に満ちたばあ様の顔だ。
- 345 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:17:50 ID:fmnOfmms0
lw´‐ _‐ノv 「人はいつか死ぬんだ。
事故や病気、老衰や、早くても寿命がきて亡くなる幼子もいるだろう。
誰かに殺されたりもするさ」
lw´‐ _‐ノv 「皆、死にたくなくて頑張ってそれに抗う。
自分で身を守れない赤ん坊を守るためなら命をなげうつ母親や、息子を死なせたくなくて代わりに世の中を奔走する父親もたくさんいるだろうね。
…でも、やっぱり生きていれば死ぬんだよ」
ノハ;凵G) 「……」
lw´‐ _‐ノv 「…あんたが持ち出したこの秘薬。
なんだか知らないだろう?」
ヒートが置いた秘薬の入った麻袋。
その閉じ口を親指と人差し指で、まるで不浄なものを摘まむように軽く持ち上げる。
ノハ;凵G) 「すべてを救う秘薬…
忍の里ではそう伝わってて…」
lw´‐ _‐ノv 「それはもう聞いたよ、聞き飽きた。
…まったく、あの里にも困ったものだ」
そのまま指を離そうとして…
その危険性を考えてシューはゆっくりとちゃぶ台に麻袋を置き戻す。
lw´‐ _‐ノv 「これはたしかにすべてを救うかもね…
だが、人が生きるにあたってのしがらみから…だけども」
lw´‐ _‐ノv 「こいつは毒だ。
昔、天性の毒物からごっそり抽出された極上の猛毒の塊だよ」
- 346 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:18:44 ID:fmnOfmms0
('A`)「ふひひ、役立たず共め」
黒装束達は盾になるどころか、一つの攻撃の巻き添えになって意図しない者が倒れていくばかりだった。
ヒートとは違い、ドクも標的であるせいでグリガンに集中していない。
ドクの銃連撃をかすめながら宙を縦横無尽に駆け回るグリガンは、時に視界に入る黒装束に対しスピアの雨を降らせながらも、その意識を銃斧の男から外さない。
黒装束達が次々と屠られるなかで、同じ様に攻撃しても身を躱すドクを見てグリガンは想う。
その男の動きは無駄がなかった。
…というよりも、こちらの動作が始まると同時に回避行動を開始されている。
羽根を飛ばすべく身を屈める。
翼を降り下ろすべく背中を広げる。
突進すべく爪を縮める。
そのわずかな動作で、こちらの次の攻撃を知っているのではないか? といわんばかりの反応だ。
だが、グリガンは己に立ち向かう者を逃がしたことはない。
敵対する総てを排除してきた王者だから。
- 347 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:19:33 ID:fmnOfmms0
シューが秘薬袋を軽く開けると、中から一つの白い岩石が顔を覗かせる。
lw´‐ _‐ノv 「私がまだ若い頃…いまの忍の里で数人の仲間と忍者ごっこして過ごしてた時代さ。
水を飲んだ仲間が毒で死んだことがある」
シューはこの大陸における忍の祖であり、元は身を守る技として東方の術を学んだ一人。
忍の里を作り上げたのも彼女だ。
lw´‐ _‐ノv 「原因は一人の男。
川に浮かんでいたそいつは…死体かと思えばすぐに息を吹き返した。
でもね、その身体から湧き出る毒素がそこを死の川に変えてしまったんだ」
ノパ听) 「人間が…毒を?
…それにそんな川、里には無かった」
lw´‐ _‐ノv 「そりゃあそうだ。
だからコイツがある」
つん、と袋越しに白い岩石を優しくつつく。
見た目はどちらかといえば綺麗な石…しかし、よく見ればその輝きは砂糖水を溶かしたような淀みが内部で蠢いている。
lw´‐ _‐ノv 「これはその毒素を取り出して濃縮した結晶だよ。
その辺に捨てれば毒が滲むだろう。
破壊すれば毒が空気に散るかもしれない。
そもそも、ただそこにあるだけでも微量の毒素が噴き出しかねないんだよ」
ーー だから保管するしかなかった。
シューは無表情に、だが忌々しげな気持ちで呟きながら白い岩石を見つめていた。
- 348 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:20:39 ID:fmnOfmms0
グリガンは大地に降りてこない。
空から鋼の体毛を撒き散らしつつ、時には更に上昇して幾度目かの【ダウンバースト】を繰り出す。
('A`)「ふひひひ! あんま乱発するもんじゃないなそれ」
黒装束達は岩陰や大木に慌てて身を隠すが、
風と重力で根こそぎ地をえぐり、スピアを紛れ込ませる【ダウンバースト】の前になす術なく貫かれ、薙ぎ倒される。
唯一、ドクだけがどういう理屈かダメージを最小限に抑えるように動き回っていた。
徐々に受ける傷を減らしながら、グリガンに向けて放つガンアタックがその威力を増しているかのように力強く咆哮している。
「ピイィーーッ!」
('A`)「弱気な声出してんじゃねえよ、うるせえな」
ドクの右手首に嵌められたリングが、トリガーを引くたびに発光している事をその場の誰が知るだろう。
- 349 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:21:46 ID:fmnOfmms0
命あるものには "GC(ガードコンディション)" と呼ばれる防衛本能が備わっている。
ダメージを受ける際、反射的に力をいれたり、逆に力を抜いたりすることでその力の浸透を抑える。
或いは誰かを守ろうとする強い意思が、団体戦においてもその本能が発揮され空気中の魔導力と混合し、擬似シールドとして後衛の命を救うこともある…
と、語る戦術家も存在した。
グリガンが一度横面を撃たれた時、ダメージが通らなかったのもこのGCによる本能が無意識に発動していたからだった。
そのGCに影響を与える魔導力が、ドクの手首を通じて弾丸に込められている。
魔導力は効果循環のためにリング状を維持しなければならない…。
('A`)「おい」
('∀`)「…怖いのか?」
そう、弾丸はリング状を描きながら螺旋し放射され、目標を撃ち抜く。
ーー グリガンの、GCをも撃ち砕けるのだ。
「ゴアアァァァーーーッッ!!」
あり得ない! 俺は百獣! 人間如きに逃げ回るつもりなどない!
そうグリガンが吼えたのかもしれない。
巨大な躯から生やす体毛を全身逆立てて、翼を最大限に広げたグリガンが急降下する。
大地スレスレから方向転換したかと思った直後、最高速度に全体重を乗せた蒼い閃光となってドクに襲い掛かり ーー
- 350 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:22:53 ID:fmnOfmms0
ノパ听) 「…その男は?」
lw´‐ _‐ノv 「そのあと少しだけ一緒に皆と暮らしたさ。
意識さえあれば毒素を撒かずに生活できてたし、なにより川の浄化とこの結晶化にも協力してくれたからね。
…ま、罪滅ぼしってわけじゃあなかったらしいけど」
どこか見上げながら、シューは思い出にふけた。
150年生きてきた彼女の人生においても、不思議な体験だったのだから。
lw´‐ _‐ノv 「…秘薬があんたの思い通りの代物でなくて、がっかりしたかい?」
ノパ听) 「……うん」
lw´‐ _‐ノv 「そうかい」
いつの間にか、ちゃぶ台に置かれた湯呑みをすすりながらシューは穏やかにヒートを見つめた。
その顔はもう二度と、怒気を放つ鬼の形相にはならないだろう。
孫娘と邂逅して嬉しそうな老婆の顔。
そして…少しだけ死の影が濃くなった老婆の顔。
ノパ听) 「薬は…ないのか」
ヒートは諦めきれないようにすがる。
彼女はあまりにも直情だが、決して愚鈍ではない。
目の前の人間がどんな状態かくらいはきちんと汲み取れる優しい女性だ。
シューにはそれが堪らなく嬉しい。
忍としてなかば強制的に村から追い出しても尚、ヒートは非情な忍者ではなく、意思をもった人間であったことが。
- 351 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:23:40 ID:fmnOfmms0
lw´‐ _‐ノv 「ああ、無いね。
確実に死を逃れる薬なんてものは、存在しない。
それでいいんだ」
ノパ听) 「…そうかあ」
老いても忍の祖であるシューには、定期的な経過報告が忍の里から伝えられている。
報告内容は、すべての忍の生死や、任務遂行時における行動やその心理状況。
日常の健康や修行態度も。
ノパ听) 「それでも」
…ヒートは、人の死に携わった経験がなかった。
暗殺はもちろん、任務中における殺害や仲間の死に立ち会った事が、幸か不幸か皆無だった。
ノハう凵G) 「……ばあ様には、もっと生きていてほしいよぅ」
lw´‐ _‐ノv
.
- 352 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:26:58 ID:fmnOfmms0
もし自分が彼女にとって最初の死との対面になってしまったら、彼女にどんな影響が出てしまうのだろう…。
シューの心配は、最後の愛娘に注がれる。
lw´‐ _‐ノv 「ヒートや」
lw´‐ _‐ノv 「死ぬのはいいものだ」
ノハ;凵G) 「えっ?」
再び涙する赤い髪の孫に、シューは出来るだけ分かりやすい言葉を選んで伝える。
lw´‐ _‐ノv 「考えてごらん。
生き物が死なないってことは、何かを継いだり、継がれたりするって事から永遠に目を逸らされるって事さ」
lw´‐ _‐ノv 「草は草を食べる動物に。
草を食べる動物は肉を食べる動物に。
肉を食べる動物はやがて土に。
土はその死骸から栄養を頂いて美味しい草を育てるだろう」
ノハ;凵G) 「…うん、ばあ様はそうやって米を育ててたな」
健康的な食物連鎖から育まれる豊かな土壌を使い、新鮮な水を通すことで稲穂を育てあげる。
忍の里と、その人材を秘匿しながら育ててきたこの村で、シューが子供たちに教える最初の仕事は稲刈りだった。
この村の水路が整備されているのも、シューが水の大切さと共に食育を通じて子供たちがせめて健やかに育つようにとの願い。
- 353 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:27:46 ID:fmnOfmms0
lw´‐ _‐ノv 「私らはいつか死ぬから、人を思いやったり、残された時間のなかでどうにかして生きた証を育むんだ」
親から子へ受け継がれる意思は、姿かたちを変えながらも、たとえ村から離れても、忍の里に行かなくても、またその子らへ継がれていく。
ああ、こんな時、親はどうしていただろう?
親ならどうやってこの子に教えただろう?
シューに限らず、親は一度は子供だった。
だが、親は親になって初めて親として生きていく。
だからその見本として自分の親を模倣するのだ。
lw´‐ _‐ノv 「私にとっての娘たち…
そしてヒート、あんたが私の最後の孫さ」
lw´‐ _‐ノv 「あんたが私の生きた証になっておくれよ」
ーー こんな事を言うなんて、私も老けたもんだ。
150年生きた老婆は、そう言って白い岩石の袋を縛り直し、ヒートに手渡した。
それと一緒に手首に巻かれた数珠も持たせる。
lw´‐ _‐ノv 「これは里に戻しておいで。
その数珠も見せるんだ。
元通りにしたなら軽い懲罰だけで済ませてもらえるさ」
- 354 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:28:56 ID:fmnOfmms0
数珠が手の中でカラカラ哭いた。
ヒートは二つの品を交互にみやると、ごしごしと涙をふいてシューに深くお辞儀する。
ノハう听) 「ばあ様、ありがとな!
私、戻るよ」
lw´‐ _‐ノv 「ああ。 達者でな」
ノパ听) 「…あ」
そう言えば、とヒートは思い出す。
村の外ではドクが追手を食い止めているままだ…。
ノパ听) 「急がなきゃ! ドクが」
lw´‐ _‐ノv 「ドク?」
ヒートは立ち上がり、踵を返す。
ノパ听)ノ 「途中で会って手助けしてくれたんだ。
もう戦わなくていいこと伝えなきゃ!」
lw´‐ _‐ノv 「ほうほう、そうかい。
そりゃあ大変だ」
ノパ听) 「ばあ様、また逢えるよな?」
lw´‐ _‐ノvノシ 「いや、そりゃあ無理だわ」
ノパ听) 「え、ええ〜…」
- 355 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:29:58 ID:fmnOfmms0
おどけた調子で返答するシューに、ヒートはがっくりするもののある種の安心を覚える。
lw´‐ _‐ノv 「なあに、死んだらあの世で待ってるから、あんたも人生楽しんでからおいで」
ノハ;゚听) 「逢えるのかあそれ?」
lw´‐ _‐ノv 「だから言ってるだろう。
死ぬのはいいものだって」
やっぱりばあ様はばあ様だなあ!
ヒートは手を挙げてシューに別れを告げ走り去る。
シューは老体に鞭を打ちながらも、屋敷の外でヒートが見えなくなるまで見送った。
lw´‐ _‐ノv 「……ドク。
そういえばあの男もドクオとか言ったっけね」
腰を叩きながら、大陸最高齢の老婆は屋敷へと戻っていった。
彼女は死を迎えるその瞬間まで、村の子供たちに稲刈りを教えていたという。
- 356 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:30:47 ID:fmnOfmms0
ノハ;゚听) 「……なんだ、これ……」
ドクと別れた村の外で見たものは、見渡す限り死屍累々の風景だった。
目に見える黒装束達は皆その身体を引き裂かれ、辺りに血の池をいくつも作り出している。
だがそれだけではない。
その顔はブクブクと爛れており、間近で直視するのも憚れる。
木々は倒れ、岩は砕け、草は根こそぎ散っている。
だが…やはりそれだけではないのだ。
木の幹はあり得ない箇所からへたれ、枝は悉く萎れ倒し、葉は例外なく泥々に液状化してその滴を真下の大地へと落としている。
そして極めつけは、
ーー 周囲を取り巻く瘴気。
ノハ;゚∩゚) 「ウグッ」
尋常ではないその空気の悪さに、思わずヒートもその場から逃げ出してしまう。
- 357 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:31:40 ID:fmnOfmms0
堪らず山を降りるべく駆け抜け、周りの景色が見慣れたものに彩りを取り戻すと、無意識に止めていた呼吸活動を再開する。
ノハ;゚听) 「はあ、はあ、
どうなってるんだ…あれは」
村の方角を振り返るも、もう一度あの場所に戻り、あまつさえドクを捜す気にはなれなかった。
あの場所にいては…たちまち脳みそから足の先まで血管ごと熔けてしまいそうだ。
あの黒装束達のように。
ノハ;゚听) 「ドクは…どこにいったんだ」
ヒートはなんとなくシューの話を思い出して、腰にぶら下げた麻袋に目をやる。
極上の猛毒…。
それはまるで ーー
- 358 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:32:48 ID:fmnOfmms0
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瘴気漂う崖の遥か下で。
首根っこにアクスを深々めり込ませた巨大な獣が佇んでいる。
蒼い体毛が焼け焦げ、血にまみれている。
その身を横に倒しながらも瞳を開き、意識を失ってはいない。
崖下までは瘴気も届いていないが、躯に染み込んだ毒素に抵抗するべく毛細血管からも異物を吐き出すように浅い呼吸を維持し、一方を睨み付けている百獣。
('A`)「まだ死なないか、おまえは」
ふひ、と笑う。
グリガンが睨み付ける先にへたりこんだ痩せこけた男は、右手にガンを持っている。
だが構えていない。 もはや狙いを定めるほどの体力も有していないからだ。
「グルル…!」
('A`)「おーおー、粋がっちゃって。
いや、生きたがっちゃって…か?」
げほげほとドクが血反吐をだらしなく垂らす。
ヨダレに混じる赤黒い血が、内蔵ごと彼の体内にダメージを蓄積していることを物語る。
- 359 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:33:58 ID:fmnOfmms0
グリガンもドクも、ともに自分の体力の回復を待っていた。
すでにドクの両手首からはリングが破壊され、GCの貫通もできなければアクスを取り戻そうとも焔を纏わせることもできない。
それでもドクは慌てる様子なくその場から動かない。
".; ('A`)「まーどっちもまだ動けないからな。
のんびり ーー ゲホッ、だべろうや」
痛みはある。 恐らくその痛みだけで並みの人間はショック死するだろう。
だが痛みに頓着しないドクはお構いなしにグリガンに話し掛ける。
('A`)「俺はさー、なんでこんな身体になったんだか…もう憶えてねえんだ」
('A`)「ともかくお前がいくら俺を殺そうが死なないわけよ。
けほっ… 希望としてはまともに死んでみたいけど」
ドクの言葉から命乞いや哀しみの色は表れない。
他人を欺くことはあっても己を偽らない。
('A`)「もしかして俺とお前って何度も戦ってるかもなあ〜、ふひひ」
- 360 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:36:07 ID:fmnOfmms0
グリガンはドクを変わらず睨み付ける。
今にも襲い掛からん勢いではあるが、躯を動かす様子は見られない。
('A`)「お前だって多分何歳とか何十歳じゃきかないだろ?
どうだよ、生きてて楽しいことあるか?」
('A`)「俺は…戦ってる時が一番愉しいんだよなあ。
どうせ死ぬと記憶がトンじまうから、だんだん面倒になってきて普通に過ごす気が無くなっちまった」
まるで旧友に話し掛けるように、ドクは言葉を紡ぐ。
独り言ではない。
確かにグリガンに向けて喋っている。
('A`)「おい、もうすぐ俺は動けるぞ。
お前はどうだ?」
グリガンからの唸り声はいつの間にか途絶えていた。
死んだわけではない。
その証拠に…百獣はすでに躯を起こしてドクに向けて確実に歩を進めている。
ドクはまだ視力が回復していなかったのだ。
グリガンが見えていない。
そして、気配が動いていることにも。
('A`)「おーい、まさか死んだのか?」
ドクの身体に大きな影が差す。
だが、彼は気付けない。
無音の驚異が迫っていることに。
- 361 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:37:40 ID:fmnOfmms0
すでにグリガンはドクを一噛みできる位置にまで肉薄していた。
軽く口をあけ、牙を突き立てれば容易くこの華奢な肉体は噛み千切れるだろう。
生殺与奪はグリガンが握った。
('A`)「まじかよ…反応が、ねえ」
グリガンは動かない。
じっと目の前の男を見つめている。
('A`)「…戦いてえ」
('A`)「死にてえよお〜…」
ーー 不死者の嘆き。
グリガンには言葉が通じている訳ではない。
百獣が下等な人間の言葉を理解する必要はない。
グリガンはドクの身体に牙を…突き立てた。
- 362 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:38:56 ID:fmnOfmms0
そして、ひょいとその身を宙に放り投げたかと思うと、ドクはグリガンの背に身を預ける形になる。
戦闘時とはうって代わりその体毛は柔らかく、傷付いたドクを包み込むように受け止める。
('A`)「……あぁ?」
どうしたことかとドクが状況を把握する前に、グリガンはその翼を小さくたたみながら少しずつ高度を上げる。
「ケェェーッ!」
嘶きも小さく、ドクに何かを語るように一吠えして空へと昇っていく。
浮遊感は不思議と感じない。
ドクは少しだけ回復したその目でグリガンを背中越しに見つめる。
雄大な背中は何を語るわけでもなく、グリガンはゆっくり山頂へと身を泳がせた。
('A`)「…あー、あーあー、そーですかい」
ふひ、と笑う。
人類史上この百獣の背中に乗ったのは彼が初めてだろう。
滅多に出来る体験でもない。
- 363 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:40:12 ID:fmnOfmms0
グリガンが翼をはためかせる。
遠い向こうでグリガンを眺める誰かは、やはりこの姿を神々しいと表現するだろうか。
風が傷だらけの身体を撫でるたびに気持ち悪かった。
こんなものを気持ち良いと感じる阿呆がいたら撃ち殺したい気分だ。
('A`)y-~ 「治ったらまたやりあおうぜ」
どこから取り出したのか、タバコに火をつけて一服し出す。
たゆたう煙は空にかき消え、灰は風に煽られて散っていく。
そんなドクをグリガンは気に止めず、どこかへと飛び去った。
ドクの望みが叶わない限り、
たとえエサとしてドクを貪り喰おうとも再生し続けてその姿を見せるだろう。
たとえドクの身体をバラバラに引き裂いて空に散らばり棄てても、いつの日かその姿は五体満足でこの世に現れるだろう。
- 364 名前: ◆WE1HE0eSTs :2014/07/07(月) 17:41:49 ID:fmnOfmms0
限りなく不死に近い蒼い百獣は、これまで孤独に世を謳歌してきたといえた。
そんな百獣と対等に向かい合える人間がいるならば、それはもはや人間ではなく、己のような怪物なのかもしれない。
孤独を馴れ合うつもりなど毛頭ない…が、怪物には怪物の欲がある。
気に入らないものは滅する。
気に入れば弄ぶ。
背中越しにタバコを吸うドクの吐き出した煙からは、極上の毒の香りがした。
(了)
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