139 名前:1 :2014/06/11(水) 20:35:05 ID:ZxCJGoXU0
( ^ω^)千年の夢のようです


- 帰ってきてね -

140 名前:1 :2014/06/11(水) 20:36:34 ID:ZxCJGoXU0

灰色のフードを頭から被り、緩い坂道になった森を歩く集団。
話し声は無く、皆が一列に同じ歩調で進んでいく。

辺りは闇…。
先頭の者が手に持つカンテラを高々と掲げ、先の道を照らし、あとに続く者達もそれに倣う。
集団は明るく灯火に照らされてはいるがその足取りはみな、重い。


その原因は一部のカンテラを持たない者達が代わりに背負うロープと、ロープに繋がれて地を這う柩だ。

…一つではない、よく観察すれば集団の列の中にはさらにグループが別れ、一グループにつき一つずつ。
死者を納めた柩を運んでいた。


話し声は聞こえない。
しかし、啜り泣く音は聞こえてしまう。


「皆さん、もう少しで墓地に着きます。
そこでは最後の御別れと、埋葬の儀を行います。
…心の準備を、御願い致します」

先頭の者が静かに、しかしよく通る声で、後ろを連れだって歩いている全員に向けて伝えた。
夜の森は容易くそれを可能にする。
人々から特に反応はない。

分かっているのだから…ここのところ繰り返されるこの行為に。

141 名前:1 :2014/06/11(水) 20:38:35 ID:ZxCJGoXU0

いま、この大陸内では国家間の戦争が起きている。
はじめは小規模だった戦いも、いまやその至るところでいくつもの戦火が広がっていた。

忠誠心に溢れる国直属の兵士達、
報酬を目当てに群がる傭兵達、
そして…かき集められる領地の住人達。

始まった戦争は、当初の理由など簡単に変質させる。
戦いを勃発させた高官や国王、領主らは、一体なんの為に戦争しているのかなどもはや覚えてはいないだろう。

…一体どれだけの命が失われているのかなど、気に留めもしないだろう。



「…彼らがこの故郷に戻ってこられた奇跡と、これから無事にその御魂が天に召されるよう、祈りを捧げましょう…」


やがて集団は目的の地に辿り着く。
森の中深く、名を刻まれたいくつかの小さな墓石とまだ掘りかけの浅い穴が散見する場には、中心にひときわ高くそびえ立つ樹木が見守るようにその根を太く深く降ろしていた。
すでにこの村から徴兵された何人もの男達が、亡骸として帰り、葬られている。

フードを被り集団に混ざる人の中には、すでに家族を亡くしここに埋められた者もいる。
家族を何度も亡くし、何度もここに来る者もいる。
家族を亡くし、しかし、その遺体が運ばれなかった者もいる。

…身体が帰ってくるだけでも珍しいことなのだ。 戦争が起きれば焼き付くされた戦地に置き去りにされるのが、戦わされる者の日常となる。

142 名前:1 :2014/06/11(水) 20:40:52 ID:ZxCJGoXU0


皆が黙祷を捧げるなかで、一人集団から離れてその様子を見つめる青年が居た。


/,,゚Д゚ 「……」

彼も同じようにフードを被り、共に並んでやって来た村人の一人…のはずだが、喪に服す様子は見られない。

鋭い目付きで場を睨み付ける。


「皆さま、顔を御上げください」
黙祷を収める声が辺りに届く。
「それではこれより…村のしきたりに従い、凍葬、樹葬と続けて行います。
御家族の方は前にお出でくださいますよう…」

囁くような啜り泣きが、少し大きくなった気がした。
そして足を踏み出せば"別れ"という鐘が鳴り響いてしまう…
それを恐がり、しかしパラパラと、死者の身内達が集団から抜け出した。
その足取りは一様にさながら死刑台…というより"死刑を行う側"の、一歩の重み。


そびえ立つ巨大な樹木から放射線状に規則正しく柩が並ぶ。その数…6。
兄弟や息子、孫だろうか。
各々が身内の遺体が納められた柩を数人で囲み、被っていたフードを脱ぎ、対面する。

143 名前:1 :2014/06/11(水) 20:42:41 ID:ZxCJGoXU0

ミ,,゚Д゚彡 「……」

先の青年も居た。フードに隠された、王者の鬣の如き金色の髪。

「…あのナナシもならんどったか」
「あの柩はじゃあ…ミルナのやつかい」

かすかに聞こえる憐れみの声は森の音に紛れてすぐにかき消える。

彼のまわりには誰もいない。
足元に柩がポツリと置かれているのみ。
そしてナナシもじっと柩を見つめるだけだ。


ミ,,゚Д゚彡 「…ミルナ…」

ナナシは、自分にだけ聞こえる声で、柩に話しかける。

144 名前:1 :2014/06/11(水) 20:45:03 ID:ZxCJGoXU0

やがて柩の蓋が開かれた。
内部にはいずれも白い布に覆われた死者の身体が横たわっている。
誰も口を開かない空間で、死者の身内達に手渡されたのは…女性にも扱えるほどのハンドサイズのハンマー。その頭部にはリングが嵌められていた。

次に合図と共に詠唱が始まる。
魔法ではない。 魔導力そのものを発動させるための起動詠唱。

すると周囲には白い霧が立ち込め、次第に肌寒さを感じるほどに気温が低下していくのが、その場にいる全員の吐息からわかった。
ハンマーに付けられたリングの材料である"生きた氷塊"が、人々の魔導力に反応してこの現象を引き起こす。

そして……
ビキビキと死者の身体も白く染まり始め、やがて6つの氷柱が横たわる。



「気持ちに整理のついた御家族より、御願い致します…」

145 名前:1 :2014/06/11(水) 20:46:57 ID:ZxCJGoXU0


ミルナは村でも特に誠実な男として知られていた。
嘘はつかず、働き者で、気配りもできる。人と話すときにも目をそらすことのない凛とした姿勢が特徴的だった。
しかし、妻を娶る事はもちろん、一度たりとも恋人を作らなかった。

そんな彼はある日、長い出稼ぎから帰ると共に一人の男の子を連れて帰ってくる。
一部の村人は
「あっちで仕込んだ子か?」 「母親は誰だ?」
などと尋ねたが、ミルナは答えなかった。
それでも彼の生来の性格からも
「お天道様に唾するような真似はするわけはない」 「何か事情があるんだろう」
…村人達はそれ以上を聞かなかった。

146 名前:1 :2014/06/11(水) 20:52:19 ID:ZxCJGoXU0

誰ともなく、一人 また一人と、詠唱の声が止んでいく。

凍葬…それは死者を埋葬する際にその躯と肉体を凍らせる。

そして……


ーー パリンッ

…割り砕く。

抵抗力のない物体は、"生きた氷塊"による魔力で内部からその姿を氷に変えてしまう。


ーー パリンッ

意を決した者から、ハンマーを降りおろす。
一つだった躯が二つ、三つと分かれていき、その身を小さくしていく。


ーー パリンッ

生前のミルナの言葉を思い出す。

( ゚д゚ ) 『どんなに恥ずかしくても、どんなに辛くても、どんなに苦しくても、いつかは逃げられずに自分で決める時がくる』

( ゚д゚ ) 『だから、その時が来たらやるしかない。
だから俺ももう行かなきゃあな』

…そういって、ミルナは戦争に行ってしまった。


隣の柩に寄り添う父親らしき年頃の男性は、この村に帰ってきたときは見るも無残な姿だった息子…今は氷の柱となった息子の姿を、涙で溢れた瞳で見つめながら口元を強く結び、無言で叩き砕く。
またある女性は、啜り泣きを嗚咽に変えて、かつての恋人の名を叫びながら腕を降り下ろし、決別する。

ーー これが凍葬の、御別れの儀式。

147 名前:1 :2014/06/11(水) 20:54:48 ID:ZxCJGoXU0


ミ,,゚Д゚彡 「……」

ナナシはそんな光景をまるで夢の世界だとばかりに眺めてはいたが、否が応にも迫りくる現実からは逃れられなかった。



( ゚д゚ ) 『今までありがとう。もし帰ってこられたら、今度こそ俺はお前に……』



結局、彼の命は帰ってこなかったのだから。


ミ,,;Д;彡 「今まで…、ありがとう…だから」

ナナシは震える手で、なんとかハンマーを持ち上げ……



ーー 別れの鐘を、心のなかに大きく鳴り響かせた。

148 名前:1 :2014/06/11(水) 20:57:27 ID:ZxCJGoXU0
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ナナシが物心ついた時には、まわりはたくさんの子供達が居た。
彼らもナナシも、互いに出生は分からない。 そこは親に捨てられた者の受け皿となる集い場。
彼らはそこで里親となる者が現れるのを待ちながら、拙い共同生活を営んだ。

大人も居るが、圧倒的にその数は足りていない。 子供達も遊んでばかりはいられず共に助け合わなければ生きていけない…

ミルナが彼の前に現れたのはそんな環境で過ごしていた時だった。


( ゚д゚ ) 「ここに里親を募集している子供達が集まっていると聞いたんだが…」


身体は大きくそして強すぎる眼力は、子供達が怯えて逃げ惑うのに十分な威圧感をもつ。

「うああーー!!」
「怪物だよーぉぉー」
「こっちみるなー!」


( ゚д゚ ) 「……」

149 名前:1 :2014/06/11(水) 20:59:43 ID:ZxCJGoXU0

こちらが声をかける前に逃げてしまう様子を見るミルナは少しだけ悲しい顔をしたが、さして驚く風でもなく、その場に佇みとある一ヶ所を見つめていた。


(*゚ー ミ,,゚Д 「……」


物陰から覗く鋭い瞳と金色の髪が目立つ、子供らしからぬ子供。
そしてそれに寄り添うつぶらな瞳の女の子。


( ゚д゚ ) 「…俺が怖いか?」


(*゚ー ミ,,゚Д 「…少し」


( ゚д゚ ) 「君らは他の子達より勇敢なんだな」


ナナシがミルナに聞かれたのはそれだけ…
ーー どんな性格か? ーー 持病はあるか?
そのような質問を彼はしなかった。
その日からナナシは彼に引き取られ、共に暮らす事になったのだ。


…その時の女の子とも、それきりだ。


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150 名前:1 :2014/06/11(水) 21:02:10 ID:ZxCJGoXU0


ミルナを含めた村人達の葬儀を終え、ナナシが初めにした事は、ミルナと共に過ごした家の片付けだ。

…とはいえ、物は多くない。
家と呼ぶにはいささか憚れるかもしれない大きさの古家には、食事をする小さなテーブルと、衣類棚、そして寝床に敷くための毛布が数枚のみ。
その全てを売り払った。


唯一、手に残ったものは第二次成長期を過ぎたナナシの背丈を越える5メートル以上の尺を有する "騎兵槍" 。


なぜミルナがこんな物を持っていたのか…彼はナナシにも答えはしなかった。
ただただ長い間、古家の片隅で厳重に保管されていた。

ミルナがこれを使う場面は一度たりともなかったが、毎夜欠かさず手入れを行っていたのをナナシは知っている。
その時の瞳に宿る寂しげな表情は、常に堂々としていたミルナが見せる唯一の哀の相であることも。


そしてなぜ、彼が戦争に駆り出された際にこれを置いていったのかは分からない。

当然ながら自分はこんな武器を扱った事もない。

151 名前:1 :2014/06/11(水) 21:04:32 ID:ZxCJGoXU0

ミ,,゚Д゚彡 「…重い」

手に取ってみると、見た目以上に軽く、しかし想像以上の重量がのし掛かる。

…このままここに置いていけば、受け継ぐ者のないこの槍は朽ちゆくだけ。


槍を背にしたナナシが着の身着のまま外に出ると、家の前には数人の村人…そして村長。

険しい顔だ。
それはまるで……

152 名前:1 :2014/06/11(水) 21:06:24 ID:ZxCJGoXU0

「お前も行ってしまうのか…戦争に?」


齢の数だけ顔にシワを刻んだ村長が問う。

ミ,,゚Д゚彡 「…行く」

「お前は村に残る数少ない若者だ。
あとは老いた者と、まだ年端もいかぬ子供らしかおらぬ…」

ミ,,゚Д゚彡 「……」

「戦争も、もしやすれば終わるかもしれんぞ」



ーー きっと戦争はまだ終わらない。

本来、戦争は短期的に行われるものだ。
長引けばそれだけ領地は疲弊し、国の力は衰える。

にも拘らず…すでに何年も続き、いまだ終着点が見えていない。 もはや大陸のどこにいても戦火に巻き込まれる可能性がある。

153 名前:1 :2014/06/11(水) 21:10:02 ID:ZxCJGoXU0

ミ,,゚Д゚彡 「ナナシには、何もないから」

ミ,,゚Д゚彡 「昔いた所でも、そうだった…この村でもそうだったから」

「……ナナシ…お前は、」

ナナシは反論を許さない。

ミ,,゚Д゚彡 「ナナシは名前じゃない。
ナナシの名前…お前達が付けた名前…忘れてないから」


はっとなり、村長も、村人達も、その一言に目を伏せた。

ナナシはミルナにだけよく懐いた。
同年代の村人ともほとんど話すことはなく、ミルナが何度も出稼ぎに村を出た時には必要最低限の言葉で村人との会話を行った。

154 名前:1 :2014/06/11(水) 21:11:53 ID:ZxCJGoXU0

そんなナナシを、陰で村人達は奇異な者を見るように【塞ぎ児】と呼んだ。

人の口に戸は立てられない。
村人から発されるその言葉は、
何度も、何年も、ナナシの耳に届いてしまっていた。



( ゚д゚ ) 『正直、俺一人でどうにかなるもんじゃないのは判ってるんだ。
しかし、お前や、この村をもしかしたら守れるかもしれないだろう?
だから、そのために戦うつもりだ』



ミ,,゚Д゚彡 「ミルナは戦争に行くとき、そう言った。
これはナナシの意思じゃない。 ミルナの意思のために、ナナシも行ってくるから」

ミ,,゚Д゚彡 「…今まで村に居させてくれて、ありがとうだから」





…そう言って、ナナシは村を出ていった。
後ろでは村長が大きくため息をつき、村人達が互いに顔を見合わせていたが、やがて自身の家々に戻っていった。


一度だけ…村長だけが村の入り口を見やったが、その姿が見えなくなるまで、ナナシが村を振り返る事は無かった。

155 名前:1 :2014/06/11(水) 21:13:30 ID:ZxCJGoXU0
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〜now roading〜


ミ,,゚Д゚彡

HP / A
strength / A
vitality / B
agility / D
MP / H
magic power / H
magic speed / E
magic registence / D


------------

157 名前:1 :2014/06/11(水) 21:42:43 ID:ZxCJGoXU0
作物を育てる王など存在しない。
権利を行使しない指揮官など存在しない。
大地を汚さない兵士など存在しない。
命を奪わない傭兵など存在しない。

ーー しかし、人を守ろうとする人は存在する。


それは恋人だったり、家族だったりするかもしれない。
共に同じ時間を過ごした友かもしれない。

だから一度戦争が起きてしまえば、人はその理由を胸に剣を取るのだ。


一度誰かの命が奪われてしまえば、次はその大切な人が犠牲になるのだから…。

158 名前:1 :2014/06/11(水) 21:45:06 ID:ZxCJGoXU0


荒野を抜けて戦地に向かう貨物車が何台も走る中で、ひときわ異質な空気を纏うこの車内は薄暗く、しかし外気と日の光だけはうっすらと差し込んでいた。

その境遇にあるものを文字通り荷物扱いして…そしてそれを気に止めない者達が詰め込まれた戦場行きの弾丸列車。
そもそもこれから命の奪い合いをするのだから和気藹々とは当然いかない…
が、それを差し引いても異様な雰囲気がその中で充満していた。


('A`)「〜〜♪ 〜〜♪」

無遠慮な鼻唄がそう広くない車内に響き渡る。
座った目付きで虚空を見つめる男から漏れるその音は、その場にいる他の傭兵の神経をひどく逆撫でる。


(・∀ ・) 「おい」

外斜視の傭兵が堪らず声をかけた。

('A`)「〜! 〜〜♪」

にも関わらず、話し掛けられたことに気付かないのか、彼は鼻唄をやめる気配はない。

(・∀ ・) 「てめーだよ、ジャンキー。
耳障りな鼻唄をやめな」

('A`)「……え?」

(・∀ ・) 「そうだ。 それでいい。
そんなにビビってるのを誤魔化したいならいっそ向こうについたらケツまくって逃げな。
お前と違ってこっちは金のために命張りに行くんだからな、一緒にされちゃたまんねえんだよ」


車内の空気が張りつめるかと思われたが、意外にもすんなり鼻唄は止んだ。

('A`)「おー…わりぃ。 ふひ」

彼は大袈裟にバツの悪そうな顔を作り、周囲の男たちにも謝った。 飄々とした態度で、やはり目付きはハッキリとしない。

159 名前:1 :2014/06/11(水) 21:47:21 ID:ZxCJGoXU0


(・∀ ・) 「…ふん」

外斜視の傭兵は腕をくみ目を閉じた。
車内には沈黙が流れる。


ガタガタと、荒野をひた走る貨物車の車輪の音だけが大きく音をたてて傭兵らの身体を不規則に揺らしている。


(-_-) 「…ねえ、キミ、ひょっとしてあの"フサギコ"かい?」


沈黙が破られる。 陰鬱な様子の傭兵が話し掛けてきた。


ミ,,゚Д゚彡 「……」

(-_-) 「聞いてるよ、いくつも戦地に志願してはそのたびに生き延びてる傭兵がいるって」

160 名前:1 :2014/06/11(水) 21:49:31 ID:ZxCJGoXU0

ナナシもこの車内に乗り込んでいた。
そして村を出て数年あまり…歩兵にも拘らず剣や斧ではなく"騎兵槍"を手に、幾度となく戦闘を繰り返すうちにナナシの話題は傭兵達に広まっていたらしい。


傭兵同士は時として敵対する運命にあるためそれほど親密な関係にはあえてならないが、武勇の轟く者は自然と憶えられる。
そして、あまりに特徴ある者も。

『アイツは俺を殺さなかった』

はじめにそれを口にした傭兵が居た。
酒を飲みながら聞いていた他の仲間たちはバカにするように笑って聞いていたが、やがて一人、二人…
さらには戦いが起こるたびにその話題をポツリポツリ、耳にするようになった。


偶然ではない。 ナナシは人を殺めなかった。

背負う騎兵槍はそもそも尖端で突き刺さなければ殺傷力が発揮されない形状をしており、その大きさからも乱戦に向いた得物ではない。

その代わり、突撃する際の突破力と圧倒的な刺殺力は他の追随を許さない。
もしそれが避けられれば、そこからは別の武器で戦うのが一般的だ。

161 名前:1 :2014/06/11(水) 21:51:50 ID:ZxCJGoXU0

(-_-) 「本当に、その槍しか持ってないみたいだね」

ミ,,゚Д゚彡 「…使わないから」


ナナシは他の武器を一度も携帯しなかった。
度重なる戦さの経験を経て、今では軽々と扱えるようになった騎兵槍で敵相手を"薙ぎ倒す"。
…刺すことはない、刺せば相手が死んでしまうかもしれないのだから。


(・∀ ・) 「けっ! そんな見かけ倒しの武器をよくも偉そうにぶらさげるもんだな」

('A`)「ふひひ、見かけ倒しだと思うなら試してみればいいだろ」

(・∀ ・) 「…あぁ?」


鼻唄の傭兵が先程と同じ調子で、今度は挑発紛いの言葉を口にした。
外斜視が身を乗り出す。

162 名前:1 :2014/06/11(水) 21:54:28 ID:ZxCJGoXU0

(#゚;;-゚) 「…やめや。 あたしらの本分はケンカじゃない。
あっちに着いたら存分に暴れたらええ」

今度は端に胡座をかいて座る、顔にキズの残る女が止めにはいった。
陰鬱な傭兵は身をすくませ、外斜視の男は一瞥して舌を打ち、身体を壁に預けた。


(-_-) 「"スカーフェイス"さん…すみません、僕が最初に余計なことを」

スカーフェイスは傭兵仲間に伝わる称号の一つで、歴戦の強者に相応しい名として戦場に轟いている。
ナナシもその名は聞いたことがあるが、驚くことに女性だとは思わなかった。


(・∀ ・) 「…どいつもこいつもめんどくせーし気に喰わないな…
まあいいよ、今回は味方ってことで聞き流してやるぜ、ジャンキー」

('A`)「ふひひ、どーも」


鼻唄の男はどうにも掴めない雰囲気で、のらりくらり、外斜視の言葉を受け流した。

163 名前:1 :2014/06/11(水) 21:55:50 ID:ZxCJGoXU0



ミ,,゚Д゚彡 「……」

クセの強い車両に乗り込んだものだ。
その場に居た全員が、恐らくそう思っているに違いない。
互いに首元に身に付けているお揃いの識別プレートリングだけが、彼らを味方足らしめる証明だった。

164 名前:1 :2014/06/11(水) 21:58:45 ID:ZxCJGoXU0
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戦地に近付くにつれて、荒野を走る貨物車が続々と合流する。
異なる場から同じ目的地を目指して乱暴に突き進み、秘められた暴力性を解放するのを待ちわびるかのようにそれぞれがスピードを緩めない。

やがて、少しだけ狭まった岩場を乗り越え辿り着いた先から、閉じられた車内にまで響き聞こえる戦闘の音
ーー 否、そのすべては怒号、罵声、呻き声、掛け声、断末魔…ありとあらゆる人間の声で構成された音だ。

まもなく、貨物車が急ブレーキをかける。

('A`)「ぅぉおー〜っととー」

慣性に身体を引っ張られるが、やがてガクリと重力から解放された。
直後、貨物車の壁が組み畳まれ、運ばれていたナナシ達が太陽のもとに晒される。

(・∀ ・) 「うおっまぶしっ」

驚いている暇はなかった。
周囲を見渡せば同じように到着し、同じように荷台が開かれては飛び出してくる兵士や傭兵達の姿。
そして目の前はもう、戦場だ。


(#゚;;-゚) 「いくでえ、個別に動きすぎた奴は首ちょんぱされる前に別の隊に合流しとき!
それまでは一蓮托生や!」

165 名前:1 :2014/06/11(水) 22:00:24 ID:ZxCJGoXU0

スカーフェイスの一声を合図に、
鼻唄、陰鬱、外斜視、フサギコ…と、今では名乗るナナシが、チームとなって戦場の中心地に駈けた。

すでに乱戦となっているところに、強大なランスチャージを仕掛ける先陣のナナシ。

ミ,,゚Д゚彡 「ぉぉぉぉおぉッ!!」



ーー ッバカン!

乱入を許した敵陣の一角から、防御体勢を取っていたはずの全身鎧の騎士達がその衝撃に耐えられず、何人も吹っ飛ばされる。
相当の重量をもつ鎧が盛大に砕け、その破片がスローモーションのようにナナシの視界に映る。

166 名前:1 :2014/06/11(水) 22:02:24 ID:ZxCJGoXU0

敵兵士達も前衛が吹き飛んだことでナナシ達に気が付くが ーー

(-_-) 「はああ!」

陰鬱の持つ短い杖が一瞬輝き、付近の大地が次々に破砕し、騎士達がバランスを崩すと同時に上から衝撃を叩きつけられその身を地に伏せる。
目標の足場を崩した上で突如出現し降り注ぐ岩石群【グランド】の魔法により、敵騎士は反撃に移ること叶わず、

(・∀ ・) 「いくぜコノヤロウ!」

助走から高く跳ぶことで、ヘルムを被る騎士の視界外から、外斜視が剣を突きだして鎧の隙間を血の通り道にするかのように深く、力強く肩から串刺しにする。

「おのれぇぇ!」
「ひるむな、すすめ!」
「よくもォっ!!」

周囲からも続々と敵騎士が囲んでくる。
…が、破裂音と共に、その何人もが後方に弾け飛ぶ。

('A`)「あ〜、もしここまできたら無抵抗で斬られてやるからな。
がんばれよ」

暢気に呟きながら、手に持つ銃斧から
ーー バスッ!
と、火を噴いて、後方から援護する。
鼻唄が使っている銃斧はガンアクスと呼ばれる特殊な兵器型の得物。
繊細な扱いが必要な銃と、粗末に扱える斧が一体化したものらしく、従来のそれは構造上、人を吹き飛ばせるほどの爆発力は持てない。

この威力、恐らく彼のためだけに改造されている。

167 名前:1 :2014/06/11(水) 22:04:30 ID:ZxCJGoXU0

鼻唄が撃ち洩らした残りの騎士は接近に成功し、先頭のナナシと剣を合わせていた。
細長い尺を有する騎兵槍を器用に操り、左右から迫る剣を同時に捌いている。

(#゚;;-゚) 「あんたら、やたらコンビネーションできてて出る幕なくなるかと思たわ」

そこに真横から現れたスカーフェイスが、槍と見間違えるほどの長刀で躊躇なく、そして抵抗感なく、ナナシと斬り結ぶ二人の騎士の腰元をまとめて貫く。

(#゚;;-゚) 「焼き鳥みたいにプリプリの感触しやがって、ほんま」

ーー さらに、そのまま後ろに振りかぶると、長刀から騎士の身体が抜けてゴミのように宙に飛んでいった。

168 名前:1 :2014/06/11(水) 22:10:23 ID:ZxCJGoXU0

(・∀ ・) 「うお〜、こえーこえー」


(#゚;;-゚) 「なあ、"フサギコ"」

戦闘中とは思えない佇まいで、長刀を肩に担ぎスカーフェイスが声をかける。

ーー 後ろで絶命した騎士二人が
ぐしゃりと首から墜ちた。


その間も、陰鬱と鼻唄が攻撃を止めておらず、騎士達が近付く前に撃破していた。


(#゚;;-゚) 「殺せとは言わんけどな、あれならもうちょい強く突撃しても構わんで。
お前、手加減してるやろ?」

ミ,,゚Д゚彡 「…してる」


ナナシは否定しなかった。
はたから見れば先のランスチャージすら、熟練の騎馬兵が放つ一撃に匹敵する威力をもつ事が窺える。
そしてそれをその身一つで繰り出すナナシの膂力は明らかに常人離れしていた。

169 名前:1 :2014/06/11(水) 22:11:49 ID:ZxCJGoXU0

(#゚;;-゚) σ「ま、戦争に参加して殺し合わない事がすでに間違ってるけどな…みてみ、あれ」


('A`)「ふひひ」

指を指した方角には鼻唄。
笑みさえ浮かべながら敵を撃つ姿は、命の概念すらない、射撃ゴッコで遊ぶ子供のようだった。
鎧ごと彼に撃ち抜かれた相手は横たわり、もうピクリとも動かない。
即死だ。
その身体から流れ出す血液が "もしかしたらまだ生きているかもしれない" という希望すら感じさせないほどの量を垂れ流す。

ガンアクスのトリガーをひくたび、重い音が鳴り響き、その銃弾は敵騎士…をかいくぐって後衛に陣取る敵魔導士達の命も軽々しく奪う。

('A`)「こそこそ隠れてる奴は無駄だぞー、そのための銃だからなー」


(・∀ ・) 「だあっ! ほっ…うぉりゃ!」

その先でも、鼻唄のサイドをカバーするように外斜視が暴れていた。

恐がる様子もなく騎士に飛び掛かり剣を突き刺すと、すぐに剣を抜き放ちつつ騎士の身体を足場にして反対側の騎士に飛び掛かる。
彼は常に首、脇、顔、時には両太股を狙う。 ことごとく致命傷を加えていた。
軽業師の如し動きで、地に足をつけている時間の方が短い。

170 名前:1 :2014/06/11(水) 22:15:34 ID:ZxCJGoXU0

(#゚;;-゚) 「あたしらは昔から傭兵だから、ぽっと出のアンタとはちょっと根っこが違うかもしれん」


スカーフェイスは陰鬱にシールド魔法を要請し、長刀を構え直す。


(#゚;;-゚) 「けど、相手も死ぬのを覚悟してきてると思ってあたしらは戦ってるからな。
いざって時は本気でやりや」

ミ,,゚Д゚彡 「……わかったから」


その言葉が届いたかどうか…ナナシの返事を待たずにスカーフェイスは次の目標に向かって走っていった。

171 名前:1 :2014/06/11(水) 22:18:27 ID:ZxCJGoXU0

ナナシも後に続くように走るが、左右から騎士達が襲い掛かる。

振りおろされる長剣を身体ごと避け、横薙ぎの大剣を腰からひねり倒して上半身だけで躱す。
縮んだバネが弾むように、騎兵槍の柄尻で右騎士の顎を打ち上げ、もう片方の手で槍身を押し出すと、右騎士の鎧ごとその重心が大きく崩れる。
ナナシはそのまま身体全体を一回転させて、騎兵槍を360℃スイングさせた。
体勢の戻りきらない騎士達はその無防備な土手っ腹を、ナナシの騎兵槍により無抵抗で叩き付けられる。

吹き飛ばされ、地に背中をつけ、屈強な騎士達が一瞬気を失いかけるも戦意は失わない。
顔だけでも上げて目を凝らした先には、彼らには追い撃ちせず陣中を駆け抜けていく、風になびく金色の鬣の後ろ姿だった。


スカーフェイスを先頭にした陣形を崩さないよう、敵陣を切り崩していくが、段々とナナシが後方に追いやられる。

172 名前:1 :2014/06/11(水) 22:19:53 ID:ZxCJGoXU0

戦場に屍が増え始めた…。
その所々は目をつむって走っても必ず横たわる人間を踏み抜いてしまうほどに。
誰もがそれを気にかけることなく累々とした死体を足場に疾走するなかで、彼だけは全力で走ることを躊躇う。

(-_-) 「"フサギコ" さん! 隊列が…」

ミ,,゚Д゚彡 「すぐ追い付くから!」

乱戦模様の戦場において、陰鬱のような魔導士は前後左右のいずれかに穴があると狙われてしまう。

ナナシがあまりにも遅いわけではない…スカーフェイスと外斜視のようなスピード型が先陣を切る場合には、鼻唄のような遠距離型でもない限り、敵陣との衝突に対応が遅れてしまうのだ。

再び敵騎士が迫ってくる。

(#゚;;-゚) 「そいつらは後ろに任しとき! 吹っ飛ばしとけ!」


スカーフェイスの指示が、 ーー後ろから迫った騎士を蹴散らすよう、ナナシに向けて飛ばされた。

173 名前:1 :2014/06/11(水) 22:21:53 ID:ZxCJGoXU0

ミ,,゚Д゚彡 「っだァ!」

ナナシは駆ける脚を踏ん張りブレーキをかけつつ、騎兵槍を再度スイングする。
そのリーチはまだ本来届くことのない位置にいた騎士の鎧をかすり、その膂力は鎧を容赦なくガリガリと削り砕く。

前進を止められた騎士の身体が、真正面からの重力に逆らうように少しだけ宙に浮き、そのわずかな間にナナシが次の態勢に入る。

更に身体を一回転。
ーー まだ騎士の身体は宙にあり、その足は土を踏んでいない ーー
先の一撃とは異なる、ウェイトを乗せきった横からの渾身の一撃が襲い掛かる。

ミ#,,゚Д゚彡 「ガアアアアアアッッ!!!!」

ガシャアンっ!と鎧と骨の砕ける音が木霊した気がした。
金色の獣の咆哮と共に、踏み耐えることも叶わなかった騎士が後衛もろとも彼方へと滑り舞っていく。



ミ,,゚Д゚彡 「…〜〜フゥー…」


ナナシは大きく息を吐き、呼吸を一つ整えると、前進した。

174 名前:1 :2014/06/11(水) 22:23:04 ID:ZxCJGoXU0

スカーフェイス達との距離は離れてしまったがペースを速めることはない。


戦場で横たわる人間は三種類。
負傷し、自力で立ち上がることができない者。 息を潜めて体力を温存し、逃げる算段を練るもの。 …そして、志半ばで死んでしまった者。

負傷した者が立ち上がるまでに、それに気付かず後陣から踏み殺されるのは珍しくない。

そして、息を潜めるものも同様だ。
生き延びたい一心で震えてじっとしているところを、全体重をのせた歩みによって踏みにじられる気持ちは味わいたくないし、味わわせたくない。


ナナシは横たわる者達を足場に戦場を駆ける… 他の者から見れば、鈍重な戦士の歩みには見えても、手を抜いて走る様には見えない。

致命傷を負わないような手足に限っては躊躇せず、しかし、決して胴や顔を足蹴にすることなく、彼は戦場を一生懸命走った。

175 名前:1 :2014/06/11(水) 22:25:14 ID:ZxCJGoXU0

先をいくスカーフェイス達が周囲を改めて見渡すと、いつの間にか、
本来なら落城用突撃型兵器と思われるオートマトンが姿を見せていた。


遠くを見渡す見張り台ほどの全長に、上部からの矢雨と落石を防ぐための円錐形の傘、胴体下部には人の背丈に合わせたような極太の棍を装着。

その滑稽な形から"マッシュルーム"と名付けられた突撃兵器が、スカーフェイスの向かう先にそびえ立つ。

「こっちだ、急げ! 蹴散らせ!!」

広範囲に渡って回転し棍を振り回すその巨大な兵器は、地上戦においても凶悪と言える効果を発揮する。 そのリーチも人が扱ういかなる武器より長く、そして頑丈だ。

そして問題は、それを敵軍が用いて来たということ。
…すでにマッシュルームは起動しており、味方と思われる兵士や傭兵達の骨を砕きながらこちらへ向かってくる。
さながらまとわりつく亡霊の群れを振り払うように。

176 名前:1 :2014/06/11(水) 22:27:16 ID:ZxCJGoXU0


(・∀ ・) 「おいおい間近でみるとすげーな…」

('A`)「ふひ… 接続部分でも試しに狙ってみるか?」

そう言うが早いか…鼻唄がガンアクスを無造作に構えてトリガーをひくが、着弾した様子はない。
外したのではない、マッシュルームの目前で弾かれたのだ。
空中でエネルギーが拡散した際に表れる幾何学模様の魔導力…それはシールドが張られている事を示している。


('A`)y-~ 「コイツが弾かれるようなシールド魔法ってなると、普通の攻撃じゃ通用しないぜ」


慌てるどころかこの状況下でタバコを吸いだした鼻唄。
そしてガンアクスの銃口を抜け目なく周囲に巡らせ、相変わらず騎士の接近は許さない。

177 名前:1 :2014/06/11(水) 22:29:24 ID:ZxCJGoXU0

(-_-) 「シールド魔法ならどこかにそれを詠唱してる魔導士がいるはずだ、それを探さないと…」


陰鬱がそれらしい対象を探しながら、まずは視界の壁と化した騎士達に向けて魔法を放った。

前衛に立ち、自ら相手に立ち向かう騎士や兵士に比べて、身体能力に劣ることの多い魔導士が単体でその姿を晒すことは愚かしい。
そして距離を取りすぎると魔導力を正しく対象に伝えることが難しいため、兵器の大きさを鑑みてもこの乱戦の場のどこかにいるはずだ。


陰鬱の魔導力の解放と共に杖が光り、前方に立ちはだかる騎士達の足元から火柱が迸る
【フレアラー】の魔法により、周囲の温度が急激に上昇し揺らめく。

「ぐあああっー」
「があ"あ"!?」

火柱直撃の衝撃に加え、鉄や金属で造られた全身鎧にも耐熱効果のある素材が混ぜこんであるはずが、対象となった騎士達からは絶命の叫びが上がる。

178 名前:1 :2014/06/11(水) 22:31:52 ID:ZxCJGoXU0

(#゚;;-゚)〜♪ 「おーおー、なかなかやるなあ、その杖のお陰かは知らんが」

自身に迫る騎士を長刀で斬り薙ぎ、さらに陰鬱の詠唱を邪魔する敵兵士も強引に斬り伏せてなお、余裕を見せながら口笛を鳴らす。
陰鬱本人による魔導力の高さも手伝ってか、その威力にはスカーフェイスも唸った。


(-_-) 「どうも…。
しかしシールドがあったらほとんどの魔導力が削られるし…しかもあの大きさの兵器を守ってるとなると…」

シールドを担当するのは一人ではないはずだ。
…しかし、その捜すための労力を使う前に試すべき事がある。


ミ,,゚Д゚彡 「……どいてて」

ミルナの騎兵槍を携え、追い付いたナナシが再び先頭に立つ。

(#゚;;-゚) 「アンタならいけるか?」

ミ,,゚Д゚彡 「それが得意だから」

(・∀ ・) 「敵を殺せない分だけ足ひっぱってんだ、ここで役に立たなきゃ足手まといだわな」


外斜視の言葉には棘がある、が、気にはならない。


ミ,,゚Д゚彡 「人を殺して威張るより、自分が蔑まれるほうがよっぽど良いから」

ハッキリと外斜視の瞳を見て答えた。

179 名前:1 :2014/06/11(水) 22:33:48 ID:ZxCJGoXU0

(・∀ ・) 「へっ、格好つけるなよ!
いいからいけよ、頼んだぜ。
俺やスカーフェイスの武器はあくまで対人向けだから騎士の奴らでも相手しとくわ」

嫌味を言って、外斜視は敵陣に斬り込んでいった。
途中、マッシュルームが繰り出した旋風棍が迫る。
味方陣営の兵士や傭兵達は成す術なく薙ぎ倒されたが、彼はいずれも軽々と飛び越えて騎士に剣を突き立てている。


彼のような身軽さがあれば得物次第ではマッシュルームのような巨大兵器にも太刀打ちできるかもしれないが、人には得手不得手がある。


(-_-) 「マッシュルームのあの棍は攻撃力が高すぎる…君にシールドくらいはかけられるよ。
だけどもし敵兵が近付いたら…」

(#゚;;-゚) 「そん時はあたしがカバーしたる。
騎士どもはあの"外斜視"と…おらんな、ま、その辺にいる"鼻唄"の奴がなんとかするやろ」


戦いが繋ぐ関係とはいえ、人と対等に接する事がナナシは嬉しかった。

…人殺しが嫌なんじゃない。
ミルナを失った自分のように、遺された人の事を考えたら殺さないに越した事はないだけだ。

ミ,,゚Д゚彡 「…いってくるから!」

騎兵槍をしかと握りしめ、臆することなく、マッシュルーム目掛けて走り出す。

180 名前:1 :2014/06/11(水) 22:36:42 ID:ZxCJGoXU0


こちらの接近に気付くマッシュルームから、一発目の棍がナナシと、その周囲に対して振り回された。


まずは騎兵槍を大地に差し、その反動で宙に逃れる。
着地の際に騎兵槍の重みで考えていたより腰が沈んだ…数秒の遅れを取るが構わず走る。

右前方から敵魔導士の詠唱と共に、【ウインド】の魔法突風がナナシを襲った ーー が、陰鬱のシールドが発動した事に気が付く。
本来同時に迫り来るカマイタチの魔導力は防がれたため、傷ひとつ負わない。
ただし魔法突風は向かい風となってナナシの身に残り続けてしまう。

181 名前:1 :2014/06/11(水) 22:38:58 ID:ZxCJGoXU0

マッシュルームの第二撃が迫る。

おそらく相手の魔導士もこれを狙っていたのか、魔法突風のせいでさっきよりも身体が重い。
騎兵槍を斜めに構えて旋風棍を待ち受けた。

(;#゚;;-゚) 「"フサギコ"!」

背後でスカーフェイスの声が聞こえた気がするが、振り向く余裕はない。
陰鬱の魔法シールドが幾何学模様の魔導エネルギーを展開するも容易く打ち砕かれる。
ほとんど勢いの衰えない旋風棍による衝撃を限界までいなして今度は宙に飛ばされた……ただし、自分の意思で。


尺の長い騎兵槍によって、棍そのものが身体に届く前に衝撃ベクトルを斜めに受け続けたナナシは真上に吹き飛ばされた。

想定内のダメージを受けつつ、慌てず着地に成功して、三度走り出す。

182 名前:1 :2014/06/11(水) 22:41:50 ID:ZxCJGoXU0

しかしまだ思ったより距離が残っている。
もう一度なんとかあの旋風棍を凌がなければいけない…視界の端で先の魔導士がまた魔法を詠唱しているのも見た。

自覚はないがナナシの全身から冷や汗が流れ出す。


(#゚;;-゚) 「"陰鬱"、【ウィンド】や!」

(;-_-) 「それよりも… こっちだあ!」

スカーフェイスの指示より早く陰鬱が詠唱したのは、より広範囲の【ウインダラー】。
魔法突風とカマイタチが、まだ詠唱中の敵魔導士とマッシュルームにまとめて襲い掛かる。
…当然、マッシュルームの手前を走るナナシにも。

陰鬱の判断からワンテンポ早く発動した風の魔法。
敵魔導士の詠唱を中断させ、その身を切り刻む。
マッシュルームはシールドがその効果を阻み、びくともしない。
…そして、ナナシには、


ミ#,,゚Д゚彡 「がぁァアア!!」

陰鬱がナナシに掛けていたシールドは、【ウインダラー】の詠唱に切り替わった際、すでに解除されている。
そのせいで魔導力を背中一面にまともに受けながらも、ナナシは騎兵槍に全力を注ぎ込んだ。

183 名前:1 :2014/06/11(水) 22:45:39 ID:ZxCJGoXU0

捲き込まれる形とはいえ、トルネード並みの追い風によりスピードアップしたチャージランスがマッシュルームに肉薄。 接触。

バリリィン! と、幾何学模様のシールドを突き抜けて、さらにマッシュルームの根元で稼働している魔導力の源ごとぶち破った。


ーー 直後、マッシュルームの旋風棍や稼働域となる胴体部分、頭部が立て続けに小爆発を起こす。

ミ,,;;;Д゚彡 .;" 「ぐはぁ…っ!!」

爆発を間近で受けたナナシが大きく吹き飛ばされた。

184 名前:1 :2014/06/11(水) 22:47:34 ID:ZxCJGoXU0

(#゚;;-゚) 「"フサギコ"…!」

(;;・∀ ・) 「…ちっめんどくせえ奴だな!」

マッシュルームの撃破に気付いた外斜視がその方角に居たため、相変わらずの嫌味と共に、爆風で吹き飛ぶナナシの救出に向かった。

周囲の騎士はあらかた息の根を止められ、彼が障害なくナナシの元にたどり着くことができたのは幸いだった…
外斜視がナナシの顔を覗き込み、肩を抱いて起こしにかかる。


ミ,,;;;Д゚彡 「…い、いたいから」

(;;・∀ ・) 「痛いうちはダイジョブだろ、よくやったぜお前は」

ミ,,;;;Д゚彡 「み、耳が聞こえにくいから…」


爆発音によって、一時的な聴覚異常が起きただけだろう。 すぐに治るはずだ。

(;;・∀ ・) 「あー、いい いい。
ひとまず一旦、ここから離れるぜ」

身ぶり手振りで行動を伝える外斜視。

185 名前:1 :2014/06/11(水) 22:49:11 ID:ZxCJGoXU0

よくみれば余裕そうに戦っていた外斜視も無傷ではない。 乱戦はあらゆる方向から襲われるため、どんな手練れでも傷を負うものだ。
軽業師のような動きを駆使する外斜視も、例外ではない。


ミ,,;;;Д゚彡 「これで、皆ももっと闘いやすくなるから」


そう、幸いだった…
ーー 互いの戦力が程よく減ったのは。

186 名前:1 :2014/06/11(水) 22:51:04 ID:ZxCJGoXU0
(;;・∀ ・) 「ああ、そうだッ ーー 」

肩を支えてくれていた腕から突如ちからが抜けて、ナナシはまた倒れ込む。

不意をつかれたように後頭部を地に打ち付けつつも、意識を保って自力で頭を上げたナナシの前に、








胸に穴を開けて倒れ込む外斜視の姿があった。

…横たわる大地に、命が助かるとは思えないほどの、大量の血液を溢れ出させて。

187 名前:1 :2014/06/11(水) 22:52:09 ID:ZxCJGoXU0
------------


〜now roading〜


(#゚;;-゚)

HP / C
strength / B
vitality / D
agility / C
MP / F
magic power / D
magic speed / G
magic registence / C


------------

188 名前:1 :2014/06/11(水) 23:23:56 ID:ZxCJGoXU0

('A`)「いやあ〜、あのマッシュルームだけはなんとかしてもらえて助かったわ〜」


鼻唄の飄々とした声がやけに辺りを支配する。


('A`)「一通り見て回ってきたけど、あとはこれまで通り対人のみの戦さになりそうだな、ふひひ。
…どうした?」


(#゚;;-゚) 「…あんたァ」


ナナシにはまだ音が聞き取れない。
しかし、状況を把握することは出来た。
…鼻唄のガンアクスの銃口から硝煙が立ちのぼっている。

189 名前:1 :2014/06/11(水) 23:25:47 ID:ZxCJGoXU0

(;-_-) 「な、なにやってんだよ!
なんで味方を…」

('A`)ノシ「いや、そんなん居ないし」


二人の表情からもわかる。 …たしかに外斜視を撃ったのは鼻唄だ。
しかしそれを微塵も感じさせない態度が、スカーフェイスの怒りを増して買う。


(#゚;;-゚) 「ほ〜、裏切り者っちゅうわけか。
やってくれるやん」

長刀を握り直しいまにも飛び掛かるところだが、

('A`)ノシ「いやいやいや、それも違う」

要領を得ない鼻唄の返答に、さすがに違和感を感じて踏みとどまる。



ーー だが、それこそ失敗だった。

('A`)「俺はね、常に一人なの。
裏切るもなにもない。 皆殺しっていう」


(;;-_-) .;" 「グフッ…!」

(#゚;;д゚) .;"「…かっは…ァ…!?」


唐突に、スカーフェイスも陰鬱も苦しみだした。
ナナシは目を逸らしてはいない。 鼻唄は特になにもしていないように思う。

190 名前:1 :2014/06/11(水) 23:27:51 ID:ZxCJGoXU0

('A`)「ふひひ。 そろそろ効いてきた?
それね、毒」

(#゚;;-゚) 「!?」

('A`)「スカーフェイスっていえばそこそこ名の知れた傭兵だけど、俺の名前、聞いたことないか?」


(;-_-) 「ど、毒…? なら…」

('A`)「あ、忘れてたわ」

言うと同時に、またガンアクスが火を噴く。

もはや雑音にしか聞こえない破裂音と共に陰鬱から鈍い音が吹き出したかと思えば、その姿が背後へと吹き飛んだ。

喉から絞り出されるような呻き声が、何かをいう前に大地に染み込み、かき消えた…。


('A`)「魔導士を潰しとけば」


ナナシは陰鬱の最後の表情をみてしまった。
裏切りの驚愕、そして無念と憎悪に満ちた顔のまま、陰鬱は命を失ってしまった。


('A`)「俺の毒を戦場で治すこともできない」

191 名前:1 :2014/06/11(水) 23:29:50 ID:ZxCJGoXU0

スカーフェイスは膝をつき、しかし顔を鼻唄から離さない。


(#゚;;-゚) 「……あんた、"ポイズン" か…」

('A`)「知ってるじゃねえか」

('A`)「しかしなんで俺の顔が割れてないかな?
戦場でほかに生き残りがあんま居ないからかな」

ふひひ、と笑う。
彼の態度は貨物車に同乗していた時から変わってはいない。 …変わったのは、こちらが彼をみる目だ。


それだけで、ひどく不気味な印象に掏り替わってしまう。

192 名前:1 :2014/06/11(水) 23:33:52 ID:ZxCJGoXU0


戦局をみればマッシュルームの撃破は敵陣の意気を削ぎ、味方を鼓舞したが、まだ乱戦は続いている。

鼻唄は背後に騎士達を控えている。
が、それも味方ではないという…


ならば、

「しねええ!」

鼻唄…いや、 "ポイズン"に、騎士が斬りかかる。

"ポイズン" は表情を変えず、肩にガンアクスを掛けたかと思うと、振り向かずそのまま発砲する。


騎士がまた一人、無慈悲に命を吐き散らす。
ーー それと同時に、"ポイズン" の背中から血塗られた刃がズリュリと生えた。

ミ,,;;;Д゚彡 「!」

不自然に長いその刃が、決して自分の意思で生えたものではない事を主張するようにその身体をよろめかせる。


(#゚;;-゚) つ「……隙だらけや、ボケが」

スカーフェイスの長刀が手を離れ

「ーー ぼふっぅ」 ・".('A` )

"ポイズン" の心臓を貫いていた。


まるで、はち切れんばかりに水と空気を入れて縛られた袋に穴をあけたように、"ポイズン" の口からは止めどなく血が流れ出し、そのまま倒れ込む。

193 名前:1 :2014/06/11(水) 23:36:11 ID:ZxCJGoXU0

所持する武器が一つである限り、そして銃口が別の誰かに向けて牙を突き立ててる限り。
身体と顔がどちらを向こうが、その神経は銃口と共にある。


ーー 人は日常において…
五感の中で"見る"事に頼る部分が多いが、それは"神経で見ている"からだ。
というのがスカーフェイスの経験論 ーー


たとえ視界に入っていようが、神経がそれを見ていなければ視覚していないのだ。

彼女はその隙を見逃さなかった。

194 名前:1 :2014/06/11(水) 23:39:40 ID:ZxCJGoXU0

(;'A`)「ぐっほ…いてぇ〜
ち、くしょう〜 殺せ〜…ゲフっぇ……ふひ」

(#゚;;-゚) 「そらもう死ぬわ、あんた」


肺の中の空気が漏れるようにブツブツと呟くポイズンを捨て置き、スカーフェイスがまだ少しフラフラした様子でナナシに近づく。


(#゚;;-゚) 「立てるか?」

ミ,,;;;Д゚彡 「…だい、丈夫」


ナナシもやっとの思いで立ち上がる。
時間の経過で耳が正常に音を聞き取れるようになったのも大きい。
痛みに慣れた身体は、その場から退避するだけの力を甦らせる。


(#゚;;-゚) 「今度こそ一旦退くで。
今日の戦いはまだ終わらん、その傷を落ち着かせて、あたしも解毒しとかんと」

ミ,,;;;Д゚彡 「……わかったから。
でも…」


自陣に目をやるが、乱戦に次ぐ乱戦でもはや戻ることは難しく、すでに貨物車も次の兵を運ぶべく戦場から引き揚げている。

195 名前:1 :2014/06/11(水) 23:41:56 ID:ZxCJGoXU0

しかし、ナナシが気にしたのはそれではなかった。

スカーフェイスも胸元からカミソリ程の極小ナイフを取りだし、

(#゚;;-゚) 「…アイツらは残念やったな」

そう語りながら…
外斜視と陰鬱の首元から、同じ陣営で戦う証だった識別リングプレートを切り外す。




"ヒッキー"
"またんき.S"


プレート裏にはそれぞれの本名と思われる刻印。


彼らに家族がいるならば、このプレートが死亡通知となる。
家族がいなければ…墓標となるのだ。



ナナシは、心のなかで彼らの冥福をそっと祈った。

196 名前:1 :2014/06/11(水) 23:43:41 ID:ZxCJGoXU0
----------



ナナシとスカーフェイス。
二人が戦場から抜け出した先には、すでに避難が終わっている集落が佇む。


海に面したこの集落には火の手はまだ上がっていない。 …おそらく戦略的な利点が伴わないからだろう、とスカーフェイスが独りごちた。

先ほどまでいた戦地からは丘になっていて、ここからならその状況が遠目にだが確認できる。
…ただし、敵が迫ったら逃げることは難しいかもしれない。

197 名前:1 :2014/06/11(水) 23:47:14 ID:ZxCJGoXU0

ミ,,;;Д゚彡 「……」

集落の入り口を抜けると、なんともいえない不思議な感覚に心を覆われる。


(#゚;;-゚) 「当たり前やが人の姿は見当たらんな…
その辺お邪魔して手当て出来そうなもん捜すか」


彼女には特に何も感じられないようで、警戒は解かないまま奥に進んでいく。


この集落の家屋の文化的レベルは高くない。
点在する畑も、収穫を迎えることなく置き去りにされた野菜のほとんどは枯れ果てて放置されている。
いずれも個人が耕した程度の広さしかないため、避難の際に持っていかなかったのだろう。

散開とした発展具合を鑑みるに、たとえ戦争が起きていなくともそれほど裕福とは言えない土地なのかもしれない。


順番に家のなかを覗き、手分けして薬や包帯を探してみるが見当たらず、人も物も、もぬけの殻だ。

198 名前:1 :2014/06/11(水) 23:49:25 ID:ZxCJGoXU0

(#゚;;-゚) 「あかん、身体がぐらついてしゃーないわ…なんもないんかい」


スカーフェイスの顔色が芳しくなかった。

仕組みはわからないが "ポイズン" の仕掛けた毒は、彼女を蝕み続けた。

…恐らくは自然界において毒をもつ獣達と同程度の症状を発症させているのかもしれない。 …持続性が高く、獲物を追い詰めるための毒。
もしそうだとすれば、あまり長い時間そのままにしておけない。
即効性はなくとも、やはり命に関わる。

199 名前:1 :2014/06/11(水) 23:52:08 ID:ZxCJGoXU0

さらに集落の奥に進むと、螺旋を描く岩階段が見えた。


ミ,,;;Д゚彡 「……これ…」


ナナシの記憶に眠る、幼い頃のイメージが重なる。


この岩階段で、周りの子と馴染めなかったナナシが一人登り降りして遊んだ記憶。
いや、同じように一人で遊ぶ女の子がいたかもしれない。

岩階段を一歩一歩登り、振り向くたび、集落を上から見渡しては見晴らしの良い解放感を味わう。
そして、その向こうには海が広がる水平線と、まだ見たことの無い島か大陸か…。

幼いながらに想像して、しかし、永遠にあそこには行くことなく自分はこの集落でやがて死んでいくのだろう…と、朧気ながら思っていただろうか?

200 名前:1 :2014/06/11(水) 23:53:19 ID:ZxCJGoXU0

それまでの自分より、あの日、ミルナと歩み始めた頃からの記憶の方が鮮明だ。



( ゚д゚ ) 『…皆とお別れはしていかないのか?』

ミ,,゚Д゚彡 『へーきだから…』

( ゚д゚ ) 『さっきの女の子とも?』

ミ,,゚Д゚彡 『うん』



ーー そう言って、当時この岩階段の上にある教会を後にしたのだった。

201 名前:1 :2014/06/11(水) 23:55:28 ID:ZxCJGoXU0

岩階段がゴールを迎える…。
あれから何年も経ち、さすがに外観の古くなった教会が同じ場所で未だ健在していた。
当時の他の子ども達はあれからどうしただろう。

里親が現れたか、それともまだこの教会に住んでいるのか…いや、さすがにいまは避難しているか…。


(#゚;;-゚) 「だれや? 避難してなかったんか?」

思い出に浸るナナシの思考を遮るスカーフェイスの声が少しだけ警戒を滲ませている。
慌ててナナシも騎兵槍に手を掛けた。

202 名前:1 :2014/06/11(水) 23:57:20 ID:ZxCJGoXU0

( ^ω^)「そっちこそ何者だお?
こんなところまで…」


教会の入り口を塞ぐように立ちはだかるのは、ニコニコした若い男…
ナナシより少しだけ歳上だろうか。

だが、服や外套に覆われたその佇まいからは歴戦の戦士を思わせる雰囲気を嫌でも感じさせられる。
腰にも数本帯剣しており、かなり使い込まれていることが鞘の褪せ具合からも分かる。


スカーフェイスはいま長刀を持っていない。
もし敵兵だとすれば自分が矢面に立たねばならない。

ーー せめて彼女は逃がしてやりたい

思わずそう考え、そしてハッとする。

203 名前:1 :2014/06/11(水) 23:58:27 ID:ZxCJGoXU0

生来の勇敢さから過去、一度も敗北した時の事を考えたことはなかったナナシは、自分の頭によぎったこの考えに驚いた。

自分はこの男には敵わない。
万全な態勢であっても。

自然にそう考えてしまったのだ。 …その得たいの知れない強大さが、目の前の男には確固として存在する。

204 名前:1 :2014/06/12(木) 00:00:31 ID:19bhCS9M0

(#゚;;-゚) 「…あんたこそ、なんや?
うちらはちぃと手当てだけさせてくれるならすぐ消えたる。
でもな、もし…」


スカーフェイスはある程度の言葉を選んで対応した。
もし敵兵と分かれば ーー


( ^ω^)「構わないお。 ただ、この中には入らない。
…それが守れるならね」

(#゚;;-゚) 「それでもかまへん。
ただし爆弾だの危ないもん作ってないならな」


互いに探りあう。
こちらの探りにも、笑う男は動じない。


当然だ。
そもそもが杞憂だったのだから。


( ^ω^)「…この中で、赤ちゃんが産まれそうなんだお……」

205 名前:1 :2014/06/12(木) 00:02:52 ID:19bhCS9M0

彼が守ろうとしていたのは、ーー 妊婦。
避難に間に合わず、ついには産気付いてしまい、この教会で産むことになったのだ。


ブーンと名乗った笑う男にはそもそも敵意が無かったらしい。
スカーフェイスの推測通り、この集落をわざわざ戦場として使うような価値はなく、かといって万が一にも巻き添えは恐ろしい…
住人が迷い戸惑っていたそんな時、彼もここにたどり着いたという。

206 名前:1 :2014/06/12(木) 00:05:00 ID:19bhCS9M0

( ^ω^)つ ( (◎) )
「ブーンはここでツンと待ち合わせてるんだお。
はぐれてしまった時の合流地点…まさかすぐそこがもう戦場になってるとは思わなかったけれど」

( (◎) ) (゚-;;゚#)
「ツンってあんたの恋人かなんかか? …傭兵とかでもなければ多分あたしらは見かけてへんけどなあ」


教会にも手当てする道具は余ってなかったらしいが、ブーンは解毒魔法を使うことができた。
スカーフェイスは治療してもらいながら、もう彼との会話に馴染んでいる。


( ^ω^)「これで毒は平気だお。
…それにしても戦場で使うにしては悠長な効果の毒だおね」

(#゚;;-゚) 「やっぱりそう思うか?」


言われて気付く矛盾点。 スカーフェイスはさすがに分かっていたようだが、確かに違和感がある。

207 名前:1 :2014/06/12(木) 00:06:30 ID:19bhCS9M0

^Ъ (#゚;;-゚) 「ま、ええわ、巻き込んだらアカンからこの話はやめとこ。
…もうどれくらいなんや?」


治療を終えると、クイッと教会を指さし聞いた。
出産の事が気になる。


(;^ω^)「もうまる一日経つお…」

(#゚;;-゚) 「設備の乏しそうなとこでその時間は危ないな…」

ミ,,゚Д゚彡 「ブーンは…ずっと見張ってたの?」

( ^ω^)「おっおっ、これくらいならなんともないお」


(#゚;;-゚) 「せやけど、無事産まれたらええな」

( ^ω^)「だお! きっと大丈夫だお!」


弾むように答える様子はさっきまでの雰囲気とはかけ離れたものだった。
こちらが素の顔なのだろうか。


そして、

208 名前:1 :2014/06/12(木) 00:08:56 ID:19bhCS9M0


ーー …ァァ! オ ギャア!!


教会の中から元気な産声がここまで響いた。
心なしか教会全体を包み込む雰囲気も穏和になったような気になる。
きっと出産は成功したのだろう。


(*^ω^)「よかったお! 泣いてるお!」


ブーンは一層強く笑った。
こちらもつい笑みがこぼれる。 …今日の数時間前までは戦争に参加し、殺し合いをしていたのに。


(#゚;;-゚) 「おーおー威勢のいい産声や。
元気そうな男の子やろな」

ミ,,゚Д゚彡 「わかるの?」

(#゚;;-゚) 「傭兵に本腰いれるまでは助産婦だったんやで。
……ま、もう昔の話や」


スカーフェイスもニカニカと笑っていた。
…ほんの数時間前には殺し合いをして、
"ポイズン" をもその手で殺し、
陰鬱と外斜視の死を確かめてしまったのに。

209 名前:1 :2014/06/12(木) 00:11:13 ID:19bhCS9M0

助産婦の女性が教会の扉を開けると、こちらに声をかけてくる。


女「旅の方! 産まれました、母子共に健康に!
長い時間、見張りなんてお願いしてしまって…」

( ^ω^)「いいんだお!いいんだお!

…じゃあ、ぼくはこれでおいとまさせてもらうかお」

(#゚;;-゚) 「え、ちょいちょい、顔見てかんのか? 知り合いなんやろ?」


ブーンは顔を横に振り、岩階段の方角を指差す。


( ^ω^)ノ 「ただ待ち合わせのついでに見張ってただけで、別に知り合いではないお。
それに、もう待ち合わせもちょうど終わりだから」

女「あぁ、善良なる行為に感謝致します。
旅の方、あなたに神の祝福がありますように…」


助産婦が指を組み、頭を垂れてブーンに祈りを捧げるのを見届けると、彼は嬉しそうに両手を広げて急ぐように岩階段を掛け降りていった。

210 名前:1 :2014/06/12(木) 00:13:06 ID:19bhCS9M0


(#゚;;-゚) 「慌ただしいというか、明るいやっちゃな〜…」

女「あなた方も、見張りを?
もしお急ぎでなければ是非ともお礼申し上げさせてください。
この中で、さきほど母親となった方もお待ちしているんです」


助産婦が教会に招き入れようと扉を支えている。 本来ならブーンがここに入るべきだと思うのだが…


(#゚;;-゚) 「…なあ"フサギコ" 、あんた産まれたての赤ん坊、みたことあるか?」

ミ,,゚Д゚彡 「えっ?」

211 名前:1 :2014/06/12(木) 00:15:09 ID:19bhCS9M0

棄てられたての赤ん坊なら見たことがあった。

ーー 自分も恐らくは同じだったはずの、親に見棄てられた赤ん坊や子供。

ーー なにもわからないまま、きっと誰かが救い上げてくれなければ朽ちていく命だった赤ん坊。


幼い自分が退屈だと思っていた、暗い穴の底辺だと思い込んでいたこの教会が……こうして命を救い上げ続けていたのかと思うと。


ナナシは胸に込み上げてくるはじめての感情に心を囚われていく。

212 名前:1 :2014/06/12(木) 00:17:48 ID:19bhCS9M0

(#゚;;-゚) 「社会勉強や。 せっかくだからお邪魔して見てみぃ」

"人を殺さないあんたが、もしかしたら遠回しに救ってるかもしれん命だと思ってな"


…最後の一言だけ、とても小さくナナシにだけ聴こえるように喋った彼女は、特に笑ってはいなかった。
代わりに、なにかとても、とても寂しそうに見えたのが印象的だった…。


助産婦に迎えられ教会に入っていくナナシを後ろから見守りつつ、スカーフェイスは岩階段から集落を振り返り、見下ろした。




(^ω^)ノシ
ξ゚听)ξ ノシ


(#゚;;-゚) 「あれがブーンの待ち人かい」

仲睦まじく旅立つ二人を見送ると、小さく溜め息を吐く。




(#゚;;-゚) 「…あたしもああして過ごせとったら違った人生だったんかもなあ」




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213 名前:1 :2014/06/12(木) 00:19:42 ID:19bhCS9M0

教会で出産を済ませた女性との対面は、それまで空虚だったナナシの人生に、一粒の波紋を波立たせた。


かつての女の子との再会。


母親となったその女の子とナナシがくぐったのは、ミルナの故郷であり、ナナシが長く育ったあの村の門だった。

214 名前:1 :2014/06/12(木) 00:23:25 ID:19bhCS9M0

村長「…ナナシ、おぬし無事だったのか!」


数年ぶりに会う村長の顔はもはやしわくちゃで、まるで懐で押し潰された饅頭のようだと思った。


ミ,,゚Д゚彡 「…ただいまだから」

ナナシは思わずたじろぐ。


「風の噂でお前の事を聞いた奴がいたんだぜ!
フサギコって名前で、人を殺さない奇特な傭兵がいるってさ!」

「昔は、本当に悪かったな…
"塞ぎ児" だなんて、陰で呼んじまって…お前が出てったあと、俺たちみんな考えたんだ」

「このまま…、あいつは…、
ナナシは死んじまったら、そんな気持ちのままあの世にいっちまうのかよ…とかさ。
そんなことになったら、もし俺たちもあの世にいった時、ミルナに合わせる顔がないって!」


村人達から、謝罪と後悔の言葉が降り注ぐ。
ナナシの顔を見るなり、涙ぐむ者もいた。

215 名前:1 :2014/06/12(木) 00:25:23 ID:19bhCS9M0

傭兵家業は人に嫌われやすい。
このご時世…そのほとんどが、金のために働く人殺しや、戦争屋といっても差し支えがないからだ。


しかし、ナナシは決して殺さなかったのだ。
受け取った報酬も、自分のためにはほとんど使わなかったのだ。


村長「お前が送ってくれていたお金は一つも手をつけておらん。
お前の…ミルナとの古家に保管しておるよ」


ミ,,゚Д゚彡 「…みんな…」


これは、ミルナがくれた贈り物だ、と思った。
ミルナが居たから今のナナシが存在する。

そして…


(*゚ー゚) 「ミルナ…さんって、あの時のギョロ目の?」


昔、教会で唯一ナナシに懐いていた女の子…今は一児の母となった女性が、ミルナの名に反応する。

216 名前:1 :2014/06/12(木) 00:29:17 ID:19bhCS9M0

出産後、人のいなくなったあの集落では生活も成り立たないため、ナナシの村に避難しようと共に来たのだ。

スカーフェイスも道中まで見送ってくれたが、再び戦地に赴くと言う彼女は、村にたどり着く前に別れを告げた。


村長「ミルナをご存じか? ひょっとしておまえさんは…」

(*゚ー゚) 「はい。 ミルナさんはあのあと何度も私達の集落に寄って頂いてました。
出稼ぎの帰りだから、と、そのたびに教会に寄付されてたみたいで…」

ミ,,゚Д゚彡 「!!」

(*゚ー゚) 「皆に好かれてました。
最初は怖がってたけど…優しくて頼りになるって大人にも子供にも」

村長「そうか…あやつらしいな。
ところでお前さんの名前は?」


(*゚ー゚) 「しぃ。 せめてこの子が大きくなるまで、この村でお世話になります」

217 名前:1 :2014/06/12(木) 00:31:23 ID:19bhCS9M0

これから一緒に村で過ごすのだから…と、矢継ぎ早に質問する村人達を諌めて、ナナシとしぃは、ミルナの古家にその身をやっと落ち着かせた。


ナナシにとって、これから新しい生活が始まる。
まずは、しぃの夫を捜さなくてはならない。


(*゚ー゚) 「…彼も戦争に行ってしまったの。
もともとは国に雇われた軍師だったけど、ちょうど一年くらい前から戻ってこなくなって…」

ミ,,゚Д゚彡 「戦争はすごく大きくなったから…」

(*゚ー゚) 「フサ…ナナシは、紅い森って知ってる?」

218 名前:1 :2014/06/12(木) 00:34:13 ID:19bhCS9M0


大陸の北西には、ナナシとしぃの居た教会のある集落。
そこから山々を越えて南下するとミルナとナナシの故郷の村。

そして紅い森は、ここから反対側となる大陸の真東に位置する、古の部落が住むといわれる広大な土地だ。


(*゚ー゚) 「彼がその名前を口にしたのを聞いたことはある…でも、もしそこに彼が向かっていたとしたら…」


戦争は大陸の中心地に近いほど、激しさを増す。
よほど運が良くない限り、恐らく無事には帰ってこれないだろう。

219 名前:1 :2014/06/12(木) 00:35:54 ID:19bhCS9M0

ミ,,゚Д゚彡 「……」

(*゚ー゚) 「ねえ、ナナシ」


考え込むナナシに、しぃは訊ねる。


(*゚ー゚) 「…あなたも、また戦争に行っちゃうの?」

ミ,,゚Д゚彡 「……」

(*;ー゚) 「あなたも、もう、もしかしたら帰ってこないの?」


しぃの瞳から涙が零れる。
夫となるはずの男が出発して以来、
数週間… 数ヶ月… そして、一年…
子供を産んだ彼女は、なかなか戻らない伴侶をどんな想いで待ち続けているのか。


ナナシにとって、戦争に行ったきり帰ってこなかったミルナを待ち続けた日々…

そして、
ミルナの亡骸だけが帰ってきたときの絶望感を思い出す。



いまの彼女は、昔のナナシだ。

220 名前:1 :2014/06/12(木) 00:37:45 ID:19bhCS9M0

正直、悩んでいる。


ナナシは新しい命の輝きを知ってしまった。
死んでいく命の重さを知ってしまった。

スカーフェイスのように、過去と現在におそらくは葛藤しながらも、強く生きていこうとする想いもあるという事を知ってしまった。

…そしてミルナのように、自分の意思で出来ることを自分で探して、それを実行する偉大さを知ってしまった。



ーー ナナシは

221 名前:1 :2014/06/12(木) 00:39:37 ID:19bhCS9M0

ミ,,゚Д゚彡 「ナナシは」

(*;ー;) 「?」


ミ,,゚Д゚彡 「ちゃんとここに帰ってくるから!
しぃはここで安心してナナシと夫を待ってて欲しいから!」

(* ;ー;) 「……」

222 名前:1 :2014/06/12(木) 00:41:44 ID:19bhCS9M0
「ナナシは…





( ゚д゚ ) (*゚ーミ,,゚Д゚





きっとあの頃から、ずっとずっと、
強くなったんだね…」

223 名前:1 :2014/06/12(木) 00:45:23 ID:19bhCS9M0

ーー この故郷を守り、しぃの想いを護るべく、ナナシは再び戦地へと赴く決意をした。

「必ず帰るから。」






( ゚д゚ ) 『もし帰ってこられたら、今度こそ俺はお前に…
"お前の父親はもう俺なんだ" と、胸を張りたい』





人は、自信がないからこそ、
もっともっと頑張ろう!と、
胸を張って生きていく。







(了)


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