942 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 00:59:08 ID:rcquB8..0

 朝を知らせる鳥の鳴き声が聞こえる。
 春といってもまだ暗く、朝日が顔を出し始めたばかりで少し肌寒い。
 早朝、とある店の前でガンガンと叩く和服を着た少女はその姿はまるで借金を取り立てる頭にヤのつく言葉を職業にする人のようだ。

 近所迷惑甚だしい行為に業を煮やした『たい焼きの―――大義堂』店主が勝手口から出てきて和服の少女を怒鳴りつける。

(#゚Д゚)「ガンガンうるせぇな! こっちはまだ準備中………またお前か」

lw´‐ _‐ノv「よっ」

 シャッターを叩いている奴を怒鳴りに来たのに叩いていた奴が店主の知り合いだった。
 和服を着た少女が手を挙げて挨拶するのを見て店主は、よっ、じゃねぇよと呆れ、張り上げた声が空しく消えていく。

lw´‐ _‐ノv「値切子、羽根付きたい焼き一つな」

(,,゚Д゚)「誰だよ値切子って、俺は貴楽和子(たからなぎこ)だ。呼ぶならギコだって言っているだろう、いい加減覚えろよシュール」

lw´‐ _‐ノv「や〜い、女みたいな名前のオカマちゃん」

(#゚Д゚)「それは禁句だ! ……ったく誰だこんな名前を付けた奴は………」

 忌々しい、とこんな名前を付けた名付け親に恨み節をボヤいている。
 その名付け親はギコの目の前に居るのだが、言ってしまってはつまらない。
  ギコをからかって遊ぶのは暇を潰すのにはもってこいなのだから。

943 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 01:00:58 ID:rcquB8..0

 ギコやシュールが知る由はないが、毎日のように繰り広げられるこの遣り取りが近隣の住民の名物になっている。
 要は目覚まし代わりである。

(,,゚Д゚)「あのなシュール……、お前今何時だと思ってる? まだ朝だぞ、たい焼きが欲しかったらな営業時間に買いに来いよ」

lw´‐ _‐ノv「どうせ試し焼きしてるんだろう? ちょうどいいじゃないか味見してやるから一つくれ」

(,,゚Д゚)「こっちの話をちゃんと聞いてる? たい焼きが欲しかったら金を払えって言ってるの」

lw´‐ _‐ノv「ケチケチすんなよ貧乏くさい、小さい頃から付き合いだろ」

 それよりも勝手口から漂ってくる生地の焼ける香ばしい匂いで、我慢できなくなるんだ。
  パリっとした生地の食感と苦味と、生地に詰まってるあんこの甘味をより引き立てる。
  熱いお茶と焼きたての羽根付きたい焼きを齧り付いて口いっぱいに頬張る、これを考えるだけで涎が出そうだ。
  さっきからギコが何かを喋ってるみたいだが、たい焼きのほうに興味が行っていて耳に入ってこない。

(,,゚Д゚)「大体な……」

lw´‐ _‐ノv「ギコ、たい焼きには、絶対熱いお茶だぞ分かってんな?」

(#゚Д゚)「お・ま・え・は―――」

 ギコはシュールに対する日頃の不満を話していたのに、シュールはちっとも聞いていない、 ギコが「聞いてんのか!」と、がなり声を張り上げてもシュールにとっては柳に風だ。

944 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 01:04:18 ID:rcquB8..0

 只でさえ一歩通行になって、会話が噛み合わない、おかげでギコにかかるストレスが天井知らず、握り拳が怒りでプルプルと震える。
 シュールの自由奔放さと上からの物言いにギコは頭に血が登っていく、こんなやり取りを続けていくとそのうち血管が切れそうだ。

(,,゚Д゚)「ん?」

lw´‐ _‐ノv

 あまりの反応のなさにギコは違和感を覚える。
 シュールはこういう時、反応を楽しもうとギコを色々おちょくって煽ろうとするのに、今は直立不動の棒立ちだ。

 肩まで届く黒髪のショートヘアが風に揺れ、 色白でかわいらしい幼い顔立ちはあどけなさを感じさせ、 新月の夜空を思わせる黒眼の焦点が合っておらず、桜色の瑞々しい唇はよく見ると口元から涎が垂れていた。

 一人町を歩けば、和服美人が町を歩けば人の注目を浴び、大和撫子を思わせる凛とした佇まいは 誰もが敬うその容姿と立ち居振る舞いが人を魅了する。

 今のシュールの状態は、はっきり言って台無しである。

 よく耳を澄ませば、「たい焼き、たい焼き……」と九官鳥のように繰り返しつぶやく姿はなんか怖い。
 怒る気も失せたギコは、九官鳥状態のシュールをどうしたものか考えるギコの耳に聞き馴染の声が聞こえた。

945 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 01:09:04 ID:rcquB8..0

(*゚ー゚)「ギコ君遅いよ、何時まで油を……シュールさん?」

(,,゚Д゚)「しぃ、どうしたら良いこれ?」

 勝手口から顔だけ出している妻の貴楽椎乃(たからしいな)に、和服の少女をギコは指差す。
 そこに突っ立てても往来の邪魔にしかならない判断したしぃは、ギコにシュールを連れて中に入れるように言う。


(,;-Д-)「……ったく、しょうがないな」

 棒立ちになっているシュールの襟首を掴み、されるがままギコに店の中へと引きずって行く。
 和服を乱暴に引っ張ったりしたら皺になるのだが、ギコからすれば知ったこっちゃないのである。



    ―――lw´‐ _‐ノvのある一日のようです



***

(,,゚Д゚)「出来たぞ」

 ギコがそう言ってシュールに声をかけても、目の前で手を動かしても反応がない。
 置物のように座ったまま動かないで、九官鳥状態で座っている素直の頬を札束が入った封筒を叩くように、羽根付きたい焼きの入った紙袋で叩いて、シュールの目の前にたい焼きをかざす。

 それで我を取り戻したシュールはギコからたい焼きを引っ手繰って、出来たてホヤホヤのたい焼きを口いっぱいに頬張っている。
 舌を火傷しても知らんぞと、ギコの忠告も聞かず、シュールはペロリと一枚平らげていた。

lw´‐ _‐ノv「おかわり、あとお茶」

(,,゚Д゚)「どこまで厚かましいんだお前………」

(*゚ー゚)「シュールさんが欲しがってるんだから作ってあげればいいのに」

946 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 01:15:52 ID:rcquB8..0

 お盆にお茶とたい焼きを載せて運んできた割烹着姿のしぃは、ギコの狭量の狭さに呆れる。 そうだそうだ、と、シュールとしぃと一緒になって茶々を入れている。
 しぃに指摘にされるのは分かるが、シュールに言われる謂れはない。
 納得いかねぇと、頭をガシガシ掻きながらギコは焼き場へと向かっていった。

(*^ー^)「素直じゃない人」

 シュールの隣に座るしぃは苦笑しながら。

(*゚ー゚)「口ではああ言ってますけどギコ君は本当に感謝してるんですよ。
    自分が作ったたい焼きを皆に食べてほしい、一人でも多くの人に行き渡るように数に制限を設けてたい焼きを売っていたんです。
    お客さんの一人が『もっと多く売ってくれと』頼んだんですけど、昔気質な人だから、それを突っぱねてお客さんと衝突しちゃったんですよ」

(*゚ー゚)「お客さんと喧嘩したという風聞が広がって大義堂から客足が遠のいても、
    シュールさんは何時も通り店に来てたい焼きを持って帰るんですよ。
    いよいよ店が立ち行かなくなった時のことです。
    店にお客さんが来て『和服美人が何時も食べてるたい焼きの店はここか?』って聞かれた時はどういうことって私たちは頭に疑問符を浮かべましたよ」

(*゚ー゚)「それからです。店が繁盛し出したのは、私たちが路頭に迷わなくてすんだのはシュールさんのお陰です」

 ありがとうございます。
 と、しぃが感謝を述べてもシュールは隣で羽根付きたい焼きを頬張っていた。
 食べ終わって次のたい焼きに手を付けようとする素直はしぃの話を気にも止めずシュールは話す。

947 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 01:20:50 ID:rcquB8..0

lw´‐ _‐ノv「単に大義堂のたい焼きが美味しいからじゃないの?」

 と、当たり前の事のように言うシュールにしぃは。

(*^ー^)「……そうですね」

 と、微笑んだ。

 しぃからお礼を言われるとは思っていなかったシュールはむず痒い。
 これ以上は恥ずかしかったので、話題を変える。


lw´‐ _‐ノv「ギコはいい嫁さんを貰ったね。器量よし気立てよしときて、おまけに美人ときたもんだ、他の連中はしぃのことほうっておかなかっただろう?」

 引く手数多だったんじゃないの? と、シュールはからかうように聞くがしぃは首を横に振るだけ。

(*゚ー゚)「そうですねと、……言いたいんですが私、実は箱入り娘だったんです。
    右も左も分からないまま結婚の適齢期を迎えた私は厳格な父に言われるままお見合い会場と家との往復の毎日でした。
    嫌気が差した私は、お見合い会場から抜け出した私は案の定迷子にななりました」

 流石に泣きはしませんでしたが、と。

(*゚ー゚)「知らない町で一人ぼっちになった私は町を宛もなくさまよって途方に暮れたそんな時です。
    ギコ君が声をかけてくれたのは。ギコ君が大丈夫かと、私を気遣うに話してくれたんです。
    心細かった私はギコ君が抱きついてました」

(*゚ー゚)「恥ずかしい話、さっきも言った通り私は箱入り娘です。
    異性をあまり知らないで育った私は、はっ、は……初めての体験でした。
    お見合いの会場までギコ君は私と逸れないように手を繋いでくれました。
    男の人が手が大きいことも、心音を聞くと落ち着くということもその時、知りました」

 ギコと出会った時のことを思い出したのか、しぃの頬が紅くなっている。よく見れば耳が真っ赤だがそれは言わないでおいた。

(*゚ー゚)「お見合い会場ノ門の前で待っていた父は、私を見つけると何も言わず頬を叩きました。
    確かに勝手い居なくなった私が悪いのですが……、それを見ていたギコ君が父に食って掛かって『まず心配するのは娘のことだろ!     いきなり叩くなんて何考えてんだ!』って怒鳴ったんです」

(*゚ー゚)「ギコ君と父はその場で喧嘩にしちゃたの、近所の人や会場のスタッフが止めに来るまで続いて、6人がかりでやっと止まったんですよ」

(*゚ー゚)「互いに頭に血が登ってギコ君と父は、とても冷静に話せる状態じゃないので、その日はそのまま解散しました」

 ある日大義堂に行った時のことを思い出す。
 ギコの顔が妙に腫れていたのはそういうことだったのかと得心するシュール。

948 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 01:24:27 ID:rcquB8..0

***

lw´‐ _‐ノv「ギコ、たい焼き……」

(,,゚Д゚)「……」

lw´‐ _‐ノv「たい焼き」

(,,゚Д゚)「……」

 たい焼きを取りに来たシュールの声にギコは答えない。
 心ここに非ずのようだがシュールには関係ない。
 芳しい反応が得られなかったシュールは、なんの躊躇いなく腫れている頬を思いっきり叩いた。

ブン lw´‐ _‐ノv
     ⊂彡#),゚Д゚)

lw´‐ _‐ノv「こっち見ろ」

 何すんだよとギコの反抗的な態度にムカついたので頬にもう一発叩いてやった。
 頬を抑え痛みに呻いていたギコのリアクションのほうが面白かったのでそれから何度も腫れている頬にビンタしてやった。

(#)゚Д゚)「痛ってーな、なにしやがんだ!」

lw´‐ _‐ノv「たい焼き」

(#)゚Д゚)「ふざけんな! いいかげ――」

 されるがままだったギコはシュールに怒鳴るが後の言葉が続かない。

949 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 01:26:20 ID:rcquB8..0

lw´‐ _‐ノv「ギコ?」

(#)゚Д゚)「フガァ(顎外れた……)」

 心配そうにギコに声をかけるが、出てくる言葉はどれ一つ言葉になっていなかった。
 シュールが叩き過ぎたのが直接の原因かは分からないが、どうやらギコの顎が外れたらしい。

lw*´ _ ノv「プッ、クク……」

(#)゚Д゚)「フガァ、フガァ(ふざけんな笑ってる場合か!)」

lw;*´‐ _‐ノv「あー悪い悪い、とっ、とりあえず病院行こうな」

(#)゚Д゚)「フガァ(頼むわ)」

 シュールもまさかギコの顎が外れるとは思ってもいなかった。
 流石のシュールも罪悪感を抱く。
 喋ることできず、声にならない声を上げるギコを連れて病院に連れて行った。
 その日大義堂が臨時休業になったのは言うまでもない。

 たい焼きを頬張り、口直しのお茶を飲みながらシュールはそんなこともあったなーと懐かしみ、5つ目のたい焼きを食べながらしぃの話を聞いていた。 

(*゚ー゚)「それからです大義堂までたい焼きを買いに行って、ギコ君と話すようなったのは、
    そこからも紆余曲折があるんですが……なんで耳を塞いでるんですかシュールさん?」

 話が途中からしぃの惚気話になっていたのを皮切りに、そこからは話半分にしか聞いていなかった。
 最後の方はもう耳を塞いでいた。

lw;´‐ _‐ノv「甘い物は好きだが甘過ぎるのは駄目だ! 人の惚気話ほど甘ったるくてむず痒いものはない」

950 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 01:28:19 ID:rcquB8..0

 もういい、もう聞きたくないと首を横に振り、体を掻き毟る素直の意外な一面を垣間見たしぃは可笑しくてたまらなかった。
 
 しぃは純粋な興味からシュールに聞いてみた。

(*゚ー゚)「そういう素直さんこそ、恋愛経験はどうなんですか?」

lw´‐ _‐ノv「そういうものには興味が無いよ。仮にあったとしても残るものは寂しさしかない」

 私は嫌だよ。
 古いと新しいが同居する再開発地域特有の雰囲気に、もうシュールの記憶に残る景色はもう存在しない。
 住み慣れた町、顔馴染みな人達が変わっていくことが、そして忘れていくことが耐えられない。

 変わっていく、人も町も残酷なまでに時間の流れを感じさせる。
 自分を置いて。
 忘れていく。
 何れはギコも、しぃだって―――。

lw´ _ ノv「……」

 らしくない。
 決めたじゃないか、楽しもうと、別れるその瞬間まで思いっきり―――
  
(;゚ー゚)「シュールさん! どうしたんですか?」

 しぃの心配する声にシュールは我に返る。

 シュールの知らない表情を見たしぃが戸惑う。
 普段とは違う寂しそうな表情はすぐに引っ込められ、普段から見るようなシュールの表情に戻る。

952 名前:訂正、そういう素直さんこそ、→そういうシュールさんこそ :2014/05/09(金) 01:34:50 ID:rcquB8..0

lw´‐ _‐ノv「悲しい顔は美人が台無しだぞ」

 困惑しているしぃの髪を優しく撫でる。
 くすぐったそうにしているしぃは「子供じゃないんですから」と文句を言っても、シュールは聞かず髪を撫でる。

lw´‐ _‐ノv「ギコとは小さい頃からの付き合いで、しぃは私にとって可愛い兄妹みたいなものだよ」

(#゚ー゚)「なんで子供扱いするんですか!」

lw´‐ _‐ノv「私からすれば子供だよ」

(*゚ー゚)「子供体型のシュールさんに言われたくありません」

lw´‐ _‐ノv「それは私がロリってことかな? 心外だな仮にも私はお客様だぞ」

(*゚ー゚)「そういうことを言うのはお金を払ってから言ってください」

lw´‐ _‐ノv「それは手厳しいな……」

 しぃに正論にぐぅの音も出ない。
 これがギコなら口八丁手八丁で煙に巻けるのに、しぃには不思議な迫力があった。

953 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 01:36:53 ID:rcquB8..0

* * *

 しぃとの出会いが軽く修羅場だったことや、その時のしぃを見たシュールは背中に冷や汗が止まらなくなるほど怖かったこと。
 そのことを話すと顔を赤くして早く忘れてくださいとしぃの慌てようは可愛かった。
 あまり話し込んで、これ以上仕事の邪魔をするのは忍びない。

lw´‐ _‐ノv「さて、そろそろお暇しないとな、これ以上は迷惑になる」

(,,゚Д゚)「迷惑と思うならこんな朝早くに押しかけないでくれ、ほれっ、たい焼きだ」

 昔話に華をさかせていたしぃとシュールの耳にギコの声が聞こえる。
 焼き場から戻ってきたギコからたい焼きがぎっしりと入っている紙袋を手渡されシュールは上機嫌で受け取る。

lw;´‐ _‐ノv「熱っ!」

 紙袋からでる熱が予想以上に熱く、熱さに驚いたシュールが紙袋を落としそうになった。
 紙袋をお手玉をしているシュールを見たギコはイタズラが成功した子供のように笑う。
 熱くない袋の口の部分を摘み、手を冷やすため息を吹きかける。

(,,^Д^)「熱いか? 出来たてほやほやだからな」

 気をつけろよ? と、ギコは隠そうともせず笑う。
 
lw´‐ _‐ノv「まさかギコにしてやられるとはね」

(,,^Д^)「ギコハハハ、おあいこだ。たい焼きを袋一杯に詰めてやったんだから文句言うな」

 してやったりのギコに知らない事実を爆弾という形で落としてやろうと、シュールはほくそ笑む。
  
lw´‐ _‐ノv「まあいいか、ギコとしぃの馴れ初めを聞けたし、たい焼きも無料でたくさん貰えたし、一つ良いことを教えてやろう。ギコの名付け親は私だよ」

954 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 01:39:33 ID:rcquB8..0

 衝撃の発言に固まるギコを面白そうに眺めるシュールは満足そうに店を出ていった。
 事実をなんとか飲み込めたギコは居なくなったシュールの後を追って、和服の後ろ姿に声をかける。
 
(,;゚Д゚)「じゃあお前は何歳なんだよ?!」

lw´‐ _‐ノv「女に歳を聞くのはマナー違反だよ。そうそう―――」

 シュールは振り返る。その和服姿の佇まい位は絵になる。

lw´‐ _‐ノv「たい焼きごちそうさん」
 
 そう言ってシュールは去っていった。

(,,゚Д゚)「……」

 ギコは考えていたシュールのことを考えていた。
 シュールとは長い付き合いだがあまり彼女のことを知らない。
 感情が表に出ないし味の感想も言わない。
 作るものとしては感想の一つでも欲しいところだが、たい焼きを頬張りながら歩いているシュールの後ろ姿を見ていたギコは笑う。

(,,゚ー゚)「なるほど体は正直だ」

 風に乗って聞こえるシュールの鼻歌混じりの声と軽やかな足取りを見れば誰だって分かる。

lw*´‐ _‐ノv

 見えなくなるまで見送ったギコは、しぃに呼ばれ店へと戻っていった。

955 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 01:42:33 ID:rcquB8..0

* * *

 大義堂をあとにしたシュールはたい焼きを食べながら住宅街を縫うように流れる小川の辺、桜の花びらが舞い散る、桜並木の遊歩道を歩いていた。
 最後の一つを口に入れて頬張るシュールは、口直しにお茶をお茶を飲もうと袖に入れてあるはず水筒を探すもなかった。

lw´‐ _‐ノv「水筒忘れた……」
 
lw´‐ _‐ノv「腹減ったな〜」

 さっきまでたい焼きを食べていたのに、もう腹の虫が鳴る。
 鳴るお腹を抑えながら、ギコの所で朝飯をご相伴に与っておけばよかったと後悔する。
 たい焼きをあれだけ食べておいてギコに朝飯を食わせろと言うのは流石に図々しいとシュールでも思う。
 これでも一応常識人だ。

lw´‐ _‐ノv「これは……味噌汁」

 漂ってくる匂いの元へ引き寄せられるように向かった先にあったのは二階建てのアパートだった。
 
lw´‐ _‐ノv「やっぱり味噌汁だ」

 この漂ってくる匂いの出処はどこだろう?

 二階建てのアパートを見回して匂いの出処を探る。 
 朝食に和食チョイスする。いい、実に素晴らしい。
 どんな人物が作っているのかは興味がない、それよりも炊きたてのご飯と味噌汁を腹一杯食べたい。

956 名前:名も無きAAのようです :2014/05/09(金) 01:49:18 ID:rcquB8..0

lw´‐ _‐ノv ジュルリ

 口の端から涎が一筋垂れる。
 人の家に勝手に上がり込んででも和食を食べる。
 部屋の住民にとっては気の毒だが、シュールの頭に中にはそれしかない。
 それはもう犯罪なのだが、シュールはそれを問題としていない。

 シュールは食べ物ことに関すると理性が飛ぶ。
 どうやって中に侵入しようかと、考えるシュール。

 もう一度言うがシュールはこれでも常識人である。
 
lw´‐ _‐ノv「さあ、行こうか」

 ぐうっ、と鳴くお腹抑えながら、早く美味しい朝飯を食べたい。
 朝飯を目指してアパートの敷地をシュールは行く。

 
 アパートへと侵入したシュールは、部屋の住人と一悶着起こすのだがそれは別のお話。


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