187 名前:名も無きAAのようです :2013/08/16(金) 21:40:09 ID:n5fZRe3A0
諦めに行こう。

ぷかぷかと深い色に浮かぶ舟の上で、僕はそう呟いた。
 
 
 
( ´∀`)Cyborgのようです

188 名前:名も無きAAのようです :2013/08/16(金) 21:41:12 ID:n5fZRe3A0
 
 
 
博士が僕を、ここに送り込んでから、もう何年経っただろう。
僕がここに着いた頃にはまだ人魚がいた湖の上で、僕は考える。
もう随分と長い時間が経ってしまった。中途半端に改造された体のせいで、僕は死ねないのだけれど。

( ´∀`)「……退屈モナ」

やけにファンタジックな、誰もいない世界で、僕はそう呟いた。

舟を漕いで、岸に上がる。
両足が地面に降り立ったところで後ろを振り向けば、早くも舟が流されていくところだった。
特に気にすることも無く、僕は前に向き直った。
不思議なことに、あの舟はああやって離れていっても、僕が戻ってくると忠犬のようにちょこんと乗りやすい位置に待っているのだ。

189 名前:名も無きAAのようです :2013/08/16(金) 21:42:23 ID:n5fZRe3A0
 
嫌になるほど蔓延する霧の中を歩いて行くと、唐突にバス停が現れる。
「駅」とだけ書かれたバス停には、時刻表を貼っていない。
ただ、そこにあるのは、やたらに数の多い折り紙ばかりだ。
チューリップ、鶴、手裏剣、ダリア、あやめと、種類はとにかく多く一つとして同じものは無い。
そしてその折り紙の、隙間にたくさんの数字が見えるのは、きっとこのバス停の時刻表だったのだろうと思う。

僕はバス停のベンチに腰かけて、ポケットに入れた紙を出した。
昨日、ゆらゆらと揺れる舟の上で、博士に宛てた手紙を書いた。
時間の感覚など忘れてしまったが、きっともう会えないのであろう博士に、別れの手紙を書いたのだ。
けれど、ここで困った。
この手紙を届ける方法を、僕は知らない。

190 名前:名も無きAAのようです :2013/08/16(金) 21:43:38 ID:n5fZRe3A0
さてどうしようかと動きを止めた僕の前に、一台のバスが停まっていた。
勝手に開いた扉の向こうに、やっぱり運転手は乗っていない。
乗り込んで、座席を見渡してみる。乗客は一人もいない。
僕が贅沢に二人席の窓側に座ったのを確認するようにブザーが鳴り、扉が閉まる。
僕以外誰も乗っていないバスは、緩やかに発進した。

窓の外に見える風景は、昼になったり夜になったりと非常に忙しい。
ふと夜の闇に沈む公園で、街灯に照らされた砂場が動いているのが見えた。
誰もいないのに、子供が持っているかのように、黒い磁石がくるくると回って、砂場の中の砂鉄を集めているようだった。
小学校の頃の、理科の宿題で砂鉄を集めた記憶が蘇って、懐かしいなと自然に笑っていた。
 
 


191 名前:名も無きAAのようです :2013/08/16(金) 21:45:24 ID:n5fZRe3A0
 
 
博士との最後の記憶は、酷くぼんやりとしている。
ただ、女なのに男のようにさっぱりとした性格と口調をした博士が、珍しく慌てていて。
僕をよく分からない機械に押し込んだ博士の後ろで、赤い赤い岩漿が流れ込んだのが見えた気がした。

从 ∀从『――……えは、……わ…に――』

博士、博士、

( ´∀`)(よく、聞こえないモナ)

もっと大きな声で。
そう思った時には、強烈な眠気に襲われて、目を閉じてしまった。
そして、目が覚めたらこの世界にいた。

192 名前:名も無きAAのようです :2013/08/16(金) 21:46:38 ID:n5fZRe3A0
 
一度も停まらなかったバスが、石橋の真ん中で停車する。
僕の降りるべき場所だと、遠回しに伝えられている気がした。

石橋の真ん中にバス停があるというのも、なんだかおかしな話である。
僕を降ろした後、バスはさっさと走って行ってしまった。
横から見ると山なりな形をした石橋の、一番高い場所で。また同じように折り紙は散乱し、僕は突っ立っていた。

結局どうしようと考えていた、手に握ったままの手紙が、不意に僕の手を離れて、ふわりと浮き上がった。
だが、特別驚くことも無い。もうこの世界に慣れてしまっているからだ。
浮き上がった手紙は、僕の目の前でぱたんぱたんと、折り紙のように丁寧に折り畳まれていった。

193 名前:名も無きAAのようです :2013/08/16(金) 21:48:01 ID:n5fZRe3A0
そして出来上がったのは、元の紙の大きさと比較したくなるような、小さな矢だった。

( ´∀`)「……どうすればいいモナ?」

ぽつりと呟いた僕の足元で、折り紙がかさかさと楽しげに浮き上がる。
ほら早く、と、幼い少女達が語りかけてくるような、その折り紙を見ていると。

( ´∀`)「……ああ。分かったモナ」

自然と僕は、どうすべきか、しっかりと理解できた。
宙に浮いていた紙の矢が、理解した僕を手助けするように、ふよふよと下に下りてくる。
小さな矢羽が付いた方が僕の口元に下りてくるのを見ると、僕は腹から息を吸って、思い切り、吹いた。
僕の息に押された矢はふわりと勢い良く飛び出して、徐々に高度を上げて、霧の向こうへと消えて行った。

194 名前:名も無きAAのようです :2013/08/16(金) 21:49:14 ID:n5fZRe3A0
それを見送りながら僕は、手紙に書いた想いと、さよならをした。

( ´∀`)「君を愛してたモナ」

これで、諦めた。
鼓動を失くした胸が一つだけ、脈を打った気がした。
 
 
 
( ´∀`)Cyborgのようです・終わり
 
 
 
 
 
――おまえは、しあわせに。


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