919 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:15:38 ID:Y8NtoKNoO

('、`*川「あんたちょっと服脱ぎなさいよ」

 ああ、まただ。

 この女は私の恋人ではない。
 こんな下着姿で出歩くような、だらしなく淫乱な女など恋人にしようとも思わない。
 だのに、こいつは時折、いやいつもだ、いつもいつも私の体を狙っている。

 要はセックス中毒のクソビッチである。
 常に男に飢え、そこに私のような魅力的な男がいるものだから興奮して堪らないのだろう。
 気持ちの悪い。

('、`*川「あんたの独り言の方が気持ち悪いわ。言っとくけど、私、あんたとは絶対に寝ないからね。
     これっぽっちも好みじゃないもの」

(´・_ゝ・`)「フラれた途端にそうやって強がる。惨めだな君は」

('、`*川「いや本当に……ていうか私、下着で出歩いたことないわよ」

(´・_ゝ・`)「一秒でバレる嘘は嘘と呼ばない。酸素の無駄と言う。
        それじゃあ何か、君の今の姿は下着姿ではないと言うのか。ええ?」

('、`*川「言うわよ。普通に服着てるじゃない」

(´・_ゝ・`)「もしや君と僕との間で『下着』と『衣服』の概念が違うのか?
        肩も鎖骨も腹も太股も放り出してる姿のどこが下着姿と違うんだ?」

('、`*川「そういうファッションだっての……。
     引きこもってないで街に出なさい、こんな格好の女なんか腐るほどいるわよ」

(´・_ゝ・`)「僕は引きこもってなどいない。人を社会不適合者のように言うのはやめてくれないか」

 そもそも私は、現段階で外に出る必要がないから家の中にいるわけであって
 用があれば普通に外出する。たとえば食糧の買い出しとか、仕事の打ち合わせとか。

 仕事。そう、私は仕事をしている。だから社会不適合者とは違う。
 小説家だ。世間の皆様方を喜ばせ悲しませ彼らの感情を翻弄し時として人生にまで影響を与える、
 そういう偉大なる職に就いている。

 学生時代に暇潰しで送った小説が大賞に輝き、そのままデビューしてしまった。
 ほんの暇潰しだったのに。才能というのは恐ろしい。

920 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:16:38 ID:Y8NtoKNoO

('、`*川「あんたは自分のお粗末な妄想を恥ずかしげもなく文章にしたためて、
     物好きな読者様にお金を払っていただいてその印税で生活してる身でしょう。
     第一、デビューの切っ掛けになった賞だって弱小出版社の小規模なものだったし」

(´・_ゝ・`)「うるさいぞ伊藤」

 こんなどこの淫売から生まれたか分からぬ、何ならどこぞのモーテルの一室の隅の
 ゴミ箱に捨てられたコンドームの中から自然発生したような女でも、生みの親は最低限の義務は知っていたらしく、
 その身に相応しいペニサスという名を授けられている。ペニサス。格好も卑猥なら名も卑猥。

 あんまりにも哀れなので、そして私は彼女と違って羞恥心を持っているので、苗字の伊藤の方で呼んでやっている。
 それに比べて私の名の優雅さと来たらどうだ。盛岡デミタス。奥ゆかしい。

('、`*川「ペニサスとデミタスって響き似てるわよね」

(´・_ゝ・`)「どこがだ。母音と末尾のスが同じなだけじゃないか。不名誉だ。やめてくれ」

('、`*川「はいはいぼいんぼいん」

 伊藤が無駄に発育のいい乳を揺らす。
 彼女が生まれてこの方25年、摂取してきた栄養は乳や尻にばかり行って脳には渡らなかったのだろう。
 気の毒な生き物だ。人とマトモに会話する知能すら身に付かなかったとは。

('、`*川「ねえ、本題に戻るわよ。服脱ぎなさい」

(´・_ゝ・`)「かあっ、君の頭の中はそれしかないんだな。
        僕は君の薄汚れた穴に興味はない。他所を当たってくれ。いや、それでは犠牲になる誰かが可哀想だ。
        僕の私物を一つくれてやるからそれを頼りに自分で慰めていろ」

('、`*川「ほんと気持ち悪いし失礼ね、あんた」

(´・_ゝ・`)「いきなり人の家に着て脱衣を強要する君の方がよっぽど失礼で変態的だ」

('、`*川「別に私だって見たかないわよ。
     確認したいことがあるの。上だけ脱いでくれればいいから」

 訝しみつつ、早々にお取り引き願いたかったので、私は渋々カッターシャツを脱いだ。
 その下に着ていたTシャツも取っ払うと、伊藤は前後から私の上半身を舐め回すように見つめ、ぽつりと呟く。

('、`*川「この傷痕は」

(´・_ゝ・`)「何だ、君には関係ないだろう。君は人様の身体的特徴に遠慮会釈もなく触れるんだな。
        それがタブーである可能性も考えずに」

('、`*川「答えたくないなら答えたくないって言いなさいよ面倒臭いわね」

(´・_ゝ・`)「答えたくないわけじゃない。
        僕以外の人間にもそうやって振る舞っているのではないかと不安になっただけだ。
        それはいつ付いたか分からない。恐らく15年以上前ではあろうけど」

921 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:17:36 ID:Y8NtoKNoO

 私の背には少々目立つ傷痕がある。
 何かで刺された痕ではないか、と私は思う。
 思う、と曖昧な表現をしているのは、別に私の記憶力が悪いからではない。

 私には15年より前の記憶が無い。
 いや、幼い頃の記憶がぼんやりとあるにはあるのだけれど、人と比べるとあまりに薄すぎる。
 どんな町で暮らしていたか、学校、友人、その他諸々が思い出せない。

 明確な記憶を持つようになったのは15年前、病院のベッドで目覚めた12歳の頃からだ。
 傷痕が関係しているとは思うのだが、覚えていないのでどうしようもない。
 親も教えてくれないし、退院してすぐ別の土地に越してしまったから。

('、`*川「ふうん……」

(´・_ゝ・`)「もういいかな。帰ってくれ」

('、`*川「何よ、普段は部屋でごろごろしても放っとくくせに」

(´・_ゝ・`)「客が来る。君みたいな売女が知り合いだと思われたくない」

('、`*川「あ、女? どんな人? あんたみたいな偏屈を相手にするくらいだから変わった人なんでしょ」

(´・_ゝ・`)「君は人のプライベートに首を突っ込みすぎだ。突っ込むのはギロチン台だけにしておけ」

 ──ひび割れ、間の抜けた、インターホンの音が響いた。
 次いで、「デミタス先生ー」と可憐な声がする。
 来た。

(;´・_ゝ・`)「ああ来てしまった、おい伊藤、君は押し入れにでも隠れろ」

('、`*川「浮気相手かっつうの。いいじゃない、ちょっと挨拶して普通に玄関から帰るわよ私」

(;´・_ゝ・`)「それが嫌だと言うんだ僕は!」

('、`;川「わ、ちょっ、痛い痛いっ、引っ張らないでよ!」

     「デミタス先生?」

 がちゃり。ドアノブが捻られる。
 そこで私は気付いた。鍵をかけ忘れている。伊藤のせいだ。上げるなり服を脱げと言い出すから呆気にとられていた。

 ──私は天才小説家である。
 天才であるが故、自分の生活レベルを下げて世間の感覚に馴染まねば、大衆向けの作品は作れない。

 そのため私は古臭く狭苦しいアパートのワンルームで暮らしている。
 玄関のドアを開ければすぐに部屋が見通せてしまう造りだ。
 そのドアが、今、開けられてしまった。

922 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:19:09 ID:Y8NtoKNoO
ζ(゚ー゚*ζ「あっ」

 客人の美女は、室内を見るなり声をあげた。

 彼女が困ったように目を伏せる。それもそうだ。
 何せ、上半身裸の私が、下着姿に等しい伊藤の腕を掴み上げている場面に遭遇してしまったのだから。
 あらぬ誤解もしよう。大変に不名誉なことだが。

(;´・_ゝ・`)「で、デレさん! 違います、これは!」

ζ(゚、゚;ζ「ごっ、ごめんなさい、お邪魔してしまって……!」

 私の担当編集者であるところの照山デレ女史が、愛らしい頭を深々と下げる。
 彼女を何とか引き留め、私は伊藤の頭を引っ叩いた。



          (´・_ゝ・`)奴からはカフェインが滲み出ているようです



爪'ー`)y‐「やあやあ、読みましたよ、読みましたよ先生の新作。良かった。
      私は先生の書かれる話が好きでね。全て読んでる。会えて光栄だ」

(´・_ゝ・`)「それはどうも」

 光栄だと言う割に、許可もとらずに煙草を吹かす態度はどうなのだ。
 私が顔を顰めているのに気付いたか、男は携帯灰皿を取り出しながら苦笑した。

爪'ー`)y‐「申し訳ない。ニコチン中毒なもんで」

 灰皿に灰を落とし、男は再び煙草をくわえる。火を消すわけではなかったらしい。
 私は辟易し、彼を連れてきたデレ女史を見遣った。

ζ(゚ー゚*ζ「伊藤さん、いらっしゃってたんですね。ごめんなさい、もしかして先約でした?」

('、`*川「いえ、私は野暮用で。帰るところでしたので、お気になさらず」

 デレ女史は伊藤と和やかに話している。
 待て。なぜ伊藤なんぞが彼女と既知のごとき会話を交わしているのだ。

 女史はたしかに伊藤と同年齢だが、淑やかで美しくて、
 どんなに〆切が近くてもひたすら優しくしてくれる天使のような女性だ。
 片や伊藤などそこら辺の小さな事務所で電話番をしている露出狂の地味顔。女史と交わる要素がない。

ζ(゚ー゚*ζ「あら、このお部屋に来るとき、よくアパートの前なんかで伊藤さんとお会いしますよ」

('、`*川「挨拶とかしてたら、だんだん世間話するくらいの仲になって」

(´・_ゝ・`)「ああ、僕が何も考えずにこんなアパートに住んでしまったばかりにデレさんの交遊関係が汚れた」

923 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:19:42 ID:Y8NtoKNoO

爪'ー`)y‐「そちらの方と盛岡先生は、どういったご関係で?」

(´・_ゝ・`)「ただの隣人です」

 さらにくっつけるなら、大学の先輩後輩──といったところか。
 同じゼミのメンバーだった。思えば奴はあの頃から露出狂のケがあった。今よりは大人しかったとはいえ。
 まあ然程交流しなかったのでどうでも良かったのだが。

 問題は昨年、私がこのアパートに移ったことから始まった。
 隣室の住人がこいつだったのだ。

 これも何かの縁ということで、以来、こいつは私にまとわりつくようになった。
 私がいかに魅力溢れる紳士だからといって、女性に好かれるのが仕方ないからといって、
 礼儀に欠けた痴れ者にうろちょろされては目障りもいいところだろう。

 お互いとうに大学を卒業した身とはいえ、こちとら2学年上の先輩。年上、目上である。
 なのにこいつときたら。ため口は当たり前、人のことを「あんた」などと呼び部屋に入り浸る。
 己を私と同格に錯覚させ、既成事実を作る機会を窺っているに違いない。

('、`*川「言っとくけど、あんたの方がしょっちゅう『飯作ってくれ』『部屋の掃除してくれ』って呼び出してんだからね」

ζ(゚、゚*ζ「いけませんよデミタス先生、恋人でもない未婚の女性を何度もお部屋に連れ込んでは」

 おのれ伊藤。嘘八百並べて印象操作を行いおって。
 私はただ安売りで買い込んだ食材が余ったり仕事が忙しくて家事にかまける暇がなかったりするから、
 常日頃より暇を持て余している貴様に有意義な時間の過ごし方を提供しているだけではないか。

 私が反論すると、伊藤は鼻白み、右手で蝿を追っ払うような仕草をした。
 何だそれは。私を虫扱いしているのか。

(#´・_ゝ・`)「聞いているのか伊藤」

('、`*川「聞いてる聞いてる。じゃあね、私帰るから」

(#´・_ゝ・`)「待て。むりやり部屋に上がり込み僕の服を脱がせてデレさんに誤解を与えるだけ与えて
        何の詫びもなしに帰るというのか。
        せめて僕と客人に茶でも出していけ」

 伊藤の反応は鈍い。
 顔を傾け、無駄に真っ直ぐでさらさらな黒髪を揺らし、何か考え込む。
 どうにも先程から伊藤の様子がおかしい。

 どこがどう、とは具体的には言えないのだが、いつもより元気がないように見える。
 数分前までは憎らしいほど平常だったのに、デレ女史と喫煙男が来た辺りから何かが変だ。
 まさか女史に嫉妬している? 実に有り得る。嫉妬しようが伊藤に勝ち目などないのに。

924 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:20:27 ID:Y8NtoKNoO
('、`*川「……なに淹れたらいいの」

(´・_ゝ・`)「コーヒー」

ζ(゚、゚*ζ「デミタス先生、いつもコーヒーばかり。カフェイン中毒になってしまいますよ」

(´・_ゝ・`)「僕は既にカフェイン中毒です」

('、`*川「たしかに、依存性という意味でなら中毒よね、こいつ」

 「こいつ」と来たか。本当に礼儀知らず恥知らず。
 女史と男もコーヒーをということになり、伊藤はもそもそと準備を始めた。

爪'ー`)y‐「──いやあ、仲が良さそうで」

(´・_ゝ・`)「まさか」

ζ(゚ー゚*ζ「いえいえ、相性は宜しいですよ。実際」

 この2人はジョークのセンスが無いと見える。
 私はテーブルを挟んだ向かいに座る2人から視線を外した。
 紫煙が目に染みる。

 すぐ背後の窓を開け、姿勢を正した。
 夕焼けの色が濃い。

(´・_ゝ・`)「それで、こちらの方は何の御用で」

ζ(゚、゚*ζ「あ──そうでした、本題はそれでしたね」

 デレ女史も居住まいを直し、咳払いをした。
 男は未だ自己紹介もしていない。
 女史と共に部屋へ上がり込み、いきなり煙草を吸い始めてそれっきり。

 私の敬愛する女史が連れてきたのでなければ、今すぐにでも叩き出しているところだ。

爪'ー`)y‐「狐塚フォックスと申します」

 男は──狐塚フォックスはようやく名乗り、一礼した。
 年の頃は30前後といった辺りか。私より2つか3つ上。
 伊藤に似た地味顔だが、伊藤と違って品があるので整って見える。

(´・_ゝ・`)「はあ。狐塚さん」

ζ(゚ー゚*ζ「フォックスさんの御宅は、我が社の社長の親類筋で。
      その縁で、ぜひデミタス先生にお会いしたいと仰いまして」

 あの狐塚グループの御曹司でいらっしゃいますよ──と女史は付け足した。
 狐塚グループといえば、政治や経済にあまり興味のない私ですら知っている名だ。
 思わず驚き、目を丸くする私に女史が「ね、びっくりするでしょう」とあどけなく言う。

925 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:21:20 ID:Y8NtoKNoO

(´・_ゝ・`)「そんな方がわざわざこんな安普請に出向いてきたのですか」

爪'ー`)y‐「どういった環境でああいった作品を書かれているのか気になったもので。
      突然すみませんねえ。──あ、こりゃどうも」

 伊藤がアイスコーヒーの入ったグラスを客人と私の前に置いた。
 それから自分は牛乳入りのグラスを持って私の隣に座る。帰るのではなかったのか。

爪'ー`)y‐「や、や、ともかく盛岡先生の作品は素晴らしい。
      家族に虐げられている深窓の令嬢を連れて逃げる少年の話は泣けましたな」

(´・_ゝ・`)「どうも」

爪'ー`)y‐「新作も良かった。
      ひょんなことから金持ちの子息の弱みを握り、脅迫を企む男のピカレスク小説。
      立場としては被害者に似ている私が、いつか自分もこうなるのではないかと不安になるほどリアリティがあって──
      いや、私にはあんな弱みなどありませんが」

 はっはっは、とフォックスは快活に笑う。
 頭と手首を痛めて産んだ作品を褒められては、そう悪い気もしない。
 尚も私の肺を汚さんとする副流煙さえも、やや好意的に受け入れてやろうかという気分になる。

ζ(゚ー゚*ζ「『余命1時間』ですね」

 女史が新作のタイトルを口にする。
 フォックスは「それです」と頷き、短くなった煙草を灰皿に押し込んだ。
 やっと吸い終えたかと思ったが、小洒落たシガレットケースから新たな一本を取り出し唇で挟んでいる。なるほどニコチン中毒。

爪'ー`)y‐「実に面白かった。前々から先生の作品は好んで読んでいましたが、
      あの新作を読んで、ますます先生に興味が湧いたわけです」

(´・_ゝ・`)「ありがたいことです」

爪'ー`)y‐「不躾ながら、出版社の社長さんに先生のことを色々聞いたのですよ。
      好きな作家の情報を得たくなるのは抗いようのないファン心理で。
      そしたら先生、記憶喪失の経験があると聞いて驚きました」

(´・_ゝ・`)「記憶喪失というほどのものでは……。
        ただ、事故か何かのせいで子供の頃の記憶が酷くあやふやなだけで」

爪'ー`)y‐「しかし、記憶──『過去の体験』というのは作家にとってとても大事な資料でしょう。
      それを大幅に失って尚、先生は鮮烈で生々しい物語を描く。
      ありゃ、一体どうやって着想を得るんです?」

(´・_ゝ・`)「さてね」

 勝手にストーリーが浮かんでくるのだから、答えようもない。
 これが天才たる所以である。

926 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:22:24 ID:Y8NtoKNoO

 私は横目に伊藤を見た。どうだ、これほど熱心なファンが私にはいるのだ。
 お粗末な妄想とはよく言ってくれたものだな。悔い改めよビッチ。
 当の伊藤は目を伏せ牛乳を飲んでいる。私への申し訳なさでマトモに前も見られぬのだろう。

 まったく嘆かわしく愚かしい女である。


*****




「1時間くれてやる」

 俺の言葉に、電話の向こうの空気がたじろぐのを感じた。

「きっちり1時間後にもう一度電話する。そのときに結論を聞かせろ」

「結論……」

「俺の要求を呑むか呑まないか、単純な話だ。──呑まないと言うなら、お前の秘密を全てバラす。
 1時間も考える必要はないだろうが、まあ念には念を入れて。納得いくまで考えればいい」

 通話を切るため指を伸ばす。
 が、ふと思い直し、最後にもう二三だけ付け加えた。
 本心ではまだまだ言いたいことがあった。奴を更に追い込んでやりたかった。それほど、奴は碌でもない。

 悩めばいい。苦しめばいい。悔やめばいい。
 イエスもノーも、奴には選びがたいのだ。どちらを選んでも地獄の苦しみ。
 この1時間が、60分が、3600秒が、奴には艱難の極みである。

「あの秘密が漏れればあんたは生きていけないだろう。
 考えようによっちゃあ、答えによっちゃあ、あんたの余命はあと1時間しかないんだぜ──」





 そんな出だしから始まる小説。
 本を閉じ、私は溶けた氷で薄まったコーヒーを飲み干した。

ζ(゚ー゚*ζ「デミタス先生に、あんな熱意のあるファンがついて嬉しいです」

 デレ女史が我がことのように喜びながら言う。つくづく愛らしい女性だ。
 そんな女性と自室で2人きりになれるのだから私は間違いなく勝ち組に属する。

 伊藤とフォックスはしばらく前に帰った。
 忙しい身分であるフォックスは長居出来ぬということで、
 駅までの道案内を伊藤に頼み、連れ立って私の部屋を後にしたのであった。

927 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:23:26 ID:Y8NtoKNoO
 女史は私と仕事の打ち合わせがあるので帰りはお供できないと彼に事前に伝えていたらしく、
 特に問題もなくそういう運びとなった。まあ伊藤は暇で暇で仕方ない閑人なので適任だろう。

 あいつを暇な状態で放り出せば、あの非文化的服装でもってそこら辺の阿呆男を引っ掛けるに違いないのだ。
 世のため人のためにも、それは避けねばならない。

(´・_ゝ・`)「まあ僕には何千万というファンがいますので」

ζ(゚ー゚*ζ「まあ」

 何故に笑う女史。冗談と思ってはいまいか。

 何せあの狐塚グループの御曹司が私のファンだというのだぞ。
 きっと彼のたくさんいる友人知人にも私の作品を勧め、ずるずると仲間を増やしている筈だ。いずれは国内に留まらず国外まで。
 既に彼の家族などは私の虜であろう。祖父母、両親、兄に妹──

ζ(゚ー゚*ζ「あら? フォックスさんにはお兄様が1人だけでは?」

(´・_ゝ・`)「いいや妹もいた筈です」

ζ(゚ー゚*ζ「お兄様だけですよ。フォックスさんは末っ子だと……。
      最近我が社の雑誌でも狐塚家に関する記事を書きましたが、妹さんの話など、どこにも。
      先生はどこでその情報を?」

(´・_ゝ・`)「……どこだったかな」

 はて。私は先述の通り政経に興味はない。
 狐塚グループのことも名前しか知らない筈なのだが。
 しかし、妹がいたのは間違いない。それは絶対に。

(´・_ゝ・`)「ううむ……」

 腕を組む。首を傾げる。未だ部屋に残る紫煙の香りに眉を顰めた。
 何ゆえ私が悩まねばならぬ。
 誤魔化すためにテレビのスイッチを入れた。特に面白味のないニュース番組。

ζ(゚ー゚*ζ「──まあ、でも、たしかにファンは着々と増えていってると思います」

 奇っ怪な間に耐えかねたか、女史は話題を一つ戻した。

ζ(゚ー゚*ζ「伊藤さんも、先生の作品にハマったようですし」

(´・_ゝ・`)「なぜ伊藤の名が」

ζ(゚ー゚*ζ「アパートの前で何度かお話したと言いましたでしょう?
      先日、伊藤さんからデミタス先生はどんな作品を書くのかと訊ねられたのですよ。
      丁度そのとき『余命1時間』を持っていたので、一冊譲ったんです」

 女史は活字中毒なので、電車の移動や休憩時間など、隙さえあればすぐ読書に耽る。
 鞄の中に何冊か忍ばせているらしい。その日は私の本もスタンバイしていたのだろう。

928 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:24:44 ID:Y8NtoKNoO

ζ(゚ー゚*ζ「そうしたら、その後にお会いした際、他にどんな本を出してるのか教えてほしいと言われて……。
      きっと先生の作品が肌に合ったんでしょうね」

(´・_ゝ・`)「悲しいかな、この世には食わず嫌いが多いものです。
        誰であろうと僕の本を読めば魅了されるというのに、なかなか手を出してこない臆病者が溢れている。
        そこから脱却できたという点では、あいつも少しは進歩したか」

 というか伊藤。隣人になってから一年も経つというのに、私の本を手にしたのが「先日」なのか。
 あいつまさか本当に私に興味ないのではなかろうか。そんな馬鹿な。
 帰ってきたら問い詰めてやる。ついでに感想も訊いてやる。

 ──ふと、テレビの中が騒がしくなった。
 私と女史の目がそちらへ向かう。
 スタッフの手から原稿を受け取ったキャスターが、態度は落ち着いたまま声だけに緊張感を忍ばせ紙面を読み始めた。

『──速報です。午後5時頃、ヴィプ駅前で男がナイフを振り回し──』

ζ(゚、゚;ζ「ヴィプ駅前! フォックスさん達が行った場所ですよ!」

(´・_ゝ・`)「……5時頃って、ついさっきでは……」


『この事件で男女2人が負傷。被害者の男性は狐塚グループの次男、狐塚フォックス氏と判明。
 もう1人の女性の身元は未だ──』


*****


(-、-*川

(´・_ゝ・`)「伊藤」

 病室のベッドで寝かされている伊藤は、身じろぎ一つしなかった。
 真っ白なシーツ、布団、部屋。真っ白な肌。まるで全ての血を出しきってしまったかのように。白い。

(´・_ゝ・`)「伊藤」

(-、-*川

 呼び掛けても返事がない。手に触れる。冷たい。

(´ _ゝ `)「伊藤……」

(-、-*川

(-、-*川「……んがっ」

929 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:26:14 ID:Y8NtoKNoO

 獣の咆哮が響いた。
 違った。伊藤の鼾だった。
 んごお、んごお。濁った鳴き声が私の鼓膜を汚す。

 私は握った伊藤の手を思いきりベッドに叩きつけ、それでは足りず、
 さらに勢いよく伊藤の頭を打った。

('、`;川「あだっ!?」

(´・_ゝ・`)「貴様。何だ。貴様。何なんだ。人をおちょくるのもいい加減にしろ」

('、`;川「は? あ? あんた、何で……ってかここはどこ──っあ、っだだっ!」

 がばと起き上がった伊藤は、顔面を醜く歪ませると、腹を押さえて大人しくなった。
 脂汗を滲ませシーツを見下ろしている内に頭が回ってきたのだろうか。
 表情も落ち着き、「ああ」と1人得心したような声をあげた。

('、`*川「……私どうなったの……」

(´・_ゝ・`)「腹と太股を刺された。血が凄くて死にかけたらしいが、というか今まで死にかけてたが、
        しぶとく生き長らえたな」

('、`*川「そう……。……フォックス、さんは」

(´・_ゝ・`)「腕に怪我を負ったがそれだけだ」

 ここに来て他人の心配か。馬鹿か。
 続けて伊藤は、「犯人はどうなったの」と問うた。

(´・_ゝ・`)「その場で逮捕されたよ。
        むしゃくしゃして誰でもいいから切りつけようと思っていたところ、
        身なりのいい男を見付け、妬ましさから犯行に及んだと」

(´・_ゝ・`)「犯人は体の大きな屈強な男だったというぞ。よく無事だったな、君。本当にしぶとい」

('、`*川「……ふうん」

 犯人は後ろから伊藤の太股を刺し、それから腹を刺し、
 次いで隣にいたフォックスの腕を切りつけてからナイフを捨てて逃げたが、
 その場にいた勇敢な男性数名に取り押さえられたとのことだった。

 ニュースの内容を思い返し、不意に引っ掛かるところに気付いたが、すぐに捨てた。
 そんなものより目の前の馬鹿に言ってやらねばならないことがある。

930 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:27:38 ID:Y8NtoKNoO
(´・_ゝ・`)「君はな、ちゃんとした服を着たまえ。腹とか脚とか出してるから簡単に刺されて死にかけるんだ」

('、`*川「そうする」

(´・_ゝ・`)「……いやに素直だな」

('、`*川「どうせ傷痕残ったら、大っぴらに剥き出しにするのもアレだし」

 そんな風に言われると、こちらとしても何も言えない。
 私はベッド脇の椅子に腰を下ろし、室内へ意識を逸らした。伊藤も倣う。

('、`*川「わ。個室じゃん。しかも広い。治療費とか部屋代とか払えないよ私」

(´・_ゝ・`)「君に請求は行かないと思う。
        それに何かあれば狐塚さんが払ってくれると言った。『巻き込んで申し訳ない』とさ」

('、`*川「へえ……」

 ──そういえば、いま初めて目を覚ましたのなら、医者を呼ぶべきでは。
 私はナースコールに手を伸ばした。その手を伊藤が掴む。

(´・_ゝ・`)「何だ」

('、`*川「……」

(´・_ゝ・`)「弱っているからといって甘えようとするんじゃない」

('、`*川「馬鹿」

 伊藤が手を振り払った。そっちから掴んでおいて、何だその態度は。
 だが、今すぐ医者を呼び出してほしくはなさそうなので、私は手を引っ込めた。

 してほしいことがあるならさっさと言え、と私が文句を落とすと、
 甘えるなって言ったくせに、と伊藤から文句を返された。それだけだった。
 珍しくしおらしい女は、壁を見つめ、天井を見上げ、私に視線を戻した。

('、`*川「……『痛くないの?』って訊いて」

(´・_ゝ・`)「は?」

('、`*川「『痛くないの?』って」

(´・_ゝ・`)「君はとことん惨めだな……心配してくれそうな人が誰もいないからって、ついに演技を求めてくるとは」

('、`*川「……もういい」

(´・_ゝ・`)「拗ねるな面倒臭い。……『痛くないの?』」

 求められた言葉をぞんざいに吐いてやる。
 伊藤は私を見据えたまま、口元をほんの少し、注視せねば分からぬほど小さく笑みの形に変えた。

931 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:29:21 ID:Y8NtoKNoO

('、`*川「……ちょっと突っつかれただけだ、痛くないよ……こうして動けているんだから」

(´・_ゝ・`)「……何だそりゃ」

('、`*川「さあね」

 伊藤の額には依然として脂汗が浮かんでいる。堪らなく痛むのだろう。
 それに傷の深さは「突っつかれた」程度では済まない。
 動けてもいないし。強がりにしては下手すぎる。

 だが──何となく、その台詞に聞き覚えがあるのに気付いた。

(´・_ゝ・`)「待った、それは何の台詞だっけか。映画……小説だったか? いや、ドラマ……」

('、`*川「知らない」

(´・_ゝ・`)「知らないことあるか、君が今言ったんだ」

 頭の奥がちくちく痛む。
 目の奥がちかちか点滅する。
 背中がちりちり疼く。

 あれは──あの台詞は──

(´・_ゝ・`)「──」

('、`*川「……ちょっと、大丈夫?」

 頭を押さえて俯いた私に、伊藤が問いかけてくる。
 こいつはまた他人の心配を。馬鹿だ。馬鹿なのだ。

 私は腰を上げた。ナースコールを押す。
 伊藤はそれを咎めなかった。

(´・_ゝ・`)「帰る」

('、`*川「気を付けて」

(´・_ゝ・`)「病室は変えろ。6人一部屋の大部屋。
        部屋を変えたら誰にも──家族友人上司にも、ましてや他人にも伝えるなと医者や看護師にきつく言いつけろ。
        ……いや、いい、僕がやっておく。口止め料も入院費も必要なら僕が払う」

('、`*川「……どうして変えるの」

(´・_ゝ・`)「理由は君が一番よく分かってるだろう」

 病室の扉を開ける。
 出ていこうとして、思うところがあり立ち止まった。

932 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:30:49 ID:Y8NtoKNoO
(´・_ゝ・`)「君、あれだ、せっかく病院にいるんだから、ついでに『それ』も治療してもらえ」

('、`*川「それって何?」

(´・_ゝ・`)「その体質だ」

('、`*川「体質って……怪我以外、特に変わったとこないけど」

(´・_ゝ・`)「嘘つけ」

 踏み出す。
 大きな声を出せないのだろう、伊藤は私を呼び止めなかった。
 廊下の向こうから看護師が近付いてくる。


*****


 私が住むヴィプ市から、車で1時間。
 シベリア市の真ん中に、それはある。

 大きな屋敷だ。私の部屋がいくつ入るだろうか。
 馬鹿馬鹿しいことを考えつつ、私は狐塚家のインターホンを押した。

『はい、どちら様で──』

(´・_ゝ・`)「盛岡デミタスと申します。フォックスさんとお話したいことがあって来ました」

────────────────────

爪'ー`)y‐「──やあ、やあ、驚きました。先生が私のところへ来るなんて。光栄だ」

 光栄だと言う割に、許可もとらずに煙草を吹かす態度は相変わらず。

 通された客間は広く、真ん中にぽつりと置かれた対のソファとローテーブルがいやに小さく感じられた。
 フォックスに促され、彼の向かいに腰を下ろす。何だこのソファの柔らかさと程よい反発力。欲しい。
 フォックスは怪我を負ったという左腕を一撫でして、紫煙を燻らせた。

(´・_ゝ・`)「突然申し訳ない」

爪'ー`)y‐「いや、いいんだ。しかし、何だって私のところへ?」

(´・_ゝ・`)「話したいことが」

爪'ー`)y‐「ははあ。──お茶を用意させましょう。先生はコーヒーが好きなんでしたな。
      丁度、いい豆が手に入ったんです。おい──」

(´・_ゝ・`)「いや、すぐ済みますから」

 部屋の入口で待機する召使へ声をかけたフォックスを、私は制止した。

933 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:32:27 ID:Y8NtoKNoO

爪'ー`)y‐「しかし」

(´・_ゝ・`)「それに、話の途中で誰かが来てしまったら狐塚さんが困るでしょう」

爪'ー`)y‐「──……」

 「下がれ」。フォックスが召使に言う。声がいくらか尖っていた。

 室内に2人きりとなり、ますますもって部屋が広くなったような錯覚をおぼえた。
 フォックスの口元の煙草が短くなっていく。
 私は黙ってそれを眺めている。

 卓上のブルガリの灰皿に、一本分の灰が溜まった。
 すかさず2本目を取り出したフォックスは、私を見ぬままに口を開いた。

爪'ー`)y‐「話とは」

(´・_ゝ・`)「二度と伊藤に近付かないでもらいたい。
        ──二度と僕や彼女の命を狙わないでもらいたい」

 ジッポを開こうとする手が止まる。
 フォックスは灰皿を見下ろし、何事もなかったかのように今度こそ火をつけた。

爪'ー`)y‐「何のことでしょうか」

(´・_ゝ・`)「通り魔として逮捕された男、ありゃあ、あなたの知り合いでしょう。
        仲がいいのか、金で雇っただけかは知りませんが。
        ──不当に判決が軽かったり、あるいは早期に釈放されたりすれば確定するな」

爪'ー`)y‐「……何を根拠に。私も刺されたんですよ」

(´・_ゝ・`)「刺されたんじゃなく、切りつけられただけでしょう」

爪'ー`)y‐「危害を加えられたのは同じだ」

(´・_ゝ・`)「まあ同じですけど。あなただけ軽傷なのが気になる。伊藤は死にかけた」

爪'ー`)y‐「……先に彼女を思いきり傷付けたことで、犯人は動揺したか疲れたかしたんじゃないですか?」

(´・_ゝ・`)「ああ、それです。順番がおかしい」

爪'ー`)y‐「は?」

 何故この世の人間の大半は愚かなのだろうか。
 と、天才である私は嘆かわしく思う。

934 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:35:06 ID:Y8NtoKNoO

(´・_ゝ・`)「犯人はむしゃくしゃしていた。『身なりのいい男を見付け』、妬ましくて凶行に出た」

(´・_ゝ・`)「あなたが最初のターゲットだったんです。なのに伊藤が先に刺された」

爪'ー`)y‐「……。そりゃあ。……焦って目測を誤ったかな。彼女は私の隣にいたから」

(´・_ゝ・`)「まさか。べたべたくっついていたわけでもないでしょうに。
        ──犯人は後ろから太股を刺した。
        後ろから近付いたんなら焦る必要もないし、咄嗟の犯行の割に太股から狙うのは違和感がある」

 伊藤はそれほど身長が高くない。平均かそれ以下。一方、犯人である男は病室でも話した通り大柄。
 太股を刺すとしたら、自然な体勢では難しい。
 つまり男は、わざわざ不自然な動きをしてまでそこを狙ったことになる。

 まず太股を刺し、男は伊藤の身の自由を奪った。
 太股の刺し傷とは、時として致命傷となる。故意に狙ったというのなら殺意は充分に有り得るのだ。
 さらにナイフを抜いて腹まで刺した──これで殺意が無いと言えるわけがない。

 それほど凶悪な行いをしておいて、フォックスには腕を切っただけ。
 しかもこうして普通に腕を動かせているのなら、傷も浅い。

爪'ー`)y‐「……まあ、その犯人が伊藤さんに殺意があったとしましょう。
      いや、あったんだ。確かに殺意を持っていた。
      私に最初に目をつけたというのは嘘で、彼は初めから伊藤さんのみを狙っていた」

爪'ー`)y‐「私はそれに巻き込まれてしまっただけだ。きっとね」

(´・_ゝ・`)「……」

 私は黙する。フォックスから焦燥の気が沸き立ち、彼は勝手に話を続けた。
 そちらから話題を出してくれるのはありがたい。
 フォックスが貧乏揺すりをする。御曹司の分際で貧乏揺すりとは。

爪'ー`)y‐「だってそうでしょう。私が、そんな──男に依頼してまで伊藤さんを殺すなんて。
      有り得ない。動機がない」

(´・_ゝ・`)「……」

爪'ー`)y‐「無理なこじつけはやめましょう。現実は小説とは違うんですよ盛岡先生」

(´・_ゝ・`)「……けれど小説が現実に似てしまった」

 足が止まる。
 代わりに、フォックスの目付きに揺らぎが生じた。

爪'ー`)y‐「一体何を」

(´・_ゝ・`)「先日、あなたは僕に訊ねましたね。『記憶が無いのにどうやって着想を得るのか』と。
        何、特別なことじゃなかった」

935 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:36:52 ID:Y8NtoKNoO

(´・_ゝ・`)「──僕は、昔の記憶を元に、それをアレンジして作品に仕上げていたんだ。
        無意識のことではありましたけどね」


*****


 かつての狐塚家は、これほど大きくはなかった。
 いや、当時から大きかったことは大きかったのだが、今よりはもう少し小さかった。

 このシベリア市がやや田舎で平和な土地であるため、警備も然程厳重ではなく。
 幼い私1人くらいなら、屋敷の裏庭に忍び込むくらいは出来た。


 初めは裏庭に生える変わった植物に興味を持って侵入しただけだったのだが、
 そこに面した窓の一つ、その向こうにいた少女と目が合ってしまってから事情は変わった。

 彼女は侵入者である私を咎めず、話し相手として採用する。
 以降は彼女に会うため何度かこっそり裏庭を出入りした。
 私も割合と楽しかったので。


 少女はよくよく泣いていた。

(´・_ゝ・`)『どうしてそんなに泣くの』

    『……お兄ちゃんやお父さんが、私を叩くの……』

 少女は暑い日でも長袖を着ていた。
 どうしてそんな格好なの、と問えば、返事は先と同じだった。
 父兄が殴るから痕を隠すためだと。

    『私だって、本当は、涼しい格好したい。……可愛い服を着たい。外に出たい』

 ──彼女は妾腹の娘らしかった。

 彼女の母──つまりは妾──は金と豪奢な暮らしが欲しいがために、
 無理を言ってこの屋敷に住まわせてもらっていた。
 一応は、召使という名目で。実際はもちろん家事手伝いなどしていなかったが。

 狐塚家の当主は「よく出来た人」として通っていたので、
 妾や庶子の存在を大っぴらにしたくはなかったのだ。

 故に──娘をこの部屋に置いて、外に出さなかった。
 妾は自分の暮らしさえ保証されるならば、娘1人の犠牲は厭わなかったのだろう。
 少女から断片的に聞いただけなので、多分に憶測が含まれるが、それほど外れてはいないと思う。

 少女と触れ合い、事情を知る度に。
 彼女が気の毒になって堪らなかった。

936 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:38:53 ID:Y8NtoKNoO

(´・_ゝ・`)『僕がきっと連れ出してあげるから、そしたら、好きな格好をすればいい』

(;、;*川『……うん』

 少女の名は訊かなかった。
 彼女も私の名を訊こうとしなかった。

 幼さ故の口約束。そこに私は責任を持ちたくなかったし、
 彼女もまた、過剰な期待をせぬよう自制していたのだろう。


*****


爪;'ー`)y‐「あんた、記憶が──」

(´・_ゝ・`)「ある日のことだ。
        いつものように裏庭へ行ったが、彼女がいない。
        不審に思い、僕は屋敷の外周をこそこそ移動した」

(´・_ゝ・`)「すると、とある窓の向こうから声が聞こえてきた。
        男の声と──彼女の啜り泣く声」

(´・_ゝ・`)「昼間だというのにカーテンがしまっていて、しかし僅かな隙間があったため
        中の様子が少しは見えた。
        ……電話を手にした少年と、縛られ転がされた彼女の姿があった」


*****


爪'ー`)『──1時間くれてやる』

 ボイスチェンジャーというのだろうか、妙な機械が取り付けられた電話。
 その受話器を持った少年が、にやつきながらそう言った。

爪'ー`)『1時間後にまた電話をするから、そのときに返事を寄越せ。
     要求を呑まないのなら、この娘の存在を公表する。殺してやるのもいいな。
     そうすりゃ妾腹の娘を見殺しにしたってことで、ますますあんたの名に傷が付く』

爪'ー`)『秘密が漏れればあんたは今まで通りにゃ生きてけないだろう。
     考えようによっちゃあ、答えによっちゃあ、あんたの余命はあと1時間しかないわけだ──』

 少年が電話を切る。
 殺すという言葉に一層泣き声を激しくさせていた彼女の顔を、彼は蹴飛ばした。

 14、15歳の少年とは思えぬような冷たい顔をして、少女を見下ろしている。
 ふと笑みを浮かべた彼は、ポケットから何か取り出した。
 ぱちん、という音と共に開かれたそれは、鋭いナイフであった。

937 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:40:33 ID:Y8NtoKNoO
爪'ー`)『どうなるかな……案外、見捨てられるかもな』

(;、;*川『ひ、』

 映画のシーンでも真似ているのか、彼が彼女の腫れた頬をナイフで撫でる。

 危険だと思った。
 状況に酔っているように感じられた。
 彼は今、凶悪犯という己の役に没頭している。「らしい」振る舞いを欲している。

 幼い私にそこまでの考えは回らなかったが、
 とにかく、「更なる危害を加えかねない」雰囲気は察して取れた。

 大人を呼ぶ、という発想は浮かばなかった。
 自分が何とかするか、見て見ぬふりをするか。その二択。
 そのとき私はたしかに、踵を返しかけた。

(;、;*川

 が。
 初対面のときのように、少女と窓越しに目が合って。

 そうなると、もう駄目だった。
 足元から石を拾い上げ、窓を叩き割った。

 唖然とする室内の2人に構わず、割れた穴から手を入れ開錠した。
 そうして窓を全開にして、部屋に入り込む。

(;´・_ゝ・`)『やめろ!』

爪;'ー`)『な──』

(;、;*川『あ……』

 共に言葉を失っている。
 今の内に彼女を連れ出そうと、私は少女に手を伸ばした。

 この事態でも尚、少年から役は抜け切らなかった。
 寧ろ──逆上させてしまったようで。

爪#'ー`)『何だ、このガキ!!』

(;´・_ゝ・`)『──っ!!』

 背中に衝撃。
 途端に火傷でもしたかのような熱が広がり、続いて激痛が走った。

 少女が悲鳴をあげる。
 そこでようやく、少年は我に返った。
 今度は彼が悲鳴をあげてへたり込む。悲鳴をあげたいのはこちらだというのに。

938 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:42:20 ID:Y8NtoKNoO

爪;'ー`)『あ、あっ、……あ……』

 ナイフが落ちる。ちかちかする視界の中それを拾い上げ、私は彼女を拘束する紐を断ち切った。

 小さな手を握って立ち上がらせ、窓とドアを見て、ドアの方へ駆ける。
 廊下へ転がり出て。

(;、;*川『──だ、誰か! 誰か!』

 私と共に走りながら、少女が声を張り上げる。
 やがて騒ぎを聞きつけた召使らしき男女がやって来て、彼らもまた悲鳴を零した。
 何人もの人が駆け寄ってくる。救急車、という声が耳に入り、私は脱力した。

 座り込む。泣き続ける彼女へ微笑みかけると、彼女は、私にしがみつき訊ねた。

(;、;*川『い、痛く、ないの?』

(;´・_ゝ・`)『ちょっと突っつかれただけだ、痛くないよ。こうして動けているんだから』

 突っつかれたどころではないしとても痛いし最早動けないが、
 彼女を少しでも安心させるための回答としては正解だった筈だ。

 私はそうして、気を失った。
 耐えがたい激痛と、遅れて襲ってきた多大な恐怖からの逃避のために。



 次に目を覚ましたのは病室で──

 あまりの出来事に、私の頭は、その記憶を奥底へと封じ込めてしまっていた。


*****


(´・_ゝ・`)「小遣いが欲しくてやったんだろうかね、あなたは。
        まあ目的など今となってはどうでもいいが」

 背中が疼く。
 当時の痛みが記憶の中で蘇り、まるで現在も体験しているかのように熱を持つ。

 しかし私は平静を保ち、足を組んだ。

939 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:44:23 ID:Y8NtoKNoO

(´・_ゝ・`)「僕ら家族が逃げるように引っ越したことや、
        いくら調べてもこの件が表沙汰になっていないところを見るに、
        狐塚グループの力で揉み消されたかな」

(´・_ゝ・`)「いつの間にかヴィプ市で暮らしていた彼女も──
        まあ、自ら家を出たのか、あるいは追い出されてしまったか。
        それも、どうでもいいけど」

爪;'ー`)y‐「……っ!」

 フォックスの手はぶるぶる震えている。
 15年前から何も変わっていないではないか。
 思い切ったことをするくせに、土壇場で怯えてしまう。根っからの臆病者。

(´・_ゝ・`)「僕の本を読んで、あなたは恐怖したんだろう。
        見覚えのある設定。展開。──聞き覚えのある言葉」

(´・_ゝ・`)「こうして小説という形をとって、じわじわと己の行いを暴かれていくのではないかと
        あなたは危惧し、……口を封じるために僕に会おうと思ったわけだ。
        口を、というより手か」

 彼は疑問に思った筈だ。
 出版社の社長から、私が15年以前の記憶を失ったと聞かされて。

 ならばあの小説群の内容は?
 記憶喪失のふりをしているだけ?

 いざ会ってみて──あるいは事前に調査して──彼は確信したのだろう。

 かつての妹が。
 伊藤が、私に入れ知恵して書かせているのだと。

 とんだ勘違いではあったけれど。

(´・_ゝ・`)「あの日用意していた通り魔は、もしかしたら僕を殺すためのものだったのかな。
        都合よく伊藤が僕の部屋にいて都合よく道案内を引き受けたから、ひとまず標的を彼女に変えた?」

爪; ー )y‐「……うう……」

(´・_ゝ・`)「……まあ答えは別にいらない。僕は真実を求めてるわけではないし」

爪; ー )y‐「ぐ……ううう──」

(´・_ゝ・`)「本題はこれじゃないんだ。いわば御膳立て。それでだね、狐塚さん──」

爪;'ー`)「──ううあああああ!!」

 フォックスは灰皿を掴んで立ち上がった。腕が上がる。灰が散らばる。
 終わりかけだった何本目かの煙草は卓上の灰に混じった。

940 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:46:05 ID:Y8NtoKNoO

(´・_ゝ・`)「あんた、取り返しつかなくなるぞ」

 私の一言に、振り上げられた灰皿は彼の頭上で静止した。

(´・_ゝ・`)「……1時間」

 腕時計を見下ろし、私は呟く。
 ふうふうと息を荒らげたフォックスが、血走った目でこちらを睨んでいる。

(´・_ゝ・`)「僕がこの屋敷に入って1時間経っても出てこなければ、
        さっきまで僕が話していたのと同じ内容全てが世間に公表される──という仕掛けをしてある」

爪;'ー`)「、そんな、わけ、」

(´・_ゝ・`)「ないと言い切れるかな。
        職業柄、メディアには色々コネがある。直接的にしろ間接的にしろ。
        ……ああ、もう45分経ったな。ゆっくり喋りすぎた」

 彼には秘密だが、現在私のポケット内の携帯電話を通して
 デレ女史へ会話が筒抜けである。録音もしてもらえているだろう。

 女史は安全な場所で待機している。
 1時間経っても私から連絡がなければ問答無用で垂れ流せと言ってあるので、まあ大丈夫。
 女史は天使のような人なので。善を良しとし悪には容赦しない。

(´・_ゝ・`)「そうなったら、さすがに隠しようがないぞ。
        あんたももう子供じゃないから自分で責任とらなきゃならんし、
        何ならあんたの親も大変困った事態になるだろうから守ってもらえるか甚だ怪しい」

爪;'ー`)「……嘘だ……嘘だ……」

(´・_ゝ・`)「残念ながら真実だ。46分。あと14分」

(´・_ゝ・`)「さらに言えば、今後、僕が妙な死に方をしたり失踪したりしても同様の仕掛けが作動する。
        仕掛けはあちこちにどうとでも作れるからな、潰そうとしても無駄だろう」

 それはややハッタリ。やや、であって全てではない。
 まあフォックスには安心してもらおうか。
 私は女史ほど優しくも厳しくもないので、こんな男にだって逃げ道は用意してやっている。

941 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:47:35 ID:Y8NtoKNoO

爪;'ー`)「俺は──俺はどうしたら──」

(´・_ゝ・`)「初めに言ったろう。伊藤に近付くな。
        僕と伊藤の命を狙うな。あ、僕と伊藤周辺の人間も加えようか。
        それが守れるなら、こちらも何もしない」

 フォックスは崩れるようにソファに腰を落とした。

 それでいいのか、本当にそれだけでいいのかとフォックスが言う。
 金の一つも要求しないのが不思議でならない様子。
 私はそこまで下賤な人間ではない。

(´・_ゝ・`)「僕も伊藤も、安全さえ保障されればそれでいい。
        そもそも、あの本たちも僕は無意識に書いてただけだし、
        全て思い出した今だって、あんたや御家族の罪を積極的に暴きたいわけじゃない。50分。あと10分」

(´・_ゝ・`)「分かってもらえるだろうか」

 既に言葉もないのか、彼はひたすらに頷いた。
 私が何度もしつこく確認すれば、彼も何度も答えた。

 55分。あと5分。フォックスが全身を震わせている。
 私はゆっくりと腰を持ち上げた。

 扉へ歩み寄り、押し開ける。

 あ、と私が声をあげて振り返ると、フォックスは跳ね上がった。何と情けない。


(´・_ゝ・`)「煙草は程々にした方がいい。1時間とは言わないが、余命がどんどん縮んでしまうよ」



*****

942 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:49:32 ID:Y8NtoKNoO



('、`*川「へたれのくせに頑張ったわね」

(´・_ゝ・`)「へたれではない。僕ほど勇猛果敢な男はいない」

('、`*川「さっきから立てないほど膝が笑ってるくせに何を」

(´・_ゝ・`)「武者震いというものを知らないんだな頭が悪い奴はこれだから」

 ──病室のベッドの上から、伊藤は私を見下ろしてきた。
 私はといえば床に座っている。

 昨日の狐塚家でのやり取りを思い出して震えが、武者震いが止まらなくて
 椅子に座ることすらままならず、こうして真っ白い床に尻を合わせている所存である。

 伊藤は既に平生の様子で、本当に怪我人なのか怪しいほどだった。

('、`*川「……まあ。とりあえず、ありがとう」

(´・_ゝ・`)「ああ、君は僕に感謝するべきだ。身を弁え今後僕に逆らうことのないようにしたまえ」

('、`*川「うん」

(´・_ゝ・`)「……冗談だ馬鹿め」

 やはり、まだ本調子ではないかもしれない。

 私はようやく立ち上がり、椅子に座り直した。
 他の患者に聞かれぬよう小声で、そして聞かれてもいいよう曖昧な言い方で改めて顛末を説明する。

 伊藤は礼を繰り返した。
 私もその都度、適当に返事をする。

 取り引きをしたとはいえ、フォックスは今後、心から安堵することは出来ないだろう。
 悩めばいい。苦しめばいい。悔やめばいい。
 残り数十年、余命一杯が、奴には艱難の極みである。

943 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:50:26 ID:Y8NtoKNoO

 15年前のことは、私も伊藤も、これといって触れなかった。

 彼女は伊藤ペニサス。もはや狐塚家とは関係ないただの伊藤。
 私もただの小説家だ。
 過去の擦り合わせなど何ら必要性を感じない。

 私の本を読んだ伊藤が私の背中の傷痕を確認した、
 伊藤の言葉で私が過去を思い出した、
 それ二つあれば問題ない。


(´・_ゝ・`)「君、歩けるのか」

('、`*川「ちょっとリハビリ必要だけど大丈夫だって言われた」

(´・_ゝ・`)「何か後遺症は」

('、`*川「それも多分大丈夫」

(´・_ゝ・`)「体質が治る見込みはあるのか。まだ治ってないようだが」

('、`*川「……その『体質』って何のことなの? 言われたときから気になってたんだけど」

 この様子では、こいつまだ自覚がないな。
 変わった体質だというのに。さっさと治してもらわねば困るのに。


(´・_ゝ・`)「君、体からカフェインが滲み出てるぞ」

('、`*川


 伊藤がすごい顔をした。
 言い様は色々あるが、敢えて単純に表現するなら、恐怖を覚えたときの人間のそれだった。

944 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:52:52 ID:Y8NtoKNoO

('、`*川「……は……?」

(´・_ゝ・`)「早く治療してもらえ」

('、`*川「え……何、え……っと……私、コーヒーの匂いとかする……?」

(´・_ゝ・`)「いいや。だがカフェインが出ている。恐らく、こう、体表から」

('、`*川「何かの比喩?」

(´・_ゝ・`)「そのままの意味」

('、`*川「人体から独りでにカフェイン出ないわよ」

(´・_ゝ・`)「君に限って言えば出ている。
        ……あ、そっか、迂闊に医者に言えば妙な研究にでも使われるかな。そりゃ言いづらかろう」

('、`*川「出てない出てない出てない。何で? 何でそう思うの? 大丈夫? 脳外科か精神科行く?」

(´・_ゝ・`)「僕は至って正常だ。──あのな、僕はカフェイン中毒なんだよ」

('、`*川「それは知ってる。あんたコーヒー飲んでないと死ぬでしょ」

(´・_ゝ・`)「そういうことじゃない。依存性ではなく過剰摂取による病の方の話をしている。
        君のことを考えるとだな、動悸がしたり、気分が高揚したり、酷いと眠れなくなる日さえあるんだ。
        これはカフェイン中毒の症状と一致する」

('、`*川

(´・_ゝ・`)「特に君が近くにいると症状が増す。
        ここ一年ほどの間に発症したので、君が原因と見て間違いない。
        普通にコーヒーを飲んでも症状は現れないから君のカフェインはやや特殊なんだろう」

('、`*川

(´・_ゝ・`)「こういうわけだから、君には早くその体質を治していただきたい。
        僕の健康のために」

('、`*川

(´・_ゝ・`)「何か言え」

('、`*川「……善処する……うん……」

(´・_ゝ・`)「頼んだ」

945 名前:名も無きAAのようです :2014/06/04(水) 16:53:48 ID:Y8NtoKNoO

 これでようやく全てに満足し、私は頷いた。

 あ、何だその呆れたような目は。伊藤のくせに。
 そういう人をナメた態度をとるからお前はモテないのだ。
 阿婆擦れめ。





終わり


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