67 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:34:19 ID:YZGwHYSA0

( ^ω^)と世界のようです(仮)

( ^ω^)「……ドクオー」

('A`)「なんだ」

( ^ω^)「今回の依頼ってなんだったかお?」

('A`)「ジオキのギルドと連絡がつかなくなったから様子を見てこい」

( ^ω^)「だおねぇ……」

('A`)「依頼を受けたのは昨日。連絡がつかなくなったのは三日前の夜から」

( ^ω^)「ギルドでそう説明されたおねぇ……」

('A`)「異常があれば原因を調査し報告せよ……」

( ^ω^)「……でもこれ、どっからどう見ても」

ブーンは目の前の町へ視線を向ける。
石畳の街路に煉瓦の家々が並んでいる。
だがそこには、薄暗くなってきたにも関わらず一切の明かりが見当たらない。
カラスのしゃがれた鳴き声が響く。羽ばたいたカラスから羽が一枚抜けて風に舞い落ちた。

(;^ω^)「異常しかないお……」

(;'A`)「まるでゴーストタウンじゃねぇか……何があったっていうんだこりゃ」

二人は顔を見合わせる。
これはどういうことなのだろう。
三日間の内に町の住人全員がどこかに行ってしまうなど考えられない。

68 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:35:14 ID:YZGwHYSA0

('A`)「厄介事の臭いがするなおい」

(;^ω^)「おーん……本当に事件なのかお……集団引っ越しとかないかお」

('A`)「んなもんあったら別の町の人間は気づいてるだろ……。
    っはーマンドクセ……とりあえず行くか。
    見えないだけで誰かいるかもしれないしな」

( ^ω^)「おっおー」

カンテラを掲げて歩くブーンにドクオが続く。
一応扉をノックし、返事がない家の窓から中を覗いてみるが人の姿はない。
二人の足音だけがやけに大きく反響する。
五軒ほど回って、ブーンは言いようのない気味悪さを感じていた。

(;^ω^)「ドクオ……これ、おかしいお」

(;'A`)「……あぁ。こりゃ引っ越しなんてもんじゃねぇぞ」

ドクオが顔をしかめる。
どの家もつい先ほどまで人間が住んでいたと言ってもわからないほど生活感にあふれていた。
鍋の中のスープに子供のおもちゃ、書斎の本と羽ペン。日常が切り取られたように存在していた。
ただ、そのすべてを塗りつぶすように撒き散らされた大量の黒い羽根が異彩を放っていることを除けば、だが。

(;^ω^)「突然何かがあって家を飛び出したとしか考えられないお」

(;'A`)「それも命に関わることだな……多分、この町の人間は生きてねぇ。
     なんで家中にカラスの羽根が散らばってるんだよ、人食いカラスなんて聞いたことねぇぞ」

( ^ω^)「でも血のあとなんてどこにもないお?」

('A`)「じゃあ人攫いか? どっちにしろ、カラスが人を攫うなんて聞いたことねぇが」

(;^ω^)「おーん……」

69 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:36:04 ID:YZGwHYSA0

ギャア、ギャア。
カラスの鳴き声が耳に刺さるようでブーンは軽く頭を振った。
住人がどこにいったかはひとまず置いておくとして、とりあえずこの状況の原因を突き止めなくてはならない。
溜息を吐いて別の家を回ろうと顔をあげた瞬間、

「もし」

( ゚ω゚)「おおっ?!」

後ろからかかった声に思わず飛び上がる。
目の前のドクオも目を見開いていることからお互いその存在に気付かなかったようだ。
振り向くと闇に溶けそうな黒いローブの裾が見えた。

「すみません突然」

柔らかい、すこし低めの女性の声が近づいてくる。
ブーンのカンテラに近づくほどその姿は鮮明になり、薄青の髪が見えた時、やっと顔が認識できた。

(゚、゚トソン「こんなところで明かりが見えたものですから、旅のお方かと」

( ^ω^)「お、お、そうですお。……ちょっとお聞きしますが、」

(゚、゚トソン「はい?」

( ^ω^)「……幽霊さんですかお?」

(゚、゚トソン「……は?」

70 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:36:50 ID:YZGwHYSA0

(;'A`)「こいつが失礼なことを言って本当に申し訳ありませんでした。
     重々言って聞かせますので」

(゚、゚;トソン「いえ、お気になさらず」

(;^ω^)「いやほんと、申し訳なかったですお」

(゚、゚;トソン「いえいえ私も貴方の立場だったら幽霊を疑いますから、本当に気にしないでください」

女性に案内されて町一番の屋敷に入ってからも二人は頭を下げ続けていた。
まさか生きた人がいるなんて思っていなかったのだ。
だからといって、女性を幽霊呼ばわりしたことは非常識であることに変わりはないのだが。

女性はトソンと名乗った。
薄青の髪を緑のバレッタで止め、儚い雰囲気を纏った彼女は来客に喜んでいるように見えた。
ひとしきり謝りつくした二人に紅茶を淹れて木製の椅子を勧める。
紅茶独特の甘い香りに微笑む彼女は機嫌が良さそうだ。

( ^ω^)「でも、人がいてよかったですお。正直怖いなって思ってたんですお」

(-、-トソン「町の様子を見ましたでしょう? 本当に……誰もいなくなってしまって……」

( ^ω^)「……お、」

(゚、゚トソン「でも、よかったです。人と話すのが久々なもので……って、まだ二日しかたってないんですけれどね」

('A`)「ここがなんでこうなったか、知っているんですか?」

(゚、゚トソン「知っている、といっても……」

( ^ω^)「よければ教えてもらえないですかお?
      ギルドにも連絡しなきゃいけないし」

(-、-トソン「そう……そうですね。ここはもう元には戻らないのだから、仕方ないですね」

トソンは目を伏せる。
小さく睫毛を震わせて、覚悟を決めるために深呼吸を数回。
目を開けた時、彼女の深い蒼の瞳には揺らぐことのない火が灯っていた。

71 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:37:35 ID:YZGwHYSA0

この町にはある女性が住んでいました。
新緑の髪を薄青のピンで止めた、よく笑う表情豊かな女性。
ミセリといいました。彼女はこの町一番の屋敷のメイドをしていました。

彼女は屋敷の跡取り息子に恋をしました。
旦那様が亡くなって以来、奥様と協力して仕事を引き受けた若旦那様。
若旦那様はそろそろ身を固めて、と噂はありましたが良縁には恵まれていませんでした。

ミセリはただのメイドです。
恋は叶うはずもありませんでしたが、彼女は想うだけでも幸せそうでした。
ミセリにはルームシェアしている親友がいましたが、親友に相談しては笑っていました。

ミセ*゚ー゚)リ「若旦那様はね、長い髪の女性がお好きらしいの! 私も伸ばそうかなぁ……」

ミセ*゚ー゚)リ「聞いて! 若旦那様がね、いつも頑張ってるなって言ってくださったの!
     もう嬉しくて気絶するかと思っちゃった!!」

ミセ*゚ー゚)リ「これ、若旦那様お好きよね……こっそり買っていっちゃおうか」

にこにこと笑いながら話す彼女は本当に幸せそうでした。
肩までの長さだった髪の毛を伸ばし始めて、メイドとして傍にいるだけで幸せそうでした。
実際、彼女は幸せだったのだと思います。

彼女の髪が肩甲骨あたりまで伸びた時、転機が訪れました。
若旦那様がミセリを気に入ったと、お付きにするとおっしゃいました。

ミセ*゚ー゚)リ「もうね、夢みたい! これが夢なら私一生目覚めなくていいわ!」

胸の前で手を組み薄く涙を溜めて感激する彼女を親友は祝福しました。
ミセリは若旦那様の傍で仕事に精を出して、メイド長に褒められるほどになりました。
若旦那様はミセリを憎からず思っているようでしたし、身分が違いこそすれ若旦那様が一言おっしゃれば結婚も有り得たでしょう。
順風満帆、とはこのことをいうのだと思います。世界中の幸せが彼女の元に集まったようでした。

72 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:38:25 ID:YZGwHYSA0

(゚、゚トソン「お二人は、この町の別称をご存じですか?」

ふとトソンは話を止めて問いかける。
急に自分に意識が向けられたことに戸惑いつつもブーンは言葉を返す。

( ^ω^)「お? ジオキ以外に呼び名があるんですかお?」

隣のドクオに目配せしたが、彼は緩く頭を左右に振った。
二人が知らない、と察したトソンは納得した顔で何度か頷いた。

(゚、゚トソン「知らなくていいのです、普通なら知る必要はないのですから。
     ただ、これから話す事には必要なのです」

('A`)「……ジオキの別称というのは?」

(゚、゚トソン「……魔女の町」

( ^ω^)「魔女?」

(-、-トソン「……忌まわしい名前です。これを知っていたなら私はここに住むことはなかった。
     この名にふさわしい、風習なんて知りたくもありませんでした」

自身を抱きしめるように腕組みを強くしながら、絞り出すように彼女は言った。
魔女、風習、ミセリ。ドクオは重要な言葉だけ書き取りつつトソンを観察する。

( ^ω^)「……言いたくないなら、言わなくても」

('A`)「ブーン」

助け舟をだしたブーンをドクオがきつい口調で咎めた。
ブーンが眉を八の字にしてこちらを見るが、視線で指示する。
浮かしかけていた腰を席に戻しながらもブーンは弱く反論する。

(;^ω^)「お……だって、辛そうだお」

('A`)「仕事だ」

(;^ω^)「でも、」

(゚、゚トソン「いえ、いえ。私なら大丈夫です……気遣ってくれて、ありがとうございます」

('A`)「……続きを、お願いできますか」

( ^ω^)「ゆっくりで大丈夫ですお、僕達はいくらでも待てますから」

(゚、゚トソン「はい……はい、大丈夫です」

すっかり冷めた紅茶で唇を湿らせて、彼女は再び顔を上げた。
少しばかり青ざめた顔色がこれから語られる悲劇を予感させて、ブーンは背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。

73 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:39:12 ID:YZGwHYSA0

ミセリは別の町から親友と共に奉公に来た娘でした。
彼女もまた、魔女の町という別称を知らなかった。知らないまま若旦那様に近づいていました。
ミセリの髪は腰まで伸びていました。若旦那様はその髪を綺麗だと、そのままにしていておくれとミセリに言っていました。

その日は唐突にやってきました。

早朝、まだ日も出ていない時間でした。
ミセリの部屋のドアが強く叩かれました。何度も、何度も叩かれました。
異常な雰囲気を感じたミセリはそれに応えることはしませんでした。

しばらくして音が止みました。
代わりに、若旦那様の声がしました。

ミセリ、いるのだろう。
僕だよ、開けておくれよ。
大切な用があるんだ、こんな夜更けにすまない、どうしても今伝えなくてはならなかったんだ。

同じ部屋で震えていた親友はおかしい、何かあるのではないかと言いましたが、
恐怖の中愛しい人の声を聞いたミセリは止まりませんでした。
親友の制止を聞かず、ドアを開けました。

ドアの先にいたのは若旦那様でした。
ミセリはその胸に飛び込んで、恐ろしいことがありました、若旦那様と顔を上げて、
やっと違和感に気付きました。

ミセリを取り囲むように、町の男達が立っていました。

ミセ;゚ー゚)リ「若旦那様、この方々は誰なのです?
     何故黙っておられるのです? 若旦那様、若旦那様、」

若旦那様はミセリを抱きしめたまま動こうとしませんでした。
ミセリはその腕から逃れようともがきましたが、敵うことはありませんでした。
若旦那様はミセリの髪を撫でて、にこりと笑いました。

よく、よく僕を騙したね、魔女。

74 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:40:00 ID:YZGwHYSA0

ミセリは目を見開きます。

ミセ; ー )リ「魔女? 何をおっしゃっているのですか若旦那様、離してください、
     嫌、触らないで! 離して! 誰か、助けて! 誰かぁ!!」

ミセリの名を呼んだのは親友だけでした。
男達に連れ去られるミセリを追おうとして、男達に突き飛ばされながら、名を叫んでいました。
町中に響くような声だったはずですが、誰も姿を現しませんでした。窓から覗く事すらしませんでした。

これは暗黙の了解であるのだと、親友は悟りました。
きっとミセリが髪を伸ばし始めた時からずっと進んでいた計画。
誰も代わりになりたくはないから、見て見ぬふりをしていたのだと。
ミセリの傍にいた自分にも気づかれないように画策していたのだと、悟りました。

夜が明けて、親友はミセリを探しましたが見つかることはありませんでした。
町中の人に聞いて回っても返ってくる答えは同じでした。

ミセリなんて女はこの町にはいない。

揃えたように皆そう言うばかりでした。

75 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:40:42 ID:YZGwHYSA0

その日の夜、町の広場に町中の人が集められました。
台の上には若旦那様が立っていて、横にボロ布に身を包んだ女が転がされていました。
松明の光に晒されて金に輝く薄緑の髪が彼女の顔を覆い隠していました。

親友はすぐに気付きました。
ミセリだと、気付きました。
そして若旦那様の手に握られた剣が煌めくのを見ました。

また魔女が現れた。
この女の魔力の源である髪を切り、火炙りの刑とする。
悪魔を呼びださせるな、この女は魔女だ。

朗々と語る若旦那様の声は親友の耳には届きませんでした。
ミセリは魔女じゃない、それだけが彼女の足を動かして前へ前へと進めていました。

背中で縛られた両手を動かしながらミセリの頭には疑問符ばかりが浮かんでいました。
何故私は縛られているのか。何故魔女と呼ばれているのか。
何故若旦那様は私に一瞥もよこしはしないのか。何故誰も私を呼ばないのか。

ミセリの髪が強く持ち上げられて、彼女は苦悶の表情を浮かべました。
それでもミセリの疑問符は消えませんでした。
顔を上げたことによって、泣きながら人混みを掻き分けて近寄ってこようとしている親友が見えました。

急にミセリの視界は地を向きました。
風に流れていく緑の糸が見えて、自身の髪が切られたのだとわかりました。
切ったのは若旦那であることも察しました。久しぶりに彼女の項を冷たい風が通り過ぎました。

ミセリの身体が持ち上げられます。
十字に組まれた丸太に括りつけられて、積まれた藁の上に掲げられました。
松明の火が揺らめくのを見て、火炙りになるのだと悟りました。

親友は人混みを抜け、一番前に来ました。
ミセリは魔女なんかじゃない、無実だと叫びましたが男達に取り押さえられました。
それでもミセリの名を呼んで、無実を訴え続けました。

一瞬、ミセリと親友の視線が合いました。
ぐちゃぐちゃに泣き腫れた親友の視線を受け止めて、ミセリは一筋の涙を流して。
薄く、微笑みました。

76 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:41:27 ID:YZGwHYSA0

親友がミセリ、と言い終わる前に。
ミセリの表情は憤怒のものに変わっていました。

「――――――――――!!!!!!!!」

そのまま、何かを叫びました。
何を叫んだかはわかりません。
しいていうなら、カラスの悲鳴にも似た声でした。
耳を劈く、断末魔でした。

ミセリが叫んだ瞬間、彼女の背から羽が生えました。
黒い、彼女の身の丈の二倍以上あろうかという巨大な羽が彼女の背を突き破っていました。
彼女の瞳が紅く光って、そのままミセリは飛び立ちました。

空で再び彼女は咆哮を上げました。
皆呆然と見送っていました。どこかで飛び去っていくのを、ただ見送っていました。

少しずつ正気に返る人達からは声が上がりました。

本当にミセリは魔女だったのか。
いやあれは魔女というよりは悪魔ではないか。
ならそれを召喚したのは誰だ、あの化け物と親しくしていたのは!

皆の視線は親友に向きました。

親友はそのまま縄で縛られ、翌日に処刑が決定しました。
親友は自身が魔女でないことは知っていましたが、逆らう気は起きませんでした。
ミセリが無事に逃げた安堵だけが胸に満ちていました。

牢に容れられた親友を若旦那が訪ねました。
正確には見物にきた、という方が正しかったのでしょう。
歪んだ笑みを浮かべながら鉄格子越し若旦那は話しました。

君達はこの町の風習を知らなかったんだよね、仕方ないよね。
地主が嫁を娶る前に町から魔女を殺さなきゃいけないなんて知らなかったんだよね。
魔女の条件も知らなかったんだろう。よく見れば気づいたはずだ、この町で生まれた女の髪が長くないことくらい。
ミセリはよく役立ってくれたよ。僕を誑かした、悪い魔女という設定はぴったりだったろう?
悪魔だったのは驚きだけど、誰かを殺さないと僕はいつまでも独り身なんだ。
僕のことが好きだったのだから、これくらい許してくれるだろうさ。
君は魔女として殺される。そして僕はどこかの良いお嬢さんと結婚して、ハッピーエンドだ。
君ひとりの犠牲でこの町は繁栄して続いていく。人柱だと思って、町のために、僕のために死んでくれ。

77 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:42:11 ID:YZGwHYSA0

(#^ω^)「そんなの!! そんなのおかしいお!!!」

堪えきれずにブーンが声を荒げる。
ドクオが視線で宥めるが肩を震わせて額に青筋を浮かべるブーンの呼吸は荒い。
冷静になろうとしても憤りが消えることはなかった。

(#^ω^)「人柱だとか、変だお。犠牲がなくたって、町は続いていくのに。
      町のための犠牲なんて間違ってるお」

('A`)「ブーン」

(#^ω^)「だって、そうだお!? 誰かが、犠牲にならなきゃいけない繁栄なんて、おかしいお!!」

('A`)「わかってる。俺だってムカついてるさ。だが、俺達の感情は今関係ない。わかるな?」

(#^ω^)「……お、」

ドクオの手が震えて、字が歪んでいるのが見えた。
怒りを抑え込もうとしているのだろう。ブーンも強く拳を握りしめて怒りを逃がそうとする。
静かになったブーンを見て、ドクオはトソンに向き直った。

('A`)「……すみません、お騒がせして」

(゚、゚トソン「いえ。……怒ってくれて、少し嬉しいんです。
     私も、これはおかしいと思いますから」

('A`)「ひとつ、よろしいですか」

(゚、゚トソン「はい」

('A`)「……ミセリさんは本当に、魔女ではなかったのですよね?」

(゚、゚トソン「……魔女なんかじゃなかった。
     ミセリは確かに魔女に仕立て上げられただけで普通の人間でした。ただ、」

(-、-トソン「ただ、町中に渦巻いていた悪意と、彼女自身の感情が……爆発したのだと、思います」

('A`)「……わかりました」

視線で続きを促すと、トソンは一つ頷いて口を開いた。

78 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:43:03 ID:YZGwHYSA0

次の日の夜、親友は前日の服装のまま十字架に括りつけられました。
彼女の胸中は、ミセリは無事でやっているだろうかということだけがありました。
自身の運命はどうでもいいと思っていました。むしろ、親愛なる友を守りきったことを誇りにすら感じていました。

藁に油がかけられます。よく燃えるだろうと他人事に感じながら、親友は空を仰ぎました。
空は真っ暗で、ミセリの羽によく似ていました。
そういえば、羽が生えても瞳の色が変わっても、ミセリは美しかったと思いました。
頭の中のミセリが笑いかけてきました。彼女の親友でよかったと思うと同時に、もう会えないことに涙が流れました。

松明が藁に近づけられます。
目を閉じた親友の耳に、カラスの鳴き声が届きました。
自身を包むはずの炎はあがりませんでした。代わりに、強い衝撃と羽音が襲いました。

ミセ*゚ー )リ

呆然として、ただ口は動きました。
ミセリ、と呼ぶと彼女の笑みは深くなったように見えました。
ミセリは叫びました。強く、強く叫びました。

どこからか空を埋め尽くすほどのカラスが現れました。
人間の背丈の半分ほどあろうかという、大きなカラス達でした。
ミセリが一つ咆哮をあげると同時に、人々に襲い掛かりました。

家の中に逃げ込んでも、剣で応戦してもカラス達の猛攻は収まりませんでした。
最初は子供から、次は老人、女、男、誰も彼もがカラスに捕まってどこかへ連れていかれました。

羽根だけを残してカラス達は飛び去っていきました。
町に残ったのは親友と、ミセリだけでした。
ミセリの右目は紅く輝いたままでした。昔見た、ルビーによく似ていると未だぼやけた頭で親友は思いました。

ミセリはにこりと笑って、飛び立ちました。
親友が呼び止めようとすると、右手を前に出して、三本指を立てました。
そのままカラス達が飛び去った方へ飛んでいきました。

79 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:43:46 ID:YZGwHYSA0

(゚、゚トソン「……これで、私が知っていることは終わりです。
     私は二日前偶然町を離れていたので、帰ってきた時ミセリの親友に話を聞いたのです」

('A`)「その親友さんは、どこに?」

(゚、゚トソン「わかりません。ただ一言ミセリを探すと言ってどこかへ行ってしまいました」

('A`)「そうですか……ありがとうございました。おいブーン」

( ;ω;)グスッグスッ

('A`)「……泣くなよ……」

( ;ω;)「どぅ、だっで、みぜりざんがぁ」

(゚、゚;トソン「ティッシュどうぞ」

( ぅω;)ズビズビ

( >ω<)ヂーンッ

( ^ω^)「……お話、ありがとうございましたお」

('A`)「鼻声」

再びブーンが鼻をかむ間にドクオはトソンを観察する。
彼女が嘘を言っているのはわかっていた、が嘘の必要性がわからなかった。
依頼内容は達成したが心に靄が残る。すっきりしないままこの依頼は終わりそうだ。

80 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:44:30 ID:YZGwHYSA0

('A`)「じゃ、帰るか」

(゚、゚トソン「お泊りにならないのですか?」

( ^ω^)「お、今から帰ればまだ間に合いますから」

('A`)「お話ありがとうございました」

( ^ω^)「あ、トソンさんも一緒に来ますかお? ここは危険かもですし、一人じゃ危ないですお」

ブーンは荷を背負って扉へ向かおうとした足を止める。
女性一人でここに二日もいたそうだが、いずれ別の町に行くことになるだろう。
振り返って、ブーンは目を見開いた。

(゚、゚トソン「いえ、もう少し留まってみようかと思います。もしかしたら、誰か帰ってくるかもしれませんし」

('A`)「そうですか……おい、何固まってんだ。行くぞブーン」

( ^ω^)「お、お?」

('A`)「それじゃ、失礼します」

(゚、゚トソン「お気をつけて」

81 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:45:17 ID:YZGwHYSA0

ドクオに押し出されながら扉を出る。
屋敷を出て、街道を歩いていてもブーンはどこか上の空のままだった。

('A`)「……おい、夜なんだからもっと気ぃ張れ。どっから魔物が出てくるかわかんねぇんだぞ」

( ^ω^)「……さっき」

('A`)「あ?」

( ^ω^)「一瞬だけ、トソンさんの左目が紅く見えたんだお。ルビーみたいな、きれいな紅」

('A`)「何言ってんだ、見間違いだろ?」

( ^ω^)「……だおね。見間違いだお」

無理矢理納得させるようにブーンは何度も頷く。
二人の周りが一瞬だけ暗くなった。月に雲がかかったかとドクオが見上げても今日は雲一つなく、月だけがぽかりと浮かんでいた。
大きな鳥が力強く羽ばたく音がした。
闇にまぎれて、ジオキの方へ飛んでいくカラスがいた。それを見て、ドクオの中の靄が晴れた。

('A`)「……そうか、あの人も、そうだったのか」

( ^ω^)「お?」

('A`)「いや、なんでもない。もうカラスの被害はないと思っただけだ」

( ^ω^)「お? なんでだお?」

('A`)「二人が望んでるのは平穏だけだからさ。ただ、平和でいたかっただけなんだ」

( ^ω^)「お? お??」

疑問符を浮かべているブーンを見て、ドクオは薄く笑う。
世の中はわからなくていいことばかりだ。
これも、こいつが知る必要はないだろう。

('A`)「さって、帰るか。なんなら走ってもいいぜ、今俺は気分がいい」

( ^ω^)「お? 負けないお?」

('A`)「わかんねぇぜ? よーいドン!!」

(;^ω^)「あっズルはダメだお! ずる!」



ジオキから、大量のカラスが飛び立った。
黒い影にまぎれて、二人のカラスが飛び立った。
手を握り合いながら平穏の地を目指して、羽を動かし続けた。

82 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 03:51:39 ID:YZGwHYSA0
終わり
感想、批評頼む。できる限りいいものを書きたい

83 名前:名も無きAAのようです :2013/10/30(水) 04:18:19 ID:kyXH3uI.0
地の文の量が適度でスムーズに読み進められた
情景描写が丁寧で、読解力のない頭にもしっかりとイメージが浮かびました

悪いところはないような気がするけど、強いて上げれば
一文が長い箇所は目で追う内に息苦しく感じる……かな?
でも淡々とした語り口を表現する場面にはいいんじゃないかと

あとは場面が過去に移る時の境目で、一旦つまずいたぐらいかな
会話文とのバランスも良くて、手本にしたいくらいです
想いを馳せる感じで引きを残す終わり方も好き



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