- 69 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:29:43 ID:M9i5Y4sk0
- どこかもの悲しげなピアノの音が聞こえた。
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( ゚∀゚)Bemsha Swingのようです川д川
学校の七不思議が、最近になって話題をぶり返したのは何故だっただろうか。
とにかく理由は分からないが、気が付けば「夜中の音楽室から聞こえるピアノ」という七不思議が、「放課後の音楽室から聞こえるピアノ」に変わったのは記憶に新しい。
ジョルジュはまさかその七不思議の一つを体感することになろうとは終ぞ思っていなかった。
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( ゚∀゚)(……七不思議って、これか?)
ピアノの音色は美しい。
- 71 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:33:31 ID:M9i5Y4sk0
- もの悲しげなメロディーから入るが、曲が続くにつれて不協和音にも似た、一定のリズムが保たれている。
その旋律を聞きながら、ふと肩に掛けていたトランペットケースに目を向けた。
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( ゚∀゚)「……もしかして」
ジョルジュは小さく呟くと、肩のケースを下ろした。
急いでトランペットを取り出すと、マウスピースを口に近付ける。
聞こえるピアノの音はいつしか止んで、また最初の旋律を弾き始めたところだった。
中庭から見える、音楽室の窓に期待の眼差しを向けた。
窓は開いていて、僅かに風にはためくカーテンが見える。
- 72 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:34:50 ID:M9i5Y4sk0
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( ゚∀゚)(もし、感が当たってたら?)
その時は、その時だ。
ジョルジュはにやりと笑みを浮かべると、すうっと息を吸った。
そして。
劈くようなトランペットの音が、ピアノの音に重なる。
( )「――ッ!」
一度戸惑うように止んだピアノの音。
ピアノの演奏者の声無き声が聞こえたような気がした。
- 73 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:36:22 ID:M9i5Y4sk0
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(;゚∀゚)(頼むから、)
ジョルジュは祈るような想いで、即興で作り上げた脳内の譜面の音符をトランペットで追った。
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(;゚∀゚)(乗ってくれよ!)
高らかに吹き上げたトランペットの音に。
ピアノの音が、トランペットと同じ音を辿った。
更に、こちらが音を途切れさせると、ピアノは伴奏に思える、新たな音を続けて見せた。
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( ゚∀゚)(来た!)
トランペットの音で新しく発想を得たらしい。
こちらが作ったメロディーを織り交ぜながら、ピアノは音遊びのようにまた新しい旋律を作り出す。
- 74 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:37:41 ID:M9i5Y4sk0
- ここはトランペットの出るところじゃない。
ジャズをやるジョルジュにとってはそう判断ができて、そう感じるとすぐに下ろした荷物を拾い上げて出て来た筈の校舎へと逆戻りした。
片手はトランペットを持ったままだ。
ひたすら階段を二段飛ばしで駆け上がる。
背中に「どうしたよ、ジョルジュ」と声をかけられた気もした。
けれど、そんなことに構っている時ではない。
今、この時。
ピアノのソロを弾いている人物は。
七不思議でもなんでもない、絶対にこれは幽霊ではなく人だ。
それも、きっと。
- 75 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:39:48 ID:M9i5Y4sk0
- 最高の、ジャズピアニスト。
目の前の音楽室の扉を、鍵がかかっていたかもしれないのにドアノブを引っ掴んで性急に開けた。
突然大きな音を立てて開いた扉から、肩で息をしながら顔を上げて見れば。
ピアノの椅子には、学年で腫れ物のように扱われていると記憶する少女がいた。
川;д川「あ……」
少女はジョルジュを目が合って、初めて思い出したように席を立った。
前髪から覗く白い肌をぼっと赤く染め上げると、耐え切れないように音楽準備室の方へと走り出す。
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(;゚∀゚)「待てよ!」
- 76 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:42:13 ID:M9i5Y4sk0
- ジョルジュは息も整えないまま走り出すと、少女の腕を掴んだ。
存外強い力で掴んでしまったらしい。
息を詰まらせた少女に気付いて、「わ、悪い」と慌てて手を離す。
不安げにジョルジュを見上げる少女に、逃げる意思はもう見られなかった。
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(;゚∀゚)「え、っと――貞子さん、だっけ」
川;д川「……」
こくり、と頷く。
貞子は頷いたまま顔を上げず、俯いて黒髪から真っ赤になった耳をジョルジュに見せた。
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( ゚∀゚)「さっきのトランペット、聞こえた?」
川;д川「……」
- 77 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:44:07 ID:M9i5Y4sk0
- また一つ、頷き。
ジョルジュはほぼ反射的に、貞子の白くて細い両手を掴んだ。
川;д川「――!?」
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(;゚∀゚)「お願いがある!」
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(;゚∀゚)「俺達の、ピアニストになってくれ!!」
川;д川「……え?」
ぽかんとして顔を上げた貞子の瞳が見えた。
羞恥からか少し潤んだ黒曜石の眼は、とても綺麗だった。
- 78 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:45:55 ID:M9i5Y4sk0
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トランペットのジョルジュ。
ティンパニの兄者、ドラムの弟者。
ベースのモナー。
テナーサックスのモララー。
この五人が校則違反のバイト――しかもバーだ――で、ジャズ演奏をしているのは、高校で出会ってからだ。
元はと言えばモララーの家がバーの近くにあって、モララーがそのバーのサックス演奏者に教えを乞っていたのがきっかけだったのだけれど。
- 79 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:47:55 ID:M9i5Y4sk0
- 五人がどれだけのピアニストと演奏しても。
全員が納得する、全員の演奏に合わせられて、ましてや満足ができる演奏をできるピアニストに会ったことが無かった。
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( ゚∀゚)(でも、もしかしてコイツなら)
いけるかもしれない、とジョルジュは思った。
混乱で呆然としている貞子の前で、はっとしたようにジョルジュは手を離してポケットから携帯を取り出した。
全員宛のメールに、件名に『音楽室集合』とだけ書いて送信する。
これからの期待に、ジョルジュは目を輝かせた。
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( ;´_ゝ`)「貞子ー? 生きてるかー」
- 80 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:50:22 ID:M9i5Y4sk0
- 川;д川「無理……帰る……」
( ´∀`)「帰らない帰らない。これからだモナ」
川;д川「嫌……」
( ・∀・)「嫌じゃねえ」
舞台に出る前、ガチガチに緊張した貞子に思い思いに声をかけている。
貞子は背中が大きく開いた、濃い紫のドレスを着ていた。
先ほどまでバーのマスターの奥さんに無理やり着せられ、悲鳴だけ聞こえていた。
だが、よく似合っているとジョルジュは思う。
ジョルジュは白いシャツに黒いベスト、黒のスラックスを合わせて、首にチェーンのネックレスをかけていた。
兄弟はシャツにジャケット、モナーはサスペンダー、モララーはシャツの袖を捲っている、という感じだ。
- 81 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:52:06 ID:M9i5Y4sk0
- 自分の初舞台の時もここまでは緊張していなかった、とジョルジュは苦笑した。
ふと視線を逸らせば、客席の端の方でバーのマスターが目配せしている。
もういいという合図だった。
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( ゚∀゚)「貞子!」
ジョルジュがそう呼ぶと、他のメンバーは察したようだった。
すっと己の楽器やスティックに手を伸ばし、自分もトランペットを持ってジョルジュは貞子に目を向ける。
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( ゚∀゚)「行こうぜ、貞子」
トランペットを持っていない方の手を差し出した。
貞子は躊躇いがちに、ジョルジュの顔を見上げる。
- 82 名前:名も無きAAのようです :2013/05/06(月) 15:53:37 ID:M9i5Y4sk0
- そして、差し出された手にゆっくりと、自分の手を重ねた。
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( ゚∀゚)Bemsha Swingのようです川д川 終わり
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