- 417 名前:名も無きAAのようです :2014/10/19(日) 21:47:43 ID:rlK3C6BQ0
Place: 草咲市 小手鳥町 字 辺津田 111 静かな趣の洋風建築
○
Cast: 志納ドクオ 賤之女デレ 長岡ジョルジュ
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- 418 名前:名も無きAAのようです :2014/10/19(日) 21:50:46 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「……体の力を抜け」
ζ(゚、 ゚*ζ 「はい」
('A`) 「恐れることは無い。俺に全て任せろ」
ζ(゚、 ゚*ζ 「はい」
椅子に座らせたデレが、緊張した面持ちで唇を結ぶ。
ドクオは膝をついて目線を合わせ、真っ向から彼女の瞳をのぞき込む。
綺麗な瞳だ。透き通り、見ているこちらの方がすべてを見透かされている気分になる。
ドクオは、一度大きく息を吸って、目に力を込めた。
じくじくと眼窩が独特の熱を持つ。
暗示の力が働いているのだ。
自分で見たことは無いが、他人にはドクオの瞳が発光して見えるらしい。
おずおずとドクオと見つめ合っていたデレの顔が、惚けたようなものに変わった。
頬が紅潮し、薄い唇が桃色に染まる。
上手くかかったようだ。
ドクオはこの催眠術の真似事がどうにも得意になれないので、今回も失敗するかと内心は心配していた。
('A`) 「お前の名前は?」
ζ( *ζ 「……しずのめ……でれです」
('A`) 「他に名前はあるか?」
ζ( *ζ 「……ありません」
- 419 名前:名も無きAAのようです :2014/10/19(日) 21:52:13 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「わかった。一先ず、デレと呼ぼう」
ζ( *ζ 「…………」
('A`) 「デレ、お前はどこの生まれだ?」
ζ( *ζ 「そうさくし です」
('A`) 「両親の名前は?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「お父さんと、お母さんの名前は?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「……思い出せないか?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「……質問を変えよう。お前はどこの小学校に通っていた?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「…………今の年齢は?」
ζ( *ζ 「9さい です」
('A`) 「……性別は?」
ζ( *ζ 「おんな です」
- 420 名前:名も無きAAのようです :2014/10/19(日) 21:53:23 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「趣味はあるか?」
ζ( *ζ 「ほんを よむのが すき」
('A`) 「好きな本は?」
ζ( *ζ 「しあわせの あおいとり」
('A`) 「なんでその話が好きなんだ?」
ζ( *ζ 「…………」
('A`) 「……好きな人はいるか?」
ζ( *ζ 「おとうさま」
('A`) 「それは、誰のことだ?」
ζ( *ζ 「…………おとうさま」
('A`) 「……俺はお前にとってのなんだ?」
ζ( *ζ 「おとうさま」
('A`) 「俺のほかにも、お父様が居たな?」
ζ( *ζ 「……はい」
('A`) 「それは誰だ」
ζ( *ζ 「おとうさま」
- 421 名前:名も無きAAのようです :2014/10/19(日) 21:54:30 ID:rlK3C6BQ0
('A`) 「……逆に、嫌いな人はいるか」
ζ( *ζ 「くいもち」
('A`) 「なんで嫌いだ?」
ζ( *ζ 「おとうさまを ころそうとする」
('A`) 「……お父様は死んだか?」
ζ( *ζ 「……はい」
('A`) 「俺は生きているが、お父様は死んだか?」
ζ( *ζ 「おとうさまは あたらしいおとうさま」
('A`) 「おとうさまは杭持ちに殺されたか?」
ζ( *ζ 「わからない」
('A`) 「前のお父様の遺物を持っているか?」
ζ( *ζ 「……はい」
('A`) 「……それはどこにある」
ζ( *ζ 「…………どこか」
('A`) 「どこだ」
ζ( *ζ 「……どこか」
- 422 名前:名も無きAAのようです :2014/10/19(日) 21:55:25 ID:rlK3C6BQ0
半覚醒状態のデレに、他愛ない質問と、核心を探る質問をまぜこぜにして問う。
他愛ない方には答えが返ってくるが、核心に迫る物はダメだ。
ドクオの術にかかり、本人の意志は全く働いていないはずなのだが、それでも答えようとはしない。
知らない訳ではないのだ。知らないことには知らないとはっきり答えることからも分かる。
その後十数分に渡り、質問を続けて見たが成果は得られなかった。
分かったのは、今のデレの人格を形成している「おとうさま」の暗示の能力は、ドクオより数段上だということだけだ。
('A`) 「……もう一度聞く。おとうさんとおかあさんのことを覚えているか?」
ζ( *ζ 「……」
('A`) 「…………わかった。そろそろ終わりにしよう」
('A`) 「最後に、俺に言いたいことはあるか」
ζ( *ζ 「…………」
('A`) 「何でもいい。ゆっくりでいい。どんな他愛ないことでも構わない」
ζ( *ζ 「…………なにもありません」
('A`) 「……」
ζ( *ζ 「……なにもありません」
デレの頬を、一筋の涙が伝った。
- 423 名前:名も無きAAのようです :2014/10/19(日) 21:56:52 ID:rlK3C6BQ0
術を解く。
完全に気を失い、倒れかけたデレの体を受け止めた。
少女然としていて軽く、小さい。
しかし、年齢を考えれば、もう少し成長していてもおかしくないはずだ。
やはり、吸血鬼に定期的に血を与えるというのは、少女の体には荷が重いのか。
ドクオはぐったりとした彼女の目じりを指で拭ってやる。
('A`) 「ジョルジュ、すまん。デレを寝室に連れていく」
_
( ゚∀゚) 「あいよん」
部屋の隅で大人しく気配を消していたジョルジュが小走りで部屋の扉を開けた。
ここは一回の奥の物置部屋。今はジョルジュに貸し与えている場所だ。
デレは、今も死に失せた「お父様」の呪縛に囚われている。
出来るだけ、その名残の無い場所で術による干渉を行いたかった。
('A`) 「……どう思った」
_
( ゚∀゚) 「どうもこうも、本当にがっつり洗脳されてんだな、って感じ」
('A`) 「ああ」
_
( ゚∀゚) 「上辺だけをキャラ漬けされてるってレベルじゃないもんな。正直やった奴を殴り倒したいわ」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「まあでも、希望はあるんじゃねえかな。最後のは、なんか、本人が呪縛と戦おうとしていた感じあるし」
('A`) 「だと、良いんだがな」
- 424 名前:名も無きAAのようです :2014/10/19(日) 22:00:04 ID:rlK3C6BQ0
地下の寝室に降り、ベッドにデレを寝かせる。
洗脳されている部分に干渉したせいで消耗したのだろう。
ぐったりと眠って、起きる気配が無い。
('A`) 「最近は、少し人間味を取り戻してきていたようだったから、期待したんだがな」
_
( ^∀^) 「焦りは禁物ってな。状態が改善してる兆しはあるんだしよ、無理しないでいこうぜ」
('A`) 「……ああ」
デレの額を撫で、乱れた髪を調えてやる。
こうして寝ていると、本当にただの少女だ。
起きている時の所作言動の薄気味悪さが嘘のように思える。
_
( ゚∀゚) 「つかさ、なんでそこまでデレちゃんのこと気にかけてんのさ」
('A`) 「……お前も色々してくれてるだろ」
_
( ゚∀゚) 「そりゃ俺も並の善意?みたいなもんあるし。でもさ、ドクオはなんかこう、もっと必死というか、マジというか」
('A`) 「…………コイツは、洗脳されての行動とはいえ、俺の命の恩人だからだ。それ以外に理由は無い」
_
( ゚∀゚) 「ふーん……」
いまいち納得していないという顔ながら、ジョルジュはそれ以上続けなかった。
嫌われているのを自覚して、あまり接近しないようにデレを覗き込む。
_
( ゚∀゚) 「まあ、でも。目をつけたのがドクオだったってのが、この子のなけなしの幸運だったと俺は思うぜ」
('A`) 「……俺がどうかはともかく、他のゴミに同じように懐こうとしたかも知れないと考えると肝が冷える」
- 425 名前:名も無きAAのようです :2014/10/19(日) 22:01:02 ID:rlK3C6BQ0
あらかじめ寝間着を着させておいたので、このまま寝付かせて問題ないだろう。
ドクオは布団をデレに被せてやる。
小さな、しかし少し荒い寝息が聞こえる。
以前に一度、暗示をかけた時もこうだった。
その時は、ドクオの暗示で無理やりに元の人格を引き出そうとしたが失敗。
術が解けたと同時にデレは意識を失い、そのまま数時間眠り続けたのだ。
悪夢を見ているかのように魘されている彼女の姿には、簡単に干渉できない何かがあった。
今回は多少気を使ったつもりだが、それでも夢見は悪いらしい。
もう一度額の汗を拭ってやる。
デレが少し反応した。閉じていた瞼が開き、うるんだ目でドクオを見上げる。
ζ( 、 *ζ 「お父様……?」
('A`) 「……負担がかかっているはずだ。もう少し寝ていろ。」
ζ( 、 *ζ 「……?」
術にかかる前後の記憶があいまいなのか、自身の状況が把握できてい無いようだ。
今、あれこれと説明しても無意味だろう。
ドクオは頭を撫で、一先ず寝かしつけようとする。
ζ( 、 *ζ 「お父様……」
('A`) 「なんだ」
ζ( 、 *ζ 「……傍に……いてください」
- 426 名前:名も無きAAのようです :2014/10/19(日) 22:02:10 ID:rlK3C6BQ0
小さな手が布団から現れて、ドクオの指を掴む。
デレはそのまま瞼を閉じて、寝息をたてはじめた。
少し引いてみたが、寝ている割にはしっかりと捕まっている。
_
( ゚∀゚) 「よっぽど怖い夢でも見てんのかねえ」
('A`) 「……甘ったれなだけだ」
_
( ゚∀゚) 「ドクオも一緒に寝たら?昨日もロクに寝てないだろ?」
('A`) 「……」
_
( ゚∀゚) 「色々考えてるのはわかるけど、無理は良くないって」
('A`) 「……そうだな。俺も少し寝る。上のことは任せていいか」
_
( ゚∀゚)b 「おうよ。家事もろもろとデレちゃんの夕飯は俺に任せな」
('A`) 「すまん、いつも世話になる」
_
( ^∀^) 「ま、無職の俺の方が世話になってんだけどな」
地下を出てゆくジョルジュを見送って、ドクオも布団に潜る。
ジョルジュの言っていた通り、ここ数日真面に睡眠をとっていなかったので、常に睡魔に襲われ続けている。
ついでに腹も空いているが、こちらはいつものことだ。
二日前にいくらかデレの血を吸ったので、まだまだ耐えられる。
- 427 名前:名も無きAAのようです :2014/10/19(日) 22:04:44 ID:rlK3C6BQ0
デレをなるべく中央からどかさぬよう。端に寄って眠る。
仕方ないので、指はデレに捕まれたままだ。
暗示をかけて負担をかけたのはこちらなのだから、この程度のわがままは許してやっても罰は当たるまい。
目を閉じる。
デレの寝息だけが聞こえる。
最近では、すっかり耳に馴染んでしまった。
一度、同じ床に入ることを赦した時点からデレは必ずドクオと共に眠る様になった。
寝付くまでの数分を、会話して過ごすことも増えた。
デレが、少しずつ年相応のらしさを取り戻すのと同時に、ドクオもようやっと彼女に慣れ始めている。
( A ) 「…………」
ζ( 、 *ζ 「ん……」
( A ) 「…………おい、離れろ」
ζ( 、 *ζ スャー......
( A ) 「…………チッ」
手を抱くようにすり寄ってきたデレを、少しだけ押し戻し。
ドクオもまた、深い眠りに就いた。
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