- 304 名前:名も無きAAのようです :2014/05/11(日) 21:52:11 ID:D90ZIRLo0
Place: 草咲市 南梨町 字 節穴前 15-9 メゾンフシアナ205号室
○
Cast:都村トソン 都村ミセリ 棺桶死オサム
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- 305 名前:名も無きAAのようです :2014/05/11(日) 21:53:19 ID:D90ZIRLo0
扉が開いて閉まる音で、目が覚めた。
静かにしようという心はは感じられたが、周囲があまりに静かなので嫌でも耳につく。
どこか覚束ない足音。妙な胸騒ぎがして、体を起こした。
ミセ* ー )リ 「もしかして、起こしちゃった?悪いな、トソン」
薄暗く顔がよく見えないが、間違いなくミセリだった。
息が荒い。努めて明るくしているようだけれど、強がりなのが寝ぼけた頭でもすぐに分かる。
(゚、゚トソン 「どこ行ってたんですか?こんな夜中に」
ミセ* ー )リ 「ちょっと寝付けないから、散歩にね」
嘘だ。
寝付けなくて散歩に行ったならば、私に声をかけるはずだ。
急にいなくなれば私が無暗に心配することを、彼女は理解しているから。
ミセ* ー )リ 「悪いついでに、一口、飲ませてくれね?渇きが、辛いんだ」
半ば倒れ込む形で、ミセリがベッドへ。
返答を待たず手を私の肩へと伸ばす。
余裕が無い。いつものように、ただ空腹になったという風には感じられなかった。
そもそも、昨日の晩、寝る前に少し多めに飲ませていたはずなのに。
(゚、゚トソン 「……私も貧血になってしまうから、あまり飲まないでくださいよ」
本当であれば、抜け出していた理由を含め、色々と事情を聴きたいところだったけれど、
あまりに辛そうなので血を飲ませることを優先した。
苦悶の中に、安心を滲ませた表情で、ミセリが私に凭れかかる。
パジャマの胸元をはだけさせ、ミセリの牙を、そこに受け入れた。
- 306 名前:名も無きAAのようです :2014/05/11(日) 21:54:13 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚トソン (体が、いつも以上に冷たい)
一度だけ、この体温に触れたことがある。
初めて会った時だ。
そして、血を多く失っていた時の温度だ。
(゚、゚トソン 「ミセリ、何をしたんですか」
ミセ* ー )リ 「何もしてないって言ったら、信じてくれる?」
(゚、゚トソン 「いいえ」
ミセ* ー )リ 「トソンは、厳しいからな」
思考に薄い靄がかかり始めた。
寝不足や病による衰弱とは少し違う脱力感。
少しづつだけれど、かなりの血を飲まれている。
(゚、゚;トソン 「ちょっと、ミセリ」
ミセ* , )リ 「……悪い飲み過ぎた」
(゚、゚;トソン 「いや、そうじゃなくて、そんなに血が要るって、本当に……」
ミセリが離れ、そのままベッドに倒れ込んだ。
驚いたが、眠っているだけのようだ。
ただ、あまりにも死体じみていて安心できない。
- 307 名前:名も無きAAのようです :2014/05/11(日) 21:55:06 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚トソン 「……また、蚊帳の外ですか」
ミセリをちゃんとベッドへ引き上げる。
動かしても起きる気配が無い
血を失って、疲労して、本当に何をしてきたというんだろう。
とりあえず服を着替えさせなくては。
外出着のままでは寝疲れしてしまう。
(゚、゚;トソン 「……なに、これ」
一番上に着ていたパーカーを脱がせて、手が止まった。
中のキャミソールには、いくつも血の斑がついている。
よく考えたら、このパーカーは初めて見る服。
きっと、この血の跡を隠すため、それまでの服を捨て、代わりに盗むか何かして身に着けたんだ。
恐る恐るキャミソールを捲りあげる。
いつも通りの、白くて滑らかな、綺麗な肌。
滲んだ血が擦れた跡こそあるけれど、怪我は無い様だ。
少しほっとした代りに、また別の不安が沸いてくる。
(゚、゚;トソン 「返り血……?」
ミセリの血でないのなら間違いなくそれだ。
- 308 名前:名も無きAAのようです :2014/05/11(日) 21:56:52 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚;トソン 「……」
キャミソール脱がせ、とブラを外す。
肌に付いた血は、ウェットティッシュで拭った。
血の跡は、キャミソールの下以外にもあった、
恐らく目立つ部分は帰る前に洗ってきたのだろうけれど完全には落せていない。
爪の間にもこべりついている。
戦ったんだ、きっと。
相手が杭持ちか、同族のどちらかは分からないけれど。
(゚、゚;トソン 「……」
最近、ミセリは無暗に戦わず逃げることに専念するようにしている。
杭持ちを返り討ちにするほど追跡は酷くなるし、何より血を消耗する。
基本的に私以外の血を飲まない今のミセリにとって、血を使って戦うのは自殺行為に近いのだ。
それでもミセリが戦ったとするなら。
きっと、何か大事な理由があったんだ。
たとえば、この街に残っていた本当の理由、とか。
(゚、゚トソン 「一体、何をしているんですか、あなたは」
疲労の色が濃く浮き出る頬を、指でなぞる。
少し体温が戻ったようだ。貧血になった甲斐がある。
- 309 名前:名も無きAAのようです :2014/05/11(日) 21:57:42 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚トソン 「……」
寝る前に、サプリメントを飲まなければ。
ミセリとの生活は貧血との戦いだ。
日に少量とはいえ、毎日与えていれば当然血は足りなくなる。
もちろんサプリメントで補ったところで焼け石に水なのだけれど、なにもしないよりははるかに体調が良い。
ベッドから降りる。
サプリはテーブルの上だ。
寝る前に飲んだ時、放置しておいてよかった。
これなら、貧血でも何とか手が届く。
水も、夜に飲んだミネラルウォーターが残っているからそれで間に合うだろう。
身を起こす。
その時点で、頭がくらくらとし、意識が朦朧とする。
不味い。この状況で意識を失ったら、そのまま昏睡してしまいそうだ。
ベッドに這いつくばって耐える。
今日は講義を諦めよう。
元々受講科目は少ない日だし、真面目に受けてきたので出席に欠けは無い。
友人がいるからあとでノートを見せてもらうこともできるはず。
何より、この状態で家を出ても死ぬか病院送りだ。
( 、゚トソン 「ぅく……今までで一番辛い……」
動こうとすればするほど、力が抜けていく。
意識を保つのが精いっぱいだ。
せめてサプリを飲めば、そのまま眠って回復を待てるんだけれど。
- 310 名前:名も無きAAのようです :2014/05/11(日) 21:58:58 ID:D90ZIRLo0
【+ 】ゞ゚)つ日 「大丈夫かい、お嬢さん。ほら、これが欲しいんだろう」
日と( 、゚トソン 「あ……ありがとうございま……」
【+ 】ゞ゚) 「いやいや、困っているときはお互い様だ」
( 、゚トソン
【+ 】ゞ゚)
( 、゚;トソン 「ッだれですかあな……」
【+ 】ゞ゚) 「静かに、大人しくしたまえ」
いつの間にか、あまりに唐突に現れたその男は、穏やかな面持ちのまま私の目を見据えていた。
深いグレーの瞳。自然と言葉が詰まる。
私の体は、私の反射的な意志よりも、この男の言葉に従った。
【+ 】ゞ゚) 「体が辛いのだろう。早くその栄養剤を飲みたまえ」
(゚、゚;トソン 「……」
やはり、体が勝手に動く。
ゆるんでいた蓋を開け、普段よりも多くのサプリを手に溢す。
腹這いのまま、口に含んで軽くかみ砕き、水で流し込んだ。
不思議と貧血が辛くない。
実際は相変わらず意識が朦朧としているのだけれど、自分で考える必要も無く動くので、比較的楽に感じる。
- 311 名前:名も無きAAのようです :2014/05/11(日) 22:00:42 ID:D90ZIRLo0
【+ 】ゞ゚) 「水は全て飲んでしまいたまえ。脱水を起こしては意味が無い」
(゚、゚;トソン 「……」
【+ 】ゞ゚) 「よし、飲んだね。今から君に発言を赦すが、いきなりまくしたてて、貧血を悪化させるようなことはしないように」
(゚、゚;トソン 「あ、あ」
【+ 】ゞ゚) 「改めましてお初にお目にかかるお嬢さん。私は棺桶死オサム。突然の訪問、失礼するよ」
(゚、゚;トソン 「つ、都村トソンです。こんな姿勢で申し訳ありません」
【+ 】ゞ゚) 「いやはや、こちらこそ申し訳ない。本当は娘の顔をちらりと見て帰るつもりだったのだがね、
君があまりに辛そうだったので、つい余計な節介を焼かせてもらったよ」
(゚、゚;トソン 「……娘?」
【+ 】ゞ゚) 「ああ、そこで涎垂らして寝ているアホ娘の、父に当たるのが私なのだよ」
(゚、゚;トソン 「……」
朦朧としていて、驚くこともできなかった。
いや、驚いていたのだけれど、驚き過ぎて今の脳みそでは発するべき言葉が思いつかなかった。
ミセリの父。この人が。
- 312 名前:名も無きAAのようです :2014/05/11(日) 22:01:48 ID:D90ZIRLo0
無礼を承知でまじまじと顔を見る。
後ろに撫でつけたグレーの髪と、同色の瞳。
目じりは優しげに垂れ、年齢を思わせる深い皺が刻まれている。
服装は、礼服にコート。
どちらも高級そうだ。夏場にも関わらず暑苦しい印象を覚えないのは彼の表情の涼しさゆえだろうか。
老紳士。形容するにあたって最もしっくりとする。
ただ、そこらにいる老人とは異なる、強い精力のようなものを感じた。
眼力であったり、穏やかながら覇気のある声であったりから、ひしひしと伝わってくる。
【+ 】ゞ゚) 「ああ、吸血鬼における親子というのは、人間のそれとは異なる」
【+ 】ゞ゚) 「我々は生殖の能力は持たないからね。あくまで、私が彼女を吸血鬼にした、という意味だ」
それは、ミセリから聞いて知っている。
吸血鬼は人間の名残で生殖器は持っているが、それを繁殖のためには使わない。
代わりに、吸血し殺すことで(正確にはいくつかの条件をクリアして)、人間を同族に変えるのだ。
彼が、ミセリの父。吸血鬼としての祖。
私が知らない、ミセリの過去を知る人物。
【+ 】ゞ゚) 「先に言っておこう。私は君にこれ以上何かをするつもりはない。
元々娘に会って、あわよくばいくらか言葉を交わせればよいと思ってきただけだからね。
なにより、君に下手なことをすれば、私の頭がこの子に吹き飛ばされかねない」
カラカラと笑う、棺桶死オサム。ミセリとは別のベクトルで、食えない人格だ。
本心を語っているようで、全くそうでは無く、かといって裏の真意が透けて見えるようなことも無い。
敵対したくないけれど、心から信用することはできない、そんな感じだ。
- 313 名前:名も無きAAのようです :2014/05/11(日) 22:02:36 ID:D90ZIRLo0
(゚、゚;トソン 「あ、あの」
【+ 】ゞ゚) 「なにかね?」
(゚、゚;トソン 「ミセリは、何をしようと、何をしているんですか?」
【+ 】ゞ゚) 「……」
(゚、゚;トソン 「今日だって、血を失って、血まみれになって……」
【+ 】ゞ゚) 「娘は、それを君には話していないのだね?」
(゚、゚;トソン 「はい」
【+ 】ゞ゚) 「なら、私の口からは言えないね。申し訳ないが」
(゚、゚;トソン 「……」
【+ 】ゞ゚) 「……戦っているのだよ。倒さねばならぬ者とね。私に言えるのは、それだけだ」
(゚、゚;トソン 「……そうですか」
【+ 】ゞ゚) 「手前勝手な頼みであると承知でお願いするが、どうか彼女を信じてやってくれたまえ」
(゚、゚;トソン 「……」
【+ 】ゞ゚) 「この子は、他者と深く長く交わることが苦手でね。人間の番を持つのは、とても珍しいのだ。
君を傍にぽくということは、それだけ君に信愛を覚え、信頼を置いているのだろう。
ならば、きっと君に不義理を立てるようなマネはしない。
事情を君に話さずにいるのは、己の中でそれが君の為であると信じているからだと私は思う。」
- 314 名前:名も無きAAのようです :2014/05/11(日) 22:03:35 ID:D90ZIRLo0
そんなことは、分かっている。
ミセリが私を悩み苦しませるために秘密を持っているわけでないことくらいは。
それでも心配だから、知りたいのだ。
私のことは、確かにミセリが守ってくれるのかもしれないけれど、ミセリのことは誰が助けてくれるのか。
知らないどこかで、彼女が流星のように飛び去り消えてしまうことを、私は何より畏れている。
【+ 】ゞ゚) 「さあ、今は眠り、体を養いたまえ。私もそろそろ行かねばならない」
(゚、゚;トソン 「……」
まただ。オサムの言葉に、体が勝手に従ってゆく。
瞼が重くなり、意識がぐにゃりぐにゃりと歪み始めた。
元から、眠気は強かったからなおさらだ。
抵抗することもできず、意識が深層に沈んでゆく。
【+ 】ゞ゚) 「さらばだ都村君。君がこの子とある限り、いずれまた会うこともあるだろう」
細まる視界の中で、棺桶死オサムの体が蝋燭の火のようにふっと消えた。
代わりに灰色の霧がたなびき、エアコンの中へと吸い込まれてゆく。
「君たちのこれからに、淀みなき幸があらんことを」
何処からか聞こえた、その言葉を最後に、私は深い深い眠りに落ちた。
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