208 名前:名も無きAAのようです :2014/03/17(月) 22:36:11 ID:WoQAy0kw0

        Place: 草咲市 須赤二丁目 18 黴の臭い漂う路地裏
    ○
        Cast: 天主堂モララー 大天福ショボン 喜瀬キナコ 小豆オグラ 磯部ノリ

   ──────────────────────────―――────────

209 名前:名も無きAAのようです :2014/03/17(月) 22:38:47 ID:WoQAy0kw0

(´†ω・`) 「やはり、おかしい」

 いつにない神妙な顔で、大天福はそう呟いた。
 手にはいつもの長杭。刀身には今殺したばかりの吸血鬼の血がべっとりとついている。
 黴と血の臭いの中、彼の汚れ一つない白いシャツが、むしろ不気味なものに見えた。

(´†ω・`) 「あまりにも、多い。雑魚ばかりではあるが、それでも」

( ・∀・) 「確かに、今日だけでもう三件目ですからね」

 僕と大天福が、志納ドクオに敗走してから三日。
 休養が開けて初めての仕事は、中々忙しい。
 言葉にした通り、三件の吸血鬼討伐。時刻はまだ昼の2時だ。
 僕らだけでこれなのだから、他の杭持ちを加えれば相当な数になるだろう。

 草咲市はもとより吸血鬼が多い町として知られている。
 しかし、それは『子子子ギコ』、『鴨志田フィレンクト』等の、有力な指導者の元に吸血鬼が集っているから、だ。
 彼らは無暗に人を襲うことはせず、ひっそりと生きることで杭持ちとの衝突を避けている。
 今日僕たちが屠っているのは、そういった組織からあぶれた吸血鬼ばかり。
 元々存在しないわけでは無いが、日に何度も殺さねばならないほどでは無かった。

(´†ω・`) 「例の、毒の吸血鬼といい、ここ最近の草咲は、嫌な気配が漂っている」

( ・∀・) 「地雷女の謎の滞在もありますからね」

(´†ω・`) 「……」

210 名前:名も無きAAのようです :2014/03/17(月) 22:41:24 ID:WoQAy0kw0

 一先ず、死骸の片づけをするために、端末を取りだす。
 しかし、僕の手は大天福の手に止められる。
 その視線は路地の先。
 三人の人影。昼の強い日差し、うだるような暑さの中に、黒いレインコートを着込んで立っている。

 間違いなく、吸血鬼。
 僕はため息を吐いたが、大天福は静かに杭を構えた。

(゚ぺキ ナ 「大天福ショボンと、天主堂モララーだな」

(´†ω゚`) 「いかにも!」

 三人が、歩み寄ってくる。
 うち一人、僕たちに名を尋ねた女は見たことがある顔だ。
 ギコ、フィレンクトのどちらの傘下にも入らず活動している、脅威度Cの吸血鬼。
 喜瀬キナコ。凶暴性は低く、自ら杭持ちに接近するようなものでは無かったと記憶していたが。

 ノ小ヽ
( `豆´) 「……こいつが、姐さんを」

ノリノ・ _・リ 「オグラ、抑えなさい」

 なるほど。ぼんやりとだが事情は読めた。
 僕らへの、主に大天福への復讐だろう。
 よくあることだ。
 僕らの役割上、恨みを買うのは必然ではあるが、少々面倒だ。

211 名前:名も無きAAのようです :2014/03/17(月) 22:44:23 ID:WoQAy0kw0

 吸血鬼は一種の害獣ではあり、人間と同じく意志を持つ動物でもある。
 これが厄介だ。害獣は駆除されても人を恨まない。
 吸血鬼は恨む。友を仲間を殺されれば、杭持ちに報復に現れる。
 元は人間だ。当然ではあるが、害獣には過ぎた感傷であるとも思う。

(゚ぺキ ナ 「臼杵モチコ、は知っているな」

(´†ω・`) 「……」

(#`豆´) 「なぜ、姐さんを殺した。姐さんは……ッ!!」

ノリノ・ _・リ 「オグラ、キナコに任せて」

(#`豆´) 「むぐぐ」

(゚ぺキ ナ 「……モチ姐さんは、群れにあぶれた私たちを、助けてくれた。
      血を与えてくれて、寝床も、服も、全てを面倒見てくれた。
      あんたたちにむやみやたらと喧嘩を売ったことも無い、善良な吸血鬼だった」

(´†ω・`) 「……」

(゚ぺキ#ナ 「何故、殺した。姐さんは、お前らに殺されるようなことを、何一つしていなかった!」

 一歩前に出た、ショートカットの女。
 少女と呼んでも差し支えないだろう。
 他の二人も、高校生程度の年齢に見えた。
 社会的にも経験の浅い彼らが吸血鬼として生き延びるのは難しかったはずだ。

212 名前:名も無きAAのようです :2014/03/17(月) 22:45:49 ID:WoQAy0kw0

(゚ぺキ#ナ 「答えろ大天福!!」

(´†ω゚`) 「……どれだけ善良であっても吸血鬼は吸血鬼」

(゚ぺキ#ナ

(´†ω゚`) 「大天福は、常に正義でなければならぬ!」

(゚ぺキ#ナ 「それが、答えか……ッ。オグラ!ノリ!」

(#`豆´) 「応!!」

ノリノ・ _・リ 「……」

 初めから、大天福の答えなどどうでもよかったのだのだろう。
 三人の吸血鬼は自らの腕に爪を立て、大きく切り裂いた。
 吹き出す血液。すぐさま意志を持って固まった。

(゚ぺキ#ナ

 吉瀬キナコは両手の指を延長するような長く鋭い爪を。

(#`豆´)

 オグラは腕に鮫の鰭のような刃を。

ノリノ・ _・リ

 ノリは両の手の甲に、四角い板のような盾を。

213 名前:名も無きAAのようです :2014/03/17(月) 22:48:31 ID:WoQAy0kw0

(´†ω・`) 「モララー、下がっていろ。俺一人で十分だ」

( ・∀・) 「大丈夫ですか?」

(´†ω・`) 「リハビリだ」

 仮にも三人全員血刑使い。
 子供ではあるが、ちゃんと吸血しているのならば膂力は僕たちを軽く凌駕する。
 決して弱い相手では無い。
 例え雑魚であっても二対一の状況を維持するのが基本であると考えれば、大天福の言葉に従うわけにはいかない。

 ただ。

( ・∀・) 「わかりました。ただし、無様な姿を見せた時点で加勢します」

 正義を謳う大天福は決して曲がらない。
 なら僕は、彼の弟子として大人しくその背中を眺めるしかない。

(#`豆´) 「舐めやがって!!」

 腕を振りかぶり、オグラが大天福に飛び掛かった。
 愚かな。人数の理を活かすには、もっと連携を図るべきだ。

(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福ッ!!」

 大天福が前へ。杭の切っ先を引きずる様に体を先行させる。
 速い。目で追うのがやっとだ。

214 名前:名も無きAAのようです :2014/03/17(月) 22:50:54 ID:WoQAy0kw0

(´†ω゚`) 「スワロォォォウッエェェッッジ!!!」

(゚ぺキ;ナ 「オグラ!」

 キナコが援護しようとしたが遅い。
 大天福は、振り下ろされるオグラの腕を斬り上げ弾いた。
 そのまま脇を抜け、振り返りながら背中に一太刀。
 切り裂かれた体が血を吹く。
 流水のような、あるいは翻る燕のような無駄のない動き。
 余計な心配は不要のようだ。

(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福ッブレェェェェッド!!」

ノリノ・ _・リ 「……」

 大天福は一呼吸と置かず、背後にいたキナコへ。
 振り向きざま、切り上げの片手居合切り。
 間に割って入ったノリが腕の盾で受け止めた。
 金属音が鳴り響く。中々の硬度だ。
 キナコは仲間が斬られたのに動じ、反応が遅い。
 ノリがいなければ、体が二つになっていただろう。

ノリノ・ _・リ 「……」

 吸血鬼と力比べは賢い選択では無い。
 大天福は後退。ノリは拳闘の構のように、盾で体を守る。
 居合の一太刀を受けたところを見るに、硬度はかなりのものだ。
 血刑の性能自体は彼女が最も高いかもしれない。

215 名前:名も無きAAのようです :2014/03/17(月) 22:53:15 ID:WoQAy0kw0

 だが、大天福を倒すならば、もっと奇抜な武器を持たねばならなかった。
 それこそ、志納ドクオの『毒』や地雷女の『火薬』など。
 血を硬化し、武器として扱うだけの血刑は、大天福には通用しない。

(´†ω゚`) 「ぉぉ……ッ」

 服の上からでも、背なの筋肉が隆起するのが分かった。
 大天福は上段の構。
 振り下ろしの一撃は、恐らく大天福が出せる最大の威力だろう。

ノリノ・ _・リ 「キナコ、私が受け止めたら腹を裂きな」

(゚ぺキ ナ 「……わかった」

ノリノ・ _・リ 「オグラもまだ死んでない。ちゃんとしなさい」

(゚ぺキ ナ 「うん」

(´†ω゚`) 「大ッ天ッ福ッ!!」

 舗装された地面を抉るほどの、蹴り。
 刹那の肉薄。この力を活かした振り下ろしの一撃は、相当の重さを持つ。
 大天福は素直に、真上から、ノリに向かって杭を振り下ろした。

 が。

216 名前:名も無きAAのようです :2014/03/17(月) 22:54:32 ID:WoQAy0kw0

ノリノ _ リ 「うぐっ」

( へ キ ナ 「え、ぁ?」

 大天福が突如力を失い、ふらりと、キナコとノリの間をすり抜けた。
 急激な転換。僕も一瞬思考がついて行かなかった。
 誰もが、剛剣と血の盾のぶつかり合いを予測したはずだ。
 それが脈絡なく消えた。
 客観できる僕ですら、大天福の体が消えたように見えた。
 目の前で構えた二人には、未だ何が起きたかわかっていないだろう。

(´†ω・`) 「……大天福ファントム」

 ノリの脇腹と、キナコの首が血を吹いた。
 脇、肋骨の隙間から心臓を突き破壊。
 首は動脈をでは無く、椎骨を大きく削りに行った。
 即死せずとも、これだけで戦闘不能だ。

 大天福が、杭の血を払う。
 それに合わせたかのように、二人が膝から崩れ落ちた。

( へ キ ナ 「そんな、こんなに、つよ、い」

ノリノ _ リ 「……毒で、死にかけたってのは、デマ、か……」

 デマでは無い。本当だ。
 医者が回復したことを異常と評価したほど、彼は死の淵に追いやられていた。
 今も決して万全ではないだろう。
 それでも彼女らが負けたのは、力の差があったとか、そんな単純な話ではない。

217 名前:名も無きAAのようです :2014/03/17(月) 22:55:45 ID:WoQAy0kw0

( ・∀・) 「……大天福は、正義でなければならない」

 僕の呟きは、口元に零れたところで、雄叫びにかき消される。
 戦闘不能かと思われたオグラが、立ち上がった。
 背中と切断された腕から、三日月のような血の刃を生やしている。
 もう失血で仮死に陥っても不思議では無い。
 良く立ったものだ。それほど深い恨みを持っていることを、哀れに思う。
 どれだけ憎み恨んでも、その刃は届かないのだから。

(#`豆´) 「死ねェェ!大天福ゥゥ!!」

(´†ω・`) 「……大天福エンドロウル」

 長く、伸びのある片手突きが、オグラの眼窩を穿つ。
 切っ先は脳を、頭蓋を貫き後頭部に表れる。
 意識を失うオグラ。勢いづいたまま前へ崩れる
 大天福の手を離れた杭が地面に当たり、より深く突き刺さってゆく。

( ぺキ ナ 「おぐ、ら……」

 大天福は、腰裏に備えている通常の杭を引き抜き、倒れたオグラの背中に突き立てる。
 心臓を突いた。刃を少し横へ動かし、確りと破壊。
 そこまでする必要はないが、彼なりの礼節なのだ。

218 名前:名も無きAAのようです :2014/03/17(月) 22:59:11 ID:WoQAy0kw0

( へ キ ナ 「……クソ!なんでだよ!なんでなんだよ!!」

(´†ω・`)

( へ キ ナ 「私たちだって!好きで吸血鬼になったんじゃない!!それなのに!それなのに!!!」

ノリノ・ _ リ 「キナコ……」

( へ キ#ナ 「畜生!畜生!恨んでやる!呪ってやる!!畜生!!畜生!!」

ノリノ・ _ リ 「……」

( へ キ#ナ 「私たちは、悪いことなんてしてない!!姐さんも!オグラも!ただ、普通に!!!」

(´†ω・`)

( へ キ#ナ 「人間だった頃のように、生きたかっただけなのに!!」

( ‐∀‐) 「……それが出来たら、どれだけ良かったろうね」

 大天福が、そっと杭を振り上げる。
 喜瀬キナコの口からは、止めどない呪詛が吐き出され過ぎている。
 頸椎を断たれ、体を動かせない彼女に出来る唯一の攻撃だった。

(´†ω・`) 「大天福は、正義でなければならない」

 杭の切っ先が、キナコの後頭部に突き刺さる。
 体重をかけて刺しこまれた刃がその脳幹を断つまで、響き渡る呪詛が止まることは無かった。


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