- 256 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:28:00 ID:CWBNt5TU0
まさに夏、と言いたくなるような晴れ渡った空、蝉の鳴き声。
半袖の夏服でも暑いと感じるほどの猛暑日だ。
( ^ω^)
僕は内藤ホライゾン。
少しぽっちゃり気味の、どこにでもいるような高校生だ。
- 257 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:28:51 ID:CWBNt5TU0
('A`)「おっす、ブーン」
( ^ω^)「ドクオ!おはようだお!」
ニヤニヤと笑いながら現れたこいつは、親友のドクオ。
僕と違ってガリヒョロなのは、いくら食べても太らない体質だかららしい。
ξ゚听)ξ「あんた達!ボサッとしてると遅刻するわよ!」
物凄い早さで、後ろから僕達を追い抜かしていったのはツン。彼女も僕の友達だ。
振り向きざま、僕達に向かってベーッって舌を出した。ああ、今日もかわいいなあ――。
- 258 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:29:34 ID:CWBNt5TU0
「本日の投下はここまで」
「乙」「おつー」「続きwktk」
「続きは多分明日投下できます」
「おっ楽しみ」「クーにゃん期待」
- 259 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:30:25 ID:CWBNt5TU0
僕は内藤ホライゾン。
少しぽっちゃり気味の、どこにでもいるような高校生だ。
しかしそれは僕が今演じた話の中での役割に過ぎない。
一気に薄暗くなった周囲。青い空も蝉の声も聞こえない。白く眩しい学生服も、ズボンの上に乗ってた贅肉もない。
先程まで可愛らしい表情を浮かべていた少女も、ニヤニヤと笑っていた少年も、皆一様に表情が硬い。
「僕は内藤ホライゾン。
少しぽっちゃり気味の、どこにでもいるような高校生だ。」
僕は使い終わった台詞を呟きながら、台本を閉じた。
- 260 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:31:10 ID:CWBNt5TU0
僕達は、自分達がいつ生まれたのか、何故ここにいるかを知らない。
気が付いたら薄暗い空間の中にいた。
広さは、そう、アレに似ている。
小学校やら中学校やらの体育館に必ずあるステージ。
薄いグレーの膜のようなものがここと向こう側を隔て、
向こう側には薄ぼんやりといくつかの人影が見える。
人影は物凄く多い時もあるし、逆に一つもない時もある。
一つもない時はひどく惨めだ。何の反応もないのに演技をするのは、ただ虚しい。
心なしか頭上から降ってくるナレーションも、寂しそうだと感じるくらいに。
- 261 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:31:57 ID:CWBNt5TU0
( ^ω^)「お疲れ様です」
('A`)「お疲れ様です」
ドクオはそう言うと濁った目をゆっくり閉じた。
彼はいつもこうだ。最低限の会話しかせずに、演技が終わったらすぐに眠る。
とはいえこのステージの上では、精々眠るくらいしか選択肢がないのだけど。
ξ*゚听)ξ「お疲れ様、モララー」
(*・∀・)「お疲れ様、ツン」
- 262 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:32:46 ID:CWBNt5TU0
うっとりと指を絡ませ囁き合う二人。
演技の中では僕とカップルになることが多いツンも、
演技以外で僕と話したことは片手の指で足りるほどだ。
( -ω-)
僕はその場に横たわり、目を閉じる。
明日、という概念がこの舞台上で通じるかはわからないけど。
また次も最高の演技を見せるために、僕は眠りについた。
- 263 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:33:30 ID:CWBNt5TU0
僕達は"生まれて"から色々な体験をしてきた。
学校に通ったり、家でゲームをしたり、恋をしたり、失恋したり。
目まぐるしく変わる舞台で、姿や口調も変えて、精一杯の演技をしてきた。
だって僕らにはそれしかなかったから。
膜の向こう側で人影が増えていくのが楽しかった。
歓声を上げたりされるとやる気が出た。
ナレーションがそれを見て弾んだ声を上げるのも、嬉しかった。
それが、僕らにとっての存在意義だった。
- 264 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:34:10 ID:CWBNt5TU0
('A`)「俺達は、喜ばせるために生まれてきたんです」
人影達がひときわ大きな歓声を上げたその公演の後、ドクオが嬉しそうに言った。
彼がすぐに寝ないなんて珍しい、と思ったが、それも無理ないだろう。
僕だってさっきの歓声の大きさやその後の感想を聞いて、いまだに胸が高鳴っているのだ。
見れば周りの奴らも顔を真っ赤にしてその話をしている。
ツンとモララーも今日は甘い言葉を囁き合わず、お互いの手をとって純粋に喜んでるようだ。
- 265 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:34:55 ID:CWBNt5TU0
( ^ω^)「素敵な考え方ですね」
('A`)「そうだと考えるしかないでしょう」
このステージにいる限りは、とドクオは周囲を見渡した。
その言葉に、僕は少なからずショックを受けた。
( ^ω^)「このステージ以外に行ける場所があるのですか」
('A`)「わかりません。でもたとえば、あの膜の外とか」
ついと指さされるグレーの膜。
先程までわらわらと集まっていた人影もなくなり、今は静寂に満ちている。
- 266 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:35:40 ID:CWBNt5TU0
( ^ω^)「行けるのですか、あちら側に」
('A`)「あくまで俺の考え、というか希望ですが」
珍しく照れくさそうな笑顔を見せながら、ドクオは一旦言葉を切った。
彼が演技以外で表情を露わにするなんてはじめてだ。
('A`)「笑わないで聞いてくれますか」
( ^ω^)「笑いませんよ」
('A`)「俺、あっちに行きたいんです。外から自分達の演技を見てみたいんです」
- 267 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:36:24 ID:CWBNt5TU0
俺達がはたから見るとどう見えるのか、見てみたいんです。
歓声を上げたり、はらはらしたり、終わった後満足感を得ながら感想を投げかけたいんです。
そう語るドクオはいつになく饒舌で、とても笑うことなんてできなかった。
('A`)「まあ、無理な話ですが」
( ^ω^)「そんなこと」
('A`)「俺は演じる側です。向こうにいたら演技はできない。困るでしょう」
現在行っている公演でのドクオの役割は、"内藤ホライゾンの親友"。
演じる回数も少なくない。彼がいなくなったら話が成り立たないだろう。
- 268 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:37:08 ID:CWBNt5TU0
('A`)「でも、今は無理でも、いつかはって思うんです。」
( ^ω^)「ドクオなら、できます。きっと」
慰めるわけでもなく、本当にそう思った。
普段気だるげに見える彼がこれだけ爛々とした目で語るのは、本当に初めてだったから。
('ー`)「ありがとう、ブーン。おやすみなさい」
ドクオはそう言って横たわった。
僕もそうしようかと思ったけどそれを思い直し、ゆるりとグレーの膜を見つめた。
あの先には、人影以外の何かがあるんだろうか。
演技をするだけの僕の人生に、何かが差し込むのがわかった。
- 269 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:38:07 ID:CWBNt5TU0
ξ*゚听)ξ「――手繋ぐくらいなら、してあげてもいいわよ」
(*^ω^)「お!本当かお!?」
ξ////)ξ「か、勘違いしないでよね!別にあんたが好きとかそういうわけじゃないんだから!」
ツンがそう言ってそっぽを向いた瞬間、ふ、と辺りが暗闇に包まれた。
公演が終わった合図だ。
いつもと同じように、ナレーションが終わりを告げる。
先程までと空気が全く違う空間の中で、ツンは握っていた僕の手を振り払うように離した。
ξ゚听)ξ
視線は、かち合わなかった。
- 270 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:38:56 ID:CWBNt5TU0
そのことに気付いたのは本当に偶然だった。
( ^ω^)「……そういえば、ギコは」
( ・∀・)「ギコ?」
珍しく僕と話していたモララーが首を傾げる。
( ^ω^)「最近見ないなあ、と思って」
( ・∀・)「ああ、そういえばそうだね。……当分出番がないんじゃないかな」
( ^ω^)「今は一体どこに」
( ・∀・)「さあね。考えても仕方のないことだ」
- 271 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:39:40 ID:CWBNt5TU0
ツンと話してくるよ、と言ってモララーはその場を去った。
皆、思考が停止している。
この舞台上にいる限り、そうするしかないのはわかっているけれど。
自分が何故ここにいるのかなんて考える僕が少数派だなんてこと知っているけれど。
ギコと話したのは三日前――と表現していいのかわからないが――だ。
モララーの言う通り当分出番がないのだとしたら、彼はどこに行ってしまったのだろう。
何故だかわからないけれど、無性に知りたくなった。
それが多分、終わりの引金だったんだろう。
- 272 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:40:24 ID:CWBNt5TU0
僕らが今演じている公演は、『内藤ホライゾン』の日常を描いたものだ。
頼れる親友とモデルと見まがうほどの美少女。
美少女は何故か自称「何のとりえもない」自分に惚れている。
自分を嫌っている人はいない。いたとしても親友達が助けてくれて「淘汰」される。
文化祭では、今までろくに扱ったことのなかったギターを掻き鳴らして観衆を湧かせる。
実生活が充実してない人間の憧れを具現化したような、ありふれたもの。
- 273 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:41:13 ID:CWBNt5TU0
「最近、あの作品面白くなくなったよな」
「マンネリだよな。日常系にありがちなやつ」
「もう期待できそうもないし切るわ」
「俺も」
「つまんね」
今のままでは、とてもじゃないが物語が続かなかったんだろう。
どんな平凡な物語にだっていつか最終話がやってくる。
だったら盛り上げる場面が必要だ。起承転結の「転」は必要不可欠だ。
- 274 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:41:54 ID:CWBNt5TU0
「あっと驚くような、怒涛の展開が必要だ」
( ^ω^)「え?」
舞台は学校の保健室、ツンと向き合っているシーンを演じている最中のこと。
頭上から降ってきたナレーションの声は、決意と焦りを孕んでいた。
思わず漏れたようなぼそりとした声は僕以外には聞こえなかったのだろう。
ツンは僕のように気にするそぶりもなく、ただ役に入り込んでいた。
ξ///)ξ「だ、だから、私、あんたが」
- 275 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:42:41 ID:CWBNt5TU0
台本によると、今からツンは僕に告白し、僕はしどろもどろしながらもそれを了承する、らしい。
今まで演じてきたものと似たようなハッピーエンド。
僕は次に言う台詞を確認するために台本をちらりと見た。
その時、僕の視界が真っ白に塗り潰された。
(; ω )「う、あ、あ?」
自分が尻餅をついたことにも、突然降ってきた轟音で耳鳴りがしてることにも気付かなかった。
もうもうと立ちこめる白い煙の向こうに、保健室のドアを突き破るように半身を見せるトラックが見えた。
- 276 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:43:27 ID:CWBNt5TU0
傍に落ちていた台本の表紙、『ツン、ブーンに告白する』の文字が赤いペンキで塗りつぶされている。
( ^ω^)「ツン?」
ξ )ξ
ツンが目の前に倒れていた。体から赤を飛び散らせて、保健室の真ん中で寝そべっていた。
台本を塗りつぶしていたのはペンキではなく、これだった。
『( ^ω^)「ツン」
地の文「ブーンはそう言うとツンに近付き、涙を流した。
トラックに乗っていた男――既に死んでいるが――は、秘密裏に悪事を働く闇組織の一員。
ツンはその存在を偶然にも知ってしまい、口封じに殺された。
そのことにブーンが気付くのはもう少し先。彼の物語はここからがはじまりだったのだ」』
( ω )
- 277 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:44:23 ID:CWBNt5TU0
台本がばらばらと捲れ文字が魔法のように書き変わる。
そのどれもが「あっと驚くような」「怒涛の展開」。今までの物語を覆すような。
ツンは僕の目の前で血を流し続けている。
「おい作者どうした」
「超展開すぎるだろwwwwww」
「ネタだろ」
「え?夢オチ?」
夢なんかじゃない。
- 278 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:45:06 ID:CWBNt5TU0
( ω )「あ、ああ、あああ、あ」
台本では彼女と恋人役になることが多かった。
彼女がそれを望んでなかったのは知ってる。モララーがそれを不快に思ってたことも。
でも、僕は。
( ;ω;)「うああ、ああああ、ツン、あああああ」
彼女のことが。
- 279 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:46:02 ID:CWBNt5TU0
( ;ω;)「ツン!ツン!ああああ、あ"あ"あ"あ"あ"!!!」
ツンを引っ掴み揺さぶった。体や服が汚れることなんて頭になかった。
静かに涙を流すなんてできるわけがなかった。
ナレーションが何か言っているのが聞こえる。けどそれも耳に入らない。
舞台中から軋むような音が聞こえるのも、どうだっていい。
( ;ω;)「ふざけるな!なんでこんな目に合わないといけないんだ!
僕は人形なんかじゃない、こんな、なんでこんな、
殺す!殺してやる!いつか向こう側に行って、観客も何もかも全部――――」
ぶつん。
- 280 名前:名も無きAAのようです :2014/09/30(火) 20:46:51 ID:CWBNt5TU0
「本当どうしたんだよ作者。疲れてんのか?」
「すみません、続ける気でしたがここで最終回にさせてください」
「最後の最後で迷走しすぎだろwwww」
「超展開ってやつやってみたくて」
「まぁ次からプロット練ることだな」
「結構好きだったぜ、乙」
「乙」
( ^ω^)
( ^ω^)舞台裏はこんなようすです
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