- 39 名前:名も無きAAのようです :2015/06/26(金) 23:02:02 ID:aT9OJWDc0
散歩が趣味、と言うと、大概友人たちは同じ様な顔をする。そして口を揃えて言うのだ。
老人の様だ、と。
何を言うか。若いからこその散歩だろう。
いやもちろん、ご高齢者を馬鹿にしている訳ではないのだ。現に私は祖父にこう言われた。
元気に動ける内が花だ、と。
萎み枯れては蝶も舞わぬ、色が見える内に外へ出よ、と。
だから私は今日も征く。あの2つの大橋を、この2つの茎を持ってして。
('A`)「まあ、そんな事おじいちゃん1言も言ってないんですけどね」
4月の嘘は青空を衝く。
さあゆかん。神戸空港が待っている。
- 40 名前:名も無きAAのようです :2015/06/26(金) 23:02:48 ID:aT9OJWDc0
3.神戸大橋・神戸スカイブリッジ
- 42 名前:名も無きAAのようです :2015/06/26(金) 23:05:27 ID:aT9OJWDc0
兵庫と言えば神戸だが、駅で言えば栄えているのはむしろ三宮だ。
だからだろうか、阪急と阪神は共にここの駅を、神戸三宮、と命名している。
さて、その三宮から南へ伸びて行くのは、ポートライナーと呼ばれる無人運転システム搭載の列車が進む路線。
平日の朝には、海に浮かぶ人工島へ大量のサラリーマンを運んで行く。
そんな路線の横を、今日私は歩いているのだが。
(;'A`)「ようやく橋かよ…」
無理も無い。
三宮からならまだしも、今日はその更に北、山麓の新神戸駅から歩いて来ているのだ。
道中日本一短い国道を通った気もするが、今はさして興味は無い。なぜなら、今日の目的は、橋なのだから。
- 43 名前:名も無きAAのようです :2015/06/26(金) 23:06:37 ID:aT9OJWDc0
('A`)「果てしてここは使われているのか?」
第1の大橋、神戸大橋。本島とポートアイランドを結んでいる。
その直前というべきか、始点というべきか。海を渡る前にあるのが、ここポートターミナル駅。
船の発着地の様相をしているが、みどりの広場と呼ばれるテラスはひどく寂れている。
道路に掲げられた標識に書いてある行先地も、何やら消された跡が残り、今や上海の2文字だけ。
('A`)「早朝汽笛が鳴ってたってことは、少なからず船は発着してるんだろうけど」
ガラス張りの入口に人影は見えない。不気味に思い夜に近付くのはよそうと心に誓う。
さあ、ともかく、ようやく大橋だ。
- 44 名前:名も無きAAのようです :2015/06/26(金) 23:09:51 ID:aT9OJWDc0
- と、意気込むのも束の間。
ポートアイランドにはあっさり着いてしまった。
大橋とは名ばかりに、いや、実際大橋で差し支えは無いと思うのだが、距離にして300m。新神戸から来たと考えると、あまりに短い距離だった。
('A`)「それでも、自分の足で海を渡るってのはいい気分さね」
思えば、海を徒歩で越えるのはこれが初めてか。
ポートアイランド上陸の際、この場合は何処からが上陸と言えるのだろう、橋の境か、陸の真上か、それとも橋の中間部分かなどと考えを巡らせ、数分考えた後、至極どうでもいいという結論に至り、無事その先の大きな交差点へと辿り着いた。
(;'A`)「なにもねー…」
そう、特に何も無いのだ。
ポートアイランドという名前からしたら何となく観光地の様に聞こえるが、実際観光地とは言い難い気がする。
企業本社、大学、研究施設、ホテル、公園。それらが大半を占めている。
民家が殆ど見られなかったのも覚えている。
- 46 名前:名も無きAAのようです :2015/06/26(金) 23:13:23 ID:aT9OJWDc0
潰れたと思われる古い弁当屋を眺め、閑静な公園内を突っ切り、立派なホテルを見上げつつ、ガリガリ君を歯で砕きつつ。
耳に付いた声援の方に誘われ行けば、少年野球の練習試合。
ふらふらと大通りを目指してみれば、巨大な駐車場とIKEA、そして巨大な公園。
鳥の声に呼ばれるままに、神戸花鳥園(現:神戸どうぶつ王国)の門をくぐったり。
散歩だから許されるこの紆余曲折は、本人にしてみれば楽しいものだが、文章に起こすと何と味気無い事よ。それが散歩の良さでもあるのだが。
待て、そもそもこれは旅行と言えるのか。
まあまあいいじゃないの。頭を横に振って、それよりも、と前を見据える。
(;'A`)「…こりゃあ、想像以上だわ…」
目の前に聳えるのは、太い一本道の、山だった。
- 47 名前:名も無きAAのようです :2015/06/26(金) 23:14:38 ID:aT9OJWDc0
横から見れば、何て事無いなだらかな橋の傾斜は、その長さと下方からの視点により、地平線へと姿を変えていた。
前方は橋の中腹までしか見えない。後はただただ空と海。
人工島に居ながら、こうも自然を感じるとは思いもしなかった。
暑さと潮風でベタつく不快感は、もはや気にならない。
大橋の道を歩いて行けば、その先に続くは空の道。
全長およそ1.2km。神戸大橋の4倍の長さを誇る、ポートアイランドと神戸空港に架かる橋。
神戸スカイブリッジ。
- 48 名前:名も無きAAのようです :2015/06/26(金) 23:16:22 ID:aT9OJWDc0
さて。
実はこの大空への道には私にとって1つ問題があり、いやなに、別に途中休憩スポットが無いとか、飲料を買い忘れて喉が乾いたとか、そういうのではなく。
(;'A`;)
(;'A`;)
(;'A`;)「コワイ」
まあ、要するに、高い所が苦手というだけだ。
('A`)「そうとは言うけどね、下見てみてよ、ほら、一面海よ?いや、自分は見ないけど、高さがどんくらいとかわかったもんじゃないし、何かそれだけで怖いって言うか、いや別に足は竦んでなんかは、うん、確かにすこーしへっぴり腰かもしれないけど、それはしかたないっていうか」
チリンチリン
(゚A゚)「あああああ!お願いこっち来ないで!車道側歩かせて!」
広大な大阪湾を望む事能わず。実際、橋の上からの海の映像はほとんど頭に残っていない。
平静を取り戻すのは、執着地の神戸空港に着いてからだった。
- 49 名前:名も無きAAのようです :2015/06/26(金) 23:23:37 ID:aT9OJWDc0
けたたましい轟音が空気を揺るがし、その音の元は高熱で大気を歪ませる。子供はフェンス越しに目を輝かせる。
膨大な金属の塊は幾多もの人々を乗せ、それでも翼を広げて大空へ飛ぶ。
知らず知らずの内に、空港の屋上では拍手が沸き起こる。ついついつられて私も手を叩いた。
神戸空港の発着数は然程多くないから、着いてすぐに見られたのは幸運だ。
('A`)「なんつーんかね、この匂いは」
港内に戻ると、再び鼻をつく空港独特の匂い。今までにも何度か感じたこの匂いを、しかし今もうまく形容できない。
様々な地域の匂いが入り混じったような、そんな匂い。
神戸空港には初めて来たが、この匂いはどの空港も共通のものの様だ。
港内を2階から見やる。
死んだ様にキャリーバッグに凭れて眠る男性。
ワイワイと話に花を咲かせるファミリー。
大きな地図を前にして真剣に語る初老の二人組。
人の境が曖昧に感じられる。まるで今まさに皆で旅行をしている気分にさえなる。
空港という場所を通じて、それぞれの旅路を肌で共有しているのだと思った。
そして、彼らにとって、こここそが旅の始まり、もしくは終わりだ。
そういう私の今日の旅も、残念ながらここで終わり。
空の旅は、またいつか。
- 50 名前:名も無きAAのようです :2015/06/26(金) 23:25:18 ID:aT9OJWDc0
さあ来た道を、回れ右。
空港の出入り口をくぐってゆこう。
足は軽い、まだまだ元気だ。
橋の恐怖が頭をよぎるけれど。
('∀`)
('∀`)
('∀`)「ポートライナーで帰ろう」
片道寄り道6時間の徒歩旅行を、ものの20分で過ぎ去るポートライナー。
これはこれで、自分の道のりを俯瞰出来るし、思い出を振り返るのには良いのでは。
そう自分自身に言い訳をしながら、静かに光る夜の人工島を写真に収めた。
さらば神戸スカイブリッジ。
今度来るときまでには、もう少ししゃがんでおいてくれ。
3.神戸大橋・神戸スカイブリッジ 終
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