- 91 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:22:56 ID:p8cJR8WI0
創作市立総合高校のしがない吹奏楽部。
そのとある楽器パートの人たちの話。
('A`)想いでにはならないようですζ(゚ー゚*ζ
- 92 名前:ちょっと長めかも :2015/03/01(日) 02:23:47 ID:p8cJR8WI0
('A`)「……お、もうこんな時間か。音楽室戻ろうか」
ζ(゚ー゚*ζ「はい、先輩」
俺はふと気づいたかのように──実は20分前ぐらいから、ずっとちらちら見ていた掛け時計の方に顔を向けてから、
自分の一つ下の後輩であるデレにそう告げた。
('A`)「いやあ、今日もロングトーンと曲練習だけで終わっちゃったなー。基礎練全然出来ないや」
ζ(゚ー゚*ζ「冬休み明けの新入生歓迎会の曲、どれも難しくないですか?」
('A`)「分かる。今回のポップス系はほとんど4分打ちが多いけど、たまにダーッダッダーって裏打ちを入れてくる曲があるし」
ζ(´ー`*ζ「凄く分かります。ずっと4分やってからだと全然息が足りませんよね」
ζ(´ー`*ζ「……はぁ。私ももっと上手くならないとなぁ」
('A`)「それでもデレはよくやってる方だよ、もう顧問に全然演奏間違いを指摘されなくなったよね。俺より上達早いよ」
('A`)「これで楽器初めてやっと一年だ、って言うんだから……ウツダシノウ」
ζ(´ー`*ζ「そういえば、もうそんな経っちゃうんですね……。いつも練習が楽しくて、毎日があっという間です」
自分の周りに広げていたタオルやメトロノーム、譜面台などを片しながらデレとそんな他愛もないことを話す。
- 93 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:24:49 ID:p8cJR8WI0
('A`)「俺はいつも練習が辛くて、すぐ家に帰りたくなるけどね」
ζ(^ー^*ζ「ふふっ。またそんなこと言ってると、ユーフォのクーちゃんに怒られちゃいますよ」
('A`)「うへぇ。あいつ、凄い俺のことを目の敵にしてくるんだよな。この前なんか」
川 ゚ -゚)『あ、先輩サボりですか、ちゃんと練習してください。先輩がミスるとこっちまでミスを疑われるんですよ。
……ほんと、なんで演奏だけはべらぼうに上手いんですかね?』
川 ゚ -゚)『あ、それとデレにちゃんと練習教えてあげてますか? 初心者なんですからちゃんと教えてあげてくださいね。
まさか練習という名の変な指導とかしてませんよね? 通報しますよ』
('A`)「とか言われたしな。まったく、勝手な冤罪認定も良い所だ」
ユーフォニアムパートの一年生であるクールは、同学年であるデレととても仲が良い。
デレ曰く、どうやら中学校が元々同じでたまたま高校で吹奏楽部に入部したらクールと出会ったらしい。
元々同中のおかげで昔話に花が咲き、次第に仲が良くなったそうな。もちろん、今でも二人は仲が良い。
……まあ、俺からしたらクールはわけも分からず何かと俺のことを敵視してくる変なやつだ。
特にデレに関することなんかは、異様にものすごく首を突っ込んでくる。何故そこまで敵意を向けるのかが本当によくわからん。
(゚A゚)「俺はな! 間違ってもデレに一回も手を出したことはないし!! そもそも年齢=()だよ!!!! チクショウ!!!!!!」
ζ(゚ー゚;ζ「クーちゃん、先輩にそんなこと言ってたんだ。先輩、ごめんなさい」
- 94 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:26:10 ID:p8cJR8WI0
('A`)「まあいいよ、そもそもデレが悪いわけじゃないし。あとであいつの誤解を解いておいてくれると嬉しい」
ζ(゚ー゚*ζ「ちゃんと言っておきますよ。先輩はそんなことしてない、って」
ζ(^ー^*ζ「それに、逆に先輩が私に教えてくれるときはとっても優しく教えてくれまあすし、サボってなんかないですもんね」
ζ(´ー`*ζ「先輩には、本当にいつもお世話になってます」
('A`)「よしてくれ。俺は教えるのも演奏するのもまだまだ下手だよ。・・・特に人に教えるのはほんと_だよ」
ζ(´ー`*ζ「またまたー」
そう言いながら、デレは笑顔で俺のこと茶化してくる。
('A`)「それに、いつも世話になってるのは俺の方だ。特にデレには迷惑ばっかかけてしまってるし」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなことないですって」
('A`)「デレは演奏技術の上達も速いし、正直先輩の俺をすぐ抜いてくれるんじゃないかなと思ってる」
('A`)「この前の新人戦なんか、俺の息が足りない部分を一緒に吹いてカバーしてもらったりしちゃったし」
ζ(゚、゚*ζ「…………」
('A`)「今、俺がデレに教えられるのなんて譜面で簡単に読めないリズムか、変な演奏記号ぐらいだもんなぁ」
('A`)「デレが上手くなれてるのはデレ自身の努力と才能のおかげ……あれ? どうした?」
ζ(^ー^*ζ「……いえっ、ありがとうございます!」
('A`)「……? よくわからんけど、こちらこそ?」
- 95 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:27:47 ID:p8cJR8WI0
- ぐだぐだと話している内に音楽室に戻る準備ができ、ツバを抜き終わったチューバを小脇に抱えながら、
俺は理科講義室の部屋の電気を消して、デレが教室を出たところでいつものように引き戸を閉める。
この理科講義室は、管理棟の3階にあってなおかつ音楽室のすぐ下の階にある教室だ。
教室内のスペースがとても広く、特別教室でありながらいつも鍵が閉まっていないので、吹奏楽部御用達の良い練習場所となっている。
まあ、スペースが広すぎて普段はチューバとコントラバスのパート練の教室になっているけど。
('A`)「じゃあ行こうか」
ζ(゚、゚*ζ「あ、そういえば今日の練習中にヘリカル先生が使った教室の灯油を補給してくれー、って言いに来てましたよね?」
(;'A`)「あー……そういえば。ミーティング終わってから俺が入れに来るよ」
ζ(゚ー゚*ζ「いえ、私も手伝いますよ」
('A`)「ありがとう。よし、早く行って灯油入れて帰ろうか」
ζ(^ー^*ζ「はいっ!」
- 96 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:29:09 ID:p8cJR8WI0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
('A`)「やっぱ灯油ってクソだわ」
ζ(゚ー゚;ζ「わ、私と持つの変わりませんか?」
('A`)「いいよ。いつもチューバもってえんそうしてるしこのぐらいだいじょぶ」
ζ(´ー`;ζ「それを言ったら私もなんですけどね……」
休日の部活時に灯油を給油するときは、いつも顧問のヘリカル先生が管理棟2階の職員室の前に、赤い灯油タンクを置いておいてくれる。
しかし、今日はちょうど職員室に余りの灯油がなかったために、外の給油庫まで灯油を取りに歩かなければならなかったため──
('A`)「ヤッパモウダメポ。階段辛スギ」
給油庫から管理棟の3階までなんとか先輩パワーで堪えて運んできたものの、たったいま階段を上りきったと同時に、
この非力すぎる腕はうんともすんとも言わなくなってしまった。
我ながら本当に情けない。デレの顔は少し呆れた顔になっていた。
ζ(´ー`*ζ「言わんこっちゃないです。先輩、よくそれでチューバ持ってあんなに演奏できますよね」
('A`)「座って演奏してるときはね……。スーザフォンとか持ってマーチ出来る人とかマジ凄い尊敬してる」
ζ(゚ー゚*ζ「はいはい。ほら先輩、ここからは私が運びますから」
そう言って目の前に置かれた灯油タンクを、デレは華奢な腕で軽く持ちあげた。
自分よりも全然細い腕なのに、このとてつもないパワーは一体どこから生まれているのだろうか?
('A`)「本当にすまない、ありがとう……ってあれ? あいつってもしかしてクールか?」
- 97 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:30:54 ID:p8cJR8WI0
理科講義室の入り口の前に、右肩に手提げ鞄を掛けて立つ制服姿の女子。
その特徴的な長い黒髪と女子にしては高い身長は、学校でよく見かけるクールの姿そのものであった。
川 ゚ -゚)「あ、二人共まだいたんですね。良かった」
('A`)「お前こそな。どうした?」
川 ゚ -゚)「いえ、楽器を片してからデレと一緒に帰ろうかな、と思っていたんですけど楽器はしまってあるのにデレがいなくて」
川 ゚ -゚)「それで試しに理科講義室を覗いてみたら、先輩とデレの鞄があったので、ここで待ってたら戻ってくるかなと」
ζ(´ー`*ζ「あ、そっか。クーちゃんごめんね。給油のために灯油を取りに行ってたの」
川 ゚ -゚)「あれ? でも灯油っていつも職員室前に置いてるはずだから、こんなに時間が掛かるはずはないんじゃ?」
('A`)「ああ、それはだな。ちょうど職員室に灯油がなくて、二人で給油庫まで取りに行ってたのよ」
川 ゚ -゚)「なるほど。お疲れ様です」
ζ(゚ー゚*ζ「クーちゃん、もう少しだけ待っててもらってもいい?」
川 ゚ー゚)「うん。ここで待ってる」
クーはそう言って鞄を床に下ろし、入り口のすぐ横にちょこんと座る。
その横を通り過ぎるように、俺は理科講義室の引き戸を開けてデレと一緒に中へと入った。
- 98 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:31:46 ID:p8cJR8WI0
- ('A`)「えーっと、醤油ちゅるちゅるは……お、あった」
ζ(゚ー゚;ζ「えっ、灯油ポンプってそんな名前があるんですか?」
('A`)「どっかで聞いた。でも灯油ポンプの方が普通だと思う」
ストーブの前までポリタンクを持ってきてもらい、灯油ポンプを置かれたポリタンクに挿してから、
ストーブの給油口にもポンプの注入ホース挿しこんて、何回かポンプを押す。
ζ(´ー`*ζ「それにしても、よくこんなポンプ作れますよね」
('A`)「サイフォンの原理だっけ? 名前しか知らないけど、よく見つけるもんだよねこんな現象」
ζ(゚ー゚*ζ「そういえば先輩って理系選択ですよね? やっぱり物理は難しいですか?」
('A`)「ムズイ。正直つらい。公式をひたすら覚えないといけないのと、ちょっとの計算ミスがめちゃくちゃ痛い」
ζ(´ー`;ζ「……数学が苦手な私には、絶対無理そうです」
('A`)「公式を覚えちゃえば楽ではあるんだけどねー。でも覚えるまでがどうしても」
ζ(´ー`*ζ「……音楽のメロディだったらすぐ覚えられるのになぁ」
('A`)「禿同。俺もメロディと歌詞だったら何回か歌えば覚えられるけど、何故かそれが勉強に生かせない」
ζ(^ー^*ζ「凄く分かります、その気持ち」
- 99 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:33:19 ID:p8cJR8WI0
('A`)「それにしても、もう日が伸びてきたなぁ。もう17時なのに夕焼けがほんのり残ってる」
ζ(´ー`*ζ「もう3月ですからね。まだまだ寒いですけど、温かい日も多くなりました」
ζ(´ー`*ζ「新しい子、どのぐらい入ってきてくれるかなぁ……」
('A`)(そうか、俺も4月から3年生か)
窓から遠くに見える、紅焼けた色から深く暗い黒色へと変わっていく自然のグラデーションに、思わず心を奪われる。
少し小高い丘の上にある学校のため、高い階から見れる広い空や街の景色はとても綺麗だ。
特に帰り際に見れるこの夕焼け空は、いつもびっくりするほど本当に奇麗で。
ζ(´ー`*ζ「外に出たら寒いかなぁ」
('A`)「……俺は寒い日は嫌いじゃないよ」
ζ(゚ー゚*ζ「私もそんなに嫌いじゃないです」
ζ(´、`*ζ「でも手袋を忘れちゃったときなんかは、なんだか手が寒くて、何故か寂しくなっちゃって、人の温もりが欲しくなっちゃいます」
('A`)「ああ、それ超分かる。まあ恋人居たことないけど」
ζ(´ー`*ζ「えへへっ、私もです……」
('A`)「……なあ。デレはさ、好きな人とか、いないの?」
ζ(゚、゚*ζ「!」
- 100 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:34:56 ID:p8cJR8WI0
夕焼けに見とれてぼうっとしていたせいか、思わず自分の口から滑り落ちた言葉にハッと気づく。
(;゚A゚)「あっ、ごめっ、ちょっと変なこと聞いたよな! 別に深い意味は──」
ζ(゚- ゚*ζ「い、いますよ」
(゚A゚)「!」
ζ( ー *ζ「で、でも先輩にはまだ教えませんっ」
そう言うと デレは何故かそっぽを向いてしまった。
(;'A`)「あ、おう……」
その言葉を聞いて、何故だか自分の胸がチクリと痛む。
……いや、なにガッカリしてるんだ俺。デレはただの後輩だろうに。
なんで俺は変に落ち込んでいるんだろう。
たしかにデレはかわいいけれど、俺なんかが手を出せる──いや、手を出してはいけないような人だろう。
俺なんかじゃ不釣り合い。そんなことは分かりきっている。というか手を出す勇気もない。
ζ(゚ー゚;ζ「……あっ、とと、灯油入りきったみたいですね!!!」
(;'A`)「あ、ああっ、そうだな。せせせせ先生、タンクは明日戻してくれれば良いっていいいい言ってたし、もももももう帰ろうか」
ζ(゚ー゚;ζ「そ、そうですね。クーちゃんだって待たせてるし!」
自分の何気ない一言のせいでなんだか気まずい雰囲気になりながらも、すぐに給油の後片付けをしてそれぞれ帰り支度を進める。
そして、恥ずかしさを紛らわせるように窓の戸締まりや換気扇、忘れ物がないかを俺が確かめているとき──
ζ(゚、゚;ζ「せっ、先輩こそ今好きな人はいるんですかっ!?」
(;゚A゚)「えっ!?」
デレからの突然の質問に、思わず俺はあっけに取られる。
ζ(゚ー゚;ζ「せ、先輩が私に聞いたんですから、私だって聞いてみても良いですよね?」
(;'A`)「うっ……」
そのことを言われると、流石に弱ってしまう。
でも、今の自分に好きな人などいない。ましてや、そもそも恋愛に発展しそうな女友達すら居やしないし。
- 101 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:36:19 ID:p8cJR8WI0
ζ(゚、゚;ζ「ど、どうなんですか……?」
(;'A`)「お、俺は……」
ζ(゚、゚*ζ「…………」
ふと自分でその答えを探してみて、何故か俺の頭のなかに真っ先に浮かんだものは──
ζ(^ー^*ζ
('A`)「!」
俺の目の前に立って居る、デレの明るい笑顔だった。
- 102 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:37:51 ID:p8cJR8WI0
いや、待て。落ち着け。今まで一度たりとも俺がそんなことを思ったことは無いはずだ。
きっと何かの間違い。思わず口が滑ってしまった、さっきの吊り橋効果。
ζ(゚、゚*ζ「…………」ドキドキ
ついさっきも考えていただろう。俺なんかじゃデレには釣り合わないと。
ましてや、デレに好かれるほどの魅力なんて俺にあるはずがない。
ζ(゚、゚*ζ「…………」ソワソワ
さらに俺なんかがデレのことが好き、だと言ってもまずデレに迷惑を掛けるだろうし、言える権利だってやはり無いはずだ。
ほら、クーだってデレには手を出すなといつも言っているじゃないか。当たり前だ、後輩には手を出す訳にはいかない。
自分の頭のなかに浮かぶ数多くの言い訳。
それを考えている間にも、夕焼け空はどんどんと暗さを増していく。
ζ(゚、゚*ζ「……せ、先輩?」
俺は、デレが好き──?
(゚A゚)「ち、違うッ! 俺は、デレが好きなわけじゃ──!!!!」
ζ(゚、゚;ζ「!?」
自分の邪な念を追い払うために、思わず大声を出してしまった。
それに驚いてしまったのか、デレの身体が小さく跳ねるのが見えた。
- 103 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:39:51 ID:p8cJR8WI0
大声を出してからはっ、と気付き慌てて弁解の言葉を口から出す。
(;゚A゚)「あっ、す、すまんデレ違うんだ。びっくりさせて申し訳な──」
ζ( 、 *ζ「……先輩、ごめんなさい。ちょっと、私も調子に乗りすぎましたよね」
('A`)「へっ?」
デレは突然顔を俯かせて、か細い声で俺に謝りだした。
ζ( ー *ζ「ちょっと失礼、でしたよね。突然こんなこと後輩に聞かれても、とても迷惑ですよね」
次第にその声が震えているような気がして。
突然の事態に、俺の陳腐な頭ではどうすればいいかが分からなかった。
ζ( ー *ζ「……先輩と後輩の恋愛なんて、ありえませんよね」ボソッ
ζ( ー *ζ「えっ、と。さっきのことは、忘れてください。さようならっ」
(;゚A゚)「あっ、デレ!」
デレはそう言った後、顔を俯かせたまま走って教室を出て行った。
俺が呼び止めようと教室を出たときには、もうデレは下の階へと下りてしまっていて。
- 104 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:42:12 ID:p8cJR8WI0
(;'A`)「…………」
まさか。
デレは、俺のことが好きだったのか?
いや、そんなまさか。
でもそれなら、何故デレの頬に一筋の涙が見えていたんだ──?
俺は、デレを傷つけて──
川 ゚ -゚)「……おーい」
(;゚A゚)「えっ、あっ、クール!?」
川 ゚ -゚)「あの、しばらく待ってたらデレが走って階段降りていったんですけど、何があったんですか?」
(;'A`)「いや、その、なんというか……」
川 ゚ -゚)「いやまあ、知ってますけど。外まで普通に聞こえてましたし」
(;'A`)「あ……」
川 ゚ -゚)「あーあ、ドクオ先輩がデレのこと泣かしちゃったの、明日吹部の人に言いふらしちゃおうかなー」
川 ゚ -゚)「それに、このままだとデレは悲しんだまま明日も練習に来ちゃうなー、どうしようかなー」
(;'A`)「うっ……」
流石にこのまま明日を迎えるのは、俺的にも、デレ的にも、とてもキツイものがある。
なによりも、明日のパート練習のことを今から考えてみるだけで、ただでさえ弱い俺の心がボッキボキに折れそうだ。
- 105 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:43:08 ID:p8cJR8WI0
そんな風に、俺が物思いにふけっているとき。
川 ゚ -゚)「アッ、ソウイエバデレハイツモ東門カラ帰ッテタナー。アークチガスベッチャッター」
そのクールのわざとらしい言葉で、俺の心のなかに一筋の光が差す。
その言葉のお陰で、俺の頭はいつにないほどのフル回転を始める。
('A`)「……クール、それは本当か?」
川 ゚ -゚)「デレといつも一緒に帰ってますから。帰り道ぐらいは知ってますよ」
ああ、まさかこいつに助けられる日が来るとは。
('A`)「ありがとう、クール。この恩はいつか返す」
川 ゚ー゚)「ハーゴンダッツ3個で手を打ちますよ」
クールは、体育座りをしている膝の上に、3本指を作って俺の方にひらひらと揺らしてみせた。
('A`)「上等だ」
そう言った後、俺はデレの後を追うために全力で地面を蹴り始めた。
たとえどうなろうと構わない。デレを悲しんだままこのまま帰らせてしまったら、
この先、自分で自分を幾度と無く責め続けることになってしまうのは明らかだ。
たとえデレが俺のことを好きじゃなかったとしても良い、せめて、あいつの笑顔を取り戻せるだけでも良い。
デレに自分が何を出来るかも全然わからないけど。でも、また前みたいにこんな悲しい“想いで”を自分に残してしまうのだけはごめんだ。
“想いで”になんか、させない。
川 ゚ -゚)「……まあ今の姿を見て少し、デレが先輩を好きな理由がちょっと分かった気がするよ」
川 ゚ー゚)「たとえ私が気に入らなくても、私を散々悩ませたデレの独断で、勝手に“想いで”になんてさせないさ」
- 106 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:44:32 ID:p8cJR8WI0
自分の見慣れた帰り道、ほのかに夕焼けに染まった廊下を走りながら頭の片隅で考える──。
たしかに俺だって、デレのことはとっても信頼している。
楽器だってめちゃくちゃ上手いし、それでいて先輩である俺のことをデレはとても慕ってくれている。ような気がする。
たまに俺が無茶ぶりをしたって、あっという間にそれを成し遂げてしまうデレに、自分の存在意義を揺らがされたこともあるけど。。
そんな風に俺が先輩としての自信がなくなった時でも、デレは変わらず俺のことを頼ってくれた。
そういえば、最初こそ練習の仕方や演奏方法を教えたりすることも多かったから、デレと話す機会はそれなりに多かった。
でも、楽器初心者なのにとても上手だったデレに、次第に俺が教えることもなくなっていって、だんだんとこちらから話すことも少なくなった。
同じ部屋にいながら無言でパート練習をするなんて日も少なくなかった。
それでも、いつもデレの方から果敢に俺に話しかけてくれた。
だから、俺もデレの気になることや、俺を頼りにしてくれていることは全力で手助けをしようと頑張った。
だから、そんなデレの悲しい顔を見るなんてごめんなんだ。
『先輩、ここのリズム教えてください!』
『先輩の好きな曲ってなんですか? 私は“たなばた”が好きです!』
『先輩、本当にチューバ上手いですよね。羨ましいです……』
『先輩、金賞ですよ金賞! 先輩の演奏、とっても格好良かったです!』
ζ(´ー`*ζ『 本当にいつもお世話になってます、先輩 』
- 107 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:46:33 ID:p8cJR8WI0
デレのおかげで今まで辛かっただけの練習が楽しくなった。
デレが後輩になってくれたおかげで、自分の学校生活が楽しくなった。
そんな些細なことが積み重なって、気づかないまま俺とデレとの想いでは次第に大きくなっていたんだ。
こんな最悪なきっかけだったけど、それでもやっと気づくことが出来た。
まだ、たった一年間という短い年月だけしか一緒にいてあげられてないけれど。
俺はデレという後輩──いや、一人の女の子のおかげで何度だって救われた。
(;'A`)「デレッ!!!」
ζ( 、 *ζ「!」
今まさに、東門を出ようとしていたデレの後ろ姿を見つけ、大声で呼び止める。
それに気づいてくれたのか、デレはゆっくりと歩みを止めた。
俺もデレのすぐ後ろで止まり、俺の運動にはとても向いていないひ弱な身体を、膝に手を置いて身体を支えながらしゃべり始める。
(;'A`)「はぁっ、はぁ……ちょっと、待ってくれ……」
ζ( 、 *ζ「なん、で……」
(;'A`)「デレ、さっきの言葉はまったくの勘違いで、間違って言ってしまったことなんだ」
ζ( 、 *ζ「かん、ちがい……?」
(;'A`)「ああ、本当にしがない理由であんな風にくよくよしていたが、もう吹っ切れた」
ほんのすこし深呼吸をして。
('A`)「デレ、お前は──」
- 108 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:48:37 ID:p8cJR8WI0
('A`)「俺にとって、とても大切な後輩だ」
ζ(;、;*ζ「!」
('A`)「いや後輩だけじゃ足りない。デレは俺にとって、大切にしたい人なんだ」
('A`)「きっとデレとの関係が壊れることが怖くて、無意識にこの思いを自分の心に押し隠していた」
('A`)「でも、今はもうそんなのどうでもいい」
('A`)「デレは、今まで俺に黙って着いてきてくれた。だんだんと話す機会がなくなったときも、いつもデレから俺に話しかけてくれた」
('A`)「そんなデレのおかげで、俺が辛い時デレに何度も助けてもらったし、俺はデレといつでも楽しく話せるようになった」
('A`)「デレのおかげで部活も楽しくなった。デレのおかげで練習だって前みたいに辛く感じなくなった
('A`)「もう、デレは俺の生活の一部になっているんだ。かけがえのない存在なんだ」
('A`)「だから、俺はデレのことが嫌いなんかじゃない」
('A`)「むしろ、大好きだ」
- 109 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:50:23 ID:p8cJR8WI0
(;'A`)「……ああっ、なんかもうなんて言えば良いのかわからなくなってきた。すまんデレ」
ζ( ー *ζ「──えへへっ、先輩のそういうところも、大好きです」
そう言いながらデレがこちらへと振り向いて、今まで見れなかったデレの顔が見えた。
ζ(;ー;*ζ「ドクオ、せんぱい」
今自分の目の前にいるデレの顔は、涙と鼻水でくしゃくしゃになっていた。
けれどその顔は、俺がいつも見ていたいつもの笑顔に他ならなかった。。
ζ(;ー;*ζ「今、先輩が言ってくれたことって、本当ですか……?」
('A`)「ああ、もちろんだ。いつも言いたいと思ってたけれど言えなかった、俺の想いだ」
ζ(;ー;*ζ「うぅ……ぐすっ、ヒック、あぁ……ぐすっ……」
デレは、自分の眼から止めどめなく流れてくる涙を、しきりに制服の袖で拭っている。
('A`)「えっと、まあ、なんだ。俺なんかに好きと言われても迷惑だろうし、別に今のことは忘れてくれてもいい」
('A`)「ただ俺はデレのことが嫌いなんかじゃない。それは覚えててくれると、う、嬉しい」
ζ(;ー;*ζ「迷惑なんかじゃ……グスッ、ないです。むしろ、とっても嬉しいです」
('A`)「……うん、良かった。俺も、デレに笑顔が戻ってくれて嬉しい。ほら、これで涙を拭いてくれ」
ζ(;、;*ζ「な、泣いてなんかないですもん」
('∀`)「そんな分かりやすい嘘ついてどうするよ。ほら、そんなんじゃ制服が涙まみれになるぞ」
ζ(;ー;*ζ「はいっ、ありがとうございます」
- 110 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:52:09 ID:p8cJR8WI0
川 ゚ -゚)「あのー……」
(;'A`)「うわっ!?」
ζ(゚д゚;ζ「うえぇっ!?」
突如後ろから、今ここにいないはずクールの声がしたので2人ともとても驚いた。
川 ゚ -゚)「微笑ましいところ申し訳ないんですが、もう遅いのでそろそろ帰りませんか」
クールはとても申し訳無さそうな顔をしながらも、東門の近くに立っている時計台の方を指さしてそう言った。
それに釣られて時計を見てみると、長い針はとっくに5の数字を通り過ぎていた。
('A`)「うおっ、部活終わったのが16時だからもう1時間近く残ってたのか」
ζ(゚ー゚;ζ「流石にもう帰らないと、完全に暗くなっちゃいますね……」
川 ゚ -゚)「ほら先輩、鞄持ってきましたよ」
(;'A`)「あ、ありが──うおっ!」
クールは右手に持っていた俺の鞄を勢い良く俺に向けて放り投げ、それをなんとかギリギリキャッチする。
- 111 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:53:51 ID:p8cJR8WI0
川 ゚ -゚)「ほら、デレも帰ろう」
ζ(´ー`*ζ「うん。……ごめんね、クーちゃん。勝手に外に出て行っちゃって」
川 ゚ -゚)「別にいいよ。あっ、でもそういえばさっき先輩と約束したことがあったなぁ」チラッ
(;'A`)「ぐっ」
ζ(゚ー゚*ζ「?」
川 ゚ー゚)「せーんぱいっ、今日は私達と一緒に帰りませんかー? ちょうど帰り道にブーンイレブンもあるんでー」
(;'A`)「せ、背に腹はかえられん。たまには一緒に帰ってやろう」
川 ゚ー゚)「よっしゃ」
ζ(´ー`*ζ「???」
その後、帰り道でクールにハーゴンダッツを3人分買わされた俺は、
それを3人で食べながらいつもより少し遠回りな道で、その日は家へと帰った。
- 112 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:55:22 ID:p8cJR8WI0
─ 翌日 ─
川 ゚ -゚)「ふう、昨日はどうなることかと思ったよ」
ζ(゚ー゚*ζ「本当にごめんね、クーちゃんにはとっても迷惑かけちゃった」
川 ゚ー゚)「もういいよ。でもほら、念願の夢がついに叶ったんだろう?」
ζ(//、//*ζ「う、うん……」
川 ゚ー゚)「まったく、半年前からさんざん私に相談しておいて、結局一回違うって言われただけで逃げちゃうんだから、困ったもんだよ」
ζ(//、//*ζ「だ、だって……」
川 ゚ー゚)「……お、噂をすればなんとやら。ドクオ先輩のお出ましだ」
ζ(゚ー゚*ζ「ほ、ほんと!? ドクオせんぱーい!」
('A`)「おお、デレ。おはよう」
ζ(^ー^*ζ「おはようございます、先輩。今日は良い天気ですね」
('A`)「だなぁ。今日は温かいし、なんとも過ごしやすいよ」
ζ(´ー`*ζ「はい。今日はいっぱい練習頑張れちゃいそうです」
川 ゚ -゚)「…………」
川 ゚ -゚)(二人とも、特に変化なし……だと……!?)
- 113 名前:名も無きAAのようです :2015/03/01(日) 02:56:41 ID:p8cJR8WI0
ζ(´ー`*ζ「それに、昨日先輩からいーっぱいパワーをもらったので、私今日はさらに頑張れちゃいます!」
('A`)「パワー?」
ζ(´ー`*ζ「はいっ! そうだ、今日も私にパワーをください! もう一度、私に『好き』っていってください!!!」
(*゚A゚)「あっ、そういう……。べ、別にいいけどさ……」
(*'A`)「お、俺はデレのことが好きだよ」
ζ(//、//*ζ「あうっ、ふうぅ……」ビクッ
ζ(^ー^*ζ「……よーし、今日もがんばろー!」
(*'A`)「あっ、ちょっと待て! 言わせておいてお前なー!」
(*'A`)「……別にいいや。俺も頑張ろう」
川#゚ -゚)(前言撤回。あの二人にユーフォバズーカ打ちたい)
川 ゚ー゚)「……なんてね。ま、いいか。デレが幸せそうならそれで」
おわり
戻る