45 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:08:59 ID:aJQDgMN20

風の音に混じって

がしゃん、がしゃん

と音がしたので顔を上げると、すりガラスの向こうに人影が映っていた。


( ´∀`)「おや」

                               ・ ・
駐在はペンを置いて席を立ち、ガラス戸の端にあるねじ錠をきゅるきゅると回した。
戸を引き開けると、戸口の前の暗がりに、一人の男と小さな女の子が立っていた。


(  ゚¥゚)「保護しました。この子一人でしたよ」


雨合羽を着たその男はそう言って、女の子の背中を無造作に押し出した。
傾くように前に出た女の子は、斜めにかけたポシェットをぎゅっと抱き込んでいる。
二人の後ろから乾いた風が吹き込んできた。


( ´∀`)「わかりました。とりあえず二人とも中に入るモナ」


星も出ていない真っ暗闇の真ん中に、小さな駐在所の明かりが光っていた。

46 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:10:59 ID:aJQDgMN20






駐在所のようです




.

47 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:13:08 ID:aJQDgMN20

中に入って戸を閉めると、また空気がふわふわと温みはじめた。
火の気のないストーブの上で、薬缶が汗をかいていた。
駐在は部屋の隅からパイプの折りたたみ椅子を持ってきて、上にピンクの座布団をひいた。


( ´∀`)「どうぞ」

ξ゚听)ξ「……」


女の子は黙って椅子に座り、スカートのひだを握ってうつむいた。
なるべく優しい顔を作って、駐在は女の子の前にしゃがみ込んだ。


( ´∀`)「僕は駐在さんのモナーだモナ。君のお名前は?」

ξ゚听)ξ「……」

( ´∀`)「君はどこから来たのかな。お父さんかお母さんは?」

ξ゚听)ξ「……」

(  ゚¥゚)「何も喋らないんですよ。ずっと」


横合いから合羽の男が口をはさんだ。こちらは短靴の紐を目を細めて結び直している。
うん、と唸った駐在は「ちょっと休むのがいいかな?」と女の子に声をかけてから、男と話をし始めた。

48 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:15:01 ID:aJQDgMN20

「ほら、喋らない」

「そうモナね。どこで見つけた?」

「あっち」

「……また仕事中に寄り道して」

「してませんよ」


二人が話している間に、女の子はそうっと周りを見回した。
木の机に灰色のキャビネット、その上の達磨、あとはよくわからないものがこまごまと置いてある。
頭を上げると、天井の隅に小さな家がついていた。


ξ゚听)ξ「……?」

(  ゚¥゚)「では、私は待合所に」

( ´∀`)「よろしく頼むモナ」


男は懐中電灯をつけて外へ出ていった。灯りが遠のくのをしばらく見送ってから、駐在は
戸を閉じてねじ錠を締めた。振り返ると、女の子がさっと目をそらした。

49 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:17:29 ID:aJQDgMN20

駐在は一つ笑って席につき、黒電話を回してどこかへ電話を掛けた。女の子は、彼が自分の
姿形の様子を電話の向こうに一つ一つ伝えていくのをじっと聞いていた。


( ´∀`)「……はい。了解しました。では」


ちゃりん、と受話器を置くと、駐在は後ろを振り向いた。


( ´∀`)「今、係に連絡したから、そのうちお家の人が来てくれるモナよ」

ξ゚听)ξ「……」

( ´∀`)「……あめ、食べるモナ?」

ξ゚听)ξ″フルフル

( ´∀`)「そっか。僕は食べちゃおうかな」


そう言って机の下の抽斗を開けると、大ぶりなプラスチックのびんを取り出した。
色とりどりのあめがぎっしりと詰まっている。

駐在は一つ取ってセロハンを剥き、口に放り込んだ。

50 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:19:29 ID:aJQDgMN20

からころ、から、から、がり

ξ゚听)ξ「!」

からかり、がり、がり、がり

ξ゚听)ξ「……」

がりがり、しゃりしゃり、ごくん。

( ´∀`)「ふう」


食べ終えてから、女の子が目を丸くしているのに気付いた。


(;´∀`)「あ、僕、あめだとかすぐに噛み砕いちゃうんだモナ。癖でね。舐めるの飽きちゃって」

( ´∀`)「それで物足りなくて一度に三つも四つも食べちゃって、この間友達に『虫歯になるぞ』って
      笑われちゃった。ちゃんと歯磨きしてるんだけど……」


くすくすくす。
女の子がおかしそうに笑った。

51 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:21:21 ID:aJQDgMN20

ξ゚ー゚)ξ「男の大人の人なのに、あめいっぱい食べるの」

( ´∀`)「え、うん。僕は甘いものが好きだからね」

ξ゚听)ξ「うちのお父さんもね、お菓子とかいっぱい食べるよ。カステラとかね、こんな大きいの二つも食べるんだよ」

( ´∀`)「それはすごい」

ξ゚听)ξ「でもね、お母さんに怒られたんだよ。甘いのが病気になるからだめだって」

( ´∀`)「病気かあ。病気は僕も怖いモナ」


女の子の表情が幾分か柔らかくなったようで、駐在はほっとした。


( ´∀`)「君は何て呼べばいいのかな。お名前は?」

ξ゚听)ξ「ツン」

52 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:23:05 ID:aJQDgMN20

( ´∀`)「ツンちゃん。絵本とお人形、どっちが好き?」

ξ゚听)ξ「絵本」

( ´∀`)「よしきた」


そう言って駐在はあめのびんを片付け、かわりにキャビネットからやや古びた絵本を
数冊抜き出した。


( ´∀`)「ちょっと古いけど、お迎えが来るまで読んでる?」

ξ゚听)ξ「うん」


女の子は手渡された本を早速開いて、熱心に読み始めた。
駐在は残りの本を机の端に置き、部屋の両側の窓を開けた。網戸越しの暗闇はさっきよりも
だいぶ静かになっていた。空気がゆっくりと入れ替わる。

一つ息をつくと、駐在は机に戻ってペンをとり、書き物の続きに取り掛かった。

53 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:24:59 ID:aJQDgMN20

明るい戸口に近づくと、楽しげな話し声が聞こえてきて、男は顔をしかめそうになった。


「じゃああそこはちっちゃい神様が住んでるの?」

「そうなんだろうねえ……あの社もそろそろ買い替え時かな……」


がしゃん、がしゃん。


「おや」


ねじ錠を回す音の後に、がらりと戸が開いて駐在が顔をのぞかせた。
雨合羽の男は無言で後ろを振り向いた。男の陰から、少々丸い男が現れた。


( ^ω^)

ξ゚听)ξ「お父さん」


駐在の横から女の子が走り出て、膝をついた丸い男と抱きしめあった。

54 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:27:00 ID:aJQDgMN20

( ^ω^)「   、        ?」

ξ゚听)ξ「ううん、大丈夫だよ……お母さんは?」

( ^ω^)「……               。          」

ξ゚听)ξ「……うん、わかった」


丸い父親は女の子をはなすと、駐在と合羽の男に深々とお辞儀をした。


( -ω-)「             」

( ´∀`)「どういたしまして。お役に立てて何よりです」

(  ゚¥゚)「どうも」

( ^ω^)「   」

ξ゚听)ξ「あ」

ξ--)ξ「ありがとうございました。お世話になりました」

( ´∀`)「どういたしまして。良かったね、ツンちゃん」

ξ*゚听)ξ「うん」

55 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:28:59 ID:aJQDgMN20

男が父親に電灯を渡し、帰り道を教えている。
それを見て、女の子がこっそりと手招きした。耳を寄せた駐在に小さく囁く。


ξ゚听)ξ「あめ、食べすぎちゃだめだよ」

( ´∀`)「はは、気を付けるよ」


小さな懐中電灯を照らして、女の子と父親は手をつないで歩いていく。
つないだ手と手を幸せそうに揺らしながら、親子の影はだんだん小さくなり、やがて見えなくなった。

二人を見送って、駐在は中に戻った。後から男が入ってきて薬缶を取り上げ、伏せてあった
茶碗の二つに水を注いだ。


(  ゚¥゚)「どうぞ」

( ´∀`)「ありがとう」

56 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:31:35 ID:aJQDgMN20

駐在は自分の椅子に、男は座布団を退けて折りたたみ椅子にそれぞれ座った。
一口啜った水のぬるさがのどに丁度良い。


( ´∀`)「……前から思っていたんだけど、もう少し愛想よくできないの? 子供が怖がるモナ」

(  ゚¥゚)「性分なもんで。あなたみたいにご機嫌取りするのは嫌ですよ。どうせすぐいなくなるし」

(;´∀`)「ご機嫌取りって……迷子は皆不安になっているんだよ。預かったからには、笑顔で帰って欲しいじゃないかモナ」

(  ゚¥゚)「笑顔で帰って欲しい、ねえ」

( ´∀`)「なに?」

( ^¥^)「だって」

57 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:33:01 ID:aJQDgMN20






「さっきもあめを食べさせようとしてたくせに」




.

58 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:35:00 ID:aJQDgMN20

( ´∀`)

( ´−`)

( ´−`)「どこで見てた」

(  ゚¥゚)「ほらやっぱり」

( ´∀`)「あっ」

( ^¥^)「ズモモモモモモ」


男は雨合羽の肩を震わせている。駐在は黙ってその様子を見ていた。
先程まで女の子が座っていた座布団が、適当なところに引っ掛けられてしぼんでいた。


( ´∀`)「わざとじゃないモナ」

(  ゚¥゚)「どちらにせよ無理でしょう、あなたは善人だから。寂しがりをこじらせただけの、ね」

59 名前:名も無きAAのようです :2015/09/01(火) 19:37:03 ID:aJQDgMN20

( ´∀`)「……君は誰に対してもそんな調子なのかい」

(  ゚¥゚)「おおむね」

( ´∀`)「問題を起こすよ」


ふん、と鼻で笑って男は茶碗を戻して立ち上がり、合羽の内側から懐中電灯を取り出した。
そしてそのまま引き戸を抜けて外へ出た。ぬるい風が顔を撫でる。当分は止んだり吹いたりが続くようだ。
電灯を点けて男は歩きだした。

しばらく歩いてから振り返れば、駐在所の戸口のガラス越しに、人影がじっと立っていた。
こちらを見ているらしい。

男は肩をすくめ、合羽の前をかき合わせて小走りに暗がりへ消えた。


あとには、未だ明けぬ真っ暗闇の真ん中に、ぽつりと光る駐在所が佇んでいた。






おわり


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