885 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 13:48:04 ID:8UsrB0a.0

ミセ*゚ー゚)リ

加賀美 芹花。
ミセリと呼ばれ、何処にでもいるような一人の少女。

彼女はきっと、年相応に歪んでいた。
恐ろしいほど純粋で、綺麗に。

「結局、この程度なんだよ」

そう言った彼女は、もう何もかも諦めたように笑っていた。
そして不謹慎ながらも、僕はそれに見とれてしまった。

加賀美 芹花。
花の名を持つ、もう逢うことの叶わない一人の少女。

窓際の席で、君は一体何を見上げていたのだろうう。
澄み切った青い空に何を望んだのだ。

競い合うことに疲れた小さな花。
これは、僕と彼女のお話。

白く輝いた、ひと夏の――――。


ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`)

886 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 13:49:32 ID:8UsrB0a.0
――――キン。
開け放たれた窓から聞こえる打球音。
我こそはと、命をかけた蝉の合唱。
夏という戦場を舞台に、互いを高め合っているかのようだ。

「……はい、今日はここまでー」

だるそうに届く教師の声。
それもそうだろう。

これは所謂補習と云うやつで。
できない生徒の集まりなのだから。

そんな者達のためにクーラーの使用を許可するほど、学校は優しくなかった。
僕たち赤点組よりも地球を思った方がよっぽどましなのだろう。

(´・ω・`)「ドクオはこの後も?」

勉強道具を鞄にしまい、後ろの席の友人に尋ねる。

('A`)「あと2教科」

(´・ω・`)「ごくろうさま」

机に突っ伏すようにして不貞腐れる友人から鞄へと視線を移す。
補習の道具しか入っていないソレはあまりにも軽く、どこか頼りなさを感じさせた。

887 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 13:52:26 ID:8UsrB0a.0

('A`)「そういえばさ」

(´・ω・`)「うん?」

いつの間にか椅子に背を預けていたドクオが話しかけてくる。
既に教室には2人しか居らず、夏の音が僕らを包んでいた。

('A`)「うちのクラスに加賀美いるじゃん?」

(´・ω・`)「いるね」

加賀美 芹花。
どちらかと言えば大人しい部類だが、暗いわけではない。
自分から進んで話しかける方ではないが、誰とでも気さくに話せるような人。

見た目も性格を表すかのようで、決して派手ではない。
だがそれなりの可愛らしさはある、と思う。

まだ数回しかやりとりをしていないがそんな印象だ。

('A`)「あいつさ、援助交際してるんだって」

888 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 13:54:45 ID:8UsrB0a.0
(´・ω・`)「何をいきなり」

人を呼びとめて何を言い出すかと思えば――――。
半ば呆れるようにして荷物を持ち直す。

('A`)「何かさ、隣のクラスのやつが見たんだってよ。おっさんとホテルに入っていくの」

こちらの事などお構いなしに話を続ける。
数度しか話したことがないとはいえ、僕が持つ彼女のイメージにはそぐわない。

(´・ω・`)「それで?」

('A`)「……してると思う?」

どこか不貞腐れるような問い掛けに対して、息を吐き肩をすくめる。
いや、どちらかと言えば不安に思っているのだろうか。

(´・ω・`)「ドクオって、分かりやすいよね」

889 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 13:59:38 ID:8UsrB0a.0

('A`)「は?」

(´・ω・`)「まあ、少なくとも僕は嘘だと思うけどね」

そろそろ次の補習が始まるのか、何人かの生徒たちが入ってくる。
今度こそと思いドクオに背を向け歩き出す。

('A`)「ショボン」

返事もせずにただ振り返る。
一体何だというのだ。

('A`)「ドクオはやめろ」

毒島 孝雄という名前からつけた愛称の撤廃を求める声。
トーンもどこか明るく、さっきまでの空気が嘘のようだ。

(´・ω・`)「そっちこそ」

最早定番とも言えるやりとりをして、軽く手を振り別れを告げる。
教室から出て、軽く伸びをすると、身体から小気味好い音がきこえた。

人気のない廊下にチャイムが響く。
これ以上学校に残っていても仕方がないため、玄関を目指す。

890 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:03:36 ID:8UsrB0a.0

この学校は四階建てで、四階は一年、三階は二年、二階は三年、といった風に分けられている。
去年始まったこの学校生活も、もうすぐ半分が過ぎようとしているのだ。

('A`)『あいつさ、援助交際してるんだって』

不意に浮かぶドクオの言葉。
あまり親しい友人のいない彼は僕に話し、否定してもらいたかったのだろう。

(´・ω・`)(援助交際、ね)

ぼんやりと考えながらも、一階までたどり着く。
玄関前にある、校内唯一の自販機置き場に眼がいった。
外にあるものよりも若干安いそれは、渇いた喉には魅力的だ。

財布を開きながら近づき小銭を取り出す。
が、手にした百円玉が逃げ出し、コロコロと転がっていく。

(;´・ω・`)「わっ」

自販機の下に入ったそれを追うように地に伏せる。
高校生にとっての100円というのは重い。

必死に手を伸ばして、悪戦苦闘していると背中をつつかれた。

891 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:07:02 ID:8UsrB0a.0

ミセ*゚ー゚)リ「これ、つかって」

(;´・ω・`)「え?あ……」

間抜けな声を出して振りかえると、クスクスと笑いながら屈みこむクラスメイト。
彼女――――加賀美 芹花は、箒の柄先で僕の背中をつついていた。

(;´・ω・`)「ありがとう」

それを受け取ると、自販機の下に伸ばし入れ、目当てのモノを寄せる。
大きな埃とともに出て来たそれを拾い上げて立ち上がり、振り返った。

(;´・ω・`)「ありがとう」

ミセ*゚ー゚)リ「ふふー。どういたしましてー」

悪戯に笑う彼女は僕の方に手を伸ばす。
その意味を分からずに戸惑っていると、加賀美さんは僕から静かに箒を取り上げた。

(´・ω・`)「あ、いや。僕が戻しておくよ」

気持ちを落ち着け言葉を返す。
先程見えなかったのだから、まさか掃除中だったわけでもないだろう。

892 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:08:44 ID:8UsrB0a.0

ミセ*゚ー゚)リ「気にしなくても良いよ。それよりほら」

買うんでしょう?
彼女に言われるがまま自販機に向きなおす。

これと言って決めていなかった僕は無難にお茶を選んだ。
そして彼女に尋ねる。

(´・ω・`)「お礼に御馳走するよ」

加賀美さんはきょとんとして僕の眼を見る。
引きこまれそうなほど澄んだ瞳に、僕は思わずどきりとした。

(´・ω・`)「加賀美さん?」

ほんの数秒の無言に追い打ちをかけるように言葉をかけた。
すると、彼女は吹き出し、箒を抱きしめながら笑い始める。

突然の行動に僕は再び驚いていた。

ミセ*゚ー゚)リ「ちょっと、田所、くん、それじゃあ、意味、ない、じゃん」

必死に百円玉を取り出し、手伝ってくれたから奢るよだなんて。
意味を理解して顔が熱くなるのを感じたが、それでも引きさがるわけにはいかなかった。

どっちにせよ格好がつかないのなら、少しでもましな方をとる。

893 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:10:50 ID:8UsrB0a.0

(*´-ω-`)「どれでもどうぞ」

目の前の自販機に二百円をいれ、彼女に買うように促す。
他にも幾つか自販機があるが、そこから選ばせるよりこうしてやった方が確実と考えた。

僕が引かないと分かったのだろう。
彼女は申し訳なさそうにしながらも、お礼を述べてボタンを押した。

これ、好きなんだ。
オレンジ色の缶ジュースを手に、彼女は再び微笑んだ。




ミセ*゚ー゚)リ「なんかごめんね」

(´・ω・`)「いや、僕のせいだしね」

喉を潤し、箒を返したあと、帰り道が同じ方向だと知った僕等は肩を並べて歩いていた。
一緒に補習を受けた友に心の中で謝罪しつつ、そこで話題になった人物とのこの状況を奇妙に思う。

おかしなものだと思うが、やはり異性と歩くとなれば悪い気はしない。

895 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:13:36 ID:8UsrB0a.0
ミセ*゚ー゚)リ「田所君って電車じゃなかったの?」

(´・ω・`)「朝が苦手で。祖父母の家がこっちの方だから居候してる」

ミセ*゚ー゚)リ「あー。ずるいんだー」

真上にある太陽がアスファルトを熱する。
ユラユラと踊る陽炎を踏みつけるようにして川沿いの土手を進んでいた。

川原からは夏休みを満喫する子供たちの笑い声が絶えず聞こえて来る。
僕等はそれを眺めては「懐かしい」といった言葉を言い合っていた。

ミセ*゚ー゚)リ「ショボ……、田所君って成績悪かったっけ?何か良さそうなイメージあるけど」

僕の事を呼ぼうとして言い直したのだろう。
ごまかすように笑っていた。

(´・ω・`)「ショボンでいいよ。ちなみに補習は今回が初。一教科だけだからすぐ終わるけどね」

ミセ*゚ー゚)リ「そかそか。というかショボンって呼ばれるの嫌なんじゃないの?」

(´・ω・`)「どうして?」

ミセ*゚ー゚)リ「ほら、毒島君といつも言いあってるから」

896 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:15:22 ID:8UsrB0a.0
(´・ω・`)「ああ、それは気にしなくて良いよ」

ミセ*゚ー゚)リ「気になりますなー」

田所 本成、だからショボン。
ある日突然ドクオが言い始めたのだ。

何でも「自分にあだ名をつけてくれたから、そのお礼」とのこと。
どう考えても意趣返しだったし、当初は響きに覇気がなく似合ってるとも言われ、納得がいかなかった。

今となっては互いの呼び方にこれといった不快感も無いのだが、慣れ親しんだやり取りのため続いている。

ミセ*゚ー゚)リ「仲良しだね」

羨ましいな――――。
そう続ける加賀美さんはどこか寂しげな雰囲気で、けれどもすぐに調子を取り戻したのか微笑んで見せた。

(´・ω・`)「ところで加賀美さんは何で学校に?補習では見なかったけど」

ミセ*゚ー゚)リ「ちょっと図書室に行ってたの。読みたい本があってねー」

鞄から取り出した本は僕の全く知らないタイトルで。
どうやら彼女のお気に入りの作者らしく、別れるまでの時間は彼女の熱弁に耳を傾けることになった。

897 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:17:28 ID:8UsrB0a.0

ミセ*゚ー゚)リ「何か私ばっかり話しちゃってごめんね」

(´・ω・`)「いや、楽しかったし興味もわいたよ」

どうせあと何度かは学校に行くことになるのだし、その時にでも借りてみよう。
それを伝えると、彼女は嬉しそうにして帰路についた。

どこかに置き忘れていた蝉の声が、ゆっくりと僕に追い付く。
楽しかった時間が終わったことに気付いた僕もまた、家に向かい歩きだす。

彼女とこんなに長く話したのは初めてで。
だからこそ改めて思う。
彼女は援助交際なんてしていない、と。

(´・ω・`)(でも……)

そう、一度だけ見せた表情。
すぐにかき消されたあれは何だったのだろうか。

(´・ω・`)(……対して仲良くもない男子と歩いていれば仕方ないか)

難しく考える必要はない、なんて言いながら――――。
気付けば、僕は暇さえあれば彼女の事を思い浮かべるようになっていた。

898 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:19:46 ID:8UsrB0a.0


夏休みも終わりに差し掛かっていた。

初めて加賀美さんと一緒に帰ってから数日。
ふらりと立ち寄った図書室で偶然にも出くわし例の作者の本を借りた。

せっかくだからと言う事で連絡先も交換し、共に図書室に向かう事もしばしば。
そう――――僕はもう彼女に魅かれていた。

夏休みが終わり登校が再開すれば毎日会えるだなんて。
こんな風に長期休暇を煩わしく思うほどに、僕は浮かれていた。






だから、僕はその時の光景を信じられなかった。
ドクオの家で遊んだ帰り、日も暮れた街の裏通りを歩いていた時のことを。
普段なら通らないその道を、ただなんとなく選んだ時のことを。


彼女――――加賀美 芹花が中年の男とホテルから出てきたことを。

899 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:21:41 ID:8UsrB0a.0

(´ ω `)(嘘だろ……。嘘だ、嘘だ)

援助交際。
彼女と話すほどに薄れていったフレーズが今再び形を為す。

耳鳴りがする。
ヒグラシの声など消え去っていた。

気持ちが悪い。
グルグルと視界が揺れ、今にもどうにかなりそうで。

何かの間違いなんじゃないかと思いもう一度見る。
彼女は男に別れを告げ歩き出していた。

裏通りのせいか、現在、周りには誰もいない。
彼女が出て来たことを知るのはきっと僕だけだろう。

男が見えなくなり、慌てて僕もその場を去ろうとする。
今、彼女に顔を見られたら。
今、彼女の顔をまともに見てしまったら。

どうしていいのか分からない。
逃げようとして、周りを見ずに動いたのがいけなかった。

近づいていた車に気付かなかったのだから。

900 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:23:26 ID:8UsrB0a.0

「気をつけろ!!」

大した速度は出ていなかったのだろう。
轢かれはしなかったが、ドライバーから叱責を受け、頭を下げる。

車が去った後、僕は恐る恐る顔を上げる。
いつか見た、寂しげな表情の彼女がそこにいた。

ミセ*゚ー゚)リ「ね、ショボン君」

ゆっくりと近づいてきた彼女は僕の眼を見て言う。

ミセ*゚ー゚)リ「ちょっと歩こうか」

力なく頷いて僕は加賀美さんの後を追った。
僕は今どんな顔をしているのだろう。

恐ろしく重たい足を引き摺る僕はどれほど不格好なのか。
きっと、少し前の君なら笑ってくれていたに違いない。

(´ ω `)(なんだよこれ)

耳鳴りは鈴虫の鳴き声へと変わっていた。

901 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:25:05 ID:8UsrB0a.0
ミセ*゚ー゚)リ「さて、と」

何度か一緒に帰ったことのある土手。
そこを降り、川の傍までやってきた。

ようやく呼吸を落ち着け、彼女の隣に並んだはいいが、やはり声をかけられないでいた。
そんな僕を気にする様子もなく彼女は鞄から財布を取り出す。

何度か目にした事がある財布。
所々擦り切れて、ファスナーの噛み合わせも悪くなっているのを僕は知っている。

『なんか不格好なのがショボン君に似てる。しょんぼり財布だよ』

なんて言って笑っていたのを思い出す。
気に入っているから替えられない、とも言っていた。

ミセ*゚ー゚)リ

そこから三万円を取り出し――――鞄から取り出したライターで火をつけた。

(;´・ω・`)「ちょ!?」

慌てる僕もお構いなしに火は一万円札を灰に変えていく。
彼女が手を離したときには完全に消え去っていた。

902 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:26:49 ID:8UsrB0a.0

ミセ*゚ー゚)リ「私ね、援助交際してるんだ。もう何回も」

(;´・ω・`)

彼女はその場に腰をおろし、川を眺め続けている。
僕も同じように隣に座り、やはり川を眺めた。

ミセ*゚ー゚)リ「結局、この程度なんだよ」

その言葉を聞き彼女の方を見る。
いつもと違う笑顔。
何もかもに疲れたような、諦めたような笑顔。

思わず見とれてしまい、言葉を返すのが遅れた。

ミセ*゚ー゚)リ「あの三万円は私の値段」

彼女は、決して孤立しているわけではない。
愛称だってあるし、彼女自身にも、その周りにも笑顔があった。

それでも、彼女は息苦しさを感じていたのだと言う。

904 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:28:58 ID:8UsrB0a.0

ミセ*゚ー゚)リ「火をつけてさ、あっという間になくなる」

ミセ*゚ー゚)リ「ああ、私の価値ってこんなもんか。はい、おしまい。すっきり、って」

自分に価値があるのか。
誰もが一度は考えるであろう疑問。

結局それは「年相応の考え」でしかない。
深く考えなくて良い、当たり前の通過点なのだ。

なのに彼女はそこで立ち止まってしまった。
自分の価値に真摯に悩み、歪んだ。
ほんの気の迷いで済むそれを馬鹿みたいに解こうとした。

そんな彼女が自分の価値を得るための手段が、援助交際。
言葉だけのあやふやな評価でなく、確かに形になる証明。

ミセ*゚ー゚)リ「こんな女に付き合わせてごめんね」

彼女は一体何度自分を殺してきたのだろうか。

905 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:33:09 ID:8UsrB0a.0

銃しか手にできないような場所に生まれた人は不幸か。
はいそうです、と答えれば良かったのだ。

彼らにとってそれが当たり前なら、きっと不幸ではないと。
彼女はまっすぐに向き合ってしまった。

その考えを強要もしなければ、広めようともしない。

周りを理解したうえでそれに合わせていた。
その結果自分の価値を見失い、疲れてしまったのか。。

僕が平和に微睡む中、彼女は一人荒れ地に立っていたのだろうか。
誰しもがぬくぬくと過ごせるプランターのような学校で、彼女は一人闘い続けていた。

与えられる栄養に、一人怖れを感じながら泣いていた。

906 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:34:41 ID:8UsrB0a.0
ミセ*゚ー゚)リ「じゃあ、お別れだ」

お別れ。
幾らか交わした言葉の筈が、今日はやけに重く感じる。

背を向け歩き出そうとする彼女を引きとめる。
そうだ、君が言ったんじゃないか。

噛みあわないファスナーも、擦り切れた財布も僕みたいだって。
それを気に入っているとも。

(#´・ω・`)「ちょっとここで待ってて!!」

驚く加賀美さんを尻目に、僕は駆け出す。
「ああ、あんなところに一人で置いてきたけど大丈夫かなぁ」なんて考えもあったけれど。
ひたすらに目的地に向かう。

そして、いち早く彼女の元へ戻る。
間違いだらけの答えでも構わないと今は思う。

呆れられても、笑われても、嫌われても。
ただ彼女に伝えたいことがある。

907 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:36:35 ID:8UsrB0a.0

ミセ;゚ー゚)リ「ちょ、え?凄い汗。大丈夫?」

戻ってきた僕を見てあたふたする彼女。
膝に手をつき肩で息をする僕にハンカチを差し出してくる。

そして、以前箒を差し出された時のこと思い浮かべる。
相変わらず格好悪いままだ。

(;´・ω・`)「……こ、これ」

彼女に渡したのは好きだと言っていた、オレンジ色の缶ジュース。
それと――――。

ミセ*゚ー゚)リ「……なにこれ?」

くしゃくしゃになった五万円。
それを押し付けるかのように渡して声を上げた。

(#´・ω・`)「僕と、付き合ってください!」

君が価値を必要とするのなら、僕がいくらでも与えよう。
この程度で収まる訳がないけれど、これから先もずっと与え続けてみせる。

(´・ω・`)「だって、僕は君が好きなんだ」

身体から一気に力が抜ける。
そんな僕を見つめたまま彼女はゆっくりと口を開いた。

908 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:38:12 ID:8UsrB0a.0
ミセ*゚ー゚)リ「ジュースありがとう、これ好きなんだ」

ミセ*゚ー゚)リ「でも、これはいらない」

クシャクシャになった一万円札を僕に返す。
それはそうだ、同級生に金を渡して関係を迫るなんて、あの中年と何も変わらない。

ミセ*゚ー゚)リ「ショボン君って思ってたより馬鹿だよね」

(´・ω・`)「……赤点を取るぐらいにはね」

ミセ*゚ー゚)リ「返事は、もう少し待ってもらっていいかな」

だから、彼女の言葉に僕は驚いた。
てっきり振られたものだと思ったから。

ミセ*゚ー゚)リ「それに」

「私はこんなに安くなかった……のかな」

(´・ω・`)(あ……)

今まで見てきた笑顔。
そこには少しの迷いもないようで。

何故だかちっとも不安も感じなくて、きっと心の底からのものだと思えた。



僕が彼女を見たのは、それが最後。

909 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:40:30 ID:8UsrB0a.0

休み明けの登校日。
開かれた全校集会で加賀美さんの死を追悼した。

死因ははっきりとは言われなかったが、ほとんどの人間が知っていただろう。
同じクラスである僕の耳にも飛び込んできたのも当たり前と言える。

今まで関係をもっていた男に別れを告げたところ、激昂したそいつに殺されたのだ。
何だか、彼女も僕も嫌っていた、陳腐なストーリーにそっくりで。
泣いている人達が全員不幸を演じているように見えてしまった。



(´・ω・`)「ドクオ」

放課後、呼び出された屋上には、ぽつりと一人だけが立っていた。

('A`)「俺さ、加賀美のこと好きだったんだよ」

(´・ω・`)「知ってた」

('A`)「そっか」

(´・ω・`)「僕もさ、好きだったんだよ」

('A`)「……そっか」

今も尚、生き抜いた蝉が声を上げる。
遠くを見つめていた僕は彼女と親しくなったきっかけを話す。

910 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:42:40 ID:8UsrB0a.0

(´・ω・`)「自販機の前で、お金、落としちゃってさ」

(´ ω・`)「拾おうと、必死に、なってたら、加賀美さんがさ」

(´;ω;`)「僕、にッ」

相槌を打つように聞いていたドクオもいつの間にか目に涙を浮かべていた。

人が死んでのお涙ちょうだいなんて大っ嫌いだ。
それは、僕も君も同じだったはずじゃないか。

何だよ加賀美さん。
僕は一万円札を数枚焼かれた所で泣いたりはしない自信がある。
そりゃあ怒りはするけど、こんなに涙は出ない筈だろう。


これから少しずつ涼しくなって、夏は終わる。
僕たちは間抜けだから、君が闘い抜いた戦場を、花束を持って駆け回るんだ。

ミセ*゚ー゚)リ

これは僕と彼女のお話。

加賀美 芹花。
花の名を持つ、もう逢う事の叶わない一人の少女との――――。

911 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:44:24 ID:8UsrB0a.0

■ ■ ■ ■

ミセ*゚ー゚)リ

机の上に置かれたジュースを眺める。
あの流れで告白されるだなんて、思ってもいなかった。

ミセ*゚ー゚)リ「いいのかな」

正直に言えば、すごく嬉しい。
だが、それ以上に後ろめたさが勝っていた。

きっと彼はそれでも自分を受け入れてくれるだろう。
一緒に過ごしているうちに、惹かれていたのも事実だ。

ミセ*゚ー゚)リ(まずは全部終わらせよう)

あの人との関係を、終わらせて。
もう一度ショボン君と話し合って。

ミセ*゚ー゚)リ(そうだよ)

彼が好きと言った人間が、そんなに安いはずがない。
前よりも一層好きになった財布をそっと撫でる。

912 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:45:38 ID:8UsrB0a.0
行為のために渡された三万円よりも。
彼が買ってくれた缶ジュースの方が大切だ。

気がつけば次の日が待ち遠しくなっていたのはいつからだろう。
思い返せば簡単。


あの時、学校で、自販機に戦いを挑む君を見て、何だか可笑しくなっちゃって。
近くの掃除用具を拝借して突いてみたあの時。

(;´・ω・`)『え?あ……』

間抜けな声を出した君を見て。
話す回数が増えて、意見を言い合って。

思っていたよりも話しやすくて。
ちょっと間の抜けたとこもある。

ミセ*゚ー゚)リ「……うん」

ベッドに横になり目を閉じる。
これだけ考えれば浮かんでくるのは当たり前だ。

だからこそ――――。

913 名前:ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`) :2015/08/29(土) 14:49:08 ID:8UsrB0a.0

                  
                  ――――許されるのなら。







               夏の終わりはすぐ傍までやってきていた。
 

 



              ミセ*゚ー゚)リ プランターのようです (´・ω・`)


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