239 名前:名も無きAAのようです :2013/12/31(火) 18:45:34 ID:xwfksvp.0
罅が入ったスマートフォンの画面に、金髪碧眼の少女が映っている。
こちらに向かって手を伸ばしているのは、許可なく撮ろうとするのを咎めているからだ。
それでも、しょうがないとでも言うように、その顔は笑っていた。

その待ち受けを確認しただけで、すぐにカラフルなアプリのアイコンが次々と現れ、画面をいっぱいに覆い尽くして、勝手に画面は真っ暗になってしまった。

( ^ω^)「……待っててお、ツン」

ウウウウウウウ、もう壊れた非常サイレンが響く。
それに混じって、靴音が一つ。

随分と襤褸い、黒塗りの鞘から刀を抜いて、立ち上がった。
スマートフォンをポケットに入れる。

( ^ω^)「全部終わったら、行くお」
 
 
 
( ^ω^)2012sparkのようです

240 名前:名も無きAAのようです :2013/12/31(火) 18:47:14 ID:xwfksvp.0
ちかちかと忙しなく点灯する街灯は、あまり目に良くない。
そう感じながらも、ブーンは其処以外の場所を選ぶつもりもなかった。

目の前には、ところどころに汚れが目立つ服をだらしなく着崩した若者が一人。
にやにやと卑しい顔をしながら、自分の得物をこれ見よがしに振り回している。
それが自信をありありと表していて、思わず顔を顰めた。

若者が手にしているのは、刃こぼれだらけの日本刀。
碌な手入れもしていないのだろう。こんな所有者に当たってしまうなんて運が悪かった、と素直に思う。

でも、それももう終いだ。

( ^Д^)「金持ってるか?」

( ^ω^)「……」

241 名前:名も無きAAのようです :2013/12/31(火) 18:48:25 ID:xwfksvp.0
実に予想通りの質問だ。
だが、答える価値も無い。無言で右手に握っていた柄に力を入れ直すと、目の前の青年も察したようにお粗末な構えをした。
ひゅっ、と。息を飲む。
一歩踏み出して、そのまま思い切り地面を蹴った。

耳が痛くなるような、擦れた金属音が夜の街に響き、火花が散った。
自分で思っているよりも早く相手まで辿り着いた。
鍔迫り合いになったその向こう側、青年が驚いた顔をして刀を持っていた。だが、押し負けぬようにと意識はしているようだ。
だが、それが甘い。

未だに驚きに意識取られているその刀を、一際強く押して――横に力を流した。
ブーンに押された青年は後ろに体が傾き、更に横に流されて、バランスを大きく崩すことになった。
「わっ」と、抑えきれない油断の声。

242 名前:名も無きAAのようです :2013/12/31(火) 18:49:46 ID:xwfksvp.0
ブーンはよろ、と安定しないその体に、容赦なく刀を振り下ろした。
冷たいアスファルトに倒れ込んだ青年の目に、迫りくる刃が映る。
咄嗟の判断で、青年はそのまま背を痛めた体で横に転がった。
ブーンの刃は何も無いアスファルトに打ち付けられ、ぎゃりりと耳障りな音がした。
転がった先で慌てて立ち上がり、距離を取って、青年はブーンを見据えながら刀を構えた。
しかし、その手は震えている。

その理由は、目の前のブーンにあった。

(;^Д^)(……なんだ!?)

緊張で喉が引き攣り、体は自分の意思に正直だ。

アスファルトに打ち付けた刀は、少なからずダメージを受けてしまうはずだ。
なのに、目の前の刀は。

243 名前:名も無きAAのようです :2013/12/31(火) 18:51:19 ID:xwfksvp.0
怪しい赤い紅い火花をどこからともなく発しながら、黒い刀身へとその身を変えていた。

(;^Д^)「妖、刀……!?」

( ^ω^)「そうだお」

火花は刀を持つブーンの右腕全体を覆う。

( ^ω^)「これは妖刀だお。君達みたいな、腐った使い方をする奴らを許さない妖刀だお」

そう言った途端、ブーンの姿が掻き消えた。
ぱち、と瞬きをしたその瞬間だ。驚いて視線を左右に走らせる青年の、すぐ後ろから。
背筋が凍るほどの、殺気がぶつけられる。

(;^Д^)「っ」

( ^ω^)「さよならだお」

244 名前:名も無きAAのようです :2013/12/31(火) 18:52:54 ID:xwfksvp.0
振り向きざま、迫る漆黒。
真っ黒な刃が襲い掛かり――ぎざぎざと歪なラインをしていた、青年の持っていた刀を、真っ二つに折った。

青年は折れた衝撃でそのまま刀を投げ出し、再び硬いアスファルトに倒れ込むことになった。
は、と恐怖から荒い息を吐いて、視線を上げると。

(;^Д^)「……え?」

折れた刃が、ざらざらと、銀色の砂になっていった。
ついさっきまで交えていたはずの刀が、見る影もない砂になっている。
訳が分からない、と無意識に呟くその目の前で、銀色の砂は独りでに宙に浮いた。

そのまま、ブーンが持つ妖刀へと吸い込まれていく。

245 名前:名も無きAAのようです :2013/12/31(火) 18:54:14 ID:xwfksvp.0
( ^ω^)「……これは、君達のせいで蘇った、過去の刀だお」

静かすぎる声が、より一層目の前の光景を異質に見せる。

( ^ω^)「刀を持つ知り合いに、片っ端から伝えてくれお。――お前らの、刀を、食いに行く」

ブーンがそう言うなり、過剰な程首を縦に振りながら、足を縺れさせて街灯の照らされぬ闇へと駆けて行った。

元は刀だった銀色の砂を、全て残らず吸収した妖刀は、徐々にその刀身の色を黒から元に戻していく。
ブーンはその刀をそっと撫でて、そして――

( ^ω^)「全部吸収すれば、迎えに行ける。そうだおね、ツン」

246 名前:名も無きAAのようです :2013/12/31(火) 18:55:25 ID:xwfksvp.0
応えるように、赤い火花が散った。
それを見つめながら、ブーンは微かに笑って歩き出した。
そして、闇夜の中へと消えて行った。
 
 
 
( ^ω^)2012sparkのようです・終わり


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